大塚徹・あき詩集/セキズイの雨


セキズイの雨 編集

雨もりはたんたんと骨をならして
滴りやまぬ秋冷の雨

(死なば死ね)
ひゅうろひゅうろセキズイの笛ふけば
たちまちに 地獄の夜の幻想は垂れてくる。
釈迦もキリストも情痴に狂う瞳の説法。
童貞と処女を賭けた去年の恋はサヨナラ。

されば 裏町に蒼々と病歿する月あり。
今宵こそ 朽窓に毒の花醱酵くずれたり。
いまはもう まるで髪嗅き阿呆のように
たららんらんと二度目三度目の恋漁る。

幾度恋しようと たらん たららん たらら
 たん たん……
つのる本能なればそれもいたしかたなし。
ひゅうろひゅうろ幻想の笛をふいて踊りおど
 れば
これはまたなんと悲しきセキズイの雨。

〈昭和六年、愛誦〉