北条幻庵覚書
必要な情報: 底本の合法性。1907年出版の底本と同内容と思われる1984年出版の「国立国会図書館デジタルコレクション:info:ndljp/pid/12406119」の公開範囲が「国立国会図書館内限定」になっており日本国内で著作権が有効である可能性が高い |
【 IA:32】北条幻庵覚書
おぼえ
一きら殿御屋かたと申されべし、こなた御やかたをばおだはら御屋かたと申てよく候、又は小田原殿とも様とも申され候べし、
一御としうちにては、上さまと申候はん事、もちろんこなたかたへの文の上がき、せうがう候はでかなはぬ事にて候、なに殿といふ御名つけ候て、もつとものよしげんあん申候つると大かた殿へ申給ふべく候、これは正月の文より入候べく候、
一大かた殿をば御たいはうと申されべく候、たゞしこなたかたへの御文には、大かたとのとやわらげ御かき候てよく候、心は一つにて候、
ほう かた よみ
一きら殿の御前へまいり候はん物、上らふとりつぎ給ふべく候、又
一しうげんのときのもやう、あなたのしたてしたる人の申やうにせられ候べく候、大くさはなにと申などゝたづね申候とも、おぼへ候はぬと返たう候べく候、
一さだめてつねの三こんにて候べく候、 たゞしくほなどまいり候はゞ、ほん〳〵のしき三こんにて候べく候、さやうに候はゞくほによくたづねられ候て、しだいちがはぬやうに候べく候、つねの三こんにて候はゞべちきなく候ほどに、やうがましく申されまじく候、
一さんこんの三さか月、しうげんのときは三ツにて御まいり候物にて候、せつく、ついたちにはさ候はねども、くるしからず候、いわれは御なりの時は上に候かわらけ一ツにて、三とまいり候、
一引わたしのとき、くはへの事、くはへはいで候へども、くはへ候はぬ物也、そのごとくに御さた候べく候、しき三こんの時はもちろんにて候、
一みうち衆御れい申され候はんやうだいの事、
せたがや殿の御いへにつきたるおとなしゆをば、一つれにそのしゆばかり御あひしらい候べく候、【 IA:34】
一ほりこし殿の御いへよりつきてまいりたるおとなしゆをば、一どに御あひしらい候べく候、あひしらいはおなじ御事にて候、
一おとなしゆに御さか月給候はん時、しやく申候はん人なく候、上らふせんをおしやり給ふて、おくへ御たち、御さか月にちやうしそへて、御いでまいらせ候、これにてよく候べく候、
一きんじゆの衆御れい申候はんやうだい、おとなしゆとすこし引かへ候てよく候、これもざしきはおなじざしきにて候べく候、御さかづきばかり給候べく候、さか月のくきやうにくみ付候物候、
一おとなしゆ、きんじ衆、御返礼のありやうは、一両日すぎ候て、御ひきよういちうもんそへ、高はしかうざへもんを御たのみ候て、つかはされ候べく候、
一高はしかうざへもんにこそで御やり候はんは、三日の御しうげんのうこ過候時ぶん、御とをりへめし候てつかはされ候はんか、これは大かたどのへよくたづね申され、御いけんのやうに候べく候、もしじよの人々おもふ所も候、もしむようと御いけん候はゞ、みづしむくのすけをつかゐとしてやどへ御おくり候べく候、さ候ともひろぶたには入候まじく候、つゞらなどふせいに入候てとりいだし、ひだりのてにすへ、右のてにうへををさへまいらせ候べく候、一さい下ての人に御つかい候こそでひろぶたにはすへ候はぬ物にて候 たとへて申候、くぼうさまより三くわんれいはじめ、めん〳〵 にくだされ候もひろぶたさた候はず候、御一ぞくの御かた、きら殿・石ばし殿・しぶ川殿などへ御ふくまいらせられ候事も候つる時も、ひろぶたはいで候はぬよし、いせのびつちう物がたり候、そうなどはきんじゆ候へば見および候つるとて候、くげ衆御けらいへも同事とて候、みのとき殿にてさるがくにいだされ候こそでを、れん中よりひろぶたにすへていで候時、ほうこうのきやう衆はらい候つると、そう二物がたり申候、ついでのさいかく御心へ候べく候、
一おだはら二御屋かたより御れいぎ候べく候、御つかゐおとなしゆ御あひしらいのごとく引わたしにて候べく候、 きんじゆの衆にて候とも、屋かたの御つかゐにて候は、御あひしらいはおなじかるべく候、屋かたは今くわんれいにて候、その御つかゐは御ほんそう候はでかなはぬ事候、
一一ぞくのしゆげん三どの、しん三郎ごとき、いづれもれい申候はんつかゐ、御屋かたの御つかいとはすこしかはり候べく候、大かたどのへ御だんごう候て、あひしらゐ給ふべく候、
一水主むくのすけ、柴づしよ、すへ〴〵までもまいりかよふべく候か、御ねんごろに候べく候、大屋なかたなどもひくわん一ふんのものにて候、御めかけ候て御ようをもおほせつけ候べく候、
一清水笠原御れいにまいり候はゞ、おとな衆御あひしらいのごとくにて候べく候、
一御むかゐにまいりたるおとなしゆへは、つぎの日みつしむくのすけつかゐとして、よべば御しんらうと上らふより仰とヾけよく候べく候、たゞしいかゞ候はん哉らん、かうざへもんに御だんがう候べく候、御れい申され□後にもつかゐ御やり候はんか、かうざへもんいけんに御まかせ候べく候、
一しん三郎かたへの御れいぎは春よく候べく候、大かた殿へたづねあわせ申され候べく候、
一あき人しゆ御れいにまいり候べく候、御あひしらい此ほど大かた殿になされつけたるやうにあるべく候、
以上 大りやく此ぶんか
一正月 ぐわんさんよりかゝみ、 子のひ、 七日、十五日いわゐ、大かたどの此とし月なされつけたるごとくにて候べく候、そのぶんげんあん申候つるよし、御ことわりよく候べく候、
二月三日、五月五日、みな月、七月七日、八さく、九月九日、いづれもおなじ、
一いのこのもちゐの事、きんねんおだはらにしかじかと御いわゐ候はぬまゝ、やうだい人わすれ候、されどもきゝおよび申候ぶんは、御まへへ参り候、四はうの上につみたるもちを、一ツづゝ御はさみちやくざのめん〳〵衆は、三くわんれい山名一色以下のかた〴〵へ被㆑進候、其後たれにても御ともしゆ御ぜんをもちて御とをりへいでられ候て、し【 IA:36】こうの御ともしゆきんじゆのしゆへいださるゝよし承候、国々にある大めいは、代官をのぼせはいりやう候、大裏の御やうだいをも西殿へ尋申候、当関白さいぜんにはいりやう候て、しだいに大なごんまではいりやう候、これは女房しゆのいださるゝとみへ候よし御物がたり、しか口は、御いわゐ候はん時は、上らふへはしきにはさみて参らせられ候べく候、中らうへは上らふはさみ候ていだされしかるべく候、おもてはおもてにての御いわゐにて候べく候まゝ、申事なく候、このいわゐは天りやくの御かどの御とき、康保年ぢうむらさきしさぶしいだしたると、ふるき物にはみへ候、大りの御まつりごとかづ〳〵のうちにて候 ふ
一ざとうしゆ参候はゞ、御さか月給御ひき給候べく候、あなたかたに候はんずる、ざとうしゆ参候はゞ、御ねん比は候べく候、なれ〳〵しくは御おき候まじく候、ついでに御心へ候へ、ざとうとてもおとこのめのくらきにて候、女中がたへあんないなしに立入物にてはなく候、てんかそのぶんにて候、やすき事やうしゆゐん殿の御とき、うぢつなくわ一と申候けんぎやう候つる、へいけ御きゝ候とて、われわれおほく候て、からかみのまへ一とめし候つる、その時もやうしゆゐんどのは、おくのまに御ざ候、さんねんざとうと申せば、いづれもおくがたへ参候、心へがたく候へども御国ぶりにて候まゝ、一人して申されず候、たゞしみん一など参候はゞ、御心やすく御よび候てもくるしからず候、おさなくより御しり候、又としよりぬるがふつゝかの物にて候、御ねんごろよく候べく候、さ一これ又おなじごときの物にて候、その外はなれ〳〵とはめし候まじく候、さて候ともざとうしゆなど三こんなどのうちには、御しやうばんにはめし候まじく候、御つぎにて給候か、又御またせ候てのちに、御さかな給候て、くこん給候べく候、うこの時は、御しやうばんくるしからず候、てんじんどうぜんの事候、かやうの事は、へいぜいもかたきをめされつけにて御をき候べく候、きんねんこゝもとさだめかたに候て、きは〴〵とも候はず候ずるかなとは、さやうの事きはめてしきはう〳〵に候べく候、御かくご候べく候、
十二月十六日 そう哲[花押]
北条幻庵覚書終