国際紛争平和的処理条約


獨逸皇帝普魯西國皇帝陛下、亞米利加合衆國大統領、亞爾然丁共和國大統領、墺地利國皇帝「ボヘミヤ」國皇帝洪牙利國皇帝陛下、白耳義國皇帝陛下、「ボリヴィア」共和國大統領、伯剌西爾合衆國大統領、勃爾牙利國公殿下、智利共和國大統領、淸國皇帝陛下、格倫比亞共和國大統領、玖馬共和國臨時總督、丁抹國皇帝陛下、「ドミニカ」共和國大統領、「エクァドル」共和國大統領、西班牙國皇帝陛下、佛蘭西共和國大統領、大不列顚愛蘭聯合王國大不列顚海外領土皇帝印度皇帝陛下、希臘國皇帝陛下、「グヮテマラ」共和國大統領、「ハイチ」共和國大統領、伊太利國皇帝陛下、日本國皇帝陛下、盧森堡國大公「ナッソー」公殿下、墨西哥合衆國大統領、「モンテネグロ」國公殿下、諾威國皇帝陛下、巴奈馬共和國大統領、「パラグェー」共和國大統領、和蘭國皇帝陛下、祕露共和國大統領、波斯國皇帝陛下、葡萄牙國及「アルガルヴ」皇帝陛下、羅馬尼亞國皇帝陛下、全露西亞國皇帝陛下、「サルヴァドル」共和國大統領、塞爾比亞國皇帝陛下、暹羅國皇帝陛下、瑞典國皇帝陛下、瑞西聯邦政府、土耳其國皇帝陛下、東「ウルグェー」共和國大統領、「ヴェネズエラ」合衆國大統領ハ一般平和ノ維持ニ協力スルノ堅實ナル意思ヲ有シ全力ヲ竭シテ國際紛爭ノ友好的處理ヲ幇助スルニ決シ文明國團ノ各員ヲ結合スル連帶責務ヲ認識シ法ノ領域ヲ擴張スルト共ニ國際的正義ノ感ヲ鞏固ナラシメムコトヲ欲シ諸獨立國ノ間ニ於ケル各國ノ賴ルヲ得ヘキ仲裁裁判ノ常設制度カ右ノ目的ヲ達スルニ有效ナルヘキヲ確信シ仲裁裁判手續ニ關スル一般且正則ナル組織ノ有益ナルコトヲ考慮シ萬國平和會議ノ至尊ナル發議者ト共ニ國安民福ノ基礎タル公平正理ノ原則ヲ國際的合意ニ依リテ定立スルノ須要ナルヲ認メ之カ爲審査委員會及仲裁裁判部ノ實地ノ運用ヲ一層確實ニ保障シ且簡易ナル手續ニ依リ得ヘキ性質ノ紛爭ヲ仲裁裁判ニ付スルコトヲ容易ナラシメムコトヲ希望シ國際紛爭平和的處理ニ關スル第一囘平和會議ノ事業ニ若干ノ修正ヲ加ヘ且之ヲ增補スルヲ必要ト認メタリ締約國ハ之カ爲新ナル條約ヲ締結スルニ決シ各左ノ全權委員ヲ任命セリ

 〔全權委員名省略〕

因テ各全權委員ハ、其ノ良好妥當ナリト認メラレタル委任狀ヲ寄託シタル後、左ノ條項ヲ協定セリ


第一章
一般平和ノ維持

第一條 國家間ノ關係ニ於テ兵力ニ訴フルコトヲ成ルヘク豫防セムカ爲、締約國ハ、國際紛爭ノ平和的處理ヲ確保スルニ付、其ノ全力ヲ竭サムコトヲ約定ス。

第二章
周旋及居中調停

第二條 締約國ハ、重大ナル意見ノ衝突又ハ紛爭ヲ生シタル場合ニ於テ兵力ニ訴フルニ先チ事情ノ許ス限其ノ交親國中ノ一國又ハ數國ノ周旋又ハ居中調停ニ依賴スルコトヲ約定ス

第三條 締約國ハ右依賴ニ關係ナク紛爭以外ニ立ツ一國又ハ數國カ事情ノ許ス限自己ノ發意ヲ以テ周旋又ハ居中調停ヲ紛爭國ニ提供スルコトヲ有益ニシテ且希望スヘキコトト認ム
紛爭以外ニ立ツ國ハ、交戰中ト雖、其ノ周旋又ハ居中調停ヲ提供スルノ權利ヲ有ス。
紛爭國ハ右權利ノ行使ヲ友誼ニ戾レルモノト看做スコトヲ得ス。

第四條 居中調停者ノ本分ハ、紛爭國ノ主張ヲ調停シ、且其ノ間ニ惡感情ヲ生シタルトキ之ヲ融和スルニ在ルモノトス。

第五條 居中調停者ノ職務ハ、其ノ提供シタル調停方法ノ受諾セラレサルコトヲ紛爭當事者ノ一方又ハ居中調停者ニ於テ認メタル時終了スルモノトス

第六條 周旋及居中調停ハ紛爭國ノ依賴ニ因ルト紛爭以外ニ立ツ國ノ發意ニ出ツルトヲ問ハス全ク勸吿ノ性質ヲ有スルニ止リ決シテ拘束力ヲ有スルコトナシ

第七條 居中調停ノ受諾ハ反對ノ約定アルニ非サレハ之カ爲動員其ノ他戰爭ノ準備ヲ中止シ遲延シ又ハ阻害スルノ結果ヲ生スルコトナシ。
開戰ノ後右ノ受諾アリタルトキハ反對ノ約定アルニ非サレハ之カ爲進行中ノ軍事的行動ヲ中止スルコトナシ。

第八條 締約國ハ事情ノ許ス限左ノ手續ニ依ル特別居中調停ノ適用ヲ慫慂スルコトニ一致スル平和ヲ破ルノ虞アル重大ナル紛爭ヲ生シタル場合ニ於テハ紛爭國ハ平和關係ノ斷絕ヲ豫防スル爲各一國ヲ選定シ他方ノ選定シタル國ト直接ノ交涉ヲ開クノ任務ヲ委託ス右委任ノ期間ハ反對ノ規定アルニ非サレハ三十日ヲ超エサルモノトシ其ノ期間中紛爭國ハ紛爭事件ヲ居中調停國ニ一任シタルモノト看做シ之ニ關スル一切ノ直接交涉ヲ中止ス。右居中調停國ハ紛爭ヲ處理スルニ全力ヲ竭スヘキモノトス
平和關係ノ現實ニ斷絕シタル場合ニ於テ右居中調停國ハ尙平和ヲ回復スルノ機會アル每ニ之ヲ利用スルノ共同任務ヲ負フモノトス

第三章
國際審査委員會

第九條 締約國ハ、名譽又ハ重要ナル利益ニ關係セス、單ニ事實上ノ見解ノ異ナルヨリ生シタル國際紛爭ニ關シ、外交上ノ手段ニ依リ妥協ヲ遂クルコト能ハサリシ當事者カ事情ノ許ス限國際審査委員會ヲ設ケ、之ヲ公平誠實ナル審理ニ依リテ事實問題ヲ明ニシ、右紛爭ノ解決ヲ容易ニスルノ任ニ當ラシムヲ以テ、有益ニシテ且希望スヘキコトト認ム。

第一〇條 國際審査委員會ハ、紛爭當事者間ノ特別條約ヲ以テ之ヲ構成ス。
審査條約ハ、審理スヘキ事實ヲ明定シ、委員會組織ノ方法及期限並委員ノ權限ヲ定ム。
審査條約ハ、又場合ニ依リ委員會ノ開會地及之ヲ變更スルノ權能、委員會ノ使用スヘキ國語及委員會ニ於テ使用スルコトヲ許スヘキ國語、各當事者カ事實ノ說明書ヲ提出スヘキ期日其ノ他當事者間ニ約定セル一切ノ條件ヲ定ム。
當事者カ補助委員ノ任命ヲ必要ト認ムルトキハ、審査條約ヲ以テ其ノ任命方法及權限ヲ定ム。

第一一條 審査條約ヲ以テ委員會ノ開會地ヲ指定セサリシトキハ、海牙ニ於テ開會スルモノトス。
審査委員會ハ、當事者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ、一旦定メタル開會地ヲ變更スルコトヲ得ス。
審査條約ヲ以テ使用スヘキ國語ヲ定メサリシトキハ、委員會之ヲ定ム。

第一二條 審査委員會ハ、反對ノ規定アルニ非サレハ、本條第四十五條及第五十七條ニ定メタル方法ニ依リ之ヲ組織スルモノトス。

第一三條 委員ノ一人又ハ補助委員アル場合ニ於テ、其ノ一人死亡シ辭任シ又ハ原因ノ如何ニ拘ラス支障アルトキハ、其ノ任命ノ爲ニ定メタル方法ニ依リ之ヲ補闕ス。

第一四條 當事者ハ、自己ヲ代表シ且自己ト審査委員會トノ間ノ媒介者タルヘキ特別代理人ヲ審査委員會ニ簡派スルコトヲ得。
當事者ハ又、顧問ハ弁護人ヲ任命シテ、委員會ニ於テ自己ノ利益ヲ開陳弁護士セシムルコトヲ得。

第一五條 常設仲裁裁判所國際事務局ハ、之ヲ海牙ニ開會スル委員會ノ書記局ニ充テ、且其ノ廳舍及施設ヲ審査委員會執務ノ爲締約國ノ用ニ供スヘシ。

第一六條 委員會ハ、海牙以外ノ地ニ開會スルトキハ、書記官長一人ヲ任命シ、其ノ事務所ヲ以テ委員會ノ書記局ニ充ツ。
書記局ハ、委員長ノ指揮ノ下ニ委員會會場ノ設備、調書ノ作成及審査繼續中ノ保管ヲ掌リ、記錄ハ、後之ヲ海牙國際事務局ニ引渡スヘキモノトス。

第一七條 締約國ハ、審査委員會ノ設置及執務ヲ容易ナラシムル爲、當事者ニ於テ別段ノ規則ヲ採用セサル限、左ノ規定ヲ審査手續ニ適用スルコトヲ慫慂ス。

第一八條 委員會ハ、特別審査條約又ハ條約中ニ規定セサル手續ノ細目ヲ定メ、且證據調ニ關スル一切ノ手續ヲ行フ。

第一九條 審査ハ、對審ノ上之ヲ行フ。
各當事者ハ、豫定ノ期日ニ於テ場合ニ依リ事實ノ說明書及如何ナル場合ニ於テモ事實ノ眞相ヲ示スニ有益ナリト認メタル證書、文書其ノ他ノ書類並陳述ヲ爲サシメムト欲スル證人及鑑定人ノ名簿ヲ委員會及他ノ當事者ニ送付スヘシ。

第二〇條 委員會ハ、當事者ノ承諾ヲ得タル上、取調ノ爲有益ナリト認メタル地ニ一時移轉シ、又ハ一人若ハ數人ノ委員ヲ同地ニ派遣スルコトヲ得。但シ右取調ヲ爲スヘキ地ノ所屬國ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス。

第二一條 一切ノ事實上ノ檢證及實地ノ臨檢ハ、當事者ノ代理人及顧問出席ノ上又ハ之ニ對シ正式ニ呼出ヲ爲シタル後之ヲ行フコトヲ要ス。

第二二條 委員會ハ、有益ナリト認ムル說明文又ハ報吿ヲ一方又ハ他方ノ當事者ニ請求スルコトヲ得。

第二三條 當事者ハ、係爭事實ヲ完全ニ知悉シ且精確ニ會得スルニ必要ナル一切ノ方法及便宜ヲ其ノ爲シ得ヘシト認ムル限充分ニ審査委員會ニ提供スルヘキモノトス。
當事者ハ、委員會ノ呼出ヲ受ケタル自國領土ニ在ル證人又ハ鑑定人ノ出頭ヲ保障スル爲、國內法規ニ依リ爲シ得ル手段ヲ盡スヘキモノトス。
證人又ハ鑑定人ニシテ委員會ニ出頭スルコト能ハサルトキハ、當事者ハ、其ノ當該官權ヲシテ之カ訊問ヲ爲サシムヘシ。

第二四條 委員會カ締約國タル第三國ノ領土ニ於テ爲スコトアルヘキ一切ノ通吿ハ、委員會ヨリ直接ニ該當國政府ニ宛テ之ヲ爲スヘシ。實地ニ就キ一切ノ證據蒐集手續ヲ行フトキ亦問シ。
右請求ヲ受ケタル國ハ、其ノ國內法規ニ遵ヒ爲シ得ヘキ方法ニ依リ其ノ請求ヲ履行スヘク、且其ノ主權又ハ安寧ニ害アリト認ムル場合ヲ除クノ外之ヲ拒ムコトヲ得ス。
委員會ハ、又常ニ其ノ開會地ノ所屬國ノ媒介ニ依賴スルコトヲ得。

第二五條 證人及鑑定人ノ呼出ハ、當事者ノ請求ニ依リ又ハ職權ヲ以テ委員會之ヲ爲シ、且如何ナル場合ニ於テモ證人及鑑定人所在地ノ所屬國政府ノ媒介ニ依ルモノトス。
證人ノ尋問ハ、委員會ノ定ムル順序ニ從ヒ、代理人及顧問出席ノ上順次各別ニ之ヲ行フ。

第二六條 證人ノ訊問ハ、委員會之ヲ行フ。
委員會ノ委員ハ、各證人ニ對シ、其ノ供述ヲ明瞭ナラシメ若ハ之ヲ補充スル爲、又ハ事實ノ眞相ヲ明ニスルニ必要ナル程度ニ於テ證人ニ關係アル一切ノ事項ヲ取調フル爲、適當ナリト認ムル質問ヲ爲スコトヲ得。
當事者ノ代理人及顧問ハ、證人ノ供述ヲ中斷シ又ハ證人ニ直接ノ質問ヲ爲スコトヲ得ス。但シ、其ノ有益ナリト認ムル補足的質問ヲ證人ニ對シ、爲サムコトヲ委員長ニ請求スルコトヲ得。

第二七條 證人ハ、供述ヲ爲スニ當リ何等ノ文案ヲモ朗讀スルコトヲ得ス。但シ、報吿スヘキ事實ノ性質上覺書又ハ文書ヲ用ヰルコトヲ必要トスルトキハ、委員長ノ許可ヲ得テ之ヲ使用スルコトヲ得。

第二八條 證人供述ノ調書ハ、即時ニ之ヲ作成シ、證人ニ讀聞カスヘシ。證人ハ之ニ對シ所要ノ變更又ハ追加ヲ爲スコトヲ得。右變更及追加ハ、之ヲ供述ノ次ニ記載ス。
供述ノ全部ヲ讀聞カセタル後ハ、證人ヲシテ署名ヲ爲サムヘシ。

第二九條 代理人ハ、審査ノ進行中又ハ其ノ終ニ於テ、事實ノ眞相ヲ知ル爲、有益ナリト認ムル言明、請求又ハ事實ノ要領ヲ書面ヲ以テ委員會及相手方ニ提出スルコトヲ得。

第三〇條 委員會ノ評議ハ、祕密會ニ於テ之ヲ行ヒ、且之ヲ祕密ニ付ス。一切ノ決定ハ、委員會ノ多數決ニ依ル。委員中投票ニ加ルコトヲ拒ム者アルトキハ、其ノ旨調書ニ記載スヘシ。

第三一條 委員會ハ、公開セス、且審査ニ關スル調書其ノ他文書ハ、當事者ノ同意ヲ得テ爲シタル委員會ノ決定ニ依ル。

第三二條 當事者ヨリ一切ノ說明及證據ヲ提出シ、各證人ノ訊問終了シタルトキハ、委員長ハ、審査ノ終結ヲ宣吿シ、委員會ハ、評議及報吿書調整ノ爲停會ス。

第三三條 委員會ノ各委員ハ、報吿書ニ署名ス。
委員中署名ヲ拒ム者アルトキハ、其ノ旨ヲ記載ス。但シ報吿書ハ、之ニ拘ラス有効トス。

第三四條 委員會ノ報吿書ハ、當事者ノ代理人及顧問出席ノ上又ハ之ニ對シ正式ニ呼出ヲ爲シタル後、公開廷ニ於テ之ヲ朗讀ス。
各當事者ニ報吿書ノ謄本ヲ交付ス。

第三五條 委員會ノ報吿書ハ、單ニ事實ノ認定ニ止リ、仲裁判決ノ性質ヲ有スルコトナシ。右認定ニ對シ如何ナル結果ヲ付スヘキヤハ、全ク當事者ノ自由タルヘシ。

第三六條 當事者ハ、各自ノ費用ヲ負擔シ、且委員會ノ費用ヲ均等ニ分擔ス。


第四章
國際仲裁裁判

第一節 仲裁裁判

第三七條 國際仲裁裁判ハ、國家間ノ紛爭ヲ其ノ選定シタル裁判官ヲシテ法ノ尊重ヲ基礎トシ處理セシムルコトヲ目的トス。
仲裁裁判ニ依賴スルコトハ、誠實ニ其ノ判決ニ服從スルノ約定ヲ包含ス。

第三八條 締約國ハ法律問題就中國際條約ノ解釋又ハ適用ノ問題ニ關シ、外交上ノ手段ニ依リ解決スルコト能ハサリシ紛爭ヲ處理スルニハ、仲裁裁判ヲ以テ最有効ニシテ且最公平ナル方法ナリト認ム。
故ニ前記ノ問題ニ關スル紛爭ヲ生シタルトキハ、締約國ニ於テ、事情ノ許ス限、仲裁裁判ニ依賴セムコトヲ希望ス。

第三九條 仲裁裁判條約ハ、既ニ生シタル又ハ將來生スルコトアルヘキ紛爭ノ爲ニ之ヲ締結ス。
仲裁裁判條約ハ、總テノ紛爭又ハ特種ノ紛爭ノミニ關スルコトヲ得。

第四〇條 締約國間ニ仲裁裁判ニ依賴スヘキ義務ヲ現ニ規定シタル總括的又ハ特別的條約ノ有無ニ拘ラス、締約國ハ、仲裁裁判ニ付スルコトヲ得ヘシト認ムル一切ノ場合ニ、義務的仲裁裁判ヲ普及セシメムカ爲、總括的又ハ特別的新協定ヲ締結スヘキコトヲ留保ス。

第二節 常設仲裁裁判所

第四一條 締約國ハ、外交上ノ手段ニ依リテ處理スルコト能ハサリシ國際紛爭ヲ直ニ仲裁裁判ニ付スルヲ容易ナラシムルノ目的ヲ以テ、何時タリトモ依賴スルコトヲ得ヘク且當事者間ニ反對ノ規約ナキ限本條約ニ揭ケタル手續ニ依リテ其ノ職務ヲ行フヘキ常設仲裁裁判所ヲ第一回平和會議ニ依リ設置セラレタル儘維持スルコトヲ約定ス。

第四二條 常設裁判所ハ、特別裁判ヲ開クコトニ付、當事者間ニ協定アル場合ヲ除クノ外、一切ノ仲裁事件ヲ管轄スルモノトス。

第四三條 常設事務局ハ、之ヲ海牙ニ置ク。
國際事務局ハ、之ヲ裁判所書記局ニ充テ、裁判開廷ニ關スル通信ヲ媒介シ、記錄ヲ保管シ、及一切ノ事務ヲ處理ス。
締約國ハ、其ノ相互間ニ定メタル仲裁裁判ニ關スル一切ノ約款及自國ニ關シ特別裁判ニ於テ爲シタル一切ノ仲裁判決ノ認證謄本ヲ成ルヘク速ニ事務局ニ送付スルコトヲ約定ス。 締約國ハ、又裁判所ノ下シタル判決ノ執行ヲ證スルニ足ルヘキ法律、規則及文書ヲ事務局ニ送付スルコトヲ約定ス。

第四四條 各締約國ハ、國際法上ノ問題ニ堪能ノ名アリテ德望高ク且仲裁裁判官ノ任務ヲ受諾スルノ意アル者四人以下ヲ任命ス。
前項ニ依リ任命セラレタル者ハ、裁判所裁判官トシテ名簿ニ記入シ、右名簿ハ、事務局ヨリ之ヲ各締約國ニ通吿スヘシ。
事務局ハ、仲裁裁判官ノ名簿ニ變更アル每ニ之ヲ締約國ニ通吿ス。二國又ハ數國ハ協議ノ上一人又ハ數人ノ裁判官ヲ共同ニ任命スルコトヲ得。
同一人ハ、數國ヨリ任命セラルルコトヲ得。
裁判所裁判官ノ任期ハ、六年トス。但シ、再任セラルルコトヲ得。
裁判所裁判官中死亡又ハ退職シタル者アルトキハ、其ノ任命ノ爲ニ定メタル方法ニ依リ、更ニ六年ヲ任期トシテ之カ補闕ヲ行フ。

第四五條 締約國カ其ノ相互間ニ生シタル紛爭ヲ處理セムカ爲常設裁判所ニ訴ヘムト欲スル場合ニ於テ、其ノ紛爭ヲ判定スルニ付當該裁判部ヲ組織スヘキ仲裁裁判官ノ選定ハ、裁判所裁判官ノ總名簿ニ就キテ之ヲ爲スコトヲ要ス。
仲裁裁判部ノ構成ニ付、當事者ノ合意ナキ場合ニ於テハ、左ノ方法ニ依ル。
當事者ハ、各自二人ノ仲裁裁判官ヲ指定スヘシ。其ノ內一人ニ限リ、自國民又ハ自國カ常設裁判所裁判官トシテ任命シタル者ノ中ヨリ之ヲ選定スルコトヲ得。右仲裁裁判官ハ、合同シテ一人上級仲裁裁判官ヲ選定ス。
投票相半シタル場合ニ於テハ、當事者ノ協議ヲ以テ指定シタル第三國ニ上級仲裁裁判官ノ選定ヲ委託ス。
右指定ニ關スル合意成立セサルトキハ、當事者ハ、各自異ナル一國ヲ指定シ、其ノ指定セラレタル國ハ、協議ヲ以テ上級仲裁裁判官ヲ選定ス。
二月ノ期間內ニ、右兩國間ニ合意成立シ能ハサルトキハ、兩國ハ、常設裁判所裁判官名簿ニ就キ當事者ノ指定シタル裁判官ニ非ス且當事者ノ孰レノ國民ニモ非サル者ノ中ヨリ各二人ノ候補者ヲ出シ、抽籤ヲ以テ該候補者中上級仲裁裁判官タルヘキ者ヲ定ム。

第四六條 裁判部構成セラレタルトキハ、當事者ハ、直ニ裁判所ニ訴フルノ決意、仲裁契約ノ正文及仲裁裁判官ノ氏名ヲ事務局ニ通吿スヘシ。
事務局ハ遲滯ナク各仲裁裁判官ニ對シ仲裁契約及其ノ裁判部ノ他ノ裁判官ノ氏名ヲ通知スヘシ。
裁判部裁判官ハ、其ノ職務ノ執行ニ關シ、自國以外ニ於テ外交官ノ特權及免除ヲ享有ス。

第四七條 事務局ハ、仲裁裁判ニ關スル一切ノ特別裁判ニ訴フルコトヲ約定シタルトキハ、規則ニ定メタル條件ニ從ヒ、之ヲ非締約國間又ハ締約國ト非締約國トノ間ニ存スル紛爭ニ及ホスコトヲ得。

第四八條 締約國ハ、其ノ二國又ハ數國ノ間ニ激烈ナル紛爭ノ起ラムトスル場合ニ於テハ、常設仲裁裁判所ニ訴フルノ途アルコトヲ之ニ注意スルヲ以テ其ノ義務ナリト認ム。
故ニ締約國ハ、紛爭當事者ニ對シ本條約ノ規定アルコトヲ注意シ、且平和ノ重要ナル利益ノ爲常設裁判所ニ訴フルヘキコトヲ勸吿スルハ、全ク周旋ノ行爲ニ外ナラサルモノト認ムヘキコトヲ宣言ス。兩國間ニ紛爭ヲ生シタル場合ニ於テハ、其ノ一方ハ、何時ニテモ國際事務局ニ宛テ該紛爭ヲ仲裁裁判ニ付スルノ意向アル旨ノ宣言ヲ含ム文書ヲ送ルコトヲ得。
事務局ハ、直ニ右宣言ヲ他ノ一方ニ通知スルコトヲ要ス。

第四九條 常設評議會ハ、和蘭國ニ駐箚スル締約國ノ外交代表者及和蘭國外務大臣ヲ以テ組織シ、國際事務局ヲ指揮監督ス。和蘭國外務大臣ハ、議長ノ職務ヲ行フ。
評議會ハ、庶務規程其ノ他必要ナル諸規則ヲ定ム。
評議會ハ、裁判所ノ職務ニ關シテ生スルコトアルヘキ事務上ノ一切ノ問題ヲ決定ス。
評議會ハ、事務局ノ役員及雇員ノ任命、停職及罷免ニ關スル全權ヲ有ス。
評議會ハ俸給及手當ヲ定メ、且全般ノ支出ヲ監督ス。
評議會ハ、正式ニ召集セラレタル會合ニ於テ九人以上ノ出席者アルトキハ、有効ノ評議ヲ爲スコトヲ得。決議ハ、多數決ニ依ル。
評議會ハ、其ノ採用シタル諸規則ヲ遲滯ナク締約國ニ通知シ、每年裁判所ノ事業、事務ノ執行及支出ニ關スル報吿書ヲ締約國ニ提出ス。
報吿書中ニハ又本條約第四十三條第三項及第四項ニ基キ各國ヨリ事務局ニ送付スル書類中重要事項ノ要領ヲ揭クヘシ。

第五〇條 事務局ノ費用ハ、萬國郵便聯合總理局ノ爲ニ定メタル比例ニ依リ、締約國之ヲ負擔ス。
加盟國ノ負擔スヘキ費用ハ、其ノ加盟カ効力ヲ生スル日ヨリ之ヲ計算ス。

第三節 仲裁裁判所

第五一條 仲裁裁判ノ發達ヲ助クルノ目的ヲ以テ、締約國ハ、當事者カ別段ノ規則ヲ協定セサリシ場合ニ於テ仲裁裁判手續ニ適用スヘキ左ノ仲裁規則ヲ定ム。

第五二條 仲裁裁判ニ依賴スル諸國ハ、其ノ紛爭ノ目的、仲裁裁判官ヲ指定スヘキ期間、第六十三條ノ送達ヲ爲スヘキ方式、順序及期間並各當事者カ費用ノ豫納金トシテ寄託スヘキ金額ヲ定メタル仲裁契約ニ記名ス。
仲裁契約ハ、又必要ニ應シ仲裁裁判官指定ノ方法、裁判部ノ有スルコトアルヘキ一切ノ特別權能、其ノ開廷地、其ノ使用スヘキ國語及裁判部ニ於テ使用スルコトヲ許スヘキ國語、其ノ他當事者間ニ約定セル一切ノ條件ヲ定ム。

第五三條 常設裁判所ハ、當事者カ仲裁契約ノ作成ヲ該裁判所ニ委託スルコトニ一致シタルトキハ、之ヲ作成スルノ權限ヲ有ス。
裁判所ハ、左ノ場合ニ於テハ、外交上ノ手段ニ依リ合意ノ成立セサリシ後ハ、單ニ當事者ノ一方ヨリ請求アルトキニ於テモ、亦前項ノ權限ヲ有ス。

 一 本條約實施後締約セラレ又ハ更新セラレタル總括的仲裁裁判條約ニシテ、各紛爭ニ付仲裁契約ノ作成ヲ豫見シ且明白ニモ又暗默ニモ其ノ作成ニ關スル裁判所ノ權限ヲ否認セサルモノノ中ニ規定スル紛爭ニ關スルトキ。但シ、他ノ當事者ニ於テ該紛爭カ義務的仲裁裁判ニ付スヘキ紛爭ノ種類ニ屬セスト認ムルコトヲ宣言シタルトキハ、仲裁裁判條約カ此ノ先決問題ヲ決定スルノ權能ヲ仲裁裁判部ニ付與シタル場合ヲ除クノ外、裁判所ノ干與スル限ニ在ラス。
 二 一國ニ對シ他ノ一國カラ其ノ國民ニ支拂ハルヘキモノトシテ請求スル契約上ノ債務ヨリ生シタル紛爭ニシテ、其ノ解決ニ付仲裁裁判ノ提議カ受諾セラレタルモノニ關スルトキ。但シ、他ノ方法ニ依リ仲裁契約ヲ定ムルコトヲ受諾ノ條件トシタルトキハ、右規定ヲ適用セス。

第五四條 前條ノ場合ニ於テハ、第四十五條第三項乃至第六項ニ定メタル方法ニ依リテ指定セラルル五人ノ委員ヲ以テ組織スヘキ委員會ニ於テ、仲裁契約ヲ作成ス。
第五ノ委員ハ、當然委員長タルモノトス。

第五五條 仲裁裁判ノ職務ハ、之ヲ當事者カ隨意ニ指定シ又ハ本條約ニ依リテ設置シタル常設仲裁裁判所ノ裁判官中ヨリ選定シタル一人又ハ數人ノ仲裁裁判官ニ委託スルコトヲ得。
裁判部ノ構成ニ付、當事者ノ合意ナキトキハ、第四十五條第三項乃至第六項ニ規定スル方法ニ從フモノトス。

第五六條 君主其ノ他國ノ元首ニシテ仲裁者ニ選定セラレタルトキハ、仲裁裁判手續ハ、仲裁者之ヲ定ム。

第五七條 上級仲裁裁判官ハ、當然裁判長タルモノトス。
裁判部ニ上級仲裁裁判官ナキトキハ、裁判部自ラ其ノ裁判長ヲ指定ス。

第五八條 第五十四條ニ規定スル委員會ニ於テ仲裁契約ヲ作成シタル場合ニハ、反對ノ規約アルニ非サレハ、該委員會自ラ仲裁裁判部ヲ組織ス。

第五九條 仲裁裁判官死亡シ、辭職シ、又ハ原因ノ如何ニ拘ラス支障ヲ生シタル者アルトキハ、其ノ指定ノ爲ニ定メタル方法ニ依リ之カ補闕ヲ行フ。

第六〇條 裁判部ハ、當事者ニ於テ指定ヲ爲ササルトキハ、之ヲ海牙ニ開ク。
裁判部ハ、第三國ノ領土ニ於テハ、其ノ合意ヲ得ルニ非サレハ、開廷スルコトヲ得ス。
裁判部ハ當事者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ、一旦定メタル開廷地ヲ變更スルコトヲ得ス。

第六一條 仲裁契約ヲ以テ使用スヘキ國語ヲ定メサリシトキハ、裁判部之ヲ定ム。

第六二條 當事者ハ、自己ト裁判部トノ間ノ媒介者タルヘキ特別代理人ヲ裁判部ニ簡派スルコトヲ得。
當事者ハ又、顧問又ハ弁護人ヲ任命シ、裁判部ニ於テ其ノ權利及利益ヲ弁護セシムルコトヲ得。
常設裁判所裁判官ハ、之ヲ裁判所裁判官ニ任命シタル國ノ爲ニスルノ外、代理人、顧問又ハ弁護人ノ職務ヲ行フコトヲ得ス。

第六三條 仲裁裁判手續ハ、原則トシテ準備書面提出及弁論ノ二段ニ分ツ。
準備書面提出トハ、各代理人ヨリ陳述書、答弁書及必要アルトキハ弁駁書ヲ裁判部裁判官及相手方ニ送達スルヲ謂フ。當事者ハ、右書面ニ其ノ申立中ニ援用シタル一切ノ文書其ノ他ノ書類ヲ添附ス。送達ハ、仲裁契約ヲ以テ定メタル順序及期間ニ於テ直接ニ又ハ國際事務局ヲ經テ之ヲ行フモノトス。
仲裁契約ヲ以テ定メタル期間ハ、合意アルトキハ當事者ニ於テ、又裁判部カ正當ナル決定ヲ與フル爲必要アリト認ムルトキハ裁判部ニ於テ、之ヲ伸長スルコトヲ得。
弁論トハ、裁判部ニ於ケル當事者ノ事由ノ口頭演述ヲ謂フ。

第六四條 當事者ノ一方ヨリ提出シタル一切ノ文書ハ、其ノ認證謄本ヲ他ノ一方ニ送達スヘキモノトス。

第六五條 特別ナル事情アル場合ヲ除クノ外、裁判部ハ、準備書面提出終結ノ後ニ非サレハ開廷セス。

第六六條 弁論ハ、裁判長之ヲ指揮ス。
弁論ハ、當事者ノ承諾ヲ經テ爲シタル裁判部ノ決定ニ依ルノ外、之ヲ公開セス。
弁論ハ、之ヲ裁判長ノ任命スル書記官ノ作成スル調書ニ記載シ、裁判長及書記官ノ一名之ニ署名ス。此ノ調書ニ限公正ナル性質ヲ有ス。

第六七條 裁判部ハ、準備書面提出終結ノ後ハ、當事者ノ一方ヨリ相手方ノ承諾ヲ得スシテ提出セムト欲スル新ナル一切ノ證書其ノ他ノ書類ニ付、弁論ヲ拒絕スルコトヲ得。

第六八條 裁判部ハ、當事者ノ代理人又ハ顧問カ其ノ注意ヲ求ムルコトアルヘキ新ナル證書其ノ他書類ヲ參酌スルノ自由ヲ有ス。

第六九條 裁判部ハ、又當事者ノ代理人ニ一切ノ證書ノ提出ヲ請求シ、且必要ナル一切ノ說明ヲ求ムルコトヲ得。其ノ拒絕アリタル場合ニハ、其ノ旨ヲ記錄ス。

第七〇條 當事者ノ代理人及顧問ハ、其ノ申立ヲ弁護スル爲有益ナリト認ムル一切ノ事由ヲ口頭ニテ仲裁裁判部ニ陳述スルコトヲ得。

第七一條 當事者ノ代理人及顧問ハ、抗弁ヲ爲シ、又ハ中間爭議ヲ起スコトヲ得。之ニ關スル裁判部ノ決定ハ、確定的ニシテ更ニ之ヲ論議スルコトヲ得サルモノトス。

第七二條 裁判部裁判官ハ、當事者ノ代理人及顧問ニ質問ヲ爲シ、且疑ハシキ事項ニ關シテ說明ヲ求ムルコトヲ得。
弁論ノ進行中裁判部裁判官カ爲シタル質問又ハ發言ハ、裁判部全體又ハ裁判官各員ノ意見ヲ表明シタルモノト認ムルコトヲ得ス。

第七三條 裁判部ハ、仲裁契約及事件ニ關シテ援用シ得ヘキ其ノ他ノ證書及書類ヲ解釋シ、且法律上ノ原則ヲ適用シテ、自己ノ權限ヲ定ムルコトヲ得。

第七四條 裁判部ハ、裁判指揮ノ爲手續上ノ命令ヲ發シ、各當事者カ弁論ヲ終結スヘキ方式、順序及期間ヲ定メ、且證據調ニ關スル一切ノ手續ヲ行フコトヲ得。

第七五條 當事者ハ紛爭決定ノ爲必要ナル一切ノ方法ヲ其ノ爲シ得ヘシト認ムル限充分ニ裁判部ニ提出スヘシ。

第七六條 裁判部カ締約國タル第三國ノ領土ニ於テ爲スヘキ一切ノ通吿ハ、裁判部ヨリ直接ニ當該國政府ニ宛テ之ヲ爲スヘシ、實地ニ就キ一切ノ證據蒐集手續ヲ行フトキ亦同シ。右ニ關スル請求ヲ受ケタル國ハ、其ノ國內法規ニ遵ヒ爲シ得ヘキ方法ニ依リ其ノ請求ヲ履行スヘク、且其ノ主權又ハ安寧ニ害アリト認ムル場合ヲ除クノ外之ヲ拒ムコトヲ得ス。
裁判部ハ、又常ニ其ノ開廷地ノ所屬國ノ媒介ニ依賴スルコトヲ得。

第七七條 當事者ノ代理人及顧問カ各其ノ申立ヲ支持スル一切ノ說明及證據提出ヲ終リタルトキハ、裁判長ハ、弁論ノ終結ヲ宣吿ス。

第七八條 裁判部ノ評議ハ、祕密會ニ於テ行ヒ、且之ヲ祕密ニ付ス。一切ノ決定ハ、裁判官ノ多數決ニ依ル。

第七九條 仲裁判決ニハ理由ヲ附シ、裁判官ノ氏名ヲ揭ケ、裁判長及裁判部書記局員又ハ其ノ職務ヲ行フ書記官之ニ署名ス。

第八〇條 判決ハ、當事者ノ代理人及顧問出席ノ上又ハ之ニ對シ正式ノ呼出ヲ爲シタル後、公開廷ニ於テ之ヲ朗讀ス。

第八一條 正式ニ言渡ヲ爲シ且當事者ノ代理人ニ通吿シタル判決ハ、確定的ニ終審トシテ紛爭ヲ決定ス。

第八二條 判決ノ解釋及執行ニ關シ當事者間ニ起ルコトアルヘキ一切ノ紛爭ハ、反對ノ規約アルニ非サレハ、該判決ヲ言渡シタル裁判部ノ裁判ニ付スヘシ。

第八三條 當事者ハ、仲裁契約ニ於テ仲裁判決ニ對スル再審ノ請求ヲ留保スルコトヲ得。
右ノ場合ニ於テハ、反對ノ規約アルニ非サレハ、判決ヲ爲シタル裁判部ニ請求ヲ爲スコトヲ要ス。右請求ハ、判決ニ對シ決定的影響ヲ與フルヘキ性質ヲ有スル新事實ニシテ弁論終結ノトキ裁判部及再審ヲ請求スル當事者カ知ラサリシモノヲ發見シタル場合ニ限、之ヲ爲スコトヲ得。
再審ノ手續ハ、裁判部ニ於テ特ニ新事實ノ存在ヲ確認シ、其ノ事實カ前項ニ揭ケル特質ヲ有スルコトヲ認識シ、且之ニ因リ請求カ受理スヘキモノナルコトヲ宣言スル決定ヲ爲スニ非サレハ、之ヲ開始スルコトヲ得ス。
再審ノ請求ヲ爲スヘキ期間ハ、仲裁契約ニ於テ之ヲ定ム。

第八四條 仲裁判決ハ、紛爭當事者ニ對シテノミ効力ヲ有ス。
若紛爭當事者以外ノ諸國カ加リタル條約ノ解釋ニ關スルモノナルトキハ、紛爭當事者ハ、適當ノ時期ニ之ヲ各記名國ニ通吿スヘシ。右諸國ハ、各訴訟ニ參加スルノ權利ヲ有ス。一國又ハ數國カ此ノ權能ヲ利用シタルトキハ、判決中ニ包含スル解釋ハ、其ノ國ニ對シテモ亦等シク効力ヲ有スルモノトス。

第八五條 當事者ハ各自ノ費用ヲ負擔シ、且裁判部ノ費用ヲ均等ニ分擔ス。

第四節 仲裁裁判簡易手續

第八六條 締約國ハ、簡易ナル手續ニ依リ得ヘキ性質ノ紛爭ニ關シ、仲裁裁判ノ運用ヲ容易ナラシムル爲、別段ナル規約ナキ場合ニ適用スヘキ次ノ規定ヲ設ク。但シ、第三節ノ條項ニシテ右規定ニ牴觸セサルモノハ、之ヲ適用ス。

第八七條 紛爭當事者ハ、各一人ノ仲裁裁判官ヲ指定ス。右兩人ノ仲裁裁判官ハ、一人ノ上級仲裁裁判官ヲ選定ス。若其選定ニ關シ合意成立セサレトキハ、仲裁裁判官ハ、常設裁判所裁判官ノ總名簿ニ就キ各當事者ノ指定シタル裁判官ニ非ス且其ノ孰レノ國民ニモ非サル者ノ中ヨリ各二人ノ候補者ヲ出シ、抽籤ヲ以テ該候補者中上級仲裁裁判官タルヘキ者ヲ定ム。
上級仲裁裁判官ハ、裁判長ト爲ル。裁判部ノ決定ハ、多數決ニ依ル。

第八八條 裁判部ハ、豫メ何等ノ合意ナキトキハ、其ノ構成後直ニ當事者雙方ヨリ陳述書ヲ提出スヘキ期間ヲ定ム。

第八九條 各當事者ハ、一人ノ代理人ヲシテ裁判部ニ於テ自己ヲ代表セシム。右代理人ハ、裁判部ト之ヲ任命シタル政府トノ間ノ媒介者タルヘキモノトス。

第九〇條 裁判手續ハ、悉ク書面ニ依ルモノトス。但シ、各當事者ハ、證人及鑑定人ノ出頭ヲ請求スルコトヲ得。裁判部ハ、當事者雙方ノ代理人並出頭セシムルヲ有益ナリト認メタル鑑定人及證人ニ對シ口頭ノ說明ヲ求ムルコトヲ得。

第五章
附則

第九一條 本條約ハ、正式ニ批准セラレタル上、締約國間ノ關係ニ於テ千八百九十九年七月二十九日ノ國際紛爭平和的處理條約ニ代ルヘキモノトス。

第九二條 本條約ハ、成ルヘク速ニ批准スヘシ。
批准書ハ、海牙ニ寄託ス。
第一回ノ批准書寄託ハ、之ニ加リタル諸國ノ代表者及和蘭國外務大臣ノ署名シタル調書ヲ以テ之ヲ證ス。
爾後ノ批准書寄託ハ、和蘭國政府ニ宛テ、且批准書ヲ添附シタル通吿書ヲ以テ之ヲ爲ス。
第一回ノ批准書寄託ニ關スル調書、前項ニ揭ケタル通吿書及批准書ノ認證謄本ハ、和蘭國政府ヨリ、外交上ノ手續ヲ以テ、直ニ之ヲ第二回平和會議ニ招請セラレタル諸國及本條約ニ加盟スル他ノ諸國ニ交付スヘシ。前項ニ揭ケタル場合ニ於テハ、和蘭國政府ハ、同時ニ通吿ヲ接受シタル日ヲ通知スルモノトス。

第九三條 第二回平和會議ニ招請セラレタル諸國ニシテ記名國ニ非サルモノハ、本條約ニ加盟スルコトヲ得。
加盟セムト欲スル國ハ、書面ヲ以テ其ノ意思ヲ和蘭國政府ニ通吿シ、且加盟書ヲ送付シ、之ヲ和蘭國政府ノ文庫ニ寄託スヘシ。
和蘭國政府ハ、直ニ通吿書及加盟書ノ認證謄本ヲ第二回平和會議ニ招請セラレタル爾餘ノ諸國ニ送付シ、且通吿書ヲ接受シタル日ヲ通知スヘシ。

第九四條 第二回平和會議ニ招請セラレサリシ諸國カ本條約ニ加盟シ得ヘキ條件ハ、後日締約國間ノ協商ニ依リテ之ヲ定ム。

第九五條 本條約ハ、第一回ノ批准書寄託ニ加リタル諸國ニ對シテハ、其ノ寄託ノ調書ノ日附ヨリ六十日ノ後、又其ノ後ニ批准シ又ハ加盟スル諸國ニ對シテハ、和蘭國政府カ右批准又ハ加盟ノ通吿ヲ接受シタルトキヨリ六十日ノ後ニ、其ノ効力ヲ生スルモノトス。

第九六條 締約國中本條約ヲ廢棄セムト欲スルモノアルトキハ、書面ヲ以テ其ノ旨和蘭國政府ニ通吿スヘシ。和蘭國政府ハ直ニ通吿書ノ認證謄本ヲ爾餘ノ諸國ニ送付シ且通吿書ヲ接受シタル日ヲ通知スヘシ。
廢棄ハ、其ノ通知カ和蘭國政府ニ到達シタルトキヨリ一年ノ後、右通吿ヲ爲シタル國ニ對シテノミ其ノ効力ヲ生スルモノトス。

第九七條 和蘭國外務省ハ、帳簿ヲ備ヘ置キ、第九十二條第三項及第四項ニ依リ爲シタル批准書寄託ノ日並加盟(第九十三條第二項)又ハ廢棄(第九十六條第一項)ノ通吿ヲ接受シタル日ヲ記入スルモノトス。
各締約國ハ、右帳簿ヲ閱覽シ、且其ノ認證抄本ヲ請求スルコトヲ得。

右證據トシテ、各全權委員本條約ニ署名ス。

 〔全權委員署名他省略〕

この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。

  1. 法律命令及官公󠄁文󠄁書
  2. 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
  3. 公󠄁開セル裁判󠄁所󠄁、議會竝政談集會ニ於󠄁テ爲シタル演述󠄁

この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。