原稿料の袋


 探偵小説家の土井どい江南こうなんは、酔眼朦朧もうろうとして、三杯目のウイスキー・ソ—ダをチビチビめて、彼の非常に愛用している、しかし、酔えば必ずどこへでも置き忘れる所の、シンガポールで買ったと云う籐製の細身のステッキを、何回となく床の上滑り落しながら、同じ作家仲間の卓聞堂たくぶんどう編輯部の床水とこみず政司まさしの、これも酔えば必ず始まる所の饒説を茫然ぼんやり聞いていた。晚秋の一夜だった。

「そやけどなあ、吉右衛門はりまやえでなあ――」

 床水はいつもの通り、変にそわそわしながら、ねばりのある女性的な関西弁で、熱心に云うのだった。

あたいも見たいなあ」

 矢張作家仲間の、猟奇趣味と云う滅多に原稿料を出さない雑誌の編輯をしている満谷みつたにじゆんが、いくら飲んでも、又どんな事があっても、決して興奮の赤味と云うものを出さない所の、蒼白い無表情な顔で、彼等の仲間の通語で相槌を打った。

 彼等は宵に、虎之門附近の或る支那料理店でかなり飲んでから、尚二三軒飲み廻り、最後にこの銀座裏の小さなカフェ・コルネリアに来たので、時刻も大分遅く既にそれぞれ相当に酔っていた。だから折から一隅では来客の間に喧嘩が起っていたが、床水も満谷も一向そんな事には無関心で、喋り続けていた。ただ土井だけが少しばかり喧嘩の方に気を取られていた。と云っても彼は床水の話も聞いてはいたので、喧嘩と床水の話と、わめくような蓄音機のジャズとが、彼の麻痺しかかった耳に混沌として夢のように交錯していたのだった。

手前てめえに云ったんじやねえやい。間抜め」

 呶嗚ったのはかなり大きい強そうな洋服男だった。手には太いステッキを握っていた。

「俺を殴ると云うのかい。じゃ殴られてやらあ」

 対手あいての男は和服姿の弱そうな瘦せこけた男だった。

「手前みたいなヒョ口ヒョロした奴を殴つて、首が落っこちるといけねえから、しとかあ」

 弱そうな男は何とか云って立上ろうとしたが、友人らしい男に止められていた。

「手前に云ったんじやねえやい。感違いしやがって、間抜め。酔わねえ時にやって来い、いつでも対手してやらあ。俺は毎晩銀座に来ているんだ。いつでも来い」

 大男は図に乗って罵るのだった。

啖呵たんかうまい奴だな」

 土井はちょっと感心したが、同時に弱そうな男の方に同情心めいたものが起って、仲裁してやろうかなと云う気がした。が別に取り留めた理由もなく、直ぐ止めてしまった。と、土井は何となくこの力フェが居心地が悪くなったのだ、突然叫んだ。「おい、諸君、これから浅草に行こうじゃないか」

「好いですねえ」

 床水と満谷は直ぐ調子を合せたが、余り気乗りがしないようだった。

 土井江南がやがて十二時になろうとする深夜に、何故突然浅草へ行こうなどと云い出したか、彼自身にも説明は出来なかった。彼は探偵小説家でありながら、夜の浅草などへは殆ど足を踏み入れた事がなかったのだった。最近に作家仲間の井戸川いどがわ蘭芳らんぽうが、深夜の浅草から素敵な題材を度々得ているので、彼も一度は探険してみたいと思っていたのだが、今酔った勢で飛出したのか、それとも、宵の中に床水から渡されたかなり這入っている筈の原稿料の袋が懐中にあったためか、とにかく、彼はこう云い出すと共にひどく乗気になったのだった。

「ねえ、行こうよ。何か面白い事があるかも知れないよ」

「土井さん、袋は大丈夫ですか」

 満谷がふと思い出したように云った。或は彼は土井の浅草熱を覚ますためにわざと云ったのかも知れなかった。土井は彼等に取っては先輩だし、それにしたたかに酔ってはいるし、夜更よふけに浅草にお伴をする事は、余り有難い事でなかったに違いない。

「だ、大丈夫だよ」

 土井は上衣のポケットを上から押えながら答えた。

 卓聞堂では原稿料を現金で渡す時には、丈夫な鳥の子の模造紙で造った長方形の袋に入れて、その上に原稿名と金額と受取人の氏名とが書いてあった。土井はいつも袋などはチラと見ただけで、破り棄てるのだったが、一度何かの拍子でつくづく眺めると、袋の上書には受領と云う欄があった。そこへ記名調印するようになっていた。これで見ると、袋には捺印して受取代りに先方へ返えママすものらしい。しかし、土井はいつもそんな請求を受けた事もなく、袋に印を捺して返した事はなかった。その事実に気がついた後にさえ、そんな事は一度も実行しなかった。

 宵に床水が袋を土井に渡す時に、真面目な顔をして云うのだった。

「近頃頻々とうちに盗難がありましてね、殊に袋に入れた原稿料がよく盗まれるのです。うちだけではない。寄稿家の手に渡ってから盗まれたのも大分あります。中には中味はとくに遣ってしまってあって、袋だけられたなんて滑稽なのもあります。とにかく、盛んに盗まれるのですよ。ですから、土井さん気をつけて下さいよ」

「そうですか」土井は例によって女性的な関西アクセントで「――ですよ。ですから――下さいよ」 と云う床水の好んで使う、型にはまった典型的の言葉を、心のうちで微笑して聞きながら、「気をつけましょう。られちゃ大変だ」

 とこう答えたのだったが、それを聞いていた満谷が今注意したのだった。

 が、土井には満谷の暗示も効力ききめがなかったらしく、一向浅草行を断念する気色はなかった。彼は急いで勘定をすませると、ヒョロヒョロと立上った。そうして無論ステッキは忘れて勢よくカフェ・コルネリアを飛出した。床水と土井のステッキを抱えた満谷が彼の後を追った。

 土井は危なかしい足取りで、銀座通りへ出て、疾走して来たタクシーを呼留めると、入口のここかしこに大きい身体をぶっつけながら、中に這入って、大声に呶鳴った。

「浅草!」

 床水と満谷はいずれも多少もつれた足取で、自動車の傍へ来ると満谷は素早くステッキを突き入れた。「土井さん。ステッキ」

「やあ、有難う」毎度の事なので、土井は苦笑して受取りながら、「さあ乗り給え」

「土井さん、私達は失敬します」満谷が云った。

「え?」土井はステッキにもたらかそうとした右の肘をストンと滑らして、前へのめりながら、車内から叫んだ。「好いじゃないか。君、一緒に来給え」

「失敬しますよ。いってらっしゃい」

 床水は笑いながら云った。二人は途々みちみち相談でもしたと見えて、気を利かしたのか、それとも敬遠したのか、中々乗ろうとしなかった。

 その中に運転手は交渉を面倒と見たか、車をそろそろ動かし出した。

「さようなら」

 床水と満谷は一緒に叫んだ。

「じゃ、失敬」

 仕方なく土井は別れの挨拶をしたが、心には何となくみたされないものがあった。若い二人の気持が彼のそれにピッタリと来ないのが、佗びしくもあった。

 自動車は疾駆し始めた。

「なあんだ、ちょっ、来れば好いじゃないか」

 土井はウトウトしながら口の中でグツグツママ呟いていた。

「浅草はどちらですか」運転手が呶鳴った。

「雷門」土井はハッと眼を覚ましながら答えた。

 彼は東京には少年時代から二十数年を送っているけれども、浅草の事情は殆ど知らなかった。浅草と云えば雷門から這入って、観音堂から六区に脱け、活動写真の一つも見て田原町の方へ出る外は知らなかったのだ。震災前まで聳え立っていた十二階へは一度も昇った事はなく、花屋敷も一度這入ったかと思うが、殆ど記憶に残っていないと云う有様だった。彼は雷門を除いては自動車を乗りつける所を知らなかったのだった。

 雷門で下車すると、土井の酔は一時に発したらしかった。それから暫らくの間、彼は殆ど記憶を喪失してしまった。ただ、流石に人通りの少くなった仲見世を、右に左にヒョロヒョロと、不規則な弧線を描きながら、雷門を這入り、観音堂を一廻りした事を、微に覚えているだけだった。もしその時刻に彼を尾行した人があったら、彼が渇いた唇をなめながら、

「変った所へ行けなけりゃ、変った事にぶつからないさ」

 と呟き呟き夢遊病者のように、観音堂の裏から薄暗い小路へ、フラフラ歩んで行くのを見た事であろう。



 土井は長い坑道を歩いているような気持だった。両側には飛々とびとびながら軒燈もあり、仰げば暗澹とした空も見えるのだったけれども、彼にはどうしても穴と云う感じだった。行けども行けども、果てのない地獄へ通う抜穴かと思われた。

 彼は時々、よろめく足を踏みしめて、立止りながら、仔細らしく首を曲げて、町名を書いた札を物色するのだったが、結局彼の眼に映ずるのは、ピントの合わない朦朧もうろうたる家並と、ボウッとして上ったり下ったりしている軒燈だけだった。

「浅草なんだ。俺は浅草を歩いているんだ」

 彼は眼を細くして、首と肩とをガタガタのめらせながら、又歩き出すのだった。非常に早く歩いているつもりだったが、その実僅かしか前には進まないのだった。

「変だなあ、いくら行っても同じような所じゃないか。畜生! 曰本のうちには違いないんだが、それにしても一人位誰かに会いそうなものだな」

 真夜中の一時を既に過ぎている事に一向平気な土井はこう呟いたが、偶然、背後うしろの方のバタバタと云う足音を聞いた。

「いよう」

 土井は救われたような気になって、急いで振向いたが、街上には犬の子一匹見えなかった。

「ちょっ」

 彼は舌打をして又歩き出した。

 右に折れ左に曲り、或時は狭い路の溝板を踏み鳴らしたり、或時はやや広い通りに出て、ブラ下っている看板みたいなものを、ステッキで叩いたりしているうちに、だんだん街燈の数が減って、いよいよ物淋しくなって来た。

 土并はもう歩くのが嫌になった。

 と、背後の方で又パ夕パタと云う足音が聞えた。急いで振返ったが、例の如く生物らしいものの影もなかった。

 土井は舌打をしながら歩き出したが、又パタパ夕と云う足音が聞える、立止ると、足音も消えるのだった。

「なあんだ、自分の足音か」

 夜道を独りで歩くとよくある奴で、自分の足音がパタパ夕と背後から響く事がある、それだと思ったので、土井は又歩き出したが、背後に響く足音はどうも自分の足音が反響するものとは思われなかった。が、何度振り向いても、少しも足音の正体は分らなかった。

「畜生! 誰か俺をつけてやがる」

 土井は無性に腹が立って来た。彼はグルリと振向くと、ステッキを斜に構えて、大声に呶嗚った。

「さあ出て来い。俺の後をつけてる奴は誰だ!」

 けれども声は徒らに四辺あたりの闇に反響するだけで、答えるものもなく、姿を現わすものもなかった。寝静まった両側の家からは、酔漢の叫び声に態々わざわざ窓を開けて見るような物好もなく、相変らずしーんと静まり返っているのだった。

 土井はいささか張合抜けのした形で、又もや当度あてどなく、熱い息をぷうぷう吐きながら進んで行った。

 暫らくすると、又背後の方でパタパ夕と云う足音が嘲るように聞えるのだった。

「畜生!」

 ちょっとした四つ角のような所だったが、土井は急に出来るだけの早さで、半廻転してステッキを振り上げた。

「ば、馬鹿にするなッ! 用があるなら出て来い」

 が、相変らず、そこには何にもいなかった。そうして驚いた事には、土井は背後からそっと肩に触るものがあるのを感じたのだった。「旦那、大そうな勢ですね。へッへッへ」

 あっ! と普通なら声を挙げる所だが、酒のために精神の朦朧としている土井は、格別大して驚きもせず振返って、一人の男が立っているのを見ると、振り上げたステッキを下して舌をもつらしながら云った。

「やあ、君、好い所へ来てくれたね。一体ここはどこなんだい。君」

「へッへッ」怪しい男は相変らず妙な笑いを続けながら「千束せんぞく町ですよ。だが、旦那は何をしているのです」

「何ね、ちよっとその、何か変った事がないかと思って、歩いていたんだが、いくら歩いてもりがないので、嫌になった所なんだ。君、すまないが、自動車の走っている通りまで案内してくれないか」

「お安い御用ですがね、旦那」

 彼はそう云って真正面まともに土井に向き合った。恰度、近くにあった薄暗い電燈が、彼の顔をすっかり照らし出すようになったが、土并は思わず一歩後へ下った。

 彼はもう六十近いかと思われる老人だったが、背も高くガッシリした身体で、土井位は容易たやすく捻じ伏せてしまいそうな赤銅色のつら構えで、殊に物凄いのは左の眉から頬にかけた、守宮やもりのへばりついたようなきず痕だった。それがために彼の人相は一層兇悪に見えるのだった。

「ねえ、旦那」彼は語り続けるのだった。「旦那は何か変った事が見たいと仰有おつしやりましたね。人殺しなぞはどうですかね」

「ええっ」

「人殺しを見たくはありませんかね」

 彼は二タニ夕と笑いながら土井の顔を見た。

「な、なに、人殺しだって。結構だね、見ましょう。是非見ましょう」

 少しずつ酔は覚めかけていたが、それでもまた普段の土井よりは遙かに度胸が坐っていた。それに弱味を見せたくないと云う考えが、幾分働いてもいたので、土井はきっぱり云ったのだった。

「見てくれますか」怪しい男は満面に嬉しそうなえみを浮べながら、「流石に旦那だ。旦那の元気なら、きっと承知してくれると思ったんだ。じゃ、お出で下さい」

「遠いのかい」

「何、直ぐそこです」

 土井は幾分警戒しながら老人について歩きだしたが、再びアルコールを含んだ血液が脳中に流れ込んだと見えて、精確な判断力を失いかけていた。

「人殺しとは素敵だな。これで深夜浅草をうろついた甲斐があると云うものだ」

 土井はそんな事を考えて少しずつ愉快になって来た。

「ねえ、旦那」怪しい老人は土井と肩を並べながら話出した。「旦那方はもし女房の奴が間男をしたらどうしますね」

「そ、それは」土井は意外な質問に面喰いながら、「人によるね」

「やっぱしなんですか、おかみに訴えますか」

「さあ、まあ、訴える人もあるだろうが、大抵は訴えないだろうなあ」

「じゃ、矢っ張っちまうんですか」「いや」土井は返事に困って、唾を呑み込みながら、「そんな事はしまいよ」

「じゃ、どうするんです」

「どうするって、人にも依るだろうが、どうも、こいつは処分がむずかしいね」

ほうっとくんですか」

「抛っときもしまいが――」

「じれってえんですね」老人は嘲るように、「つまり紳士的とか云うんですね、旦那方は。女房が間男をしても、そっとして置くんですかい」

 挑戦するように云ったが、土井が返事をしなかったので、老人は言葉をついだ。

「こちとらあ、手っ取り早いんでさあ。生かしちゃ置きませんや」

 土井は急にこの老人が気味悪く感ぜられた。一体彼は何者だろう。人殺しを見せると云うのは本気なのだろうか。それとも彼は土井を強請ゆすろうと云うのだろうか。土井は少し怯気おじけがついて来た。しかし彼には未だ十分な酒の勢が残っていたのと、この老人が危害を加えそうな様子もなかったので、彼は黙って老人と歩み続けたのだった。

 老人はかなり足早に横丁から横丁へと曲って行った。土井は息を弾ませながら、真暗な路を悪夢のうちに何者かに追われるような気持で、どこに伴なわれるとも知らず、老人に従って行くのだった。

 やがて、老人は狭い路地に這入ったが、突き当りの二階家の戸口でガチャガチャ音をさせた。

「好いのかい、君、そんな所を開けても」土井は心配そうに聞いた。

「大丈夫ですよ。さあ、お這入り下さい」老人はニヤニヤしながら、戸口を開けて、土井を招いた。

「ここは君の宅かい」土井は逡巡しりごみしながら云った。

「ええ、まあ、そんなものです。さあ、お上がり下さい」

 土井は思い切って、靴を脱ぎにかかった。

「早くおあがんなさい。靴のままで構いませんよ」老人はもどかしそうにそう叫んだ。

 今まで割に落着いていた老人が、何故急に気短くなったか土井には分らなかった。分らないと云えば、今までのすべてが分らない事ばかりだった。酒のために頭は混乱はしていたが、平生複雑な筋と科学的な推理を売物にしている探偵小説家の土井江南も、実際こうした怪奇な事実に突当ると、カラ意気地がなかった。何故この怪老人は深夜只一人で千束町を逍遙さまよっていたか。何故又彼は一面識もない土井をこんな所へ連れて来たのか。人殺しを見せると云うのは一体何事か。

 土井はもうすっかり面喰っていた。彼は靴を脱ぐ暇も与えられず、老人のために土足のまま追い立てるママように、二階に上らされた。

 一足ずつ階段を上るにつれて、酔が覚めて来たためでもあったろうが、土井はぞっとするような冷気を襟元から感じて、身体が細かくガタガ夕と顫えるのだった。

 後から上って来た老人は、階段を上った所で、土井を押し退けるようにして、ふすまをガラリと開けた。そこは六畳敷位の室だったが、土井は一眼覗き込むと、サッと顔色を変えた。

 そこには一人の若い女が、惨らしく両手を後の柱に縛りつけられて、なよなよと項垂うなだれているのだった。

 鈍い電燈の光に照らし出された彼女のおののいている白いうなじから、蒼白い横顔に眼を移した時、土井は思わず、

「あっ」と叫んだ。 彼女の横顔には見覚えがあった。彼女は土井の顔馴染の或るカフェの女給だった。

「うーむ」

 土井は呻いた。

「やられた!」彼は心のうちで叫んだ。

 彼には途々怪老人の話した謎のような言葉が、少し分りかけて来た。その女給は無論土井に取っては顔馴染以上の何者でもなかったけれども、老人は変に誤解しているのかも知れない、間男をすれば、生かしちゃ置かないと云った彼の言葉が思い出された。土井は怯えた眼でジロリと老人を見た。

 老人の眼は爛々と輝いていた。顔は興奮で燃えているらしく、赤銅色の皮膚にはそれとは分らなかったが。守宮やもりのへばりついたような疵痕が、以前まえにもしてクッキリと、赤味がかって鮮かに浮び出ているのだった。

 誘き寄せられたのだ! 人殺しを見せると云うのは、即ち土井自身の身の上の事だった。死に直面した戦きが、全身に電光のように伝わった。

 嫉妬に狂った兇暴な老人は生中なまなかな言葉で云いなだめる事は出来ないであろう。土井は一生ママ懸命に勇気を奮い起しながら、今にも老人の手に匕首あいくちひらめくかと、彼の一挙一動を、息を凝らして睨めつけていた。

 果して、怪老人は懐中から一ふりの短刀を取り出した。それはつかに青貝を螺鈿らでんした見事な短刀だった。老人は暫らくそれを眺めた末、キラリと抜き放した。土井はステッキを握りしめた。

 が、次の瞬間に土井はホッと息をついた。老人は彼には目もくれず、ツカツカと縛られている女の傍へ寄った。

 土井は今まで考えていたことが、全く杞憂に過ぎなかった事を発見した。

 近づいて来る足音に、女は恨めしそうな顔を捻じ向けて、まともに土井の方に面したが、それは土井の顔馴染の女給とは全く別人だった。彼女は思ったよりけて三十近くに見えたが、素顔とも思えない程色の白い、土井の思い違いをした女給とは段違いの、眉と眼の美しい女だった。はだけた胸からは、雪のような肌が見えて、覗けば透いて見えるであろう乳房のふくらみが、つく息と共に、藤紫の襟をかすかに顫わしていた。縛られた手は二の腕まで捲くれて、手首に喰い込む縄目が痛々しかった。

 女に近寄った老人は抜き放した短刀で、縄をズタズ夕と切解きりといた。口の中から、含ませてあった綿のようなものを取出した。

 女は自由の身になった。

 しかし、彼女は声を立てようともせず、逃げようともせず、老人の足下にひれ伏して、わなわなと顫えるのだった。

 老人はビクビクする犠牲いけにえと、冷たい短刀の切尖きつさきとを見比べながら、ニタニ夕と物凄い笑を洩らした。

 土井はこの恐ろしい光景を眺めているうちに、大変な事を思い出してしまった。


 今を去る事二三ヶ月以前、未だ暑い頃だったが、府下某市の刑務所で、実に巧妙な脱監が行われた。脱監囚は由利ゆり鎌五郎かまごろうと云う凶悪強盗犯で、彼は前科数犯を重ねて、最長期の懲役を課せられていたのだった。或る晴たママ日の朝、看守某は由利を初め数名の囚人を鎖に繫いで、市外の多摩川沿岸で築堤工事の労役に従事させるために、某地点まで護送して来たところ、前方から一台の自動車が疾走して来て、逃げ惑う囚人の間に割って這入り、あっと云う間に、由利を櫟き倒してしまった。  自動車は尚一二けん前進した後に、辛うじて止まったが、中からあわてて飛び出して来た白髪頭の紳士は、看守もよく知っている市立病院の院長だった。院長に続いて立派な奥さん風の婦人が、倉皇そうこうとして降りた。看守は無論院長夫人と思い込んだ。

 婦人は直ぐ倒れている囚人の所に走り寄って、甲斐々々しく抱き上げたが、狼狽している院長を顧りみて、

「あなた、大変です。早く病院に連れて行って、手術をしなくっては」

 突然の出来事にすっかり落着きを失くしてしまった院長は、婦人の云うままにうなずくばかりだった。彼は今日の夕刊に仰々しく出るであろう所の自分の名の事を考えて、泣きたいような気持だった。

 看守はもとより独断で囚人を処分する事は出来なかったが、何分急を要する事ではあり、殊に対手は尊敬すべき病院長ではあるし美しい院長夫人の云うままに、唯々として傷いた由利鎌五郎を鎖から放ち、そのまま自動車に乗せて病院に送る事を承知した。

 残余の囚人を引連れて、一先ず帰所した看守は早速この事を上司に報告した。刑務所では容易ならぬ事件なので、選抜された数名の所員が、直ちに病院に派遣された。ところが、驚いた事には、院長は先刻往診を求めに来た美しい婦人と共に、迎えの自動車に乗って出た切り、未だ帰って来ないと云う返事だった。

 刑務所長は見苦しい程狼狽した。直ちに警察署にこの旨を急報して手配を求めて、一方非番の看守を駆り集めると、警官と共に極力捜索を試みたが、怪自動車の行方は一向知れなかった。

 兇悪な由利の事とて、自由の身となってはどんな事をするかも知れないので、警察署長の心配も一通りではなかった。

 夕刻になって、院長は茫然として只一人で帰って来た。

 院長の話によると、その朝或る有力者の紹介状を持って――その紹介状は後に調べて見ると偽造したものだった――一人の婦人が訪ねて来て、子供が死にかかっているので、是非往診に来てくれと、涙を流しながら頼み込むので、仕方なく応じて、迎いママの自動車に乗ったのだった。ところがその途中で車が囚人を礫き倒したので、心配の余り茫然としているうちに、同乗した婦人がすっかり指図をしてくれたので、負傷した囚人を自動車に乗せる事になった。

 院長はやや安心していると、自動車は病院の方に向わないで飛んでもない方向に走るので、驚いて婦人にママなじると、病院よりも自宅の方が近いし、子供も死にかけている所であるから、とにかく、宅まで来てくれと云う返事に、院長も返す言葉がなく、走るままに委したのだった。

 ところが、途中、町端ずれママの淋しい所で、自動車が急に止まると、二人の壮漢が現われて、無理やりに院長を引摺り下して、附近の一軒家に監禁してしまった。そうして夕刻になってようやく帰宅を許されたと云うのであった。

 警察署では院長の言葉を基礎として、怪自動車の行方を全力を挙げて捜索したが、遂にその片影だに摑むことが出来なかった。で、院長は警察では散々に油を絞られ、輿論から攻撃されると云う体たらくで、人の好いばかりに飛んだ災難を背負わねばならなかったのだった。

 その後も全国の警察署が聯絡を取って、由利を厳重に追跡したが、一向効果が挙らなかった。一月ばかり経った時に、由利の自筆で、自分は自分を裏切った女に復讐を遂げるために脱監したが、目的を遂げ次第自首するから、その間見逃して置いてくれと、云った意味の手紙が警視庁へ舞込んだので、刑事達は色めき渡って、手紙を基に四方を尋ね廻ったが、依然として彼の行方は分らないのだった。 さて、由利の脱監を補助したものは誰か。それは衆口一致、怪盗葛城かつらぎ春雄の所為としていた。彼は神出鬼没手に負えない悪漢で、警察の持て余し者になっていたが、彼が何故由利を助けたかと云うのには、かなり理由があるので、第一に彼はその少年時代を由利の世話になって送り、云わば昔の親分と云った関係にあった事、第二には由利の情婦が男をこしらえて彼を裏切り、そのために官憲の手に捕えられた時に、恰度その直前に彼は或る富豪の邸に押入って、現金数万円と高価な宝石類とを強奪した際であったにも拘らず、彼は一銭も身につけていなかったと云う事実があつた。情婦が盗み出した形跡もないので、当局者は由利を責め問うたけれども、彼は頑としてその莫大な金品の行方については、一言も口を開かなかった。で、葛城は彼を助けて、その金品の隠し場所を云わせようと云う腹があるらしかったのてある。しかし、それが成功したかどうかと云う事については、誰も知るものがなかった。院長を誘き出した婦人は多分葛城の情婦で、彼自身は運転手に変装していたのであろうと云う推測だった。

 話せば非常に長い事であったが、以上の事実は当時土井江南が非常な興味を持って、新聞記事をくまなくあさって、知り得た所で、今でも微細な点までそらんじている位だった。

 今、せせら笑いながら、ひれ伏している女に短刀を擬している老人の恐ろしい姿を見ているうちに、ふとこの事に気がついたのだったが、未だ酔は十分覚め切らないながらも、彼の脳裡にはさっと何物かが閃めいて、一瞬のうちにすべてを思い出し、すべてを知ったのだった。

 おお、今彼の眼前に短刀を閃めかして、突立っている兇悪な人相をした男が、由利鎌五郎でなくて誰であろう。おお、今こそ思い出した、彼の左眉下から頬にかけての疵痕は、当時由利の特徴として新聞に度々書き立てられた事ではないか。そして、今彼の足許で顫えている女は? 彼を裏切ったと云う情婦でなくて誰であろう。

 ああ、鎌五郎は今こそ彼の誓った復讐を遂げようとしているのだ!

 老人は茫然としている土井には尻目もかけず、女の肩を左手でムズと摑んだ。右手には短刀の柄を握りしめて、ただ一突と構えたのだった。

 女はこの時に不意に立上った。そうして飛鳥の如く身をかわすと、突立っていた土井の背後に駆け込んだ。彼女はひしと土井の腰に両手を巻つけながら、無言でブルブル顫えるのだった。

 何故彼女は声を立てなかったか。又は階段の下へ逃げ出さなかったか。恐らく彼女は由利の兇手から逃れるに途のない事を知って、既に覚悟を決めていたのであろう。が、その死の瞬間に、彼女は生の執着の強い本能のために、思わず土井の背後に隠れたのであろう。土井の腰にまつわる彼女の腕は、か弱い女とは思えない、驚くべき力強さであった。

 老人は眉毛一つ動かさず、短刀を構えたまま、のそりのそりと土井に近づいて来た。

「き、君、そんな手荒な事は止し給え」

 すっかり酔の覚めた土井は懸命の声を振絞って叫んだ。

 が、老人は何等の表情の変化を示さなかった。彼は無言のまま、ただ一突と短刀を構えたまま、ジリジリと土井に近づいて来た。

 土井には老人に反抗する気力がなかった。老人の気組が、ただ女のみをねらって、何者にも耳を借さない、突詰めた気合がすっかり土井を圧倒してしまった。

 老人は左手を伸して、土井の腰に抱きついている女の右の腕をグッと摑んだ。

 放そうとする懸命の力と、放れまいとする必死の力とが、いずれも文字通りに命を的に闘った。それに対して、土井は何等の干渉を試みる事が出来なかった。彼の身体を中間に置いて、一つの生命が他の生命を滅ぼそうとしている。しかも土井はどうする事も出来ないのだ。女が声を出したら、老人が何とか土井に答えたら、或は形勢は変ったかも知れぬ。しかし彼等は黙々として闘っているのだ。大蛇と女鹿の睨めっこのように、そうして早晚女鹿は大蛇に生命を取られるのだ。

 老人はとうとう女の片腕を放した。彼は力委せにそれを引いた。女はよろよろと前に出たが、彼女のもう一本の腕は未だしっかり土井の腰に抱きついていたので、土井の身体はクルリと半円を画いて、背後向きとなった。

 と、ぎゃっと云う断末魔の叫び、土井が驚いて振返った時には、女は胸に一撃を受けて、苦悶しながら倒れていた。真赤な血がドクドクと胸から迸り出て、彼女の四肢てあしはヒクヒクと動いていた。

「ハハハハ。どうです旦那、人殺しの現場を見たでしょう」

 老人は女の屍体を快よげに見て、カラカラと笑った。

 が、老人の表情はみるみる曇って来た。兇悪な人相には哀愁が漂うて、両手は力なく垂れ、最早、そこには年老いた一箇の哀れな醜い老人が立っているに過ぎなかった。

「だが、可哀そうな奴でさあ、ねえ、旦那」彼の声はしめっぽかった。「奴は逃げも隠れもせず、潔よくあっしの手にかかって死んだって、人にそう云ってやって下せえ。あっしは奴が憎くて耐まらねえので、殺すにしても人のいねえところでコッソリやったんじゃ承知が出来ねえので、旦那に来て貰ったんたが、奴の覚悟は立派なもんでさあ、ねえ旦那。あっしゃお尋者なんで、今度捕まりゃ首がねえんです。だが、もうおかみにお手数はかけやせんや、あっしゃ名乗って出ますよ」

 彼はそう云うとしおしおと二三歩行きかけたが、又立ち戻って、土井の手に、持っていた血だらけの短刀を握らせた。土井はそれを拒絶する勇気がなかった。

「ハハハハ」彼は淋しく笑いながら云った。「お礼でさ。飛んだ立会人になって貰ったお礼の印でさ。この短刀は案外旦那に好い運を授けますぜ。大切にするんですぜ。旦那」

 彼はとぼとぼと階段を降りて行った。

 土井は血みどろの短刀を握って、惨たらしい女の屍体の前に茫然と突立っている。



 コトリと背後で音がした。

 ハッとして土井が振り向くと、階段の所へ綺麗に頭髪かみを分けて、労働服のようなものを身につけた、三十二三の青年がヒョッコリ姿を現わした。

 彼は中の様子をジロリと見たが、格別大形おおぎように驚きもせず、眉をひそめながら、大股に室へ這入って来た。

「ちょっ、殺しちゃったのか」

 彼は土井を見据えながら、叱責するように云った。

「違う、違う、僕じゃない」土井は呟くように答えた。

「君じゃないって? 冗談云っちゃいけないよ。血だらけの短刀を握って、刺殺さすころされた屍体の側に立っていながら、僕じゃないと云ったって、誰も承知しやしないよ」

「僕じゃない、僕じゃない」

 土井は今更気がついたように、力ラリと短刀を棄てて、激しく首を振った。「まあ、好いよ、君、そう隠さなくても。僕は警察の者じゃないからね」彼はなだめるように云った。

「僕はむしろ君を救ってやろうと思っているのだ。と云っても、僕は決して人殺しを認めるのではないよ。大いに反対なんだよ。しかしね、考え方によっては人殺しと云う奴は哀れな者なんだ。人殺しに二種あってね、対手かまわずに殺す奴と、或る特定の人間だけを殺す奴とがある。誰でも関わず殺す奴は、無論許すべからざる奴だが、後の方の種類の奴はねらっている人間さえ殺してしまえば、他には危険を及ぼさないのだ。それに殺すには殺すだけの理由がきっとあるんだからね。君は無論後の方の場合だろう。と云っても、国は安寧を保つ必要上、そう云う殺人者を見逃す訳には行かない。けれども僕一箇としては、君のような気の毒な殺人者は、なるべく助けてやりたいね」

 青年は悠々とした態度で、独り合点をしながら、能弁にまくし立てるのだった。

「僕は人殺しじゃない」

 ようやく正気に復した土井は、弁解する事さえが、馬鹿々々しく感ぜられるのだった。

「そうか」青年は気の毒そうに土井を見ながら、「そんなら尚更僕は君を救わなければならぬ。君はどうしたって、そのままの状態では殺人罪から逃れる事は出来ないぜ。君はそうは思わないかい」

「思わない」土井はきっぱり答えた。「実際僕はしないのだから、いくらでも云い解く方法はあると思う」

「ハハハハ、君はお坊ちゃんだ」青年はカラカラ笑いながら、「警察のやり方を知らないのだ。君のような立場にいてはまあ逃れる途はないね。僕でさえ君を真犯人だと思うからね」

「冗談云っちゃいけない。僕は全く知らないのだ」

「ふん、しかしだね、君はどうしてこう云う所へ来たと云うのだ。そしてどうして殺された女の傍に、 血だらけの短刀を握って立っていた事を弁解するのだ」

「事実を述べるだけさ」

 土井はこう云い放ったが、冷静に考えて見ると、この深夜に起った事件は余りにも怪奇を極めたものだった。容易に人に信じられない出来事だった。もし、あの怪老人が自首して出なかったら、土井の立場は非常に危険になりはしないか。

「ここでくどくど云っているうちに、警官でも来たら大変だ」青年は静かに云った。「真犯人にもせよ、そうでないにもせよ、こんな所は少しも早く立退たちのかなくては行かぬ。さあ来給え」

 この青年は一体何者だろうか。土井はこの不意に現われた奇妙な青年をつくづくと見た。悪意のなさそうなキビキビした青年である。自分の立場が見ようによっては危険至極である事を自覚した土井は、とにかく、この頼もしげに見える青年の言葉に従う事にした。

「外へ出て、巡回にでも見つかると面倒だから、こう来給え」

 青年は先に立って室を出ると、階段を降りようとせず、突当りの壁を押した。と、壁はクルリと廻転して、ポカリと屋根に出る穴が開いた。

 星のない大空は暗澹として拡がっていた。真っ黒な屋根が刺々しく積み重なっていた。

 足許の屋根を一またぎすると、直ぐ隣りの二階の窓口だった。土井は青年の後について、窓から中に這入った。青年は窓を閉めると、電燈をつけた。

 雑然とした部屋だった。一隅には粗末な寝台が一つ置いてあった。壁には脱ぎ棄てた和服洋服がだらしなく掛けてあった。古びた机に壊れかかった椅子が一つ、表紙の取れた雑誌らしいものが一二冊、机の上に置かれていた。「さあ、ここまで来れば一安心だ。とにかく、手を洗って着物を着換え給え」

 青年はそう云って、壁にかけてあった彼の着ているのと同じような労働服を取って、土井の前に差し出した。土井は首を振った。

「そんな必要はない」

「馬鹿云っちゃいけない。まあ、一度手と服とをよく見給え」

 そう云われて気がついて見ると、土井の上衣には血が一面に飛び散っていた。ズボンは血でジトジトだった。手はねばねば血潮で真赤に染まっていた。

 土井は大人しく青年の出した金盥かなだらいで手を洗って、労働服に着換えた。ひどく窮屈なものだった。

 青年は土井の脱ぎ棄てた上衣のポケットを探っていたが、彼は土井が忘れていた原稿料の這入った袋を取り出した。

「あっ、それは」土井は叫んだ。

「ほほう」青年は感嘆したような声を出した。「小説家らしいとは思っていたが、君が土井江南かね」

 青年はあきれたような顔をして、土井の顔をしげしげ見た。

「どうして又、君は人殺しなどをしたのかね」

「僕は殺しやしないったら」土井は腹立しそうに答えた。

「ふん、しかし君は短刀を握っていたじゃないか」

「あれは殺した奴がお礼だと云って握らせたのだ」

可笑おかしな話もあるものだね。お礼の印に君に嫌疑を向けさせるようにしたのかね。そしてそのお礼だというのはどう云う訳なんだ」

「僕が人殺しの現場に立ち会ってやったからさ」

 どうせ、信用される気遣いはないのだ、勝手にしろと云う気で、土井は吐き出すように云った。

「ふん、そうか。確かに君じゃないんだね」青年はじっと考えていたが、「そうか、あいつか、ふむ、じゃ矢っ張り出し抜かれたんだな」

 暫らく首を捻っていた青年は急に気がついたように、手にしていた土井の原稿料の袋の口を開けた。

「大分這入ってるね。これは君にも入用だから上げて置こう。袋は持っていない方が好い。君は頗る危険な位置にいるのだから、くまで労働者の積りで居るがいいよ」

 青年は紙幣を無造作に摑んで、土井のポケットに突込んだが、袋は彼のポケットに入れてしまった。

「まあ、夜が明けるまで、あの寝台で一寝入りし給え。随分草疲くたびれたろうから。朝になれば君は大手を振って、出て行けばいいのだ」

 云わるるままに土井は寝台の傍に寄った。彼は実際疲れていた。それに考えたい事が沢山あった。

 彼は、ゴロリと寝台の上に横になった。

 彼は今夜経験した奇妙なそうして恐ろしい出来事について考慮を巡らした。彼は実際人殺しをした覚えはないのだから、甚だ不利な立場にいるとは思ったけれども、そう警察を恐れてはいなかった。深夜浅草界隈を逍遙さまようた事も、彼の職業的立場から云い開きは出来るし、それに床水や満谷も証言してくれるに違いない。怪しい老人に会ってから以後の事は、弁明がしにくいが、土井にはあの未知の女を殺す理由がある筈がなく、あの怪老人が由利で、殺されている女が由利の情婦だと云う事でも判明すれば、嫌疑も薄くなると云うものだ。して見ると土井は反って非常に面白い経験をしたと云う事になる。井戸川や、床水、満谷などを羨望させる事が出来る、そう考えると彼はちょっと愉快だった。 だが、あの老人が捕まらず、いや、それよりも捕まった暁に、彼が殺した事実を否定したらどうなるか。土井は蒼くなった。

「ああ、駄目だ」土井は力なく呟いた。俺はあの老人を信じ過ぎていた。あの老人が自首すると云うので安心していたのだ。あの老人が一切そんな事は知りませんと首を振ったら、俺はおしまいだ。

 そう思うと、土井はこの親切そうな青年に対して、急に不安が募って来た。殊によったら、この青年はあの老人と共謀して、彼に殺人の罪をせようとしているのではないか。

「ああ馬鹿な事をした。俺はあの時に直ぐ警察に訴えれば好かったのだ。時が経てば経つ程、俺の話は信ぜられないに違いない。こんな所で変装なんかして、潜伏している所を捕まったら、一体どうして云い開きが出来ると云うのだ」

 土井は直ぐに飛び起きて警察へ行こうと思ったが、又思い返した。今からではもう遅い、警察ではどうして素直に彼の話を受入れてくれるものか。それにあの青年はきっと止めるだろう。そう思うと又勇気が挫けるのだった。

 土井は馬鹿らしいやら、恐ろしいやら、心配やらで、頭の中は混乱した。滅多に家を明けた事のない彼は、未だ玄関の締まりをしないで、ぼんやり待ち佗びているであろう妻の事を考えて、一種の焦燥を感じた。云い解く術もなく、捕われて投獄せられる場面を思い浮べると、後海の念がむらむらと起るのだった。

「ああ、俺は深夜の浅草を探険するなんて、馬鹿らしい事を止せばよかった」

 しかし、あの老人の突つめた態度や、抵抗らしい抵抗も試みないで、殺されてしまった女の事を考えると、老人が彼に罪を被せるために仕組んだ事とは思えなかった。女を殺して、この世の望みを果したような老人の様子は、満更嘘とも思えなかった。

「心配したって仕方がないじゃないか。どうせなるようにしかならないのだ。自分の蒔いた種だ。自分で刈るより仕方がない」

 最後に彼はどうでもなれと度胸をめた。と、今までこらえていた眠さが一時に出て来た。彼は軽いいびきを立てて寝入ってしまった。

 青年はコトコトと何か片づけものをしていたが、土井の寝入ったのを見ると、思い出したように、ポケットからさっきの原稿料の袋を出して、電燈に照らしながら眺めてみたが、みるみる彼の顔には喜悦の色が溢れた。彼は急いで袋を元の通りポケットに捻じ込むと、土井の方をチラリと見やって、忽ち室の外へ出て行った。



 哀れな土井江南はその夜、何と云う呪われた運命に置かれたのだったろう。彼は心身共に疲れ果てて、鼾と共に怪しい青年の寝台に斃れるように、寝入ったのだったが、ものの三十分も経たないうちに激しく揺り起された。彼の寝入った時間の少かった事は、彼が寝台に潜り込んだ時も真夜中だったし、寝台から引摺り出すようにして起された今も、相変らず真夜中であった事でも分る。

 寝呆け眼をこすりこすり四辺あたりを見廻すと、土井の廻りには犇々ひしひしと警官が詰めかけていた。

「葛城、とうとう捕まったな」古株らしい警部が憎々しげに云った。

「もう、ジタバタしても駄目だぞ」もう一人の警部が云った。

「さあ、お縄を頂戴しろ」「ぼ、僕は葛城じゃありませんぜ」土井は吃驚びつくりして云った。

「僕は土井江南です」

「何だって」始めの警部は大きな声を出した。「土井江南だって、土井と云えば探偵小説家じゃないか」

「そうです」

「うむ、そう云や、葛城にしては少し肥り過ぎているようだ」

「成程、本当に土井らしいですよ」刑事の一人が云った。

 若い方の警部は突然いきなり土井に飛びついて、彼の薄くなっている頭髪をうんと引っ張った。それから彼の出っ張った腹を、力委せに押した。

「な、何をするんです」土井は真赤になって呶嗚った。

仮髪かつらでもないし、肉を着ているようでもない」警部は土井の呶声などは耳にも入れないで、残念そうに云った。「ちよっ又してママやられた、旨々うまうまと葛城に逃げられたぞ」

「一体、あなたはどうしてこんな所に、こんな風をしているんですか」古参の警部はなじるように云った。

 相次いで起った忌わしい出来事に気を腐らしたのと、警部達に眠い所を引摺り起されて、挙句散々の侮辱に、カッとなった土井は思わず大声に叫んだ。

「僕は人を殺したんですッ」

 自分は散々に侮辱する警官の度胆を抜いて、アッと云わする痛快味を味わうために、土井は思わずこんな事を口走ったが、ああ、飛んでもない事を云ったものだ。

「何ッ!」警部は果して飛び上る程驚いた。「どこで殺したんだッ!」

「隣の二階へ行って見給え」土井は平然と答えた。

 あっけに取られた警官達は土井をしっかり捕まえながら、ゾロゾロと下へ降りて、隣家に行き、再びそこの二階へ上ると、一室を覗き込んだが、一同あっと顔色を変えた。室の中には一人の女が無残にも惨殺されていたのである。

「おい、君、ありのままを白状し給え」

 顔面筋肉を緊張させた警部は、すっかり語調を変えて、土井を睨めつけながら云った。

 土井は宵の口からの一伍いちぶ一什しじゆうを委しく物語つた。しかし、誰も信用するものはなかった。

「ふふん、成程、小説らしい話だなあ」警部は云うのだった。

「創作としては面白いかも知れんが、とても事実としては信じられないね。君はさっき一旦殺しましたと自白したんだから、潔よく云ってしまったらどうだね」

「葛城らしい青年に会った事は本当かも知れん」も一人の警部は云った。「我々は彼を捕縛する目的で来たんだからね。しかし、由利鎌五郎を持ち出したのは流石小説家だね。成程、あいつなら人殺しをする所を見せるかも知れない。しかし、そんな作り話で我々を瞞着しようたって、そうはいかないよ。土井君、君らしくもない、君達がいつも小説に扱っている通り、犯罪は隠し通せるものじゃないのだ。さあ、真直ぐに白状し給え」

 土井はすっかり絶望した。今から考えれば、葛城春雄に相違ない所の青年が、警官を信用させる事は至難であると云った言葉を今更のように思い出した。しかし、土井が葛城の勧めに委せて変装したり、又腹立まぎれに自ら人を殺したなど云わなければ、こんな事にはならなかったろう。すべては自分の過まママちだ。

「信じないなら僕をお縛りなさい」土井は棄て鉢になって云った。「真犯人が出て来るまで、僕は刑務所にいます」

「無論、僕は君を現行犯として捕縛する」

 警部は断乎として云ったが、土井の案外動揺しない態度に、些か不審を感じたので、つけ加えて云った。「云い開きがあるなら、署長なり、検事なりにするさ」

 警部はこう云いながら、土井に捕縄をかけようとした。その時あわただしく、階段を駆け上る靴音がした。

「社会新報社の者です」

 現われたのは短く刈込んだ鬚を生やした、いかにも新聞記者らしい、キビキビした中年の男だった。

「何の用で、ここへ来たのですか」警部は不愉快な表情を表わして云った。

「只今、社へ由利鎌五郎と云う老人が訪ねて来まして、復讐のために或る女性を殺した、自首をして出るつもりではあるが、その前に身の上話しを聞いてくれと、こう云うのです。彼は兇行の現場を委しく語りましたので、果して彼の云う所が正しいか、調査に参ったのです」

「えっ、それは実際の話しですか」警部は驚きながら、「本人は由利に相違ないのですか」

「相違ありません。由利は自分のために迷惑する紳士があるから、救ってくれと申しました。現場に青貝で螺鈿らでんした美しい柄の短刀があったでしょう。それこそ由利が肌身離さず持っていたもので、それで女を一刺しにしたのだそうです」

「うむ、この短刀だ」警部は証拠品として押収してあった、血にまみれた短刀を眺めた。

「その短刀の柄には仕かけがあるそうです。ちょっとお見せ下さいませんか」

 警部は黙って新聞記者に短刀を渡した。

 彼は暫く短刀をいじり廻していたが、やがて大した力も加えず柄を抜いた。とポロリと彼のてのひらに落ちたものがある。それは電燈の光を受けてキラリと輝く大粒の宝玉だった。

「彼の云った通りです。御覧なさい。これは由利が某富豪の所へ押入って、盗んだ宝玉の一つ、最も高価なアレキサンダー石です。まあ、この美しい色彩を御覧なさい。貴族富豪の徒がこう云う崇高な宝玉を喜ぶのは当前です。そうして由利のような盗賊が欲しがるのも無理はありませんね」

 こう喋っているうちに彼の目は爛々と輝いて来て、表情が何となく冷え切った凄味を現わして来た。

「葛城だ!」

 誰云うとなしにそんな囁きが洩れて来た。

 と、あたかも霊感に射られたように、主任警部はハッとして威丈高いたけだかになった。

「葛城春雄! 今度は逃がさぬぞ!」

「ハハハハハハ」彼は哄笑した。「やっと分りましたか、看破られるのは覚悟の前でした。むしろ遅かったと思いますね。私はちょっとこの短刀が見たかったのです。しかし、この女は由利が殺したのである事は問違いありません。由利はこの紳士にいろいろ面倒をかけたので、お礼の印としてこの短刀を紳士に与えたのです。お礼と云うのはつまり柄に秘めてあったこの宝玉の事です。宝石は元の所有主の手に帰りましょうが、その人はこの紳士に相当の謝礼をしなければなりませんよ。では、ここに貴重な証拠品である短刀と、美しい宝石を置きますよ。さようなら、みなさん」

 彼はそう云ううちに少しずつ、後退あとずさりをした。階段の上り口の辺に達すると――彼は上り口の直ぐ近所に立っていた――背中で壁を押した。あっと云う間に彼の姿は消えた。

「逃がすなッ!」

 あっけに取られながら警部は呶鳴った。

 警官逹は忽ち四方に飛散った。或者は葛城の消え去った壁に突進し、或者は窓から屋根へ、或者は階段を飛び降りて階下へ。

 闇をつんざく呼子の音がここかしこに起った。人々の罵り騒ぐ声が、四隣あたりの静寂を破った。そちこちで雨戸をせわしくり開ける音が響いた。

 警部はいらいらしながら、窓にって下を見下していた。土井は蒼白い顔をしている女の屍体の傍に茫然ぼんやり立っていた。

 鶏のときを作る声と共に、夜は白々と明け初ママめたようだった。



 土井江南は暁方から警察署に連れて行かれた。が、幸いにもその日の午後、あの怪老人が由利鎌五郎と名乗って自首して出たので、彼は一切の口供書を取られた後、夕刻帰宅を許された。

 渋谷の寓居に帰る途中、彼はもし由利が自首して出ないか、又彼に自首する意志はあったにしても、不慮の事で死にでもしたら、どんな窮境に陥ったであろうと思うと、恐怖のために身顫いを禁ずる事が出来なかった。

 短刀を握って、惨殺された女の前に立っていた所を捕えられ、由利も姿を現わさず、葛城も来合わせなかったとしたら、土井は恐らく最低限度数年間未決に繫がれるような憂目を見た事であろう。

 土井は不機嫌な顔をして帰宅すると、心配そうに出迎えた妻に直ぐに床を延べさせ、グッスリと寝込んでしまった。

 彼が眼を覚ましたのは翌日の昼近くで、二十時間近くをぶっ通して寝てしまったのだった。

 ようやくの事で起き上ると、彼の枕許には厚ぼったい手紙が置かれていた。妻に聞くと、さっき見馴れない使いの人が見えて置いて行ったと云う事だった。不審に思いながら開いてみると、それは思いがけなくも怪盗葛城春雄から来たものだった。


 親愛なる土井江南様

 昨夜は図らずもあなたにお目にかかる光栄を得た事を喜びます。さて、私は昨夜の一見不可解な怪事件について、少しく解説をつける義務があると信じます。もっとも卓越した推理力の所有者であるあなたは既に御推察されたかも知れません。

 何から申上げましょうか、かなり複雑した事ですから、話しの端緒に苦しみますが、とにかく、あなたは新聞紙上その他で、私が由利鎌五郎の脱監を補助した事実は御承知の事と存じます。由利は自由の身になってから、自分を裏切った情婦に復響をするなどと云っていましたが、実はその事は私の知らない事で、私は単に由利が隠匿している莫大な金と宝石とを得たいために彼を救い出したのでした。

 ところが、彼もしたたか者で隠場所を中々教えないのです。もっともその時には彼が心覚えにして置いた暗号が行方不明になっていたのですから、或は彼自身に、正確に分らなかったかも知れません。そんな事で私は彼と遂に仲違いをするようになって、折角彼を救け出しながら、又もや単独で彼の隠した金をねらうようになったのです。

 彼の拵えた暗号と云うのは、彼が懲役中に、府下某地の製紙会社に紙漉かみすきの労働に従事した事がありましたが――同盟罷工を破るために会社側が政府を動かして、そんな事をしたのかも知れませぬ――その時に、彼はかねてから外部のものに、文通する機会を覘っていたものですから、自分のいた模造紙に暗号の文字を透かし入れたのでした。

 ところが、その模造紙は旨く乾分こぶんの手に這入らず、そのまま他の紙と一聯になったまま、紙商の手に這入ってしまったのです。私は苦心して、それからそれへとその紙の行方を探りましたが、この頃になって、ようやくそれが原稿料を入れる袋に貼られて、卓聞堂に納められたと云うことを知ったのです。

 それで私は部下を督励して、卓聞堂へ納められた袋を盗ませようとしましたが、その時既に袋の一部にはそれぞれ原稿料を入れて、寄稿家の手に渡った後だったので、私達は又その一人一人について、手を廻さねばならなかったのです。

 昨夜、部下の一人があなたの手に一つの袋が渡された事を知って、カフェ・コルネリアまで追跡しました。あなたは多分口論かなんかしていた私の部下をお認めになった筈だと思います。

 それから部下は申し上げる迄もなく、あなたのお伴をして浅草まで参りました。

 部下の話しでは、あなたはひどく酔って、しどろもどろの足取で、あてもなく歩き廻られるので、随分困ったと云います。何でもあなたは浅草公園の裏を、何回となくグルグル廻られたと云う事です。

 もとよりあなたに喧嘩でも吹きかけて、袋をる事は出来たかも知れませんが、私は後の事を考えて出来るたけ巧妙に対手に気づかれないように袋だけ奪るように云いつけてありましたので、部下もちょっと手が出せなかったのでした。

 或る四角の所で、あなたは急に振り向いて、ステッキを振り上げながら、ひどい剣幕で呶鳴られたそうですね。追跡した部下は驚いて、家の間の狭い路地に身を潜めていたのですが、その暇にあなたはいつの間にやら姿を消してしまったそうですね。

 部下は驚いて、あわてて探し廻りましたが、思いがけなくもあなたが、私の隠家の一つにしてある家に這入ったらしいので、彼は吃驚しました。

 彼はあなたが名高い探偵小説家であると云う事はよく知らなかったのでしたが、何か私に用でもあって来たのではないかと思って、家の中に這入る事をわざと遠慮していました。

 偶然に帰って来た私は、部下から以上の報告を聞いて、不思議に思いながら、二階へ上って見ると、あなたが血に染まった短刀を握って、女の惨たらしい屍体の前に立っておられると云う驚くべき場面を見たのでした。私はとにかくあなたを救わねばならぬと思って、隣りの私の本当の隠家に連れて来たのです。

 ところがだんだん話しを聞いて見ると、女を殺したのは別にあるらしい。私はふと思い当りました。由利の所為に相違ない。由利はかねがね裏切った情婦に復讐すると云っていたし、死んでいた女がどうやら噂に聞いた彼の情婦に似ている。

 彼がどうして私の隠家へ女を連れ込んだか。私の隠家と知ってか知らずか。私は多分彼が私の隠家と知って、かねがね仲違いをしていた私に鼻を明かさせる目的だったのではないかと思います。彼があなたを呼び込んだのは、一つには女を殺す場面を見せて、一種の快感を味わうと云う変態心理と一つには女の潔よい最期を見せたいと云うのだったでしょう。 私はあなたに変装させる事によって、あなたの持っていた原稿料の袋を手に入れる事が出来ました。そうして幸運にも、それが永い間尋ね求めていた透かし入りの紙だったのです。

 私は部下のものにその事を知らせるためにちょっと外出しましたが、その留守にいつの間にか、私の巣窟を嗅ぎつけた警官が闖入して来たのでした。そのためにあなたに御迷惑をかけた事を深く謝します。

 私は大変な事を発見して落胆がつかりしました。私の苦心して手に入れた暗号には別に附属した地図がなければ何の役にも立たないのです。

 そのふと思いついたのは例の短刀です。殊に由利があなたにお礼に上げると云って渡したと云う事を思い出したので、きっと何か仕掛けがあると思ったのです。が、その時は既にあなたは屍体のある現場に連れて行かれていたので、一つにはあなたの窮境を救うため、咄嗟とつさに変装して、警官の真只中に飛び込んだのです。

 案の条、短刀の柄に大きな宝石と共に細かく畳んだ地図が潜んでいました。地図は手早く抜取ってしまいました。短刀の柄に思いついたのは、柄に青貝の螺鈿があった事から、何か機関からくりがあると思ったのです。もし柄から何も出て来ないか、或は柄の抜き方が直ぐ分らなかったら、私の立場は危険千万でした。あの高価な燦然としたアレキサンダーは少くとも一時、警官方の眼を眩ましてくれましたからねえ。

 こんな事で、由利の隠した金は私の手に這入りそうです。その暁には又改めてお礼申します。

 ではさようなら

葛城春雄

 読み終った土井江南は、昨夜の出来事を夢のように思い出しながら、葛城のやり方に舌を捲くと共に実際の渦中に投ずると、推理を働かす暇もすべもない事を、つくづく嘆じたのだった。

(「新青年」昭和三年一月号)

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