こくやくほふきやう

祥者しやうしや尊貴者そんきしや正遍覺者しやうへんかくしや歸命きみやう


雙雙品さうさうほんだい

1 諸法しよほふこころみちびかれ、こころべられ、こころつくらる、〔ひとけがれたるこころもつて、ものいおこなはば、それよりして、かれしたがふこと、車輪しやりんの、これけるもののあとに〔したがふ〕がごとし。

2 諸法しよほふこころみちびかれ、こころべられ、こころつくらる、〔ひときよこころもつて、ものいおこなはば、それよりして、らくかれしたがふこと、なほかげの〔かたちを〕はなれざるがごとし。

3 「〔かれわれののしれり、てり、やぶれり、わらへり」と、かかおもひいだけるものは、うらみくることなし。

4 「〔かれわれののしれり、てり、やぶれり、わらへり」と、かかおもひいだかざるものはうらみく。

5 おいうらみうらみもつてしてはつひくべからず、あいもつてぞくべき、これ(1)永劫えいごふ不易ふえきほふなり。

6我等われら此處ここ(2)ほろぶるものなり」と、(3)愚者ぐしやこれさとらず、ひとこれさとれば、それよりしてあらそひむ。

7 (4)淸淨觀しやうじやうくわんいだきてぢゆうし、(5)諸根しよこんせつすることなく、飮食おんじきおいりやうべんぜず、怠惰たいだにして、精勤しやうごんらざるもの魔王まわうかかひとうごかすこと、かぜよわを〔うごかす〕がごとし。

8 不淨觀ふじやうくわんいだきてぢゆうし、諸根しよこんせつし、飮食おんじきおいりやうべんじ、信心しんじんあり、精勤しやうごんなるもの、魔王まわうかかひとうごかすことなき、かぜ石山せきざんけるがごとし。

9 ひとにして煩惱ぼんなうなきものこそ、黃色わうじき衣服えぶくくべけれ、調御でうごなく、實語じつごなきもの、かれ黃衣わうえ相應ふさはしからず。

10 すでもろもろ(6)て、かい安住あんぢゆうし、調御でうごあり實語じつごあるもの、かれにこそ黃衣わうえ相應ふさはしけれ。

11 (7)非精ひせいいて(7)せいおもひをなし、せいうへ非精ひせいを見るもの、此等これら(8)邪思境じやしきやうひとは、〔つゐに〕せいることあらじ。

12 せいせいとしてり、非精ひせい非精ひせいとしてる、此等これら(8)正思境しやうしきやうひとこそ、せいたつするをべきなれ。

13 わるきたる屋舍をくしやは、あめこれをかすが如く、修練しゆれんせざるこころ愛欲あいよくこれをかす。

14 きたる屋舍をくしやは、あめこれをかすことなきがごとく、修練しゆれんしたるこころ愛欲あいよくこれをかすことなし。

15 此處ここうれひ、きたうれひ、あくすものは兩處りやうしようれふ、かれうれかれかなしむ、おのれけがれたるごふて。

16 此處ここよろこび、きたよろこび、ふくせるものは兩處りやうしよよろこぶ、かれよろこかれよろこぶ、おのれきよごふて。

17 此處ここくるしみ、きたくるしみ、あくすものは兩處りやうしよくるしむ、「われ惡業あくごふをかせり」とてくるしみ、惡趣あくしゆおちゐりて益益ますますくるしむ。

18 此處ここよろこび、きたよろこび、ふくせるものは兩處りやうしよよろこぶ、「われ福業ふくごふせり」とてよろこび、善趣ぜんしゆうまれて益益ますますよろこぶ。

19 (9)佛語ぶつご讀誦どくじゆすることおほしといへども、放逸はういつにしてこれおこなふことなくば、牧者ぼくしや他人たにんうしかぞふるがごとく、(10)沙門道しやもんだうおいところなし。

20 佛語ぶつご讀誦どくじゆすることすくなしといへども、正法しやうほふ隨法ずゐほふ行者ぎやうしやたり、とんしんまたとをて、正智しやうちあり、こころよく解脫げだつせるものは、ぢやくなくして、(11)沙門道しやもんだうたつすべし。

(1) 原語には「古」の意もあり、法句經註解書には「古の法、總ゆる佛、辟支佛、漏盡の聲聞の踏みたる道」と釋せり。 (2) Yamāmase 閻魔王の爲に服せらる、死に近く、死に行く、消え果つ等の意もあり、 (3) 原典にては「他」の字を用ひ、「智者を除きて他のもの」と釋す。 (4) 見聞し知覺する物體に對して莊美なり淸淨なり愛すべきものなり等の觀念を抱くを云ふ。 (5) 眼耳鼻舌身意の六根を制せず、此等諸根の門戶を護らざるを言ふ。 (6) 漏とは煩惱の謂なり。 (7) 「精」とは「精髓、中樞、要部」等の義なり、「非精」とは之に反して、緊要ならざる部分なり。 (8) 「邪思惟」又は「正思惟」を其の分別の「境界」、範圍とするの意なり。 (9) 原語には、有義、有利等の義あり、佛の說かれたる敎を言ふ。 (10) 「沙門道の分得者にあらず、」 (11) 涅槃に達するを言ふ。


精勤品しやうごんほんだい

21 精勤しやうごん不死ふしみちにして、放逸はういつみちなり、精勤しやうごんひとすることなく、放逸はういつひとせるがごとし。

22 賢者けんしや精勤しやうごんおい〔の〕をさとり、聖者しやうしやみちたのし精勤しやうごんよろこぶ。

23 禪思ぜんしあり、忍耐にんたいあり、つね勇健ゆうけんなる賢者けんしや無上むじやう安隱あんのん涅槃ねはん獲取くわくしゆす。

24 向上かうじやうあり、憶念おくねんあり、ごふきよく、〔ことを〕なすにこころもちひ、みづかせいし、みちによりてき、精勤しやうごんするもの、〔かくごとひとの〕ほまれ增長ぞうちやうす。

25 向上かうじやう精勤しやうごん自制じせい調伏てうぶくとをもつて、智者ちしや(1)暴流ばうるをかすことなきしうつくらんことを。

26 にしてなきともがら放逸はういつふけり、あるひと精勤しやうごんまもること、最上さいじやう珍寶ちんぽうごとくす。

27 放逸はういつふけることなかれ、欲樂よくらく愛著あいぢやくに〔ふけること〕なかれ、これ精勤しやうごんにして禪思ぜんしあるものは大安樂だいあんらくべければなり。

28 智者ちしや精勤しやうごんもつ放逸はういつはらときかれこころうれひなく、智慧ちゑ樓閣ろうかくのぼりて、うれひある衆生界しゆじやうかいを〔ること〕、山頂さんちやうてる賢者けんしやの、地上ちじやう愚者ぐしやるがごとし。

29 放逸はういつなかにありて精勤しやうごんし、ねむれるひとなかにありてめたる、かくごと智者ちしや快馬くわいば駑馬どばつるがごとくにしてすすむ。

30 精勤しやうごんによりて帝釋たいしやく諸天しよてんしゆとなれり、精勤しやうごんひとたたへられ、放逸はういつつねいやしめらる。

31 精勤しやうごんたのしみ、放逸はういつおそるべきをさとれる比丘びくは、ゆるごとくに、大小だいせう(2)纏結てんけつを〔つくし〕去る。

32 精勤しやうごんたのしみ、怠惰たいだおそるべきをさとれる比丘びくは、退墮たいだすることあたはずして、涅槃ねはんちかづく。

(1) 涅槃の境をいふ。 (2) 煩惱を云ふ、是れ煩惱は衆生の心を纏ひ結びて生死海に流轉せしむるが故なり。


心品しんほんだい

33 さわぎ、うごき、まもがたく、おさがたこころ智者ちしやこれむること、箭匠せんしやうを〔むるが〕ごとくす。

34 りくてられ、水中すゐちういへはなれたるうをごとく、こころさわぐ、(1)魔王まわう領土くにのがいでんがために。

35 おさふることかたく、輕躁きやうさうにして、隨處ずゐしよよくげんとする〔かくごとき〕こころするはなり、したるこころらくもたらす。

36 ることかたく、微妙みめうにして、隨處ずゐしよよくげんとする智者ちしやよ、〔かくごときの〕こころまもれ、まもりあるこころらくもたらす。

37 とほき、ひとうごき、かたちなくして、むねひそめる、〔かかる〕こころせいするものはばくよりのがれん。

38 こころ堅固けんごならず、妙法めうほふ了解れうげせず、信念しんねんさだまらざるひと智慧ちゑ成滿じやうまんすることなし。

39 こころ貪染とんぜんなく、こころ迷惑めいわくなく、善惡ぜんあく〔のおもひ〕をて、さとりたるひとには怖畏ふゐあることなし。

40 水甁すゐびやうたりとり、こころ(3)都城とじやうごとくにし、智慧ちゑ武器ぶきもつたたかひ、たるものはこれまもり、住止ぢゆうしすることなかれ。

41 げにひさしからずしてせん、てられ、意識いしきうしなひ、無用むようはしごとくなりて。

42 ぞくぞくたいし、てきてきたいして、これをなし、かれをなす、邪路じやろおちゐれるこころは、さらだいなるあくひとになす。

43 ははちち近親きんしんこれをなさず、正路しやうろてるこころさらおほいなるぜんひとになす。

(1) 生死海を云ふ。 (2) 堅く護るを云ふ。


華品けほんだい

44 大地だいちと、閻魔界えんまかいと、人天界にんでんかいとにつものはぞ、たれかれたる法句ほふくを〔あつむること〕、巧者げうしやはなあつむるかごとくなる。

45 (1)有學うがくひと大地だいちと、閻魔界えんまかいと、この人天界にんでんかいとにつ、有學者うがくしやかれたる法句ほふくを〔あつむること〕、巧者げうしやはなあつむるかごとくす。

46 水泡すゐはうたとふべきをり、陽炎かげろうしつなりとさとりて、天魔てんま華箭けせんやぶり、(2)死王不覩しわうふと〔の〕にかんことを。

47 はなつまみて、心愛著しんあいぢやくせるひとをば、死王しわうとらへてること、ねむれる村里そんりを、暴流ばうるただよはしるがごとし。

48 はなみて、心愛著しんあいぢやくし、諸欲しよよくくなきひとは、死王しわうこれふくす。

49 はちの、はなと、色香いろかとをそこなふことなく、あぢとらへてるが如く、おなじく智者ちしや村里そんり遊行ゆぎやうせよ。

50 他人たにん邪曲じやきよくを〔ず〕、他人たにん作不作さふさを〔おもはず〕、ただおのれ不作ふさとをよかし。

51 いとしく、いろはなの、にほひなきがごとく、かれたることばも、これおこなはざるものにはかうなし。

52 いとしく、いろはなの、加之しかもにほひあるがごとく、かれたることばは、これおこなふものにはかうあり。

53 華堆はなつみよりして、種種しゆじゆ華鬘けまんつくるがごとく、うまいでたる衆生しゆじやうには、すべき善業ぜんごふおほし。

54 華香けかうかぜさからうてかず、旃檀香せんだんかう多伽羅香たがらかう摩利迦香まつりかかうも〔またしかり〕、善人ぜんにんにほひかぜさからひてき、良士りやうし諸方しよはうかぜおくる。

55 旃檀香せんだんかうと、多伽羅香たがらかうと、鬱波羅香うつぱらかうと、婆師吉香ばしきつかうと、此等これら諸香しよかううちにて、戒香かいかうこそは最上さいじやうなれ。

56 多伽羅香たがらかう旃檀香せんだんかうごときは、かうりやうすくなし、戒德者かいとくしやかう諸天しよてんうちにてにほふことだい一なり。

57 此等これら戒德かいとくあり、精勤しやうごんにしてぢゆうし、さとりて、解脫げだつせるもののだうは、魔王まわうこれうかがらず。

58 59 大道だいだうに棄てられたる塵堆ちりづみうち其處そこ淨香じやうかうある、こころよき白蓮びやくれんしやうぜん、かくごとく、塵埃ぢんあいのうち、盲目まうもくなる凡夫ぼんぷのうちに、正徧覺者しやうへんかくしや弟子でしは、智慧ちゑもつひかまさる。

(1) 四向四果の中、最後の一果阿羅漢果を除き、前の四向三果の人を有學の人と云ふ、やがて阿羅漢となる人なり。 (2) 阿羅漢果を云ふ、是れ阿羅漢果を得れば、死王卽ち魔王を見ることなきが故なり。


闇愚品あんぐほんだい

60 目睲めざめたるものには、よるながく、つかれたるものには(1)由旬ゆじゆんとほく、正法しやうほふらざる、愚者ぐしや輪廻りんね


ひさしし。

61 旅者りよしやおのれまさり、〔おのれと〕ひとしき〔とも〕を得ずんば、必ず單行たんぎやうせよ、愚者ぐしやともたるものはあらず。

62われあり、われたからあり」とて、愚者ぐしやくるしむ、おのれおのれのものにあらず、いはんをや、いはんざいをや。

63 愚者ぐしやの〔みづから〕なりとおもへる、かれこれによりて賢者けんしやたり、愚者ぐしや賢者けんしやおもひせる、かれこそは愚者ぐしやはるれ。

64 愚者ぐしやしやうふるまで、賢者けんしや奉事ぶじすとも、ほふらざること、食匙しよくし羹味かうみを〔べんぜざる〕がごとし。

65 賢者けんしやは、假令たとへ瞬時じゆんじも、賢者けんしや奉事ぶじせば、はやほふること、した羹味かうみを〔べんずる〕がごとし。

66 無智むちなる愚者ぐしやおのれおのれてきなるがごと振舞ふるまふ、苦果くくわを〔しやうずべき〕罪業ざいごふおこなうて。

67 おこなうてのちひ、淚顏るゐがん啼哭ていこくして、果報くわはうくべきごふは、されたるにあらず。

68 おこなうてのちくいなく、歡喜くわんぎ悅豫えつよして、果報くわはうくべきごふは、されたるなり。

69 罪業ざいごふいまじゆくせざるあひだは、愚者ぐしやこれみつごとしとおもひ、罪業ざいごふじゆくするや、愚者ぐしやとき苦惱くなうく。

70 (2)〔なるぎやうじやは、つきつきに、かやはしにてしよくるとも、かかひと善法ぜんぼふ行者ぎやうじやの十六ぶんの一にもあたひせず。

71 をかしたる罪業ざいごふは、固結こけつせざることあたらしきちちごとく、〔しかも〕はひおほはれたるごとく、いぶりつつ、愚者ぐしや追隨つゐずゐす。

72 愚者ぐしや智慧ちゑおこること、不利ふりためなるうちは、これ愚者ぐしや好運かううんそんし、かうべくだく。

73愚者ぐしや〕はにせ名聞みやうもんねがひ、諸比丘しよびくなかにて上位じやうゐらんと〔のぞみ〕、いへにありてはしゆとなり、他族たぞくあひだには供養くやうを〔んとのぞむ〕。

74在家ざいけ出家しゆつけともに、われこれせりとおもへかし、すべすべきことすべからざることいて、みなめいけよかし」、これ愚者ぐしやこころにしてよくまんとは〔ために〕ぞうちやうす。

75 一は利養りやうみちびくものにして、一は涅槃ねはんくものなり、佛弟子ぶつでしたる比丘びくは、さとりて恭敬くぎやうよろこばず、遠離をんりのために修習しゆじふせよ。

(1) 由旬とは里程の名、四哩より十八哩に至り、諸說一定せず。 (2) 一筒月每に、茅草の端にかゝるほど少量の食を取るとも、其の功德は善く法を行ふ人の功德の十六分の一にも當らず。


賢哲品けんてつほんだい

76の〕とがし、しつむる智者ちしやかか賢者けんしやば、〔たからの〕在所ざいしよぐるひとごとくにつかへよ、かかひとつかふるものにはありて、あることなし。

77 いましめよ、をしへよ、不相應ふさうおうことよりとほざからしめよ、かれ善人ぜんにんにはあいせられ、惡人あくにんにはにくまれん。

78 惡友あくいうまじはるなかれ、卑劣ひれつともがらまじはるなかれ、善友ぜんいうまじはり、尊貴そんきまじはれ。

79 ほふよろこぶものはみたるこころもつこころよす、賢者けんしやつね聖者しやうじやけるほふたのしむ。

80 渠工きよこうみづみちびき、箭匠せんしやうむ、木工もくこうざいげ、賢者けんしやおのれ調ととのふ。

81くわい磐石ばんじやくの、かぜうごかされざるがごとく、賢者けんしや毀訾きし稱譽しようよとにうごかさるることなし。

82 そこふか池水ちすゐの、みて、にごりなきがごとく、賢者けんしやほふきてこころましむ。

83 善人ぜんにんは一切處さいしよに〔よくを〕て、良士りやうし(1)よくもとむるがためかたらず、らくれ、將又はたまたに〔れても〕、賢者けんしや(2)かはれるさうあらはすことなし。

84 ためにもためにも〔あくおこなはず〕、をもたからをもくにをも、これもとむることなく、非道ひだうによりて、おのれ利達りたつを求むることなし、これぞ德者とくしや智者ちしや義者ぎしやなる。

85 人閒にんげんなかにて、(3)彼岸ひがんいたるものはすくなく、のものは岸邊がんぺんにありて奔馳ほんちす。

86 かれたるほふ隨順ずいじゆんするともがらは、がた領土くにを〔えて〕きしいたらん。

87 88 賢者けんしや黑法こくほふてて、びやくほふ〕をしゆすべし、いへより〔はなれて〕、いへなきとなり、らく得難えがた遠離をんりところおいて、此處ここ賢者けんしや諸欲しよよくてて、我有がうなきなり、妙樂めうらくもとめ、もろもろ心穢しんゑより、おのれきよくすべし。

89 (4)正覺分しやうがくぶんおいて、こころ修習しゆじゆし、しふすることなくして、ぢやくすてつるをたのしむ、光輝くわうきある(5)漏盡者ろじんしやは、靜穩じゃうをんたるなり。

(1) 諸欲を求め、諸欲の爲に閑語を交ふることなし。 (2) 浮みたる顏、沈みたる顏をなすことなし。 (3) 彼岸とは涅槃を云ひ、此岸とは生死を云ふ。次偈の彼岸の意も同じ。 (4) 所謂七菩提分法なり。 (5) 漏盡者とは煩惱を盡したる人の意にて阿羅漢を云ふ。


阿羅漢品あらかんぼんだい

90 みちへ、一切處さいしよ離憂りう得脫とくだつせるもの、あらゆる纒結てんけつだんじたるものには執惱しゆなうあることなし。

91しやうねんある人は精勤しやうごんし、彼等かれら王家わうけ貪樂とんらくすることなし、〔鵞王がわう〕の池沼ちせうつるがごとく、彼等かれらまた各各おのおのいへつ。

92財物ざいもつ〕を蓄積ちくしやくすることなく、知覺ちかくしてじきけ、行處ぎやうしよくうにして、さうなく、しかして解脫げだつあり、そらとりの〔みちの〕ごとく、かかひとみちはかることはかたし。

93 煩惱ぼんなうことごとき、じきおいぢやくあることなし、行處ぎやうしよくうにして、さうなく、しかして解脫げだつあり、そらとりの〔あとの〕ごとく、かかひとあとはかることはかたし。

94 諸根しよこん寂靜じやくじやうせること、御士ごしらされたるうまごとく、まんて、煩惱ぼんなうつくしたる、かかひと諸天しよてんうらやところなり。

95 いからざること大地だいぢひとしく、よく禁戒きんかいまもりて門閾もんいきたとふべく、泥土でいどなきいけみずごとし、かかひとには輪廻りんねあるなし。

96 こころ寂靜じやくじやうなり、ことばごふまた寂靜じやくじやうなり、さとりて解脫げだつ安息あんそくたるひとの。

97 妄信まうしんなく、無爲むゐ〔のほふ〕をさとり、ばくやぶれるひと業緣ごふえんち、よくてたる、これぞまこと上上じやうじやうひとなる。

98 聚落じゆらくにても、森林しんりんにても、うみにても、をかにても、聖者しやうじやどどまるところ其處そこたのしき〔ところなる〕。

99 森居しんごたのしむべし、衆人しゆじんたのしまざるところ離貪りとんひとこれたのしむ、彼等かれら諸欲しよよくもとめざるなり。


千千品せんせんほんだい

100 意義いぎなき文句もんくことばは、〔すう〕一千なりとも、ひといてじやくべき有義うぎの一これよりまさる。

101 意義いぎなき文句もんくは、〔すう〕一千なりとも、ひといてじやくべき一偈句げくこれよりまさる。

102 意義いぎなき文句もんく一百〔しやう〕をじゆせんよりは、ひといてじやくべき一法句ほつく〔をじゆする〕ぞまされる。

103 戰場せんじやうおい千千せんせんてきつものよりは、ひとおのれつもの、かれこそ最上さいじやう戰勝者せんしようしやなれ。

104 105 おのれてるは、すべ人人ひとびとてるにまさる、てん乾闥婆けんだつばも、魔王まわうも、ならび梵天ぼんてんも、つねおのれみづかせいするひと勝利しようりてんじて、敗亡はいまうとなすことあたはず。

106 ひとつきつきに、千金せんきんを〔てて〕、いけにへきようすること百ねんしかしてまたじんおのれおさめたるものを供養くやうすること頃刻しばしならば、供養くやうこそ、の百ねん焚祀ぼんしまさりたれ。

107 ひと林閒りんかんにありて、火神くわじん奉事ぶじすること百ねんしかして一人いちにんおさめたるものを供養くやうすること頃刻しばしならば、供養くやうこそ、の百ねん焚祀ぼんしまさりたれ。

108 供犧くぎや、焚祀ぼんしや、福報ふくはうのぞめるもの、終歲しゆさいこれおこなふとも、すべの〔功德くどく直行ぢきぎやうひと敬禮きやうらいするの四ぶんの一にだもあたらず。

109 敬禮きやうらいもつならひとなし、つね上位じやうゐ尊重そんぢゆうせるひとには、四しゆほふ增長ぞうちやうじゆしきらくりきと。

110 ひとくること百ねんならんとも、汙戒をかいにしてぢやうなくんば、かいし、禪思ぜんしあるものの、一にちくるにかず。

111 ひとくること百ねんならんとも、劣慧れつゑにしてぢやうなくんば、し、禪思ぜんしあるものの、一にちくるにかず。

112 ひとくること百ねんならんとも、怠惰たいだにして精勤しやうごんらずんば、かた精勤しやうごんあるものの、一にちくるにかず。

113 ひとくること百ねんならんとも、(1)起滅きめつずんば起滅きめつひとの一にちくるにかず。

114 ひとくること百ねんならんとも、不滅ふめつみちずんば、不滅ふめつみちひとの一にちくるにかず。

115 ひとくること百ねんならんとも、無上むじやうほふずんば、無上むじやうほふる人の一にちくるにかず。

(1) 事物の生起滅盡、卽ち生滅を云ふ。


惡業品あくごふほんだい

116 善業ぜんごふにはいそぎておもむき、惡業あくごふよりはこころふせげ、福業ふくごふをなすにものうきものは、こころ惡業あくごふたのしむ。

117 ひと假令たとひ惡業あくごふすとも、再再さいさいこれすなかれ、作惡さあくよくおこさざれ、あくむはなり。

118 ひと善業ぜんごふさば、再再さいさいこれせ、作善さぜんよくおこせ、ぜんむはらくなり。

119 惡人あくにんも、あくいまじゆくせざるあひだは、ふくる、あくじゆくするにいたるや、惡人あくにんくわる。

120 善人ぜんにんも、ぜんいまじゆくせざるあひだは、くわる、ぜんじゆくするにいたるや、善人ぜんにんふくる。

121あくわれちかづくことかるべし」とて、これ輕視けいしすることなかれ、滴滴てきてきみづちて、水甁すゐびやう滿つるがごとく、愚者ぐしや少少せうせうづつあくみて、あく滿つるにいたる。

122ぜんわれちかづくことかるべし」とて、これ輕視けいしすることなかれ、滴滴てきてきみづちて、水甁すゐびやう滿つるがごとく、賢者けんしや少少せうせうづつぜんみて、ぜん滿つるにいたる。

123 貨財くわざいおほく、從伴じゆうばんすくな商估しやうこあやふみちを〔け〕、じゆのぞむものの、毒物どくぶつを〔くる〕がごとく、あくけよ。

124 瘡傷さうしやうなくば、もつどくをもることをどく瘡傷さうしやうなきものにはともなはず。さざるものにはあくなし。

125 ひと害心がいしんなきひと淸淨しやうじやうにして執着しふぢやくなきひとさからはば、わざはひ愚者ぐしやかへること、逆風ぎやくふうとうじたる細塵さいぢんごとし。

126 あるひ人胎じんたい宿やどるあり、つみあるものは地獄ぢごくつ、善行ぜんぎやうひとてんうまれ、煩惱ぼんなうなきひと涅槃ねはんいたる。

127 そらにありても、うみなかにありても、山閒さんかんくつりても、罪業ざいごふよりのがるべき、方所はうしよとてはあるなし。

128 そらにありても、うみなかにありても、山閒さんかんくつりても、たざる方所はうしよとてはあるなし。


刀杖品たうぢやうほんだい

129 すべて〔有情うじやう〕は刀杖たうぢやうおそれ、すべおそる、おのれたとへとして、〔を〕こぼつことなかれ、そこなふことなかれ。

130 すべて〔有情うじやう〕は刀杖たうぢやうおそれ、しやうすべてのもののあいする所、おのれたとへとして〔を〕こぼつことなかれ、そこなふことなかれ。

131 らくもとむる有情うじやうを、刀杖たうぢやうもつそこなふものは、おのれらくもとめても、後世ごせこれることなけん。

132 らくもとむる有情うじやうを、刀杖たうぢやうもつそこなはざるものは、おのれらくもとめて、後世ごせこれん。

133 何人なんびとにも麤語そごもちふることなかれ、けては〔かれまたなんぢかへさん、憤怒ふんぬことばなり、返杖へんぢやうなんぢ〔の〕にれん。

134 なんぢもくしてかたらざること、やぶれたるかねごとくならば、これ涅槃ねはんたつせるなり、なんぢ憤怒ふんぬある なし。

135 牧牛士ぼくごしつゑもつて〔せいし〕、うし牧場ぼくぢやうるがごとく、ひとしくらうとは有情うじやう壽命じゆみやうる。

136 愚者ぐしや罪業ざいごふをかしてさとらず、無智むちともがらおのれごふなやまさるること、かるるがごとし。

137 暴意ばういなく害心がいしんなきもののうちにありて、ばうくはふるものは、く十處中しよちうの一におちいる。

138 酷痛こくつう損失そんしつ形體ぎやうたい毀傷きしやう重症ぢゆうしやうひ、心散亂しんさんらんいたる。

139 王禍わうくわひ、きびしき誣吿ふこくかうむり、親族しんぞくほろび、家財かざい喪亡さうまうす。

140 あるひまたいへくことあり、形體ぎやうたいやぶれてのち無智むちなるかれ(1)泥犁ないりおちいる。

141 裸行らぎやうも、結鬘けつまんも、どろも、斷食だんじきも、露地臥ろぢぐわ塵垢ぢんくることも、不動坐ふどうざも、未離惑みりわく有情うじやうきようすることなし。

142 嚴飾ごんじきせりとも、平等びやうどうおこなひ、寂靜じやくじやう調順てうじゆん自制じせいあり、梵行ぼんぎやうおこなひ、一さい生類しやうるゐたいして(2)害意がいいいだかずば、かれ婆羅門ばらもんかれ沙門しやもんかれ比丘びくなり。

143 慚恥ざんちによりてせいせられて、〔の〕批難ひなんとせざること、良馬りやうばむちを〔とせざる〕がごとくなるもの、〔かくごときもの〕たれにありや。

144 むちにてたれたる良馬りやうばごとく、汝等なんぢらまた專心せんしん銳意えいいなれ、信心しんじん持戒ぢかい精勤しやうごん禪定ぜんぢやう正決斷しやうけつだんによりて、汝等なんぢらみやうぎやうとをし、正念しやうねんいうし、おほいなる苦惱くなうたん。

145 (3)渠工きよこうみづみちびき、箭匠せんしやうむ、木工もくこうざいげ、賢者けんしやおのれ調ととのふ。

(1) 地獄を云ふ。 (2) 原意は刀杖を措く。 (3) 第八〇偈に同じ。


老衰品らうすゐほんだい十一

146は〕つねに〔慾火よくくわに〕かるるに、なんわらひぞ、何の歡喜くわんぎぞ、〔汝等なんぢらは〕黑闇こくあんおほはるるに、何故なにゆゑに〔くわもとめざる。

147 かざれる〔の〕形體ぎやうたいよ、合會がうゑしてれる腐壞物ふゑぶつくわい衆病しゆびやうえうし、種種しゆじゆ測量しきりやうし、堅實けんじつなく、安住あんぢゆうなきなり。

148 形色ぎやうしき老朽らうきうし、衆病しゆびやう樓所せいしよたり、やぶるべきものなり、臭穢しうゑそんすべく、みやうをはる。

149 あきてられたる葫蘆ころごとき、此等これら灰白くわいびやく骨行こつぎやうて、なん喜樂きらくぞ。

150 骨行こつぎやう都市として、にくとにまびれり、此處ここらうと、と、まんと、ふくとをかくす。

151 かざりたる王車わうしやふるび、身體しんたいらういたる、賢人けんじんほふゆることなし、賢人けんじんは、賢人けんじんほふつたふるなり。

152 寡聞くわうもんひと犢牛とくごごとゆ、かれ肉身にくしんせども、かれ智慧ちゑくははるることなし。

153 154 (1)屋舍をくしや工人かうじんもとめて、これいださず、多生輪廻界たしやうりんねかい奔馳ほんちして、うた生死しやうじたり。

屋工をくかうなんぢいま看出まみいださる、ふたたいへを構ふることあらじ、なんぢ桷材かくざいすべやぶられ、棟梁とうりやうこぼたる、めついたれるこころ諸愛しよあい滅盡めつじんたつせり。

155 壯時さうじ梵行ぼんぎやうしゆせず、財寶ざいはうずして、うをまざるいけなかなる老鴻らうこうごとくにほろぶ。

156 壯時さうじ梵行ぼんぎやうしゆせず、財寶ざいはうずして、ちたるゆみごとく、過去かこかこちてせり。

(1) 渴愛を指す、是れ渴愛は生死輪廻の因なるが故なり、此の一五三、一五四の兩偈は佛大覺の後、初めて唱へられしものなりと傅ふ。


自己品じこほんだい十二

157 おのれあいすべしとらば、これ保護ほごせよ、〔人生じんせい〕三の一において、賢者けんしやよろしく醒悟せいごすべきなり。

158 おのれただしきくらゐて、しかしてをしへなば、賢者けんしやらうするところあらじ。

159 おのれしよすること、をしふるがごとくならば、おのれせいして、せいするをん、そはおのれせいがたきがゆゑなり。

160 おのれこそおのれ依所えしよなれ、何物なにもの依所えしよたるあらん、おのれせいするときは、得難えがた依所えしよべし。

161 みつかつくりたる罪業ざいごふは、おのれしやうじ、おのれいでたるもの、愚人ぐじんそこなふこと、金剛石こんがうせき摩尼まにを〔る〕がごとし。

162 汙戒をかいはなはだしきひとしよして、敵者てきしやのぞむがごとくすること、蔓草まんさうおほへるじゆけるがごとし。

163 不善ふぜんにして、おのれ不利ふりなることやすく、ことありてぜんなる、きはめてがたし。

164 應供者おうぐしや聖者しやうじやみちによりてくるひとをしへを、邪惡じやあくけんりてそしひとは、(1)葦草ゐさうくわの、おのれほろぼすためにみのるがごとし。

165 みづかあくせばみづかけがれ、みづかあくさざればみづかきよし、じやう不淨ふじやうともおのれにあり、みづかきよくすることあたはず。

166 他人たにんつとめだいなりとも、ためおのれつとめわするることなかれ、おのれつとめべんしてのちおのれつとめ專心せんしんなるべし。

(1) 葦は花を著け實を結べば自ら死するなり。


世閒品せけんほんだい十三

167 いやしほふほうぜざれ、放逸はういつともまざれ、邪見じやけんしたがはざれ、世事せじ增長ぞうちやうせしめざれ。

168 て、放逸はういつなるなかれ、善行ぜんぎやうほふしゆせよ、隨法行ずゐほふぎやうひとたのしす、今世こんせにも來世らいせにも。

169 善行ぜんぎやうほふしゆして、惡行あくぎやう〔のほふ〕をしゆせざれ、隨法行ずゐほふぎやうひとたのしす、今世こんせにも來世らいせにも。

170 泡沫はうまつごとくによ、陽炎かげろうごとくによ、かくごと世界せかいるものは、死王しわうこれることあたはず。

171 かざりありて、王車わうしやたる世界せかいきたよ、愚者ぐしやこれまよへども、智者ちしやこれぢやくすることなし。

172 さきおこたりて、のちおこたらざるもの、かれ世界せかいてらすこと、くもはなれたるつきごとし。

173 ひとしたる惡業あくごふのちぜんめにおほはるれば、ひとてらすこと、くもはなれたるつきごとし。

174 世界せかいは、暗黑あんこくにして、觀察くわんさつ〔のりき〕あるものは、すくなし、あみはなれたるとりごとくに、てんのぼるものはすくなし。

175 鴻雁こうがんみちき、神力じんりきあるものはそらく、賢者けんしやは、魔王まわう眷屬けんぞくとをあはやぶりて、離脫りだつするなり。

176 ゆゐ一のほふえ、妄語まうごひと來世らいせ等閑とうかんおもへるものは、つみとしてをかさざるなし。

177 慈念じねんなきともがら天界てんかいらず、愚人ぐにん施與せよ稱揚しようやうすることなし、賢者けんしや施與せよ隨喜ずゐきし、これによりてかれ來世らいせおい安樂あんらくなり。

178 世界せかいを一わう國土こくどとなし、あるひ天界てんかいおもむき、あらゆる世界せかいしゆとなる、預流果よるくわいづれにもまさる。