原子力損害の補完的な補償に関する条約
原子力損害の補完的補償に関する条約をここに公布する。
御名御璽
平成二十七年一月十六日
内閣総理大臣 安倍 晋三
条約第一号
- 原子力損害の補完的補償に関する条約
締約国は、
原子力損害についての民事責任に関するウィーン条約及び原子力の分野における第三者に対する責任に関するパリ条約並びにこれらの条約の原則に適合する原子力損害の賠償又は補償に関する国内法令が定める措置の重要性を認識し、
原子力損害の賠償又は補償の額を増加することを目的として、当該措置を補完し、及び拡充するための世界的な責任制度を設けることを希望し、
さらに、当該世界的な責任制度が、国際的な連携及び連帯の原則に従って、原子力の安全の水準を更に向上させる地域的及び世界的な協力を奨励するであろうことを認識して、
次のとおり協定した。
第一章 総則
編集- 第一条 定義
- この条約の適用上、
- (a) 「ウィーン条約」とは、千九百六十三年五月二十一日の原子力損害についての民事責任に関するウィーン条約(同条約の改正であって、この条約の締約国について効力を有しているものを含む。)をいう。
- (b) 「パリ条約」とは、千九百六十年七月二十九日の原子力の分野における第三者に対する責任に関するパリ条約(同条約の改正であって、この条約の締約国について効力を有しているものを含む。)をいう。
- (c) 「特別引出権」(以下「SDR」という。)とは、国際通貨基金の定める計算単位であって、同基金がその操作及び取引のために使用するものをいう。
- (d) 「原子炉」とは、核燃料を収納する構造物であって、中性子源を追加することなく自己維持的な核分裂の連鎖の過程が内部で起こり得る仕組みのものをいう。
- (e) 原子力施設について「施設国」とは、当該原子力施設が自国の領域内に所在する締約国をいい、当該原子力施設がいずれの国の領域内にも所在しない場合には、当該原子力施設の事業を行う締約国又は当該原子力施設の事業が自国の権限の下で行われる締約国をいう。
- (f) 「原子力損害」とは、(i)及び(ii)に掲げる損害並びに権限のある裁判所が属する国の法令によりその範囲が決定される(iii)から(vii)までに掲げる損害をいう。この場合において、(i)から(v)まで及び(vii)に掲げる損害については、原子力施設内部の放射線源、原子力施設内の核燃料、放射性生成物若しくは放射性廃棄物又は原子力施設から搬出され、原子力施設に由来し、若しくは原子力施設に送付される核物質から放出される電離放射線により生じ、又は起因するもの(当該損害が、それらの物の放射性により生じたか、それらの物の放射性とそれらの物の有毒性、爆発性その他の有害性との組合せにより生じたかを問わない。)に限る。
- (i) 人の死亡又は人的な損害
- (ii) 財産の滅失又は損傷
- (iii) (i)又は(ii)に掲げる損害から生ずる経済的損失。ただし、(i)又は(ii)に掲げる損害に関して請求権を有する者が受けたものについては、(i)又は(ii)に掲げる損害に含まれないものに限る。
- (iv) 環境の悪化(重大でないものを除く。)に対する回復措置の費用。ただし、実際にとられた措置又はとられる措置の費用であって、(ii)に掲げる損害に含まれないものに限る。
- (v) 環境の利用又は享受に係る経済的利益から生ずる収入の喪失であって、その環境の重大な悪化の結果として生ずるもの。ただし、(ii)に掲げる損害に含まれないものに限る。
- (vi) 防止措置の費用及び防止措置により生ずる損害
- (vii) その他経済的損失。ただし、環境の悪化によるものを除き、権限のある裁判所が属する国の民事責任に関する一般法により認められるものに限る。
- (g) 「回復措置」とは、措置がとられる国の権限のある当局により承認された合理的な措置であって、損害を受け、若しくは破壊された環境の構成要素を回復し、若しくは修復すること又は合理的な場合には当該構成要素に相当するものを環境に導入することを目的とするものをいう。当該合理的な措置をとることができる者については、損害が生じた国の法令により定める。
- (h) 「防止措置」とは、(f)(i)から(v)まで又は(vii)に掲げる損害を防止し、又は最小限にするため、原子力事故が生じた後にいずれかの者によりとられる合理的な措置をいう。ただし、当該合理的な措置がとられる国の法令により必要とされる権限のある当局の承認を条件とする。
- (i) 「原子力事故」とは、一の出来事又は同一の原因による一連の出来事であって、原子力損害を生じさせるもの又は防止措置のみに関しては原子力損害をもたらす重大かつ急迫の脅威を生じさせるものをいう。
- (j) 「原子力設備容量」とは、各締約国について、第四条2に規定する計算式により得られる単位数の合計をいい、「熱出力」とは、権限のある国内当局により認可された最大熱出力をいう。
- (k) 「権限のある裁判所が属する国の法令」とは、この条約に従い管轄権を有する裁判所が属する国の法令(法の抵触に関する規則を含む。)をいう。
- (l) 「合理的な措置」とは、権限のある裁判所が属する国の法令の下で、次に掲げる事情その他の全ての事情について考慮した場合において、適切かつ相応と認められる措置をいう。
- (i) 生じた損害の性質及び程度。防止措置の場合には、損害の危険性の性質及び程度
- (ii) 措置がとられる時点において予想される当該措置の有効性の程度
- (iii) 関連する科学的及び技術的な知見
第二章 賠償又は補償
編集- 第三条 約束
- 1 一の原子力事故当たりの原子力損害に関する賠償又は補償は、次に掲げる措置により確保される。
- 2
- 3 賠償又は補償が行われる原子力損害について、1(b)に規定する資金の総額が必要でない場合には、拠出金は、これに応じて減額される。
- 4 原子力損害の賠償又は補償の請求の訴えにおいて裁判所が裁定する利息及び費用は、1(a)及び(b)の規定に従って提供される金額に加えて、責任を負う事業者、当該事業者の原子力施設が自国の領域内に所在する締約国及びその他の締約国が1(a)及び(b)の規定に従って支払う実際の拠出金の金額にそれぞれ比例して、それらにより共同で支払われる。
- 第四条 拠出金の計算
- 1 締約国が前条1(b)に規定する公的資金を利用可能とするための拠出金の計算式については、次のとおりとする。
- (a)
- (b) (c)の規定が適用される場合を除くほか、各締約国の拠出金は、(a)(i)及び(ii)に規定する金額の合計とする。ただし、国際連合の最低限度の分担率が適用される国であって、原子炉を保有していないものは、拠出することを要求されない。
- (c) 施設国以外の締約国に対して(b)の規定に従って請求され得る一の原子力事故当たりの拠出金の最高額は、(b)の規定に従って算定される全ての締約国の拠出金の合計に当該締約国に係る特定の百分率を乗じた金額を超えないものとする。個々の締約国に係る当該特定の百分率は、百分率で表示される当該締約国の国際連合の分担率に百分の八を加えたものとする。事故が生じた時点におけるこの条約の締約国の原子力設備容量の合計が六十二万五千単位以上である場合には、当該特定の百分率は、百分の一増加する。当該特定の百分率は、原子力設備容量の合計が六十二万五千単位を超えて七万五千単位増加するごとに追加的に百分の一増加する。
- 2 1に規定する計算式においては、締約国の領域内に所在する原子炉について熱出力一メガワットを一単位とするものとし、第八条の規定に従って作成され、及び更新される一覧表に原子力事故の日に記載されている原子炉の熱出力に基づいて算定するものとする。
- 3 拠出金の算定に当たっては、原子炉は、核燃料要素が最初に当該原子炉に装荷された日から考慮の対象とする。原子炉は、全ての燃料要素が当該原子炉の炉心から永久に除去され、かつ、承認された手続に従って安全に貯蔵された時に当該算定から除外する。
- 第五条 地理的な適用範囲
- 1 第三条1(b)に規定する資金は、締約国の裁判所が第十三条の規定に従って管轄権を有することを条件として、次に掲げる原子力損害に使用する。
- (a) 締約国の領域内において生ずる原子力損害
- (b) 締約国の領海を越える海域又はその上空において生ずる原子力損害(この条約の締約国でない国の領海又はその上空で生ずる損害を除く。)であって、次に掲げるもの
- (i) 締約国を旗国とする船舶内において生じ、若しくは当該船舶が受ける原子力損害、締約国の領域で登録された航空機内において生じ、若しくは当該航空機が受ける原子力損害又は締約国の管轄の下にある人工島、施設若しくは構築物において生じ、若しくはこれらが受ける原子力損害
- (ii) 締約国の国民が受ける原子力損害
- (c) 締約国の排他的経済水域若しくはその上空又は締約国の大陸棚において、当該排他的経済水域又は当該大陸棚の天然資源の開発又は探査に関連して生ずる原子力損害
- 2 いずれの署名国又は加入国も、この条約への署名若しくは加入の際又は批准書の寄託の際に、1(b)(ii)の規定の適用上、自国の領域内に常居所を有すると自国の国内法令の下で認められる個人又はそのうちの一定の範囲の者を自国の国民とみなすことを宣言することができる。
- 3 この条において「締約国の国民」とは、締約国若しくはその行政区画又は組合若しくは公私の団体(締約国の領域において設立されたものに限り、法人であるかどうかを問わない。)を含むものとする。
第三章 補完的な資金調達の制度
編集- 第六条 原子力損害の通報
- 締約国が他の国際的な合意に従って負う義務に影響を及ぼすことなく、自国の裁判所が管轄権を有する締約国は、原子力事故により生ずる損害が第三条1(a)の規定に従って利用可能とされる金額を超え、又は超えることが見込まれ、かつ、同条1(b)の規定に基づく拠出金が必要となる可能性があると認める場合には、他の締約国に対し当該原子力事故について直ちに通報する。これに関連し、締約国は、締約国間の手続を定めるため、全ての必要な措置を遅滞なくとるものとする。
- 第七条 資金の要請
- 1 第十条3の規定が適用される場合を除くほか、自国の裁判所が管轄権を有する締約国は、前条に規定する通報の後、第三条1(b)の規定に従って必要とされる公的資金が実際に必要となる限度で、かつ、当該公的資金が実際に必要となる時に、他の締約国に対し当該公的資金を利用可能とすることを要請する。その要請を行った締約国は、当該公的資金を使用する排他的権限を有する。
- 2 締約国は、通貨又は送金に関する現行又は将来の規則にかかわらず、第三条1(b)の規定に従って提供される拠出金の送金及び支払を何ら制限を設けることなく許可する。
- 第八条 原子力施設の一覧表
- 1 締約国は、批准書、受諾書、承認書又は加入書の寄託の際に、第四条3に規定する原子力施設を全て記載した完全な一覧表について寄託者に通報する。当該一覧表には、拠出金の計算のために必要な事項を含める。
- 2 締約国は、一覧表について行う全ての修正を寄託者に対し速やかに通報する。当該修正が原子力施設の追加を含む場合には、その通報は、その施設への核物質の搬入の予定日の少なくとも三箇月前に行う。
- 3 締約国は、他の締約国が1の規定に従って通報した事項又は2の規定に従って通報した一覧表について行った修正がそれらの規定に従っていないと認める場合には、5の規定に基づく通報を受領した日から三箇月以内に、当該事項又は当該修正に対する異議を寄託者に申し立てることができる。寄託者は、情報に対する異議が申し立てられた国に対し、直ちに当該異議を通報する。解決されない意見の相違については、第十六条に規定する紛争解決手続に従って取り扱う。
- 4 寄託者は、この条の規定に従って作成される原子力施設の一覧表を保持し、更新し、及び全ての締約国に毎年配布する。当該一覧表には、この条に規定する事項及び修正の全てが記載されるものとし、この条の規定に従って申し立てられた異議は、当該異議が認められる場合には、申し立てられた日に遡って効力を有するものとする。
- 5 寄託者は、できる限り速やかに、この条の規定に従って受領した通報及び異議を締約国に通報する。
- 第九条 求償権
- 1 締約国は、責任を負う事業者の原子力施設が自国の領域内に所在する締約国及び第三条1(b)に規定する拠出金を支払ったその他の締約国が、第一条に定義する条約のいずれか又は第二条1(b)に規定する国内法令に基づいて当該事業者が有する求償権の範囲内において、かつ、締約国が支払った拠出金の限度において、当該事業者が有する求償権から受益することができるようにするため、法令を制定する。
- 2 責任を負う事業者の原子力施設が自国の領域内に所在する締約国は、損害が当該事業者の過失の結果生ずる場合には、この条約に従って利用可能とされる公的資金を当該事業者から回収することについて法令で定めることができる。
- 3 自国の裁判所が管轄権を有する締約国は、拠出金を支払った他の締約国に代わって1及び2に規定する求償権を行使することができる。
- 第十条 資金の使用及び手続
- 1 第三条1の規定に従って利用可能とされる資金の使用の制度及び当該資金の分配の制度は、自国の裁判所が管轄権を有する締約国の制度とする。
- 2 締約国は、損害を受けた者が賠償又は補償のために提供される資金の財源に応じて個別の手続をとることなく当該賠償又は補償を受ける権利を行使することができること及び責任を負う事業者に対する手続に締約国が参加することができることを確保する。
- 3 いずれの締約国も、第三条1(a)に規定する資金により賠償又は補償の請求が満たされる場合には、同条1(b)に規定する公的資金を利用可能とすることを要求されない。
- 第十一条 資金の分配
- 第三条1(b)の規定により提供される資金は、次のとおり分配する。
- 1
- (a) 当該資金の五十パーセントに相当する金額は、施設国の内外で生ずる原子力損害に係る請求について賠償又は補償を行うために利用可能とする。
- (b) 当該資金の五十パーセントに相当する金額は、施設国の領域外で生ずる原子力損害に係る請求について、(a)の規定に基づく賠償又は補償が行われない範囲内において、賠償又は補償を行うために利用可能とする。
- (c) 第三条1(a)の規定により提供される金額が三億SDRを下回る場合には、
- (i) 1(a)に規定する金額については、第三条1(a)の規定により提供される金額が三億SDRを下回る割合と同じ割合で減ずる。
- (ii) 1(b)に規定する金額については、(i)の規定に基づく算定により減ぜられる金額を加える。
- 2 締約国が、第三条1(a)の規定に従って、原子力事故に先立って六億SDR以上の金額を寄託者に明示し、かつ、当該金額を差別なしに利用可能とすることを確保する場合には、同条1(a)及び(b)に規定する資金の全ては、1の規定にかかわらず、施設国の内外で生ずる原子力損害の賠償又は補償を行うために利用可能とする。
第四章 選択権の行使
編集- 第十二条
- 1 この条約に別段の定めがある場合を除くほか、締約国は、ウィーン条約又はパリ条約により付与される権限を行使することができるものとし、ウィーン条約又はパリ条約のいかなる規定も、他の締約国が第三条1(b)に規定する公的資金を利用可能とするため当該他の締約国について援用することができるものとする。
- 2 この条約のいかなる規定も、締約国がウィーン条約若しくはパリ条約又はこの条約の範囲外の規定を設けることを妨げるものではない。ただし、当該規定は、他の締約国にとっての追加的な義務を含まないものとし、自国の領域内に原子力施設を有しない締約国における損害は、相互主義の欠如を理由として追加的な賠償又は補償の対象から除外されないものとする。
- 3
- (a) この条約のいかなる規定も、締約国が第三条1(a)の規定に基づく義務を履行し、又は原子力損害の賠償若しくは補償のために追加的な資金を提供するため、地域的な協定その他の協定(他の締約国についてこの条約に基づく義務に追加的な義務を含まないものに限る。)を締結することを妨げるものではない。
- (b) (a)に規定する協定を締結する意図を有する締約国は、他の全ての締約国に対し当該意図を通報する。締結された協定については、寄託者に通報する。
第五章 管轄権及び準拠法
編集- 第十三条 管轄権
- 1 この条に別段の定めがある場合を除くほか、原子力事故による原子力損害に関する訴えの管轄権は、当該原子力事故が自国内で生じた締約国の裁判所に専属する。
- 2 原子力事故が、締約国の排他的経済水域又は排他的経済水域を設定していない締約国については仮に当該締約国が排他的経済水域を設定した場合における当該排他的経済水域の限界を越えない水域において生じた場合には、当該原子力事故による原子力損害に関する訴えの管轄権は、この条約の適用上、その締約国の裁判所に専属する。前段の規定は、当該締約国が原子力事故に先立ってそれらの水域を寄託者に通報した場合に適用する。この2のいかなる規定も、海洋法に関する国際連合条約を含む海洋に関する国際法に反する方法で管轄権を行使することを認めるものと解してはならない。もっとも、この条約の締約国でない国との関係において、締約国による同段に規定する管轄権の行使がウィーン条約第十一条又はパリ条約第十三条の規定に基づく当該締約国の義務に反する場合には、管轄権は、これらの規定に従って決定される。
- 3 原子力事故が生じた場所が締約国の領域若しくは2の規定に従って通報された水域でない場合又は原子力事故が生じた場所を確定することができない場合には、当該原子力事故による原子力損害に関する訴えの管轄権は、施設国の裁判所に専属する。
- 4 二以上の締約国の裁判所が原子力損害に関する訴えの管轄権を有する可能性がある場合には、当該二以上の締約国は、いずれの締約国の裁判所が管轄権を有するかを合意により決定する。
- 5 管轄権を有する締約国の裁判所が下した判決であって、再び通常の方式で審理されることがないものは、次に掲げる場合を除くほか、承認される。
- (a) 当該判決が詐欺により得られた場合
- (b) 当該判決を言い渡された当事者が自己の主張を陳述するための公平な機会を与えられなかった場合
- (c) 当該判決の承認が自国の領域内で求められる締約国において、当該判決が当該締約国の公の秩序に反する場合又は司法の基本的な基準に合致しない場合
- 6 5の規定に従って承認される判決は、執行が求められる締約国の法令により必要とされる手続に従って執行が求められる場合には、当該締約国の裁判所の判決とみなされ、執行力を付与される。判決が下された請求の当否は、更なる手続の対象としてはならない。
- 7 第三条1(b)に規定する公的資金による賠償又は補償の支払に関して行われる処分であって、国内法令が定める条件に基づくものは、他の締約国により承認される。
- 第十四条 準拠法
- 1 一の原子力事故については、ウィーン条約若しくはパリ条約又はこの条約の附属書のいずれかが、場合に応じ他を排除して適用される。
- 2 この条約、ウィーン条約又はパリ条約のいずれかの規定が場合に応じ適用される場合を除くほか、準拠法は、権限のある裁判所が属する国の法令とする。
- 第十五条 国際法
- この条約は、国際法の一般原則に基づく締約国の権利及び義務に影響を及ぼすものではない。
第六章 紛争解決
編集- 第十六条
- 1 この条約の解釈又は適用に関して締約国間に紛争が生じた場合には、紛争当事国は、交渉又は当該紛争当事国が受け入れることができるその他の平和的な紛争解決手段により紛争を解決するために協議する。
- 2 1に規定する紛争が1の規定に基づく協議の要請から六箇月以内に解決することができない場合には、当該紛争については、いずれかの紛争当事国の要請により、決定のため仲裁又は国際司法裁判所に付託する。当該紛争が仲裁に付託された場合において、当該要請の日から六箇月以内に仲裁の組織について紛争当事国が合意に達しないときは、いずれの紛争当事国も、国際司法裁判所長又は国際連合事務総長に対し、一人又は二人以上の仲裁人の指名を要請することができる。紛争当事国の要請が抵触する場合には、国際連合事務総長に対する要請が優先する。
- 3 締約国は、この条約の批准、受諾若しくは承認又はこの条約への加入の際に、2に規定する紛争解決手続の一方又は双方に拘束されない旨を宣言することができる。他の締約国は、その宣言が効力を有している締約国との関係において、2に規定する紛争解決手続に拘束されない。
- 4 3の規定に基づいて宣言を行った締約国は、寄託者に対する通告により、いつでも当該宣言を撤回することができる。
第七章 最終条項
編集- 第十七条 署名
- この条約は、千九百九十七年九月二十九日からその効力発生までの期間、ウィーンにある国際原子力機関本部において、全ての国による署名のために開放しておく。
- 第十八条 批准、受諾及び承認
- 1 この条約は、署名国により批准され、受諾され、又は承認されなければならない。批准書、受諾書又は承認書は、ウィーン条約若しくはパリ条約の締約国である国又は自国の国内法令がこの条約の附属書の規定に適合する旨を宣言する国からのみ受領する。ただし、千九百九十四年六月十七日の原子力の安全に関する条約に定義する原子力施設を自国の領域に有する国については、同条約の締約国であることを条件とする。
- 2 批准書、受諾書又は承認書は、この条約の寄託者として行動する国際原子力機関事務局長に寄託する。
- 3 締約国は、第三条1(a)及び第十一条2の規定に従って行う明示又は第三条1(a)(ii)の規定に従って暫定的に設定する金額を含め、第二条1に規定する国内法令及びその改正(国際連合のいずれかの公用語で記載するものとする。)の写しを寄託者に提出する。寄託者は、当該写しを他の全ての締約国に送付する。
- 第十九条 加入
- 1 この条約に署名しなかったいずれの国も、この条約の効力発生の後この条約に加入することができる。加入書は、ウィーン条約若しくはパリ条約の締約国である国又は自国の国内法令がこの条約の附属書の規定に適合する旨を宣言する国からのみ受領する。ただし、千九百九十四年六月十七日の原子力の安全に関する条約に定義する原子力施設を自国の領域に有する国については、同条約の締約国であることを条件とする。
- 2 加入書は、国際原子力機関事務局長に寄託する。
- 3 締約国は、第三条1(a)及び第十一条2の規定に従って行う明示又は第三条1(a)(ii)の規定に従って暫定的に設定する金額を含め、第二条1に規定する国内法令及びその改正(国際連合のいずれかの公用語で記載するものとする。)の写しを寄託者に提出する。寄託者は、当該写しを他の全ての締約国に送付する。
- 第二十条 効力発生
- 1 この条約は、五以上の国であって、その原子力設備容量の合計が四十万単位以上となるものが第十八条に規定する文書を寄託した日の後九十日目の日に効力を生ずる。
- 2 この条約は、その後にこの条約を批准し、受諾し、若しくは承認し、又はこの条約に加入する国については、当該国が該当する文書を寄託した後九十日目の日に効力を生ずる。
- 第二十一条 廃棄
- 1 いずれの締約国も、寄託者に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。
- 2 廃棄は、寄託者が1に規定する通告を受領した日の後一年を経過した後に効力を生ずる。
- 第二十二条 終了
- 1 ウィーン条約又はパリ条約のいずれの締約国でもなくなる締約国は、寄託者に対し、その旨及びウィーン条約又はパリ条約のいずれの締約国でもなくなる日を通告する。その通告を行った締約国は、同日にこの条約の締約国でなくなる。ただし、当該締約国の国内法令がこの条約の附属書の規定に適合し、当該締約国が寄託者に対しその旨を通報し、及び当該締約国が自国の国内法令(国際連合のいずれかの公用語で記載するものとする。)の写しを寄託者に提出する場合は、この限りでない。寄託者は、当該写しを他の全ての締約国に送付する。
- 2 自国の国内法令がこの条約の附属書の規定に適合しなくなる締約国であって、ウィーン条約又はパリ条約のいずれの締約国でもないものは、寄託者に対し、その旨及び自国の国内法令がこの条約の附属書の規定に適合しなくなる日を通告する。その通告を行った締約国は、同日にこの条約の締約国でなくなる。
- 3 原子力の安全に関する条約に定義する原子力施設を自国の領域に有する締約国であって、同条約の締約国でなくなるものは、寄託者に対し、その旨及び同条約の締約国でなくなる日を通告する。その通告を行った締約国は、1及び2の規定にかかわらず、同日にこの条約の締約国でなくなる。
- 第二十三条 従前の権利及び義務の継続
- 第二十一条の規定に基づく廃棄又は前条の規定に基づく終了の場合においても、この条約の規定は、当該廃棄又は当該終了の前に発生した原子力事故により生ずる原子力損害について引き続き適用する。
- 第二十四条 改正
- 1 寄託者は、締約国と協議の上、この条約の改正のための会議を招集することができる。
- 2 寄託者は、全ての締約国の三分の一以上からの要請がある場合には、この条約の改正のための締約国会議を招集する。
- 第二十五条 簡易な手続による改正
- 1 寄託者は、締約国の三分の一が希望を表明する場合には、第三条1(a)及び(b)に規定する賠償若しくは補償の額又は第四条3に規定する施設の種類(当該施設について支払われる拠出金を含む。)を改正するために締約国会議を招集する。
- 2 改正案を採択する決定は、投票により行われる。改正案は、反対票が投じられない場合には、採択される。
- 3 寄託者は、2の規定に従って採択された改正を全ての締約国に通報する。当該改正は、その通報の日の後三十六箇月の期間内に、当該改正の採択の時に締約国であった全ての締約国が寄託者に対し当該改正の受諾を通告する場合には、受諾されたものとする。当該改正は、当該改正の受諾の日の後十二箇月で全ての締約国について効力を生ずる。
- 4 当該改正は、受諾のための通報の日から三十六箇月の期間内に3の規定に従って受諾されない場合には、拒否されたものとする。
- 5 2の規定に従って改正が採択された後受諾のための三十六箇月の期間が満了するまでの間にこの条約の締約国となる国は、当該改正が効力を生ずる場合には、当該改正に拘束される。当該期間が満了した後にこの条約の締約国となる国は、3の規定により受諾された改正に拘束される。これらの場合において、それらの締約国は、改正が効力を生ずる日又はこの条約がそれらの締約国について効力を生ずる日のうちいずれか遅い方の日に、当該改正に拘束される。
- 第二十六条 寄託者の任務
- 寄託者は、この条約の他の条に規定する任務を遂行するほか、締約国及び他の全ての国並びに経済協力開発機構事務総長に対し次に掲げる事項を速やかに通報する。
- 第二十七条 正文
- アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際原子力機関事務局長に寄託する。同事務局長は、その認証謄本を全ての国に送付する。
- 以上の証拠として、下名は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。
- 千九百九十七年九月十二日にウィーンで作成した。
附属書
編集- この条約の締約国であって、条約第一条(a)又は(b)に定義する条約のいずれの締約国でもないものは、この附属書の規定で当該締約国において直接適用されないものについて、自国の国内法令がこの附属書の規定に適合することを確保する。自国の領域内に原子力施設を有しない締約国は、この条約に基づく自国の義務を実施するために必要な国内法令を定めることのみが求められる。
- 第一条 定義
- 1 この附属書の適用上、条約第一条に規定する定義に加えて、次に掲げる定義を適用する。
- (a) 「核燃料」とは、自己維持的な核分裂の連鎖の過程によりエネルギーを生産することができる物質をいう。
- (b) 「原子力施設」とは、次に掲げるものをいう。ただし、施設国は、一の事業者の複数の原子力施設であって同一の敷地内に所在するものを一の原子力施設とみなす旨を決定することができる。
- (i) 原子炉(推進の目的であるか他の目的であるかを問わず、動力源として用いるため海上輸送又は航空輸送の手段に設置するものを除く。)
- (ii) 核物質の生産のために核燃料を使用する工場又は核物質の処理のための工場(照射済核燃料の再処理のための工場を含む。)
- (iii) 核物質を貯蔵する施設(核物質の輸送に付随して貯蔵する施設を除く。)
- (c) 「核物質」とは、次に掲げるものをいう。
- (i) 原子炉の外部において、単独で又は他の物質との組合せにより、自己維持的な核分裂の連鎖の過程によりエネルギーを生産することができる核燃料(天然ウラン及び劣化ウランを除く。)
- (ii) 放射性生成物又は放射性廃棄物
- (d) 原子力施設について「事業者」とは、当該原子力施設の事業者として施設国が指定し、又は承認した者をいう。
- (e) 「放射性生成物又は放射性廃棄物」とは、核燃料の生産若しくは利用の際に生産された放射性物質又は核燃料の生産若しくは利用に付随する放射線の照射により放射性を帯びた物質をいう。ただし、科学、医療、農業、商業又は工業の目的で利用することができるように加工の最終段階に達している放射性同位元素を除く。
- 2 施設国は、原子力施設又は少量の核物質について、関連する危険の程度が小さいという理由により正当であると認める場合には、次に掲げることを条件として、この条約の適用を除外することができる。国際原子力機関の理事会は、この条約の適用を除外する原子力施設についての基準及び少量の核物質についての最大限度について定期的に検討する。
- (a) 原子力施設に関しては、この条約の適用を除外するための基準が国際原子力機関の理事会により定められており、かつ、施設国によるこの条約の適用の除外が当該基準に適合していること。
- (b) 少量の核物質に関しては、この条約の適用を除外する核物質の量の最大限度が国際原子力機関の理事会により定められており、かつ、施設国によるこの条約の適用の除外が当該最大限度の範囲内であること。
- 第二条 法令の適合性
- 1 締約国の国内法令は、千九百九十五年一月一日の時点において次に掲げる規定を含み、及び引き続き当該規定を含む場合には、次条から第五条まで及び第七条の規定に適合するものとみなす。
- (a) 原子力施設の敷地外において著しい原子力損害が生ずる原子力事故が生じた場合における無過失責任を定める規定
- (b) 事業者であって原子力損害について責任を負うもの以外の者が補償を行う法的な責任を負う範囲内において補償を行うことを義務付ける規定
- (c) (b)に規定する補償のため、民生用の原子力発電所については十億SDR以上の金額を利用可能とすること及び他の民生用の原子力施設については三億SDR以上の金額を利用可能とすることを確保する規定
- 2 1の規定に従って締約国の国内法令が次条から第五条まで及び第七条の規定に適合するものとみなされる場合には、当該締約国は、次に掲げることを行うことができる。
- 3 2(b)の規定の適用上、「原子力施設」とは、次に掲げるものをいう。
- (a) 民生用原子炉(推進の目的であるか他の目的であるかを問わず、動力源として用いるため海上輸送又は航空輸送の手段に設置するものを除く。)
- (b) 次に掲げる物の加工、再処理又は貯蔵のための民生用施設
- (i) 照射済核燃料
- (ii) 次に掲げる放射性生成物又は放射性廃棄物
- (1) 照射済核燃料の再処理の結果生ずるものであって、相当の量の核分裂生成物を含有するもの
- (2) 九十二よりも大きな原子番号の元素を一グラム当たり十ナノキュリーを超える濃度で含有するもの
- (c) その他核物質の加工、再処理又は貯蔵のための民生用施設。ただし、締約国が、当該施設に関連する危険の程度が小さいという理由により当該施設をこの定義の適用から除外することが正当であると決定するものを除く。
- 4 1の規定に適合する締約国の国内法令が当該締約国の領域外で生ずる原子力事故について適用されない場合において、条約第十三条の規定に従って当該締約国の裁判所が当該原子力事故についての管轄権を有するときは、次条から第十一条までの規定が当該原子力事故について適用されるものとし、次条から第十一条までの規定は、それらの規定に抵触する関係国内法令の規定に優先するものとする。
- 第三条 事業者の責任
- 1 原子力施設の事業者は、原子力損害が次のいずれかの原子力事故により生じたことが立証される場合には、当該原子力損害について責任を負う。ただし、当該原子力損害が、当該原子力施設内における原子力事故であって、核物質の輸送に付随して当該原子力施設内に貯蔵されている当該核物質に係るものにより生ずる場合において、(b)又は(c)の規定により他の事業者又は他の者のみが責任を負うときは、(a)の規定は、適用しない。
- (a) 当該原子力施設内における原子力事故
- (b) 当該原子力施設から搬出され、又は当該原子力施設に由来する核物質に係る原子力事故であって、次のいずれかの時期に生ずるもの
- (i) 書面による契約の明示的な条件に従い、他の原子力施設の事業者が当該核物質に係る原子力事故についての責任を負うこととなる前
- (ii) (i)に規定する明示的な条件がない場合には、他の原子力施設の事業者が当該核物質を管理することとなる前
- (iii) 推進の目的であるか他の目的であるかを問わず、動力源として用いるため輸送手段に設置する原子炉において当該核物質が使用される予定である場合には、当該原子炉の運転について正当に権限を与えられた者が当該核物質を管理することとなる前
- (iv) (i)から(iii)までの規定にかかわらず、この条約の非締約国の領域内の者に当該核物質が送付される場合には、当該非締約国の領域内に到着した輸送手段から当該核物質が取り卸される前
- (c) 当該原子力施設に送付される核物質に係る原子力事故であって、次のいずれかの時期に生ずるもの
- (i) 書面による契約の明示的な条件に従い、当該原子力施設の事業者が当該核物質に係る原子力事故についての責任を他の原子力施設の事業者から引き継いだ後
- (ii) (i)に規定する明示的な条件がない場合には、当該原子力施設の事業者が当該核物質を管理することとなった後
- (iii) 推進の目的であるか他の目的であるかを問わず、動力源として用いるため輸送手段に設置する原子炉を運転する者から当該原子力施設の事業者が当該核物質の管理を引き継いだ後
- (iv) (i)から(iii)までの規定にかかわらず、当該原子力施設の事業者の書面による同意を得てこの条約の非締約国の領域内の者から当該核物質が送付される場合には、当該非締約国の領域から当該核物質を輸送する輸送手段に当該核物質が積み込まれた後
- 2 施設国は、国内法令により、その定める条件に従い、核物質を輸送する者又は放射性廃棄物を取り扱う者を、それらの者の要請及び関係する事業者の同意がある場合には、それぞれ当該核物質又は当該放射性廃棄物について関係する当該事業者に代わる事業者として指定し、又は承認することができる。この場合において、当該核物質を輸送する者又は当該放射性廃棄物を取り扱う者は、この条約の適用上、当該施設国の領域内に所在する原子力施設の事業者とみなされる。
- 3 事業者は、原子力損害について無過失責任を負う。
- 4 原子力損害及び原子力損害以外の損害の双方が、一の原子力事故又は一の原子力事故及び一若しくは二以上の他の出来事の双方により生ずる場合には、当該原子力損害以外の損害は、当該原子力損害と合理的に分割することができない限りにおいて、当該原子力事故により生じた原子力損害とみなす。ただし、損害が、この附属書の規定の適用を受ける一の原子力事故及びこの附属書の規定の適用を受けない電離放射線の放出の双方により生ずる場合には、この附属書のいかなる規定も、当該電離放射線の放出に関連して責任を負い得る者の責任であって、当該原子力損害を受けた者に関するもの若しくは求償若しくは拠出の方法によるものを制限し、又は当該責任に影響を及ぼすものではない。
- 5
- (a) 事業者は、武力紛争、敵対行為、内乱又は暴動に直接起因する原子力事故により生ずる原子力損害について責任を負わない。
- (b) 施設国の法令に別段の定めがある場合を除くほか、事業者は、重大な自然災害であって例外的な性質を有するものに直接起因する原子力事故により生ずる原子力損害について責任を負わない。
- 6 原子力損害の全部又は一部が当該原子力損害を受けた者の重大な過失又は損害を生じさせることを意図した当該原子力損害を受けた者の作為若しくは不作為により生じたことを事業者が証明した場合には、当該事業者が当該原子力損害を受けた者の受けた原子力損害の賠償又は補償を行う義務の全部又は一部は、国内法令により免除することができる。
- 7 事業者は、次に掲げる原子力損害について責任を負わない。
- (a) 原子力施設自体及び当該原子力施設が所在する敷地内に所在する他の原子力施設(建設中のものを含む。)に生ずる原子力損害
- (b) 原子力施設と同一の敷地にある財産であって、当該原子力施設に関連して使用されているもの又は使用される予定のものに生ずる原子力損害
- (c) 国内法令に別段の定めがある場合を除くほか、原子力事故が生じた時に当該原子力事故に関係する核物質が置かれていた輸送手段に生ずる原子力損害。事業者が当該原子力損害について責任を負うことが国内法令により定められている場合には、当該原子力損害の賠償又は補償は、他の損害について事業者が負う責任の額を一億五千万SDR又は締約国の国内法令により設定されるこれよりも高い金額よりも低い額に減少させることとなってはならない。
- 8 この条約のいかなる規定も、7(c)の規定に従いこの条約の下で事業者が責任を負わない原子力損害について、この条約の範囲外において当該事業者が負う責任に影響を及ぼすものではない。
- 9 原子力損害の賠償又は補償を受ける権利は、責任を負う事業者に対してのみ行使することができる。ただし、事業者以外の者の財源からの資金を利用することにより賠償又は補償を確保するため、国内法令の規定に従って利用可能とされる資金の提供者に対して請求する直接の権利が国内法令により認められる場合は、この限りでない。
- 10 事業者は、原子力事故により生ずる損害について、この条約に基づく国内法令の規定の範囲外において責任を負わない。
- 第四条 責任の額
- 1 条約第三条1(a)(ii)の規定が適用される場合を除くほか、施設国は、一の原子力事故について事業者が負う責任の額を次のいずれかの金額に制限することができる。
- (a) 三億SDR以上の金額
- (b) 一億五千万SDR以上の金額。ただし、施設国が、原子力損害の補償を行うため、三億SDR以上の金額を上限として当該一億五千万SDR以上の金額を超える範囲について公的資金を利用可能とする場合に限る。
- 2 1の規定にかかわらず、施設国は、原子力施設又は関連する核物質の性質及びそれらに起因する事故により見込まれる影響を考慮して、事業者が負う責任の額についてより低い金額を設定することができる。ただし、いかなる場合にも当該金額が五百万SDR以上であること及び1の規定により設定される上限の金額まで施設国が公的資金を利用可能とすることを確保することを条件とする。
- 3 責任を負う事業者について、施設国が1及び2の規定並びに前条7(c)に規定する締約国の法令に従って設定する金額は、原子力事故が生ずる場所のいかんを問わず適用される。
- 第五条 金銭上の保証
- 1
- (a) 事業者は、原子力損害についての自己の責任を担保するため、施設国が定める金額、種類及び条件の保険その他の金銭上の保証を有し、及び維持しなければならない。施設国は、当該保険その他の金銭上の保証から得られる金額が、当該事業者に対する確定された原子力損害についての賠償又は補償の請求を満たすために十分でない場合には、前条の規定により設定する上限(該当する場合に限る。)を超えない範囲において必要な資金を提供することにより、当該請求についての支払が行われることを確保する。施設国は、事業者が負う責任の額に上限がない場合には、責任を負う事業者の金銭上の保証の上限(三億SDR以上のものに限る。)を設定することができる。施設国は、当該金銭上の保証から得られる金額が、当該事業者に対する確定された原子力損害についての賠償又は補償の請求を満たすために十分でない場合には、この1の規定により定める金銭上の保証の額を超えない範囲において当該請求についての支払が行われることを確保する。
- (b) (a)の規定にかかわらず、施設国は、原子力施設又は関連する核物質の性質及びそれらに起因する事故により見込まれる影響を考慮して、事業者の金銭上の保証についてより低い金額を設定することができる。ただし、いかなる場合にも当該金額が五百万SDR以上であること及び保険その他の金銭上の保証から得られる金額が当該事業者に対する確定された原子力損害についての賠償又は補償の請求を満たすために十分でない場合には、施設国が(a)に規定する金銭上の保証の上限まで必要な資金を提供することにより当該請求についての支払が行われることを確保することを条件とする。
- 2 1の規定は、締約国又はその行政区画に対し、事業者として負う自己の責任を担保するために保険その他の金銭上の保証を維持することを求めるものではない。
- 3 1又は前条1(b)の規定に従って保険その他の金銭上の保証又は施設国により提供される資金は、この附属書に基づいて支払われる賠償又は補償にのみ充てる。
- 4 保険者その他の金銭上の保証を提供する者は、1の規定により提供する保険その他の金銭上の保証を停止し、又は取り消す場合には、その停止又は取消しの少なくとも二箇月前に権限のある当局に対して書面により通知するものとし、また、当該保険その他の金銭上の保証が核物質の輸送に関するものである場合には、当該輸送の期間中は、当該保証を停止し、又は取り消してはならない。
- 第六条 輸送
- 1 輸送中の原子力事故に関する事業者の責任の最高限度額は、施設国の国内法令により規律される。
- 2 締約国は、自国の領域を通過して行われる核物質の輸送に関し、事業者の責任の額が自国の領域に所在する原子力施設の事業者の責任の最高限度額を超えない額に増加されることを当該輸送の条件とすることができる。
- 3 2の規定は、次に掲げる輸送については適用しない。
- (a) 海上輸送。ただし、緊急の遭難の際に締約国の港に入る権利又は締約国の領域における無害通航権が国際法により認められる場合に限る。
- (b) 航空輸送。ただし、締約国の領域の上空を飛行し、又はその領域に着陸する権利が合意又は国際法により認められる場合に限る。
- 第七条 二以上の事業者の責任
- 1 原子力損害に二以上の事業者の責任が関与する場合において、それぞれの事業者の責めに帰すべき損害を合理的に分割することができないときは、関係する事業者は、連帯して責任を負う。施設国は、前段の規定により設定される責任の額と第四条1の規定により設定する責任の額との差額(該当する場合に限る。)に一の原子力事故について利用可能とする公的資金の金額を制限することができる。
- 2 核物質の輸送中に、同一の輸送手段において、又は輸送に付随する貯蔵の場合には同一の原子力施設において、原子力事故が生ずる場合において、二以上の事業者の責任が関与する原子力損害が生ずるときは、責任の額の合計は、第四条の規定に従っていずれか一の事業者に適用される責任の額のうち最も高いものを超えないものとする。
- 3 1及び2に規定する場合のいずれの場合においても、それぞれの事業者の責任は、第四条の規定に従って当該事業者に適用される責任の額を超えないものとする。
- 4 1から3までの規定に従うことを条件として、同一の事業者の複数の原子力施設が一の原子力事故に関与する場合には、当該事業者は、関係するそれぞれの原子力施設について、第四条の規定に従って当該事業者に適用される責任の額まで責任を負う。施設国は、1の規定の例により、利用可能とする公的資金の額を制限することができる。
- 第八条 国内法令に基づく賠償又は補償
- 1 この条約の適用上、賠償又は補償の額は、原子力損害の賠償又は補償のための手続において裁定される利息又は費用を考慮することなく決定する。
- 2 施設国外において生ずる損害の賠償又は補償は、締約国間で自由に移転することができる形態で提供する。
- 3 国の又は公的な健康保険、社会保険、社会保障、労働者災害補償又は職業病補償の制度が原子力損害の補償を対象とする場合には、当該制度の受益者の権利及び当該制度に基づく求償権は、当該制度を設けている締約国の国内法令又は当該制度を設けている政府間機関の規則により決定する。
- 第九条 消滅の期間
- 1 この条約に基づいて賠償又は補償を請求する権利は、原子力事故の日から十年以内に訴えが提起されない場合には、消滅する。ただし、施設国の法令により事業者の責任が十年よりも長い期間保険その他の金銭上の保証又は国の資金により担保される場合には、権限のある裁判所が属する国の法令は、事業者に賠償又は補償を請求する権利が十年よりも長い期間(施設国の法令により事業者の責任が担保される期間を超えないものに限る。)の後に消滅することを定めることができる。
- 2 原子力損害が、原子力事故の時点において、盗取され、紛失し、投棄され、又は遺棄されていた核物質が関与する原子力事故により生ずる場合には、1の規定に従って定められる期間は、当該原子力事故の日から起算する。ただし、1に規定する法令が適用される場合を除くほか、当該期間は、いかなる場合にも、核物質の盗取、紛失、投棄又は遺棄の日から二十年を超えないものとする。
- 3 権限のある裁判所が属する国の法令は、消滅又は時効の期間について、原子力損害を受けた者が損害及び損害について責任を負う事業者を知った日又は知り得た日から三年以上の期間を定めることができる。ただし、当該期間は、1及び2の規定に従って定められる期間を超えてはならない。
- 4 締約国の国内法令は、消滅又は時効の期間について原子力事故の日から十年を超える期間を定める場合には、当該原子力事故の日から十年以内に提起された人の死亡又は人的な損害についての請求を公平かつ適時に満たすための規定を含むものとする。
- 第十条 求償権
- 国内法令は、次に掲げる場合にのみ、事業者が求償権を有することを定めることができる。
- (a) 書面による契約によりその旨が明示的に定められる場合
- (b) 原子力事故が、損害を生じさせることを意図した自然人の作為又は不作為により生じた場合において、当該自然人に対して求償するとき。
- 第十一条 準拠法
- この条約の規定が適用される場合を除くほか、原子力事故により生ずる原子力損害の賠償又は補償の性質、形態、範囲及び公平な配分は、権限のある裁判所が属する国の法令により規律される。
外務大臣臨時代理
国務大臣 菅 義偉
文部科学大臣 下村 博文
内閣総理大臣 安倍 晋三
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- 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
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- 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道
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