司法の独立に関する基本原則


司法の独立に関する基本原則

1985年8月26日から同年9月6日までミラノで開催の
第7回犯罪防止及び犯罪人取扱いに関する国際連合会議により採択

国際連合総会の1985年11月29日決議40/32、
及び同年12月13日決議40/136により承認


世界の人々は、いかなる差別も存在しない人権及び基本的自由の尊重を促進し奨励するに当たり、国際連合憲章の中でも、司法がその下で国際協力を達成し継続しうる一定条件を規定するという決定をとりわけに支持するので、

世界人権宣言は法の前の平等と無罪の推定と、独立で公平の権能ある法定審判所による公正で公開の裁判を受ける権との原則を、正式に具体的に掲げているので、

経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、及び市民的及び政治的権利に関する国際規約はいずれも、それらの権の行使を保障しており、併せてそのうえに、市民的及び政治的権利に関する規約は不当に遅延することなく裁判を受ける権を保障しているので、

それら諸原則の基礎をなす理想と現状とのあいだの格差は、未だ度々に存在するので、

あらゆる各国の司法組織及び司法行政は、これら諸原則に導かれるべきものであり、また、これら諸原則を解釈し最大限に実現するための努力を約すべきであるので、

司法機関の修練に関する規則は、裁判官がこの諸原則に従って振る舞うことを可能ならしめることを目的とせしめるべきであるので、

裁判官は、市民の生命、自由、権利、義務及び財産について最終決定を行う職務を負っているので、

犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する第6回国際連合会議は決議16により、犯罪防止抑制委員会に対し、裁判官の独立と、また裁判官及び検察官の選出及び専門的訓練並びに地位に関する指針の細目立案とを優先的課題に含めるよう要請したので、

このことから、司法制度における裁判官の役割、また裁判官の選任及び訓練並びに指導の重要性をまず初めに検討することが適当であるので、

司法の独立を確保し促進する加盟国の任務を補助するために策定された以下の基本原則は、国の立法及び実施の枠組の範囲で、各国政府により考慮されかつ尊重されるべきものであり、また裁判官、弁護士、行政府及び立法府の構成員、並びに一般公衆に注意を促すべきものである。

これら諸原則は、主に職業裁判官を念頭において策定されたものであるが、適当であれば裁判員にも等しく適用される。

 司法の独立

1. 司法の独立は国によって保障されなければならず、かつ、当該国の憲法または法律に正式に記載されなければならない。司法の独立を尊重し遵守することは、すべての政府機関及びその他機関の義務である。

2. 司法は、司法の前にある事項に関しては、事実に基づき法に従い、公平に、かつ、いかなる方面からのものであるか、いかなる理由からのものであるか、直接にであるか間接にであるかを問わず、いかなる制限、不当の影響、勧誘、圧力、脅迫又は干渉をも受けることなく決定を行わなければならない。

3. 司法は、司法的な性質のあらゆる問題についての管轄権を有さなければならず、かつ、判断を求めて提示された問題が法定の司法の権能の範囲にあるかを決定するについては独占的な権限を有する。

4.  司法手続には、いかなる不適当の又は理由のない干渉があってはならず、また裁判所による司法上の決定は、修正の対象とされてはならない。この原則は、法に従って司法が課する範囲での判決に対する司法審査、若しくはその範囲での権能ある当局による判決からの減軽若しくは減刑を妨げるものではない。

5. すべて人は、制定された訴訟手続法を用いる通常裁判所又は通常審判所における裁判を受ける権を有する。 正式に制定された法的手続の手順を用いない裁判所を設置してはならず、そのような裁判所が通常裁判所又は司法審判所の管轄を除免してはならない。

6. 司法独立の原則は、司法が公正に実施されるための手段と、また当事者の権が尊重されるための手段を講じる権限とを司法に与え、かつ、それらを保障することを、司法に対し要求する。

7. 司法がその機能を適正に果たしうるに十分な資源を提供することは、各加盟国の義務である。

 表現及び結社の自由

8. 司法機関の構成員は、世界人権宣言に基づき、他市民と同じく、表現、思想・信条、結社及び集会の自由の権を有する。 ただしそうであろうと、裁判官がそれらの権を行使するに当たっては、常に所属機関の尊厳及び司法の公平性、独立性を減じることのない態様をもって振る舞わなければならない。

9. 裁判官は、その利益を代表したり、職業訓練を促進したり、自らの司法的独立を保護するための裁判官団体又はその他団体の結成及びそれに加入する自由を有さなければならない。

 資格、選出及び訓練

10. 司法職務のために選出される者は、適当の訓練を受け又は法定資格を有する高潔で能力ある個人でなければならない。 裁判官選出に関するいかなる方式も、不適当の動機に基づく司法人事を防止するものでなければならない。 裁判官の選出に当たっては、人種、皮膚の色、性別、宗教、政治的意見及びその他の意見、国的又は社会的な出自、財産、出生又は地位によって人を差別してはならない。 ただし、司法職務の候補者は当該国の国民でなければならないという要件は、差別と見做されてはならない。

 勤務条件及び在任条件

11. 裁判官の任期、独立、安全、適当の報酬、勤務条件、年金、及び退職年齢は、法により適当に保障されなければならない。

12. 裁判官が指名された者と選挙された者のいずれであるかを問わず、任期あるときは、退職年齢又は任期満了に至るまで、保障された在職期間を有する。

13. 裁判官の昇進はいかなる場所であろうと、昇進制度あるときは、特に能力、高潔性、経験など客観的要素に基づいてなされるものとする。

14. 裁判官が所属する裁判所内での裁判官への事件の割当は、司法行政の内部事項である。

 職業上の守秘及び免責

15. 司法は審理中、及び公開手続ではない職務の遂行中に得た秘密情報に関し職業上の守秘義務を負わなければならず、また、そのような事項に関する証言を強制されてはならない。

16. いかなる懲罰手続、いかなる上訴権、また国家賠償をも侵害しない範囲で、裁判官個人は、国内法に基づき、その裁判業務遂行上の不適当な行為又は不作為による金銭的損害賠償を求める民事訴訟の免除を受けるべきである。

 懲罰、停職及び免職

17.  各裁判官の司法的能力及び職業能力に関する訴え又は苦情は、適当の手続に基づき、迅速かつ公正に処理されなければならない。 当該裁判官は、公正な審理を受ける権を有する。 その事件の審問は初期段階においては、当該裁判官が開示要請をしない限り、不開示を保たなければならない。

18.  裁判官は、職務の遂行を不適当にせしめる無能性又は態度を理由としてのみ、停職又は免職の対象ならしめなければならない。

19. すべての懲罰手続、停職手続又は免職手続は、制定された訴訟指揮基準に従って終結されなければならない。

20. 懲罰手続上、停職手続上、又は解任手続上の決定は、独立の再審査の対象たるべきである。 この原則は、最上級裁判所の決定、また、弾劾手続及びこれに類似の手続における立法機関の決定には適用し得ない。


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原文:

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  1. 国際連合の機関又は会議の手続に関する公式記録(議事録、付属機関・関連機関への報告書、決議集等)
  2. シンボルマークを付して公式に発表された国際連合の文書
  3. 国際連合の広報資料(主に国際連合の活動を周知するために作成された出版物、定期刊行物、パンフレット、プレスリリース、カタログ等。ただし販売されているものを除く。)
翻訳文:

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