千載和歌集/巻第五
巻五:秋下
00302
[詞書]題しらす
大弐三位
はるかなるもろこしまてもゆく物は秋のねさめの心なりけり
はるかなる-もろこしまても-ゆくものは-あきのねさめの-こころなりけり
00303
[詞書]堀河院御時、百首歌たてまつりける時、よめる
藤原仲実朝臣
山さとはさひしかりけりこからしのふく夕くれのひくらしのこゑ
やまさとは-さひしかりけり-こからしの-ふくゆふくれの-ひくらしのこゑ
00304
[詞書]崇徳院に百首歌たてまつりける時、秋のうたとてよめる
藤原季通朝臣
秋のよは松をはらはぬ風たにもかなしきことのねをたてすやは
あきのよは-まつをはらはぬ-かせたにも-かなしきことの-ねをたてすやは
00305
[詞書]法性寺入道前太政大臣内大臣に侍りける時の家の歌合に、野風といへる心をよめる
藤原時昌
露さむみうらかれもてく秋ののにさひしくもある風のおとかな
つゆさむみ-うらかれもてく-あきののに-さひしくもある-かせのおとかな
00306
[詞書]承歴二年内裏歌合によめる
藤原正家朝臣
夕くれはをのの萩はらふく風にさひしくもあるか鹿のなくなる
ゆふされは-をののはきはら-ふくかせに-さひしくもあるか-しかのなくなる
00307
[詞書]堀川院御時、百首歌たてまつりける時、よめる
二条太皇大后宮肥後
みむろやまおろすあらしのさひしきにつまよふしかの声たくふなり
みむろやま-おろすあらしの-さひしきに-つまとふしかの-こゑたくふなり
00308
[詞書]堀川院御時、百首歌たてまつりける時、よめる
大納言公実
そまかたにみちやまとへるさをしかのつまとふ声のしけくも有るかな
そまかたに-みちやまとへる-さをしかの-つまとふこゑの-しけくもあるかな
00309
[詞書]題しらす
輔仁のみこ
秋のよはおなしをのへになくしかのふけゆくままにちかくなるかな
あきのよは-おなしをのへに-なくしかの-ふけゆくままに-ちかくなるかな
00310
[詞書]たなかみの山さとにて鹿のなくをききてよみ侍りける
源俊頼朝臣
さをしかのなくねは野へにきこゆれとなみたはとこの物にそ有りける
さをしかの-なくねはのへに-きこゆれと-なみたはとこの-ものにそありける
00311
[詞書]百首歌たてまつりける時、よめる
待賢門院堀河
さらぬたにゆふへさひしき山里の露のまかきにをしか鳴くなり
さらぬたに-ゆふへさひしき-やまさとの-きりのまかきに-をしかなくなり
00312
[詞書]夜泊鹿といへるこころをよめる
刑部卿範兼
みなと川うきねのとこにきこゆなりいく田のおくのさをしかのこゑ
みなとかは-うきねのとこに-きこゆなり-いくたのおくの-さをしかのこゑ
00313
[詞書]夜泊鹿といへるこころをよめる
藤原隆信朝臣
うきねするゐなのみなとにきこゆなりしかのねおろすみねの松かせ
うきねする-ゐなのみなとに-きこゆなり-しかのねおろす-みねのまつかせ
00314
[詞書]夜泊鹿といへるこころをよめる
俊恵法師
夜をこめてあかしのせとをこきいつれははるかにおくるさをしかのこゑ
よをこめて-あかしのせとを-こきいつれは-はるかにおくる-さをしかのこゑ
00315
[詞書]夜泊鹿といへるこころをよめる
道因法師
みなと川夜ふねこきいつるおひかせに鹿のこゑさへせとわたるなり
みなとかは-よふねこきいつる-おひかせに-しかのこゑさへ-せとわたるなり
00316
[詞書]鹿声両方といへる心をよめる
覚延法師
宮城ののこはきかはらをゆくほとは鹿のねをさへわけてきくかな
みやきのの-こはきかはらを-ゆくほとは-しかのねをさへ-わけてきくかな
00317
[詞書]鹿のうたとてよめる
左京大夫修範
さをしかのつまよふこゑもいかなれや夕はわきてかなしかるらん
さをしかの-つまよふこゑも-いかなれや-ゆふへはわきて-かなしかるらむ
00318
[詞書]鹿のうたとてよめる
右京大夫季能
きくままにかたしく袖のぬるるかなしかのこゑには露やそふらん
きくままに-かたしくそての-ぬるるかな-しかのこゑには-つゆやそふらむ
00319
[詞書]鹿のうたとてよめる
法印慈円
山さとのあかつきかたのしかのねは夜はのあはれのかきりなりけり
やまさとの-あかつきかたの-しかのねは-よはのあはれの-かきりなりけり
00320
[詞書]鹿のうたとてよめる
俊恵法師
よそにたに身にしむくれのしかのねにいかなる妻かつれなかるらん
よそにたに-みにしむくれの-しかのねを-いかなるつまか-つれなかるらむ
00321
[詞書]鹿のうたとてよめる
道因法師
夕まくれさてもや秋はかなしきと鹿のねきかぬ人にとははや
ゆふまくれ-さてもやあきは-かなしきと-しかのねきかぬ-ひとにとははや
00322
[詞書]鹿のうたとてよめる
賀茂政平
つねよりも秋のゆふへをあはれとはしかのねにてやおもひそめけん
つねよりも-あきのゆふへを-あはれとは-しかのねにてや-おもひそめけむ
00323
[詞書]鹿のうたとてよめる
惟宗広言
さひしさをなににたとへんをしかなくみ山のさとのあけかたのそら
さひしさを-なににたとへむ-をしかなく-みやまのさとの-あけかたのそら
00324
[詞書]鹿のうたとてよめる
長覚法師
いかはかり露けかるらんさをしかのつまこひかぬるをのの草ふし
いかはかり-つゆけかるらむ-さをしかの-つまこひかぬる-をののくさふし
00325
[詞書]鹿のうたとてよめる
寂蓮法師
をのへより門田にかよふ秋かせにいなはをわたるさをしかのこゑ
をのへより-かとたにかよふ-あきかせに-いなはをわたる-さをしかのこゑ
00326
[詞書]題しらす
よみ人しらす
おとろかすおとこそよるのを山田は人なきよりもさひしかりけれ
おとろかす-おとこそよるの-をやまたは-ひとなきよりも-さひしかりけれ
00327
[詞書]題しらす
源兼昌
わか門のおくてのひたにおとろきてむろのかり田にしきそたつなる
わかかとの-おくてのひたに-おとろきて-むろのかりたに-しきそたつなる
00328
[詞書]題しらす
寂蓮法師
むしのねはあさちかもとにうつもれて秋はすゑはの色にそ有りける
むしのねは-あさちかもとに-うつもれて-あきはすゑはの-いろにそありける
00329
[詞書]題しらす
藤原兼宗朝臣
秋のよのあはれはたれもしるものをわれのみとなくきりきりすかな
あきのよの-あはれはたれも-しるものを-われのみとなく-きりきりすかな
00330
[詞書]虫声非一といへる心をよみ侍りける
左近中将良経
さまさまのあさちかはらのむしのねをあはれひとつにききそなしつる
さまさまの-あさちかはらの-むしのねを-あはれひとつに-ききそなしつる
00331
[詞書]百首歌たてまつりける時、よみ侍りける
大炊御門右大臣
夜をかさねこゑよわりゆくむしのねに秋のくれぬるほとをしるかな
よをかさね-こゑよわりゆく-むしのねに-あきのくれぬる-ほとをしるかな
00332
[詞書]きりきりすのちかくなきけるをよませ給うける
花山院御製
秋ふかくなりにけらしなきりきりすゆかのあたりにこゑきこゆなり
あきふかく-なりにけらしな-きりきりす-ゆかのあたりに-こゑきこゆなり
00333
[詞書]保延のころほひ、身をうらむる百首歌よみ侍りけるに、むしのうたとてよみ侍りける
皇太后宮大夫俊成
さりともとおもふこころもむしのねもよわりはてぬる秋のくれかな
さりともと-おもふこころも-むしのねも-よわりはてぬる-あきのくれかな
00334
[詞書]題しらす
(仁和寺)道性法親王
むしのねもまれになりゆくあたし野にひとり秋なる月のかけかな
むしのねも-まれになりゆく-あたしのに-ひとりあきなる-つきのかけかな
00335
[詞書]題しらす
式子内親王
草も木もあきのすゑははみえゆくに月こそ色もかはらさりけれ
くさもきも-あきのすゑはは-みえゆくに-つきこそいろも-かはらさりけれ
00336
[詞書]後冷泉院御時、九月十三夜月宴侍りけるに、よみ侍りける
大宮右大臣
すむ水にさやけき影のうつれはやこよひの月の名になかるらん
すむみつに-さやけきかけの-うつれはや-こよひのつきの-なになかるらむ
00337
[詞書]十三夜のこころをよめる
よみ人しらす
秋の月ちちに心をくたききてこよひ一よにたへすも有るかな
あきのつき-ちちにこころを-くたききて-こよひひとよに-たへすもあるかな
00338
[詞書]月前擣衣といへるこころを
仁和寺後入道法親王(覚性)
さよふけてきぬたのおとそたゆむなる月をみつつや衣うつらん
さよふけて-きぬたのおとそ-たゆむなる-つきをみつつや-ころもうつらむ
00339
[詞書]堀河院御時、百首歌たてまつりける時、擣衣のこころをよみ侍りける
大納言公実
恋ひつつやいもかうつらむから衣きぬたのおとのそらになるまて
こひつつや-いもかうつらむ-からころも-きぬたのおとの-そらになるまて
00340
[詞書]堀河院御時、百首歌たてまつりける時、擣衣のこころをよみ侍りける
源俊頼朝臣
松かせのおとたに秋はさひしきに衣うつなり玉川のさと
まつかせの-おとたにあきは-さひしきに-ころもうつなり-たまかはのさと
00341
[詞書]堀河院御時、百首歌たてまつりける時、擣衣のこころをよみ侍りける
藤原基俊
たかためにいかにうてはかから衣ちたひやちたひ声のうらむる
たかために-いかにうてはか-からころも-ちたひやちたひ-こゑのうらむる
00342
[詞書]旅宿擣衣といへるこころをよめる
俊盛法師
衣うつおとをきくにそしられぬる里とほからぬ草枕とは
ころもうつ-おとをきくにそ-しられぬる-さととほからぬ-くさまくらとは
00343
[詞書]霧のうたとてよめる
法橋宗円
夕きりや秋のあはれをこめつらむわけいる袖に露のおきそふ
ゆふきりや-あきのあはれを-こめつらむ-わけいるそてに-つゆのおきそふ
00344
[詞書]暮尋草花といへる心をよませ給うける
崇徳院御製
秋ふかみたそかれ時のふちはかまにほふはなのる心ちこそすれ
あきふかみ-たそかれときの-ふちはかま-にほふはなのる-ここちこそすれ
00345
[詞書]百首歌たてまつりける時、よめる
前参犠親隆
いかにしていはまもみえぬ夕暮にとなせのいかたおちてきつらん
いかにして-いはまもみえぬ-ゆふきりに-となせのいかた-おちてきつらむ
00346
[詞書]法性寺入道前太政大臣、内大臣に侍りける時、家の歌合に、残菊をよめる
藤原基俊
けさみれはさなから霜をいたたきておきなさひゆく白菊の花
けさみれは-さなからしもを-いたたきて-おきなさひゆく-しらきくのはな
00347
[詞書]月照菊花といへる心をよみ侍りける
内のおほいまうちきみ
しら菊のはにおく露にやとらすは花とそみましてらす月影
しらきくの-はにおくつゆに-やとらすは-はなとそみまし-てらすつきかけ
00348
[詞書]籬菊如雪といへる心をよみ侍りける
前大僧正行慶
雪ならはまかきにのみはつもらしとおもひとくにそ白菊の花
ゆきならは-まかきにのみは-つもらしと-おもひとくにそ-しらきくのはな
00349
[詞書]きくの歌とてよめる
祐盛法師
朝な朝な籬のきくのうつろへは露さへ色のかはり行くかな
あさなあさな-まかきのきくの-うつろへは-つゆさへいろの-かはりゆくかな
00350
[詞書]百首歌よみ侍りける時、菊の歌とてよめる
藤原家隆
さえわたる光を霜にまかへてや月にうつろふ白きくのはな
さえわたる-ひかりをしもに-まかへてや-つきにうつろふ-しらきくのはな
00351
[詞書]崇徳院に百首歌たてまつりける時、秋のうたとてよめる
藤原季通朝臣
ことことにかなしかりけりむへしこそ秋の心をうれへといひけれ
ことことに-かなしかりけり-うへしこそ-あきのこころを-うれへといひけれ
00352
[詞書]瞻西上人、雲居寺にて結縁経の後宴に歌合し侍りけるに、野風の心をよめる
藤原基俊
秋にあへすさこそはくすの色つかめあなうらめしの風のけしきや
あきにあへす-さこそはくすの-いろつかめ-あなうらめしの-かせのけしきや
00353
[詞書]紅葉のこころをよみ侍りける
仁和寺後入道法親王(覚性)
はつ時雨ふるほともなくしもとゆふかつらき山は色つきにけり
はつしくれ-ふるほともなく-しもとゆふ-かつらきやまは-いろつきにけり
00354
[詞書]紅葉のこころをよみ侍りける
覚延法師
むら雲の時雨れてそむる紅葉ははうすくこくこそ色にみえけれ
むらくもの-しくれてそむる-もみちはは-うすくこくこそ-いろにみえけれ
00355
[詞書]秋のうたとてよめる
藤原定家
しくれ行くよものこすゑの色よりも秋は夕のかはるなりけり
しくれゆく-よものこすゑの-いろよりも-あきはゆふへの-かはるなりけり
00356
[詞書]題しらす
道命法師
おほろけの色とや人のおもふらむをくらの山をてらす紅葉は
おほろけの-いろとやひとの-おもふらむ-をくらのやまを-てらすもみちは
00357
[詞書]宇治前太政大臣紅葉み侍りけるに、よめる
小弁
君みんと心やしけんたつたひめ紅葉の錦いろをつくせり
きみみむと-こころやしけむ-たつたひめ-もみちのにしき-いろをつくせり
00358
[詞書]紅葉留客といふこころをよめる
素意法師
故郷にとふ人あらはもみちはのちりなん後をまてとこたへよ
ふるさとに-とふひとあらは-もみちはの-ちりなむのちを-まてとこたへよ
00359
[詞書]歌合し侍りける時、紅葉のうたとてよめる
左京大夫顕輔
山ひめにちへのにしきをたむけてもちる紅葉はをいかてととめん
やまひめに-ちへのにしきを-たむけても-ちるもみちはを-いかてととめむ
00360
[詞書]月照紅葉といへる心ををのこともつかうまつりける時、よませ給うける
院御製
紅葉はに月の光をさしそへてこれやあかちの錦なるらん
もみちはに-つきのひかりを-さしそへて-これやあかちの-にしきなるらむ
00361
[詞書]嘉応二年法住寺殿の殿上歌合に、関路落葉といへる心をよみ侍りける
右大臣
山おろしにうらつたひする紅葉かないかかはすへきすまのせきもり
やまおろしに-うらつたひする-もみちかな-いかかはすへき-すまのせきもり
00362
[詞書]嘉応二年法住寺殿の殿上歌合に、関路落葉といへる心をよみ侍りける
右近大将実房
清見かた関にとまらてゆく船は嵐のさそふこのはなりけり
きよみかた-せきにとまらて-ゆくふねは-あらしのさそふ-このはなりけり
00363
[詞書]嘉応二年法住寺殿の殿上歌合に、関路落葉といへる心をよみ侍りける
権中納言実守
もみちはをせきもる神にたむけおきてあふ坂山をすくる木からし
もみちはを-せきもるかみに-たむけおきて-あふさかやまを-すくるこからし
00364
[詞書]嘉応二年法住寺殿の殿上歌合に、関路落葉といへる心をよみ侍りける
左大弁親宗
紅葉はのみなくれなゐにちりしけは名のみなりけり白川の関
もみちはの-みなくれなゐに-ちりしけは-なのみなりけり-しらかはのせき
00365
[詞書]嘉応二年法住寺殿の殿上歌合に、関路落葉といへる心をよみ侍りける
前右京権大夫頼政
みやこにはまた青葉にてみしかとももみちちりしく白川のせき
みやこには-またあをはにて-みしかとも-もみちちりしく-しらかはのせき
00366
[詞書]湖上落葉といへる心をよめる
刑部卿範兼
ささ波やひらのたかねの山おろしもみちをうみの物となしつる
ささなみや-ひらのたかねの-やまおろし-もみちをうみの-ものとなしつる
00367
[詞書]百首歌たてまつりける時、よめる
藤原清輔朝臣
たつた山松のむらたちなかりせはいつくかのこるみとりならまし
たつたやま-まつのむらたち-なかりせは-いつくかのこる-みとりならまし
00368
[詞書]題しらす
覚盛法師
秋といへはいはたのをののははそ原時雨もまたす紅葉しにけり
あきといへは-いはたのをのの-ははそはら-しくれもまたす-もみちしにけり
00369
[詞書]近衛院御時、禁庭落葉といへる心をよめる
藤原公重朝臣
庭のおもにちりてつもれる紅葉はは九重にしく錦なりけり
にはのおもに-ちりてつもれる-もみちはは-ここのへにしく-にしきなりけり
00370
[詞書]大井河に紅葉みにまかりてよめる
俊恵法師
けふみれは嵐の山はおほゐ川もみち吹きおろす名にこそ有りけれ
けふみれは-あらしのやまは-おほゐかは-もみちふきおろす-なにこそありけれ
00371
[詞書]大井河に紅葉みにまかりてよめる
道因法師
おほゐかはなかれておつる紅葉かなさそふは峰の嵐のみかは
おほゐかは-なかれておつる-もみちかな-さそふはみねの-あらしのみかは
00372
[詞書]百首歌の中に、紅葉をよめる
藤原清輔朝臣
今そしる手向の山はもみち葉のぬさとちりかふ名こそ有りけれ
いまそしる-たむけのやまは-もみちはの-ぬさとちりかふ-なにこそありけれ
00373
[詞書]落葉の心をよめる
祝部成仲
たつた山ふもとの里はとほけれと嵐のつてに紅葉をそみる
たつたやま-ふもとのさとは-とほけれと-あらしのつてに-もみちをそみる
00374
[詞書]落葉の心をよめる
賀茂成保
吹きみたるははそか原をみわたせは色なき風も紅葉しにけり
ふきみたる-ははそかはらを-みわたせは-いろなきかせも-もみちしにけり
00375
[詞書]松間紅葉といへるこころをよめる
藤原朝仲
色かへぬ松ふく風のおとはしてちるはははそのもみちなりけり
いろかへぬ-まつふくかせの-おとはして-ちるはははその-もみちなりけり
00376
[詞書]故郷落葉といへる心をよめる
惟宗広言
ふるさとの庭はこのはに色かへてかはらの松そみとりなりける
ふるさとの-にははこのはに-いろかへて-かはらぬまつそ-みとりなりける
00377
[詞書]題しらす
法橋慈弁
ちりつもる木のはも風にさそはれて庭にも秋のくれにけるかな
ちりつもる-このはもかせに-さそはれて-にはにもあきの-くれにけるかな
00378
[詞書]堀河院御時、百首歌たてまつりける時よめる
源俊頼朝臣
秋の田にもみちちりける山さとをこともおろかにおもひけるかな
あきのたに-もみちちりける-やまさとを-こともおろかに-おもひけるかな
00379
[詞書]百首歌よませ侍りける時、紅葉の歌とてよみ侍りける
摂政前右大臣
ちりかかる谷のを川の色つくはこのはや水の時雨なるらん
ちりかかる-たにのをかはの-いろつくは-このはやみつの-しくれなるらむ
00380
[詞書]落葉浮水といへる心をよみ侍りける
後三条内大臣
くれてゆく秋をは水やさそふらむ紅葉なかれぬ山河そなき
くれてゆく-あきをはみつや-さそふらむ-もみちなかれぬ-やまかはそなき
00381
[詞書]百首歌めしける時、九月尽の心をよませ給うける
崇徳院御製
紅葉はのちり行くかたをたつぬれは秋も嵐のこゑのみそする
もみちはの-ちりゆくかたを-たつぬれは-あきもあらしの-こゑのみそする
00382
[詞書]山寺秋暮といへるこころをよみ侍りける
前大僧正覚忠
さらぬたに心ほそきを山さとのかねさへ秋のくれをつくなり
さらぬたに-こころほそきを-やまさとの-かねさへあきの-くれをつくなり
00383
[詞書]雲居寺結縁経の後宴に歌合し侍りけるに、九月尽のこころをよみ侍りける
瞻西上人
からにしきぬさにたちもて行く秋もけふやたむけの山ちこゆらん
からにしき-ぬさにたちもて-ゆくあきも-けふやたむけの-やまちこゆらむ
00384
[詞書]雲居寺結縁経の後宴に歌合し侍りけるに、九月尽のこころをよみ侍りける
源俊頼朝臣
あけぬともなほ秋風はおとつれて野へのけしきよおもかはりすな
あけぬとも-なほあきかせは-おとつれて-のへのけしきよ-おもかはりすな
00385
[詞書]承磨二年内裏歌合に紅葉をよめる
前中納言匡房
たつた山ちるもみちはをきてみれは秋はふもとにかへるなりけり
たつたやま-ちるもみちはを-きてみれは-あきはふもとに-かへるなりけり
00386
[詞書]百首歌たてまつりける時、九月尽の心をよめる
花薗左大臣家小大進
こよひまて秋はかきれとさためける神代もさらにうらめしきかな
こよひまて-あきはかきれと-さためける-かみよもさらに-うらめしきかな