北海道飲酒運転の根絶に関する条例


 北海道飲酒運転の根絶に関する条例をここに公布する。

  平成27年11月30日


北海道条例第53号

   北海道飲酒運転の根絶に関する条例

 前文

 多くの道民が北海道の地理的特性などにより車を運転している現状において、我々は、悲惨な交通事故が被害者のみならず加害者にも大きな不幸をもたらすことや、車は危険な乗り物であることを改めて認識しなければならない。「交通死亡事故ゼロ」は、道民全ての願いである。

 しかしながら、道路交通法の改正などにより厳罰化が図られたにもかかわらず、平成26年7月13日には、3人の尊い命が奪われるなど、相次ぐ死亡事故の原因ともなっている飲酒運転が後を絶たない。

 このため、道民一人一人が、飲酒運転の根絶に向けて、「飲酒運転をしない、させない、許さない」という規範意識を持ち、飲酒運転の防止のために自主的に行動するとともに、道民にその規範意識を定着させるための実効性のある取組が必要である。

 一日も早く北海道から飲酒運転を根絶し、道民にとって安全で安心して暮らすことができる社会が実現されるようたゆまぬ努力をすることを決意し、道民の総意としてこの条例を制定する。

 第1章 総則

  (目的)

 第1条

 この条例は、飲酒運転の根絶に関し、基本理念を定め、道、道民及び事業者等の責務を明らかにするとともに、道の施策の基本となる事項その他必要な事項を定めることにより、飲酒運転の根絶に関する施策を総合的に推進し、もって道民が安全で安心して暮らすことができる社会の実現に資することを目的とする。

  (定義)

 第2条

 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 (1) 飲酒運転 酒気を帯びて車両(道路交通法(昭和35年法律第105号)第2条第1項第9号に規定する自動車、同項第10号に規定する原動機付自転車及び同項第11号に規定する軽車両をいう。以下同じ。)を運転する行為をいう。

 (2) 飲酒運転を根絶するための社会環境づくり 道民及び事業者等による飲酒運転の根絶に向けた自主的な活動、道、市町村並びに道民及び事業者等による飲酒運転を許さない社会環境の整備その他飲酒運転を根絶するために必要な取組をいう。

 (3) 飲食店営業者 設備を設け、酒類を提供して客に飲食させる営業を行う者をいう。

 (4) 酒類販売業者 酒税法(昭和28年法律第6号)第9条第1項の規定により酒類の販売業免許を受けた者をいう。

 (5) タクシー事業者 道路運送法(昭和26年法律第183号)第9条の3第1項に規定する一般乗用旅客自動車運送事業者をいう。

 (6) 代行業者 自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律(平成13年法律第57号)第2条第2項に規定する自動車運転代行業者をいう。

 (7) アルコール健康障害 アルコール健康障害対策基本法(平成25年法律第109号)第2条に規定するアルコール健康障害をいう。

  (基本理念)

 第2条

 飲酒運転の根絶は、全ての道民が「飲酒運転をしない、させない、許さない」という認識の下に、飲酒運転をしないこと、飲酒運転を行うおそれのある者に対し車両又は酒類を提供しないこと及び飲酒運転に係る車両に同乗しないことを基本として、推進されなければならない。

 2 飲酒運転の根絶は、道、市町村、道民及び事業者の適切な役割分担による協働により社会全体で推進されなければならない。

 3 飲酒運転を根絶するための社会環境づくりは、事業者、家庭、学校、地域住民、行政その他の関係するものの相互の連携協力の下、社会全体で行われなければならない。

  (道の責務)

 第4条

 道は、前条に定める基本理念にのっとり、飲酒運転の根絶に関する総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 2 道は、前項の施策を実施するに当たっては、国、市町村その他の関係する機関及び団体と緊密な連携を図るものとする。

 3 道は、市町村が飲酒運転を根絶するための社会環境づくりに関する施策を策定し、及び実施しようとする場合には、市町村が果たす役割の重要性に鑑み、助言その他の支援を行うものとする。

  (道民の責務)

 第5条

 道民は、飲酒運転をしてはならない。

 2 道民は、車両を運転することが見込まれる場合には、飲酒をしてはならない。

 3 道民は、飲酒運転が重大な事故を起こす蓋然性が高く、かつ、重大な違法行為であること及び飲酒が身体に及ぼす影響について理解を深めなければならない。

 4 道民は、道が実施する飲酒運転の根絶に関する施策に協力するものとする。

 5 道民は、飲酒運転を根絶するための社会環境づくりに努めるものとする。

 6 道民は、飲酒運転をしている者又はその疑いのある者を発見した場合には、飲酒運転を制止するよう努めるものとする。

  (事業者の責務)

 第6条

 事業者は、その事業のための車両の運行に当たっては、その従業員に飲酒運転をさせてはならない。

 2 事業者は、その従業員に対し、飲酒運転の根絶に関する教育、指導その他必要な措置を講ずるものとする。

 3 事業者は、道が実施する飲酒運転の根絶に関する施策に協力するものとする。

 4 事業者は、飲酒運転を根絶するための社会環境づくりに努めるものとする。

  (飲食店営業者及び酒類販売業者等の責務)

 第7条

 飲食店営業者及び酒類販売業者は、当該飲食店営業者が酒類を提供した者又は当該酒類販売業者が酒類を販売した者(以下これらを「来店者」という。)の見やすい場所に飲酒運転の防止に関する文書を掲示することその他の飲酒運転を防止するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 2 飲食店営業者及び酒類販売業者(以下この条において「飲食店営業者等」という。)並びにこれらの従業員は、来店者が飲酒運転をするおそれがある場合には、これを制止するよう努めるものとする。

 3 飲食店営業者等は、それぞれの営業時間に係る地域の状況を勘案し、来店者への情報提供等タクシー事業者及び代行業者と連携して飲酒運転を根絶するための社会環境づくりに努めるものとする。

 4 業として建物を管理する者であって飲食店営業者等に対してその店舗の用に供する場所を提供するものは、来店者等の見やすい場所に飲酒運転の防止に関する文書を掲示すること、当該飲食店営業者等にその店舗において飲酒運転の防止に関する啓発を行うよう要請することその他の飲酒運転を防止するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

  (タクシー事業者及び代行業者の責務)

 第8条

 タクシー事業者及び代行業者は、道民に対し、飲酒運転の防止のため、自らの事業を利用すべき旨の広報活動に努めるものとする。

 2 タクシー事業者及び代行業者並びにこれらの従業員は、その事業の利用者が飲酒運転をするおそれがある場合には、これを制止することその他の飲酒運転を防止するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

  (イベント等を主催するものの責務)

 第9条

 イベント等(多数の者が集合する催しをいう。以下この条において同じ。)を主催するものは、そのイベント等における酒類の提供又はイベント等に参加する者による飲酒が想定される場合には、そのイベント等に参加する者に対し、飲酒運転の防止に関する啓発その他の飲酒運転を防止するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

  (通報)

 第10条

 道民は、飲酒運転をしている者又はその疑いのある者を発見した場合には、その旨を警察官に通報するよう努めなければならない。

 2 飲食店営業者及び酒類販売業者並びにこれらの従業員は、来店者が飲酒運転をしていることを確認した場合には、その旨を警察官に通報するよう努めなければならない。

 3 タクシー事業者及び代行業者並びにこれらの従業員は、その事業の利用者が飲酒運転をしていることを確認した場合には、その旨を警察官に通報するよう努めなければならない。

 第2章 飲酒運転を根絶するための施策

  (基本方針)

 第11条

 知事は、飲酒運転の根絶に関する施策の総合的な推進を図るため、次に掲げる事項を定めた基本方針を策定するものとする。

 (1) 飲酒運転の根絶に係る道民の意識の高揚及び啓発活動に関する基本的な事項

 (2) 飲酒運転を根絶するための推進体制に関する基本的な事項

 (3) その他飲酒運転を根絶するために必要な事項

 2 知事は、前項の基本方針を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。

  (飲酒運転の予防及び再発の防止のための措置)

 第12条

 道は、飲酒運転の予防及び再発の防止のため、アルコール健康障害対策基本法第20条の規定に基づき、アルコール健康障害を有する者(アルコール健康障害を有していた者を含む。)及びその家族に対する相談支援等を推進するものとする。

 2 道は、飲酒運転の再発の防止のため、飲酒運転をした者に対し、地域保健法(昭和22年法律第101号)第5条第1項の規定により設置された保健所等によるアルコール健康障害に関する保健指導を受けるよう促すとともに、当該飲酒運転をした者に係るアルコール関連問題(アルコール健康障害対策基本法第7条に規定するアルコール関連問題をいう。)の状況に応じた指導、助言、支援等を行うものとする。

  (教育及び知識の普及等)

 第13条

 道は、飲酒運転の根絶に係る道民の意識の高揚を図るため、飲酒運転の根絶に関する教育、アルコール健康障害等の飲酒が身体に及ぼす影響に関する知識の普及その他の必要な措置を講じなければならない。

 2 道は、小学校、中学校、高等学校その他の教育機関が児童、生徒等の発達段階に応じて生命を大切にすることその他の飲酒運転の根絶に関連する教育を児童、生徒等の家族及び地域関係者と協力して行うことができるよう必要な措置を講じなければならない。

 3 道は、観光客その他の滞在者による飲酒運転を防止するため、これらの者に対する啓発その他の必要な措置を講ずるものとする。

  (情報の提供)

 第14条

 道は、飲酒運転の根絶を図るため、道民に対し、飲酒運転の状況その他の飲酒運転に関する情報を提供するものとする。

  (飲酒運転根絶の日)

 第15条

 道民が飲酒運転の根絶に関する理解及び関心を深めることができるよう、7月13日を飲酒運転根絶の日とし、道及び道民等は、一体となって飲酒運転を根絶するための取組を行うものとする。

  (緊急対策期間及び重点対策地域)

 第16条

 知事は、飲酒運転の発生状況に鑑み緊急に飲酒運転を防止するための措置を強化する必要があると認めるときは、緊急対策期間を設定し、当該緊急対策期間において、公安委員会、市町村その他関係機関と連携協力して飲酒運転を根絶するための取組を推進するものとする。

 2 知事は、前項の規定による緊急対策期間の設定に当たっては、飲酒運転を根絶するために特別の措置を講ずべき地域を重点対策地域として指定するものとする。

  (年次報告)

 第17条  知事は、毎年、飲酒運転の状況及び飲酒運転の根絶に関して講じた施策の概況を議会に報告しなければならない。

 附 則

 1 この条例は、平成27年12月1日から施行する。

 2 知事は、この条例の施行後必要に応じ、飲酒運転の状況及び飲酒運転の根絶に関して講じた施策の実施の状況等を勘案し、飲酒運転の根絶に関する施策の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

 3 前項に定めるもののほか、知事は、この条例の施行の日から起算して5年を経過するごとに、社会経済情勢の変化等を勘案し、この条例の施行の状況等について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

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