大塚徹・あき詩集/五月日本の韻律


五月日本の韻律

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余の友人たちを呪詛する母親のこえに余は午
 前十一時の宿酔。
脳裡に様々の豪奢な悪徳の蜃気楼が咲痴れる。
「純粋の鶯」も、もう歌わなくなった五月、
雲霞があんなに惑わしく変化するのは確か
崎清一郎君の趣味だろう。
西脇順三郎君の今日の喪に
北川冬彦君・竹中郁君・萩原朔太郎君なども
 雲霞のなかからはるばる帰ってきたから、
余らの感情も新たに飛躍していよいよ詩作に
 縣る。
嗟呼!交叉する明滅する智と情の時間と空間
 の不可思議なるアラベスクよ。

瞼の裏には、いろいろな愛情の言葉が書いて
 あるのだろうか。
だから瞳をとじると昏々と湧いてくる倫理の
 泪………

まこと叡智えいちこそは常識となって
君たち世界の感情もさらに一段と飛躍するの
 だが。
それぞれの視点が流動して愛情の倫理の音数
 律、そうら見事なる哉
五月日本のホリゾントに透明の裸像を彫りあ
 げてゆくではないか。

〈昭和一〇年、ばく〉