一の一(1~18)   
天地玄黃 宇宙洪荒   天はくろく地は黄色 宇宙は広く広大無辺
日月盈昃 辰宿列張   日月のぼり傾き欠ける 星や星座が並び広がる
寒來暑往 秋收冬藏   寒さが来れば暑さが去って 秋に穫り入れ冬に備える
閏餘成歲 律呂調陽   あまりの年は閏年うるうどしとし 調子笛吹き日月ただす
雲騰致雨 露結為霜   雲が起これば雨をもたらし 露が凍れば霜柱立つ
金生麗水 玉出崑岡   金を産すは麗水れいすいの岸 玉を出すのは崑崙の山
劍號巨闕 珠稱夜光   剣は巨闕きょけつ天下一品 珠は夜光が至上最高
果珍李柰 菜重芥薑   珍重果実 あんずやまなし 重宝野菜 からしなしょうが
海鹹河淡 鱗潛羽翔   海は塩水河は淡水 魚は潜り鳥は羽ばたく

一の二(19~36)   
龍師火帝 鳥官人皇   龍師りゅうし太皞たいこう火師は炎帝 官に鳥の名少皞人皇じんこう
始制文字 乃服衣裳   はじめて文字を蒼頡そうけつつくる 上下の衣服岐伯がつくる
推位讓國 有虞陶唐   位をゆずり国をも譲る 有虞ゆうぐの舜 陶唐とうとうぎょう
弔民伐罪 周發殷湯   民をあわれみ罪を責めつ 周の武王やいんの湯王
坐朝問道 垂拱平章   玉座に座してただ道を問う 腕こまねいて天下治まる
愛育黎首 臣伏戎羌   多くの民を愛しはぐくみ 異民族らも従いつどう
遐邇壹體 率賓歸王   遠き近きが一体となり 地の果てまでも王に服する
鳴鳳在樹 白駒食場   鳳凰ほうおう樹に鳴き 白駒はっくに乗って賢人きたる
化被草木 賴及萬方   徳化は覆う草や木までも 王化はおよぶよろずの国に

一の三(37~50)   
蓋此身髮 四大五常   思うにこれら身体髪膚しんたいはっぷ 元素より出て仁義そなえる
恭惟鞠養 豈敢毀傷   父母が育てたこのからだをば どうして痛め傷つけようぞ
女慕貞絜 男效才良   女は慕う清き貞操 男は学ぶ才知賢良
知過必改 得能莫忘   過ち知ればきっと改め 良いこと得れば忘れるなかれ
罔談彼短 靡恃己長   人の短所は話さぬように 自分の長所ほこらぬように
信使可覆 器欲難量   約束ごとは必ず守り 器量は深く度量は広く
墨悲絲染 詩讚羔羊   墨子悲しむ糸が染まるを 詩経はほめる官の節約

二の一(51~68)   
景行維賢 克念作聖   よき行いは賢人であり よき考えは聖人となる
德建名立 形端表正   徳さだまれば名もまた上がる 形ただせばおもて正さる
空谷傳聲 虛堂習聽   空虚な谷は声を伝える 静かな部屋は聴くこと習う
禍因惡積 福緣善慶   悪行重ね災い招く 善行積めば幸い来る
尺璧非寶 寸陰是競   一尺のぎょく宝にあらず 寸時を惜しめこれ競え追え
資父事君 曰嚴與敬   父と同じに君に仕える これ尊厳と敬愛をいう
孝當竭力 忠則盡命   父母に孝行力のかぎり 主君に忠義命をつくす
臨深履薄 夙興溫凊   臣は仕えて恐れ慎み 孝子は気遣う親の暮らしを
似蘭斯馨 如松之盛   蘭の香りに似るを目指して 松の茂るがごとく栄える

二の二(69~80)   
川流不息 淵澄取映   川は流れて休むことなし 深みは澄んで物影映す
容止若思 言辭安定   立ち居振る舞い静かに動く 言葉遣いは落ち着き大事
篤初誠美 慎終宜令   初めに誠意しめすが美徳 終りつつしむ更になお良し
榮業所基 籍甚無竟   これら教えの基づくところ 名誉高まり極まりしらず
學優登仕 攝職從政   学にすぐれて役所に仕え 官職を得て政治行う
存以甘棠 去而益詠   人は善政たたえて慕い 去った後にも詩にして歌う

三の一(81~102)   
樂殊貴賤 禮別尊卑   楽の音色は高低異にし 礼の教えは尊卑をわける
上和下睦 夫唱婦隨   上が和めば下々むつむ 夫うたえば妻がしたがう
外受傅訓 入奉母儀   男子は外で師の教え受け 女子は家内で母に教わる
諸姑伯叔 猶子比兒   もろもろの伯叔母おば伯叔父おじ きょうだいの子らわが子と同じ
孔懷兄弟 同氣連枝   大いに思う兄弟姉妹のこと 気を同じくし枝を連ねる
交友投分 切磨箴規   交友するに身分を捨てる 互いに切磋せっさいましめ正す
仁慈隱惻 造次弗離   慈愛や情けいたわる心 いそがしくとも失うなかれ
節義廉退 顛沛匪虧   節操道義 廉恥謙譲 とっさのときも欠くことなかれ
性靜情逸 心動神疲   こころ静めば心安らぐ こころ動けば心疲れる
守真志滿 逐物意移   まこと守ればこころは満ちる 物事追えばこころ疲れる
堅持雅操 好爵自縻   正しい操しっかり持てば 官位爵位はおのずからつく

四の一(103~122)   
都邑華夏 東西二京   天子の都東西二つ 東洛陽 西は長安
背邙面洛 浮渭據涇   芒山を背に洛水を見る 渭水に浮かび涇水に拠る
宮殿盤鬱 樓觀飛驚   宮殿そびえ集まり並び 楼閣高く仰ぎ驚く
圖寫禽獸 畫綵仙靈   鳥やけだもの描いて写し 絹に鮮やか仙界の人
丙舍傍啟 甲帳對楹   南の御殿入り口二つ 東のとばり柱と向かう
肆筵設席 鼓瑟吹笙   むしろを敷いて座席を設け 大琴弾いてしょうの笛吹く
升階納陛 弁轉疑星   階段のぼり宮殿入る かんむりの珠 綺羅きら星のよう
右通廣內 左達承明   右は通じる図書秘書御殿 左は達す承明殿に
既集墳典 亦聚羣英   すでに集めし三墳五典(書物) さらに集める学者秀才
杜稾鍾隸 漆書壁經   杜操とそうの草書 鍾繇しょうよう隷書 漆で書いた壁中経書

四の二(123~142)   
府羅將相 路俠槐卿   役所に並ぶ太尉たいい宰相 大路を挟む公卿屋敷
戶封八縣 家給千兵   功臣封ず領地八県 家には兵士千人給う
高冠陪輦 驅轂振纓   高位高官天子に同乗 車走らせ冠纓かんえい揺らす
世祿侈富 車駕肥輕   代々仕え贅沢に富む 太った馬や絹皮衣かわごろも
策功茂實 勒碑刻銘   手柄を記し名実上げる 石碑に彫って銘文刻む
磻溪伊尹 佐時阿衡   太公望や伊尹いいんのように 政治を助け称号を得る
奄宅曲阜 微旦孰營   周公旦は曲阜きょくふに住んだ 旦いなければ誰が治めた
桓公匡合 濟弱扶傾   桓公諸侯集めて正す 弱小たすけ傾国すくう
綺迴漢惠 說感武丁   綺里季きりきは戻す漢恵帝を 傅説ふえつ補佐する殷の高宗
俊乂密勿 多士寔寧   才徳備え務めに励む 多士済済たしせいせいは国が安らぐ

四の三(143~162)   
晉楚更霸 趙魏困橫   晋楚こもごも春秋の覇者 趙魏苦しむ戦国秦に
假途滅虢 踐土會盟   の道借りてかくの国討ち 践土に集まり盟約結ぶ
何遵約法 韓弊煩刑   蕭何は約す法に遵い 韓非は煩なる刑にやぶれる
起翦頗牧 用軍最精   白起王翦おうせん廉頗れんぱ李牧ら 軍を指揮して最も勝る
宣威沙漠 馳譽丹青   威力を匈奴沙漠にしめし 絵画に描かれ名誉伝える
九州禹跡 百郡秦并   が中国を九州に分け 秦が百郡すべて併せる
嶽宗恆岱 禪主云亭   山はこう山 泰山たっとぶ 祭天の儀はうん亭の山
雁門紫塞 雞田赤城   雁門山や長城紫塞 鶏田の沢 赤城せきせいの山
昆池碣石 鉅野洞庭   昆明の池けっ石の山 鉅野きょやの沼沢 洞庭湖水
曠遠緜邈 巖岫杳冥   大地広大はるかに遠く 険しい山峰ようとして暗し

五の一(163~182)   
治本於農 務茲稼穡   国の大本おおもと農桑のうそうにあり 植えて刈り取るこれにつとめる 
俶載南畝 我藝黍稷   はじめて田畑耕し起こし 舜帝植えるもち黍うるち
稅熟貢新 勸賞黜陟   稲が実れば新穀まつる 賞を勧めて拙劣のぞく
孟軻敦素 史魚秉直   孟子養うおのれの元気 史魚しぎょは死んでも忠直ちゅうちょく守る
庶幾中庸 勞謙謹敕   願うところは中庸の道 努めて譲り慎み諭す
聆音察理 鑑貌辨色   ことばを聞いてことわりを知り 顔色をみて心見分ける
貽厥嘉猷 勉其祗植   よい考えを子孫に残す ただそのためにつつしみ励む
省躬譏誡 寵增抗極   身を省みて諌め戒め 寵愛増せば驕りきわまる
殆辱近恥 林皋幸即   恥辱受けるは名誉ではない 郷里に帰り住むが得策
兩疏見機 解組誰逼   疏広そこう疏受そじゅは足るを知って 官を辞めたが誰が責めよう

六の一(183~196)   
索居閑處 沈默寂寥   群れを離れて静かな場所に 人に知られずひっそり暮らす
求古尋論 散慮逍遙   古人求めて論議を尋ね 思いのままに散策をする
欣奏累遣 慼謝歡招   喜び集め悩みを払い 憂いしりぞけ歓び招く
渠荷的歷 園莽抽條   溝の蓮華れんげは鮮やかに咲き 園の草木枝葉を伸ばす
枇杷晚翠 梧桐早凋   枇杷は晩翠ばんすい冬なお青し 桐は早凋そうちょう秋には枯れる
陳根委翳 落葉飄颻   古い根株は衰え倒れ 落ち葉は風に飄々と舞う
遊鵾獨運 凌摩絳霄   遊ぶ大鳥ひとり巡りて 夕焼け空に迫り越ゆく

七の一(197~216)   
耽讀翫市 寓目囊箱   市で立ち読み楽しみ耽る 袋や箱の書に目をつける
易輶攸畏 屬耳垣墻   軽挙妄動おそれるところ 壁に耳あり障子に目あり
具膳飡飯 適口充腸   料理を並べあれこれ食べる うまくて腹がふくれればよい
飽飫烹宰 飢厭糟糠   たらふく食って料理にあきる 飢えたときには糠でも食らう
親戚故舊 老少異糧   親戚縁者旧知に旧故 老若男女食を異にす
妾御績紡 侍巾帷房   女の仕事糸つむぎ織る 妻ともなればねやに仕える
紈扇圓潔 銀燭煒煌   むすめ外出扇で隠し 夜出るときは銀燭ぎんしょくを持つ
晝眠夕寐 藍笋象床   昼寝のときは竹の敷物 夜寝るときは象牙の寝床
絃歌酒讌 接盃舉觴   琴ひき歌い酒盛りをする さかずき交え酒くみかわす
矯手頓足 悅豫且康   手を上げ踊り足踏み鳴らす 喜び合って更に楽しむ

七の二(217~228)   
嫡後嗣續 祭祀烝嘗   嫡子長男親の跡継ぎ 四季の祭りに先祖を祀る
稽顙再拜 悚懼恐惶   頭地に着け二度礼をする 恐れつつしみ敬い拝む
牋牒簡要 顧答審詳   手紙文書は簡易簡潔 周り見回し答え詳しく
骸垢想浴 執熱願涼   からだの汚れ水浴び望む 熱くなったら涼しさ願う
驢騾犢特 駭躍超驤   驢馬 騾馬 とく(こうし)とく(牡牛) 驚き跳ねてとび越え走る  
誅斬賊盜 捕獲叛亡   盗賊は罪責め斬り殺す 謀叛逃亡追って捕らえる

八の一(229~250)   
布射遼丸 嵇琴阮嘯   呂布騎射宜遼ぎりょうお手玉 稽康は琴 阮籍口笛
恬筆倫紙 鈞巧任釣   蒙恬は筆 蔡倫 は紙 馬鈞ばきん指南車 任公子釣り
釋紛利俗 並皆佳妙   もつれるを解き世間を利する ともにみなみなすぐれた人だ
毛施淑姿 工顰妍笑   毛嬙もうしょう西施 絶世美人 顰うるわし笑いなまめく
年矢每催 曦暉朗耀   年矢のごとく常に促す 陽は輝いて明るく光る
璇璣懸斡 晦魄環照   きらめく星は移ろい巡り 月は隠れてまた出て照らす
指薪修祜 永綏吉劭   薪は代わるも火は滅びない 永久に安らぎ福につとめる
矩步引領 俯仰廊廟   正しく歩き首のばし待つ 宮殿内の立ち居振る舞い
束帶矜莊 徘徊瞻眺   朝服ちょうふくを着て威厳を保ち 行ったり来たり見上げ眺める
孤陋寡聞 愚蒙等誚   弧陋寡聞ころうかぶんは道理に暗い 愚蒙ぐもうひとしく責め叱るべし
謂語助者 焉哉乎也   助辞というのは語勢助ける 焉 哉 乎 也と これにて終る

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。

 

原文の著作権・ライセンスは別添タグの通りですが、訳文はクリエイティブ・コモンズ 表示-継承ライセンスのもとで利用できます。追加の条件が適用される場合があります。詳細については利用規約を参照してください。