列王紀略上(文語訳)

<聖書<文語訳旧約聖書

舊新約聖書 [文語]』日本聖書協会、1953年

明治元訳聖書

列王紀略上

第1章

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爰にダビデ王年邁みて老い寝衣を衣するも温らざりければ

其臣僕等彼にいひけるは王わが主のために一人の若き處女を求めしめて之をして王のまへにたちて王の左右となり汝の懐に臥て王わが主を暖めしめんと

彼等乃ちイスラエルの四方の境に美き童女を求めてシユナミ人アビシヤグを得て之を王に携きたれり

此童女甚だ美くして王の左右となり王に事たり然ど王之と交はらざりき

時にハギテの子アドニヤ自ら高くし我は王とならんと言て己のために戰車と騎兵および自己のまへに驅る者五十人を備へたり

其父は彼が生れてより已來汝何故に然するやと言てかれを痛しめし事なかりきアドニヤも亦容貌の甚だ美き者にてアブサロムの次に生れたり

彼ゼルヤの子ヨアブおよび祭司アビヤタルと商議ひしかば彼等之に從ひゆきて助けたり

されど祭司ザドクとヱホヤダの子ベナヤと預言者ナタンおよびシメイとレイならびにダビデに屬したる勇士はアドニヤに與せざりき

アドニヤ、エンロゲルの近邊なるゾヘレテの石の傍にて羊と牛と肥畜を宰りて王の子なる己の兄弟および王の臣僕なるユダの人を盡く請けり

されども預言者ナタンとベナヤと勇士とおのれの兄弟ソロモンとをば招かざりき

爰にナタン、ソロモンの母バテシバに語りていひけるは汝ハギテの子アドニヤが王となれるを聞ざるかしかるにわれらの主ダビデはこれを知ざるなり

されば請ふ來れ我汝に計を授て汝をして己の生命と汝の子ソロモンの生命を救しめん

汝往てダビデ王の所に入り之にいへ王わが主よ汝は婢に誓ひて汝の子ソロモンは我に継で王となりわが位に坐せんといひたまひしにあらずや然にアドニヤ何故に王となれるやと

われまた汝が尚其處にて王と語ふ時に汝に次て入り汝の言を證すべしと

是においてバテシバ寝室に入りて王の所にいたるに王は甚だ老てシユナミ人アビシヤグ王に事へ居たり

バテシバ躬を鞠め王を拝す王いふ何なるや

かれ王にいひけるはわが主汝は汝の神ヱホバを指て婢に汝の子ソロモンは我に継で王となりわが位に坐せんと誓ひたまへり

しかるに視よ今アドニヤ王となれり而て王わが主汝は知たまはず

彼は牛と肥畜と羊を饒く宰りて王の諸子および祭司アビヤタルと軍の長ヨアブを招けりされど汝の僕ソロモンをば招かざりき

汝王わが主よイスラエルの目皆汝に注ぎ汝が彼等に誰が汝に継で王わが主の位に坐すべきを告るを望む

王わが主の其父祖と共に寝たまはん時に我とわが子ソロモンは罪人と見做さるるにいたらんと

バテシバ尚王と語ふうちに視よ預言者ナタンも亦入きたりければ

人々王に告て預言者ナタン此にありと曰ふ彼王のまへに入り地に伏て王を拝せり

しかしてナタンいひけるは王わが主汝はアドニヤ我に継で王となりわが位に坐すべしといひたまひしや

彼は今日下りて牛と肥畜と羊を饒く宰りて王の諸子と軍の長等と祭司アビヤタルを招けりしかして彼等はアドニヤのまへに飮食してアドニヤ王壽かれと言ふ

されど汝の僕なる我と祭司ザドクとヱホヤダの子ベナヤと汝の僕ソロモンとは彼請かざるなり

此事は王わが主の爲たまふ所なるかしかるに汝誰が汝に継で王わが主の位に坐すべきを僕に知せたまはざるなりと

ダビデ王答ていふバテシバをわが許に召せと彼乃ち王のまへに入て王のまへにたつに

王誓ひていひけるはわが生命を諸の艱難の中に救ひたまひしヱホバは活く

我イスラエルの神ヱホバを指て誓ひて汝の子ソロモン我に継で王となり我に代りてわが位に坐すべしといひしごとくに我今日爲すべしと

是においてバテシバ躬を鞠め地に伏て王を拝し願くはわが主ダビデ王長久に生ながらへたまへといふ

ダビデ王いひけるはわが許に祭司ザドクと預言者ナタンおよびヱホヤダの子ベナヤを召と彼等乃ち王のまへに來る

王彼等にいひけるは汝等の主の臣僕を伴ひわが子ソロモンをわが身の騾に乗せ彼をギホンに導き下り

彼處にて祭司ザドクと預言者ナタンは彼に膏をそそぎてイスラエルの上に王と爲すべししかして汝ら喇叭を吹てソロモン王壽かれと言へ

かくして汝ら彼に隨ひて上り來るべし彼は來りてわが位に坐し我に代りて王となるべし我彼を立てイスラエルとユダの上に主君となせりと

ヱホヤダの子ベナヤ王に對へていひけるはアメンねがはくは王わが主の神ヱホバ然言たまはんことを

ねがはくはヱホバ王わが主とともに在せしごとくソロモンとともに在してその位をわが主ダビデ王の位よりも大ならしめたまはんことを

斯て祭司ザドクと預言者ナタンおよびヱホヤダの子ベナヤ並にケレテ人とペレテ人下りソロモンをダビデ王の騾に乗せて之をギホンに導きいたれり

しかして祭司ザドク幕屋の中より膏の角を取てソロモンに膏そそげりかくて喇叭を吹きならし

民みなソロモン王壽かれと言り民みなかれに隨ひ上りて笛を吹き大に喜祝ひ地はかれらの聲にて裂たり

アドニヤおよび彼とともに居たる賓客其食を終たる時に皆これを聞りヨアブ喇叭の聲を聞ていひけるは城邑の中の聲音何ぞ喧囂やと

彼が言をる間に視よ祭司アビヤタルの子ヨナタン來るアドニヤ彼にいひけるは入よ汝は勇ある人なり嘉音を持きたれるならん

ヨナタン答へてアドニヤにいひけるは誠にわが主ダビデ王ソロモンを王となしたまへり

王祭司ザドクと預言者ナタンおよびヱホヤダの子ベナヤ並にケレテ人とペレテ人をソロモンとともに遣したまふ即ち彼等はソロモンを王の騾に乗せてゆき

祭司ザドクと預言者ナタン、ギホンにて彼に膏をそそぎて王となせり而して彼等其處より歓て上るが故に城邑は諠囂し汝らが聞る聲音は是なり

又ソロモン國の位に坐し

且王の臣僕來りてわれらの主ダビデ王に祝を陳て願くは汝の神ソロモンの名を汝の名よりも美し其位を汝の位よりも大たらしめたまへと言りしかして王は牀の上にて拝せり

王また斯いへりイスラエルの神ヱホバはほむべきかなヱホバ今日わが位に坐する者を與たまひてわが目亦これを見るなりと

アドニヤとともにある賓客皆驚愕き起て各其途に去りゆけり

茲にアドニヤ、ソロモンの面を恐れ起て往き壇の角を執へたり

或人ソロモンに告ていふアドニヤ、ソロモン王を畏る彼壇の角を執て願くはソロモン王今日我に劍をもて僕を殺じと誓ひ給へと言たりと

ソロモンいひけるは彼もし善人となるならば其髮の毛一すぢも地におちざるべし然ど彼の中に惡の見るあらば死しむべしと

ソロモン王乃ち人を遣て彼を壇より携下らしむ彼來りてソロモン王を拝しければソロモン彼に汝の家に往といへり

第2章

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ダビデ死ぬる日近よりければ其子ソロモンに命じていふ

我は世人の皆往く途に往んとす汝は強く丈夫のごとく爲れ

汝の神ヱホバの職守を守り其道に歩行み其法憲と其誡命と其律例と其證言とをモーセの律法に録されたるごとく守るべし然らば汝凡て汝の爲ところと凡て汝の向ふところにて榮ゆべし

又ヱホバは其甞に我の事に付て語りて若汝の子等其道を愼み心を盡し精神を盡して眞實をもて吾前に歩ばイスラエルの位に上る人汝に缺ることなかるべしと言たまひし言を堅したまはん

又汝はゼルヤの子ヨアブが我に爲たる事即ち彼がイスラエルの二人の軍の長ネルの子アブネルとヱテルの子アマサに爲たる事を知る彼此二人を切殺し太平の時に戰の血を流し戰の血を己の腰の周圍の帶と其足の履に染たり

故に汝の智慧にしたがひて事を爲し其白髮を安然に墓に下らしむるなかれ

但しギレアデ人バルジライの子等には恩惠を施こし彼等をして汝の席にて食ふ者の中にあらしめよ彼等はわが汝の兄弟アブサロムの面を避て逃し時我に就たるなり

視よ又バホリムのベニヤミン人ゲラの子シメイ汝とともに在り彼はわがマナハイムに往し時勵しき詛言をもて我を詛へり然ども彼ヨルダンに下りて我を迎へたれば我ヱホバを指て誓ひて我劍をもて汝を殺さじといへり

然りといへども彼を辜なき者とする勿れ汝は智慧ある人なれば彼に爲べき事を知るなり血を流して其白髮を墓に下すべしと

斯てダビデは其父祖と偕に寝りてダビデの城に葬らる

ダビデのイスラエルに王たりし日は四十年なりき即ちヘブロンにて王たりし事七年エルサレムにて王たりし事三十三年

ソロモン其父ダビデの位に坐し其國は堅固く定まりぬ

爰にハギテの子アドニヤ、ソロモンの母バテシバの所に來りければバテシバいひけるは汝は平穩なる事のために來るや彼いふ平穩たる事のためなり

彼又いふ我は汝に言さんとする事ありとバテシバいふ言されよ

かれいひけるは汝の知ごとく國は我の有にしてイスラエル皆其面を我に向て王となさんと爲りしかるに國は轉てわが兄弟の有となれり其彼の有となれるはヱホバより出たるなり

今我一の願を汝に求む請ふわが面を黜くるなかれバテシバかれにいひけるは言されよ

彼いひけるは請ふソロモン王に言て彼をしてシエナミ人アビシヤグを我に與て妻となさしめよ彼は汝の面を黜けざるべければなり

バテシバいふ善し我汝のために王に言んと

かくてバテシバ、アドニヤのために言とてソロモン王の許に至りければ王起てかれを迎へ彼を拝して其位に坐なほり王母のために座を設けしむ乃ち其右に坐せり

しかしてバテシバいひけるは我一の細小き願を汝に求むわが面を黜くるなかれ王かれにいひけるは母上よ求めたまへ我汝の面を黜けざるなり

彼いひけるは請ふシユナミ人アビシヤグをアドニヤに與て妻となさしめよ

ソロモン王答て其母にいひけるは何ぞアドニヤのためにシユナミ人アビシヤグを求めらるるや彼のために國をも求められよ彼は我の兄なればなり彼と祭司アビヤタルとゼルヤの子ヨアブのために求められよと

ソロモン王乃ちヱホバを指て誓ひていふ神我に斯なし又重ねて斯なしたまへアドニヤは其身の生命を喪はんとて此言を言いだせり

我を立てわが父ダビデの位に上しめ其約せしごとく我に家を建たまひしヱホバは生くアドニヤは今日戮さるべしと

ソロモン王ヱホヤダの子ベナヤを遣はしければ彼アドニヤを撃て死しめたり

王また祭司アビヤタルにいひけるは汝の故田アナトテにいたれ汝は死に當る者なれども嚮にわが父ダビデのまへに神ヱホバの櫃を舁き又凡てわが父の艱難を受たる處にて汝も艱難を受たれば我今日は汝を戮さじと

ソロモン、アビヤタルを逐いだしてヱホバの祭司たらしめざりき斯ヱホバがシロにてエリの家につきて言たまひし言應たり

爰に其風聞ヨアブに達りければヨアブ、ヱホバの幕屋に遁れて壇の角を執たり其はヨアブは轉てアブサロムには隨はざりしかどもアドニヤに隨ひたればなり

ヨアブがヱホバの幕屋に遁れて壇の傍に居ることソロモンに聞えければソロモン、ヱホヤダの子ベナヤを遣はしいひけるは往て彼を撃てと

ベナヤ乃ちヱホバの幕屋にいたり彼にいひけるは王斯言ふ出來れ彼いひけるは否我は此に死んとベナヤ反て王に告てヨアブ斯言ひ斯我に答へたりと言ふ

王ベナヤにいひけるは彼が言ふごとく爲し彼を撃て葬りヨアブが故なくして流したる血を我とわが父の家より除去べし

又ヱホバはヨアブの血を其身の首に歸したまふべし其は彼は己よりも義く且善りし二の人を撃ち劍をもてこれを殺したればなり即ちイスラエルの軍の長ネルの子アブネルとユダの軍の長ヱテルの子アマサを殺せり然るに吾父ダビデは與り知ざりき

されば彼等の血は長久にヨアブの首と其苗裔の首に皈すべし然どダビデと其苗裔と其家と其位にはヱホバよりの平安永久にあるべし

ヱホヤダの子ベナヤすなはち上りて彼を撃ち彼を殺せり彼は野にある己の家に葬らる

王乃ちヱホヤダの子ベナヤをヨアブに代て軍の長となせり王また祭司ザドクをしてアビヤタルに代しめたり

又王人を遣てシメイを召て之に曰けるはエルサレムに於て汝の爲に家を建て其處に住み其處より此にも彼にも出るなかれ

汝が出てキデロン川を濟る日には汝確に知れ汝必ず戮さるべし汝の血は汝の首に歸せん

シメイ王にいひけるは此言は善し王わが主の言たまへるごとく僕然なすべしと斯シメイ日久しくエルサレムに住り

三年の後シメイの二人の僕ガテの王マアカの子アキシの所に逃されり人々シメイに告ていふ視よ汝の僕はガテにありと

シメイ乃ち起て其驢馬に鞍置きガテに往てアキシに至り其僕を尋ねたり即ちシメイ往て其僕をガテより携來りしが

シメイのエルサレムよりガテにゆきて歸しことソロモンに聞えければ

王人を遣てシメイを召て之にいひけるは我汝をしてヱホバを指て誓しめ且汝を戒めて汝確に知れ汝が出て此彼に歩く日には汝必ず戮さるべしと言しにあらずや又汝は我に我聞る言葉は善しといへり

しかるに汝なんぞヱホバの誓とわが汝に命じたる命令を守ざりしや

王又シメイにいひけるは汝は凡て汝の心の知る諸の惡即ち汝がわが父ダビデに爲たる所を知るヱホバ汝の惡を汝の首に歸したまふ

されどソロモン王は福祉を蒙らんまたダビデの位は永久にヱホバのまへに固く立べしと

王ヱホヤダの子ベナヤに命じければ彼出てシメイを撃ちて死しめたりしかして國はソロモンの手に固く立り

第3章

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ソロモン、エジプトの王パロと縁を結びパロの女を娶て之を携來り自己の家とヱホバの家とエルサレムの周圍の石垣を建築ことを終るまでダビデの城に置り

當時までヱホバの名のために建たる家なかりければ民は崇邱にて祭を爲り

ソロモン、ヱホバを愛し其父ダビデの法憲に歩めり但し彼は崇邱にて祭を爲し香を焚り

爰に王ギベオンに往て其處に祭を爲んとせり其は彼處は大なる崇邱なればなり即ちソロモン一千の燔祭を其壇に献たり

ギベオンにてヱホバ夜の夢にソロモンに顯れたまへり神いひたまひけるは我何を汝に與ふべきか汝求めよ

ソロモンいひけるは汝は汝の僕わが父ダビデが誠實と公義と正心を以て汝と共に汝の前に歩みしに囚て大なる恩惠を彼に示したまへり又汝彼のために此大なる恩惠を存て今日のごとくかれの位に坐する子を彼に賜へり

わが神ヱホバ汝は僕をして我父ダビデに代て王とならしめたまへり而るに我は小き子にして出入することを知ず

且僕は汝の選みたまひし汝の民の中にあり即ち大なる民にて其數衆くして數ふることも書すことも能はざる者なり

是故に聽き別る心を僕に與へて汝の民を鞫しめ我をして善惡を辨別ることを得さしめたまへ誰か汝の此夥多き民を鞫くことを得んと

ソロモン此事を求めければ其言主の心にかなへり

是において神かれにいひたまひけるは汝此事を求めて己の爲に長壽を求めず又己のために富有をも求めず又己の敵の生命をも求めずして惟訟を聽き別る才智を求めたるに因て

視よ我汝の言に循ひて爲り我汝に賢明く聡慧き心を與ふれば汝の先には汝の如き者なく汝の後にも汝の如き者興らざるべし

我亦汝の求めざる者即ち富と貴とをも汝に與ふれば汝の生の涯王等の中に汝の如き者あらざるべし

又汝若汝の父ダビデの歩し如く吾道に歩みてわが法憲と命令を守らば我汝の日を長うせんと

ソロモン目寤て視るに夢なりき斯てソロモン、エルサレムに至りヱホバの契約の櫃の前に立ち燔祭を献げ酬恩祭を爲して其諸の臣僕に饗宴を爲り

爰に娼妓なる二人の婦王の所に來りて其前に立ちしが

一人の婦いひけるはわが主よ我と此婦は一の家に住む我此婦と偕に家にありて子を生り

しかるにわが生し後第三日に此婦もまた生りしかして我儕偕にありき家には他人の我らと偕に居りし者なし家には只我儕二人のみ

然るに此婦其子の上に臥たるによりて夜の中に其子死たれば

中夜に起て婢の眠れる間にわが子をわれの側より取りて之を己の懐に臥しめ己の死たる子をわが懐に臥しめたり

朝に及びて我わが子に乳を飮せんとて興て見るに死ゐたり我朝にいたりて其を熟く視たるに其はわが生るわが子にはあらざりしと

今一人の婦いふ否活るはわが子死るは汝の子なりと此婦いふ否死るは汝の子活るはわが子なりと彼等斯王のまへに論り

時に王いひけるは一人は此活るはわが子死るは汝の子なりと言ひ又一人は否死るは汝の子活るはわが子なりといふと

王乃ち劍を我に持來れといひければ劍を王の前に持來れり

王いひけるは活る子を二に分て其半を此に半を彼に與へよと

時に其活子の母なる婦人心其子のために焚がごとくなりて王に言していひけるは請ふわが主よ活る子を彼に與へたまへ必ず殺したまふなかれと然ども他の一人は是を我のにも汝のにもならしめず判たせよと言り

王答ていひけるは活子を彼に與へよ必ず殺すなかれ彼は其母なるなりと

イスラエル皆王の審理し所の判決を聞て王を畏れたり其は神の智慧の彼の中にありて審理を爲しむるを見たればなり

第4章

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ソロモン王はイスラエルの全地に王たり

其有る群卿は左の如しザドクの子アザリヤは相國

シシヤの子エリホレフとアヒヤは書記官アヒルデの子ヨシヤパテは史官

ヱホヤダの子ベナヤは軍の長ザドクとアビヤタルは祭司

ナタンの子アザリヤは代官の長ナタンの子ザブデは大臣にして王の友たり

アヒシヤルは宮内卿アブダの子アドニラムは徴募長なり

ソロモン又イスラエルの全地に十二の代官を置り其人々王と其家のために食物を備へたり即ち各一年に一月宛食物を備へたり

其名左のごとしエフライムの山地にはベンホル

マカヅとシヤラビムとベテシメシとエロンベテハナンにはベンデケル

アルポテにはベンヘセデありシヨコとヘベルの全地とは彼擔任り

ドルの高地の全部にはベンアヒナダブあり彼はソロモンの女タパテを妻とせり

アルヒデの子バアナはタアナクとメギドとヱズレルの下にザルタナの邊にあるベテシヤンの全地とを擔任てベテシヤンよりアベルメホラにいたりヨクネアムの外にまで及ぶ

ギレアデのラモテにはベンゲベルあり彼はギレアデにあるマナセの子ヤイルの諸村を擔任ち又バシヤンなるアルゴブの地にある石垣と銅の關を有る大なる城六十を擔任り

イドの子アヒナダブはマハナイムを擔任り

ナフタリにはアヒマアズあり彼もソロモンの女バスマテを妻に娶れり

アセルとアロテにはホシヤイの子バアナあり

イツサカルにはパルアの子ヨシヤパテあり

ベニヤミンにはエラの子シメイあり

アモリ人の王シホンの地およびバシヤンの王オグの地なるギレアデの地にはウリの子ゲベルあり其地にありし代官は唯彼一人のみ

ユダとイスラエルの人は多くして濱の沙の多きがごとくなりしが飮食して樂めり

ソロモンは河よりペリシテ人の地にいたるまでとエジプトの境に及ぶまでの諸國を治めたれば皆禮物を餽りてソロモンの一生の間事へたり

偖ソロモンの一日の食物は細麺三十石粗麺六十石

肥牛十牧場の牛二十羊一百其外に牡鹿羚羊小鹿および肥たる禽あり

其はソロモン河の此方をテフサよりガザまで盡く治めたればなり即ち河の此方の諸王を悉く統治たり彼は四方の臣僕より平安を得たりき

ソロモンの一生の間ユダとイスラエルはダンよりベエルシバに至るまで安然に各其葡萄樹の下と無花果樹の下に住り

ソロモン戰車の馬の厩四千騎兵一萬二千を有り

彼代官等各其月にソロモン王のためおよび總てソロモン王の席に來る者の爲に食を備へて缺るとこるなからしめたり

又彼等各其職に循ひて馬および疾足の馬に食する大麥と蒭蕘を其馬の在る處に携へ來れり

神ソロモンに智慧と聰明を甚だ多く賜ひ又廣大き心を賜ふ海濱の沙のごとし

ソロモンの智慧は東洋の人々の智慧とエジプトの諸の智慧よりも大なりき

彼は凡の人よりも賢くエズラ人エタンよりも又マホルの子なるヘマンとカルコルおよびダルダよりも賢くして其名四方の諸國に聞えたり

彼箴言三千を説り又其詩歌は一千五首あり

彼又草木の事を論じてレバノンの香柏より墻に生る苔に迄及べり彼亦獣と鳥と匐行物と魚の事を論じたり

諸の國の人々ソロモンの智慧を聽んとて來り天下の諸の王ソロモンの智慧を聞及びて人を遣はせり

第5章

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ツロの王ヒラム、ソロモンの膏そそがれて其父にかはりて王となりしを聞て其臣僕をソロモンに遣せりヒラムは恒にダビデを愛したる者なりければなり

是に於てソロモン、ヒラムに言遣はしけるは

汝の知ごとく我父ダビデは其周圍にありし戰爭に因て其神ヱホバの名のために家を建ること能はずしてヱホバが彼等を其足の跖の下に置またふを待り

然るに今わが神ヱホバ我に四方の太平を賜ひて敵もなく殃もなければ

我はヱホバのわが父ダビデに語てわが汝の代に汝の位に上しむる汝の子其人はわが名のために家を建べしと言たまひしに循ひてわが神ヱホバの名のために家を建んとす

されば汝命じてわがためにレバノンより香柏を砍出さしめよわが僕汝の僕と共にあるべし又我は凡て汝の言ふごとく汝の僕の賃銀を汝に付すべし其は汝の知ごとく我儕の中にはシドン人の如く木を砍に巧みなる人なければなりと

ヒラム、ソロモンの言を聞て大に喜び言けるは今日ヱホバに稱譽あれヱホバ、ダビデに此夥多しき民を治むる賢き子を與たまへりと

かくてヒラム、ソロモンに言遣りけるは我汝が言ひ遣したる所の事を聽り我香柏の材木と松樹の材木とに付ては凡て汝の望むごとく爲すべし

わが僕レバノンより海に持下らんしかして我これを海より桴にくみて汝が我に言ひ遣す處におくり其處にて之をくづすべし汝之を受よ又汝はわが家のために食物を與へてわが望を成せと

斯てヒラムはソロモンに其凡て望むごとく香柏の材木と松の材木を與へたり

又ソロモンはヒラムに其家の食物として小麥二萬石を與へまた清油二十石をあたへたり斯ソロモン年々ヒラムに與へたり

ヱホバ其言たまひしごとくソロモンに智慧を賜へりまたヒラムとソロモンの間睦しくして二人偕に契約を結べり

爰にソロモン王イスラエルの全地に徴募人を興せり其徴募人の數は三萬人なり

ソロモンかれらを一月交代に一萬人づつレバノンに遣せり即ち彼等は一月レバノンに二月家にありアドニラムは徴募人の督者なりき

ソロモン負載者七萬人山に於て石を砍る者八萬人あり

外に又其工事の長なる官吏三千三百人ありて工事に作く民を統たり

かくて王命じて大なる石貴き石を鑿出さしめ琢石を以て家の基礎を築かしむ

ソロモンの建築者とヒラムの建築者およびゲバル人之を砍り斯彼等材木と石を家を建るに備へたり

第6章

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イスラエルの子孫のエジプトの地を出たる後四百八十年ソロモンのイスラエルに王たる第四年ジフの月即ち二月にソロモン、ヱホバのために家を建ることを始めたり

ソロモン王のヱホバの爲に建たる家は長六十キユビト濶二十キユビト高三十キユビトなり

家の拝殿の廊は家の濶に循ひて長二十キユビト家の前の其濶十キユビトなり

彼家に造り附の格子ある窻を施たり

又家の墻壁に附て四周に連接屋を建て家の墻壁即ち拝殿と神殿の墻壁の周圍に環らせり又四周に旁房を造れり

下層の連接屋は濶五キユビト中層のは濶六キユビトを第三層のは濶七キユビトなり即ち家の外に階級を造り環らして何者をも家の墻壁に挿入ざらしむ

家は建る時に鑿石所にて鑿り預備たる石にて造りたれば造れる間に家の中には鎚も鑿も其外の鐵器も聞えざりき

中層の旁房の戸は家の右の方にあり螺旋梯より中層の房にのぼり中層の房より第三層の房にいたるべし

斯彼家を建終り香柏の橡と板をもて家を葺り

又家に附て五キユビトの高たる連接屋を建環し香柏をもて家に交接たり

爰にヱホバの言ソロモンに臨みて曰く

汝今此家を建つ若し汝わが法憲に歩みわが律例を行ひわが諸の誡命を守りて之にしたがひて歩まばわれはが汝の父ダビデに言し語を汝に固うすべし

我イスラエルの子孫の中に住わが民イスラエルを棄ざるべし

斯ソロモン家を建終れり

彼香柏の板を以て家の墻壁の裏面を作れり即ち家の牀板より頂格の墻壁まで木をもて其裏面をはりまた松の板をもて家の牀板をはれり

又家の奧に二十キユビトの室を牀板より墻壁まで香柏をもて造れり即ち家の内に至聖所なる神殿を造れり

家即ち前にある拝殿は四十キユビトなり

家の内の香柏は瓠と咲る花を雕刻める者なり皆香柏にして石は見えざりき

神殿は彼其處にヱホバの契約の櫃を置んとて家の内の中に設けたり

神殿の内は長二十キユビト濶二十キユビト高二十キユビトなり純金をもて之を蔽ひ又香柏の壇を覆へり

又ソロモン純金をもて家の内を蔽ひ神殿の前に金の鏈をもて間隔を造り金をもて之を蔽へり

又金をもて殘るところなく家を蔽ひ遂に家を飾ることを悉く終たりまた神殿の傍にある壇は皆金をもて蔽へり

神殿の内に橄欖の木をもて二のケルビムを造れり其高十キユビト

其ケルブの一の翼は五キユビト又其ケルブの他の翼も五キユビトなり一の翼の末より他の翼の末までは十キユビトあり

他のケルブも十キユビトなり其ケルビムは偕に同量同形なり

此ケルブの高十キユビト彼ケルブも亦しかり

ソロモン家の内の中にケルビムを置ゑケルビムの翼を展しければ此ケルブの翼は此墻壁に及び彼ケルブの翼は彼の墻壁に及びて其兩翼家の中にて相接れり

彼金をもてケルビムを蔽へり

家の周圍の墻壁には皆内外ともにケルビムと棕櫚と咲る花の形を雕み

家の牀板には内外ともに金を蔽へり

神殿の入口には橄欖の木の戸を造れり其木匡の門柱は五分の一なり

其二の扉も亦橄欖の木なりソロモン其上にケルビムと棕櫚と咲る花の形を雕刻み金をもて蔽へり即ちケルビムと棕櫚の上に金を鍍たり

斯ソロモン亦拝殿の戸のために橄欖の木の門柱を造れり即ち四分の一なり

其二の戸は松の木にして此戸の兩扉は摺むべく彼戸の兩扉も摺むべし

ソロモン其上にケルビムと棕櫚と咲る花を雕刻み金をもてこれを蔽ひて善く其雕工に適はしむ

また鑿石三層と香柏の厚板一層をもて内庭を造れり

第四年のジフの月にヱホバの家の基礎を築き

第十一年のブルの月即ち八月に凡て其箇條のごとく其定例のごとくに家成りぬ斯ソロモン之に建るに七年を渉れり

第7章

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ソロモン己の家を建しが十三年を經て全く其家を建終たり

彼レバノン森の家を建たり其長は百キユビト其濶は五十キユビト其高は三十キユビトなり香柏の柱四行ありて柱の上に香柏の梁あり

四十五本の柱の上なる梁の上は香柏にて蓋へり柱は一行に十五本あり

また窻三行ありて牖と牖と三段に相對ふ

戸と戸柱は皆大木をもて角に造り牖と牖と三段に相對へり

又柱の廊を造れり其長五十キユビト其濶三十キユビトなり柱のまへに一の廊ありまた其柱のまへに柱と階あり

又ソロモン審判を爲すために位の廊即ち審判の廊を造り牀板より牀板まで香柏をもて蔽へり

ソロモンの居住る家は其廊の後の他の庭にありて其工作同じかりきソロモン亦其娶りたるパロの女のために家を建しが此廊に同じかりき

是等は内外とも基礎より檐にいたるまで又外面にては大庭にいたるまで皆鑿石の量にしたがひて鋸にて剖たる貴き石をもて造れるものなり

又基礎は貴き石大なる石即ち十キユビトの石八キユビトの石なり

其上には鑿石の量に循ひて貴き石と香柏あり

又大庭の周圍にに三層の鑿石と一層の香柏の厚板ありヱホバの家の内庭と家の廊におけるが如し

爰にソロモン人を遣はしてヒラムをツロより召び來れり

彼はナフタリの支派なる嫠婦の子にして其父はツロの人にて銅の細工人なりヒラムは銅の諸の細工を爲すの智慧と慧悟と知識の充ちたる者なりしがソロモン王の所に來りて其諸の細工を爲り

彼銅の柱二を鋳たり其高各十八キユビトにして各十二キユビトの繩を環らすべし

又銅を鎔して柱頭を鋳て柱の顛に置ゆ此の頭の高も五キユビト彼の頭の高も五キユビトなり

柱の上にある頭の爲に組物の網と鏈樣の槎物を造れり此頭に七つ彼頭に七つあり

又二行の石榴を一の網工の上の四周に造りて柱の上にある頭を蓋ふ他の頭をも亦然せり

柱の上にある頭は四キユビトの百合花の形にして廊におけるがごとし

二の柱の頭の上には亦網工の外なる腹の所に接きて石榴あり他の柱の四周にも石榴二百ありて相列べり

此柱を拝殿の廊に竪つ即ち右の柱を立て其名をヤキンと名け左の柱を竪て其名をボアズと名く

其柱の上に百合花の形あり斯其柱の作成り

又海を鋳なせり此邊より彼邊まで十キユビトにして其四周圓く其高五キユビトなり其四周は三十キユビトの繩を環らすべし

其邊の下には四周に匏瓜ありて之を環れり即ち一キユビトに十づつありて海の周圍を圍り其匏瓜は海を鋳たる時に二行に鋳たるなり

其海は十二の牛の上に立り其三は北に向ひ三は西に向ひ三は南に向ひ三は東に向ふ海其上にありて牛の後は皆内に向ふ

海の厚は手寛にして其邊は百合花にて杯の邊の如くに作れり海は二千斗を容たり

又銅の臺十を造れり一の臺の長四キユビト其濶四キユビト其高三キユビトなり

其臺の製作は左のごとし臺には嵌板あり嵌板は邊の中にあり

邊の中にある嵌板の上に獅子と牛とケルビムあり又邊の上に座あり獅子と牛の下に花飾の垂下物あり

其臺には各四の銅の輪と銅の軸あり其四の足には肩のごとき者あり其肩のごとき者は洗盤の下にありて凡の花飾の旁に鋳つけたり

其口は頭の内より上は一キユビトなり其口は圓く一キユビト半にして座の作の如し又其口には雕工あり其鏡板は四角にして圓からず

四の輪は鏡板の下にあり輪の手は臺の中にあり輪は各高一キュビト半

輪の工作は戰車の輪の工作の如し其手と縁と輻と轂とは皆鋳物なり

臺の四隅に四の肩の如き者あり其肩のごとき者は臺より出づ

臺の上の所の高半キユビトは其周圍圓し又臺の上の所の手と鏡板も臺より出づ

其手の板と鏡板には其各の隙處に循ひてケルビムと獅子と棕櫚を雕刻み又其四周に花飾を造れり

是のごとく十の臺を造れり其鋳法と量と形は皆同じ

又銅の洗盤十を造れり洗盤は各四十斗を容れ洗盤は各四キユビトなり十の臺の上には各一の洗盤あり

其臺五を家の右の旁に五を家の左の旁に置ゑ家の右の東南に其海を置り

ヒラム又鍋と火鏟と鉢とを造れり斯ヒラム、ヱホバの家の爲にソロモン王に爲る諸の細工を成終たり

即ち二の往と其柱の上なる頭の二の毬と柱の上なる其頭の二の毬を蓋ふ二の網工と

其二の網工の爲の石榴四百是は一の網工に石榴二行ありて柱の上なる二の毬を蓋ふ

又十の臺と其臺の上の十の洗盤と

一の海と其海の下の十二の牛

及び鍋と火鏟と鉢是也ヒラムがソロモン王にヱホバの家のために造りし此等の器は皆光明ある銅なりき

王ヨルダンの低地に於てスコテとザレタンの間の粘土の地にて之を鋳たり

ソロモン其器甚だしく多かりければ皆權ずに措り其銅の重しれざりき

又ソロモン、ヱホバの家の諸の器を造れり即ち金の壇と供前のパンを載る金の案

および純金の燈臺是は神殿のまへに五は右に五は左にあり又金の花と燈盞と燈鉗と

純金の盆と剪刀と鉢と皿と滅燈器と至聖所なる内の家の戸のため及び拝殿なる家の戸のためなる金の肘鈕是なり

斯ソロモン王のヱホバの家のために爲る諸の細工終れり是においてソロモン其父ダビデが奉納めたる物即ち金銀および器を携へいりてヱホバの家の寳物の中に置り

第8章

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爰にソロモン、ヱホバの契約の櫃をダビデの城即ちシオンより舁上らんとてイスラエルの長老と諸の支派の首イスラエルの子孫の家の長等をエルサレムにてソロモン王の所に召集む

イスラエルの人皆エタニムの月即ち七月の節筵に當てソロモン王の所に集まれり

イスラエルの長老皆至り祭司櫃を執りあげて

ヱホバの櫃と集會の幕屋と幕屋にありし諸の聖き器を舁上れり即ち祭司とレビの人之を舁のぼれり

ソロモン王および其許に集れるイスラエルの會衆皆彼と偕に櫃の前にありて羊と牛を献げたりしが其數多くして書すことも數ふることも能はざりき

祭司ヱホバの契約の櫃を其處に舁いれたり即ち家の神殿なる至聖所の中のケルビムの翼の下に置めたり

ケルビムは翼を櫃の所に舒べ且ケルビム上より櫃と其棹を掩へり

杠長かりければ杠の末は神殿の前の聖所より見えたり然ども外には見えざりき其杠は今日まで彼處にあり

櫃の内には二の石牌の外何もあらざりき是はイスラエルの子孫のエジプトの地より出たる時ヱホバの彼等と契約を結たまへる時にモーセがホレブにて其處に置めたる者なり

斯て祭司聖所より出けるに雲ヱホバの家に盈たれば

祭司は雲のために立て供事ること能はざりき其はヱホバの榮光ヱホバの家に盈たればなり

是においてソロモンいひけるはヱホバは濃き雲の中に居んといひたまへり

我誠に汝のために住むべき家永久に居べき所を建たりと

王其面を轉てイスラエルの凡の會衆を祝せり時にイスラエルの會衆は皆立ゐたり

彼言けるはイスラエルの神ヱホバは譽べきかなヱホバは其口をもて吾父ダビデに言ひ其手をもて之を成し遂げたまへり

即ち我は吾民イスラエルをエジプトより導き出せし日より我名を置べき家を建しめんためにイスラエルの諸の支派の中より何れの城邑をも選みしことなし但ダビデを選みてわが民イスラエルの上に立しめたりと言たまへり

夫イスラエルの神ヱホバの名のために家を建ることはわが父ダビデの心にありき

しかるにヱホバわが父ダビデにいひたまひけるはわが名のために家を建ること汝の心にあり汝の心に此事あるは善し

然ども汝は其家を建べからず汝の腰より出る汝の子其人吾名のために家を建べしと

而してヱホバ其言たまひし言を行ひたまへり即ち我わが父ダビデに代りて立ちヱホバの言たまひし如くイスラエルの位に坐しイスラエルの神ヱホバの名のために家を建たり

我又其處にヱホバの契約を蔵めたる櫃のために一の所を設けたり即ち我儕の父祖をエジプトの地より導き出したまひし時に彼等に爲したまひし者なりと

ソロモン、イスラエルの凡の會衆の前にてヱホバの壇のまへに立ち其手を天に舒て

言けるはイスラエルの神ヱホバよ上の天にも下の地にも汝の如き神なし汝は契約を持ちたまひ心を全うして汝のまへに歩むところの汝の僕等に恩惠を施したまふ

汝は汝の僕わが父ダビデに語たまへる所を持ちたまへり汝は口をもて語ひ手をもて成し遂たまへること今日のごとし

イスラエルの神ヱホバよ然ば汝が僕わが父ダビデに語りて若し汝の子孫其道を愼みて汝がわが前に歩めるごとくわが前に歩まばイスラエルの位に坐する人わがまへにて汝に缺ること無るべしといひたまひし事をダビデのために持ちたまへ

然ばイスラエルの神よ爾が僕わが父ダビデに言たまへる爾の言に效驗あらしめたまへ

神果して地の上に住たまふや視よ天も諸の天の天も爾を容るに足ず况て我が建たる此家をや

然どもわが神ヱホバよ僕の祈祷と懇願を顧みて其號呼と僕が今日爾のまへに祈る祈祷を聽たまへ

願くは爾の目を夜晝此家に即ち爾が我名は彼處に在べしといひたまへる處に向ひて開きたまへ願くは僕の此處に向ひて祈らん祈祷を聽たまへ

願くは僕と爾の民イスラエルが此處に向ひて祈る時に爾其懇願を聽たまへ爾は爾の居處なる天において聽き聽て赦したまへ

若し人其隣人に對ひて犯せることありて其人誓をもて誓ふことを要られんに來りて此家において爾の壇のまへに誓ひなば

爾天において聽て行ひ爾の僕等を鞫き惡き者を罪して其道を其首に歸し義しき者を義として其義に循ひて之に報いたまへ

若爾の民イスラエル爾に罪を犯したるがために敵の前に敗られんに爾に歸りて爾の名を崇め此家にて爾に祈り願ひなば

爾天において聽き爾の民イスラエルの罪を赦して彼等を爾が其父祖に與へし地に歸らしめたまへ

若彼等が爾に罪を犯したるが爲に天閉て雨无らんに彼等若此處にむかひて祈り爾の名を崇め爾が彼等を苦めたまふときに其罪を離れなば

爾天において聽き爾の僕等爾の民イスラエルの罪を赦したまへ爾彼等に其歩むべき善道を敎へたまふ時は爾が爾の民に與へて產業となさしめたまひし爾の地に雨を降したまへ

若國に饑饉あるか若くは疫病枯死朽腐噬亡ぼす蝗蟲あるか若くは其敵國にいりて彼等を其門に圍むか如何なる災害如何なる病疾あるも

若一人か或は爾の民イスラエル皆各己の心の災を知て此家に向ひて手を舒なば其人如何なる祈祷如何なる懇願を爲とも

爾の居處なる天に於て聽て赦し行ひ各の人に其心を知給ふ如く其道々にしたがひて報い給へ其は爾のみ凡の人の心を知たまへばなり

爾かく彼等をして爾が彼等の父祖に與へたまへる地に居る日に常に爾を畏れしめたまへ

且又爾の民イスラエルの者にあらずして爾の名のために遠き國より來る異邦人は

(其は彼等爾の大なる名と強き手と伸たる腕を聞およぶべければなり)若來りて此家にむかひて祈らば

爾の居處なる天に於て聽き凡て異邦人の爾に龥求むる如く爲たまへ爾かく地の諸の民をして爾の名をしらしめ爾の民イスラエルのごとく爾を畏れしめ又我が建たる此家は爾の名をもて稱呼るるといふことを知しめ給へ

爾の民其敵と戰はんとて爾の遣はしたまふ所に出たる時彼等若爾が選みたまへる城とわが爾の名のために建たる家の方に向ひてヱホバに祈らば

爾天において彼等の祈祷と懇願を聽て彼等を助けたまへ

人は罪を犯さざる者なければ彼等爾に罪を犯すことありて爾彼等を怒り彼等を其敵に付し敵かれらを虜として遠近を諭ず敵の地に引ゆかん時は

若彼等虜れゆきし地において自ら顧みて悔い己を虜へゆきし者の地にて爾に願ひて我儕罪を犯し悖れる事を爲たり我儕惡を行ひたりと言ひ

己を虜ゆきし敵の地にて一心一念に爾に歸り爾が其父祖に與へたまへる地爾が選みたまへる城とわが爾の名のために建たる家の方に向ひて爾に祈らば

爾の居處なる天において爾彼等の祈祷と懇願を聽てかれらを助け

爾の民の爾に對て犯したる事と爾に對て過てる其凡の罪過を赦し彼等を虜ゆける者の前にて彼等に憐を得させ其人々をして彼等を憐ましめたまへ

其は彼等は爾がエジプトより即ち鐵の鑪の中よりいだしたまひし爾の民爾の產業なればなり

願くは僕の祈祷と爾の民イスラエルの祈願に爾の目を開きて凡て其爾に龥求むる所を聽たまへ

其は爾彼等を地の凡の民の中より別ちて爾の產業となしたまへばなり神ヱホバ爾が我儕の父祖をエジプトより導き出せし時モーセによりて言給ひし如し

ソロモン此祈祷と祈願を悉くヱホバに祈り終りし時其天にむかひて手を舒べ膝を屈居たるを止てヱホバの壇のまへより起あがり

立て大なる聲にてイスラエルの凡の會衆を祝して言けるは

ヱホバは譽べきかなヱホバは凡て其言たまひし如く其民イスラエルに太平を與へたまへり其僕モーセによりて言たまひし其善言は皆一も違はざりき

願くは我儕の神ヱホバ我儕の父祖と偕に在せしごとく我儕とともに在せ我儕を離れたまふなかれ我儕を棄たまふなかれ

願くは我儕の心をおのれに傾けたまひて其凡の道に歩ましめ其我儕の父祖に命じたまひし誡命と法憲と律例を守らしめたまへ

願くはヱホバの前にわが願し是等の言日夜われらの神ヱホバに近くあれ而してヱホバ日々の事に僕を助け其民イスラエルを助けたまへ

斯して地の諸の民にヱホバの神なることと他に神なきことを知しめたまへ

されば爾等我儕の神ヱホバとともにありて今日の如く爾らの心を完全しヱホバの法憲に歩み其誡命を守るべしと

斯て王および王と偕にありしイスラエル皆ヱホバのまへに犠牲を献たり

ソロモン酬恩祭の犠牲を献げたり即ち之をヱホバに献ぐ其牛二萬二千羊十二萬なりき斯王とイスラエルの子孫皆ヱホバの家を開けり

其日に王ヱホバの家の前なる庭の中を聖別め其處にて燔祭と禴祭と酬恩祭の脂とを献げたり是はヱホバの前なる銅の壇小くして燔祭と禴祭と酬恩祭の脂とを受るにたらざりしが故なり

其時ソロモン七日に七日合て十四日我儕の神ヱホバのまへに節筵を爲りイスラエルの大なる會衆ハマテの入處よりエジプトの河にいたるまで悉く彼と偕にありき

第八日にソロモン民を歸せり民は王を祝しヱホバが其僕ダビデと其民イスラエルに施したまひし諸の恩惠のために喜び且心に樂みて其天幕に往り

第9章

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ソロモン、ヱホバの家と王の家を建る事を終へ且凡てソロモンが爲んと欲し望を遂し時

ヱホバ再ソロモンに甞てギベオンにて顯現たまひし如くあらはれたまひて

彼に言たまひけるは我は爾が我まへに願し祈祷と祈願を聽たり我爾が建たる此家を聖別てわが名を永く其處に置べし且わが目とわが心は恒に其處にあるべし

爾若爾の父ダビデの歩みし如く心を完うして正しく我前に歩みわが爾に命じたる如く凡て行ひてわが憲法と律例を守らば

我は爾の父ダビデに告てイスラエルの位に上る人爾に缺ること無るべしと言しごとく爾のイスラエルに王たる位を固うすべし

若爾等又は爾等の子孫全く轉きて我にしたがはずわが爾等のまへに置たるわが誡命と法憲を守らずして往て他の神に事へ之を拝まば

我イスラエルをわが與へたる地の面より絶ん又わが名のために我が聖別たる此家をば我わがまへより投げ棄んしかしてイスラエルは諸の民の中に諺語となり嘲笑となるべし

且又此家は高くあれども其傍を過る者は皆之に驚き嘶きて言んヱホバ何故に此地に此家に斯爲たまひしやと

人答へて彼等は己の父祖をエジプトの地より導き出せし其神ヱホバを棄て他の神に附從ひ之を拝み之に事へしに因てヱホバ此の凡の害惡を其上に降せるなりと言ん

ソロモン二十年を經て二の家即ちヱホバの家と王の家を建をはりヒウムにガリラヤの地の城邑二十を與へたり

其はツロの王ヒラムはソロモンに凡て其望に循ひて香柏と松の木と金を供給たればなり

ヒラム、ツロより出てソロモンが己に與へたる諸邑を見しに其目に善らざりければ

我兄第よ爾が我に與へたる此等の城邑は何なるやといひて之をカブルの地となづけたり其名今日までのこる

甞てヒラムは金百二十タラントを王に遣れり

ソロモン王の徴募人を興せし事は是なり即ちヱホバの家と自己の家とミロとエルサレムの石垣とハゾルとメギドンとゲゼルを建んが爲なりき

エジプトの王パロ嘗て上りてゲゼルを取り火を以て之を燬き其邑に住るカナン人を殺し之をソロモンの妻なる其女に與へて粧奩と爲り

ソロモン、ゲゼルと下ベテホロンと

バアラと國の野にあるタデモル

及びソロモンの有てる府庫の諸邑其戰車の諸邑其騎兵の諸邑並にソロモンがエルサレム、レバノンおよび其凡の領地に於て建んと欲し者を盡く建たり

凡てイスラエルの子孫に非るアモリ人ヘテ人ペリジ人ヒビ人ヱブス人の遺存る者

其地に在て彼等の後に遺存る子孫即ちイスラエルの子孫の滅し盡すことを得ざりし者にソロモン奴隸の徴募を行ひて今日に至る

然どもイステエルの子孫をばソロモン一人も奴隸と爲ざりき其は彼等は軍人彼の臣僕牧伯大將たり戰車と騎兵の長たればなり

ソロモンの工事を管理れる首なる官吏は五百五十人にして工事に働く民を治めたり

爰にパロの女ダビデの城より上りてソロモンが彼のために建たる家に至る其時にソロモン、ミロを建たり

ソロモン、ヱホバに築きたる壇の上に年に三次燔祭と酬恩祭を献げ又ヱホバの前なる壇に香を焚りソロモン斯家を全うせり

ソロモン王エドムの地紅海の濱に於てエラテの邊なるエジオンゲベルにて船數雙を造れり

ヒラム海の事を知れる舟人なる其僕をソロモンの僕と偕に其船にて遣せり

彼等オフルに至り其處より金四百二十タラントを取てこれをソロモン王の所に携來る

第10章

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シバの女王ヱホバの名に關るソロモンの風聞を聞き及び難問を以てソロモンを試みんとて來れり

彼甚だ多くの部從香物と甚だ多くの金と寶石を負ふ駱駝を從へてエルサレムに至る彼ソロモンの許に來り其心にある所を悉く之に言たるに

ソロモン彼に其凡の事を告たり王の知ずして彼に告ざる事無りき

シバの女王ソロモンの諸の智慧と其建たる家と

其席の食物と其臣僕の列坐る事と其侍臣の伺候および彼等の衣服と其酒人と其ヱホバの家に上る階級とを見て全く其氣を奪はれたり

彼王にいひけるは我が自己の國にて爾の行爲と爾の智慧に付て聞たる言は眞實なりき

然ど我來りて目に見るまでは其言を信ぜざりしが今視るに其半も我に聞えざりしなり爾の智慧と昌盛はわが聞たる風聞に越ゆ

常に爾の前に立て爾の智慧を聽く是等の人爾の臣僕は幸福なるかな

爾の神ヱホバは讃べきかなヱホバ爾を悦び爾をイスラエルの位に上らせたまへりヱホバ永久にイスラエルを愛したまふに因て爾を王となして公道と義を行はしめたまふなりと

彼乃ち金百二十タラント及び甚だ多くの香物と寶石とを王に饋れりシバの女王のソロモン王に饋りたるが如き多くの香物は重て至ざりき

オフルより金を載來りたるヒラムの船は亦オフルより多くの白檀木と寶石とを運び來りければ

王白檀木を以てヱホバの家と王の家とに欄干を造り歌謡者のために琴と瑟を造れり是の如き白檀木は至らざりき亦今日までも見たることなし

ソロモン王王の例に循ひてシバの女王に物を饋りたる外に又彼が望に任せて凡て其求むる物を饋れり斯て彼其臣僕等とともに歸りて其國に往り

偖一年にソロモンの所に至れる金の重量は六百六十六タラントなり

外に又商買および商旅の交易並にアラビヤの王等と國の知事等よりも至れり

ソロモン王展金の大楯二百を造れり其大楯には各六百シケルの金を用ひたり

又展金の干三百を造れり一の干に三斤の金を用ひたり王是等をレバノン森林の家に置り

王又象牙をもて大なる寳座を造り純金を以て之を蔽へり

其寳座に六の階級あり寳座の後に圓き頭あり坐する處の兩旁に扶手ありて扶手の側に二の獅子立てり

又其六の階級に十二の獅子此旁彼旁に立り是の如き者を作れる國はあらざりき

ソロモン王の用ひて飮る器は皆金なり又レバノン森林の家の器も皆純金にして銀の物無りき銀はソロモンの世には貴まざりしなり

其は王海にタルシシの船を有てヒラムの船と供にあらしめタルシシの船をして三年に一度金銀象牙猿猴および孔雀を載て來らしめたればなり

抑ソロモン王は富有と智慧に於て天下の諸の王よりも大なりければ

天下皆神がソロモンの心に授けたまへる智慧を聽んとてソロモンの面を見んことを求めたり

人々各其禮物を携へ來る即ち銀の器金の器衣服甲冑香物馬騾毎歳定分ありき

ソロモン戰車と騎兵を集めたるに戰車千四百輛騎兵壱萬二千ありきソロモン之を戰車の城邑に置き或はエルサレムにて王の所に置り

王エルサレムに於て銀を石の如くに爲し香柏を平地の桑樹の如くに爲して多く用ひたり

ソロモンの馬を獲たるはエジプトとコアよりなり即ち王の商賣コアより價値を以て取り

エジプトより上り出る戰車一輛は銀六百にして馬は百五十なりき斯のごとくヘテ人の凡の王等およびスリアの王等のために其手をもて取出せり


第11章

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ソロモン王パロの女の外に多の外國の婦を寵愛せり即ちモアブ人アンモニ人エドミ人シドン人ヘテ人の婦を寵愛せり

ヱホバ曾て是等の國民についてイスラエルの子孫に言たまひけらく爾等は彼等と交るべからず彼等も亦爾等と交るべからず彼等必ず爾等の心を轉して彼等の神々に從はしめんとしかるにソロモン彼等を愛して離れざりき

彼妃公主七百人嬪三百人あり其妃等彼の心を轉せり

ソロモンの年老たる時妃等其心を轉移して他の神に從はしめければ彼の心其父ダビデの心の如く其神ヱホバに全からざりき

其はソロモン、シドン人の神アシタロテに從ひアンモニ人の惡むべき者なるモロクに從ひたればなり

ソロモン斯ヱホバの目のまへに惡を行ひ其父ダビデの如く全くはヱホバに從はざりき

爰にソロモン、モアブの憎むべき者なるケモシの爲又アンモンの子孫の憎むべき者なるモロクのためにエルサレムの前なる山に崇邱を築けり

彼又其異邦の凡の妃の爲にも然せしかば彼等は香を焚て己々の神を祭れり

ソロモンの心轉りてイスラエルの神ヱホバを離れしによりてヱホバ彼を怒りたまふヱホバ嘗て兩次彼に顯れ

此事に付て彼に他の神に從ふべからずと命じたまひけるに彼ヱホバの命じたまひし事を守らざりしなり

ヱホバ、ソロモンに言たまひけるは此事爾にありしに因り又汝わが契約とわが爾に命じたる法憲を守らざりしに因て我必ず爾より國を裂きはなして之を爾の臣僕に與ふべし

然ど爾の父ダビデの爲に爾の世には之を爲ざるべし我爾の子の手より之を裂きはなさん

但し我は國を盡くは裂きはなさずしてわが僕ダビデのために又わが選みたるエルサレムのために一の支派を爾の子に與へんと

是に於てヱホバ、エドミ人ハダデを興してソロモンの敵と爲したまふ彼はエドム王の裔なり

曩にダビデ、エドムに事ありし時軍の長ヨアブ上りて其戰死せし者を葬りエドムの男を盡く撃殺しける時に方りて

(ヨアブはエドムの男を盡く絶までイスラエルの群衆と偕に六月其處に止れり)

ハダデ其父の僕なる數人のエドミ人と共に逃てエジブトに往んとせり時にハダデは尚小童子なりき

彼等ミデアンを起出てバランに至りパランより人を伴ひてエジプトに往きエジプトの王パロに詣るにバロ彼に家を與へ食糧を定め且土地を與へたり

ハダデ大にパロの心にかなひしかばパロ己の妻の妹即ち王妃タペネスの妹を彼に妻せり

タペネスの妹彼に男子ゲヌバテを生ければタペネス之をパロの家の中にて乳離せしむゲヌバテ、パロの家にてパロの子の中にありき

ハダデ、エジプトに在てダビデの其先祖と偕に寝りたると軍の長ヨアブの死たるを聞しかばハダデ、パロに言けるは我を去しめてわが國に往しめよと

パロ彼にいひけるは爾我とともにありて何の缺たる處ありてか爾の國に往ん事を求むる彼言ふ何も無し然どもねがはくは我を去しめよ去しめよ

神父エリアダの子レゾンを興してソロモンの敵となせり彼は其主人ゾバの王ハダデゼルの許を逃さりたる者なり

ダビデがゾバの人を殺したる時に彼人を自己に集めて一隊の首領となりしが彼等ダマスコに往て彼處に住みダマスコを治めたり

ハダデが爲たる害の外にレゾン、ソロモンの一生の間イスラエルの敵となれり彼イステエルを惡みてスリアに王たりき

ゼレダのヱフラタ人ネバテの子ヤラベアムはソロモンの僕なりしが其母の名はゼルヤと曰て嫠婦なりき彼も亦其手を擧て王に敵す

彼が手を擧て王に敵せし故は此なりソロモン、ミロを築き其父ダビデの城の損缺を塞ぎ居たり

其人ヤラベアムは大なる能力ある者なりしかばソロモン此少者が事に勤むるを見て之を立てヨセフの家の凡の役を督どらしむ

其頃ヤラベアム、エルサレムを出し時シロ人なる預言者アヒヤ路にて彼に遭へり彼は新しき衣服を著ゐたりしが彼等二人のみ野にありき

アヒヤ其著たる新しき衣服を執へて之を十二片に裂き

ヤラベアムに言けるは爾自ら十片を取れイスラエルの神ヱホバ斯言たまふ視よ我國をソロモンの手より裂きはなして爾に十の支派を與へん

(但し彼はわが僕ダビデの故に因り又わがイスラエルの凡の支派の中より選みたる城エルサレムの故に因りて一の支派を有つべし)

其は彼等我を棄てシドン人の神アシタロテとモアブの神ケモシとアンモンの子孫の神モロクを拝み其父ダビデの如くわが道に歩てわが目に適ふ事わが法ととわが律例を行はざればなり

然ども我は國を盡くは彼の手より取ざるべし我が選みたるわが僕ダビデわが命令とわが法憲を守りたるに因て我彼が爲にソロモンを一生の間主たらしむべし

然ど我其子の手より國を取て其十の支派を爾に與へん

其子には我一の支派を與へてわが僕ダビデをしてわが己の名を置んとてわがために擇みたる城エルサレムにてわが前に常に一の光明を有しめん

我爾を取ん爾は凡て爾の心の望む所を治めイスラエルの上に王となるべし

爾若わが爾に命ずる凡の事を聽て吾が道に歩みわが目に適ふ事を爲しわが僕ダビデが爲し如く我が法憲と誡命を守らば我爾と偕にありてわがダビデのために建しごとく爾のために鞏固き家を建てイスラエルを爾に與ふべし

我之がためにダビデの裔を苦めんされど永遠には非じと

ソロモン、ヤラベアムを殺さんと求めければヤラベアム起てエジプトに逃遁れエジプトの王シシヤクに至りてソロモンの死ぬるまでエジプトに居たり

ソロモンの其餘の行爲と凡て彼が爲たる事および其智慧はソロモンの行爲の書に記さるるにあらすや

ソロモンのエルサレムにてイスラエルの全地を治めたる日は四十年なりき

ソロモン其父祖と偕に寝りて其父ダビデの城に葬らる其子レハベアム之に代て王となれり

第12章

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爰にレハベアム、シケムに往り其はイスラエル皆彼を王と爲んとてシケムに至りたればなり

ネバテの子ヤラベアム尚エジブトに在て聞りヤラベアムはソロモン王の面をさけて逃さりエジプトに住居たるなり

時に人衆人を遣はして彼を招けり斯てヤラベアムとイスラエルの會衆皆來りてレハベアムに告て言けるは

汝の父我儕の軛を難くせり然ども爾今爾の父の難き役と爾の父の我儕に蒙らせたる重き軛を軽くせよ然ば我儕爾に事へん

レハベアム彼等に言けるは去て三日を經て再び我に來れと民乃ち去り

レハベアム王其父ソロモンの生る間其前に立たる老人等と計りていひけるは爾等如何に敎へて此民に答へしむるや

彼等レハベアムに告て言けるは爾若今日此民の僕となり之に事へて之に答へ善き言を之に語らば彼等永く爾の僕となるべしと

然に彼老人の敎へし敎を棄て自己と倶に生長て己のまへに立つ少年等と計れり

即ち彼等に言けるは爾等何を敎へて我儕をして此我に告て爾の父の我儕に蒙むらせし軛を軽くせよと言ふ民に答へしむるやと

彼と偕に生長たる少年彼に告ていひけるは爾に告て爾の父我儕の軛を重くしたれど爾これを我儕のために軽くせよと言たる此民に爾斯言べし我が小指はわが父の腰よりも太し

またわが父爾等に重き軛を負せたりしが我は更に爾等の軛を重くせん我父は鞭にて爾等を懲したれども我は蠍をもて爾等を懲んと爾斯彼等に告べしと

ヤラベアムと民皆王の告て第三日に再び我に來れと言しごとく第三日にレハベアムに詣りしに

王荒々しく民に答へ老人の敎へし敎を棄て

少年の敎の如く彼等に告て言けるは我父は爾等の軛を重くしたりしが我は更に爾等の軛を重くせん我父は鞭を以て爾等を懲したれども我は蠍をもて爾等を懲さんと

王斯民に聽ざりき此事はヱホバより出たる者なり是はヱホバその甞てシロ人アヒヤに由てネバテの子ヤラベアムに告し言をおこなはんとて爲たまへるなり

かくイスラエル皆王の己に聽ざるを見たり是において民王に答へて言けるは我儕ダビデの中に何の分あらんやヱサイの子の中に產業なしイスラエルよ爾等の天幕に歸れダビデよ今爾の家を視よと而してイスラエルは其天幕に去りゆけり

然どもユダの諸邑に住るイスラエルの子孫の上にはレハベアム其王となれり

レハベアム王徴募頭なるアドラムを遣はしけるにイスラエル皆石にて彼を撃て死しめたればレハベアム王急ぎて其車に登りエルサレムに逃たり

斯イスラエル、ダビデの家に背きて今日にいたる

爰にイスラエル皆ヤラベアムの歸りしを聞て人を遣して彼を集會に招き彼をイスラエルの全家の上に王と爲りユダの支派の外はダビデの家に從ふ者なし

ソロモンの子レハベアム、エルサレムに至りてユダの全家とベニヤミンの支派の者即ち壯年の武夫十八萬を集む斯してレハベアム國を己に皈さんがためにイスラエルの家と戰はんとせしが

神の言神の人シマヤに臨みて曰く

ソロモンの子ユダの王レハベアムおよびユダとベニヤミンの全家並に其餘の民に告て言べし

ヱホバ斯言ふ爾等上るべからず爾等の兄弟なるイスラエルの子孫と戰ふべからず各人其家に歸れ此事は我より出たるなりと彼等ヱホバの言を聽きヱホバの言に循ひて轉り去りぬ

ヤラベアムはエフライムの山地にシケムを建て其處に住み又其所より出てペヌエルを建たり

爰にヤラベアム其心に謂けるは國は今ダビデの家に歸らん

若此民エルサレムにあるヱホバの家に禮物を献げんとて上らば此民の心ユダの王なる其主レハベアムに歸りて我を殺しユダの王レハベアムに歸らんと

是に於て王計議て二の金の犢を造り人々に言けるは爾らのエルサレムに上ること旣に足りイスラエルよ爾をエジブトの地より導き上りし汝の神を視よと

而して彼一をベテルに安ゑ一をダンに置り

此事罪となれりそは民ダンに迄往て其一の前に詣たればなり

彼又崇邱の家を建てレビの子孫にあらざる凡民を祭司となせり

ヤラベアム八月に節期を定めたり即ち其月の十五日なりユダにある節期に等し而して壇の上に上りたりベテルにて彼斯爲し其作りたる犢に禮物を献げたり又彼其造りたる崇邱の祭司をベテルに立たり

かく彼其ベテルに造れる壇の上に八月の十五日に上れり是は彼が己の心より造り出したる月なり而してイスラエルの人々のために節期を定め壇の上にのぼりて香を焚り

第13章

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視よ爰に神の人ヱホバの言に由てユダよりベテルに來れり時にヤラベアムは壇の上に立て香を焚ゐたり

神の人乃ちヱホバの言を以て壇に向ひて呼はり言けるは壇よ壇よヱホバ斯言たまふ視よダビデの家にヨシアと名くる一人の子生るべし彼爾の上に香を焚く所の崇邱の祭司を爾の上に献げん且人の骨爾の上に燒れんと

是日彼異蹟を示して言けるは是はヱホバの言たまへる事の異蹟なり視よ壇は裂け其上にある灰は傾出んと

ヤラベアム王神の人がベテルにある壇に向ひて呼はりたる言を聞る時其手を壇より伸し彼を執へよと言けるが其彼に向ひて伸したる手枯て再び屈縮ることを得ざりき

しかして神の人がヱホバの言を以て示したる異蹟の如く壇は裂け灰は壇より傾出たり

王答て神の人に言けるは請ふ爾の神ヱホバの面を和めわが爲に祈りてわが手を本に復しめよ神の人乃ちヱホバの面を和めければ王の手本に復りて前のごとくに成り

是において王神の人に言けるは我と與に家に來りて身を息めよ我爾に禮物を與へんと

神の人王に言けるは爾假令爾の家の半を我に與ふるも我は爾とともに入じ又此所にてパンを食ず水を飮ざるべし

其はヱホバの言我にパンを食ふなかれ水を飮なかれ又爾が往る途より歸るなかれと命じたればなりと

斯彼他途を往き自己がベテルに來れる途よりは歸らざりき

爰にベテルに一人の老たる預言者住ゐたりしが其子等來りて是日神の人がベテルにて爲たる諸事を彼に宣たり亦神の人の王に言たる言をも其父に宣たり

其父彼等に彼は何の途を往しやといふ其子等ユダより來りし神の人の往たる途を見たればなり

彼其子等に言けるは我ために驢馬に鞍おけと彼等驢馬に鞍おきければ彼之に乗り

神の人の後に往きて橡の樹の下に坐するを見之にいひけるは汝はユダより來れる神の人なるか其人然りと言ふ

彼其人にいひけるは我と偕に家に往てパンを食へ

其人いふ我は汝と偕に歸る能はず汝と偕に入あたはず又我は此處にて爾と偕にパンを食ず水を飮じ

其はヱホバの言我に爾彼處にてパンを食ふなかれ水を飮なかれ又爾が至れる所の途より歸り往なかれと言たればなりと

彼其人にいひけるは我も亦爾の如く預言者なるが天の使ヱホバの言を以て我に告て彼を爾と偕に爾の家に携かへり彼にパンを食はしめ水を飮しめよといへりと是其人を誑けるなり

是において其人彼と偕に歸り其家にてパンを食ひ水を飮り

彼等が席に坐せし時ヱホバの言其人を携歸し預言者に臨みければ

彼ユダより來れる神の人に向ひて呼はり言けるはヱホバ斯言たまふ爾ヱホバの口に違き爾の神ヱホバの爾に命じたまひし命令を守らずして歸り

ヱホバの爾にパンを食ふなかれ水を飮なかれと言たまひし處にてパンを食ひ水を飮たれば爾の屍は爾の父祖の墓に至らざるべしと

其人のパンを食ひ水を飮し後彼其人のため即ち己が携歸りたる預言者のために驢馬に鞍おけり

斯て其人往けるが獅子途にて之に遇ひて之を殺せり而して其屍は途に棄られ驢馬は其傍に立ち獅子も亦其屍の側に立り

人々經過て途に棄られたる屍と其屍の側に立る獅子を見て來り彼老たる預言者の住る邑にて語れり

彼人を途より携歸りたる預言者聞て言けるは其はヱホバの口に違きたる神の人なりヱホバの彼に言たまひし言の如くヱホバ彼を獅子に付したまひて獅子彼を裂き殺せりと

しかして其子等に語りて言けるは我ために驢馬に鞍おけと彼等鞍おきければ

彼往て其屍の途に棄られ驢馬と獅子の其屍の傍に立るを見たり獅子は屍を食はず驢馬をも裂ざりき

預言者乃ち神の人の屍を取あげて之を驢馬に載せて携歸れりしかして其老たる預言者邑に入り哀哭みて之を葬れり

即ち其屍を自己の墓に置め皆之がために嗚呼わが兄弟よといひて哀哭り

彼人を葬りし後彼其子等に語りて言けるは我が死たる時は神の人を葬りたる墓に我を葬りわが骨を彼の骨の側に置めよ

其は彼がヱホバの言を以てベテルにある壇にむかひ又サマリアの諸邑に在る崇邱の凡の家に向ひて呼はりたる言は必ず成べければなり

斯事の後ヤラベアム其惡き途を離れ歸ずして復凡の民を崇邱の祭司と爲り即ち誰にても好む者は之を立てければ其人は崇邱の祭司と爲り

此事ヤラベアムの家の罪戻となりて遂に之をして地の表面より消失せ滅亡に至らしむ

第14章

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當時ヤラベアムの子アビヤ疾ゐたり

ヤラベアム其妻に言けるは請ふ起て装を改へ人をして汝がヤラベアムの妻なるを知しめずしてシロに往け彼處にわが此民の王となるべきを我に告たる預言者アヒヤをる

汝の手に十のパン及び菓子と一瓶の蜜を取て彼の所に往け彼汝に此子の如何になるかを示すべしと

ヤラベアムの妻是爲し起てシロに往きアヒヤの家に至りしがアヒヤは年齢のために其目凝て見ることを得ざりき

ヱホバ、アヒヤにいひたまひけるは視よヤラベアムの妻其子疾るに因て其に付て汝に一の事を諮んとて來る汝斯々彼に言べし其は彼入り來る時其身を他の人とすべければなり

彼が戸の所に入來れる時アヒヤ其履聲を聞て言けるはヤラベアムの妻入よ汝何ぞ其身を他の人とするや我汝に嚴酷き事を告るを命ぜらる

往てヤラベアムに告べしイスラエルの神ヱホバ斯言たまふ我汝を民の中より擧げ我民イスラエルの上に汝を君となし

國をダビデの家より裂き離して之を汝に與へたるに汝は我僕ダビデの我が命令を守りて一心に我に從ひ唯わが目に適ふ事のみを爲しが如くならずして

汝の前に在し凡の者よりも惡を爲し往て汝のために他の神と鋳たる像を造り我が怒を激し我を汝の背後に棄たり

是故に視よ我ヤラベアムの家に災害を下しヤラベアムに屬する男はイスラエルにありて繋がれたる者も繋がれざる者も盡く絶ち人の塵埃を殘りなく除くがごとくヤラベアムの家の後を除くべし

ヤラベアムに屬する者の邑に死るをば犬之を食ひ野に死ぬるをば天空の鳥之を食はんヱホバ之を語たまへばなり

爾起て爾の家に往け爾の足の邑に入る時子は死ぬべし

而してイスラエル皆彼のために哀みて彼を葬らんヤラベアムに屬する者は唯是のみ墓に入るべし其はヤラベアムの家の中にて彼はイスラエルの神ヱホバに向ひて善き意を懐けばなり

ヱホバ、イスラエル上に一人の王を興さん彼其日にヤラベアムの家を斷絶べし但し何れの時なるか今即ち是なり

又ヱホバ、イスラエルを撃て水に搖撼ぐ葦の如くになしたまひイスラエルを其父祖に賜ひし此善地より抜き去りて之を河の外に散したまはん彼等其アシラ像を造りてヱホバの怒を激したればなり

ヱホバ、ヤラベアムの罪の爲にイスラエルを棄たまふべし彼は罪を犯し又イスラエルに罪を犯さしめたりと

ヤラベアムの妻起て去テルザに至りて家の閾に臻れる時子は死り

イスラエル皆彼を葬り彼の爲に哀めりヱホバの其僕預言者アヒヤによりて言たまへる言の如し

ヤラベアムの其餘の行爲彼が如何に戰ひしか如何に世を治めしかは視よイスラエルの王の歴代志の書に記載る

ヤラベアムの王たりし日は二十二年なりき彼其父祖と偕に寝りて其子ナダブ之に代りて王となれり

ソロモンの子レハベアムはユダに王たりきレハベアムは王と成る時四十一歳なりしがヱホバの其名を置んとてイスラエルの諸の支派の中より選みたまひし邑なるエルサレムにて十七年王たりき其母の名はナアマといひてアンモニ人なり

ユダ其父祖の爲たる諸の事に超てヱホバの目の前に惡を爲し其犯したる罪に由てヱホバの震怒を激せり

其は彼等も諸の高山の上と諸の靑木の下に崇邱と碑とアシラ像を建たればなり

其國には亦男色を行ふ者ありぎ彼等はヱホバがイスラエルの子孫の前より逐攘ひたまひし國民の中にありし諸の憎むべき事を傚ひ行へり

レハベアム王の第五年にエジプトの王シシヤク、エルサレムに攻上り

ヱホバの家の寶物と王の家の寶物を奪ひたり即ち盡く之を奪ひ亦ソロモンの造りたる金の楯を皆奪ひたり

レハベアム王其代に銅の楯を造りて王の家の門を守る侍衛の長の手に付せり

王のヱホバの家に入る毎に侍衛之を負ひ復之を侍衛の房に携歸れり

レハベアムの其餘の行爲と其凡て爲たる事はユダの王の歴代志の書に記さるるに非ずや

レハベアムとヤラベアムの間に戰爭ありき

レハベアム其父祖と偕に寝りて其父祖と共にダビデの城に葬らる其母のナアマといひてアンモニ人なり其子アビヤム之に代りて王と爲り

第15章

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ネバテの子ヤラベアム王の第十八年にアビヤム、ユダの王となり

エルサレムにて三年世を治めたり其母の名はマアカといひてアブサロムの女なり

彼は其父が己のさきに爲たる諸の罪を行ひ其心其父ダビデの心の如く其神ヱホバに完全からざりき

然に其神ヱホバ、ダビデの爲にエルサレムに於て彼に一の燈明を與へ其子を其後に興しエルサレムを固く立しめ賜へり

其はダビデはヘテ人ウリヤの事の外は一生の間ヱホバの目に適ふ事を爲て其己に命じたまへる諸の事に背かざりければなり

レハベアムとヤラベアムの間には其一生の間戰爭ありき

アビヤムの其餘の行爲と凡て其爲たる事はユダの王の歴代志の書に記載さるるにあらずやアビヤムとヤラベアムの間に戰爭ありき

アビヤム其先祖と倶に寝りしかば之をダビデの城に葬りぬ其子アサ之に代りて王と爲り

イスラエルの王ヤラベアムの第二十年にアサ、ユダの王となり

エルサレムにて四十一年世を治めたり其母の名はマアカといひてアブサロムの女なり

アサは其父ダビデの如くヱホバの目に適ふ事を爲し

男色を行ふ者を國より逐ひ出し其父祖等の造りたる諸の偶像を除けり

彼は亦其母マアカのアシラの像を造りしがために之を貶して太后たらしめざりき而してアサ其像を毀ちてキデロンの谷に焚棄たり

但し崇邱は除かざりき然どアサの心は一生の間ヱホバに完全かりき

彼其父の献納めたる物と己のをさめたる物金銀器をヱホバの家に携へいりぬ

アサとイスラエルの王バアシヤの間に一生の間戰爭ありき

イスラエルの王バアシヤ、ユダに攻上りユダの王アサの所に誰をも往來せざらしめん爲にラマを築けり

是に於てアサ王ヱホバの家の府庫と王の家の府庫に殘れる所の金銀を盡く將て之を其臣僕の手に付し之をダマスコに住るスリアの王ヘジヨンの子タブリモンの子なるベネハダデに遣はして言けるは

わが父と爾の父の間の如く我と爾の間に約を立ん視よ我爾に金銀の禮物を餽れり往て爾とイスラエルの王バアシヤとの約を破り彼をして我を離れて上らしめよ

ベネハダデ、アサ王に聽きて自己の軍勢の長等を遣はしてイスラエルの諸邑を攻めイヨンとダンとアベルベテマアカおよびキンネレテの全地とナフタリの全地とを撃り

バアシヤ聞及びラマを築くことを罷てテルザに止り

是に於てアサ王令をユダ全國に降したり一人も免かれし者なし斯して即ちバアシヤが用ひてラマを築きたる石と材木を取きたらしめアサ王之を用てべニヤミンのゲバとミズパを築けり

アサの其餘の行爲と其諸の功業と凡て其爲たる事および其建たる城邑はユダの王の歴代志の書に記載さるるにあらずや但し彼は年老るに及びて其足を病たり

アサ其父祖と時に寝りて其父ダビデの城に其父祖と偕に葬らる其子ヨシヤパテ之に代りて王と爲り

ユダの王アサの第二年にヤラベアムの子ナダブ、イスラエルの王と爲り二年イスラエルを治めたり

彼ヱホバの目のまへに惡を爲其父の道に歩行み其イスラエルに犯させたる罪を行へり

爰にイツサカルの家のアヒヤの子バアシヤ彼に敵して黨を結びペリシテ人に屬するギベトンにて彼を撃り其はナダブとイスラエル皆ギベトンを圍み居たればなり

ユダの王アサの第三年にバアシヤ彼を殺し彼に代りて王となれり

バアシヤ王となれる時ヤラベアムの全家を撃ち氣息ある者は一人もヤラベアムに殘さずして盡く之を滅せりヱホバの其僕シロ人アヒヤに由て言たまへる言の如し

是はヤラベアムが犯し又イスラエルに犯させたる罪の爲め又彼がイスラエルの神ヱホバの怒を惹き起したる事に因るなり

ナダブの其餘の行爲と凡て其爲たる事はイスラエルの王の歴代志の書に記載さるるにあらずや

アサとイスラエルの王バアシヤの間に一生のあひだ戰爭ありき

ユダの王アサの第三年にアヒヤの子バアシヤ、テルザに於てイスラエルの全地の王となりて二十四年を經たり

彼ヱホバの目のまへに惡を爲しヤラベアムの道にあゆみ其イスラエルに犯させたる罪を行へり

第16章

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爰にヱホバの言ハナニの子ヱヒウに臨みバアシヤを責て曰く

我爾を塵の中より擧て我民イスラエルの上に君となしたるに爾はヤラベアムの道に歩行みわが民イスラエルに罪を犯させて其罪をもて我怒を激したり

されば我バアシヤの後と其家の後を除き爾の家をしてネバテの子ヤラベアムの家の如くならしむべし

バアシヤに屬する者の城邑に死るをば犬之を食ひ彼に屬する者の野に死るをば天空の鳥これを食はんと

バアシヤの其餘の行爲と其爲たる事と其功績はイスラエルの王の歴代志の書に記載さるるにあらずや

バアシヤ其父祖と倶に寝りてテルザに葬らる其子エラ之に代りて王となれり

ヱホバの言亦ハナニの子ヱヒウに由て臨みバアシヤと其家を責む是は彼がヱホバの目のまへに諸の惡事を行ひ其手の所爲を以てヱホバの怒を激してヤラベアムの家に傚たるに縁り又其ナダブを殺したるに縁てなり

ユダの王アサの第二十六年にバアシヤの子エラ、テルザに於てイスラエルの王となりて二年を經たり

彼がテルザにありてテルザの宮殿の宰アルザの家において飮み酔たる時其僕ジムリ戰車の半を督どる者之に敵して黨を結べり

即ちユダの王アサの第二十七年にジムリ入て彼を撃ち彼を殺し彼にかはりて王となれり

彼王となりて其位に上れる時バアシヤの全家を殺し男子は其親族にもあれ朋友にもあれ一人も之に遺さざりき

ジムリ斯バアシヤの全家を滅ぼせりヱホバが預言者ヱヒウに由てバアシヤを責て言たまへる言の如し

是はバアシヤの諸の罪と其子エラの罪のためなり彼等は罪を犯し又イスラエルをして罪を犯し其虚物を以てイスラエルの神ヱホバの怒を激さしめたり

エラの其餘の行爲と凡て其爲たる事はイスラエルの王の歴代志の書に記載さるるにあらずや

ユダの王アサの第二十七年にジムリ、テルザにて七日の間王たりき民はペリシテ人に屬するギベトンに向ひて陣どり居たりしが

陣どれる民ジムリは黨を結び亦王を殺したりと言を聞り是に於てイスラエル皆其日陣營にて軍の長オムリをイスラエルの王となせり

オムリ乃ちイスラエルの衆と偕にギベトンより上りてテルザを圍り

ジムリ其邑の陷るを見て王の家の天守に入り王の家に火をかけて其中に死り

是は其犯したる罪によりてなり彼ヱホバの目のまへに惡を爲しヤラベアムの道にあゆみヤラベアムがイスラエルに罪を犯させて爲したるところの罪を行ひたり

ジムリの其餘の行爲と其なしたる徒黨はイスラエルの王の歴代志の書に記載るるにあらずや

其時にイスラエルの民二に分れ民の半はギナラの子テブニに從ひて之を王となさんとし半はオムリに從へり

オムリに從へる民ギナテの子テブニに從へる民に勝てテブニは死てオムリ王となれり

ユダの王アサの第三十一年にオムリ、イスラエルの王となりて十二年を經たり彼テルザにて六年王たりき

彼銀二タラントを以てセメルよりサマリア山を買ひ其上に邑を建て其建たる邑の名を其山の故主なりしセメルの名に循ひてサマリアと稱り

オムリ、ヱホバの目のまへに惡を爲し其先に在し凡の者よりも惡き事を行へり

彼はネバテの子ヤラベアムの凡の道にあゆみヤラベアムがイスラエルをして罪を犯し其虚物を以てイスラエルの神ヱホバの怒をおこさしめたる其罪を行へり

オムリの爲たる其餘の行爲と其なしたる功績はイスラエルの王の歴代志の書に記載るるにあらずや

オムリ其父祖と偕に寝りてサマリアに葬らる其子アハブ之に代りて王となれり

ユダの王アサの第三十八年にオムリの子アハブ、イスラエルの王となれりオムリの子アハブ、サマリアに於て二十二年イスラエルに王たりき

オムリの子アハブは其先に在し凡の者よりも多くヱホバの目のまへに惡を爲り

彼はネバテの子ヤラベアムの罪を行ふ事を軽き事となせしがシドン人の王エテバアルの女イゼベルを妻に娶り往てバアルに事へ之を拝めり

彼其サマリアに建たるバアルの家の中にバアルのために壇を築けり

アハブ又アシラ像を作れりアハブは其先にありしイスラエルの諸の王よりも甚だしくイスラエルの神ヱホバの怒を激すことを爲り

其代にベテル人ヒエル、ヱリコを建たり彼其基を置る時に長子アビラムを喪ひ其門を立る時に季子セグブを喪へりヌンの子ヨシユアによりてヱホバの言たまへるがごとし

第17章

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ギレアデに居住れるテシベ人エリヤ、アハブに言ふ吾事ふるイスララエルの神ヱホバは活くわが言なき時は數年雨露あらざるべしと

ヱホバの言彼に臨みて曰く

爾此より往て東に赴きヨルダンの前にあるケリテ川に身を匿せ

爾其川の水を飮べし我鴉に命じて彼處にて爾を養はしむと

彼往てヱホバの言の如く爲り即ち往てヨルダンの前にあるケリテ川に住り

彼の所に鴉朝にパンと肉亦夕にパンと肉を運べり彼は川に飮り

しかるに國に雨なかりければ數日の後其川涸ぬ

ヱホバの言彼に臨みて曰

起てシドンに屬するザレバテに往て其處に住め視よ我彼處の嫠婦に命じて爾を養はしむと

彼起てザレパテに往けるが邑の門に至れる時一人の嫠婦の其處に薪を採ふを見たり乃ち之を呼て曰けるは請ふ器に少許の水を我に携來りて我に飮せよと

彼之を携きたらんとて往る時エリヤ彼を呼て言けるは請ふ爾の手に一口のパンを我に取きたれと

彼いひけるは爾の神ヱホバは活く我はパン無し只桶に一握の粉と瓶に少許の油あるのみ觀よ我は二の薪を採ふ我いりてわれとわが子のために調理て之をくらひて死んとす

エリヤ彼に言ふ懼るるなかれ往て汝がいへる如くせよ但し先其をもてわが爲に小きパン一を作りて我に携きたり其後爾のためと爾の子のために作るべし

其はヱホバの雨を地の面に降したまふ日までは其桶の粉は竭ず其瓶の油は絶ずとイスラエルの神ヱホバ言たまへばなりと

彼ゆきてエリヤの言るごとくなし彼と其家及びエリヤ久く食へり

ヱホバのエリヤに由て言たまひし言のごとく桶の粉は竭ず瓶の油は絶ざりき

是等の事の後其家の主母なる婦の子疾に罹しが其病甚だ劇くして氣息其中に絶て無きに至れり

婦エリアに言けるは神の人よ汝なんぞ吾事に關渉るべけんや汝はわが罪を憶ひ出さしめんため又わが子を死しめんために我に來れるか

エリヤ彼に爾の子を我に授せと言て之を其懐より取り之を己の居る桜に抱のぼりて己の牀に臥しめ

ヱホバに呼はりていひけるは吾神ヱホバよ爾は亦吾ともに宿る嫠に菑をくだして其子を死しめたまふやと

而して三度身を伸して其子の上に伏しヱホバに呼はりて言ふわが神ヱホバ願くは此子の魂を中に歸しめたまへと

ヱホバ、エリヤの聲を聽いれたまひしかば其子の魂中にかへりて生たり

エリヤ乃ち其子を取て之を桜より家に携くだり其母に與していひけるは視よ爾の子は生くと

婦エリヤにいひけるは此に縁て我は爾が神の人にして爾の口にあるヱホバの言は眞實なるを知ると

第18章

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衆多の日を經たるのち第三年にヱホバの言エリヤに臨みて曰く往て爾の身をアハブに示せ我雨を地の面に降さんと

エリヤ其身をアハブに示さんとて往り時に饑饉サマリアに甚しかりき

茲にアハブ家宰なるオバデヤを召たり

(オバデヤは大にヱホバを畏みたる者にてイゼベルがヱホバの預言者を絶たる時にオバデヤ百人の預言者を取て之を五十人づつ洞穴に匿しパンと水をもて之を養へり)

アハブ、オバデヤにいひけるは國中の水の諸の源と諸の川に往け馬と騾を生活むる草を得ることあらん然ば我儕牲畜を盡くは失なふに至らじと

彼等巡るべき地を二人に分ちアハブは獨にて此途に往きオバデヤは獨にて彼途に往けり

オバデヤ途にありし時觀よエリヤ彼に遭り彼エリヤを識て伏て言けるは我主エリヤ汝は此に居たまふや

エリヤ彼に言けるは然り往て汝の主にエリヤは此にありと告よ

彼言けるは我何の罪を犯したれば汝僕をアハブの手に付して我を殺さしめんとする

汝の神ヱホバは生くわが主の人を遣はして汝を尋ねざる民はなく國はなし若しエリヤは在ずといふ時は其國其民をして汝を見ずといふ誓を爲しめたり

汝今言ふ往て汝の主にエリヤは此にありと告よと

然ど我汝をはなれて往ときヱホバの霊我しらざる處に汝を携へゆかん我至りてアハブに告て彼汝を尋獲ざる時は彼我を殺さん然ながら僕はわが幼少よりヱホバを畏むなり

イゼベルがヱホバの預言者を殺したる時に吾なしたる事即ち我がヱホバの預言者の中百人を五十人づつ洞穴に匿してパンと水を以て之を養ひし事は吾主に聞えざりしや

しかるに今汝言ふ往て汝の主にエリヤは此にありと告よと然らば彼我を殺すならん

エリヤいひけるは我が事ふる萬軍のヱホバは活く我は必ず今日わが身を彼に示すべしと

オバデヤ乃ち往てアハブに會ひ之に告ければアハブはエリヤに會んとて往きけるが

アハブ、エリヤを見し時アハブ、エリヤに言けるは汝イスラエルを惱ます者此にをるか

彼答へけるは我はイスラエルを惱さず但汝と汝の父の家之を惱すなり即ち汝等はヱホバの命令を棄て且汝はバアルに從ひたり

されば人を遣てイスラエルの諸の人およびバアルの預言者四百五十人並にアシラ像の預言者四百人イゼベルの席に食ふ者をカルメル山に集めて我に詣しめよと

是においてアハブ、イスラエルの都の子孫の中に人を遣り預言者をカルメル山に集めたり

時にエリヤ總の民に近づきて言けるは汝等何時まで二の物の間にまよふやヱホバ若し神ならば之に從へされどバアル若し神ならば之に從へと民は一言も彼に答ざりき

エリヤ民に言けるは惟我一人存りてヱホバの預言者たり然どバアルの預言者は四百五十人あり

然ば二の犢を我儕に與へよ彼等は其一の犢を選みて之を截り剖き薪の上に載せて火を縦たずに置べし我も其一の犢を調理へ薪の上に載せて火を縦ずに置べし

斯して汝等は汝等の神の名を龥べ我はヱホバの名を龥ん而して火をもて應る神を神と爲べしと民皆答て斯言は善と言り

エリヤ、バアルの預言者に言けるは汝等は多ければ一の犢を選みて最初に調理へ汝等の神の名を呼ぶべし但し火を縦なかれと

彼等乃ち其與られたる犢を取て調理へ朝より午にいたるまでバアルの名を龥てバアルよ我儕に應へたまへと言り然ど何の聲もなく又何の應る者もなかりければ彼等は其造りたる壇のまはりに踊れり

日中におよびてエリヤ彼等を嘲りていひけるは大聲をあげて呼べ彼は神なればなり彼は默想をるか他處に行しか又は旅にあるか或は假寐て醒さるべきかと

是において彼等は大聲に呼はり其例に循ひて刀劍と槍を以て其身を傷つけ血を其身に流すに至れり

斯して午時すぐるに至りしが彼等なほ預言を言ひて晩の祭物を献ぐる時にまで及べり然ども何の聲もなく又何の應ふる者も无く又何の顧る者もなかりき

時にエリヤ都の民にむかひて我に近よれと言ければ民皆彼に近よれり彼乃ち破壞たるヱホバの壇を修理ヘり

エリヤ、ヤコブの子等の支派の數に循ひて十二の石を取れり(ヱホバの言昔ヤコブに臨みてイスラエルを汝の名とすべしと言り)

彼其石にてヱホバの名を以て壇を築き壇の周圍に種子二セヤを容べき溝を作れり

又薪を陳列べ犢を截剖て薪の上に載せて言けるは四の桶に水を滿て燔祭と薪の上に沃げ

又いひけるは再び之を爲せと再びこれをなせしかば又言ふ三次これを爲せと三次これをなせり

水に壇の周廻に流るまた溝にも水をみたしたり

晩の祭物を献ぐる時に及て預言者エリヤ近よりて言けるはアブラハム、イサク、イスラエルの神ヱホバよ汝のイスラエルにおいて神なることおよび我が汝の僕にして汝の言に循ひて是等の諸の事を爲せることを今日知しめたまへ

ヱホバよ我に應へたまへ我に應へたまへ此民をして汝ヱホバは神なることおよび汝は彼等の心を翻へしたまふといふことを知しめたまへと

時にヱホバの火降りて燔祭と薪と石と塵とを焚つくせり亦溝の水を餂涸せり

民皆見て伏ていひけるはヱホバは神なりヱホバは神なり

エリヤ彼等に言けるはバアルの預言者を執へよ其一人をも逃遁しむる勿れと即ち之を執へたればエリヤ之をキシヨン川に曳下りて彼處に之を殺せり

斯てエリヤ、アハブにいひけるは大雨の聲あれば汝上りて食飮すべしと

アハブ乃ち食飮せんとて上れり然どエリヤはカルメルの嶺に登り地に伏て其面を膝の間に容ゐたりしが

其少者にいひけるは請ふ上りて海の方を望めと彼上り望みて何もなしといひければ再び往けといひて遂に七次に及べり

第七次に及びて彼いひけるは視よ海より人の手のごとく微の雲起るとエリヤいふ上りてアハブに雨に阻められざるやう車を備へて下りたまへと言ふべしと

驟に雲と風おこり霄漢黑くなりて大雨ありきアハブはヱズレルに乗り往り

ヱホバの能力エリヤに臨みて彼其腰を束帶びヱズレルの入口までアハブの前に趨りゆけり

第19章

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アハブ、イゼベルにエリヤの凡て爲たる事及び其如何に諸の預言者を刀劍にて殺したるかを告しかば

イゼベル使をエリヤに遣はして言けるは神等斯なし復重て斯なしたまへ我必ず明日の今時分汝の命を彼人々の一人の生命のごとくせんと

かれ恐れて起ち其生命のために逃げ往てユダに屬するベエルシバに至り少者を其處に遺して

自ら一日程ほど曠野に入り往て金雀花の下に坐し其身の死んことを求めていふヱホバよ足り今わが生命を取たまへ我はわが父祖よりも善にはあらざるなりと

彼金雀花の下に伏して寝りしが天の使彼に捫り興て食へと言ければ

彼見しに其頭の側に炭に燒きたるパンと一瓶の水ありき乃ち食ひ飮て復偃臥たり

ヱホバの使者復再び來りて彼に捫りていひけるは興て食へ其は途長くして汝勝べからざればなりと

彼興て食ひ且飮み其食の力に仗て四十日四十夜行て神の山ホレブに至る

彼處にて彼洞穴に入りて其處に宿りしが主の言彼に臨みて彼に言けるはエリヤよ汝此にて何を爲や

彼いふ我は萬軍の神ヱホバのために甚だ熱心なり其はイスラエルの子孫汝の契約を棄て汝の壇を毀ち刀劍を以て汝の預言者を殺したればなり惟我一人存るに彼等我生命を取んことを求むと

ヱホバ言たまひけるは出てヱホバの前に山の上に立てと茲にヱホバ過ゆきたまふにヱホバのまへに當りて大なる強き風山を裂き岩石を碎しが風の中にはヱホバ在さざりき風の後に地震ありしが地震の中にはヱホバ在さざりき

又地震の後に火ありしが火の中にはヱホバ在さざりき火の後に靜なる細微き聲ありき

エリヤ聞て面を外套に蒙み出て洞穴の口に立ちけるに聲ありて彼に臨みエリヤよ汝此にて何をなすやといふ

かれいふ我は萬軍の神ヱホバの爲に甚だ熱心なり其はイスラエルの子孫汝の契約を棄て汝の壇を毀ち刀劍を以て汝の預言者を殺したればなり惟我一人存れるに彼等我が生命を取んことを求むと

ヱホバかれに言たまひけるは往て汝の途に返りダマスコの曠野に至り往てハザエルに膏を沃ぎてスリアの王となせ

又汝ニムシの子エヒウに膏を注ぎてイスラエルの王となすべし又アベルメホラのシヤパテの子エリシヤに膏をそそぎ爾に代りて預言者とならしむべし

ハザエルの刀劍を逃るる者をばエヒウ殺さんエヒウの刀劍を逃るる者をばエリシヤ殺さん

又我イスラエルの中に七千人を遺さん皆其膝をバアルに跼めず其口を之に接ざる者なりと

エリヤ彼處よりゆきてシヤパテの子エリシヤに遭ふ彼は十二軛の牛を其前に行しめて己は其第十二の牛と偕にありて耕し居たりエリヤ彼の所にわたりゆきて外套を其上にかけたれば

牛を棄てエリヤの後に趨ゆきて言けるは請ふ我をしてわが父母に接吻せしめよしかるのち我爾にしたがはんとエリヤかれに言けるは行け還れ我爾に何をなしたるやと

エリシヤ彼をはなれて還り一軛の牛をとりて之をころし牛の器具を焚て其肉を煮て民にあたへて食はしめ起て往きエリヤに從ひて之に事へたり

第20章

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スリアの王ベネハダデ其軍勢を悉く集む王三十二人彼と偕にあり又馬と戰車とあり乃ち上りてサマリアを圍み之を攻む

彼使をイスラエルの王アハブに遣し邑に至りて彼に言しめけるはベネハダデ斯言ふ

爾の金銀は我の所有なり亦爾の妻等と爾の子等の美秀者は我の所有なり

イスラエルの王答へて言けるは王わが主よ爾の言の如く我と我が有つ者は皆爾の所有なり

使者再び來りて言けるはベネハダデ斯語て言ふ我爾に爾我に爾の金銀妻子を付すべしと言遣れり

然ど明日今頃我が僕を爾に遣さん彼等爾の家と爾の臣僕の家を探索りて凡て爾の日に好ましく見ゆる者を其手に置て取り去るべしと

是においてイスラエルの王國の長老を皆召て言けるは請ふ爾等見て此人の害をなさんと求るを知れ彼人を我に遣りて我が妻子とわが金銀を索めたり而るに我之を謝絶ざりしと

諸の長老および民皆彼に言けるは爾聽なかれ許すなかれと

是故に彼ベネハダデの使者に言けるは王わが主に告よ爾が最初に僕に言つかはしたる事は皆我爲べし然ど比事は我爲あたはずと使者往て反命をなせり

ベネハダデ彼に言つかはしけるは神等我に斯なし亦重て斯なしたまへサマリアの塵は我に從ふ諸の民の手に滿るに足ざるべしと

イスラエルの王答へて帶る者は解く者の如く誇るべからずと告よと言り

ベネハダデ天幕にありて王等と飮ゐたりしが此事を聞て其臣僕に言けるは爾等陣列を爲せと即ち邑に向ひて陣列をなせり

時に一人の預言者イスラエルの王アハブの許に至りて言けるはヱホバ斯言たまふ爾此諸の大軍を見るや視よ我今日之を爾の手に付さん爾は我がヱホバなるを知にいたらんと

アハブ言けるは誰を以てせんか彼いひけるはヱホバ斯いひたまふ諸省の牧伯の少者を以てすべしアハブ言ふ誰か戰爭を始むべき彼答けるは爾なりと

アハブ乃ち諸省の牧伯の少者を核るに二百三十二人あり次に凡の民即ちイスラエルの凡の子孫を核るに七千人あり

彼等日中出たちたりしがベネハダデは天幕にて王等即ち己を助る三十二人の王等とともに飮て酔居たり

諸省の牧伯の少者等先に出たりベネハダデ人を出すにサマリアより人衆出來ると彼に告ければ

彼言けるは和睦のために出來るも之を生擒べし又戰爭のために出來るも之を生擒べしと

諸省の牧伯の是等の少者および之に從ふ軍勢邑より出きたり

各其敵手を撃ち殺しければスリア人逃たりイスラエル之を追ふスリアの王ベネハダデは馬に乗り騎兵を從へて逃遁たり

イスラエルの王出て馬と戰車を撃ち又大にスリア人を撃殺せり

茲に彼預言者イスラエルの王の許に詣て彼に言けるは往て爾の力を養ひ爾の爲すべき事を知り辨ふべし年歸らばスリアの王爾に攻上るべければなりと

スリアの王の臣僕王に言けるは彼等の神等は山崗の神なるが故に彼等は我等よりも強かりしなり然ども我等若平地に於て彼等と戰はば必ず彼等よりも強かるべし

但し此事を爲せ即ち王等を除きて各其處を離しめ方伯を置て之に代べし

又爾の失ひたる軍勢に均き軍勢を爾のために備へ馬は馬戰車は戰車をもて補ふべし斯して我儕平地において彼等と戰はば必ず彼等よりも強かるべしと彼其言を聽いれて然なせり

年かへるに及びてベネハダデ、スリア人を核めてアペクに上りイスラエルと戰はんとす

イスラエルの子孫核められ兵糧を受て彼等に出會んとて往けりイスラエルの子孫は山羊の二の小群の如く彼等の前に陣どりしがスリア人は其地に充滿たり

時に神の人至りてイスラエルの王に告ていひけるはヱホバ斯言たまふスリア人ヱホバは山獄の神にして谿谷の神にあらずと言ふによりて我此諸の大軍を爾の手に付すべし爾等は我がヱホバなるを知に至らんと

彼等七日互に相對て陣どり第七日におよびて戰爭を交接しがイスラエルの子孫一日にスリア人の歩兵十萬人を殺しければ

其餘の者はアベクに逃て邑に入ぬ然るに其石垣崩れて其存れる二萬七千人の上にたふれたりベネハダデは逃て邑にいたり奧の間に入ぬ

其臣僕彼にいひけるは我儕イスラエルの家の王等は仁慈ある王なりと聞り請ふ我儕粗麻布を腰につけ繩を頭につけてイスラエルの王の所にいたらん彼爾の命を生むることあらんと

斯彼等粗麻布を腰にまき繩を頭にまきてイスラエルの王の所にいたりていひけるは爾の僕ベネハダデ請ふ我が生命を生しめたまへと言ふとアハブいひけるは彼は尚生をるや彼はわが兄弟なりと

其人々これを吉兆と爲し速に彼の言を承て爾の兄弟ベネハダデといへり彼言けるは爾等ゆきて彼を導ききたるべしと是においてベネハダデ彼の所に出來りしかば彼之を車に登しめたり

ベネハダデ彼に言けるは我父の爾の父より取たる諸邑は我返すべし又我が父のサマリアに造りたる如く爾ダマスコに於て爾のために街衢を作るべしアハブ言ふ我此契約を以て爾を歸さんと斯彼と契約を爲て彼を歸せり

爰に預言者の徒の一人ヱホバの言によりて其同儕に請我を撃てといひけるが其人彼を撃つことを肯ぜざりしかば

彼其人に言ふ汝ヱホバの言を聽ざりしによりて視よ汝の我をはなれて往く時獅子汝をころさんと其人彼の側を離れて往きけるに獅子之に遇て之を殺せり

彼また他の人に遭て請ふ我を撃といひければ其人之を撃ち撃て傷けたり

預言者往て王を途に待ち其目に掩巾をあてて儀容を變ゐたりしが

王の經過る時王に呼はりていひけるは僕戰爭の中に出しに人轉りて一箇の人を我の所に曳きたりて言けるは此人を守れ若彼失ゆく事あらば汝の生命を彼の生命に代べし或は爾銀一タラントを出すべしと

而るに僕此彼に事をなしゐたれば彼遂に失たりとイスラエルの王彼にいひけるは爾の擬定は然なるべし爾之を決めたり

彼急ぎて其目の掩巾を取除たればイスラエルの王彼が預言者の一人なるを識り

彼王に言けるはヱホバ斯言たまふ爾はわが殲滅んと定めたる人を爾の手より放ちたれば爾の命は彼の生命に代り爾の民は彼の民に代るべしと

イスラエルの王憂へ且怒て其家に赴きサマリアに至れり

第21章

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是等の事の後ヱズレル人ナボテ、ヱズレルに葡萄園を有ちゐたりしがサマリアの王アハブの殿の側に在りければ

アハブ、ナボテに語て言けるは爾の葡萄園は近くわが家の側にあれば我に與へて蔬采の圃となさしめよ我之がために其よりも美き葡萄園を爾に與へん若し爾の心にかなはば其價を銀にて爾に予へんと

ナボテ、アハブに言けるはわが父祖の產業を爾に與ふる事は決て爲べからずヱホバ禁じたまふと

アハブはヱズレル人ナボテの己に言し言のために憂ひ且怒りて其家に入ぬ其は彼わが父祖の產業を爾に與へじと言たればなりアハブ床に臥し其面を轉けて食をなさざりき

其妻イゼベル彼の處にいりて彼に言けるは爾の心何を憂へて爾食を爲ざるや

彼之に言けるは我ヱズレル人ナボテに語りて爾の葡萄園を銀に易て我に與へよ若また爾好ば我其に易て葡萄園を爾に與へんと彼に言たるに彼答へて我が葡萄園を爾に與へじと言たればなりと

其妻イゼベル彼に言けるは爾今イステエルの國を治むることを爲すや興て食を爲し爾の心を樂ましめよ我ヱズレル人ナボテの葡萄園を爾に與へんと

彼アハブの名をもて書を書き彼の印を捺し其邑にナボテとともに住る長老と貴き人に其書をおくれり

彼其書にしるして曰ふ斷食を宣傳てナボテを民の中に高く坐せしめよ

又邪なる人二人を彼のまへに坐せしめ彼に對ひて證を爲して爾神と王を詛ひたりと言しめよ斯して彼を曳出し石にて撃て死しめよと

其邑の人即ち其邑に住る長老および貴き人等イゼベルが己に言つかはしたる如く即ち彼が己に遣りたる書に書したる如く爲り

彼等斷食を宣達てナボテを民の中に高く坐せしめたり

時に二人の邪なる人入來りて其前に坐し其邪なる人民のまへにてナボテに對て證をなして言ふナボテ神と王を詛ひたりと人衆彼を邑の外に曳出し石にて之を撃て死しめたり

斯てイゼベルにナボテ撃れて死たりと言遣れり

イゼベル、ナボタの撃れて死たるを聞しかばイゼベル、アハブに言けるは起て彼ヱズレル人ナボテが銀に易て爾に與ることを拒みし葡萄園を取べし其はナボテは生をらず死たればなりと

アハブ、ナボテの死たるを聞しかばアハブ起ちヱズレル人ナボテの葡萄園を取んとて之に下れり

時にヱホバの言テシベ人エリヤに臨みて曰ふ

起て下りサマリアにあるイスラエルの王アハブに會ふべし彼はナボテの葡萄園を取んとて彼處に下りをるなり

爾彼に告て言べしヱホバ斯言ふ爾は殺し亦取たるやと又爾彼に告て言ふべしヱホバ斯言ふ犬ナボテの血を銛し處にて犬爾の身の血を銛べしと

アハブ、エリヤに言けるは我敵よ爾我に遇や彼言ふ我遇ふ爾ヱホバの目の前に惡を爲す事に身を委しに縁り

我災害を爾に降し爾の後裔を除きアハブに屬する男はイスラエルにありて繋がれたる者も繋がれざる者も悉く絶ん

又爾の家をネバテの子ヤラベアムの家の如くなしアヒヤの子バアシヤの家のごとくなすべし是は爾我の怒を惹起しイスラエルをして罪を犯させたるに因てなり

イゼベルに關てヱホバ亦語て言給ふ犬ヱズレルの濠にてイゼベルを食はん

アハブに屬する者の邑に死るをば犬之を食ひ野に死るをば天空の鳥之を食はんと

誠にアハブの如くヱホバの目の前に惡をなす事に身をゆだねし者はあらざりき其妻イゼベル之を慫憊たるなり

彼はヱホバがイスラエルの子孫のまへより逐退けたまひしアモリ人の凡てなせし如く偶像に從ひて甚だ惡むべき事を爲り

アハブ此等の言を聞ける時其衣を裂き粗麻布を體にまとひ食を斷ち粗麻布に臥し遅々に歩行り

茲にヱホバの言テシベ人エリヤに臨みて言ふ

爾アハブの我前に卑下るを見るや彼わがまへに卑下るに縁て我災害を彼の世に降さずして其子の世に災害を彼の家に降すべし


第22章

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スリアとイスラエルの間に戰爭なくして三年を經たり

第三年にユダの王ヨシヤパテ、イスラエルの王の所に降れり

イスラエルの王其臣僕に言けるはギレアデのラモテは我儕の所有なるを爾等知や然るに我儕はスリアの王の手より之を取ることをせずして默しをるなり

彼ヨシヤパテに言けるは爾我と共にギレアデのラモテに戰ひにゆくやヨシヤパテ、イスラエルの王にいひけるは我は爾のごとくわが民は爾の民の如くわが馬は爾の馬の如しと

ヨシヤパテ、イスラエルの王に言けるは請ふ今日ヱホバの言を問へ

是においてイスラエルの王預言者四百人許を集めて之に言けるは我ギレアデのラモテに戰ひにゆくべきや又は罷べきや彼等曰けるは上るべし主之を王の手に付したまふべしと

ヨシヤパテ曰けるは外に我儕の由て問べきヱホバの預言者此にあらざるや

イスラエルの王ヨシヤパテに言けるは外にイムラの子ミカヤ一人あり之に由てヱホバに問ふことを得ん然ど彼は我に關て善事を預言せず唯惡事のみを預言すれば我彼を惡むなりとヨシヤパテ曰けるは王然言たまふなかれと

是によりてイスラエルの王一箇の官吏を呼てイムラの子ミカヤを急ぎ來らしめよと言り

イスラエルの王およびユダの王ヨシヤパテ朝衣を著てサマリアの門の入口の廣場に各其位に坐しゐたり預言者は皆其前に預言せり

ケナアナの子ゼデキヤ鐵の角を造りて言けるはヱホバ斯言給ふ爾是等を以てスリア人を抵觸て之を盡すべしと

預言者皆斯預言して言ふギレアデのラモテに上りて勝利を獲たまへヱホバ之を王の手に付したまふべしと

茲にミカヤを召んとて往たる使者之に語りて言けるは預言者等の言一の口の如くにして王に善し請ふ汝の言を彼等の一人の言の如くならしめて善事を言へと

ミカヤ曰けるはヱホバは生くヱホバの我に言たまふ事は我之を言んと

かくて彼王に至るに王彼に言けるはミカヤよ我儕ギレアデのラモテに戰ひに往くべきや又は罷べきや彼王に言けるは上りて勝利を得たまへヱホバ之を王の手に付したまふべしと

王彼に言けるは我幾度汝を誓はせたらば汝ヱホバの名を以て唯眞實のみを我に告るや

彼言けるは我イスラエルの皆牧者なき羊のごとく山に散をるを見たるにヱホバ是等の者は主なし各安然に其家に歸るべしと言たまへりと

イスラエルの王ヨシヤパテに言けるは我汝に彼は我について善き事を預言せず唯惡き事のみを預言すと告たるにあらすやと

ミカヤ言けるは然ば汝ヱホバの言を聽べし我ヱホバの其位に坐しゐたまひて天の萬軍の其傍に右左に立つを見たるに

ヱホバ言たまひけるは誰かアハブを誘ひて彼をしてギレアデのラモテに上りて弊れしめんかと則ち一は此の如くせんと言ひ一は彼の如くせんといへり

遂に一の霊進み出てヱホバの前に立ち我彼を誘はんと言ければ

ヱホバ彼に何を以てするかと言たまふに我出て虚言を言ふ霊となりて其諸の預言者の口にあらんと言りヱホバ言たまひけるは汝は誘ひ亦之を成し遂ん出て然なすべしと

故に視よヱホバ虚言を言ふ霊を爾の此諸の預言者の口に入たまへり又ヱホバ爾に關て災禍あらんことを言たまへりと

ケナアナの子ゼデキヤ近よりてミカヤの頬を批て言けるはヱホバの霊何途より我を離れゆきて爾に語ふや

ミカヤいひけるは爾奧の間に入て身を匿す日に見るにいたらん

イスラエルの王言けるはミカヤを取て之を邑の宰アモンと王の子ヨアシに曳かへりて言ふべし

王斯言ふ此を牢に置れて苦惱のパンと苦惱の水を以て之を養ひ我が平安に來るを待てと

ミカヤ言けるは爾若眞に平安に歸るならばヱホバ我によりて言たまはざりしならん又曰けるは爾等民よ皆聽べし

かくてイスラエルの王とユダの王ヨシヤパテ、ギレアデのラモテに上れり

イスラエルの王ヨシヤパテに言けるは我装を改て戰陣の中に入らん然ど爾は王衣を衣るべしとイスラエルの王装を改て戰陣の中にいりぬ

スリアの王其戰車の長三十二人に命じて言けるは爾等小者とも大者とも戰ふなかれ惟イスラエルの王とのみ戰へと

戰車の長等ヨシヤパテを見て是必ずイスラエルの王ならんと言ひ身をめぐらして之と戰はんとしければヨシヤパテ號呼れり

戰車の長彼がイスラエルの王にあらざるを見しかば之を追ふことをやめて返れり

茲に一個の人偶然弓を挽てイスラエルの王の胸當と艸摺の間を射たりければ彼其御者に言けるは我傷を受たれば爾の手を旋して我を軍中より出すべしと

是日戰爭嚴くなりぬ王は車の中に扶持られて立ちスリア人に對ひをりしが晩景にいたりて死たり創の血車の中に流る

日の沒る頃軍中に呼はりて曰ふあり各其邑に各其郷に歸るべしと

王死て携へられてサマリアに至りたれば衆人王をサマリアに葬れり

又其車をサマリアの池に濯ひけるに犬其血を舐たり又遊女其所に身をあらへりヱホバの言たまへる言の如し

アハブの其餘の行爲と凡て其爲たる事と其建たる象牙の家と其建たる諸の邑はイスラエルの王の歴代志の書に記載るにあらずや

アハブ其父祖と共に寝りて其子アハジア之にかはりて王となれり

アサの子ヨシヤパテ、イスラエルの王アハブの第四年にユダの王となれり

ヨシヤパテ王となりし時三十五歳なりしがエルサレムにおいて二十五年王たりき其母の名はアズバといひてシルヒの女なり

ヨシヤパテ其父アサの諸の道に歩行み轉て之を離れずヱホバの目に適ふ事をなせり但し崇邱は除かざりき民尚崇邱に犠牲を献げ香を焚り

ヨシヤパテ、イスラエルの王と和好を結べり

ヨシヤパテの其餘の行爲と其なせる功績および如何に戰爭をなせしかはユダの王の歴代志の書に記載るにあらずや

彼其父アサの世に尚ほありし彼の男色を行ふ者の殘餘を國の中より逐はらへり

當時エドムには王なくして代官王たりき

ヨシヤパテ、タルシシの船を造りて金を取ためにオフルに往しめんとしたりしが其船エジオンゲベルに壞れたれば遂に往に至らざりき

是においてアハブの子アハジア、ヨシヤパテに言けるはわが僕をして爾の僕と偕に船にて往しめよと然どヨシヤパテ聽ざりき

ヨシヤパテ其父祖とともに寝りて其父ダビデの城邑に其父祖と共に葬らる其子ヨラム之に代て王となれり

アハブの子アハジア、ユダの王ヨシヤパテの第十七年にサマリアにてイスラエルの王となり二年イスラエルを治めたり

彼はヱホバの目のまへに惡をなし其父の道と其母の道および彼のイスラエルに罪を犯させたるネバテの子ヤラベアムの道に歩行み

バアルに事へて之を拝みイスラエルの神ヱホバの怒を激せり其父の凡て行へるがごとし