大塚徹・あき詩集/掌上四季


掌上四季

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新月淡く匂えど
獲物なき 獵人のごとく
疲れ 蒼ざめ 項垂うなだれて
わが陰影かげは 夕昏の家路をたどる。

新月淡く匂えど
力なく 言葉なく
掌ひらくに 甲斐もなく
哀れ臬まる 貧家の瞳に
今日の日の 一粒の糧さえ示すによしなし。

新月淡く匂えど
まこと獲物なき 獵人のごとく
わが掌は 虚ろ佗しく 問わまほしけれど
友よ! いましばし 怪しみ 懐しみて
さは深く たずね給いそ。

春は掌上に 花瓣の児ら 戯々として遊ぶに
 ぞ。
夏は掌上に 烈日の姉 凜々として炊ぐにぞ。
秋は掌上に 霧雨の妻 切々として涙するに
 ぞ。
冬は掌上に 雪景の父母 霏々として
枯木のごとく 永き歳月を跼りてもったいな
 し。

ああ友よ!
今宵ふるさとの山嶺に
新月淡く匂えど
そを嘆きかなしみ 夢なたずねそ給いなそ。
合掌すれば

四季の風情とりどりに
愛情の雲 去来し
わが掌に、想うだに愉しき明日の太陽は昇る
 にぞ。

〈昭和十一年、深苑〉