十二ケ月唱歌
修身教育十二ヶ月唱歌
- 中村秋香 作歌
- 一月
- 門に立てたる 松竹に さす朝日影 いさましく 軒にかゝげし 日の
御 旗 ふきわたる風 のどかなり」 - 和服洋服 とり/″\の
裝 めでたき 年始客素 袍 着 流 し まち/\の姿 をかしき 五萬歳 晝 は凧 あげ獨樂 まはし 又は羽根 うち鞠 をつき よるは雙六 歌がるた 笑ひさゞめく おもしろさ」- 興ある月は 一月や 樂しき時は 新年や これも思へば 御世の恩 いざや歌はん 君が代を」
- 二月
- 今日は
惶 き 紀元節 折しも當 りし初午 や霞 みそめたる大空 に登 る朝 日 の影清 く」 - 二つ三つ四つ
春 告 げて ほゝゑむ窓 の梅 が枝 に來 ては數 鳴 く 鶯も まだ片 なりの ホーホケキヨ」 軒 にひらめく 日の旗 を 見れば心も動 くなり鎭守 の森 の 大皷の音 聞けば胸 さへ轟 きぬ」- 次郎よお春よ いざさらば
雲 に聳 ゆる高 千穗 を歌 ひつれつゝ諸 ともに稻荷 の社 に詣 でばや」- 三月
- 雪もこほりも うぐひすの 聲もろともに とけゆきて やゝもえそむる 若草の たもとに吹きて 寒からぬ」
- 風にほゝゑむ 口びるの いろなつかしき
桃 のはな 雨にひそめる まゆずみの にほひえならぬ青柳 や」 - 野はおしなべて 淺みどり しとねを敷きて 人をまち 山にはなびく
八重 がすみ帳 かかげて 花を呼 ぶ」 - 試驗もけふにて はてにけり
明日 は朝 より おもふどち 野やまの春を探 りてん 天氣も定めて よかるべし」- 四月
- 新學年は 來りたり 男 われら女 わなみは級も すゝみたり
今日 は神武の 御祭日 空よく晴れて うらゝかに」 霞 をもるゝ 春風は うぐひすの音 を さそひきて たもとをかろく 吹きかへし 柳のいとに あやを織 り」- 蝶はうかれて 花にまひ
蜂 はたはれて 空にとぶ いざわれ/\も 野にいでゝ 男 ベースボールを女 すずなたんぽゝ うつたへにつみはやし」 - 樂しくのどけく おもしろく 遊びくらさん 今日
一 日 この祭 日 に この春の及 第 祝 も とりそへて」- 五月
實 に光 陰 は矢 のごとし かすみか雪か はた雲か とばかり見つる やまざくら 花のさかりも とく過ぎて」- 山吹つゝじ
梨 のはな にほへるいろの深 見 草 春も末野の さくら草 夏にかゝれる 松の藤 」 - わかばすゞしく ふく風に たなびく
鯉 の 吹きぬきや 五月の空とは なりにけり げに光陰は 矢のごとし」 - いでや月日を
惜 みつゝ まなびを修めて 鯉のごと 雲井にたかく仰 がるゝ いさをし立てん 世のために」- 六月
- 日はながくして 年のごと 教のにはより かへり來て 家庭の
復讀 をはりても 遊ぶいとまは なほ多く」 - 男
擬 戰 祭 禮 さまざまの女 おに事ままこと かくれんぼ あそびは夕より 夜にかけて 月夜はことに おもしろく また闇 の夜は 螢がり」 田舍 はこのごろ 製茶時或 は養蠶 に植付 に忙 しきうちの のどけさは 都にしらぬ ぞめきなり」- 昨日も今日も をやみなく ふりつゞきたる
五 月雨 に外面 のあそびも なしがたし英 語 骨牌 を いざとらん」- 七月
- やまほとゝぎす なきふるし つばめのひなも 生ひたちて 百日紅は 咲きそめぬ 夏期の試驗に ちかよれり」
- わが師の君は のたまへり 勤むるときには よくつとめ 遊ぶときには よく遊べ 遊ぶはつとむる ためなりと」
- この學年と なりしより 運動會に 遠足に また學校の ほかにても われらわなみは十分 あそびたり」
- 試驗の
凖 備 おこたらず いざやつとめん 復習を 勤むるわれらわなみが 脊のほとり 樂しき休暇は 來てまてり」- 八月
- 試驗も首尾よく 事はてゝ よるひる待ちに またれつる 樂しくうれしく 男愉快なる女 のどかなる 夏期休業は 來りたり」
- この愉 快のどかなる 休業を われらわなみはいかに おくるべき
川にやゆかん 裁縫料理の川がりに あそびごと海にやゆかん 稽古ながらに潮 あみにしてやみん」 我等は海國 女 子 も皇 國 の男子なり 皇 民 なり游泳 をしらで國に盡 さで あるべしや あそびながらにまづ第一に この夏は泳游 を習ひ看護婦あそびをおぼゆべし むねとせん」- 海もよしまたそのひまにまた 川もよし裁縫や すゞみがてらの料理應接 水およぎさまざまの その隙々に遊びをなして 狩をもしおのづから すなどりもして家政の事をも 樂 ま んまなぶべし」
- 九月
- 夏期休業中 とざしつる 學のまどは 開かれて 十二時
引 も 今日かぎり あすより常と なりぬべし」 - われらわなみは永き やすみ中 種々の遊びに 日をおくり ほと/\今は
倦 みはてゝ 學校戀しく なりにけり」 - すだれ
動 かす ゆふ風は 袖にすヾ しく おとづれて 夜もやゝながく ともしびの かげなつかしく なりそめぬ」 - いでやつとめん 復習を まさに夜學の 時はきぬ ながき休暇を おもしろく 樂しく過ぎしは 今日のため」
- 十月
- めもはるかなる
千 町 田 の こがねの波は ゆたかなる 年のひかりを うちよせて穗 にほ榮ゆる うまし稻」 早稻 をばきのふ かりそめぬ中稻 おくても おしなべて たのみ多かる としぞとて ざゞめきあへり 里びとは」- 今日は十月 中七日
神嘗 まつりの 御祭日 鎭守のやしろの 日待の日 いざや詣 でん産 土神 へ」 - 里にはひらめく 日の御旗 森にはとゞろく 大皷の音 こゝろは空に うきたちぬ いざや
詣 でん うぶすなへ」- 十一月
- 今日のこの日は わが國の 三大節の
中 にても ことに愛 たき あきつ神 わが天皇 の御誕生 の日」 吾天皇 は 我國に 立憲制度を 敷かせられ我々 皇 民 に 民權を 下し賜ひし 君ぞかし」- わが
天皇 は わがくにの 版圖を擴 めて 東洋の 覇國と世界に うたはるゝ基 を開きし 君ぞかし」 - いざやうたはん もろともに 天津日影を 折かへし いざや祝はん もろ聲に 今日のよき日を くりかへし」
- 十二月
- 昨日とくらし 今日と過ぎ 月日流るゝ あすか川 ゆきてかへらぬ とし波は しはすてふ瀬に うちよせぬ」
- こゝにかしこに
煤 はらひ餅 つくおとの いさましく かなたこなたの衣 くばり とりやりするも賑 はゝし」 - 神棚はじめ
浪速 〔ママ〕はへて屠蘇 喰積 と凖備 つゝ 門にはしつらふ 松かざり はや一月の ここちせり」 - 一月來らば いかにせん 凧に羽子板 こまてまり 樂しきあそび いとおほし
疾 く一月に なれよかし」
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