<聖書<文語訳旧約聖書

w:舊新約聖書 [文語]』w:日本聖書協会、1953年

w:明治元訳聖書

w:士師記

第1章

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ヨシユアの死にたるのちイスラエルの子孫ヱホバに問ひていひけるはわれらの中孰か先に攻め登りてカナン人と戰ふべきや

ヱホバいひたまひけるはユダ上るべし視よ我此國を其の手に付すと

ユダその兄弟シメオンに言けるは我と共にわが領地にのぼりてカナン人と戰へわれもまた偕に汝の領地に往べしとここにおいてシメオンかれとともにゆけり

ユダすなはち上りゆきけるにヱホバその手にカナン人とペリジ人とを付したまひたればベゼクにて彼ら一萬人を殺し

またベゼクにおいてアドニベゼクにゆき逢ひこれと戰ひてカナン人とペリジ人を殺せり

しかるにアドニベゼク逃れ去りしかばそのあとを追ひてこれを執へその手足の巨擘を斫りはなちたれば

アドニベゼクいひけるは七十人の王たちかつてその手足の巨擘を斫られて我が食几のしたに屑を拾へり神わが曾て行ひしところをもてわれに報いたまへるなりと衆之を曳てエルサレムに至りしが其處にしねり

ユダの子孫エルサレムを攻めてこれを取り刃をもてこれを撃ち邑に火をかけたり

かくてのちユダの子孫山と南方の方および平地に住めるカナン人と戰はんとて下りしが

ユダまづヘブロンに住るカナン人を攻めてセシヤイ、アヒマンおよびタルマイを殺せり〔ヘブロンの舊の名はキリアテアルバなり〕

またそこより進みてデビルに住るものを攻む〔デビルの舊の名はキリアテセペルなり〕

時にカレブいひけるはキリアテセペルをうちてこれを取るものにはわが女アクサをあたへて妻となさんと

カレブの舍弟ケナズの子オテニエルこれを取ければすなはちその女アクサをこれが妻にあたふ

アクサ往くときおのれの父に田圃を求めんことを夫にすすめたりしがつひにアクサ驢馬より下りければカレブこれは何事ぞやといふに

答へけるはわれに惠賜をあたへよなんぢ南の地をわれにあたへたればねがはくは源泉をもわれにあたへよとここにおいてカレブ上の源泉と下の源泉とをこれにあたふ

モーセの外舅ケニの子孫ユダの子孫と偕に棕櫚の邑よりアラドの南なるユダの野にのぼり來りて民のうちに住居せり

茲にユダその兄弟シメオンとともに往きてゼバテに住るカナン人を撃ちて盡くこれを滅ぼせり是をもてその邑の名をホルマと呼ぶ

ユダまたガザと其の境アシケロンとその境およびエクロンとその境を取り

ヱホバ、ユダとともに在したればかれつひに山地を手に入れたりしが谷に住る民は鐵の戰車をもちたるが故にこれを逐出すこと能はざりき

衆モーセのかつていひし如くヘブロンをカレブに與ふカレブそのところよりアナクの三人の子をおひ出せり

ベニヤミンの子孫はエルサレムに住るエブス人を追出さざりしりかばエブス人は今日に至るまでベニヤミンの子孫とともにエルサレムに住ふ

茲にヨセフの族またベテルをさして攻め上るヱホバこれと偕に在しき

ヨセフの族すなはちベテルを窺察しむ〔此邑の舊の名はルズなり〕

その間者邑より人の出來るを見てこれにいひけるは請ふわれらに邑の入口を示せさらば汝に恩慈を施さんと

彼邑の入口を示したればすなはち刃をもて邑を撃てり然ど彼の人と其家族をばみな縱ち遣りぬ

その人ヘテ人の地にゆき邑を建てルズと名けたり今日にいたるまでこれを其名となす

マナセはベテシヤンとその村里の民タアナクとその村里の民ドルとその村里の民イプレアムとその村里の民メギドンとその村里の民を逐ひ出さざりきカナン人はなほその地に住ひ居る

イスラエルはその强なりしときカナン人をして貢を納れしめたりしが之を全く追ひいだすことは爲ざりき

エフライムはゲゼルに住るカナン人を逐ひいださざりきカナン人はゲゼルにおいてかれらのうちに住み居たり

ゼブルンはまたキテロンの民およびナハラルの民を逐ひいださざりきカナン人かれらのうちに住みて貢ををさむるものとなりぬ

アセルはアツコの民およびシドン、アヘラブ、アクジブ、ヘルバ、アピク、レホブの民を逐ひ出さざりき

アセル人は其地の民なるカナン人のうちに住み居たりそはこれを逐ひ出さざりしゆゑなり

ナフタリはベテシメシの民およびベテアナテの民を逐ひ出さずその地の民なるカナン人のうちに住み居たりベテシメシとベテアナテの民はつひにかれらに貢を納むるものとなりぬ

アモリ人ダンの子孫を山におひこみ谷に下ることを得させざりき

アモリ人はなほヘレス山アヤロン、シヤラビムに住ひ居りしがヨセフの家の手力勝りたれば終に貢を納むるものとなりぬ

アモリ人の界はアクラビムの阪よりセラを經て上に至れり

第2章

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ヱホバの使者ギルガルよりボキムに上りていひけるは我汝等をエジプトより上らしめわが汝らの先祖に誓ひたる地に携へ來れりまた我いひけらくわれ汝らと締べる契約を絶てやぶることあらじ

汝らはこの國の民と契約を締ぶべからずかれらの祭壇を毀つべしとしかるに汝らはわが聲に從はざりき汝ら如何なれば斯ることをなせしや

我またいひけらくわれ汝らの前より彼らを追ふべからずかれら反て汝等の肋を刺す荊棘とならんまた彼らの神々は汝等の罟となるべし

ヱホバの使これらの言をイスラエルのすべての子孫に語しかば民聲をあげて哭ぬ

故に其所の名をボキム(哭者)と呼ぶかれら彼所にてヱホバに祭物を獻げたり

ヨシユア民を去しめたればイスラエルの子孫おのおのその領地におもむきて地を獲たり

ヨシユアの世にありし間またヨシユアより後に生きのこりたる長老等の世にありしあひだ民はヱホバに事へたりこの長老等はヱホバのかつてイスラエルのために成したまひし諸の大なる行爲を見しものなり

ヱホバの僕ヌンの子ヨシユア百十歳にて死り

衆人エフライムの山のテムナテヘレスにあるかれらの產業の地においてガアシ山の北にこれを葬れり

かくてまたその時代のものことごとくその先祖のもとにあつめられその後に至りて他の時代おこりしが是はヱホバを識ずまたそのイスラエルのために爲したまひし行爲をも識ざりき

イスラエルの子孫ヱホバのまへに惡きことを作してバアリムにつかへ

かつてエジプトの地よりかれらを出したまひしその先祖の神ヱホバを棄てて他の神すなはちその四周なる國民の神にしたがひ之に跪づきてヱホバの怒を惹起せり

即ちかれらヱホバをすててバアルとアシタロテに事へたれば

ヱホバはげしくイスラエルを怒りたまひ掠むるものの手にわたして之を掠めしめかつ四周なるもろもろの敵の手にこれを賣たまひしかばかれらふたたびその敵の前に立つことを得ざりき

かれらいづこに往くもヱホバの手これに災をなしぬ是はヱホバのいひたまひしごとくヱホバのこれに誓ひたまひしごとしここにおいてかれら惱むこと甚だしかりしが


ヱホバ士師を立てたまひたればかれらこれを掠むるものの手よりすくひ出したり

然るにかれらその士師にもしたがはず反りて他の神を慕て之と淫をおこなひ之に跪き先祖がヱホバの命令に從がひて歩みたることろの道を頓に離れ去りてその如くには行はざりき

かれらのためにヱホバ士師を立てたまひし時に方りてはヱホバつねにその士師とともに在しその士師の世に在る間はヱホバかれらを敵の手よりすくひ出したまへり此はかれらおのれを虐げくるしむるものありしを呻きかなしめるによりてヱホバ之を哀れみたまひたればなり

されどその士師の死しのちまた戻きて先祖よりも甚だしく邪曲を行ひ他の神にしたがひてこれに事へ之に跪きておのれの行爲を息めずその頑固なる路を離れざりき

是をもてヱホバはげしくイスラエルをいかりていひたまはく此民はわがかつてその列祖に命じたる契約を犯し吾聲に從がはざるがゆゑに

我もまたいまよりはヨシユアがその死しときに存しおけるいづれの國民をもかれらのまへより逐ひはらはざるべし

此は我イスラエルがその先祖の守りしごとくヱホバの道を守りてこれに歩むやいなやを試みんがためなりと

ヱホバはこれらの國民を逐はらふことを速にせずして之を遺しおきてヨシユアの手に付したまはざりしなり

第3章

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ヱホバが凡てカナンの諸の戰爭を知ざるイスラエルの者どもをこころみんとて遺しおきたまへる國民は左のごとし

〔こはただイスラエルの代々の子孫特にいまだ戰爭を知ざるものにこれををしへ知らしめんがためなり〕

即ちペリシテ人の五人の伯すべてのカナン人シドン人およびレバノン山に住みてバアルヘルモンの山よりハマテに入るところまでを占めたるヒビ人是なり

これらをもてイスラエルをこころみかれらがヱホバのモーセによりてその先祖に命じたまひし命令に遵ふや否を可知りしなり

イスラエルの子孫はカナン人ヘテ人アモリ人

ペリジ人ヒビ人エブス人のうちに住みかれらの女を妻に娶りまたおのれの女をかれらの子に與へかつかれらの神に事へたり

斯くイスラエルの子孫ヱホバのまへに惡をおこなひ己れの神なるヱホバをわすれてバアリムおよびアシラに事へたり


是においてヱホバはげしくイスラエルを怒りてこれをメソポタミヤの王クシヤンリシヤタイムの手に賣り付したまひしかばイスラエルの子孫はおよそ八年のあひだクシヤンリシヤタイムにつかへたり

茲にイスラエルの子孫ヱホバによばはりしかばヱホバはイスラエルの子孫の爲にひとりの救者を起して之を救はしめ給ふすなはちカレブの舍弟ケナズの子オテニエル是なり

ヱホバの靈オテニエルにのぞみたれば彼イスラエルを治め戰ひに出づヱホバ、メソポタミヤの王クシヤンリシヤタイムをその手に付したまひたればオテニエルの手クシヤンリシヤタイムに勝ことを得たり

かくて國は四十年のあひだ太平なりきケナズの子オテニエルつひに死り

イスラエルの子孫復ヱホバの眼のまへに惡をおこなふヱホバかれらがヱホバのまへに惡をおこなふによりてモアブの王エグロンをつよくなしてイスラエルに敵せしめたまへり

エグロンすなはちアンモンおよびアマレクの子孫を招き聚め往きてイスラエルを撃ち椶櫚の邑を取り

ここにおいてイスラエルの子孫は十八年のあひだモアブの王エグロンに事へたりしが

イスラエルの子孫ヱホバに呼はりけるときヱホバかれらの爲に一個の救者を起したまふすなはちベニヤミン人ゲラの子なる左手利捷のエホデ是なりイスラエルの子孫かれを以てモアブの王エグロンに餽物せり

エホデ長一キユビトなる兩刃の劍を作らせこれを衣のしたに右の股のあたりにおび

餽物を齎してモアブの王エグロンのもとに詣るエグロンは甚だ肥たる人なりき

さて餽物を獻ぐることをはりしかば彼餽物を負ひ來りしものをかへし去らしめ

自らはギルガルの傍なる石像の在る所より引き回していひけるは王よ我爾に告ぐべき密事ありと王人拂を命じたればその旁に立つものみな出で去りぬ

エホデすなはち王のところに入來れり時に王はひとり上なる涼殿に坐し居たりしがエホデ我神の命に由りて爾に傳ふべきことありといひければ王すなはち座より起に

エホデ左の手を出し右の股より劍を取りてその腹を刺せり

抦もまた刃とともに入りたりしが脂肉刃を塞ぎて之を腹より拔き出すことあたはずその鋒鋩うしろに出づ

エホデすなはち廊をとほりてその後に樓の戸を閉てこれを鎖せり

その出でしのち王の僕來りて樓の戸の鎖したるを見いひけるは王はかならず涼殿の間に足を蔽ひ居るならんと

僕ども耻るまでに俟居たれど王樓の戸をひらかざれば鑰をとりて之を開き見るにその君は地に仆れて死をる

エホデは彼等の猶豫ふ間に逃れて石像の在るところを過りセイラテに遁げゆけり

かれ旣に至りエフライムの山に箛を吹きければイスラエルの子孫これとともに山より下るエホデこれを導けり

かれ人衆にいひけるは我に續て來れヱホバ汝等の敵モアブ人を汝等の手に付したまふなりここにおいてかれらエホデにしたがひて下りモアブにおもむくところのヨルダンの津を取りて一人も渡ることを允さざりき

そのとき彼らモアブ人およそ一萬人を殺せり是皆肥太たる勇士なりそのうち一人も脱れたるものなし

モアブはその日イスラエルの手に服せり而して國は八十年の間太平なりき

エホデの後にアナテの子シヤムガルといふものあり牛の策を以てペリシテ人六百人を殺せり此人もまたイスラエルを救へり

第4章

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エホデの死たるのちイスラエルの子孫復ヱホバの目前に惡を行しかば

ヱホバ、ハゾルにて世を治むるカナンの王ヤビンの手に之を賣たまふヤビンの軍勢の長はシセラといふ彼異邦人のハロセテに住居り

鐵の戰車九百輌を有居て二十年の間イスラエルの子孫を甚だしく虐げしかばイスラエルの子孫ヱホバに呼はれり

當時ラピドテの妻なる預言者デボラ、イスラエルの士師なりき

彼エフライムの山のラマとベテルの間に在るデボラの棕櫚の樹の下に坐せりイスラエルの子孫はその許に上りて審判を受く

デボラ人をつかはしてケデシ、ナフタリよりアビノアムの子バラクを招きこれにいひけるはイスラエルの神ヱホバ汝に斯く命じたまふにあらずやいはく汝ナフタリの子孫とゼブルンの子孫とを一萬人ひきゐゆきてタボル山におもむけ

我ヤビンの軍勢の長シセラおよびその戰車とその群衆とをキシオン河に引き寄せて汝のもとに至らせ之を汝の手に付すべし

バラク之にいひけるは汝もし我とともにゆかば我往べし然ど汝もし我とともに行ずば我行ざるべし

デボラいひけるは我かならず汝とともに往くべし然ど汝は今往くところの途にては榮譽を得ることなからんヱホバ婦人の手にシセラを賣りたまふべければなりとデボラすなはち起ちてバラクと共にケデシに往けり


バラク、ゼブルンとナフタリをケデシに招き一萬人を從へて上るデボラもまた之とともに上れり

ここにケニ人ヘベルといふ者あり彼はモーセの外舅ホバブの裔なるがケニを離れてケデシの邊なるザアナイムの橡の樹のかたはらにその天幕を張り居たり

衆アビノアムの子バラクがタボル山に上れるよしをシセラに告げたりければ

シセラそのすべての戰車すなはち鐵の戰車九百輌およびおのれとともに在るすべての民を異邦人のハロセテよりキシオン河に招き集へたり

デボラ、バラクにいひけるは起よ是ヱホバがシセラを汝の手に付したまふ日なりヱホバ汝に先き立ちて出でたまひしにあらずやとバラクすなはち一萬人をしたがへてタボル山より下る

ヱホバ刃をもてシセラとその諸の戰車およびその全軍をバラクの前に打敗りたまひたればシセラ戰車より飛び下り徒歩になりて遁れ走れり

バラク戰車と軍勢とを追ひ撃て異邦人のハロセテに至れりシセラの軍勢は悉く刃にたふれて殘れるもの一人もなかりしが

シセラは徒歩にて奔りケニ人ヘベルの妻ヤエルの天幕に來れり是はハゾルの王ヤビンとケニ人ヘベルの家とは互ひに睦じかりしゆゑなり

ヤエル出來りてシセラを迎へ之にいひけるは來れわが主よ入り來れ怖るるなかれとシセラその天幕に入たればヤエル被をもてこれを覆へり

シセラ之にいひけるはねがはくは少しの水をわれに飮ませよ我渇けりとヤエルすなはち乳嚢を啓きて之に飮ませまた之を覆へり

シセラまた之にいひけるは天幕の門邊に立て居れもし人來り汝にとふて誰かここに居るやといはば否と答ふべしと

彼疲れて熟睡せしかばヘベルの妻ヤエル天幕の釘子を取り手に鎚を携へてそのかたはらに忍び寄り鬢のあたりに釘子をうちこみて地に刺し通したればシセラすなはち死たり

バラク、シセラを追ひ來りしときヤエル之を出むかへていひけるは來れ我汝の索るところの人を示さんとかれそのところに入て見にシセラ鬢のあたりに釘子うたれて死たふれをる

その日に神カナンの王ヤビンをイスラエルの子孫のまへに打敗りたまへり

かくてイスラエルの子孫の手ますます强くなりてカナンの王ヤビンに勝ちつひにカナンの王ヤビンを亡ぼすに至れり


第5章

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その日デボラとアビノアムの子バラク謳ひていはく

イスラエルの首長みちびきをなし民また好んで出でたればヱホバを頌美よ

もろもろの王よ聽けもろもろの伯よ耳をかたぶけよ我はそのヱホバに謳はん我はイスラエルの神ヱホバを讚へん

ああヱホバよ汝セイルより出でエドムの野より進みたまひしとき地震ひ天また滴りて雲水を滴らせたり

もろもろの山はヱホバのまへに撼動ぎ彼のシナイもイスラエルの神ヱホバのまへに撼動げり

アナテの子シヤムガルのときまたヤエルの時には大路は通行る者なく途行く人は徑を歩み

イスラエルの村莊には住者なく住む者あらずなりけるがつひに我デボラ起れり我起りてイスラエルに母となる

人々新しき神を選みければ戰鬪門におよべりイスラエルの四萬人のうちに盾或は鎗の見しことあらんや

吾が心は民のうちに好んでいでたるイスラエルの有司等に傾けり汝らヱホバを頌美よ

しろき驢馬に乗るもの毛氈に坐するものおよび路歩む人よ汝ら謳ふべし

矢叫の聲に遠かり水汲むところにおいてヱホバの義しき所爲をとなへそのイスラエルを治理めたまふ義しき所爲を唱へよその時ヱホバの民は門に下れり

興よ起よデボラ興よ起よ歌を謳ふべし起てよバラク汝の俘虜を擄きたれアビノアムの子よ

其時民の首長等の殘餘者くだり來るヱホバ勇士の中にいまして我にくだりたまふ

エフライムより出る者ありその根アマレクにありベニヤミン汝のあとにつきて汝の民の中にありマキルよりは牧伯下りゼブルンよりは采配を執るものいたる

イッサカルの伯たちはデボラとともに居るイッサカルはバラクとおなじく足の進みて平地に至るルベンの河邊にて大に心にはかる事あり

何故に汝は圈のうちに止まりて羊の群に笛吹くを聽くやルベンの河邊にて大に心に考ふることあり

ギレアデはヨルダンの彼方に臥し居る何故にダンは舟のかたはらに止まりしやアセルは濱邊に坐してその港に臥し居る

ゼブルンは生命を捐て死を冒せる民なり野の高きところに居るナフタリまた是の如し

もろもろの王來りて戰へる時にカナンのもろもろの王メギドンの水の邊においてタアナクに戰へり彼ら一片の貨幣をも獲ざりき

天よりこれを攻るものありもろもろの星其の道を離れてシセラを攻む

キシオンの河之を押し流しぬ是彼の古への河キシオンの河なりわが靈魂よ汝ますます勇みて進め

その時馬の蹄は强きももの馳に馳るに由りて地を踏鳴せり

ヱホバの使いひけるはメロズを詛ふべし汝ら重ね重ねその民を詛ふべきなり彼等來りてヱホバを助けずヱホバを助けて猛者を攻めざればなり

ケニ人ヘベルの妻ヤエルは婦女のうちの最も頌むべき者なり彼は天幕に居る婦女のうち最も頌むべきものなり

シセラ水を乞ふにヤエル乳を與ふ即ち貴き盤に乳の油を盛てささぐ

ヤエル釘子に手をかけ右の手に重き椎をとりてシセラを打ちその頭を碎きその鬢のあたりをうちて貫ぬく

シセラ、ヤエルの足の間に屈みて仆れ偃しその足のあはひに屈みて仆れその屈みたる所にて仆れ亡ぬ

シセラの母窓より望み格子のうちより叫びて言ふ彼が車のきたること何て遲きや彼が馬の歩何てはかどらざるやと

その賢き侍女こたへをなす(母また獨語して斯いへり)

かれら獲ものしてこれを分たざらんや人ごとに一人二人の女子を獲んシセラの獲るものは彩る衣ならんその獲る者は彩る衣にして文繍を施せる者ならん即ち彩りて兩面に文繍をほどこせる衣をえてその頸にまとはんと

ヱホバよ汝の敵みな是のごとくに亡びよかしまたヱホバを愛するものは日の眞盛に昇るが如くなれよかし とかくて後國は四十年のあひだ太平なりき

第6章

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イスラエルの子孫またヱホバの目のまへに惡を行ひたればヱホバ七年の間之をミデアン人の手に付したまふ

ミデアン人の手イスラエルにかてりイスラエルの子孫はミデアン人の故をもて山にある窟と洞穴と要害とをおのれのために造れり

イスラエル人蒔種してありける時しもミデアン人アマレキ人及び東方の民上り來りて押寄せ

イスラエル人に向ひて陣を取り地の產物を荒してガザにまで至りイスラエルのうちに生命を維ぐべき物を遺さず羊も牛も驢馬も遺ざりき

夫この衆人は家畜と天幕を携へ上り蝗蟲の如くに數多く來れりその人と駱駝は數ふるに勝ず彼ら國を荒さんとて入きたる

かかりしかばイスラエルはミデアン人のために大いに衰へイスラエルの子孫ヱホバに呼れり

イスラエルの子孫ミデアン人の故をもてヱホバに呼はりしかば

ヱホバひとりの預言者をイスラエルの子孫に遣りて言しめたまひけるはイスラエルの神ヱホバ斯くいひたまふ我かつて汝らをエジプトより上らせ汝らを奴隸たるの家より出し

エジプト人の手およびすべて汝らを虐ぐるものの手より汝らを拯ひいだし汝らの前より彼らを追ひはらひてその邦土を汝らに與へたり

我また汝らに言り我は汝らの神ヱホバなり汝らが住ひ居るアモリ人の國の神を懼るるなかれとしかるに汝らは我が聲に從はざりき

茲にヱホバの使者來りてアビエゼル人ヨアシの所有なるオフラの橡の樹のしたに坐す時にヨアシの子ギデオン、ミデアン人に奪はれざらんために酒榨のなかに麥を打ち居たりしが

ヱホバの使之に現れて剛勇丈夫よヱホバ汝とともに在すといひたれば

ギデオン之にいひけるはああ吾が主よヱホバ我らと偕にいまさばなどてこれらのことわれらの上に及びたるやわれらの先祖がヱホバは我らをエジプトより上らしめたまひしにあらずやといひて我らに告たりしその諸の不思議なる行爲は何處にあるや今はヱホバわれらを棄てミデアン人の手に付したまへり

ヱホバ之を顧みていひたまひけるは汝此汝の力をもて行きミデアン人の手よりイスラエルを拯ひいだすべし我汝を遣すにあらずや

ギデオン之にいひけるはああ主よ我何をもてかイスラエルを拯ふべき視よわが家はマナセのうちの最も弱きもの我はまた父の家の最も卑賤きものなり

ヱホバ之にいひたまひけるは我かならず汝とともに在ん汝は一人を撃がごとくにミデアン人を撃つことを得ん

ギデオン之にいひけるは我もし汝のまへに恩を蒙るならば請ふ我と語る者の汝なる證據を見せたまへ

ねがはくは我復び汝に來りわが祭物をたづさへて之を汝のまへに供ふるまでここを去たまふなかれ彼いひたまひけるは我汝の還るまで待つべし

ギデオンすなはち往て山羊の羔を調へ粉一エパをもて無酵パンをつくり肉を筺にいれ羹を壺に盛り橡樹の下にもち出て之を供へたれば

神の使之にいひたまひけるは肉と無酵パンをとりて此巖のうへに置き之に羹を斟げとすなはちそのごとくに行ふ

ヱホバの使手にもてる杖の末端を出して肉と無酵パンに觸れたりしかば巖より火燃えあがり肉と無酵パンを燒き盡せりかくてヱホバの使去てその目に見ずなりぬ

ギデオン是において彼がヱホバの使者なりしを覺りギデオンいひけるはああ神ヱホバよ我面を合せてヱホバの使者を見たれば將如何せん

ヱホバ之にいひたまひけるは心安かれ怖るる勿れ汝死ぬることあらじ

ここにおいてギデオン彼所にヱホバのために祭壇を築き之をヱホバシヤロムと名けたり是は今日に至るまでアビエゼル人のオフラに存る

其夜ヱホバ、ギデオンにいひ給ひけるは汝の父の少き牡牛および七歳なる第二の牛を取り汝の父のもてるバアルの祭壇を毀ち其上なるアシラの像を斫り仆し

汝の神ヱホバのためにこの堡砦の頂において次序をただしくし祭壇を築き第二の牛を取りて汝が斫り倒せるアシラの木をもて燔祭を供ぐべし

ギデオンすなはちその僕十人を携へてヱホバのいひたまひしごとく行へりされど父の家のものどもおよび邑の人を怖れたれば晝之をなすことを得ず夜に入りて之を爲り

邑の衆朝興出て視にバアルの祭壇は摧け其の上なるアシラの像は斫仆されて居り新に築る祭壇に第二の牛の供へてありしかば

たがひに此は誰が所爲ぞやと言ひつつ尋ね問ひけるに此はヨアシの子ギデオンの所爲なりといふものありたれば

邑の人々ヨアシにむかひ汝の子を曳き出して死なしめよそは彼バアルの祭壇を摧き其上に在しアシラの像を斫仆したればなりといふ

ヨアシおのれの周圍に立るすべてのものにいひけるは汝らはバアルの爲に爭論ふや汝らは之を救んとするや之が爲に爭論ふ者は朝の中に死べしバアルもし神ならば人其祭壇を摧きたれば自ら爭論ふ可なりと

是をもて人衆ギデオンその祭壇を摧きたればバアル自ら之といひあらそはんといひて此日かれをヱルバアル(バアルいひあらそはん)と呼なせり

茲にミデアン人アマレク人および東方の民相集まりて河を濟りヱズレルの谷に陣を取しが

ヱホバの靈ギデオンに臨みてギデオン箛を吹たればアビエゼル人集りて之に從ふ

ギデオン徧くマナセに使者を遣りしかばマナセ人また集りて之に從ふ彼またアセル、ゼブルン及びナフタリに使者を遣りしにその人々も上りて之を迎ふ

ギデオン神にいひけるは汝かつていひたまひしごとくわが手をもてイスラエルを救はんとしたまはば

視よ我一箇の羊の毛を禾塲におかん露もし羊毛にのみおきて地はすべて燥きをらば我之れによりて汝がかつて言たまひし如く吾が手をもてイスラエルを救ひたまふを知んと

すなはち斯ありぬ彼明る朝早く興きいで羊毛をかき寄てその毛より露を搾りしに鉢に滿つるほどの水いできたる

ギデオン神にいひけるは我にむかひて怒を發したまふなかれ我をしていま一回いはしめたまへねがはくは我をして羊の毛をもていま一回試さしめたまへねがはくは羊毛のみを燥して地には悉く露あらしめたまへと

その夜神かくの如くに爲したまふすなはち羊毛のみ燥きて地には凡て露ありき

第7章

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斯てヱルバアルと呼るるギデオンおよび之とともにあるすべての民朝夙に興きいでてハロデの井のほとりに陣を取るミデアン人の陣はかれらの北の方にあたりモレの山に沿ひ谷のうちにありき

ヱホバ、ギデオンにいひたまひけるは汝とともに在る民は餘りに多ければ我その手にミデアン人を付さじおそらくはイスラエル我に向ひ自ら誇りていはん我わが手をもて己を救へりと

されば民の耳に告示していふべし誰にても懼れ慄くものはギレアデ山より歸り去るべしとここにおいて民のかへりしもの二萬二千人あり殘しものは一萬人なりき

ヱホバまたギデオンにいひたまひけるは民なほ多し之を導きて水際に下れ我かしこにて汝のために彼らを試みんおほよそ我が汝に告て此人は汝とともに行くべしといはんものはすなはち汝とともに行くべしまたおほよそ我汝に告て此人は汝とともに行くべからずといはんものはすなはち行くべからざるなり

ギデオン民をみちびきて水際に下りしにヱホバ之にいひたまひけるはおほよそ犬の餂るがごとくその舌をもて水を餂るものは汝之を別けおくべしまたおほよそ其の膝を折り屈みて水を飮むものをも然すべしと

手を口にあてて水を餂しものの數は三百人なり餘の民は盡くその膝を折り屈みて水を飮り

ヱホバ、ギデオンにいひたまひけるは我水を餂たる三百人の者をもて汝らを救ひミデアン人を汝の手に付さん餘の民はおのおの其所に歸るべしと

ここにおいて彼ら民の兵粮とその箛を手にうけとれりギデオンすなはちすべてのイスラエル人を各自その天幕に歸らせ彼の三百人を留めおけり時にミデアン人の陣はその下の谷のなかにありき

その夜ヱホバ、ギデオンにいひたまはく起よ下りて敵陣に入るべし我之を汝の手に付すなり

されど汝もし下ることを怖れなば汝の僕フラを伴ひ陣所に下りて

彼らのいふ所を聞べし然せば汝の手强くなりて汝敵陣にくだることを得んとギデオンすなはち僕フラとともに下りて陣中にある隊伍のほとりに至るに

ミデアン人アマレク人およびすべて東方の民は蝗蟲のごとくに數衆く谷のうちに堰しをりその駱駝は濱の砂の多きがごとくにして數ふるに勝ず

ギデオン其處に至りしに或人その伴侶に夢を語りて居りすなはちいふ我夢を見たりしが夢に大麥のパンひとつミデアンの陣中に轉びいりて天幕に至り之をうち仆し覆したれば天幕倒れ臥り

其の伴侶答へていふ是イスラエルの人ヨアシの子ギデオンの劍に外ならず神ミデアンとすべての陣營を之が手に付したまふなりと

ギデオン夢の説話とその解釋を聞しかば拜をなしてイスラエルの陣所にかへりいひけるは起よヱホバ汝らの手にミデアンの陣をわたしたまふと

かくて三百人を三隊にわかち手に手に箛および空瓶を取せその瓶のなかに燈火をおかしめ

これにいひけるは我を視てわが爲すところにならへ我が敵陣の邊に至らんときに爲すごとく汝らも爲すべし

我およびわれとともに在るものすべて箛を吹ば汝らもまたすべて陣營の四方にて箛を吹き此ヱホバのためなりギデオンのためなりといへと

而してギデオンおよび之とともなる百人中更の初に陣營の邊に至るにをりしも番兵を更代たるときなりければ箛を吹き手に携へたる瓶をうちくだけり

即ち三隊の兵隊箛を吹き瓶をうちくだき左の手には燈火を執り右の手には箛をもちて之を吹きヱホバの劍ギデオンの劍なるぞと叫べり

かくておのおのその持場に立ち陣營を取り圍みたれば敵軍みな走り叫びてにげゆけり

三百人のもの箛を吹くにあたりヱホバ敵軍をしてみなたがひに同士撃せしめたまひければ敵軍にげはしりてゼレラのベテシツダ、アベルメホラの境およびタバテに至る

イスラエルの人々すなはちナフタリ、アセルおよびマナセ中より集ひ來りてミデアン人を追撃り

ギデオン使者をあまねくエフライムの山に遣していはせけるは下りてミデアン人を攻めベタバラにいたる渡口およびヨルダンを遮斷るべしと是においてエフライムの人盡く集ひ來りてベタバラにいたる渡口およびヨルダンを取り

ミデアン人の君主オレブとゼエブの二人を俘へてオレブをばオレブ砦の上に殺しゼエブをばゼエブの酒搾のほとりに殺しまたミデアン人を追撃ちオレブとゼエブの首を携へてヨルダンの彼方よりギデオンの許にいたる

第8章

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エフライムの人々ギデオンにむかひ汝ミデアン人と戰はんとて往る時われらを召ざりしが斯ることを我らになすは何故ぞといひていたく之を詰りたり

ギデオン之にいひけるは今吾が成るところは汝らのなせる所に比ぶべけんやエフライムの拾ひ得し遺餘の葡萄はアビエゼルの收穫し葡萄にも勝れるならずや

神はミデアンの群伯オレブとゼエブを汝等の手に付したまへりわが成えたるところは汝らの成る所に比ぶべけんやとギデオン此の語をのべしかば彼らの憤解たり

ギデオン自己に從がへる三百人とともにヨルダンに至りて之を濟り疲れながらも仍追撃しけるが

遂にスコテの人々に言けるは願くは我にしたがへる民に食を與へよ彼等疲れをるに我ミデアンの王ゼバとザルムンナを追行なりと

スコテの群伯等いひけるはゼバとザルムンナの手すでに汝の手のうちに在るや我らなんぞ汝の軍勢に食を與ふべけんや

ギデオンいひけるは然らばヱホバの吾が手にゼバをザルムンナを付したまふときに我野の荊と棘とをもて汝の肉を打つべしと

かくて其所よりペヌエルにのぼりおなじことを彼らにのべたるにペヌエルの人もスコテの人の答へしごとくに答へしかば

またペヌエルの人につげていひけるは我平康に歸るときに此の城樓を毀つべしと

偖ゼバとザルムンナはその軍勢おほよそ一萬五千人をひきゐてカルコルに居る是皆東方の人の全軍の中の生殘れるものなり戰死せし者は劍を拔ところのもの十二萬人ありき

ギデオンすなはちノバとヨグベバの東にて天幕にすめるものの路より上りて敵軍の慮りなく居るを撃り

ここにおいてゼバとザルムンナにげ走りたればギデオン之を追撃ちミデアンの二人の王ゼバとザルムンナを生捕て悉くその軍勢を敗れり

斯てヨアシの子ギデオン、ヘレシの阪よりして戰陣よりかへり

スコテの人の少壯者一人を執へて之に尋ねたれば即ちスコテの群伯およびその長老等七十七人をこれがために書き録せり

ギデオン、スコテの人の所に詣りていひけるは汝らが曾て我を罵りゼバとザルムンナの手すでに汝の手のうちにあるや我ら何ぞ汝の疲れたる人に食をあたふべけんやと言たりしそのゼバとザルムンナを見よと

すなはちその邑の長老等を執へ野の荊と棘を取り之をもちてスコテの人を懲し

またペヌヘルの城樓を毀ちて邑の人を殺せり

かくてギデオン、ゼバとザルムンナにいひけるは汝らがタボルにて殺せしものは如何なるものなりしや答へていふ彼らは汝に似てみな王子の如くに見えたり

ギデオンいひけるは彼らは我が兄弟我が母の子なりヱホバは活く汝らもし彼らを生し置たらば我汝らを殺すまじきをと

すなはちその長子ヱテルに起て彼らを殺せといひたりしが彼の少者は年尚わかかりしかば懼れて劍を拔ざりき

ここにおいてゼバとザルムンナいひけるは汝みづから起て我らを撃よ人の如何によりてその力量異る者なりとギデオンすなはち起てゼバとザルムンナを殺しその駱駝の頸にかけたる半月の飾を取り

茲にイスラエルの衆ギデオンにいひけるは汝ミデアンの手より我らを救ひたれば汝と汝の子及び汝の孫我らを治めよ

ギデオン之にいひけるは我汝らを治むることをせじまた我が子も汝らを治むべからずヱホバ汝らを治めたまふべし

ギデオンまた之にいひけるは我汝らにひとつの願ふべきことあり汝らおのおの掠取の環を我にあたへよと是は彼らイシマエル人なるをもて金の環を着けたるに由る

衆答へけるは我ら悦んで之を與へんとて衣を布きおのおの掠取の環を其うちに投げいれたり

ギデオンが求め得たる金の環の重量は金一千七百シケルなり外に半月の飾および耳環とミデアンの王たちの着たる紫のころもおよび駱駝の頸にかけたる鏈などもありき

ギデオン之をもて一箇のエポデを造り之をおのれの郷里オフラに藏むイスラエルみなこれを慕ひてこれと淫をおこなふこの物ギデオンと其家を陷るる罟となりぬ

ミデアン人は是の如くイスラエルの子孫に攻ふせられてふたたびその頭を擡ることを得ざりきかくて國はギデオンの世にある中四十年の間平穩にてありき

ヨアシの子ヱルバアル往ておのれの家に住り

ギデオンは妻を多く有ちたれば其身より出たる子七十人ありき

シケムに居しその妾またひとりの子を產たれば之をアビメレクと名けたり

ヨアシの子ギデオン妙齡に邁みて死にアビエゼル人のオフラに在るその父ヨアシの墓に葬られたり

ギデオンの死るに及びてイスラエルの子孫復ひるがへりてバアルを慕ひて之と淫をおこなひバアルベリテをおのれの神と爲り

イスラエルの子孫その四周のもろもろの敵の手よりおのれを救ひ出したまひし神ヱホバを記憶えず

またヱルバアルといふギデオンがイスラエルになせし諸の善行にしたがひて彼の家を厚く待ふことをせざりき

第9章

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ヱルバアルの子アビメレク、シケムに往きその母の兄弟のもとに至りて彼らおよびすべて其母の父の家の一族に語りて云ひけるは

ねがはくはシケムのすべての民の耳に斯く告よヱルバアルのすべての子七十人して汝らを治むると一人して汝らを治むると孰れか汝らのためによきやまた我は汝らの骨肉なるを記えよと

その母の兄弟アビメレクのことにつきて此等の言をことごとくシケムの人々の耳に語りしに是はわれらの兄弟なりといひて心をアビメレクに傾むけ

バアルベリテの社より銀七十をとりて之に與ふアビメレクこれをもて遊蕩にして輕躁なる者等を傭ひておのれに從はせ

オフラに在る父の家に往きてヱルバアルの子なるその兄弟七十人を一つの石の上に殺せり但しヱルバアルの季の子ヨタムは身を潜めしに由て遺されたり

ここにおいてシケムのすべての民およびミロの諸の人集り往てシケムの碑の旁なる橡樹の邊にてアビメレクを立て王となしけるが

ヨタムにかくと告るものありければ往てゲリジム山の巓に立ち聲を揚て號びかれらにいひけるはシケムの民よ我に聽よ神また汝らに聽たまはん

樹木出ておのれのうへに王を立んとし橄欖の樹に汝われらの王となれよといひけるに

橄欖の樹之にいふ我いかで人の我に取て神と人とを崇むるところのそのわが油を棄て往て樹木の上に戰ぐべけんやと

樹木また無花果樹に汝來りて我らの王となれといひけるに

無花果樹之にいひけらく我いかでわが甜美とわが善き果を棄て往きて樹木の上に戰ぐべけんやと

樹木また葡萄の樹に汝來りて我らの王となれよといふに

葡萄の樹之にいひけるは我いかで神と人を悦こばしむるわが葡萄酒を棄て往て樹木の上に戰ぐべけんやと

ここにおいてすべての樹木荊に汝來りて我らの王となれよといひければ

荊樹木にいふ汝らまことに我を立て汝らの王と爲さば來りて我が庇蔭に托れ然せずば荊より火出てレバノンの香柏を燒き殫すべしと

抑汝らがアビメレクを立て王となせしは眞實と誠意をもて爲しことなるや汝等はヱルバアルと其家を善く待ひかれの手のなせし所に循ひて之にむくいしや

夫わが父は汝らのため戰ひ生命を惜まずして汝らをミデアンの手より救ひ出したるに

汝ら今日おこりてわが父の家を攻めその子七十人を一つの石の上に殺しその侍妾の子アビメレクは汝らの兄弟なるをもて之を立てシケムの民の王となせり

汝らが今日ヱルバアルとその家になせしこと眞實と誠意をもてなせし者ならば汝らアビメレクのために悦べ彼も汝らのために悦ぶべし

若し然らずばアビメレクより火いでてシケムの民とミロの家を燬つくさんまたシケムの民とミロの家よりも火いでてアビメレクを燬つくすべしと

かくてヨタム走り遁れてベエルに往きその兄弟アビメレクの面を避て彼所に住めり

アビメレク三年の間イスラエルを治めたりしが

神アビメレクとシケムの民のあひだに惡鬼をおくりたまひたればシケムの民アビメレクを欺くにいたる

是ヱルバアルの七十人の子が受たる殘忍と彼らの血のこれを殺せしその兄弟アビメレクおよび彼の手に力をそへてその兄弟を殺さしめたるシケムの人々に報い來るなり

シケムの人伏兵を山の巓に置て彼を窺はしめ其途を經て傍を過る者を凡て褫しめたり或人之をアビメレクに告ぐ

ここにエベデの子ガアル其の兄弟とともにシケムに越ゆきたりしかばシケムの民かれを恃めり

民田野に出て葡萄を收穫れこれを踐み絞りて祭禮をなしその神の社に入り食ひかつ飮みてアビメレクを詛ふ

エベデの子ガアルいひけるはアビメレクは如何なるものシケムは如何なるものなればか我ら彼に從ふべき彼はヱルバアルの子に非ずやゼブルその輔佐なるにあらずやむしろシケムの父ハモルの一族に事ふべし我らなんぞ彼に事ふべけんや

嗚呼此の民を吾が手に屬しむるものもがな然ば我アビメレクを除かんと而してガアル、アビメレクに汝の軍勢を益て出きたれよと言り

邑の宰ゼブル、エベデの子ガアルの言をききて怒を發し

私かに使者をアビメレクに遣りていひけるはエベデの子ガアル及びその兄弟シケムに來り邑をさわがして汝に敵せしめんとす

然ば汝及び汝と共なる民夜の中に興て野に身を伏よ

而て朝に至り日の昇る時汝夙く興出て邑に攻かかれガアル及び之とともなる民出て汝に當らん汝機を見てこれに事をなすべし

アビメレクおよび之とともなるすべての民夜の中に興出て四隊に分れ身を伏てシケムを伺ふ

エベデの子ガアル出て邑の門の口に立るにアビメレク及び之とともなる民その伏たるところより起りしかば

ガアル民を見てゼブルにいひけるは視よ民山の峰々より下るとゼブル之に答へて汝山の影を見て人と做すのみといふ

ガアルふたたび語りていひけるは視よ民地の高處より下りまた一隊は法術士の橡樹の途より來ると

ゼブル之にいひけるは汝がかつてアビメレクは何者なればか我ら之に事ふべきといひしその汝の口今いづこに在るや是汝が侮りたる民にあらずや今乞ふ出て之と戰へよと

ここにおいてガアル、シケム人を率ゐ往てアビメレクと戰ひしが

アビメレク之を追くづしたればガアル其まへより逃走れりかくて殺されて斃るるもの多くして邑の門の口までに及ぶ

かくてアビメレクはアルマに居しがゼブルはガアルおよびその兄弟等を逐いだしてシケムに居ることを得ざらしむ

あくる日民田畑に出しに人之をアビメレクに告げしかば

アビメレクおのれの民を率ゐてこれを三隊に分ち野に埋伏して伺ふに民邑より出來りたればすなはち起りて之を撃り

アビメレクおよび之とともに在る隊の者は襲ひゆきて邑の門の入口に立ち餘の二隊は野に在るすべてのものをおそふて之を殺せり

アビメレク其日終日邑を攻めつひに邑を取りてそのうちの民を殺し邑を破却ちて鹽を撒布ぬ

シケムの櫓の人みな之を聞てベリテ神の廟の塔に入たりしが

シケムの櫓の人のことごとく集れるよしアビメレクに聞えければ

アビメレク己とともなる民をことごとく率ゐてザルモン山に上りアビメレク手に斧を取り木の枝を斫落し之をおのれの肩に載せ偕に居る民にむかひて汝ら吾が爲ところを見る急ぎてわがごとく爲せよといひしかば

民もまた皆おのおのその枝を斫りおとしアビメレクに從ひて枝を塔に倚せかけ塔に火をかけて彼等を攻むここにおいてシケムの櫓の人もまた悉く死り男女およそ一千人なりき

茲にアビメレク、テベツに赴きテベツに對て陣を張て之を取しが

邑のなかに一の堅固なる櫓ありてすべての男女および邑の民みな其所に遁れ往き後を鎖して櫓の頂に上りたれば

アビメレクすなはち櫓のもとに押寄て之を攻め櫓の口に近きて火をもて之を焚んとせしに

一人の婦アビメレクの頭に磨石の上層石を投げてその腦骨を碎けり

アビメレクおのれの武器を執る少者を急ぎ召て之にいひけるは汝の劍を拔て我を殺せおそらくは人吾をさして婦に殺されたりといはんと其少者之を刺し通したればすなはち死り

イスラエルの人々はアビメレクの死たるを見ておのおのおのれの處に歸り去りぬ

神はアビメレクがその七十人の兄弟を殺しておのれの父になしたる惡に斯く報いたまへり

またシケムの民のすべての惡き事をも神は彼等の頭に報いたまへりすなはちヱルバアルの子ヨタムの詛彼らの上に及べるなり

第10章

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アビメレクの後イッサカルの人にてドドの子なるプワの子トラ起りてイスラエルを救ふ彼エフライムの山のシヤミルに住み

二十三年の間イスラエルを審判しがつひに死てシヤミルに葬らる

彼の後にギレアデ人ヤイル起りて二十二年の間イスラエルを審判たり

彼に子三十人ありて三十の驢馬に乗る彼等三十の邑を有りギレアデの地において今日までヤイルの村ととなふるものすなはち是なり

ヤイル死てカモンに葬らる

イスラエルの子孫ふたたびヱホバの目のまへに惡を爲しバアルとアシタロテ及びスリヤの神シドンの神モアブの神アンモンの子孫の神ペリシテ人の神に事へヱホバを棄て之に事へざりき

ヱホバ烈しくイスラエルを怒りて之をペリシテ人及びアンモンの子孫の手に賣付したまへり

其年に彼らイスラエルの子孫を虐げ難せりヨルダンの彼方においてギレアデにあるところのアモリ人の地に居るイスラエルの子孫十八年の間斯せられたりき

アンモンの子孫またユダとベニヤミンとエフライムの族とを攻んとてヨルダンを渡りしかばイスラエル太く苦めり

ここにおいてイスラエルの子孫ヱホバに呼りていひけるは我らおのれの神を棄てバアルに事へて汝に罪を犯したりと

ヱホバ、イスラエルの子孫にいひたまひけるは我かつてエジプト人アモリ人アンモンの子孫ペリシテ人より汝らを救ひ出せしにあらずや

又シドン人アマレク人及びマオン人の汝らを困しめしとき汝ら我に呼りしかば我汝らを彼らの手より救ひ出せり

然るに汝ら我を棄て他の神に事ふれば我かさねて汝らを救はざるべし

汝らが擇める神々に往て呼れ汝らの艱難のときに之をして汝らを救はしめよ

イスラエルの子孫ヱホバに言けるは我ら罪を犯せりすべて汝の目に善と見るところを我らになしたまへねがはくは唯今日我らを救ひたまへと

而して民おのれの中より異なる神々を取除きてヱホバに事へたりヱホバの心イスラエルの艱難を見るに忍びずなりぬ

茲にアンモンの子孫集てギレアデに陣を取りしがイスラエルの子孫は聚りてミヅパに陣を取り

時に民ギレアデの群伯たがひにいひけるは誰かアンモンの子孫に打ちむかひて戰を始むべき人ぞ其人をギレアデのすべての民の首となすべしと

第11章

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ギレアデ人ヱフタはたけき勇士にして妓婦の子なりギレアデ、ヱフタをうましめしなり

ギレアデの妻子等をうみしが妻の子等成長におよびてヱフタをおひいだしてこれにいひけるは汝は他の婦の子なればわれらが父の家を嗣べきにあらずと

ヱフタ其の兄弟の許より逃さりてトブの地に住けるに遊蕩者ヱフタのもとに集ひ來りて之とともに出ることをなせり

程經てのちアンモンの子孫イスラエルとたたかふに至りしが

アンモンの子孫のイスラエルとたたかへるときにギレアデの長老等ゆきてヱフタをトブの地より携來らんとし

ヱフタにいひけるは汝來りて吾らの大將となれ我らアンモンの子孫とたたかはん

ヱフタ、ギレアデの長老等にいひけるは汝らは我を惡みてわが父の家より逐いだしたるにあらずやしかるに今汝らが艱める時に至りて何ぞ我に來るや

ギレアデの長老等ヱフタにこたへけるは其がために我ら今汝にかへる汝われらとともにゆきてアンモンの子孫とたたかはばすべて我等ギレアデにすめるものの首領となすべしと

ヱフタ、ギレアデの長老等にいひけるは汝らもし我をたづさへかへりてアンモンの子孫とたたかはしめんにヱホバ之を我に付したまはば我は汝らの首となるべし

ギレアデの長老等ヱフタにいひけるはヱホバ汝と我との間の證者たり我ら誓つて汝の言のごとくになすべし

是に於てヱフタ、ギレアデの長老等とともに往くに民之を立ておのれの首領となし大將となせりヱフタ即ちミヅパにおいてヱホバのまへにこの言をことごとく陳たり

かくてヱフタ、アンモンの子孫の王に使者をつかはしていひけるは汝と我の間に何事ありてか汝われに攻めきたりてわが地に戰はんとする

アンモンの子孫の王ヱフタの使者に答へけるはむかしイスラエル、エジプトより上りきたりし時にアルノンよりヤボクにいたりヨルダンに至るまで吾が土地を奪ひしが故なり然ば今穩便に之を復すべし

ヱフタまた使者をアンモンの子孫の王に遣りて之にいはせけるは

ヱフタ斯いへりイスラエルはモアブの地を取ずまたアンモンの子孫の地をも取ざりしなり

夫イスラエルはエジプトより上りきたれる時に曠野を經て紅海に到りカデシに來れり

而してイスラエル使者をエドムの王に遣して言けるはねがはくは我をして汝の土地を經過しめよと然るにエドムの王之をうけがはずまたおなじく人をモアブの王に遣したれども是もうべなはざりしかばイスラエルはカデシに留まりしが

遂にイスラエル曠野を經てエドムの地およびモアブの地を繞りモアブの地の東の方に出てアルノンの彼方に陣を取り然どモアブの界には入らざりきアルノンはモアブの界なればなり

かくてイスラエル、ヘシボンに王たりしアモリ人の王シホンに使者を遣せりすなはちイスラエル之にいひけらくねがはくは我らをして汝の土地を經過てわがところにいたらしめよと

然るにシホン、イスラエルを信ぜずしてその界をとほらしめずかへつてそのすべての民を集めてヤハヅに陣しイスラエルとたたかひしが

イスラエルの神ヱホバ、シホンとそのすべての民をイスラエルの手に付したまひたればイスラエル之を撃敗りてその土地にすめるアモリ人の地を悉く手に入れ

アルノンよりヤボクに至るまでまた曠野よりヨルダンに至るまですべてアモリ人の土地を手に入たり

斯のごとくイスラエルの神ヱホバは其の民イスラエルのまへよりアモリ人を逐しりぞけたまひしに汝なほ之を取んとする乎

汝は汝の神ケモシが汝に取しむるものを取ざらんやわれらは我らの神ヱホバが我らに取しむる物を取ん

汝は誠にモアブの王チツポルの子バラクにまされる處ありとするかバラク曾てイスラエルとあらそひしことありや曾て之とたたかひしことありや

イスラエルがヘシボンとその村里アロエルとその村里およびアルノンの岸に沿ひたるすべての邑々に住ること三百年なりしに汝などてかその間に之を回復さざりしや

我は汝に罪を犯せしことなきに汝はわれとたたかひて我に害をくはへんとす願くは審判をなしたまふヱホバ今日イスラエルの子孫とアンモンの子孫との間を鞫きたまへと

しかれどもアンモンの子孫の王はヱフタのいひつかはせる言を聽いれざりき

ここにヱホバの靈ヱフタに臨みしかばヱフタすなはちギレアデおよびマナセを經過りギレアデのミヅパにいたりギレアデのミヅパよりすすみてアンモンの子孫に向ふ

ヱフタ、ヱホバに誓願を立ていひけるは汝誠にアンモンの子孫をわが手に付したまはば

我がアンモンの子孫の所より安然かに歸らんときに我家の戸より出きたりて我を迎ふるもの必ずヱホバの所有となるべし我之を燔祭となしてささげんと

ヱフタすなはちアンモンの子孫の所に進みゆきて之と戰ひしにヱホバかれらをその手に付したまひしかば

アロエルよりミンニテにまで至りこれが二十の邑を打敗りてアベルケラミムにいたり甚だ多の人をころせりかくアンモンの子孫はイスラエルの子孫に攻伏られたり

かくてヱフタ、ミヅパに來りておのが家にいたるに其女鼓を執り舞ひ踊りて之を出で迎ふ是彼が獨子にて其のほかには男子もなくまた女子も有ざりき

ヱフタ之を視てその衣を裂ていひけるはああ吾が女よ汝實に我を傷しむ汝は我を惱すものなり其は我ヱホバにむかひて口を開きしによりて改むることあたはざればなり

女之にいひけるはわが父よ汝ヱホバにむかひて口をひらきたれば汝の口より言出せしごとく我になせよ其はヱホバ汝のために汝の敵なるアンモンの子孫に仇を復したまひたればなり

女またその父にいひけるはねがはくは此事をわれに允せすなはち二月の間我をゆるし我をしてわが友等とともに往て山にくだりてわが處女たることを歎かしめよと

ヱフタすなはち往けといひて之を二月のあひだ出し遣ぬ女その友等とともに往き山の上にておのれの處女たるを歎きしが

二月滿てその父に歸り來りたれば父その誓ひし誓願のごとくに之に行へり女は終に男を知ことなかりき

是よりして年々にイスラエルの女子等往て年に四日ほどギレアデ人ヱフタの女のために哀哭ことをなす是イスラエルの規矩となれり

第12章

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エフライムの人々つどひて北にゆきヱフタにいひけるは汝何故に往きてアンモンの子孫と戰ひながらわれらをまねきて汝とともに行せざりしや我ら火をもて汝の家を汝とともに焚くべしと

ヱフタ之にいひけるは我とわが民の曾てアンモンの子孫と大に爭ひしときに我汝らをよびしに汝らかれらの手より我を救ふことをせざりき

我汝らが我を救はざるを見たればわが命をかけてアンモンの子孫の所に攻ゆきしにヱホバかれらを我が手に付したまへり然ば汝らなんぞ今日我が許に上り來りて我とたたかはんとするやと

ヱフタここにおいてギレアデの人をことごとくつどへてエフライムとたたかひしがギレアデの人々エフライムを撃破れり是はエフライム汝らギレアデ人はエフライムの逃亡者にしてエフライムとマナセの中にをるなりと言しに由る

而してギレアデ人エフライムにおもむくところのヨルダンの津をとりきりしがエフライム人の逃れ來る者ありて我を渡らせよといへばギレアデの人之に汝はエフライム人なるかと問ひ彼もし然らずと言ときは

また之に請ふシボレテといへといふに彼その音を正しくいひ得ずしてセボレテと言ばすなはち之を引捕へてヨルダンの津に屠せりその時にエフライム人のたふれし者四萬二千人なりき

ヱフタ六年のあひだイスラエルを審きたりギレアデ人ヱフタつひに死てギレアデのある邑に葬むらる

彼の後にベテレヘムのイブザン、イスラエルを審きたり

彼に三十人の男子ありまた三十人の女子ありしがこれをば外に嫁がしめてその子息等のために三十人の女を外より娶れり彼七年のあひだイスラエルを審きたり

イブザンつひに死てベテレヘムに葬むらる

彼の後にゼブルン人エロン、イスラエルを審きたりゼブルン人エロン十年のあひだイスラエルを審きたり

ゼブルン人エロンつひに死てゼブルンの地のアヤロンに葬むらる

彼の後にピラトン人ヒレルの子アブドン、イスラエルを審きたり

彼に四十人の男子および三十人の孫ありて七十の驢馬に乗る彼八年のあひだイスラエルを審けり

ピラトン人ヒレルの子アブドンつひに死てエフライムの地のピラトンに葬むらる是はアマレク人の山にあり

第13章

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イスラエルの子孫またヱホバのまへにて惡を行ひしかばヱホバこれを四十年の間ペリシテ人の手にわたしたまへり

ここにダン人の族にて名をマノアとよべるゾラ人あり其の妻は石婦にして子を生みしことなし

ヱホバの使その女に現れて之にいひけるは汝は石婦にして子を生しことあらず然ど汝孕みて子をうまん

されば汝つつしみて葡萄酒および濃き酒を飮むことなかれまたすべて穢たるものを食ふなかれ

視よ汝孕みて子を產ん其の頭には剃刀をあつべからずその兒は胎を出るよりして神のナザレ人〔神に身を獻げし者〕たるべし彼ペリシテ人の手よりイスラエルを拯ひ始めんと

その婦人來りて夫に告て曰けるは神の人我にのぞめりその容貌は神の使の容貌のごとくにして甚おそろしかりしが我其のいづれより來れるやを問ず彼また其の名を我に告ざりき

彼我にいひけるは視よ汝孕みて子を產まん然ば葡萄酒および濃き酒を飮むなかれまたすべてけがれたるものを食ふなかれその兒は胎を出るより其の死る日まで神のナザレ人たるべしと

マノア、ヱホバにこひ求めていひけるはああわが主よ汝がさきに遣はしたまひし神の人をふたたび我らにのぞませ之をして我らがその產るる兒になすべき事を敎へしめたまへ

神マノアの聲をききいれたまひて神の使者婦人の田野に坐しをる時に復之にのぞめり時に夫マノアは共にをらざりき

是において婦いそぎ走りて夫に告て之にいひけるは先頃我にのぞみし人また我に現はれたりと

マノアすなはち起て妻のあとに付て行き其人のもとに至りて之に汝はかつて此婦に語言し人なるかといふに然りとこたふ

マノアいひけるは汝の言のごとく成ん時は其兒の養育方および之になすべき事は如何

ヱホバの使者マノアにいひけるはわがさきに婦に言しところのことどもは婦之をつつしむべきなり

すなはち葡萄樹よりいづる者は凡て食ふべからず葡萄酒と濃き酒を飮ずまたすべて穢たるものを食ふべからずすべてわが彼に命じたることどもを彼守るべきなり

マノア、ヱホバの使者にいひけるは請我らをして汝を款留しめ汝のまへに山羊羔を備へしめよ

ヱホバの使者マノアにいひける汝我を款留るも我は汝の食物をくらはじまた汝燔祭をそなへんとならばヱホバにこれをそなふべしとマノアは彼がヱホバの使者なるを知ざりしなり

マノア、ヱホバの使者にいひけるは汝の名はなにぞ汝の言の効驗あらんときは我ら汝を崇ん

ヱホバの使者之にいひけるは我が名は不思議なり汝何故に之をたづぬるやと

マノア山羊羔と素祭物とをとり磐のうへにて之をヱホバにささぐ使者すなはち不思議なる事をなせりマノアとその妻之を視る

すなはち火燄壇より天にあがれるときヱホバの使者壇の火燄のうちにありて昇れりマノアと其の妻これを視をりて地にひれふせり

ヱホバの使者そののち重ねてマノアと其の妻に現はれざりきマノアつひに彼がヱホバの使者たりしを暁れり

茲にマノアその妻にむかひ我ら神を視たれば必ず死ぬるならんといふに

其の妻之にいひけるはヱホバもし我らを殺さんとおもひたまはばわれらの手より燔祭及び素祭をうけたまはざりしならんまたこれらの諸のことを我らに示すことをなしこたびのごとく我らに斯ることを告たまはざりしなるべしと

かくて婦子を產てその名をサムソンと呼べりその子育ち行くヱホバこれを惠みたまふ

ヱホバの靈ゾラとエシタオルのあひだなるマハネダンにて始て感動す

第14章

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サムソン、テムナテに下り、ペリシテ人の女にてテムナテに住る一人の婦を見

歸り上りておのが父母に語ていひけるは我ペリシテ人の女にてテムナテに住るひとりの婦を見たりされば今之をめとりてわが妻とせよと

その父母之にいひけるは汝ゆきて割禮を受けざるペリシテ人のうちより妻を迎んとするは汝が兄弟等の女のうちもしくはわがすべての民のうちに婦女無が故なるかとしかるにサムソン父にむかひ彼婦わがこころに適へば之をわがために娶れと言り

その父母はこの事のヱホバより出しなるを知ざりきサムソンはペリシテ人を攻んと釁をうかがひしなりそは其のころペリシテ人イスラエルを轄め居たればなり

サムソン父母とともにテムナテに下りてテムナテの葡萄園にいたるに稚き獅子咆哮りて彼に向ひしが

ヱホバの靈彼にのぞみたれば山羊羔を裂がごとくに之を裂たりしが手には何の武器も持ざりきされどサムソンはその爲せしことを父にも母にも告ずしてありぬ

サムソンつひに下りて婦とうちかたらひしが婦その心にかなへり

かくて日を經て後サムソンかれを娶らんとて立かへりしが身を轉して彼の獅子の屍を見るに獅子の體に蜂の群と蜜とありければ

すなはちその蜜を手にとりて歩みつつ食ひ父母の許にいたりて之を與へけるに彼ら之を食へりされど獅子の體よりその蜜を取來れることをば彼らにかたらざりき

斯て其の父下りて婦のもとに至りしかばサムソン少年の習例にしたがひてそこに饗宴をまうけたるに

サムソンを見て三十人の者をつれ來りて之が伴侶とならしむ

サムソンかれらにいひけるは我汝らにひとつの隱語をかけん汝ら七日の筵宴の内に之を解てあきらかに之を我に告なば我汝らに裏衣三十と衣三十襲をあたふべし

然どもし之をわれに告得ずば汝ら我に裏衣三十と衣三十襲を與ふべしと彼等之にいひけるは汝の隱語をかけて我らに聽しめよ

サムソン之にいひけるは食ふ者より食物出で强き者より甘き物出でたりと彼ら三日の中に之を解ことあたはざりしかば

第七日にいたりてサムソンの妻にいひけるは汝の夫を説すすめて隱語を我らに明さしめよ然せずば火をもて汝と汝の父の家を焚ん汝らはわれらの物をとらんとてわれらを招けるなるか然るにあらずやと

是においてサムソンの妻サムソンのまへに泣ていひけるは汝はわれを惡む而巳われを愛せざるなり汝わが民の子孫に隱語をかけて之をわれに説あかさずとサムソン之にいふ我これをわが父や母にも説あかさざればいかで汝に説あかすべけんやと

婦七日の筵宴のあひだ彼のまへに泣き居りしが第七日に至りてサムソンつひに之を彼に説あかせり其は太く强たればなり婦すなはち隱語をおのが民の子孫に明せり

是において第七日に及びて日の沒るまへに邑の人々サムソンにいひけるは何ものか蜜よりあまからん何ものか獅子より强からんとサムソン之にいひけるは汝らわが牝犢をもて耕さざりしならばわが隱語を解得ざるなりと


茲にヱホバの靈サムソンに臨みしかばサムソン、アシケロンに下りてかしこの者三十人を殺しその物を奪ひ彼の隱語を解し者等にその衣服を與へはげしく怒りて其父の家にかへり上れり

サムソンの妻はサムソンの友となり居たるその伴侶の妻となりぬ

第15章

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日を經てのち麥秋の時にサムソン山羊羔をたづさへて妻のもとを訪ていひけるは我室に入てわが妻に會んと然るに妻の父其の入ことをゆるさず

其父すなはちいひけるはわれまことに汝は彼の婦を嫌ひたりと意ひしがゆゑに彼を汝の伴侶たりし者に與へたり彼が妹は彼よりも善にあらずやねがはくは彼に代て之を汝のものとせよ

サムソン彼らにいひけるは今回はわれペリシテ人に害を加ふるとも彼らに對して罪なかるべしと

サムソンすなはち往て山犬三百をとらへ火炬をとり尾と尾をあはせてその二つの尾の間に一つの火炬を結ひつけ

火炬に火をつけてペリシテ人のいまだ刈ざる麥のなかにこれを放ち入れその束ね積たるものといまだ刈ざるものを焚き橄欖の園にまで及ぼせり

ペリシテ人いひけるは是は誰の行爲なるやこたへて言ふテムナテ人の婿サムソンなりそは彼サムソンの妻をとりて其伴侶なりし者に與へたればなりとここにおいてペリシテ人上りきたりて彼の婦とその父とを火にて燒きうしなへり

サムソンかれらに言ふ汝ら斯おこなへば我汝らに仇をむくはでは止じと

すなはち脛に腿に彼らを撃て大いに之を殺せりかくてサムソンは下りてエタムの巖間に居る

ここにおいてペリシテ人上り來りてユダに陣を取りレヒに布き備へたれば

ユダの人々いひけるは汝ら何の故にわれらに攻めのぼりたるやとかれらこたへけるはサムソンをしばりて彼がわれらに爲しごとくかれに爲んとてのぼれるなりと

是をもてユダの人三千人エタムの巖間にくだりてサムソンにいふ汝ペリシテ人はわれらを轄るものなるを知らざるや汝などてかわれらに斯る事をなせしやサムソンかれらにいひけるは我は彼らが我に爲しごとく彼らに爲しなりと

かれらまたサムソンにいひけるは我らは汝をしばりてペリシテ人の手にわたさんとて下りきたれりサムソンかれらにいひけるは汝らの自われを害すまじきことを我に誓へ

彼ら之にかたりていふいなわれらはただ汝を縛りいましめてペリシテ人の手にわたさんのみわれらは必らず汝を殺さざるべしとすなはち二條の新しき索をもてかれをいましめて巖より之を携かへれり

サムソン、レヒにいたれるときペリシテ人聲を揚てかれに近づきしが時しもヱホバの靈彼にのぞみたればその腕にかかれる索は火に焚たる麻のごとくになりて手のいましめ解はなれたり

サムソンすなはち驢馬のあたらしき腮骨ひとつを見出し手をのべて之を取り其をもて一千人を殺し

而して言ふ驢馬の腮骨をもて山をきづき山をつくる驢馬の腮骨をもて我一千人を撃殺せりと

かく言終りてその手より腮骨をうちすて其處をラマテレヒと名けたり

時に彼渇をおぼゆること甚だしかりしかばヱホバによばはりていふ汝のしもべの手をもて汝この大なる拯をほどこしたまへるにわれ今渇きて死に割禮を受けざるものの手におちいらんとすと

ここにおいて神レヒに在るくぼめる所を裂きたまひしかば水そこより流れいでしがサムソン之を飮たれば精神舊に返りてふたたび爽になりぬ故に其名をエンハッコレ(呼はれるものの泉)と呼ぶ是今日にいたるまでレヒに在り

サムソンはペリシテ人の治世の時に二十年イスラエルをさばけり

第16章

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サムソン、ガザに往きかしこにて一人の妓を見てそれの處に入しに

サムソンここに來れりとガザ人につぐるものありければすなはち之を取り圍みよもすがら邑の門に埋伏し詰朝におよび夜の明たる時に之をころすべしといひてよもすがら靜まりかへりて居る

サムソン夜半までいね夜半にいたりて興き邑の門の扉とふたつの柱に手をかけて楗もろともに之をひきぬき肩に載てヘブロンの向ひなる山の巓に負のぼれり

こののちサムソン、ソレクの谷に居る名はデリラと言ふ婦人を愛す

ペリシテ人の群伯その婦のもとに上り來て之にいひけるは汝サムソンを説すすめてその大いなる力は何に在るかまたわれら如何にせば之に勝て之を縛りくるしむるを得べきかを見出せ然すればわれらおのおの銀千百枚づつをなんぢに與ふべし

ここにおいてデリラ、サムソンにいひけるは汝の大なる力は何にあるかまた如何せば汝を縛りて苦むることを得るや請ふ之をわれにつげよ

サムソン之にいひけるは人もし乾きしことなき七條の新しき繩をもてわれを縛るときはわれ弱くなりて別の人のごとくならんと

ここに於てペリシテ人の群伯乾きしことなき七條の新しき繩を婦にもち來りければ婦之を以てサムソンをしばりしが

かねて室のうちに人しのび居て己とともにありたれば斯してサムソンにむかひサムソンよペリシテ人汝に及ぶと言にサムソンすなはちその索を絶りあたかも麻絲の火にあひて斷るるがごとし斯其の力の原由知れざりき

デリラ、サムソンにいひけるは視よ汝われを欺きてわれに謊を告たり請ふ何をもてせば汝を縛ることをうるや今我に告よ

彼之にいひけるはもし人用ひたることなき新しき索をもてわれを縛りいましめなばわれ弱くなりて別の人のごとくならんと

是をもてデリラあたらしき索をとり其をもて彼を縛りしかして彼にいふサムソンよペリシテ人汝におよぶと時に室のうちに人しのび居たりしがサムソン絲の如くにその索を腕より絶おとせり

デリラ、サムソンにいひけるに今までは汝われを欺きて我に謊をつげたるが何をもてせば汝をしばることをうるやわれに告よと彼之にいひけるは汝もしわが髮毛七繚を機の緯線とともに織ばすなはち可しと

婦すなはち釘をもて之をとめおきて彼にいひけるはサムソンよペリシテ人汝におよぶとサムソンすなはちその寢をさまし織機の釘と緯線とを曳拔り

婦ここにおいてサムソンにいひけるは汝の心われに居ざるに汝いかでわれを愛すといふや汝すでに三次われをあざむきて汝が大なる力の何にあるかをわれに告ずと

日々にその言をもて之にせまりうながして彼の心を死るばかりに苦ませたれば

彼つひにその心をことごとく打明して之にいひけるはわが頭にはいまだかつて剃刀を當しことあらずそはわれ母の胎を出るよりして神のナザレ人たればなりもしわれ髮をそりおとされなばわが力われをはなれわれは弱くなりて別の人のごとくならんと

デリラ、サムソンがことごとく其のこころを明したるを見人をつかはしてペリシテ人の群伯を召ていひけるはサムソンことごとくその心をわれに明したれば今ひとたび上り來るべしとここにおいてペリシテ人の群伯かの銀を携へて婦のもとにいたる

婦おのが膝のうへにサムソンをねむらせ人をよびてその頭髮七繚をきりおとさしめ之を苦めはじめたるにその力すでにうせさりてあり

婦ここにおいてサムソンよペリシテ人汝におよぶといひければ彼睡眠をさましていひけるはわれ毎のごとく出て身を振はさんと彼はヱホバのおのれをはなれたまひしを覺らざりき

ペリシテ人すなはち彼を執へ眼を抉りて之をガザにひき下り銅の鏈をもて之を繋げりかくてサムソンは囚獄のうちに磨を挽居たりしが

その髮の毛剃りおとされてのち復長はじめたり

茲にペリシテ人の群伯共にあつまりてその神ダゴンに大なる祭物をささげて祝をなさんとしすなはち言ふわれらの神はわれらの敵サムソンをわれらの手に付したりと

民サムソンを見ておのれの神をほめたたへて言ふわれらの神はわれらの敵たる者われらの地を荒せしものわれらを數多殺せしものをわれらの手に付したりと

その心に喜びていひけるはサムソンを召てわれらのために戲技をなさしめよとて囚獄よりサムソンを召いだせしかばサムソン之がために戲技をなせり彼等サムソンを柱の間に立しめしに

サムソンおのが手をひきをる少者にいひけるはわれをはなして此家の倚て立ところの柱をさぐりて之に倚しめよと

その家には男女充ちペリシテ人の群伯もまたみな其處に居る又屋蓋のうへには三千ばかりの男女をりてサムソンの戲技をなすを觀てありき

時にサムソン、ヱホバに呼はりいひけるはああ主ヱホバよねがはくは我を記念えたまへ嗚呼神よ願くは唯今一度われを强くしてわがふたつの眼のひとつのためにだにもペリシテ人に仇をむくいしめたまへと

サムソンすなはちその家の倚てたつところの兩箇の中柱のひとつを右の手ひとつを左の手にかかへて身をこれによせたりしが

サムソン我はペリシテ人とともに死なんといひて力をきはめて身をかがめたれば家はそのなかに居る群伯とすべての民のうへに倒れたりかくサムソンが死るときに殺せしものは生けるときに殺せし者よりもおほかりき

こののちサムソンの兄弟およびその父の家族ことごとく下りて之を取り携へのぼりてゾラとエシタオルのあひだなる其の父マノアの墓にはうむれりサムソンがイスラエルをさばきしは二十年なりき


第17章

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ここにエフライムの山の人にて名をミカとよべるものありしが

その母に言けるは汝かつてその千百枚の銀を取れしことを吾が聞ところにて詛ひて語りしが視よその銀はわが手に在り我之を取るなりと母すなはちわが子よねがはくはヱホバ汝に祝福をたまへと言り

彼千百枚の銀をその母にかへせしかば母いひけらくわれわが子のためにひとつの像を雕みひとつの像を鑄んためにその銀をわが手よりヱホバに納む然ばわれ今之を汝にかへすべしと

ミカその銀を母にかへせしかば母その銀二百枚をとりて之を鑄物師にあたへてひとつの像をきざませひとつの像を鑄させたり其像はミカの家に在り

このミカといふ人神の殿をもちをりエポデおよびテラピムを造りひとりの子を立ておのが祭司となせり

此ときにはイスラエルに王なかりければ人々おのれの目に是とみゆることをおこなへり

ここにひとりの少者ありてベテレヘムユダに於てユダの族の中にをる彼はレビ人にしてかしこに寓居るなり

この人居べきところをたづねてその邑ベテレヘムユダを去しが遂に旅してエフライムの山にゆきてミカの家にいたりしに

ミカ之にいひけるは汝いづこよ來れるやと彼之にいふ我はベテレヘムユダのレビ人なるが居べきところをたづねに往くものなり

ミカ之に言けるは汝われと偕に居りわがために父とも祭司ともなれよ然ばわれ年に銀十枚および衣服食物を汝にあたへんとレビ人すなはち入しが

レビ人つひにその人と偕に居んことを肯ふ是においてその少者はかれの子の一人のごとくなりぬ

ミカ、レビ人なるこの少者をたてて祭司となしたればすなはちミカの家に居る

ミカここにおいて言ふ今われ知るヱホバわれに恩惠をたまはんそはこのレビ人われの祭司となればなり

第18章

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當時イスラエルには王なかりしがダン人の支派其頃住むべき地を求めたり是は彼らイスラエルの支派の中にありて其日まで未だ產業の地を得ざりしが故なり

ダンの子孫すなはちゾラとエシタオルよりして自己の族の勇者五人を遣はしその境を出て土地を窺ひ探らしむ即ち彼等に言ふ往て土地を探れと彼等エフライムの山にいたりミカの家につきて其處に宿れり

かれらミカの家の傍にある時レビ人なる少者の聲を聞認たれば身をめぐらして其處にいりて之に言ふ誰が汝を此に携きたりしや汝此處にて何をなすや此に何の用あるや

其人かれらに言けるはミカ斯々我を待ひ我を雇ひて我その祭司となれりと

彼等これに言ふ請ふ神に問ひ我等が往ところの途に利逹あるや否を我等にしらしめよ

その祭司かれらに言けるは安んじて往よ汝らが往ところの途はヱホバの前にあるなりと

是に於て五人の者往てライシに至り其處に住る人民を視るに顧慮なく住ひをり其安穩にして安固なることシドン人のごとし此國には政權を握りて人を煩はす者絶てあらず其シドン人と隔たること遠くまた他の人民と交ることなし

斯て彼等ゾラとエシタオルに返りてその兄弟等にいたるに兄弟等如何なりしやと彼等に問ければ

答て言ふ起よ彼等の所に攻のぼらん我等その地を見るに甚だ善し汝等は安んじをるなり進みいたりてその地を取ることを怠るなかれ

汝等往ば安固なる人民の所に至らんその地は堅横ともに廣し神これを汝らの手に與へたまふなり此處には世にある物一箇も缺ることあらず

是に於てダン人の族の者六百人武器を帶てゾラとエシタオルより出ゆき

上りてユダのキリヤテヤリムに陣を張り是をもてその處をマハネダンと名けしがその名今日に存る是はキリヤテヤリムの後にあり

彼等其處よりエフライム山に進みミカの家に至りけるに

夫のライシの國を窺ひに往たりし五人の者その兄弟等に告て言けるは是等の家にはエポデ、テラピムおよび雕める像と鑄たる像あるを汝等知や然ば汝ら今その爲べきことを考へよと

乃ち其方に身をめぐらして夫のレビ人の少者の家なるミカの家に至りてその安否を問けるが

武器を帶たる六百人のダンの子孫は門の入口に立り

夫の土地を窺ひに往たりし五人の者上りて其處にいりその雕める像とエポデとテラピムおよび鑄たる像を取けるが祭司は武器を帶たる六百人の者とともに門の入口に立ゐたり

此人々ミカの家にいりて其雕める像とエポデとテラピムと鑄たる像とを取しかば祭司かれらに汝ら何をなすやと言ふに

彼等これに言けるは汝默せよ汝手を口にあてて我らとともに來り我らの父とも祭司ともなれよかし一人の家の祭司たるとイスラエルの一の支派一の族の祭司たるとは何か好や

祭司すなはち心に悦びてエポデとテラピムと雕める像とを取て民の中に入る

斯てかれら身をめぐらしその子女と家畜と財寳を前にたてて進みしが

ミカの家を遙かに離れし時ミカの家に近きところの家の人々呼はり集てダンの子孫に追ひつき

ダンの子孫を呼たれば彼等回顧てミカに言ふ汝何事ありて集りしや

かれら言けるは汝らはわが造れる神々および祭司を奪ひさりたれば我尚何かあらん然るに汝等何ぞ我にむかひて何事ぞやと言や

ダンの子孫かれに言けるは汝の聲を我らの中に聞えしむるなかれ恐くは心の荒き人々汝に撃かかるありて汝おのれの生命と家族の生命とを失ふにいたらんと

而してダンの子孫進みゆきけるがミカは彼らが己よりも强きを見て身をめぐらして家に返れり

彼等ミカが造りし者とその有し祭司をとりてライシにおもむき平穩にして安樂なる民の所にいたり刃をもて之を撃ち火をもてその邑を燬たりしが

其シドンと隔たること遠きが上に他の人民と交際ざりしによりて之を救ふ者なかりきその邑はベテレホブの邊の谷にあり彼ら邑を建なほして其處に住み

イスラエルの生たるその先祖ダンの名にしたがひて其邑の名をダンと名けたりその邑の名は本はライシなりき

斯てダンの子孫その雕める像を安置りモーセの子なるゲルシヨムの子ヨナタンとその子孫ダンの支派の祭司となりて國の奪はるる時にまでおよべり

神の家のシロにありし間恒に彼等はミカが造りしかの雕める像を安置おきぬ

第19章

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其頃イスラエルに王なかりし時にあたりてエフライムの山の奧に一人のレビ人寄寓をりベテレヘムユダより一人の婦人をとりて妾となしたるに

その妾彼に背きて姦淫を爲し去てベテレヘムユダなるその父の家にかへり其所に四月といふ日をおくれり

是に於てその夫彼をなだめて携かへらんとてその僕と二頭の驢馬をしたがへ起てかれの後をしたひゆきければその父の家に之を導きいたりしに女の父これを見て之に遇ことを悦こべり

而してその女の父なる外舅彼をひきとめたれば則ち三日これと共に居り皆食飮して其所に宿りしが

四日におよびて朝早く起あがり彼たちて去んとしければ女の父その婿に言ふ少許の食物をもて汝の心を强くして然る後に去れよと

二人すなはち坐りて共に食飮しけるが女の父その人にいひけるは請ふ幸に今一夜を明し汝の心を樂ましめよと

其人起て去んとしけるに外舅これを强たれば遂に復其所に宿り

五日におよびて朝はやく起いでて去んとしたるに女の父これに言けるは請ふ汝の心を强くせよと是をもて日の昃るまでとどまりて共に食をなしけるが

其人つひに妾および僕とともに去んとて起あがりければ女の父彼に言ふ視よ今は日暮なんとす請ふ今一夜を明されよ視よ日昃たり汝此にやどりて汝の心をたのしませ明日蚤く起て出たち汝の家にいたれよと

然るに其人止宿ることを肯はずして起て去りヱブスの對面に至れり是はエルサレムなり鞍おける二の驢馬彼とともにあり妾も彼とともなりき

彼らヱブスの近傍にをる時日はや沒んとしければ僕その主人にいひけるは請ふ來れ我等身をめぐらしてヱブス人の此邑にいりて其所に宿らんと

その主人これに言けるは我等は彼所に身をめぐらしてイスラエルの子孫の邑ならざる外國の人の邑にいるべからずギベアに進みゆかんと

すなはちその僕にいひけるは來れ我らギベアかラマか是等の處の一に就て止宿んと

皆すすみ往きけるがベニヤミンのギベアの近邊にて日暮たれば

ギベアにゆきて宿らんとて其所に身をめぐらし入て邑の衢に坐しけるに誰も彼を家に接て宿らしむる者なかりき

時に一人の老人日暮に田野の働作をやめて歸りきたる此人はエフライム山の者にしてギベアに寄寓れるなり但し此處の人はベニヤミン人なり

彼目をあげて旅人の邑の衢にをるを見たり老人すなはちいひけるは汝は何所にゆくなるや何所より來れるやと

その人これにいひけるは我らはベテレヘムユダよりエフライム山の奧におもむく者なり我は彼所の者にて旣にベテレヘムユダにゆき今ヱホバの室に詣らんとするなるが誰もわれを家に接ものあらず

然ど驢馬の藁も飼蒭もあり又我と汝の婢および僕等とともなる少者の用ふべき食物も酒も在て何も事缺るところなし

老人いひけるは願くは汝安かれ汝が需むる者は我そなへん唯衢に宿るなかれと

かれをその家に携れ驢馬に飼ふ彼らすなはち足をあらひて食飮せしが

その心を樂ませをる時にあたりて邑の人々の邪なる者その家をとりかこみ戸を打たたきて家の主人なる老人に言ふ汝の家にきたれる人をひき出せ我らこれを犯さんと

是に於て家の主人なる人かれらの所にいでゆきてこれに言けるは否わが兄弟よ惡をなす勿れ此人すでにわが家にいりたればこの愚なる事をなすなかれ

我が處女なる女と此人の妾とあるにより我これを今つれいだすべければ汝らかれらを辱しめ汝等の好むところをこれに爲せ唯この人には斯る愚なる事を爲すなかれと

然るにその人々これを聽いれざるにより其人その妾をとりてこれを彼らの所にいだしやりければすなはちこれを犯して朝にいたるまで終夜これを辱しめ日のいづる頃にいたりて釋てり

是をもて婦黎明にきたりてその夫のをる彼人の家の門に仆れ夜のあくるまで其處に臥をる

その主朝におよびておきいで家の戸をひらきて出去んとせしがその妾の婦の家の門にたふれをりて手を閾の上におくを見ければ

これにむかひ起よ我ら出往んと言たれども何の答もあらざりき是によりてその人これを驢馬にのせたちて己の所におもむきしが

家にいたるにおよびて刀をとり其妾を執へて骨ぐるみこれを十二分にたちわりて之をイスラエルの四方の境におくりければ

之を見る者皆いふイスラエルの子孫がエジプトの地より出のぼりし日より今日にいたるまで斯のごとき事は行はれしことなく見えしことなし思をめぐらし相議りて言ふことをせよ

第20章

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是に於てイスラエルの子孫ダンよりベエルシバにいたりギレアデの地にいたるまで皆出きたり其會衆一人のごとくにしてミヅパに於てヱホバの前に集り

衆民の長たる者すなはちイスラエルの諸の支派の長等みづから神の民の集會に出づ劍をぬくところの歩兵四十萬人ありき

ベニヤミンの子孫はイスラエルの子孫がミヅパにのぼれることを聞り斯てイスラエルの子孫此惡事の樣を語れと言ければ

彼殺されし婦の夫なるレビの人こたへていふ我わが妾とともにベニヤミンのギベアに宿らんとて往たるに

ギベアの人起りたちて我をせめ夜の間に我がをる家をとりかこみて我を殺さんと企て遂にわが妾を辱しめてこれを死しめたれば

我わが妾をとらへてこれをたちわり是をイスラエルの產業なる全地に遣れり是は彼らイスラエルにおいて淫事をなし愚なる事をなしたればなり

汝等は皆イスラエルの子孫なり今汝らの意見と思考をのべよ

民みな一人のごとくに起ていひけるは我らは誰もおのれの天幕にゆかずまた誰もおのれの家におもむかじ

我らがギベアになさんところの事は是なりすなはち鬮にしたがひて之を攻ん

我らイスラエルの諸の支派の中に於て百人より十人千人より百人萬人より千人を取りて民の糧食を執せ之をしてベニヤミンのギベアにいたり彼らがイスラエルにおこなひたるその愚なる事にしたがひて事をなさしむべしと

斯イスラエルの人々皆あつまりて此邑を攻んとせしが其相結べること一人のごとくなりき

イスラエルの諸の支派遍く人をベニヤミンの支派の中に遣して言しめけるは汝らの中に此惡事のおこなはれしは何事ぞや

然ばギベアにをるかの邪なる人々をわたせ我らこれを誅して惡をイスラエルに絶べしと然るにベニヤミンの子孫はその兄弟なるイスラエルの子孫の言を聽いれざりき

却てベニヤミンの子孫は邑々よりギベアにあつまりて出てイスラエルの子孫と戰はんとす

その時邑々より出たるベニヤミンの子孫を數ふるに劍をぬく所の人二萬六千あり外にまたギベアの居民ありて之をかぞふるに精兵七百人ありき

この諸の民の中に左手利の精兵七百人あり皆能く投石器をもて石を投るに毫末もたがふことなし

イスラエルの人を數ふるにベニヤミンを除きて劍をぬくところの者四十萬人ありき是みな軍人なり

爰にイスラエルの子孫起あがりてベテルにのぼり神に問て我等の中孰か最初にのぼりてベニヤミンの子孫と戰ふべきやと言ふにヱホバ、ユダ最初にと言たまふ

イスラエルの子孫すなはち朝おきてギベアにむかひて陣をとりけるが

イスラエルの人々ベニヤミンと戰はんとて出でゆきイスラエルの人々行伍をたててギベアにて彼らと戰はんとしければ

ベニヤミンの子孫ギベアより進みいで其日イスラエル人二萬二千を地に撃仆せり

然るにイスラエルの民の人々みづから奮ひその初の日に行伍をたてし所にまた行伍をたてたり

而してイスラエルの子孫上りゆきてヱホバの前に夕暮まで哭きヱホバに問て言ふ我復進みよりて吾兄弟なるベニヤミンの子孫とたたかふべきやとヱホバ彼に攻のぼれと言たまへり

是に於てイスラエルの子孫次の日またベニヤミンの子孫の所に攻よするに

ベニヤミンまた次の日ギベアより進みて之にいであい再びイスラエルの子孫一萬八千人を地に撃仆せり是みな劍をぬくところの者なりき

斯在しかばイスラエルの子孫と民みな上りてベテルにいたりて哭き其處にてヱホバの前に坐りその日の夕暮まで食を斷ち燔祭と酬恩祭をヱホバの前に獻げ

而してイスラエルの子孫ヱホバにとへり(その頃は神の契約の櫃彼處にありて

アロンの子エレアザルの子なるピネハス當時これに事へたり)即ち言けるは我またも出てわが兄弟なるベニヤミンの子孫とたたかふべきや或は息べきやヱホバ言たまふ上れよ明日はわれ汝の手にかれらを付すべしと

イスラエル是に於てギベアの周圍に伏兵を置き

而してイスラエルの子孫三日目にまたベニヤミンの子孫の所に攻のぼり前のごとくにギベアにむかひて行伍をたてたれば

ベニヤミンの子孫民に出あひしが遂に邑より誘出されたり彼等始は民を撃ち大路にて前のごとくイスラエルの人三十人許を殺せりその大路は一筋はベテルにいたり一筋は野のギベアに至る

ベニヤミンの子孫すなはち言ふ彼らは初のごとく我らに撃破らると然るにイスラエルの人は云ふ我等逃て彼らを邑より大路に誘き出さんと

イスラエルの人々みなその所を起て去りバアルタマルに行伍をたてたり而して伏兵その處より即ちギベアの野原より起れり

イスラエルの全軍の中より選拔たる兵一萬來りてギベアを襲ひ其戰鬪はげしかりしがベニヤミン人は葘害の己にのぞむを知ざりき

ヱホバ、イスラエルのまへにベニヤミンを撃敗りたまひしかばイスラエルの子孫その日ベニヤミン人二萬五千一百人を殺せり是みな劍をぬくところの者なり

ベニヤミンの子孫すなはち己の撃敗らるるを見たり偖イスラエルの人々そのギベアにむかひて設たる所の伏兵を恃てベニヤミン人を避て退きけるが

伏兵急ぎてギベアに突いり伏兵進みて刃をもて邑を盡く撃り

イスラエルの人々とその伏兵との間に定めたる合圖は邑より大なる黑烟をあげんとの事なりき

イスラエルの人々戰陣より引き退ぞくベニヤミン初が程はイスラエルの人々を撃ちて三千人許を殺し乃ち言ふ彼等はまことに最初の戰のごとく我等に撃やぶらると


然るに火焔烟の柱なして邑より上りはじめしかばベニヤミン人後を見かへりしに邑は皆烟となりて空にのぼる

時にイスラエルの人々ふりかへりしかばベニヤミンの人々葘害のおのれに迫るを見て狼狽へ

イスラエルの人々の前より身をめぐらして野の途におもむきけるが戰鬪これに追せまりて遂にその邑々よりいでたる者どもその中に戰死す

イスラエルの人すなはちベニヤミン人をとりまきて之を追うち容易くこれを踏たふして東の方ギベアの對面にまでおよべり

ベニヤミンの仆るる者一萬八千人是みな勇士なり

茲に彼等身をめぐらして野の方ににげリンモンの磐にいたれりイスラエルの人大路にて彼等五千人を伐とり尚もこれを追うちてギドムにいたりその二千人を殺せり

是をもて其日ベニヤミンの仆れし者は劍をぬくところの人あはせて二萬五千なりき是みな勇士なり

但六百人の者身をめぐらして野の方にのがれリンモンの磐にいたりて四月があひだリンモンの磐にをる

是に於てイスラエルの人々また身をかへしてベニヤミンの子孫をせめ刃をもて邑の人より畜にいたるまで凡て目にあたる者を撃ち亦その至るところの邑々に火をかけたり

第21章

編集

イスラエルの人々曾てミヅパにて誓ひ曰けるは我等の中一人もその女をベニヤミンの妻にあたふる者あるべからずと

茲に民ベテルに至り彼處にて夕暮まで神の前に坐り聲を放ちて痛く哭き

言けるはイスラエルの神ヱホバよなんぞイスラエルに斯ること起り今日イスラエルに一の支派の缺るにいたりしやと

而して翌日民蚤に起て其處に壇を築き燔祭と酬恩祭をささげたり

茲にイスラエルの子孫いひけるはイスラエルの支派の中に誰か會衆とともに上りてヱホバにいたらざる者あらんと其は彼らミヅパに來りてヱホバにいたらざる者の事につきて大なる誓をたてて其人をばかならず死しむべしと言たればなり

イスラエルの子孫すなはち其兄弟ベニヤミンの事を憫然におもひて言ふ今日イスラエルに一の支派絶ゆ

我等ヱホバをさして我らの女をかれらの妻にあたへじと誓ひたれば彼の遺る者等に妻をめとらしめんには如何にすべきや

又言ふイスラエルの支派の中孰の者かミヅパにのぼりてヱホバにいたらざると而して視るにヤベシギレアデよりは一人も陣營にきたり集會に臨める者なし

即ち民をかぞふるにヤベシギレアデの居民は一人も其處にをらざりき

是に於て會衆勇士一萬二千を彼處に遣し之に命じて言ふ往て刃をもてヤベシギレアデの居民を撃て婦女兒女をも餘すなかれ

汝ら斯おこなふべし即ち汝等男人および男と寢たる婦人をば悉く滅し盡すべしと

彼等ヤベシギレアデの居民の中にて四百人の若き處女を獲たり是は未だ男と寢て男しりしことあらざる者なり彼らすなはち之をシロの陣營に曳きたる是はカナンの地にあり

斯て全會衆人をやりてリンモンの磐にをるベニヤミン人と語はしめ和睦をこれに宣しめたれば

ベニヤミンすなはち其時に歸りきたれり是において彼らヤベシギレアデの婦人の中より生しおきたるところの女子を之にあたへけるが尚足ざりき

ヱホバ、イスラエルの支派の中に缺を生ぜしめたまひしに因て民ベニヤミンの事を憫然におもへり

會衆の長老等いひけるはベニヤミンの婦女絶たれば彼の遺れる者等に妻をめとらせんには如何すべきや

又言けるはベニヤミンの中の逃れたる者等に產業あらしめん然らばイスラエルに一の支派の消ることなかるべし

然ながら我等は我等の女子を彼らの妻にあたふべからず其はイスラエルの子孫誓をなしベニヤミンに妻を與ふる者は詛はれんと言たればなりと

而して言ふ歳々シロにヱホバの祭ありと其處はベテルの北にあたりてベテルよりシケムにのぼるところの大路の東レバナの南にあり

是に於てかれらベニヤミンの子孫に命じて言ふ汝らゆきて葡萄園に伏して窺ひ

若シロの女等舞をどらんと出きたらば葡萄園より出でシロの女の中より各人妻を執てベニヤミンの地に往け

若その父あるひは兄弟來りて我らに愬へなば我らこれに言ふべし請ふ幸に彼らを我らに取せよ我等戰爭の時に皆ことごとくその妻をとりしにあらざればなり汝等今かれらに與へしにあらざれば汝等は罪なしと

ベニヤミンの子孫すなはちかく行なひその踊れる者等を執へてその中より己の數にしたがひて妻を取り往てその地にかへり邑々を建なほして其處に住り

斯てイスラエルの子孫その時に其處を去て各人その支派に往きその族にいたれり即ち其處より出て各人その地にいたりぬ

當時はイスラエルに王なかりしかば各人その目に善と見るところを爲り