全都覚醒賦
『早稲田学報』掲載版
編集上 | |
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いのちの | |
あふけば | |
いま | |
しばし | |
いと |
あゝ |
そぎたつきわみ、 |
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むか |
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その |
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「 |
「さらば」の |
さては |
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ひゞく | |
かくていよ〳〵 |
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下 | |
いまはた、 | |
いま | |
まづ | |
されば |
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それ |
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はや |
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うつや | |
はた |
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いまか |
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さては | |
こなた | |
と |
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あはれ |
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いま | |
いま | |
あら |
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あゝ |
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あゝ |
『文庫』掲載版
編集 上
靜かにすゝむ時の輪の
軌つたへて幽かにも―――
白光、小鳥にゆるゝごと
明日の香ゆらぐ夢の波
薄むらさきにたゞよひて
白帆はりゆく
まろらに薰る
人が
いのちの
血の脈搏と大闇の
悟うるべく嚴かに
雪に
我、
鵝毛みだるゝ
木々の
臺にのぼれば雲
仰けば諸辰十二宿
銀の
善美まつたく整へば
燦爛として
淚のごひてさらにまた
燃ゆる瞳をめぐらして
闇に下界をうかゞへば
廣量無邊、
包み
無縫の衣、水の帶
無垢淸淨のしろ銀の
衾白彩ひきかつぎ
譬へば、佛陀、無憂樹の
いま
諸天諸菩薩比丘比丘尼
優婆夷優婆塞うちめぐる
蓮座に薫る大菩提
しばし
いと安らかに嚴かに
あゝ天が下、天雲の
そぎたつきはみ、
靑垣山の
むか伏すかぎり、八百潮の
潮の八百路の沖津波
全都の偉靈二百萬
その激甚と繁雜に
闇にしばらく―――白雪に
大傘かざし、深みどり
褪ぜず枯れざる
夕、月の輪貫きて
世の盛衰をひやゝかに
神さびたてる常盤木の
古るきにほひに佇みて
さらにすかせば眼にくらき
柳やなぎの家を
冷たう光る大路の
小路はくらし、
夜の
頰に沁み照る燭の灯か
小窓を洩れて靑白う
一點二點さゆらげる
聽けば巽に、
新領かけて三千里
闇の日の本、
夜を
番ふ言葉も震帶び
「休め」「かしこし」「寒し」「いざ」
「さらば」の聲の時折に
さては
市の夢
巡羅が
ひゞく地心の骨
かくていよ〳〵更けゆけば
遙か、水澄む大川の
魚、
夜の
大地しづかにふしまろび
生存の氣と活動の
大なる力、
希望の
夢に
高き呼吸と音響と
進めの律呂譜と納め
た
下
誇るべきかな、常闇に
長き
いまはた、
巨人のごともうなづきて
我、
夜は
醒めよ
全都の靈よ、活動の
一指に
闇にひと振、渾心の
力をこめて鐘撞くや
響殷々、澄みわたる
大氣搖るがし亂るれば
鳥は驚き友をよび
綠天葢ゆるがして
箙背に負ふ神將が
引番へ射る
白羽のごとく光
紫雲たなびく九重の
大宮めぐり鳴きかはし
靄の
東をさせば、天津宮
闇の夢戶を押ひらき
いま日の神のいでましに
光白駒、飛ぐるま
しろ銀の輪の小軌に[5]
雲は彩湧く時を載せ
まづほのしろむ
光の
地に蘇る
幽かにさらにひそやかに
力こもりぬ、ほの〴〵と
九百九町はやはらかに
醒むるよ。嘗て夜を高み
雪に
されば朝の氣朝の聲
淸くすゞしく爽やかに
水に
山の鼓膜にひゞくかな
それ日の本は神ながら
神つまります古國の[6]
烏帽子、水干しら彩の
禰宜が
朗らに澄むや神殿の
大氣森たり朝神樂
はや鼕々とうちいづる
時に聖は先覺の
滅ぶる子らに
死をまつ子らに
傷める子らに
生るゝ子らに
うつや
霧にむせびて三寶の
淸きほこりは雲に入り
澄みて菩提をさそふべう
伽藍の朝は
はた鐘の音におのづから
淚にあふぐ市びとが
耳を過ぎりてあきなひの
聲はさやかに、辻々の
車の軌、
足駄、
繁く
いまか
木の實、靑物、
紅は林檎に、極熟の
禾木、花くさ、花たまき
彩に人よぷにぎはひに[8]
美し子らは入り亂れ
朝眼
さては
江戶は
聲の勢ひか手に活ける
魚の幾千、
銀の
海の
かなた、朝汽車轟々と
美しきゆめ若き夢
夢の二百里ひた走せに
箱根足柄、曙の
希望の都近づくと
朝を
笛鳴らしつゝ迫るかな
こなた、森なる樂堂の
雪の
閂ぬけば夏海の
高潮のごとひたよせて
亂れ入る子の後ろかげ
ほの紅の霧透いて
と見る眞紅は朝ぞらの
雲を
霧に流るゝ美くしさ
時いま、百の工場に
金は相
𤍠火飛びちる活劇と
大音響をもたらして
けたたましくも
朝はいよ〳〵新らしく
あゝ
霸國の都、かゞやかに
天津御日繼いや高う
かく
いまし
百士百官めぐらして
國見そなはす
霧は晴れたり、遠海の
朝の靑はや、眉せまる
秩父遠山、筑波山
富士、自雪のかんむりに
玲瓏として玉のごと
拉むよ、朝のこの都[9]
あはれ不滅の精力に
いま悠々と高
時の白駒驅りすゝめ
白銀の鞭、金の馬具
輪車軋らす光道の
十方かけて煌々と
投ぐる金の矢銀の矢に
赫々として
朝の光に、
銀きらめくや流るゝや
涵たし盡くさむ勢に
大地大都は一犬の
夢も許さず堂々と
遂に醒めたり、戞然と
いま噪然と囂然と
あら蘇る活動の
力、火となり𤍠となり
電力となり、
血となり燃ゆる肉となり
茲に全都の繁榮と
人を
千萬の聲、雜然と
遂に溢れて漲りて
天部貰ぬく激しさに[10]
あゝ地に
短軀にひそむ精力の
偉大不滅をまさに見る
高堂の朝、樹下の人
あゝ眼にあまる
讃歎高く靑春の
血潮𤍠
感淚せちにうちむせぶかな
脚注
編集注釈
編集- ↑ 「
千里 」は底本通り。全集収録時において「千里 」に訂正されている。 - ↑ 「褪ぜず」は底本通り。全集収録時において「褪せず」に訂正されている。
- ↑ 「た 」は底本通り。全集収録時において「たゞ」に訂正されている。
- ↑ 「
百千 」は底本通り。全集収録時において「百千 」に訂正されている。 - ↑ 「小軌に」は底本通り。全集収録時において「小軋に」に訂正されている。
- ↑ 「神つまります」は底本通り。全集収録時において「神づまります」に訂正されている。
- ↑ 「車の軌」は底本通り。全集収録時において「車の軋」に訂正されている。
- ↑ 「人よぷ」は底本通り。全集収録時において「人よぶ」に訂正されている。
- ↑ 「拉むよ」は底本通り。全集収録時において「涖むよ」に訂正されている。
- ↑ 「貰ぬく」は底本通り。全集収録時において「貫ぬく」に訂正されている。
参考文献
編集- 北原白秋『白秋全集1』岩波書店、1984年12月5日。ISBN 4-00-090941-X。
底本
編集- 『早稲田学報』
- 北原隆吉(射水)「全都覺醒賦」、『早稻田學報』第112号、早稻田學舍、1905年1月1日、 70-72頁。
- 『文庫』
- 北原射水「全都覺醒賦」、『文庫』第27巻第6号、内外出版協會、1905年1月1日。
この著作物は、1942年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)80年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。
この著作物は、1929年1月1日より前に発行された(もしくはアメリカ合衆国著作権局に登録された)ため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。