勢州記事
NDLJP:336】勢州記事
其比長野輝伯故長野具藤末子也彼舎兄長野三郎幼少ニシテ在京都普広院時ニ公方ノ寵臣伊勢守普広院来テ蹴鞠足ヲ洗テ明衣ヲ請長野三郎持来伊勢守調試㆑足三郎奇怪ノ音（者カ）ト云テ抜㆑刀ヲ伊勢守ヲ切殺令㆓自害㆒生年十六歳其弟源次郎輝伯嗣㆓長野㆒後ニ号㆓大和守藤定㆒向㆓諸方㆒挑㆑戦天文末頃長野藤定卒㆓工藤勢㆒南方発向工藤勢七備ノ細野壱岐守藤敦分部左京亮光高等一番ニ攻蒐一日ノ中ニ七度合戦シテ不㆑決㆓勝負㆒南北ニ引退長野家毎度得㆓勝利㆒就㆑中河内武者等殊ニ勝ル赤装束シテ掛来ルニ合面者ナシト云云南方先手崩晴具卿旗本危処ニ小森上野城主奥山左馬允具直蹈止敵切崩手勢並㆑枕討死ス其比ノ諺ニ小森上野奥山氏討死ニハ黒烟立ト云於㆓国司方㆒家木主水佐豊田五郎右衛門埀見釈伽房ナト七度共抜萃高名ト云云鷺山合戦ト云ハ是也
南方波瀬御所同与力矢川下野守阿曽弾正忠日（臣カ）下赤堀城押寄攻㆑之赤堀家集㆓一族与力軍兵㆒励㆓武威㆒防戦故波瀬家不㆑克㆓攻落㆒空其勢引取此時従㆓城中㆒対㆓敵軍㆒落首曰赤堀ノ堀ノ深サヲ知スシテ遷ミヲセヽル波瀬ノ御所哉
此赤堀家神戸楽王之次男也故神戸家一味ニ因テ攻㆑之其後長野家催㆓工藤勢㆒攻㆓赤堀城㆒夜中其辺兵伏城中定タル時ニ忍入鬨ヲ揚城中周章シ防戦フ長野家軍諚ニ曰今度討捕候共首不【 NDLJP:337】㆑可㆑捕ト云々三間小六佐治広島等一番ニ忍入三間弓ニテ敵二人射斃其後城中ニ押入見所ニ女人三十人余ノ内白髪ノ翁交在之佐治翁ノ鬚ヲ取引立既ニ討ントス小六制止曰老人ヲ討捕何高名ニ可成唯助給ヘト云云佐治実モト思助先へ進ヌ其時翁曰敵ナカラ情シキ武者也名乗給エト云云其時足坂ノ三間小六勝吉ト申者ニテ候ト答翁曰三間七郎為ニハ何ソ孫ト申翁曰七郎事ハ兼々聞及シ人也我ハ赤堀卜月也ト宣フ唯今情ノ程難忘太刀ヲ参ラセント申サレ傍ナル太刀取給ル此赤堀家重代之内助真作二尺五寸有時ニ太田鎌倉ト云シ也其後織田上野介信包為㆓長野名跡㆒ノ時乞給フニヨリテ信包エ進ルト云云此時ニ赤堀家滅亡ト云云勢州ノ軍詞ニハ此忍取ト云
竹中半兵衛─丹後学文被致候─左京
黒田シヨスイ（如水）元来秀吉ト無二ノ朋友ナリケルウヘ互ニ身代能ナリ候ハヽ見ツヽケ可申ト云起請ヲトリカワシタリケルウヘ秀吉ハ天下ヲ取給其時節シヨスイエ纔地行□石被遣タリケルヲ不足ニ思諸事身ニシマヌ体ナリケリ半兵衛ハ又シヨスイトヨキ知音ナリケルカアル夜シヨスイノ所エ行四方山ノ咄ヲシ出シケルシヨスイ彼起請ノ事ヲ被申出ケレハ半兵衛一見申度トテトリイタサセ一覧スル体ニモテナシ折節火ニアタリ居タリケルカ彼起請ヲヒキサキ火ニ入テ焼シヨスイ驚コレハナニトシタルソト被申ケル半兵衛申ケルハ此起請アルニヨリ秀吉エモ不足出諸事心ニカナワヌ事ノミナリコレナクハ左モアルマシト被申シカ其後ハシヨスイモシアワセヨク大名ニナラレケルトソ
明治三十五年一月再校了 近藤圭造
この著作物は、1901年に著作者が亡くなって（団体著作物にあっては公表又は創作されて）いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日（回復期日を参照）の時点で著作権の保護期間が著作者（共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者）の没後（団体著作物にあっては公表後又は創作後）80年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。
この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され（かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず）、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日（日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日）に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。