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寂し
寂し
靴。
妻は姙娠はらめど、幾日帰らぬ鷗どり。
遠く母は病めど、かくて不肖の息子なり。

寂し
寂し
靴。
まろき丘ありき ほろほろと合歓ねむの花咲けど、
ああ、故郷の土、無頼わがついに眠る墓なら
 ず。

寂し
寂し
靴。
海杳ろかなれど なにをか想う。
船見えずなりて また なにをか歎く。

寂し
寂し
靴。
まこと寂し寂し靴。異国とつくに白昼まひるむなしく
街ゆきて、街のはずれに波止場あり。

〈昭和九年、神戸詩人〉