白文

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唯識三十頌

                 世親菩薩造


稽首唯識性 満分清浄者

我今釈彼説 利楽諸有情

由假説我法 有種種相轉

彼依識所變 此能變唯三

謂異熟思量 及了別境識

初阿頼耶識 異熟一切種

不可知執受 處了常與觸

作意受想思 相應唯捨受

是無覆無記 觸等亦如是

恒轉如暴流 阿羅漢位捨

次第二能變 是識名末那

依彼轉縁彼 思量爲性相

四煩惱常倶 謂我癡我見

并我慢我愛 及餘觸等倶

有覆無記攝 隨所生所繋

阿羅漢滅定 出世道無有

次第三能變 差別有六種

了境爲性相 善不善倶非

此心所遍行 別境善煩惱

隨煩惱不定 皆三受相應

初遍行觸等 次別境謂欲

勝解念定慧 所縁事不同

善謂信慚愧 無貪等三根

勤安不放逸 行捨及不害

煩惱謂貪瞋 癡慢疑惡見

隨煩惱謂忿 恨覆惱嫉慳

誑諂與害憍 無慚及無愧

掉擧與惛沈 不信并懈怠

放逸及失念 散亂不正知

不定謂悔眠 尋伺二各二

依止根本識 五識隨縁現

或倶或不倶 如濤波依水

意識常現起 除生無想天

及無心二定 睡眠與悶絶

是諸識轉變 分別所分別

由此彼皆無 故一切唯識

由一切種識 如是如是變

以展轉力故 彼彼分別生

由諸業習氣 二取習氣倶

前異熟既盡 復生餘異熟

由彼彼遍計 遍計種種物

此遍計所執 自性無所有

依他起自性 分別縁所生

圓成實於彼 常遠離前性

故此與依他 非異非不異

如無常等性 非不見此彼

即依此三性 立彼三無性

故佛密意説 一切法無性

初即相無性 次無自然性

後由遠離前 所執我法性

此諸法勝義 亦即是眞如

常如其性故 即唯識實性

乃至未起識 求住唯識性

於二取隨眠 猶未能伏滅

現前立少物 謂是唯識性

以有所得故 非實住唯識

若時於所縁 智都無所得

爾時住唯識 離二取相故

無得不思議 是出世間智

捨二麤重故 便證得轉依

此即無漏界 不思議善常

安樂解脱身 大牟尼名法

已依聖教及正理 分別唯識性相義

所獲功德施群生 願共速登無上覺

訓読文

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唯識三十頌

                           世親菩薩造


唯識性において満に分に清浄なる者を稽首す

我れ今彼の説を釈し諸の有情を利楽せん


(1)

仮に由りて我法と説く 種種の相転すること有り

彼れは識所変に依る 此れが能変は唯三のみなり


(2)

謂わく異熟と思量と 及び了別境との識なり

初めのは阿頼耶識なり 異熟なり一切種なり


(3)

不可知の執受と 処と了となり常に触と

作意と受と想と思と 相応す唯し捨受のみなり


(4)

是れ無覆無記なり 触等も亦是の如し

恒に転ずること暴流の如し 阿羅漢の位に捨す


(5)

次のは第二能変なり 是の識を末那と名づく

彼に依りて転じて彼を縁ず 思量するを性とも相とも為す


(6)

四の煩悩と常に倶なり 謂わく我癡と我見と

并びに我慢と我愛となり 及び余と触等と倶なり


(7)

有覆無記に摂めらる 所生に随って繋せらる

阿羅漢と滅定と 出世道とには有ること無し


(8)

次の第三能変は 差別しゃべつなること六種有り

境を了するを性とも相とも為す 善と不善と倶非となり


(9)

此の心所は遍行と 別境と善と煩悩と

随煩悩と不定となり 皆三の受と相応す


(10)

初の遍行とは触等なり 次の別境とは謂わく欲と

勝解と念と定と慧となり 所縁の事不同なり


(11)

善とは謂わく信と慚と愧と 無貪等の三根と

勤と安と不放逸と 行捨と及び不害となり


(12)

煩悩とは謂わく悪見となり

随煩悩とは謂わく忿


(13)

無慚と及び無愧

掉挙惛沈不信と并びに懈怠


(14)

放逸と及び失念と 散乱と不正知となり

不定とは謂わく悔と眠と 尋と伺との二に各二あり


(15)

根本識に依止えじす 五識は縁に随って現じ

或はともなり或は倶ならず 濤波の水に依るが如し


(16)

意識は常に現起す 無想天に生じたると

及び無心の二定と 睡眠と悶絶とを除く


(17)

是の諸の識転変して 分別たり所分別たり

此に由りて彼は皆無し 故に一切唯識のみなり


(18)

一切種識の 是の如く是の如く変するに由りて

展転ちんでんする力を以ての故に 彼彼の分別生ず


(19)

諸の業の習気じっけと 二取の習気と倶なるに由りて

前の異熟既に尽きぬれば また余の異熟を生ず


(20)

彼彼の遍計に由りて 種種の物を遍計へんげ

此の遍計所執の 自性は所有無し


(21)

依他起の自性の 分別は縁に生ぜらる

円成実は彼がうえに 常に前のを遠離せる性なり


(22)

故に此は依他と 異にも非ず不異にも非ず

無常等の性の如し 此を見ずして彼をみるものには非ず


(23)

即ち此の三性に依りて 彼の三無性を立つ

故に仏密意をもって 一切の法は性無しと説きたまう


(24)

初のは即ち相無性 次のは無自然の性

後のは前の 所執の我法を遠離せるに由る性なり


(25)

此れは諸法の勝義なり 亦は即ち是れ真如なり

常如にして其の性たるが故に 即ち唯識の実性なり


(26)

乃し識を起して 唯識の性に住せんと求めざるに至るまでは

二取の随眠に於て 猶未だ伏し滅すること能わず


(27)

前に少物を立てて 是れ唯識の性なりと謂えり

所得有るを以ての故に 実に唯識に住するに非ず


(28)

若し時に所縁の於に 智都て所得無くなんぬ

爾の時に唯識に住す 二取の相を離れるるが故に


(29)

無得なり不思議なり 是れ出世間の智なり

二の麤重そじゅうを捨するが故に 便ち転依を証得す


(30)

此は即ち無漏界なり 不思議なり善なり常なり

安楽なり解脱身なり 大牟尼なるを法と名づく


已に聖教と及び正理とに依りて 唯識の性と相との義を分別しつ

所獲の功徳をもって群生に施す 願わくは共に速に無上覚に登らん

参考文献

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  • 安田理深 著、安田理深選集編纂委員会 編『安田理深選集』第二巻、文栄堂書店、1985年。
 

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。