公教要理説明/02-22

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第（だい）四十六課（くわ）　対（對）神德（たいしんとく）　（二）附（つけたり）　倫理德（りんりとく）

462●愛德（あいとく）とは何（なに）であるか

▲愛德（あいとく）とは、天主（てんしゅ）が限（かぎり）なき善（ぜん）に在（いま）すが故（ゆゑ）に愛（あい）し叉天主（またてんしゅ）の爲（ため）に人（ひと）を愛（あい）する超性德（てうせいとく）であります。

此定義（このていぎ）にも三（みつ）の事（こと）が含（ふく）まれて居（を）る。

愛德（あいとく）も超性德（てうせいとく）

で、聖寵（せいてう）に由（よ）って起（おこ）るが、其働（そのはたらき）は、天主（てんしゅ）を愛（あい）すること人（ひと）を愛（あい）することに極（きま）る。

天主（てんしゅ）を愛（あい）する訳（譯）（わけ）は、唯救靈（たゞたすかり）を得（え）る爲（ため）ではない、天主（てんしゅ）は万有（ばんいう）の原因（げんいん）無限（むげん）完全善（くゎんぜんぜん）に在（いま）して、万德備（ばんとくそなは）り、從（したがっ）て萬事萬物（ばんじばんぶつ）に超（こ）へて愛（あい）すべきものに在（いま）すからである。人（ひと）を愛（あい）するのは、愛（あい）らしいからではない、天主（てんしゅ）の爲（ため）であって、皆天父（みなてんぷ）の子等（こども）であれば、互（たがひ）に兄弟（けうだい）である訳（譯）（わけ）であります。其（それ）で天主（てんしゅ）を愛（あい）する計（ばか）りでは足（た）

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らず、人（ひと）をも必（かなら）ず愛（あい）せねばならぬ。使徒（しと）ヨハネは殊更（ことさら）に「人（ひと）あって我神（われかみ）を愛（あい）し奉（たてまつ）ると言（いひ）つゝ己（おの）が兄弟（けうだい）を憎（にく）まば、虛言者（きょげんしゃ）である、蓋（けだ）し目（め）に見（み）える兄弟（けうだい）を愛（あい）せぬ者（もの）が何（ど）うして見（み）え給（たま）はぬ神（かみ）を愛（あい）し奉（たてまつ）る事（こと）を得（え）やうぞ、且神（かつかみ）を愛（あい）し奉（たてまつ）る人（ひと）は己（おの）が兄弟（けうだい）をも愛（あい）すべしとは、我等（われら）が神（かみ）より賜（たまは）った掟（おきて）である」と（ヨハネ壹（一）書四。二十、二一）云（い）はれた。

265●天主（てんしゅ）を何程愛（どれほどあい）せねばなりませぬか

▲天主（てんしゅ）を何（なに）よりも愛（あい）せねばなりませぬ。イエズス、キリストは「心（こゝろ）を尽（盡）（つく）し力（ちから）を尽（盡）（つく）して天主（てんしゅ）を愛（あい）すべし」と曰（のたま）ふた。

天主（てんしゅ）を何物（なにもの）よりも愛（あい）せねばならず、云（い）はゞ萬事（ばんじ）に超（こ）えて、即（すなは）ち何人（なにびと）よりも、何（なん）の寶物（たからもの）よりも、何（なに）の樂（たのしみ）よりも、我生命（わがいのち）よりも、愛（あい）せねばならぬ。イエズス、キリストは

「心（こゝろ）を尽（つく）し力（ちから）を尽（つく）して天主（てんしゅ）を愛（あい）すべし」

と仰（おっ）しゃった計（ばか）りでなく、言（ことば）を重（かさ）ねて「心（こゝろ）を尽（盡）（つく）し、靈（れい）を尽（盡）（つく）し、意（い）を尽（盡）（つく）し、力（ちから）を尽（盡）（つく）して」と仰（おっ）しゃったのは、凡（すべ）てを擧（あ）げて天主（てんしゅ）を愛（あい）し奉（たてまつ）る爲（ため）に用（もち）ひねばならぬことを教（をし）へ給（たま）ふたのである。

[下段]

（註（ちゅう））愛（あい）するが為（ため）に心（こゝろ）の燃（も）えるが如（ごと）き愛淸（あいぜう）を身（み）に覺（おぼ）える必要（ひつえう）はない。己（おのれ）を惜（をし）まず、何（なに）をも惜（をし）まず、假令（たとひ）何人（なにびと）にも棄（す）てられ、如何（いか）なる寶（たから）を失（うしな）ふとも、生命（いのち）を失（うしな）ふとも天主（てんしゅ）の御心（みこゝろ）に叶（かな）はぬ事（こと）はしないとの覺悟（かくご）があれば足（た）る。是（これ）こそ天主（てんしゅ）を何（なに）よりも愛（あい）する紛（まぎれ）なき徴（しるし）である。然（さ）もなくば愛（あい）は口（くち）や心（こゝろ）に止（とゞま）る計（ばか）りで、有名（いうめい）無實（むじつ）に成（な）る。

266●何（なに）を以（もっ）て天主（てんしゅ）を愛（あい）する事（こと）は知（し）れますか

▲天主（てんしゅ）を愛（あい）する事（こと）は、天主（てんしゅ）の爲（ため）に惡（あく）を避（さ）け、善（ぜん）を行（おこな）ふを以（もっ）て知（し）れます。

此答（このこたへ）は餘程（よほど）大事（だいじ）である。誰（たれ）でも天主（てんしゅ）を愛（あい）するや否（いな）やは知（し）りたいが、其徴（そのしるし）を間違（まちが）ってはならぬ。假令（たとひ）涙（なみだ）を流（なが）すほど胸（むね）に熱心（ねっしん）は燃（も）えても、人（ひと）に涙（なみだ）を流（なが）させるほど感動（かんどう）深（ぶか）い話（はなし）をしても、眞（しん）に天主（てんしゅ）を愛（あい）する徴（しるし）には成（な）らぬ、其（そん）な事（こと）は神経（しんけい）や能弁（辯）（のうべん）や惡魔（あくま）の業（わざ）によってゞも起（おこ）る事（こと）がある。叉祈（またいの）る時（とき）に趣味（しゅみ）を覺（おぼ）えるのも徴（しるし）ではない、寧（むし）ろ趣味（しゅみ）なしに辛抱（しんぼう）して祈（いの）るのは徴（しるし）に近（ちか）い。叉（また）屡（しばゝゞ）聖体（體）（せいたい）拜領（はいれう）するのも愛（あい）の徴（しるし）ではない、寧（むし）ろ拜領（はいれう）の準備（じゅんび）、叉（また）は感謝（かんしゃ）として、毎度（まいど）一層勵（励）（そうはげ）むのは徴（しるし）に成（な）らう。必竟（つまり）本当（當）（ほんたう）の徴（しるし）

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は唯一（たゞひとつ）、

惡（あく）を避（さ）け

るやうに、心掛（こゝろが）けるか叉出来（またでき）るだけ

善（ぜん）を行（おこな）ふ

かである、併（しか）し

天主（てんしゅ）の爲（ため）

とあるからには世（よ）の為（ため）、或（あるひ）は譽（ほまれ）の爲（ため）でなく、天主（てんしゅ）に対（對）（たい）して然（さ）うするに限（かぎ）った事（こと）である。熱心（ねっしん）や趣味（しゅみ）を覺（おぼ）えぬ時（とき）でも、遜（へりくだ）って御心（みこゝろ）に叶（かな）ふやうに励（勵）（はげ）み、祈禱（いのり）、職業（しょくげふ）等凡（などすべ）ての業務（ぎむ）を忠實（ちうじつ）に尽（盡）（つく）す程（ほど）、明（あきら）かに天主（てんしゅ）を愛（あい）し奉（たてまつ）る徴（しるし）と見（み）る事（こと）が出來（でき）る。聖（せい）パウロ曰（いは）く「悪魔（あくま）すら自（みづか）ら光（ひかり）の使（つかひ）に己（おのれ）を裝（よそほ）ふ者（もの）である」と（コリント後書十一。十四）叉曰（またいは）く「假令（たとひ）人間（にんげん）と天使（てんし）との言語（ことば）を語（かた）るとも、愛（あい）なければ鳴（な）る鐘（かね）や鐃鈸（ねうはち）の如（ごと）くに成（な）りたるのみ。假令（たとひ）預言（よげん）する事（こと）を得（え）て、一切（さい）の奥義（おくぎ）一切（さい）の學科（がくくわ）を知（し）り、叉假令（またたとひ）山（やま）を移（うつ）す程（ほど）の一切（さい）の信仰（しんかう）あっても、愛（あい）なければ何物（なにもの）でもない。假令（たとひ）我財産（わがざいさん）を悉（こと〲）く貧者（ひんじゃ）の食物（しょくもつ）として分与（與）（わけあた）へ、叉我身（またわがみ）を焼（や）かれる為（ため）に付（わた）すとも、愛（あい）なければ聊（いさゝか）も自分（じぶん）に益（えき）ある事（こと）なし。

愛（あい）は堪忍（かんにん）し、淸（なさけ）あり、愛（あい）は妬（ねた）まず、自慢（じまん）せず、驕（たかぶ）らず、非礼（禮）（ひれい）を爲（な）さず、己（おのれ）の爲（ため）に謀（はか）らず、怒（いか）らず、惡（あく）を負（お）はせず、不義（ふぎ）を喜（よろこ）ばずして眞實（しんじつ）を喜（よろこ）び、何事（なにごと）も包（つゝ）み、何事（なにごと）

[下段]

をも怺（こら）へるのである」と（コリント後書十三。一－七）

267●人（ひと）を何（ど）の樣（やう）に愛（あい）する筈（はず）であるか

▲人（ひと）を己（おのれ）の如（ごと）く愛（あい）せねばなりませぬ。

何（ど）の樣（やう）

にとは、何程（どれほど）と異（ちが）って、程（ほど）（程度）を云（い）ふのではない、仕方（しかた）を云（い）ふのである。程（ほど）を云（い）へば、己（おのれ）を人（ひと）より先（さき）に愛（あい）するのは、先（ま）づ当（當）然（あたりまへ）である。其（それ）で人（ひと）の爲（ため）に己（おのれ）を犠牲（ぎせい）に供（けう）するのは、此上（このうへ）もない功績（てがら）に成（な）る。併（しか）し靈魂（れいこん）の助（たすか）り丈（だけ）は誰（だれ）の爲（ため）にも失（うしな）ってはならぬ。永遠（えいえん）に取返（とりかへし）の出來（でき）ぬ全損（まるぞん）に成（な）るからである。叉（また）他人（たにん）よりも近（ちか）い者（もの）を近（ちか）い程（ほど）、例（たと）へば配偶者（つれあひ）、親（おや）、子女（こども）、兄弟（けうだい）、親族（しんぞく）、友人（ともだち）を他人（たにん）より先（さき）に愛（あい）するのは順序（じゅんじょ）である。愛（あい）する仕方（しかた）だけは、

己（おのれ）の如（ごと）く

と云（い）はねばならぬ、其意味（そのいみ）は次（つぎ）の問（とひ）に見（み）える。

268●人（ひと）を己（おのれ）の如（ごと）く愛（あい）するとは何（なに）であるか

▲自分（じぶん）の望（のぞ）まぬ事（こと）を人（ひと）にも爲（せ）ず、自分（じぶん）の望（のぞ）む事（こと）を人（ひと）にも爲（す）る事（こと）であります。

己（おのれ）の如（ごと）く愛（あい）する

とは、前（まへ）の問（とひ）に云（い）はれた通（とほ）り己程（おのれほど）で

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はない、愛（あい）する仕方（しかた）を云（い）ふ丈（だけ）である。

自分（じぶん）の望（のぞ）まぬ事（こと）を人（ひと）にも爲（せ）ず

とは、世間（せけん）で「己（おのれ）の欲（ほっ）せざる所（ところ）は人（ひと）に施（ほどこ）す勿（なか）れ」と云（い）ふと同（おな）じものである。其通（そのとほり）すれば、恨（うらみ）、復讐（あだがへし）、嫉（そねみ）、人殺（ひとごろし）、姦淫（かんいん）、盗等（ぬすみなど）は更（さら）に無（な）く、略（ほゞ）十誡（かい）に誡（いまし）められた通（とほり）に成（な）って、孔子（こうし）も然（さ）う教（をし）へたが誰（たれ）でも己（おのれ）に省（かへり）みれば、然（さ）う爲（す）る筈（はず）と云（い）ふ事（こと）は解（わか）る。其次（そのつぎ）の言（ことば）、即（すなは）ち

自分（じぶん）の望（のぞ）む事（こと）を人（ひと）にも爲（す）る

とは、是（これ）ぞイエズス、キリストの忝（かたじけ）なき仰（おほせ）で、凡（すべ）ての犠牲（ぎせい）、凡（すべ）ての献身（けんしん）の則（のり）と成（な）って、第（だい）二百六十九の問（とひ）に云（い）はれる如（こと）く、キリスト教（けう）に於（おい）て、世（よ）を驚（おどろか）す程（ほど）に殖（ふ）えて居（を）る慈善（じぜん）事業（じげふ）、叉赤（またせき）十字社（じうじしゃ）の事業（じげふ）も、此御言（このみことば）が結（むす）んだ果實（くゎじつ）である。

269◯何（なに）を以（もっ）て他人（たにん）を愛（あい）する事（こと）を顕（あらは）すか

▲靈魂（れいこん）上及（ぜうおよ）び肉身上（にくしんぜう）の慈善業（じぜんげふ）を以（もっ）て顯（あらは）します。

靈魂上（れいこんぜう）の慈善業（じぜんげふ）

とは、人（ひと）の靈魂（れいこん）を助（たす）けるに施（ほどこ）す所（ところ）であるが、特（とく）に聖書（せいしょ）に載（の）せたのは七（なゝつ）ある。即（すなは）ち、第（だい）一、人（ひと）の惑（まどひ）を解（と）いて善（よ）き指図（圖）（さしづ）を爲（す）る事（こと）。第（だい）二、無学（むがく）の人（ひと）を教（をし）へる事（こと）。第（だい）

[下段]

三、罪（つみ）を犯（をか）す人（ひと）を諫（いさ）める事（こと）。第（だい）四、悲（かなし）む人（ひと）を慰（なぐさ）める事（こと）。第（だい）五、人（ひと）の過（あやまち）を堪忍（かんにん）する事（こと）。第（だい）六、侮辱等（ぶじょくなど）を宥（ゆる）す事（こと）。第（だい）七、生者（せいしゃ）死者（ししゃ）の為（ため）に祈（いの）る事（こと）。

肉身上（にくしんぜう）の慈善業（じぜんげふ）

とは、先（ま）づ体（體）（からだ）を助（たす）ける手段（しゅだん）で、聖書（せいしょ）に載（の）せたのは叉七（またなゝつ）ある。即（すなは）ち第（だい）一、饑（ひもじい）人に食（た）べさせる事（こと）。第（だい）二、渇（かわ）いた人（ひと）に飮（の）ませる事（こと）。第（だい）三、衣服（きもの）を有（も）たぬ人（ひと）に着（き）せる事（こと）。第（だい）四、宿（やど）なき人（ひと）に宿（やど）を貸（か）す事（こと）、第（だい）五、病人（べうにん）難澁（なんじふ）人等（にんなど）を見舞（みま）ふ事（こと）。六、捕虜等（ほりょなど）を贖（あがな）ふ事（こと）。第（だい）七、死者（ししゃ）を葬（ほうむ）る事（こと）。

捕虜等（ほりょなど）を贖（あがな）ふ事（こと）は、今行（いまおこな）ひ難（がた）き事（こと）なれど、久（ひさ）しい間（あひだ）、殊（こと）に戦争（せんそう）に敗北（はいぼく）した人（ひと）を奴隷（どれい）に為（す）る悪弊（あくへい）あった時代（じだい）、叉売（賣）奴（またばいど）を売（賣）買（うりかひ）する国（くに）では必要（ひつえう）なものであって其（それ）が為（ため）に聖會（会）（せいかい）に於（おい）て幾個（いくつ）も修道會（会）（しうだうくわい）が設定（せってい）され、叉聖人（またせいじん）の中（うち）にノラの聖（せい）パウリノ（六　月十七日）、聖（せい）ライムンド（八　月卅一日）パウラの聖（せい）ヴィンセンチヨ（七　月十八日）の如（ごと）く、身（み）を奴隷（どれい）の代（かはり）に売（賣）（う）った例（れい）さへもある。現今行（げんこんおこな）はれる慈善（じぜん）は主（おも）に施（ほどこし）とて、個人（こじん）罹災者（りさいしゃ）、慈善（じぜん）會等（くゎいなど）に金銭食物（きんせんしょくもつ）衣服等（いふくなど）を寄附（きふ）する事（こと）であるが、天主（てんしゅ）の御前（みまへ）に價値（ねうち）を生（せう）ずるには（一）天主（てんしゅ）に對（対）（たい）して、（二）信仰上（しんこうぜう）の故（ゆゑ）を以（もっ）て、（三）

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快（こゝろよ）く、（四）名譽（めいよ）を求（もと）めず、施（ほどこ）すのが本当（當）（ほんたう）である。斯（か）くすれば施（ほどこし）は損（そん）にならぬ計（ばか）りか、天主（てんしゅ）の貸（か）したと同様（どうやう）に、此世（このよ）に於（おい）て利益（りえき）に成（な）る事（こと）もあり、叉靈魂（またれいこん）に取（と）っては、直接（ちょくせつ）に罪（つみ）を赦（ゆる）す事（こと）はなけれど、赦（ゆるし）を戴（いたゞ）かれる恩惠（おんめぐみ）を招（まね）き、償（つぐのひ）と成（な）り、愈（いよい）よ天國（てんごく）の福樂（ふくらく）の種（たね）に成（な）る。潤沢（澤）（じゅんたく）に有（も）てば潤沢（じゅんたく）に施（ほどこ）し、僅（わづか）しか有（も）たぬ時（とき）は僅（わづか）でも快（こゝろよ）く施（ほどこ）す事（こと）が必要（ひつえう）である。施（ほどこ）す金（かね）がなくとも、切（せめ）て難儀（なんぎ）な人（ひと）に親切（しんせつ）を現（あらは）し、慰（なぐさ）め、氣（き）を引立（ひきた）て、益（ため）に成（な）る指図（圖）（さしづ）を与（與）（あた）へ、或（あるひ）は祈禱（いのり）なりとも出來（でき）るによって、何人（なにびと）も心（こゝろ）して愛（あい）を實際（じっさい）に現（あらは）すやうに心掛（こゝろが）くべきである。假令人（たとひひと）が恩（おん）を知（し）らずとも、是（これ）こそ天主（てんしゅ）より一層報（そうむく）いらるべきものと成（な）る故（ゆゑ）、縦（よし）や愛想（あいそ）が盡（つ）きるやうに成（な）っても辛抱（しんぼう）して、イエズス、キリストを思（おも）ひ、斯（かく）の如（ごと）き業（わざ）を人（ひと）に施（ほどこ）し或（あるひ）は拒（こば）んだ時（とき）は御自身（ごじしん）に施（ほどこ）され或（あるひ）は拒（こば）まれたと同様（どうやう）に賞罸（せうばつ）のある事（こと）を教（をし）へ給（たま）ふたのを覺（おぼ）えて、勵（はげ）むほど好（よ）い。

270●敵（てき）をも愛（あい）せねばならぬか

▲然（しか）り、敵（てき）をも愛（あい）し、之（これ）が（：人（ひと）の救靈（きゅうれい）に行（ゆ）くようにその）爲（ため）に祈（いの）らねばなりませぬ。

[下段]

是（これ）は全（まった）くイエズス、キリストの御言（みことば）による事（こと）である。斯（か）う仰（おっ）しゃった、「汝（なんぢ）の敵（てき）を憎（にく）むべしと云（い）はれたのは、汝等（なんぢら）が兼（かね）て聞（き）いて居（を）るが、我（われ）は汝等（なんぢら）に云（い）ふ、汝等（なんぢら）の敵（てき）を愛（あい）せよ、汝等（なんぢら）を憎（にく）む人（ひと）を惠（めぐ）め、汝等（なんぢら）を迫害（はくがい）し且讒謗（かつざんぼう）する人（ひと）の爲（ため）に祈（いの）れ、是天（これてん）に在（ましま）す汝等（なんぢら）の父（ちゝ）の子等（こども）と成（な）る爲（ため）である。」と（マ　テ　オ五。四三、四五）

偖（さ）て

敵（てき）を愛（あい）する

とは、決（けっ）して友人程（いうじんほど）でもなければ、叉夢（またゆめ）にも敵（てき）の話（はなし）、企（くはだて）、業等（わざなど）を愛（あい）し、或（あるひ）は扶（たす）けると云（い）ふ事（こと）ではない。悪（わる）い者（もの）なら何処迄（どこまで）も抗（むか）って可（よ）い、唯諺（たゞことわざ）に「罪（つみ）を憎（にく）んで人（ひと）を憎（にく）まず」と云（い）はれる通（とほ）り、飽（あく）まで敵（てき）の謀計（はかりごと）を破（やぶ）るやうに勵（励）（はげ）む一方（ぽう）に、敵其者（てきそのもの）を憎（にく）まず、イエズス、キリストの仰（おほせ）の通（とほり）、叉殊更（またことさら）に、十字架（じか）に磔（はりつ）けられ給（たま）ふた時（とき）、敵（てき）から罵（のゝし）られつゝも、「嗚呼父（あゝちゝ）よ彼等（かれら）は其為（そのな）す所（ところ）を知（し）らざるによって赦（ゆる）し給（たま）へ」と祈（いの）り給（たま）ふた模範（もはん）に従（したが）って、敵（てき）に遺恨（ゐこん）を含（ふく）まず、宥（ゆるし）を願（ねが）へば之（これ）を拒（こば）まず、相当（當）（さうたう）の損害賠償（そんがいばいせう）を固（かた）く請求（せいきう）しつゝも帰（歸）服（きふく）するのを退（しりぞ）けず、将来（せうらい）を用心（ようじん）しながら宥（ゆる）して遣（や）りたい。己（おのれ）の如（ごと）く之（これ）を愛（あい）したいと思（おも）ふ事（こと）である。

（註（ちゅう））赤（せき）十字社（じしゃ）の仕方（しかた）を見（み）れば解（わか）り易（やす）く成（な）る。一生懸命（せうけんめい）に敵（てき）

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に打勝（うちか）つやうに尽（盡）（つく）せども、敵（てき）だからと云（い）って打棄（うちす）てるではなく、倒（たふ）れるや味方（みかた）と同樣（どうやう）に之（これ）を收容（しうよう）し、飮食（いんしょく）を与（與）（あた）へ、治療等（ちれうなど）に手（て）を盡（つく）し、癒（よくな）るやうに心掛（こゝろが）けるではないか。是叉聖（これまたせい）パウロが羅馬人（ろうまじん）に書贈（かきおく）った通（とほ）りになる。即（すなは）ち「汝等（なんぢら）が力（ちから）の及（およ）ぶ限（かぎ）り、出來（でき）るだけ衆人（しうじん）と相和（あいわ）せよ。至愛（しあい）なる者（もの）よ、自（みづか）ら復讐（ふくしう）せずして神（かみ）の怒（いかり）に任（まか）せよ、聖書（せいしょ）に『主（しゅ）曰（のたまは）く復讐（ふくしう）は我事（わがこと）である、我（われ）は報（むく）いる筈（はず）』と。却（かへっ）て敵（てき）が飢（う）ゑれば之（これ）に食（た）べさせ、渇（かわ）かば之（これ）に飮（の）ませよ、斯（か）うすれば汝（なんぢ）は彼（かれ）の頭（かうべ）に燃炭（もえずみ）を積（つ）むであらう。悪（あく）に勝（か）たれる事（こと）なく、善（ぜん）を以（もっ）て悪（あく）に勝（か）て」と（ロ　マ　書十二。十八－二一）茲（こゝ）に燃炭（もえずみ）を敵（てき）に頭（かうべ）に積（つ）むとは、真心（まごゝろ）に感心（かんしん）させて堪（たま）らなく成（な）らせることであるが、是（これ）こそキリスト教（けう）の主意（しゅい）である。

271●何故總（なぜすべ）ての人（ひと）を愛（あい）せねばならぬか

▲總（すべ）ての人（ひと）を愛（あい）せねばならぬのは、イエズス、キリストが命（めい）じ給（たま）ひ、叉人（またひと）は皆兄弟（みなけうだい）であるからである。

總（すべ）ての人（ひと）を愛（あい）する

のは、堅（かた）く

イエズス、キ

[下段]

リストが命（めい）じ給（たま）ひ

て殊更（ことさら）に「汝等人（なんじらひと）に宥（ゆる）さずば自分（じぶん）も在天（ざいてん）の父（ちゝ）から宥（ゆる）されまい」（マ　テ　オ十八。三五）、叉（また）「我（わ）が汝等（なんぢら）を愛（あい）した如（ごと）く互（たが）ひに愛（あい）せよ。人（ひと）が汝等（なんぢら）の相愛（あひあい）するを見（み）て、我弟子（わがでし）たる事（こと）を知（し）るであらう」（ヨ　ハ　ネ十三。三五）と、頻（しきり）に仰（おっ）しゃった。叉諺（またことわざ）に「四海兄弟（かいけいてい）と云（い）はれるが如（ごと）くに、

人（ひと）は皆兄弟（みなけうだい）

であって、天主（てんしゅ）を父（ちゝ）と戴（いたゞ）いて居（を）れば、出来（でき）る限（かぎ）り兄弟（けうだい）のやうに為（せ）ねばならぬ。（一つのバプティスマを受（う）けていれば本当（ほんとう）に兄弟（きょうだい）である、ヨブ記、6：14「友（とも）への慈（いつく）しみを拒（こば）む者（もの）は、全能者（ぜんのうしゃ）への畏（おそ）れを捨（す）てている」：聖書協会共同訳）

272◯如何（どん）な事（こと）が愛德（あいとく）に背（そむ）くか

△凡（すべ）て天主（てんしゅ）に背（そむ）く事（こと）、叉人（またひと）を惡（にく）み、怨（うら）み、躓（つまづ）かせ、罪（つみ）に誘（いざな）ふ事等（ことなど）は愛徳（あいとく）に背（そむ）きます。

凡（すべ）て天主（てんしゅ）に背（そむ）く事（こと）。

罪（つみ）は大小（だいせう）に拘（かゝは）らず天主（てんしゅ）に対（對）（たい）する愛（あい）の正反対（對）（せいはんたい）である。天主（てんしゅ）を愛（あい）すると幾許云（いくらい）っても、罪（つみ）を犯（をか）すなら僞（いつはり）である。

人（ひと）を悪（にく）み、

即（すなは）ち害（がい）を加（くは）へた人（ひと）でも「惡（あく）を憎（にく）んで人（ひと）を憎（にく）まず」と云（い）はれた如（ごと）く憐（あはれ）むが本当（ほんたう）である。

怨（うら）み、

即（すなは）ち遺恨（ゐこん）を含（ふく）んで物（もの）を云（い）はず、免（ゆるし）を願（ねが）はれても和合（わがふ）

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を拒（こば）む等（など）の事（こと）であるが、「人（ひと）に免（ゆる）さずば自（みづか）らも天主（てんしゅ）より免（ゆる）されず」とのイエズス、キリストの御言（おんことば）と、叉（また）「我等（）が人（ひと）に免（ゆる）す如（ごと）く我等（われら）の罪（つみ）を免（ゆる）し給（たま）へ」との祈禱（いのり）を忘（わす）れてはならぬ。

躓（つまづ）かせ、

即（すなは）ち言行（ことばおこなひ）を以（もっ）て悪（あ）しき鑑（かゞみ）を示（しめ）し、他人（たにん）を罪（つみ）に陥（おと）す事（こと）である。人（ひと）は相互（さうご）に善（よ）き鑑（かゞみ）に成（な）るやうに励（勵）（はげ）まねばならぬ、是（これ）を「人（ひと）の徳（とく）を樹（た）て」ると云（い）ふ。

罪（つみ）に誘（いざな）ふ

事（こと）の愛（あい）に背（そむ）くは、第（だい）二百四十五の問（とひ）に云（い）はれた事（こと）を爲（す）れば、人（ひと）の靈魂（れいこん）を害（がい）するからである。

（註（ちゅう））對（対）神德（たいしんとく）（即（すなは）ち天主（てんしゅ）に直接（ちょくせつ）に対（對）（たい）する德（とく））の外（ほか）に叉種々（またいろ〱）「倫理徳（りんりとく）がある、即（すなは）ち身（み）を修（をさ）め行（おこなひ）をイエズスの教（をしへ）に従（したが）って善（よ）くすると云（い）ふ徳（とく）である。

倫理徳（りんりとく）の中最（うちもっと）も肝要（かんえう）なのは「賢（けん）、義（ぎ）、勇（ゆう）、節（せつ）」で之（これ）を四（よつ）の「樞要德（すうえうとく）」と云（い）ふ。樞要（すうえう）とは要（かなめ）に成（な）るとの意味（いみ）で、扇子（せんす）の要（かなめ）のやうに肝要（かんえう）であるから然（さ）う名（な）づけられたのである。

「賢德（けんとく）」は救靈（たすかり）の危険（きけん）を慮（おもんぱか）る德（とく）である。即（すなは）ち用心（ようじん）すべき事（こと）を用心（ようじん）し、努（つと）むべき事（こと）を務（つと）めさせるのである。

「義德（ぎとく）」は天主（てんしゅ）に対（對）（たい）し、（:己の?!）徳（（:おのれの?）とく）に対（たい）して、盡（:尽）（つく）すべき事（こと）を

[下段]

適宜（てきゞ）に盡（つく）す德（とく）である。之（これ）を「正義（せいぎ）」とも云（い）ふ。

「勇德（ゆうとく）」は勇氣（ゆうき）を以（もっ）て靈魂（れいこん）の三（みつ）の德（とく）の敵（てき）なる惡魔（あくま）と世間（せけん）と己（おのれ）とに打勝（うちか）つ德（とく）であって之（これ）は殉教者（じゅんけうしゃ）や聖人（せいじん）に著（いちじる）しく見（み）える。

「節德（せつとく）」は快樂（くゎいらく）の度（ど）を過（すご）さぬやうに控（ひか）へる德（とく）である。節操（せっさう）、節食（せっしょく）、節酒等（せっしゅなど）は其部分（そのぶぶん）である。

樞要德（すうえうとく）の外（ほか）に種々（いろゝゝ）の倫理德（りんりとく）があるが、主（おも）なるは敬神德及（けいしんとくおよ）び謙遜（けんそん）、柔和（にうわ）、堪忍（かんにん）、貞操（ていさう）、從順等（じゅうじゅんなど）である。

德（とく）を得（え）る主（おも）なる道（みち）は、第（だい）一聖寵（せいてう）の助力（じょりき）を祈（いの）り、第（だい）二イエズス、キリスト、聖母（せいぼ）、聖人方（せいじんがた）の模範（もはん）に倣（なら）ひ、第（だい）三出来（でき）るだけ德（とく）を行（おこな）ふ事（こと）である。