傳道之書(文語訳)

<聖書<文語訳旧約聖書

w:舊新約聖書 [文語]』w:日本聖書協会、1953年

w:明治元訳聖書

傳道之書

第1章編集

1:1編集

ダビデの子 ヱルサレムの王 傳道者の言

1:2編集

傳道者言く 空の空 空の空なる哉 都て空なり

1:3編集

日の下に人の勞して爲ところの諸の動作はその身に何の益かあらん

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世は去り世は來る 地は永久に長存なり

1:5編集

日は出で日は入り またその出し處に喘ぎゆくなり

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風は南に行き又轉りて北にむかひ 旋轉に旋りて行き 風復その旋轉る處にかへる。

1:7編集

河はみな海に流れ入る 海は盈ること無し 河はその出きたれる處に復還りゆくなり

1:8編集

萬の物は勞苦す 人これを言つくすことあたはず 目は見に飽ことなく耳は聞に充ること無し

1:9編集

曩に有し者はまた後にあるべし 曩に成し事はまた後に成べし 日の下には新しき者あらざるなり

1:10編集

見よ是は新しき者なりと指て言べき物あるや 其は我等の前にありし世々に既に久しくありたる者なり

1:11編集

己前のものの事はこれを記憶ることなし 以後のものの事もまた後に出る者これをおぼゆることあらじ

1:12編集

われ傳道者はヱルサレムにありてイスラエルの王たりき

1:13編集

我心を盡し智慧をもちひて天が下に行はるる諸の事を尋ねかつ考覈たり此苦しき事件は神が世の人にさづけて之に身を勞せしめたまふ者なり

1:14編集

我日の下に作ところの諸の行爲を見たり 嗚呼皆空にして風を捕ふるがごとし

1:15編集

曲れる者は直からしむるあたはず缺たる者は數をあはするあたはず

1:16編集

我心の中に語りて言ふ 嗚呼我は大なる者となれり 我より先にヱルサレムにをりしすべての者よりも我は多くの智慧を得たり 我心は智慧と知識を多く得たり

1:17編集

我心を盡して智慧を知んとし狂妄と愚癡を知んとしたりしが 是も亦風を捕ふるがごとくなるを暁れり

1:18編集

夫智慧多ければ憤激多し 知識を増す者は憂患を増す

第2章編集

2:1編集

我わが心に言けらく 來れ我試みに汝をよろこばせんとす 汝逸樂をきはめよと 嗚呼是もまた空なりき

2:2編集

我笑を論ふ是は狂なり 快樂を論ふ是何の爲ところあらんやと

2:3編集

我心に智慧を懐きて居つつ酒をもて肉身を肥さんと試みたり 又世の人は天が下において生涯如何なる事をなさば善らんかを知んために我は愚なる事を行ふことをせり

2:4編集

我は大なる事業をなせり 我はわが爲に家を建て葡萄園を設け

2:5編集

園をつくり囿をつくり 又菓のなる諸の樹を其處に植ゑ

2:6編集

また水の塘池をつくりて樹木の生茂れる林に其より水を灌がしめたり

2:7編集

我は僕婢を買得たり また家の子あり 我はまた凡て我より前にヱルサレムにをりし者よりも衆多の牛羊を有り

2:8編集

我は金銀を積み 王等と國々の財寶を積あげたり また歌詠之男女を得 世の人の樂なる妻妾を多くえたり

2:9編集

斯我は大なる者となり 我より前にヱルサレムにをりし諸の人よりも大になりぬ 吾智慧もまたわが身を離れざりき

2:10編集

凡そわが目の好む者は我これを禁ぜす 凡そわが心の悦ぶ者は我これを禁ぜざりき 即ち我はわが諸の勞苦によりて快樂を得たり 是は我が諸の勞苦によりて得たるところの分なり

2:11編集

我わが手にて爲たる諸の事業および我が勞して事を爲たる勞苦を顧みるに 皆空にして風を捕ふるが如くなりき 日の下には益となる者あらざるなり

2:12編集

我また身を轉らして智慧と狂妄と愚癡とを観たり 抑王に嗣ぐところの人は如何なる事を爲うるや その既になせしところの事に過ざるべし

2:13編集

光明の黒暗にまさるがごとく智慧は愚癡に勝るなり 我これを暁れり

2:14編集

智者の目はその頭にあり愚者は黒暗に歩む 然ど我しる其みな遇ふところの事は同一なり

2:15編集

我心に謂けらく 愚者の遇ふところの事に我もまた遇ふべければ 我なんぞ智慧のまさる所あらんや 我また心に謂り是も亦空なるのみと

2:16編集

夫智者も愚者と均しく永く世に記念らるることなし 來らん世にいたれば皆早く既に忘らるるなり 嗚呼智者の愚者とおなじく死るは是如何なる事ぞや

2:17編集

是に於て我世にながらふることを厭へり 凡そ日の下に爲ところの事は我に惡く見ればなり 即ち皆空にして風を捕ふるがごとし

2:18編集

我は日の下にわが勞して諸の動作をなしたるを恨む其は我の後を嗣ぐ人にこれを遺さざるを得ざればなり

2:19編集

其人の智愚は誰かこれを知らん然るにその人は日の下に我が勞して爲し智慧をこめて爲たる諸の工作を管理るにいたらん是また空なり

2:20編集

我身をめぐらし日の下にわが勞して爲たる諸の動作のために望を失へり

2:21編集

今茲に人あり 智慧と知識と才能をもて勞して事をなさんに終には之がために勞せざる人に一切を遺してその所有となさしめざるを得ざるなり 是また空にして大に惡し

2:22編集

夫人はその日の下に勞して爲ところの諸の動作とその心勞によりて何の得ところ有るや

2:23編集

その世にある日には常に憂患あり その勞苦は苦し その心は夜の間も安んずることあらず 是また空なり

2:24編集

人の食飮をなしその勞苦によりて心を樂しましむるは幸福なる事にあらず 是もまた神の手より出るなり 我これを見る

2:25編集

誰かその食ふところその歓樂を極むるところに於て我にまさる者あらん

2:26編集

神はその心に適ふ人には智慧と知識と喜樂を賜ふ 然れども罪を犯す人には勞苦を賜ひて斂めかつ積ことを爲さしむ 是は其を神の心に適ふ人に與へたまはんためなり 是もまた空にして風を捕ふるがごとし

第3章編集

3:1編集

天が下の萬の事には期あり 萬の事務には時あり

3:2編集

生るるに時あり死るに時あり 植るに時あり植たる者を抜に時あり

3:3編集

殺すに時あり醫すに時あり 毀つに時あり建るに時あり

3:4編集

泣に時あり笑ふに時あり 悲むに時あり躍るに時あり

3:5編集

石を擲つに時あり石を斂むるに時あり 懐くに時あり懐くことをせざるに時あり

3:6編集

得に時あり失ふに時あり 保つに時あり棄るに時あり

3:7編集

裂に時あり縫に時あり 黙すに時あり語るに時あり

3:8編集

愛しむに時あり惡むに時あり 戦ふに時あり和ぐに時あり

3:9編集

働く者はその勞して爲ところよりして何の益を得んや

3:10編集

我神が世の人にさづけて身をこれに勞せしめたまふところの事件を視たり

3:11編集

神の爲したまふところは皆その時に適ひて美麗しかり 神はまた人の心に永遠をおもふの思念を賦けたまへり 然ば人は神のなしたまふ作爲を始より終まで知明むることを得ざるなり

3:12編集

我知る人の中にはその世にある時に快樂をなし善をおこなふより外に善事はあらず

3:13編集

また人はみな食飮をなしその勞苦によりて逸樂を得べきなり 是すなはち神の賜物たり

3:14編集

我知る凡て神のなしたまふ事は限なく存せん 是は加ふべき所なく是は減すべきところ無し 神の之をなしたまふは人をしてその前に畏れしめんがためなり

3:15編集

昔ありたる者は今もあり 後にあらん者は既にありし者なり 神はその遂やられし者を索めたまふ

3:16編集

我また日の下を見るに審判をおこなふ所に邪曲なる事あり 公義を行ふところに邪曲なる事あり

3:17編集

我すなはち心に謂けらく神は義者と惡者とを鞫きたまはん 彼處において萬の事と萬の所爲に時あるなり

3:18編集

我また心に謂けらく是事あるは是世の人のためなり 即ち神は斯世の人を撿して之にその獣のごとくなることを自ら暁らしめ給ふなり

3:19編集

世の人に臨むところの事はまた獣にも臨む この二者に臨むところの事は同一にして是も死ば彼も死るなり 皆同一の呼吸に依れり 人は獣にまさる所なし皆空なり

3:20編集

皆一の所に往く 皆塵より出で皆塵にかへるなり

3:21編集

誰か人の魂の上に昇り獣の魂の地にくだることを知ん

3:22編集

然ば人はその動作によりて逸樂をなすに如はなし 是その分なればなり 我これを見る その身の後の事は誰かこれを携へゆきて見さしむる者あらんや

第4章編集

4:1編集

茲に我身を轉して日の下に行はるる諸の虐遇を視たり 嗚呼虐げらる者の涙ながる 之を慰むる者あらざるなり また虐ぐる者の手には權力あり 彼等はこれを慰むる者あらざるなり

4:2編集

我は猶生る生者よりも既に死たる死者をもて幸なりとす

4:3編集

またこの二者よりも幸なるは未だ世にあらずして日の下におこなはるる惡事を見ざる者なり

4:4編集

我また諸の勞苦と諸の工事の精巧とを観るに 是は人のたがひに嫉みあひて成せる者たるなり 是も空にして風を捕ふるが如し

4:5編集

愚なる者は手を束ねてその身の肉を食ふ

4:6編集

片手に物を盈て平穩にあるは 兩手に物を盈て勞苦て風を捕ふるに愈れり

4:7編集

我また身をめぐらし日の下に空なる事のあるを見たり

4:8編集

茲に人あり只獨にして伴侶もなく子もなく兄弟もなし 然るにその勞苦は都て窮なくの目は富に飽ことなし 彼また言ず嗚呼我は誰がために勞するや何とて我は心を樂ませざるやと 是もまた空にして勞力の苦き者なり


4:9編集

二人は一人に愈る其はその勞苦のために善報を得ればなり

4:10編集

即ちその跌倒る時には一箇の人その伴侶を扶けおこすべし 然ど孤身にして跌倒る者は憐なるかな之を扶けおこす者なきなり

4:11編集

又二人ともに寝れば温暖なり一人ならば爭で温暖ならんや

4:12編集

人もしその一人を攻撃ば二人してこれに當るべし 三根の繩は容易く断ざるなり

4:13編集

貧くして賢き童子は 老て愚にして諌を納れざる王に愈る

4:14編集

彼は牢獄より出て王となれり 然どその國に生れし時は貧かりき

4:15編集

我日の下にあゆむところの群生が彼王に続てこれに代りて立ところの童子とともにあるを観たり

4:16編集

民はすべて際限なし その前にありし者みな然り 後にきたる者また彼を悦ばず 是も空にして風を捕ふるがごとし

第5章編集

5:1編集

汝ヱホバの室にいたる時にはその足を愼め 進みよりて聴聞は愚なる者の犠牲にまさる 彼等はその惡をおこなひをることを知ざるなり

5:2編集

汝神の前にありては軽々し口を開くなかれ 心を攝めて妄に言をいだすなかれ 其は神は天にいまし汝は地にをればなり 然ば汝の言詞を少からしめよ

5:3編集

夫夢は事の繁多によりて生じ 愚なる者の聲は言の衆多によりて識るなり

5:4編集

汝神に誓願をかけなば之を還すことを怠るなかれ 神は愚なる者を悦びたまはざるなり 汝はそのかけし誓願を還すべし

5:5編集

誓願をかけてこれを還さざるよりは寧ろ誓願をかけざるは汝に善し

5:6編集

汝の口をもて汝の身に罪を犯さしむるなかれ 亦使者の前に其は過誤なりといふべからず 恐くは神汝の言を怒り汝の手の所爲を滅したまはん

5:7編集

夫夢多ければ空なる事多し 言詞の多きもまた然り 汝ヱホバを畏め

5:8編集

汝國の中に貧き者を虐遇る事および公道と公義を枉ることあるを見るもその事あるを怪むなかれ 其はその位高き人よりも高き者ありてその人を伺へばなり又其等よりも高き者あるなり

5:9編集

國の利益は全く是にあり 即ち王者が農事に勤むるにあるなり

5:10編集

銀を好む者は銀に飽こと無し 豊富ならんことを好む者は得るところ有らず 是また空なり

5:11編集

貨財増せばこれを食む者も増すなり その所有主は唯目にこれを看るのみ その外に何の益かあらん

5:12編集

勞する者はその食ふところは多きも少きも快く睡るなり 然れども富者はその貨財の多きがために睡ることを得せず

5:13編集

我また日の下に患の大なる者あるを見たり すなはち財寶のこれを蓄ふる者の身に害をおよぼすことある是なり

5:14編集

その財寶はまた災難によりて失落ことあり 然ばその人子を挙ることあらんもその手には何物もあることなし

5:15編集

人は母の胎より出て來りしごとくにまた裸體にして皈りゆくべし その勞苦によりて得たる者を毫厘も手にとりて携へゆくことを得ざるなり

5:16編集

人は全くその來りしごとくにまた去ゆかざるを得ず 是また患の大なる者なり 抑風を追て勞する者何の益をうること有んや

5:17編集

人は生命の涯黒暗の中に食ふことを爲す また憂愁多かり 疾病身にあり 憤怒あり

5:18編集

視よ我は斯観たり 人の身にとりて善かつ美なる者は 神にたまはるその生命の極食飮をなし 且その日の下に勞して働ける勞苦によりて得るところの福禄を身に享るの事なり是その分なればなり

5:19編集

何人によらず神がこれに富と財を與へてそれに食ことを得せしめ またその分を取りその勞苦によりて快樂を得ることをせさせたまふあれば その事は神の賜物たるなり

5:20編集

かかる人はその年齢の日を憶ゆること深からず 其は神これが心の喜ぶところにしたがひて應ることを爲したまへばなり

第6章編集

6:1編集

我観るに日の下に一件の患あり是は人の間に恒なる者なり

6:2編集

すなはち神富と財と貴を人にあたへて その心に慕ふ者を一件もこれに缺ることなからしめたまひながらも 神またその人に之を食ふことを得せしめたまはずして 他人のこれを食ふことあり 是空なり惡き疾なり

6:3編集

仮令人百人の子を挙けまた長壽してその年齢の日多からんも 若その心景福に満足せざるか又は葬らるることを得ざるあれば 我言ふ流産の子はその人にまさるたり

6:4編集

夫流産の子はその來ること空しくして黒暗の中に去ゆきその名は黒暗の中にかくるるなり

6:5編集

又是は日を見ることなく物を知ることなければ彼よりも安泰なり

6:6編集

人の壽命千年に倍するとも福祉を蒙れるにはあらず 皆一所に往くにあらずや

6:7編集

人の勞苦は皆その口のためなり その心はなほも飽ざるところ有り

6:8編集

賢者なんぞ愚者に勝るところあらんや また世人の前に歩行ことを知ところの貧者も何の勝るところ有んや

6:9編集

目に観る事物は心のさまよひ歩くに愈るなり 是また空にして風を捕ふるがごとし

6:10編集

嘗て在し者は久しき前にすでにその名を命られたり 即ち是は人なりと知る 然ば是はかの自己よりも力強き者と争ふことを得ざるなり

6:11編集

衆多の言論ありて虚浮き事を増す然ど人に何の益あらんや

6:12編集

人はその虚空き生命の日を影のごとくに送るなり 誰かこの世において如何なる事か人のために善き者なるやを知ん 誰かその身の後に日の下にあらんところの事を人に告うる者あらんや

第7章編集

7:1編集

名は美膏に愈り 死る日は生るる日に愈る

7:2編集

哀傷の家に入は宴樂の家に入に愈る 其は一切の人の終かくのごとくなればなり 生る者またこれをその心にとむるあらん

7:3編集

悲哀は嬉笑に愈る 其は面に憂色を帯るなれば心も善にむかへばなり

7:4編集

賢き者の心は哀傷の家にあり 愚なる者の心は喜樂の家にあり

7:5編集

賢き者の勸責を聴は愚なる者の歌詠を聴に愈るなり

7:6編集

愚なる者の笑は釜の下に焚る荊棘の聲のごとし是また空なり

7:7編集

賢き人も虐待る事によりて狂するに至るあり賄賂は人の心を壊なふ

7:8編集

事の終はその始よりも善し 容忍心ある者は傲慢心ある者に勝る

7:9編集

汝氣を急くして怒るなかれ 怒は愚なる者の胸にやどるなり

7:10編集

昔の今にまさるは何故ぞやと汝言なかれ 汝の斯る問をなすは是智慧よりいづる者にあらざるなり

7:11編集

智慧の上に財産をかぬれば善し 然れば日を見る者等に利益おほかるべし

7:12編集

智慧も身の護庇となり銀子も身の護庇となる 然ど智惠はまたこれを有る者に生命を保しむ 是知識の殊勝たるところなり

7:13編集

汝神の作爲を考ふべし 神の曲たまひし者は誰かこれを直くすることを得ん

7:14編集

幸福ある日には樂め 禍患ある日には考へよ 神はこの二者をあひ交錯て降したまふ 是は人をしてその後の事を知ることなからしめんためなり

7:15編集

我この空の世にありて各様の事を見たり 義人の義をおこなひて亡ぶるあり 惡人の惡をおこなひて長壽あり

7:16編集

汝義に過るなかれまた賢に過るなかれ 汝なんぞ身を滅すべけんや

7:17編集

汝惡に過るなかれまた愚なる勿れ 汝なんぞ時いたらざるに死べけんや

7:18編集

汝此を執は善しまた彼にも手を放すなかれ 神を畏む者はこの一切の者の中より逃れ出るなり

7:19編集

智慧の智者を幇くることは邑の豪雄者十人にまさるなり

7:20編集

正義して善をおこなひ罪を犯すことなき人は世にあることなし

7:21編集

人の言出す言詞には凡て心をとむる勿れ 恐くは汝の僕の汝を詛ふを聞こともあらん

7:22編集

汝も屡人を詛ふことあるは汝の心に知ところなり

7:23編集

我智慧をもてこの一切の事を試み我は智者とならんと謂たりしが遠くおよばざるなり

7:24編集

事物の理は遠くして甚だ深し 誰かこれを究むることを得ん

7:25編集

我は身をめぐらし心をもちひて物を知り事を探り 智慧と道理を索めんとし 又惡の愚たると愚癡の狂妄たるを知んとせり

7:26編集

我了れり 婦人のその心羅と網のごとくその手縲絏のごとくなる者は是死よりも苦き者なり 神の悦びたまふ者は之を避ることを得ん罪人は之に執らるべし

7:27編集

傳道者言ふ 視よ我その數を知んとして一々に算へてつびに此事を了る

7:28編集

我なほ尋ねて得ざる者は是なり 我千人の中には一箇の男子を得たれども その數の中には一箇の女子をも得ざるなり

7:29編集

我了れるところは唯是のみ 即ち神は人を正直者に造りたまひしに人衆多の計略を案出せしなり

第8章編集

8:1編集

誰か智者に如ん誰か事物の理を解ことを得ん 人の智慧はその人の面に光輝あらしむ 又その粗暴面も變改べし

8:2編集

我言ふ王の命を守るべし既に神をさして誓ひしことあれば然るべきなり

8:3編集

早まりて王の前を去ることなかれ 惡き事につのること勿れ 其は彼は凡てその好むところを爲ばなり

8:4編集

王の言語には權力あり 然ば誰か之に汝何をなすやといふことを得ん

8:5編集

命令を守る者は禍患を受るに至らず 智者の心は時期と判断を知なり

8:6編集

萬の事務には時あり判断あり是をもて人大なる禍患をうくるに至るあり

8:7編集

人は後にあらんところの事を知ず また誰か如何なる事のあらんかを之に告る者あらん

8:8編集

霊魂を掌管て霊魂を留めうる人あらず 人はその死る日には權力あること旡し 此戦争には釋放たるる者あらず 又罪惡はこれを行ふ者を救ふことを得せざるなり

8:9編集

我この一切の事を見また日の下におこなはるる諸の事に心を用ひたり時としては此人彼人を治めてこれに害を蒙らしむることあり

8:10編集

我見しに惡人の葬られて安息にいるあり また善をおこなふ者の聖所を離れてその邑に忘らるるに至るあり是また空なり

8:11編集

惡き事の報速にきたらざるが故に世人心を専にして惡をおこなふ

8:12編集

罪を犯す者百次惡をなして猶長命あれども 我知る神を畏みてその前に畏怖をいだく者には幸福あるべし

8:13編集

但し惡人には幸福あらず またその生命も長からずして影のごとし 其は神の前に畏怖をいだくことなければなり

8:14編集

我日の下に空なる事のおこなはるるを見たり 即ち義人にして惡人の遭べき所に遭ふ者あり 惡人にして義人の遭べきところに遭ふ者あり 我謂り是もまた空なり

8:15編集

是に於て我喜樂を讃む 其は食飮して樂むよりも好き事は日の下にあらざればなり 人の勞して得る物の中是こそはその日の下にて神にたまはる生命の日の間その身に離れざる者なれ

8:16編集

茲に我心をつくして智慧を知らんとし世に爲ところの事を究めんとしたり 人は夜も晝もその目をとぢて眠ることをせざるなり

8:17編集

我神の諸の作爲を見しが人は日の下におこなはるるところの事を究むるあたはざるなり 人これを究めんと勞するもこれを究むることを得ず 且又智者ありてこれを知ると思ふもこれを究むることあたはざるなり

第9章編集

9:1編集

我はこの一切の事に心を用ひてこの一切の事を明めんとせり 即ち義き者と賢き者およびかれらの爲ところは神の手にあるなるを明めんとせり 愛むや惡むやは人これを知ることなし一切の事はその前にあるなり

9:2編集

諸の人に臨む所は皆同じ 義き者にも惡き者にも善者にも 浄者にも穢れたる者にも 犠牲を献ぐる者にも犠牲を献げぬ者にもその臨むところの事は同一なり 善人も罪人に異ならず 誓をなす者も誓をなすことを畏るる者に異ならず

9:3編集

諸の人に臨むところの事の同一なるは是日の下におこなはるる事の中の惡き者たり 抑人の心には惡き事充をり その生る間は心に狂妄を懐くあり 後には死者の中に往くなり

9:4編集

凡活る者の中に列る者は望あり 其は生る犬は死る獅子に愈ればなり

9:5編集

生者はその死んことを知る 然ど死る者は何事をも知ずまた應報をうくることも重てあらず その記憶らるる事も遂に忘れらるるに至る

9:6編集

またその愛も惡も嫉も既に消うせて彼等は日の下におこなはるる事に最早何時までも關係ことあらざるなり

9:7編集

汝往て喜悦をもて汝のパンを食ひ樂き心をも汝の酒を飮め 其は神久しく汝の行爲を嘉納たまへばなり

9:8編集

汝の衣服を常に白からしめよ 汝の頭に膏を絶しむるなかれ

9:9編集

日の下に汝が賜はるこの汝の空なる生命の日の間汝その愛する妻とともに喜びて度生せ 汝の空なる生命の日の間しかせよ 是は汝が世にありて受る分汝が日の下に働ける勞苦によりて得る者なり

9:10編集

凡て汝の手に堪ることは力をつくしてこれを爲せ 其は汝の往んところの陰府には工作も計謀も知識も智慧もあることなければなり

9:11編集

我また身をめぐらして日の下を観るに 迅速者走ることに勝にあらず強者戦争に勝にあらず 智慧者食物を獲にあらず 明哲人財貨を得にあらず 知識人恩顧を得にあらず 凡て人に臨むところの事は時ある者偶然なる者なり

9:12編集

人はまたその時を知ず 魚の禍の網にかかり鳥の鳥羅にかかるが如くに世の人もまた禍患の時の計らざるに臨むに及びてその禍患にかかるなり

9:13編集

我日の下に是事を観て智慧となし大なる事となせり

9:14編集

すなはち茲に一箇の小き邑ありて その中の人は鮮かりしが大なる王これに攻きたりてこれを圍みこれに向ひて大なる雲梯を建たり

9:15編集

時に邑の中に一人の智慧ある貧しき人ありてその智慧をもて邑を救へり 然るに誰ありてその貧しき人を記念もの無りし

9:16編集

是において我言り智慧は勇力に愈る者なりと 但しかの貧しき人の智慧は藐視られその言詞は聴れざりしなり

9:17編集

静に聴る智者の言は愚者の君長たる者の號呼に愈る

9:18編集

智慧は軍の器に勝れり一人の惡人は許多の善事を壊ふなり

第10章編集

10:1編集

死し蝿は和香者の膏を臭くしこれを腐らす 少許の愚癡は智慧と尊榮よりも重し

10:2編集

智者の心はその右に愚者の心はその左に行くなり

10:3編集

愚者は出て途を行にあたりてその心たらず自己の愚なることを一切の人に告ぐ

10:4編集

君長たる者汝にむかひて腹たつとも汝の本處を離るる勿れ温順は大なる愆を生ぜしめざるなり

10:5編集

我日の下に一の患事あるを見たり是は君長たる者よりいづる過誤に似たり

10:6編集

すなはち愚なる者高き位に置かれ貴き者卑き處に坐る

10:7編集

我また僕たる者が馬に乗り王侯たる者が僕のごとく地の上に歩むを観たり

10:8編集

坑を掘る者はみづから之におちいり石垣を毀つ者は蛇に咬れん

10:9編集

石を打くだく者はそれがために傷を受け木を割る者はそれがために危難に遭ん


10:10編集

鐵の鈍くなれるあらんにその刃を磨ざれば力を多く之にもちひざるを得ず 智慧は功を成に益あるなり

10:11編集

蛇もし呪術を聴ずして咬ば呪術師は用なし

10:12編集

智者の口の言語は恩徳あり 愚者の唇はその身を呑ほろぼす

10:13編集

愚者の口の言は始は愚なり またその言は終は狂妄にして惡し

10:14編集

愚者は言詞を衆くす 人は後に有ん事を知ず 誰かその身の後にあらんところの事を述るを得ん

10:15編集

愚者の勞苦はその身を疲らす彼は邑にいることをも知ざるなり

10:16編集

その王は童子にしてその侯伯は朝に食をなす國よ 汝は禍なるかな

10:17編集

その王は貴族の子またその侯伯は酔樂むためならず力を補ふために適宜き時に食をなす國よ 汝は福なるかな

10:18編集

懶惰ところよりして屋背は落ち 手を垂をるところよりして家屋は漏る

10:19編集

食事をもて笑ひ喜ぶの物となし酒をもて快樂を取れり 銀子は何事にも應ずるなり

10:20編集

汝心の中にても王たる者を詛ふなかれ また寝室にても富者を詛なかれ 天空の鳥その聲を傳へ羽翼ある者その事を布べければなり

第11章編集

11:1編集

汝の糧食を水の上に投げよ 多くの日の後に汝ふたたび之を得ん

11:2編集

汝一箇の分を七また八にわかて 其は汝如何なる災害の地にあらんかを知ざればなり

11:3編集

雲もし雨の充るあれば地に注ぐ また樹もし南か北に倒るるあればその樹は倒れたる處にあるべし

11:4編集

風を伺ふ者は種播ことを得ず 雲を望む者は刈ことを得ず

11:5編集

汝は風の道の如何なるを知ず また孕める婦の胎にて骨の如何に生長つを知ず 斯汝は萬事を爲たまふ神の作爲を知ことなし

11:6編集

汝朝に種を播け 夕にも手を歇るなかれ 其はその實る者は此なるか彼なるか又は二者ともに美なるや汝これを知ざればなり

11:7編集

夫光明は快き者なり 目に日を見るは樂し

11:8編集

人多くの年生ながらへてその中凡て幸福なるもなほ幽暗の日を憶ふべきなり 其はその數も多かるべければなり 凡て來らんところの事は皆空なり

11:9編集

少者よ汝の少き時に快樂をなせ 汝の少き日に汝の心を悦ばしめ汝の心の道に歩み汝の目に見るところを爲せよ 但しその諸の行爲のために神汝を鞫きたまはんと知べし

11:10編集

然ば汝の心より憂を去り 汝の身より惡き者を除け 少き時と壮なる時はともに空なればなり

第12章編集

12:1編集

汝の少き日に汝の造主を記えよ 即ち惡き日の來り年のよりて我は早何も樂むところ無しと言にいたらざる先

12:2編集

また日や光明や月や星の暗くならざる先 雨の後に雲の返らざる中に汝然せよ

12:3編集

その日いたる時は家を守る者は慄ひ 力ある人は屈み 磨碎者は寡きによりて息み 窓より窺ふ者は目昏むなり

12:4編集

磨こなす聲低くなれば衢の門は閉づ その人は鳥の聲に起あがり 歌の女子はみな身を卑くす

12:5編集

かかる人々は高き者を恐る畏しき者多く途にあり 巴旦杏は花咲くまた蝗もその身に重くその嗜欲は廢る 人永遠の家にいたらんとすれば哭婦衢にゆきかふ

12:6編集

然る時には銀の紐は解け金の盞は碎け吊瓶は泉の側に壊れ轆轤は井の傍に破ん

12:7編集

而して塵は本の如くに土に皈り 霊魂はこれを賦けし神にかへるべし

12:8編集

傳道者云ふ空の空なるかな皆空なり

12:9編集

また傳道者は智慧あるが故に恒に知識を民に教へたり 彼は心をもちひて尋ね究め許多の箴言を作れり

12:10編集

傳道者は務めて佳美き言詞を求めたり その書しるしたる者は正直して眞實の言語なり

12:11編集

智者の言語は刺鞭のごとく 會衆の師の釘たる釘のごとくにして 一人の牧者より出し者なり

12:12編集

わが子よ是等より訓誡をうけよ 多く書をつくれば竟なし 多く學べば體疲る

12:13編集

事の全體の皈する所を聴べし 云く 神を畏れその誡命を守れ 是は諸の人の本分たり

12:14編集

神は一切の行爲ならびに一切の隠れたる事を善惡ともに審判たまふなり