光厳天皇宸筆処分状

光厳上皇が興仁親王（のちの崇光天皇）に宛てた処分状。伏見宮旧蔵、宮内庁書陵部所蔵。

• 原文は「大日本史料総合データベース、康永２年４月是月(13430040660) 1条」による。
• 〈〉は割注である。
• 書き下し文は常用漢字に改めた。

分讓　興仁親王

一　　因幡國
一　　法金剛院領〈加熱田社領、目錄在別、〉
右一瞬計略所定宛如斯、儉以之守身、靜以之養性、陪妾無多、以要仕之、於臣者以直仁親王輔翼󠄂之臣、作水魚之交、莫要各別給仕之近臣、唯以佞臣之害、湏爲終身之愼、縱雖有骨肉芳契之族、而納󠄁順耳之利言、若違朕󠄂之遺訓者、匪啻一身之仇、旣是天下之仇矣、𤎼愼之々々々、抑所載右之國衙及院領等、一瞬之後必可返與直仁親王焉、

康永二年四月日　　　　　　　[花押]

書き下し文

分譲　興仁（おきひと）親王

一、　因幡国
一、　法金剛院領〈熱田社領を加ふ、目録別に在り〉
右、一瞬の計略定め宛つ所斯（か）くのごとし、倹（つつましく）之（これ）を以って身を守り、静之を以って性を養ふ。陪妾（ばいしょう）多く無く、要を以って之を仕ふ。臣に於いては直仁（なほひと）親王輔翼（ほよく）の臣を以って、水魚の交はりを作（な）し、各別給仕の近臣を要する莫（なか）れ。唯だ佞臣（ねいしん）の害を以って、須（すべか）らく終身の慎みと為（な）すべし。縦（たと）ひ骨肉芳契（はうけい）の族有りて、順耳の利言を納むと雖（いへど）も、若（も）し朕の遺訓に違はば、啻（た）だ一身の仇（かたき）に匪（あら）ず、既に是れ天下の仇なり。熟（とく）と之を慎め、熟と之を慎め。抑（そもそも）、右に載す所の国衙（こくが）及び院領等、一瞬の後、必ず直仁親王に返与すべし。

康永二年四月日　　　　　　　[花押]