大塚徹・あき詩集/ちよ経


ちよ経 編集

とじるのです。
みえないものがみえてくるのです
春雨のあやつり糸や、
深海のカオスのランプや、
星をついばむコロナの不死鳥や、
そして肋骨をさまよう夜更けの獏など、
だからとじるのです。
それらのみえないものがぐるぐるみえてくる
 ので、
おまえと
わたしと
おそろしくなったり、
あるいはかなしくなったり、
どうしてもひらかずにはいられなくなるので
 す。
だからひらくのです。
するとみんなみんなみえないものに還ってゆ
 くのです
それだからとじるのです。
四次元世界にひらくサクラの気配や、
九億年にばくはつする富士火山系など、
みえないものがまたしてもみえてくるのです。
ああ だから だから
ひらくのです。――とじるのです。
ひらくのです
おまえと
わたしと
おろおろうろたえ
ただもううろたえて泣きだしながら
とじてしまうのです。
ふたり抱きあって とじてしまうのです。

〈昭和二二年、新涛〉