1テオフィロよ、我前に第一の書を作りて、總てイエズスの初より行ひ且敎へ給ひしことを述べ、
2其選み給ひし使徒等に聖靈に由りて命じ置き、然て天に上げられ給ひし日までに及びたりしが、
3イエズス御受難の後、多くの徵を以て、彼等に己の活きたる事を證明し、四十日の間彼等に現れ、神の國に關して談り給へり。
4又共に食しつつ彼等に、エルザレムを離れずして父の約束を待つべしと命じ、然て曰ひけるは、「汝等我口づから其約束を聞けり、
5蓋ヨハネは水にて洗したれども、汝等は日久しからずして聖靈にて洗せらるべきなり、と。
6然れば集りたる人々問ひて、主よ、イスラエルの國を回復し給ふは此頃なるか、と云ひければ、
7イエズス曰ひけるは、父が其權能によりて定め給ひし時刻は、汝等の知るべきに非ず、
8但汝等に臨み給ふ聖靈の能力を受けて、汝等はエルザレム、ユデア全國、サマリア、地の極に至る迄も我が證人とならん、と。
9斯く曰ひ終てて彼等の見る中に上げられ給ひしが、一叢の雲之を受けて見えざらしめたり。
10彼等が猶天に昇往き給ふを眺め居たる程に、白衣の人二人忽ち彼等の傍に立ちて言ひけるは、
11ガリレア人よ、何ぞ天を仰ぎつつ立てるや、汝等を離れて天に上げられ給ひし此イエズスは、汝等が其天に往き給ふを見たる如く、復斯の如くにして來り給ふべし、と。
12然て使徒等、橄欖山と云へる山よりエルザレムに還りしが、此山はエルザレムに近く、安息日にも行かるべき道程なり。
13然て入りてペトロとヨハネ、ヤコボとアンデレア、フィリッポとトマ、バルトロメオとマテオ、アルフェオの子ヤコボとゼロテなるシモンと、ヤコボの兄弟ユダとの宿れる高間に登りしが、
14彼等皆婦人等及びイエズスの母マリア、及びイエズスの兄弟等と共に、心を同じうして耐忍びつつ祈祷に從事し居たり。
15其頃、共に集れる人約百廿名なりしが、ペトロ兄弟の中に立ちて云ひけるは、
16兄弟の人々よ、イエズスを捕へし者等の案内者となりしユダに就きて、聖靈がダヴィドの口を以て預言し給ひたる聖書は、成就せざるべからず。
17彼は我等の員に入りて此聖役に與りたれども、
18不義の價を以て畑を求め、(吊されて)俯伏に倒れ、其身眞中より裂けて腸悉く迸り出でたり。
19此事エルザレムの住民に知れ渡りて、此畑は彼等の方言にてハケルダマ、卽ち血の畑と呼ばれたり。
20蓋詩の書に錄して、「彼の檻は荒れて、之に住む人なかるべし」、又「他人其務を受くべし」、とあれば、
21我等と共に集れる此人々の中より、總て主イエズス、キリストが我等の中に出入し給ひし間、
22卽ちヨハネの洗禮より始め、我等を離れて上げられ給ひし日に至るまで、一所に在りし者の一人、我等と共に其復活の證人とならざるべからず、と。
23是に於て彼等、バルサバと呼ばれ、義人と綽名されたるヨゼフと、マチアとの二人を擧げ、
24祈りて云ひけるは、總ての人の心を知り給へる主よ、ユダの己が處に往かんとて退きし此務と使徒職とを引受くべく、
25此二人の何れを選み給へるかを知らしめ給へ、と。
26斯て彼等に鬮を與へしに、鬮はマチアに當りしかば、彼十一人の使徒に加へられたり。
1ペンテコステの日至りしかば、皆一所に集り居けるに、
2忽ちにして天より烈しき風の來るが如き響ありて、彼等が坐せる家に充ち渡り、
3又火の如き舌彼等に顯れ、分れて各の上に止れり。
4斯て皆聖靈に滿たされ、聖靈が彼等に言はしめ給ふに從ひて、種々の言語にて語り出でたり。
5然るに敬虔なるユデア人等の、天下の諸國より來りてエルザレムに住める者ありしが、
6此音の響き渡るや、群集集り來りて、何れも使徒等が面々の國語にて語るを聞きければ、一同心騷ぎ惘果て、
7驚き嘆じて云ひけるは、看よ彼語る人は皆ガリレア人ならずや、
8如何にして我等各、我生國の語を聞きたるぞ、と。
9パルト人、メド人、エラミト人、又メソポタミア、ユデア、カパドキア、ポント、[小]アジア、
10フリジア、パムフィリア、エジプト、クレネに近きリビア地方に住める者、及びロマ寄留人、卽ち、
11ユデア人もユデア敎に歸依せし人も、クレタ人も、アラビア人も、彼等が我國語にて神の大業を語るを聞きたるなり。
12然れば皆驚き嘆じて、是は何事ぞと語合ひけるが、
13或は嘲笑ひて、彼等は酒に醉へり、と謂ふ人々もありき。
14是に於てペトロ十一人と共に立上り、聲を揚げて人々に語りけるは、ユデア人及び總てエルザレムに住める人々よ、汝等之を知らざるべからず、耳を傾けて我言を聞け。
15時は尙朝の第九時なれば、此人々は汝等の思へる如く醉ひたるに非ず、
16是預言者ヨエルを以て言はれし事なり、曰く「主曰はく、末の日頃に至らば、我靈を凡ての人の上に注がん、
17斯て汝等の子女は預言し、汝等の青年等は幻影を見、汝等の老人等は夢みるべし、
18又我僕、婢等の上にも、彼日頃に至りて我靈を注がん、斯て彼等は預言すべし。
19我又上は天に不思議を、下は地に徵を與へん、卽ち血と火と烟の柱とあるべし、
20主の大いにして明白なる日の來らざる前に、日は暗黑と成り、月は血と成らん、
21斯て主の御名を呼賴まん人皆救はるべし」と。
22イスラエル人よ、是等の言を聞け。ナザレトのイエズスは、汝等も知れる如く、神が之を以て汝等の中に行ひ給ひし奇蹟と不思議と徵とを以て、神より汝等の中に證明せられたる人にして、
23神の豫定の思召と豫知とによりて付されしを、汝等不法人の手を以て之を磔にして殺したるなり。
24彼冥府に止めらるること能はざりければ、神冥府の苦を解きて之を復活せしめ給へり。
25蓋ダヴィド之を斥して曰く、「我は絕えず我前に主を見奉りたり、其は我が動かざらん爲に、主我右に在せばなり。
26故に我心は嬉しく、我舌は喜びに堪へず、加之我肉體も亦希望の中に息まん。
27其は汝我魂を冥府に棄置き給はず、汝の聖なる者に腐敗を見せ給ふ事なかるべければなり、
28汝生命の道を我に知らせ給へり、又御顏を以て我を喜に滿たせ給ふべし」と。
29兄弟の人々よ、大祖ダヴィドに就きて憚らず之を云はしめよ。彼は死して葬られ、其墓は今日に至るまで我等の中に存す。
30卽ち彼は預言者にして、神之に誓を立て、其子孫の中より一人其座に着くべし、と約し給ひし事を知り居たれば、
31先見してキリストの復活を示し、其冥府に棄置かれざりし事と、其肉體の腐敗を見ざりし事とを語りたるなり。
32神は此イエズスを復活せしめ給へり、我等は皆其證人なり。
33然ればこそ神の右の御手を以て上げられ、且父より聖靈の約束を受けて、汝等の見且聞ける此聖靈を注ぎ給ひたるなれ。
34蓋ダヴィドは天に昇りしに非ざれども、自ら曰へらく「主我主に曰へらく、
35我汝の敵を汝の足臺とならしむるまで我右に坐せ」と。
36然れば汝等が十字架に磔けし此イエズスをば、神が主となしキリストと爲し給ひし事を、イスラエルの家擧りて最も確に知らざるべからず、と。
37人々是等の事を聞きて心を刺され、ペトロ及び他の使徒等に向ひ、兄弟の人々よ、我等何を爲すべきぞ、と云ひければ、
38ペトロ云ひけるは、汝等改心せよ、且罪を赦されん爲に、各イエズス、キリストの御名によりて洗せらるべし、然らば聖靈の賜を得ん。
39蓋約束は汝等の爲にして、又汝等の子等、及び總て遥に遠ざかれる人、我等の神たる主の召し給へる一切の人の爲なり、と。
40ペトロ此他尙多くの言を以て、人々を服せしめ且勸めて、汝等此邪の時代より救ひ出されよ、と云ひ居たり。
41斯て彼の言を承けし人々洗せられしが、卽日弟子の數に加はりし者約三千人なりき。
42然て堪忍びて、使徒等の敎と共同生活と、麪を擘く事と祈祷とに從事し居たりしが、
43軈て人皆心に懼を生じ、又使徒等に籍りて、多くの不思議と徵と、エルザレムに行はれければ、一般の人々大いに懼れを懷き居たり。
44斯て信仰せる人々、總て一所に在りて何物をも共有にし、
45動産不動産を賣り、面々の用に應じて一同に分ちつつ、
46尙每日心を同じくして長時間[神]殿に居り、家々に麪を擘きて喜悦と眞心とを以て食事を爲し、
47諸共に神を贊美し奉りて、人民一般の心を獲たり。然て斯の如くに、救はるる人を、主日々增加せしめ給ひつつありき。
1午後三時の祈祷に、ペトロとヨハネと[神]殿に上れるに、
2爰に生れながら跛へたる一人の男、[神]殿に入る人々に施を乞はんとて、每日美門と云へる[神]殿の門に舁据ゑられてありしが、
3ペトロとヨハネとの[神]殿に入らんとするを見て施を乞ひければ、
4ペトロ、ヨハネと共に之を眺めて、我等を看よ、と云ひけるに、
5彼何物をか貰はん心構にて彼等を熟視め居たりしかば、
6ペトロ云ひけるは、我に金銀なし、然れど我が有てる物をば汝に與へん、ナザレトのイエズス、キリストの御名によりて立ちて步め、と。
7乃ち其右の手を取りて之を起したるに、其脛及び蹠直に力づきて、
8踊立ちて步みしが、且步み、且踊り、且神を贊美しつつ彼等と共に[神]殿に入れり。
9人民皆彼が神を贊美しつつ步めるを見しが、
10其の曾て[神]殿の美門に坐して施を乞ひ居たりし者なるを知れば、之が上に成りし事に驚入りて、感嘆に堪へざりき。
11斯て彼ペトロとヨハネとの手を握り居たれば、人民皆驚きつつ、サロモン廊と呼ばれたる殿廊を指して彼等の許に馳集へり。
12ペトロ之を見て人民に答へけるは、イスラエル人よ、何ぞ此事を驚くや、又何ぞ恰も我々の德若くは力によりて此人を步ませしが如くに我等を眺むるや。
13アブラハムの神、イザアクの神、ヤコブの神、我等の先祖の神が、其御子イエズスに光榮を歸し給ひしなり、是卽ち汝等が付して、ピラトの之を赦すべしと判定せるを、其面前に否みし者なり。
14汝等聖なるもの義なるものを否みて、殺人者を赦されん事を求め、
15却て生命の造主を殺ししに、神は之を死者の中より復活せしめ給へり、我等は其證人なり。
16彼の御名に於る信仰によりて、其御名は汝等の見且知れる此人を力づかしめたり。イエズスに由れる信仰こそ、汝等一同の前に斯る全癒を得させたるなれ。
17兄弟等よ、我今にして知る、汝等の司等が爲ししに等しく、汝等が不知によりて之を爲ししことを。
18然れど神は、諸の預言者の口を以て、豫めキリストの苦しむべき事を告げ給ひしを、斯の如くにして全うし給ひしなり。
19然れば汝等罪を消されん爲に、改心して立歸れ。
20是亦主の御前より爽しめの時來りて、預定せられ給ひしイエズス、キリストを汝等に遣はし給はん爲なり。
21天は先之を受けざるべからず、是世の始より、神が其聖なる預言者等の口を以て告げ給ひし、萬物の回復の時代に至る迄の間なり。
22卽ちモイゼに曰く、「汝等の神なる主は、汝等の兄弟の中より我が如き一人の預言者を汝等に起し給はん、其汝等に語らん程の事は、汝等悉く之を聽くべし、
23斯て總て此預言者に聽かざる人は、必ず人民の中より亡ぼさるべし」、と。
24サムエル以來語りし預言者、皆此日の事を告げたり。
25汝等は預言者等の子等なり、又神が、「地上の諸族悉く汝の裔を以て祝せられん」、とアブラハムに曰ひて、我等の先祖に爲し給ひし契約の子等なり。
26神は先汝等の爲にこそ、御子を起して汝等を祝福し給ふ者を遣はし給ひしなれ、是各自ら其不義より立歸らん爲なり、と。
1ペトロヨハネと人民に語りつつ居りしに、
2司祭等と神殿の司とサドカイの人々と來り、彼等が人民を敎へ、且イエズスに於る死者の復活を說くことを深く憂ひて、
3彼等を捕へ、日既に暮れければ、翌日まで拘留したり。
4然れど言を聽きたりし人々、多くは信仰して、男子の數五千人に及べり。
5明日司祭長、長老、及び律法學士等、エルザレムに集會する事となりしが、
6アンナ大司祭もカイファも、ヨハネもアレキサンデルも、又大司祭の族も悉く共に在りき。
7斯てペトロとヨハネとを眞中に立たせて、汝等如何なる力如何なる名によりて此事を行ひしぞ、と問ひかけたり。
8其時ペトロ聖靈に滿たされて彼等に云ひけるは、聞けや民の司等、長老等、
9我等が癈疾者に對する善業に就き、其何に由りて醫されしかを尋問せらるるなれば、
10汝等一同及びイスラエルの人民擧りて之を知れ、彼人が壯健にして汝等の前に立てるは、是我等の主ナザレトのイエズス、キリスト、卽ち汝等が之を殺し、神が之を死者の中より復活せしめ給ひし者の御名に由るなり。
11是ぞ汝等家を建つる者に蔑にせられたる石にして、角の親石とせられたる者なる。
12其他の者によりては救靈ある事なし、其は我等が依て救かるべきものとして人に與へられし名は、天下に復之あらざればなり、と。
13會衆は彼等が無學の凡人なる事を豫て弁へたれば、ペトロ及びヨハネの泰然たるを見て之を怪しみ、また豫て彼等がイエズスに伴ひたりし事をも知り、
14醫されし人の現に彼等と共に立てるを見て、一言も之に對して云ふこと能はず、
15命じて彼等を衆議所より退け、共に評議して、
16云ひけるは、彼人々を如何に處分すべきぞ、蓋エルザレムの人民一同に知れ渡りたる奇蹟は彼等によりて行はれ、明白にして我等之を拒むこと能はず、
17然れど、其一層民間に弘まらざらん爲に、彼等を脅かして、如何なる人にも再び彼名を以て語る事なからしむべし、とて、
18彼等を呼び、一切イエズスの名を以て語り且敎ふる事勿れ、と戒めたり。
19然れどもペトロ、ヨハネは答へて、汝等に聽くは神に聽くよりも神の御前に正當なりや、汝等之を判ぜよ、
20蓋我等は見聞せし事を語らざるを得ず、と云へり。
21然て彼行はれし事に就きて人皆神を崇め奉るに由り、彼等は人民に對して使徒等を罰するに便なく、脅かして之を還せり。
22蓋彼全癒の奇蹟の行はれし人は四十歲以上なりき。
23二人は赦されて友の許に至り、司祭長、長老等の云ひし程の事を具に告げしかば、
24彼等は之を聞きて神に向ひ、異口同音に聲を揚げて云ひけるは、主よ、天、地、海、及び其中の有らゆる物を造り給ひしは主なり。
25主は聖靈に由りて、主の僕にして我等の先祖なるダヴィドの口を以て、「何故に異邦人は振起り、人民等は徒事を謀りしぞ、
26地上の國王は立ち、諸侯は一致して主及び其キリストに逆らへり」、と曰ひしが、
27果してヘロデ及びポンシオ、ピラトは、異邦人、イスラエルの諸族と共に此都に集りて、主の注油し給ひし聖なる御子イエズスに逆らひ、
28御手及び御旨の定め給ひし事を爲せり。
29主よ、今や彼等の脅喝を顧み、僕等に賜ふに、御言を憚らず語ることを以てし給ひ、
30御手を伸ばして、聖なる御子イエズスの御名によりて、治癒と徵と不思議とを行はせ給へ、と。
31祈り畢れる時、彼等の集れる所震動し、皆聖靈に滿たされて、憚る所なく神の御言を語り居たり。
32抑信者の群衆は、同心同意、一人も其有てる物を己が物と謂はず、何物をも皆共有にし、
33使徒等も亦大いなる力を以て、我主イエズス、キリストの復活を證し、大いなる恩寵彼等一同の上に在りき。
34蓋彼等の中には一人も乏しき者あらず、其は總て、畑又は家を有てる人は之を賣りて、其賣れる物の價を持來り、
35之を使徒等の足下に置きて、面々其用あるに隨ひて分與へらるればなり。
36爰にクプロ[島]生れなるレヴィ族の人ヨゼフは、使徒等よりバルナバ、譯して慰の子、と呼ばれたるが、
37畑の有りしを賣りて其價を持來り、之を使徒の足下に置けり。
1然るにアナニアと呼ばるる人、其妻サフィラと共に一枚の畑を賣りしが、妻も同意にて畑の價を詐り、
2其幾分を持來りて使徒等の足下に置きしかば、
3ペトロ云ひけるは、アナニアよ、何故サタンに心を誘はれて聖靈を欺き、畑の價を詐りたるぞ。
4其畑の有りし時は汝の物にして、賣られて後も[價は]汝の權内に屬したるに非ずや、何ぞ斯る事を心に企てしぞ、汝の欺きしは人に非ずして神なり、と。
5アナニア此言を聞くや、倒れて息絕えしかば、聞きたる人皆大いに懼を懷き、
6青年等立ちて之を取上げ、舁出して葬れり。
7約三時間を經て其妻、事の起りしを知らずして入來るに、
8ペトロ之に謂ひけるは、婦よ、汝等が畑を賣りし金は其だけなるか、我に告げよ、と。彼、然り其だけなり、と答へしかば、
9ペトロ之に向ひ、汝等何爲れぞ共謀して主の靈を試みんとしたるや、看よ、汝の夫を葬りし人々の足は戶口に在り、汝をも舁出すべし、と云ひければ、
10婦忽ち其足下に倒れて息絕えたり。青年等入來りて其死せるを見、之を舁出して夫の傍に葬りければ、
11全敎會及び是等の事を聞ける人々、皆大いに懼を懷けり。
12數多の徵と不思議とは、使徒等の手によりて民間に行はれ、[信者]皆心を一にしてサロモンの殿廊に在りしが、
13他人は敢て此中に交る者なく、人民彼等を稱贊して、
14主を信仰する男女の群衆益增加し、
15終には、人々病人を衢に舁出し、ペトロの來らん時、一人にもあれ其蔭になりとも覆はれ(て病を醫され)んとて、寢臺若くは舁臺に之を載置くに至り、
16又近傍の町々より病人、或は汚鬼に惱まさるる者等を携へて、人々夥しくエルザレムに馳集ひ居たりしが、彼等悉く醫されつつありき。
17然れば司祭長及び其徒、卽ちサドカイ派、皆妬ましさに堪へず、
18起ちて使徒等を捕へ、之を監獄に入れたり。
19然れど主の使、夜中に監獄の門を開きて彼等を出し、
20汝等往きて、[神]殿に立ち、此生命の言を悉く人民に語れ、と云ひしかば、
21彼等之を聽き、黎明に[神]殿に入りて敎へたり。然て司祭長及び之に伴へる人々、議員及びイスラエル人の長老一同を[衆議所に]召集し、使徒等を引來らせんとて、人を監獄に遣はししに、
22下役等至りて監獄を開き、彼等の在らざるを見て立歸り、告げて、
23云ひけるは、監獄が堅く閉ぢ、看守が門前に立てることは、我等之を見屆けたれども、之を開けば内には誰も見えざりき、と。
24神殿の司及び司祭長、是等の談を聞くや、使徒等に就きて、其成行如何にと當惑せるに、
25或人來りて、汝等が監獄に入れし人々は、今[神]殿に立ちて人民を敎へつつあり、と告げしかば、
26神殿の司、下役等を從へ行きて使徒等を連來れり、然れど人民より石を擲たれん事を恐れて、暴力を加ふる事なかりき。
27然て連來りて議會の中に立たせ、司祭長尋問して、
28彼名によりて敎ふること勿れとは、我等が、嚴しく命ぜし所なるに、汝等は其敎をエルザレムに滿たせ、彼人の血を我等に負はしめんとするに非ずや、と云ひしかば、
29ペトロ及び使徒等答へて云ひけるは、我等は人に[從ふ]よりは神に從はざるべからず。
30我等が先祖の神は、汝等の木に磔けて殺ししイエズスを復活せしめ給へり。
31神は改心と罪の赦とをイスラエルに賜はん爲に、右の御手を以て、イエズスを君とし救主として立て給ひしなり。
32我等は是等の事の證人にして、神が總て己に從ふ人々に賜へる所の聖靈も、亦之を證し給ふなり、と。
33會衆之を聞きて憤に堪へず、使徒等を殺さんと思ひ居たりしが、
34人民一般より尊ばるる律法學士ガマリエルと云へるファリザイ人、議會に立ち、命じて使徒等を暫く外に立たしめ、
35會衆に謂ひけるは、イスラエル人よ、自ら彼人々に爲さんとする所を愼め、
36其は此間テオダ[なる者]起りて、自ら人物と稱し、之に與せし人の數約四百なりしも、彼殺されたれば、之を信用せし人々も悉く散りて皆無となれり。
37其後、人別調の時、ガリレアのユダ起りて人民を誘ひ、己に從はしめしが、彼も亡びたれば之に與せし人は悉く散りたりき。
38今も我汝等に謂はん、彼人々に遠ざかりて之を措け、其は其計畫若くは事業、人よりのものならば崩るべく、
39神よりのものならば、汝等之を壞すこと能はずして、恐らくは神にも逆らふ者と爲らるべければなり、と。會衆之に贊成して、
40使徒等を呼出し、之を鞭ちて後、イエズスの名によりて語る事を嚴禁して還せり。
41使徒等イエズスの御名の爲に恥辱を受くるに足る者と爲られしを喜びつつ會衆の前を去りしが、
42日々神殿にて、又は家々を廻りて人を敎へ、キリスト、イエズスの福音を宣べて止まざりき。
1其頃弟子の數の加はるに隨ひ、ギリシア語のユデア人、其寡婦等が每日の施に漏らされたりとて、ヘブレオ語のユデア人に對して呟くに至りしかば、
2十二使徒許多の弟子を呼集めて云ひけるは、我等が神の御言を措て食卓に給仕するは、道理に非ず。
3故に兄弟等よ、汝等の中より、聖靈と知慮とに充ちて好評ある者七人を選め、我等之に此事務を宰らしめ、
4自らは祈祷と宣敎とに身を委ねん、と。
5此言群衆一同の心に適ひしかば、信仰と聖靈とに充てるステファノ竝にフィリッポ、プロコロ、ニカノル、チモン、パルメナ、又ユデア敎に歸依したりしアンチオキアのニコラを選みて、
6使徒等の前に差出したるに、使徒等は祈祷しつつ之に按手せり。
7斯て主の御言益弘まり、エルザレムに於て弟子の數の增す事非常にして、司祭の信仰に歸服したる者も亦夥しかりき。
8斯てステファノは恩寵と勇氣とに充ちて、大いなる奇蹟と徵とを人民の中に行ひ居たりしが、
9或人々は、所謂被解放者の會堂、及びクレネ人、アレキサンドリア人、及びシリシアと[小]アジアとの出身者の諸會堂より起ちて、ステファノと爭論すれども、
10彼の智惠と彼に於て語り給へる聖靈とに抵抗する事能はざりき。
11然れば彼等或人々を敎唆して、我等は彼がモイゼと神とを冒涜する言を出せるを聞けり、と云はしめ、
12終に人民と長老と律法學士とを煽動して、一齊に飛掛りて之を捕へ、衆議所に引出し、
13僞證人を立てて云はせけるは、此人は聖所と律法とに反する言を語りて止まず、
14卽ち我等は、彼ナザレトのイエズス此所を亡ぼし、モイゼの我等に傳へし例を變ふべし、と彼が言ふを聞けり、と。
15斯て議會に列座せる人、一同に目を注ぎてステファノを見れば、其顏恰も天使の顏の如くなりき。
1時に司祭長、是等の事果して然るか、と云ひしかば、
2ステファノ云ひけるは、聞かれよ、兄弟にして父たる人々、我等の父アブラハム、カランに住居するに先だちて、メソポタミアに在りし時、光榮の神之に現れて、
3曰ひけるは、汝國を去り親族を離れて、我が示さん地に至れ、と。
4斯てアブラハムカルデア人の地を出でてカランに住みしが、其父の死後、神は彼處より、汝等が現に住める地に彼を移し給ひ、
5足踏立つる許の地だに、其地にては遺産を賜はざりき。然れど其地を所有として之に與へ、其時は未だ子あらざりしも、後を子孫に與へん事を約し給ひ、
6神之に曰ひけるは、「其子孫は他國に住み、人々之を奴隷と爲し、四百年の間虐待せん、
7然れども我彼等の仕へし所の國民を審くべし、斯て後彼等其國を出でて、此處にて我を禮拜せん、と主曰へり」、と。
8アブラハム尙割禮の契約を賜はりしかば、イザアクを生みて八日目に之に割禮を施し、イザアクはヤコブを生み、ヤコブ十二人の太祖を生めり。
9太祖等妬みてヨゼフをエジプトに賣りたれど、神之と共に在して、
10凡ての患難より救出し、エジプト國王ファラオンより寵愛を得させ、且智惠を賜ひしに由り、ファラオンはエジプトと己が家とを擧げて之に宰らしめたり。
11然るに全エジプト及カナアンに飢饉と大いなる災難と起り、我等の先祖食物を求め得ざりしに、
12ヤコブエジプトに麥あるを聞きて、先我等の先祖等を遣はし、
13次の度にヨゼフ其兄弟に知られ、其族はファラオンに知られたり。
14ヨゼフ人を遣はして、父なるヤコブ及び其家族、總て七十五人を呼來らししにより、
15ヤコブエジプトに下り、其身も我等の先祖等も、彼處に死して、
16シケムに送られ、アブラハムが曾てシケムに於てヘモルの子等より銀錢を以て買受けし墓地に葬られたり。
17斯て神のアブラハムに誓ひ給ひし約束の時近づきしに、民の數增して大いにエジプトに繁殖したれば、
18ヨゼフを知らざる他の王起るに及びて、
19惡計を以て我等の種族に當り、我等の先祖を惱まして、其生子の存へざらん爲に之を棄てしめたり。
20モイゼ此時に當りて生れたりしが、神に美しくして父の家に育てらるる事三月、
21然て遂に棄てられしをファラオンの女取擧げて、己が子として養育したり。
22斯てモイゼはエジプト人の學術を悉く敎へられ、言行共に力ありしが、
23滿四十歲の時、己が兄弟たるイスラエルの子孫を顧みんとの心起り、
24或人の害せらるるを見て之を防ぎ、エジプト人を討ちて被害者の讐を返せり。
25モイゼは兄弟等が、神の我手によりて己等を救ひ給ふべきを必ず悟るならんと思ひしに、彼等之を悟らざりき。
26翌日彼等の相爭へる處に顯れて和睦を勸め、人々よ、汝等は兄弟なるに何ぞ相害するや、と云ひしかば、
27其近き者を害せる人、之を押退けて云ひけるは、誰か汝を立てて我等の司とし判官とせしぞ、
28汝は昨日エジプト人を殺しし如く我を殺さんとするか、と。
29此言によりモイゼ脱走してマヂアン地方に旅人と成り、彼處にて二人の子を擧げたり。
30四十年を經てシナイ山の荒野に於て、燃ゆる茨の焔の中に天使之に現れければ、
31モイゼ見て其見る所を怪しみ、見屆けんとして近づきけるに、主の聲ありて曰く、
32我は汝の先祖等の神、卽ちアブラハムの神、イザアクの神、ヤコブの神なり、と。モイゼ戰慄きて、敢て注視ず、
33主之に曰はく、足の履物を脱げ、汝の立てる所は聖地なればなり、
34我はエジプトに在る我民の難を顧み、其嘆を聽きて彼等を救はん爲に降れり、卒來れ、我汝をエジプトに遣はさん、と。
35斯て彼等が、誰か汝を立てて我等の司とし判官と爲ししぞ、と云ひて拒みし此モイゼをば、神は茨の中に現れし天使の手を以て、司とし救人として遣はし給ひしなり。
36モイゼ彼等を導き出して、エジプトの地に紅海に又荒野に、四十年の間奇蹟と徵とを行ひしが、
37是ぞイスラエルの子等に向ひて、神は汝等の中より我如き一人の預言者を起し給はん、汝等之に聽くべし、と云ひし其モイゼなる。
38是卽ち曾て荒野に會せし時、シナイ山にて共に語りし天使、及び我等の先祖と共に在りし人、我等に授くべき生命の言を授かりし人なり。
39我等の先祖は之に從ふことを拒み、却て彼を斥けて心をエジプトに轉じ、
40アアロンに謂へらく、汝は我等に先んずべき神々を我等の爲に造れ、蓋我等をエジプトの地より導き出しし彼モイゼに就きては、其如何になりしかを知らず、と。
41斯て彼等其時に當りて犢を造り、偶像に犧牲を獻げ、己が手の業によりて喜びたりしかば、
42神は彼等を眷み給はず、其天軍に事ふるに任せ給へり。卽ち預言者等の書に錄したるが如し、[曰く]「イスラエルの家よ、汝等荒野に於て、四十年の間犧牲と供物とを我に獻げしか、
43汝等はモロクの幕屋、及び汝等の神とせるレンファの星形、卽ち禮拜せんとて自ら造れる像を舁廻れり、然れば我汝等をバビロンの彼方に移すべし」と。
44抑證明の幕屋は我等の先祖と共に荒野に在りて、神がモイゼに語りて、自ら見たりし式に從ひて之を造れ、と命じ給ひし如くなりき。
45斯て異邦人、卽ち神が我等の先祖の面前に追拂い給ひし民の國を占有せし時に、我等の先祖は此幕屋を取りて、ヨズエと共に之を携へ入りて、ダヴィドの時代に至りしが、
46ダヴィドは神の御前に寵を得て、ヤコブの神の爲に住處を設けん事を願ひければ、
47サロモンは神の家を建てたり。
48然れど最高き者は、手にて造れる所に住み給ふ者に非ず、
49卽ち「主曰はく、天は我座なり、地は我足臺なり、汝等如何なる家をか我に造らん、我が息む所は何處なるか、
50是皆我手の造りたるものならずや」と預言者の云へるが如し。
51項强くして心にも耳にも割禮なき者よ、何時も聖靈に逆らふこと、汝等の先祖の爲しし如く、汝等も亦然す、
52汝等の先祖は、預言者の中の何れをか迫害せざりし、彼等は義者の來臨を預言せる人々を殺したるに、汝等は今此義者をば賣り且殺したる者となれり。
53又天使によりて律法を受けしも、汝等は之を守らざりき、と[述べたり]。
54此等の事を聞きて、人々の胸は裂くるが如く、ステファノに向ひて切齒すれども、
55彼は聖靈に滿ちたれば、天を仰ぎて、神の光榮と神の右に立ち給へるイエズスとを見て、
56云ひけるは、看よ、我天開けて、人の子が神の右に立ち給へるを見奉る、と。
57其時彼等耳を覆ひ、聲高く叫びつつ一同に擊ちかかり、
58ステファノを市街より追出して石を擲ちしが、立會人はサウロと云へる若者の足下に己が上衣を置けり。
59斯て彼等が石を擲つ程に、ステファノ祈入りて云ひけるは、主イエズス我魂を受け給へ、と。
60又跪きつつ聲高く呼はりて云ひけるは、主よ、此罪を彼等に負はせ給ふこと勿れ、と。斯く言終りて主に眠りけるが、サウロは彼の死刑に贊成したりき。
1其日エルザレムの敎會に對して大いなる迫害起り、使徒等の外は皆ユデア及びサマリアの各地方に離散せしが、
2敬虔なる人々ステファノを葬り、彼の爲に大いなる弔を爲せり。
3然てサウロは敎會を荒らし、家々に入りて男女を引出し、之を付して拘留せしめつつありしが、
4離散せる人々は行巡りて、神の御言の福音を宣傳へつつありき。
5然てフィリッポ、サマリアの都會に下りてキリストの事を述べければ、
6人々心を揃へてフィリッポの云ふ所を聽きすまし、其爲せる徵を見居たり。
7卽ち多くの汚鬼其憑きたる人々の中より聲高く叫びつつ出で、又癱瘋者と跛者との醫されたる者多かりければ、
8彼市中に大いなる喜となれり。
9爰にシモンと云へる人あり、豫て彼市中に魔術を行ひて、サマリアの人民を惑はし、自ら大人と稱し、
10小より大に至るまで人皆之に歸服して、所謂大神力とは此人なり、と云ひ居たりしが、
11人々の彼に歸服せるは、久く其魔術に心を奪はれたる故なりき。
12然れどフィリッポが神の國に就て宣ぶる福音を信じて、男女共にイエズス、キリストの御名によりて洗せられければ、
13シモン自らも信じて洗せられ、フィリッポの傍を離れず、徵と最も大いなる奇蹟との行はるるを見て驚嘆し居たり。
14然てエルザレムに居る使徒等、サマリア人が神の御言を承入れたるを聞き、ペトロとヨハネとを遣はしければ、
15兩人彼處に至りて彼等の聖靈を受けん爲に祈れり。
16其は彼等、主イエズスの御名によりて洗せられしのみにて、聖靈は未だ其一人にも降り給ひし事なければなり。
17斯て兩人信者の上に按手しければ、皆聖靈を蒙りつつありき。
18使徒等の按手によりて聖靈の授けらるるを見るや、シモン彼等に金を差出し、
19如何なる人に按手するも其人聖靈を蒙る樣、我にも此能力を與へよ、と云ひしかば、ペトロ之に向ひて云ひけるは、
20汝の金は汝と共に亡びよ、其は汝神の賜を金にて得らるるものと思ひたればなり。
21汝は此事に配分なく與る所なし、其心神の御前に正しからざればなり。
22然れば此不義より改心して神に祈れ、汝が心の此念或は赦さるる事あらん。
23我が見る所によれば、汝は苦き膽汁と不義の縲絏との中に在ればなり、と。
24シモン答へて云ひけるは、汝等こそ我爲に主に祈りて、其語れる所を一も我に來る事なからしめよ、と。
25斯てペトロとヨハネとは、主の御言を證し且語りて、後エルザレムに歸りしが、途次サマリア人の多くの村に福音を宣べたり。
26然て主の使フィリッポに語りて、汝起ちて南に向ひ、エルザレムよりガザに下る道に至れ、其は寂しき道なり、と云ひしかば、
27彼起ちて往きしに、折しも一人のエチオピア人、卽ちエチオピア女王カンダケの大臣なる閹者にして悉く其寳を宰れる者、禮拜の爲にエルザレムに來たりしが、
28己が車に坐して、預言者イザヤ[の書]を讀みながら歸りつつありき。
29其時[聖]靈フィリッポに向ひ、近づきて彼車に跟け、と曰ひしかば、
30フィリッポ走寄りて、彼が預言者イザヤ[の書]を讀めるを聞き、汝其讀む所を曉れりと思ふか、と云ひしに、彼、
31我を導く者なくば爭でか曉ることを得ん、と云ひて、乘りて共に坐せん事をフィリッポに乞へり。
32然て其讀みつつありし聖書の文は次の如し、「彼羊の如く屠所に引かれ、口を開かざる事、羔の其毛を剪る者の前に聲なきが如く、
33卑しめられて裁判を奪はれたり、誰か其時代の人の處分を述ぶる事を得ん、卽ち活ける者の地上より取除かれたればなり」。
34閹者フィリッポに向ひて、請ふ、預言者の斯く云へるは誰が事ぞ、己が事か將他人の事か、と云ひければ、
35フィリッポ口を開きて、聖書の此文を初としてイエズスの福音を宣べたり。
36尙道を往きけるに、水ある處に至りしかば閹者、看よ、水あり、我が洗せらるるに何の障かある、と云ひしを、
37フィリッポ、汝一心に信ぜば可かるべし、と云ひければ彼答へて、我イエズス、キリストの神の御子たる事を信ず、と云ひ、
38命じて車を停めしめ、二人ながら水に下りてフィリッポ閹者を洗せり。
39彼等水より上りしに、主の靈フィリッポを取去り給ひしかば、閹者は再び之を見ざりしかども、喜びつつ己が道を往き居たりき。
40然てフィリッポはアゾトに現れ、至る處の町村に福音を宣傳へつつカイザリアに至れり。
1サウロは主の弟子等に對して、尙脅喝、殺害の毒氣を吐きつつ司祭長に至り、
2ダマスコの諸會堂に寄する書簡を乞へり。是此道の男女を見出さば、縛りてエルザレムに引行かん爲なりき。
3斯て行く途中ダマスコ附近に至りけるに、忽ち天より光來りて彼を圍照ししかば、
4彼地に倒れつつ、サウロよサウロよ何ぞ我を迫害する、と云ふ聲あるを聞きて、
5主よ、汝は誰ぞ、と云ひけるに彼者、我は汝の迫害せるイエズスなり、刺ある鞭に逆らふは汝に取りて難し、と云へり。
6サウロ戰き且驚入りて、主よ、我に何を爲さしめんと思召したるぞ、と云ひしに主曰ひけるは、起きて市中に入れ、汝の爲すべき事は彼處にて告げらるべし、と。
7此時、伴へる人々は、聲をば聞きながら誰をも見ざれば、惘果てて佇みたりしが、
8サウロ地より起きて目を開けども、何も見えざりしかば、人其手を引きてダマスコに導きしに、
9三日の間此處に在りて目見えず飲食せざりき。
10然るにダマスコにアナニアと云へる弟子ありしが、主幻影に、アナニアよ、と曰ひしかば彼、主よ、我此處に在り、と云ひしを、
11主又之に曰ひけるは、起ちて、直と云へる町に往き、ユダの家にサウロと名くるタルソ人を尋ねよ、看よ彼祈り居るなり、と。
12此時サウロは、アナニアと名くる人の入來りて、視力を回復せん爲に己に按手するを見たりしなり。
13然れどアナニア答へけるは、主よ、此人がエルザレムに於て主の聖徒等に爲しし害の如何許なるかは、我多くの人に聞きしが、
14此處にても彼は司祭長より受けて、主の御名を呼賴む人を悉く捕縛するの權を有せり、と。
15主アナニアに曰ひけるは、往け、蓋彼は異邦人、國王、及びイスラエルの子等の前に我名を持行く爲に、我が選みし器なり、
16故に我名の爲には、如何許苦しむべきかを我之に示さんとす、と。
17是に於てアナニア往きて家に入り、サウロに按手して、兄弟サウロよ、汝の來れる路にて汝に現れ給ひし主イエズス、汝が視力を回復し、且聖靈に滿たされん爲に我を遣はし給へり、と云ひしかば、
18忽ちサウロの目より鱗の如きもの落ちて、視力を回復し、起ちて洗せられしが、
19軈て食事して力づけり。然て數日の間、ダマスコの弟子等と共に居りて、
20直に諸會堂に於てイエズスの事、卽ち其神の御子たる事を宣傳へければ、
21聞く人皆惘果てて、是は曾て彼名を呼賴める人々をエルザレムに於て迫害し居たりし者にて、又彼が此に來りしは、彼等を捕縛して、司祭長に引渡さん爲ならずや、と云ひ居たれど、
22サウロは愈力增りて、此イエズスはキリストなりと斷言し、ダマスコに住めるユデア人を閉口せしめつつありき。
23日頃經てユデア人一同、サウロを殺さんと協議せしが、
24其計略サウロに知られたり。斯て彼等、サウロを殺さんとて、晝夜[市街の]門を守りけるに、
25弟子等夜中に之を引取りて籠に入れ、城壁より吊下して逃れしめたり。
26サウロ、エルザレムに至り、努めて弟子等の中に連ならんとすれども、皆彼が弟子たる事を信ぜずして之を恐れければ、
27バルナバ携へて使徒等に連行き、彼が途中にて主を見奉り、主之に言ひ給ひし次第、又ダマスコに於てイエズスの御名の爲に、憚る所なく盡力せし次第を語れり。
28是よりサウロ、エルザレムに在りて彼等と共に出入し、憚る所なく主の御名の爲に盡力したりけるが、
29又ギリシア語のユデア人と語り且弁論しければ、彼等之を殺さんと謀りしを、
30兄弟等覺りてカイザリアに送り、タルソに往かしめたり。
31斯てユデア、ガリレア、サマリアにては敎會一般に平和を得て次第に成立ち、神に對する畏敬に進み、聖靈の慰によりて增加しつつありしが、
32ペトロ諸方を巡廻して、ルッダに住める聖徒等の許に至りしに、
33此處にてエネアと云へる人の八年以來*瘋を病みて床に臥せるに遇ひ、
34之に向ひて、エネアよ、主イエズス、キリスト汝を醫し給ふ、起きて自ら床を整へよ、と云ひければ彼直に起きたり。
35斯てルッダ及びサロンに住める人、皆之を見て主に歸依せり。
36然てヨッペに一人の婦の弟子あり、名はタビタ、譯してドルカ[卽ち鹿]と云はれ、從來善行と慈善とに富みたりしが、
37此時に當りて病死せしかば、屍を洗ひて高間に置きたり。
38斯てルッダはヨッペに近きに因り、弟子等ペトロの此處に居るを聞き、二人の人を遣はして、猶豫なく我等の許に來れ、と請はしめしかば、
39ペトロ起ちて彼等と共に來りしが、其着するや人々之を高間に導き、寡婦等皆之を圍みて打泣きつつ、ドルカが己等の爲に造り居たりし襦袢と上衣とを示せり。
40ペトロ人を悉く外に出し、跪きて祈り、然て屍に向ひて、タビタ起きよ、と云ひしかば、婦目を開き、ペトロを見て坐れり。
41ペトロ手を假して之を立たしめ、聖徒等及び寡婦等を呼びて、生回りたるを還し與へたり。
42此事ヨッペに知れ渡りければ、主を信仰する人々多く、
43ペトロはシモンと云へる革工の家に在りて、久しくヨッペに留るに至れり。
1カイザリアにコルネリオと呼ばるる人あり、イタリア隊と稱する軍隊の百夫長にして、
2信心深く、家族一同と共に神を畏敬し、人民に多くの施與を行ひ、常に神に祈りつつありしが、
3一日午後三時頃、幻影の中に、神の使己が許に來りて、コルネリオよ、と呼べるを明かに見しかば、
4目を之に注ぎ恐入りて、主よ、是は何事ぞや、と云ひしに天使答へけるは、汝の祈祷と施與とは、記念として神の御前に上れり、
5今人をヨッペに遣はして、ペトロとも呼ばるるシモンと云ふ人を招け、
6海岸に住めるシモンと云へる革工の家に宿れるなり、彼汝に其爲すべき事を云はん、と。
7己に語れる天使の去りて後、コルネリオは己が二人の僕と部下の信心深き一人の兵卒とを呼び、
8悉く事情を語りてヨッペに遣はせり。
9翌日彼等尙途中に在りけるが、町に近づける時、晝の十二時頃ペトロ祈らんとて平屋根に上れり。
10然るに飢ゑて物欲しかりければ、人の支度するうち、氣を奪はるる如くになり、
11天開けて大いなる布の如き器降り、四隅を吊されて、天より地に下さるるを見たり。
12其中には地上の有ゆる四足のもの、匍ふもの、及び空の鳥あり。
13又聲ありて、ペトロ起きよ、屠りて食せよ、と云ひしかば、
14ペトロ、主よ、然らじ、我曾て穢れたるもの或は潔からぬものを食せしこと無し、と云ひけるに、
15又再び聲ありて、神の潔め給ひしものを、汝潔からずと云ふこと勿れ、と云へり。
16斯の如き事三度にして、器物は忽ち天に取上げられたり。
17ペトロ心の中に、其見し幻影を如何なる意ぞと當惑せる折しも、コルネリオより遣はされたる人々、シモンの家を尋ねて門前に立止り、
18音づれて、ペトロとも呼ばるるシモンは此處に宿れりや、と問ひ居たり。
19ペトロは幻影に就きて打案じ居けるを、聖靈之に曰はく、看よ、三人の男汝を尋ぬ、
20起ちて下り、躊躇する事なく彼等と共に往け、彼等は我が遣はしたる者なれば、と。
21ペトロ人々の處に下りて云ひけるは、看よ汝等の尋ぬるは我なり、如何なる故ありて來れるぞ、と。
22彼等云ひけるは、百夫長コルネリオは、神を畏敬してユデア人一般に好評ある義人なるが、聖なる天使より、汝を其家に招きて汝の言を聽けとの告を受けたり、と。
23是に於てペトロ、彼等を請じて宿らしめ、翌日諸共に出立しけるが、ヨッペより數人の兄弟之に伴へり。
24次日カイザリアに入りしに、コルネリオは既に親族及び親しき朋友を呼集めて、彼等を待受けたり。
25ペトロの入來るや、コルネリオ出迎へて其足下に伏し禮拜せしかば、
26ペトロ之を起して云ひけるは、立て、我も人なり、と。
27斯て相語りつつ内に入り、多くの人の集れるを見て、
28此人々に謂ひけるは、ユデア人にして異邦人に連り或は近づく事の掟に適はざるは、汝等の知る所なり。然れど何人をも、穢れたるもの潔からぬものと言ふべからざる事を、神我に示し給へり。
29故に我招かれて躊躇する事なく來りしが、汝等に問はん、我を招きし所以は何ぞ、と。
30コルネリオ云ひけるは、四日以前の午後三時、我家に在りて祈れるに、折しも輝ける衣服を着けたる一人の男子、我前に立ちて云ひけるは、
31コルネリオよ、汝の祈りは聽容れられ、汝の施與は神の御前に記念せられたり。
32故に人をヨッペに遣はし、ペトロとも呼ばるるシモンを迎えよ、彼は海岸なる革工シモンの家に宿れり、と。
33是に由りて直に人を汝に遣はししが、宜くこそ來たまひつれ。然れば今我等皆神の御前に在りて、主より汝に命ぜられたる事を悉く承らんとす、と。
34其時ペトロ口を開きて云ひけるは、神は偏り給はず、
35何れの國民にもあれ、之を畏敬して義を行ふ人は御意に適へる事、我眞に之を認む。
36神は御言をイスラエルの子等に送り、イエズス、キリストを以て平安を告げ給ひしが、之ぞ萬民の主に在すなる。
37汝等ユデア一般に成りし事を知れるならん、是卽ちヨハネの宣傳へし洗禮の後、ガリレアより始りし事にして、
38神はナザレトより出でたるイエズスに、聖靈と能力とを以て注油し給ひしなり。彼は慈善を行ひ、且凡て惡魔に壓へられたる人を醫しつつ世を過し給へり、是神彼と共に在したればなり。
39我等は、其ユデア人の地及びエルザレムに於て爲し給し一切の事の證人なるがユデア人は之を木に磔けて殺したれども、
40神は三日目に之を復活せしめ且現れしめ給へり。
41但其は人民一般にはあらで、神より預定せられし證人、卽ち死者の中より復活し給ひたる後、彼と共に飲食したる我等に現れしめ給ひしなり。
42且我が神より立てられて、生者と死者との審判者たる事を人民に敎へ且證明すべしと、イエズス自ら我等に命じ給ひしなり。
43總て之を信ずる人の、其御名によりて罪の赦を受くる事は、預言者の皆證明したる所なり、と。
44ペトロ尙是等の言を語りつつあるに、聖靈言を聽ける人々一同の上に降り給ひ、
45ペトロに伴ひ來れる割禮ある信徒は、聖靈の恩寵が異邦人にも注がれたるに惘果てたり。
46其は彼等の異なる語を語りて神を崇め奉るを聞けばなり。
47是に於てペトロ答へけるは、此人々は既に我等の如く聖靈を蒙りたれば、誰か水を禁じて其洗せらるるを拒み得んや、と。
48斯て彼等がイエズス、キリストの御名によりて洗せられん事を命ぜしかば、彼等はペトロが數日此家に留らん事を請へり。
1異邦人も神の御言を請容れし事、使徒等及びユデアに在る兄弟等に聞えしかば、
2ペトロがエルザレムに上るや、割禮ある人々之を詰りて、
3言ひけるは、汝何ぞ無割禮の人の中に入りて共に食せしや、と。
4ペトロ事の次第を說出して云ひけるは、
5我ヨッペの町に在りて祈り居りしに、氣を奪はるる如くにして幻影に遇ひしが、大いなる布の如き器物の四隅を吊されつつ天より降りて我許に來るを見、
6熟其中を眺むるに、地上の四足のもの、野獸、爬蟲、及び空の鳥あるを見たり。
7又、ペトロ起きよ、屠りて食せよ、と我に謂へる聲をも聞きたれば、
8我、主よ、然らじ、穢れたるもの潔からぬものは曾て我口に入りし事なし、と言ひしに、
9再び天より聲ありて、神の潔め給ひしものを汝潔からずと言ふこと勿れ、と答へ、
10三度まで斯の如くなりしが、終に其物皆また天に引上げられたり。
11折しもカイザリアより、我許に遣はされたる者三人、我が居る家に立止りしかば、
12躊躇する事なく彼等と共に往け、と[聖]靈我に曰へり。斯て此六人の兄弟も我に伴ひ來り、一行彼人の家に入りたるに、
13彼、天使の己が家に立ちて、己に次の如く言ふを見し次第を語れり。卽ち、人をヨッペに遣はして、ペトロと呼ばるるシモンを招け、
14彼は汝及び汝が一家の救かるべき御言を汝に語らん、と。
15然るに我が語出るや、最初我等の上に降り給ひし如く、聖靈彼等の上に降り給ひたれば、
16我主が曾て、ヨハネは水にて洗したるに汝等は聖靈にて洗せられん、と曰ひし御言を思出せり。
17卽ち神既にイエズス、キリストを信仰せる我等と同樣なる恩寵を彼等にも賜ひしを、我抑誰なれば、神に禁ずる事を得べかりしぞ、と。
18人々是等の事を聞きて默然たりしが、又神に光榮を歸し奉りて云ひけるは、然れば神は、生命を得させん爲に、異邦人にも改心を賜ひしなり、と。
19抑ステファノの時起りし迫害の爲に離散したりし人々は、フェニケア[州]、クプロ[島]、及びアンチオキア[市]まで廻行きしも、ユデア人の外誰にも御言を語らざりしが、
20彼等の中にクプロ及びクレネの人々ありて、アンチオキアに入りしかば、ギリシア人にも語りて、主イエズスの事を告げ、
21主の御手彼等と共に在りければ、數多の人信じて主に歸依せり。
22是等の沙汰エルザレムなる敎會の耳に入りしかば、バルナバを遣はしてアンチオキアまで至らしめしに、
23彼至りて神の恩寵を見て喜び、決心して主に止らん事を一同に勸め居たり。
24蓋彼は善人にして聖靈と信仰とに充てる人なりければ、夥しき群集主に屬けり。
25然てバルナバ、サウロを尋ねんとてタルソに至り、之に遇ひてアンチオキアに伴ひ行き、
26兩人彼處の敎會に滿一年を過して、夥しき群集を敎へたり。斯て弟子等はアンチオキアに於て、始て基督信徒と呼ばるるに至れり。
27其時或預言者等、エルザレムよりアンチオキアに至りしが、
28彼等の中より一人のアガポと云へる者起ちて、大飢饉の全世界に起るべき事を、聖靈によりて告げ居たりけるに、果してクロウヂオ[皇帝]の時代に起りしかば、
29弟子等各力に應じてユデアに住める兄弟に補助を贈らん事を定め、
30遂に之を遂げて、バルナバとサウロとの手に托して長老等に贈れり。
1當時ヘロデ王は、敎會の或人々を惱まさんとして手を下し、
2刃を以てヨハネの兄弟ヤコボを殺ししが、
3其がユデア人の心に適へるを見て、亦ペトロをも捕へたり。時は無酵麪の祭日なりしかば、
4之を捕へて監獄に入れ、過越祭の後人民の前に出さん心構にて、四人組の兵卒四組に之を守らせたり。
5斯てペトロは監獄に守られつつあるに、敎會は頻に彼が爲に神に祈りを爲し居たり。
6然てヘロデが彼を出さんとする其前の夜、ペトロ二個の鎖に繫がれて二人の兵卒の間に眠り、看守等門前に在りて監獄を守り居たるに、
7折しも主の使傍に現れ、光明室内に輝きたり。天使ペトロの脇を叩きて之を覺まし、急ぎ起きよ、と云ひければ、鎖其手より落ちたり。
8天使又、汝帶を締めて履物を穿け、と云ひしに、ペトロ然爲ししかば、又、上衣を身に纏ひて我に隨へ、と云へり。
9ペトロ出でて之に隨ひ居たりしが、天使より爲らるる事の眞なるを知らず、幻影を見る心地し居たり。
10然て第一第二の番所を過ぎて、市に通ずる鐵の門に至りしかば、其門自ら彼等の爲に開け、共に出でて一筋の街を往きしに、天使俄に彼を去れり。
11其時ペトロ我に還りて、主が其使を遣りて我をヘロデの手、及びユデア人民の待設けし凡ての事より救出し給ひたるを今ぞ眞に覺りたる、と言ひて、
12思案しつつ、マルコと呼ばるるヨハネの母マリアの家に至れり。多くの人此處に集りて祈り居けるを、
13ペトロ門の扉を叩きければ、ロデと云へる下女聞きに出で、
14ペトロの聲を聞知るや、喜の餘り門を開かずして奧に駈入り、ペトロ門前に立てり、と告げしかば、
15人々ロデに向ひ、汝は心狂へり、と云ひたれど、下女は、其なりと斷言するに、人々、其はペトロの天使ならん、と云ひ居たり。
16然れどペトロ叩きて止まざれば、人々門を開き、彼を見て驚きしが、
17彼手眞似にて人々を靜め、主の己を監獄より取出し給ひし次第を語り、是等の事をヤコボ及び兄弟等に告げよ、と云ひて、出でて他の處に往けり。
18拂曉に及びて、ペトロは如何にせしぞ、とて兵卒中の騷一方ならず、
19ヘロデはペトロを索めて之を見出さざりしかば、看守を審問して死罪に處し、斯てユデアよりカイザリアに下りて、其處に留れり。
20然てチロ及シドンの人々、ヘロデの怒に觸れしにより、心を合せて彼が許に至り、王室の侍從プラストの紹介を得て和睦を求めたり、其は彼等の地方は王の國によりて糊口すればなり。
21期日に當りてヘロデ王服を着し、高座に就きて彼等に談話を爲しけるを、
22人民、是神の聲なり、人の聲に非ず、と稱讃せるに、
23ヘロデ神に光榮を歸せざりければ、忽ち主の使に打たれ、蟲に喰まれて死せり。
24斯て、主の御言榮え廣がりつつありしが、
25バルナバとサウロとは聖役を終へ、マルコとも呼ばるるヨハネを携へてエルザレムより歸れり。
1アンチオキアの敎會に、數人の預言者及び敎師ありて、其中にバルナバと、黑人と名くるシモンと、クレネのルシオと、分國の王ヘロデの乳兄弟なるマナヘンと、サウロと在りしが、
2彼等主に祭を爲し且斷食しけるに、聖靈曰ひけるは、汝等バルナバとサウロとを我爲に分ちて、我が彼等に任じたる業に從事せしめよ、と。
3是に於て彼等斷食及び祈祷を爲し、兩人に按手して、之を往かしめたり。
4然れば兩人聖靈により遣はされてセリュキアに往き、彼處よりクプロ[島]に航海して、
5サラミネに至りしかば、ユデア人の諸會堂にて神の御言を宣傳へ、ヨハネは助手として彼等と共に居りき。
6彼等普く嶋を巡りてパフォスに至りしに、魔術者にして僞預言者なる一人のユデア人に遇へり。名をバリエズと云ひてセルジオ、パウロと云へる地方總督と共に居りしが、
7此總督智慮ある人にて、バルナバとサウロとを招きて神の御言を聽かんと欲すれども、
8彼魔術者エリマ、其名は斯く譯せらる、兩人に抵抗して、總督を信仰より遠ざからしめんと努め居たり。
9其時パウロとも云へるサウロ、聖靈に充たされて之に目を注ぎ、
10嗚呼所有狡猾と僞計とに充てる者よ、惡魔の子よ、一切の義の敵よ、汝主の直なる道を曲げて止まず、
11今看よ、主の御手汝の上に懸り、汝瞽者となりて時至るまで日を見ざるべし、と云ひけるに、忽ち朦朧と暗黑と其目を掩ひ、彼探廻りつつ手引する者を求め居たりしかば、
12總督は其成りし事を見て、主の敎を感嘆し信仰せり。
13パウロ及び其伴へる人々、パフォより出帆してパンフィリア[州]の[都]ペルゲンに至りしが、ヨハネは彼等を去りてエルザレムに歸れり。
14然て彼等はペルゲンを經てピジヂア[州]の[都]アンチオキアに至り、安息日に會堂に入りて坐せしかば、
15律法及び預言者[の書]を捧讀したる後、會堂の司等、人を彼等に遣はして謂はせけるは、兄弟たる人々よ、汝等人民の爲に勸となるべき話あらば語れ、と。
16其時パウロ立ちて、(沈默せしめん爲に)手眞似して、然て云ひけるは、イスラエルの男子及び神を畏敬せる人々よ、聞け、
17イスラエル人民の神は我等の先祖を選み、其エジプト地方に寄留せし時、人民を引立て、且御腕を擧げて彼處より導き出し、
18四十年の間荒野に於て彼等の擧動を忍び、
19且カナアンの地に於て七の民族を亡ぼし、其土地を彼等に嗣がしめ給ひしが、
20是四百四十年を經たる後の事なり。其後預言者サムエルに至るまで判事を賜ひ、
21彼等終に王を求めしかば、神は四十年の間ベンヤミン族の人、シスの子たるサウルを賜ひ、
22之を退けて後ダヴィドを擧げて王と爲し給ひしが、之を證明して曰へらく、「我わが心に適へる人、エッセの子なるダヴィドを得たり、彼悉く我意を爲すべし」と。
23神は御約束の隨に、彼が子孫の中より救主イエズスをイスラエルに出し給ひしが、
24其來るに先ちてヨハネは改心の洗禮をイスラエルの人民に普く宣傳へたり。
25然れどヨハネ己が使命を終ふるに當りて、我は汝等の其と思へる人に非ず、然りながら看よ、我後に來る人あり、我は其履を解くにも足らず、と云ひ居たりき。
26兄弟たる人々よ、アブラハムの裔の子等よ、又汝等の中神を畏敬する者よ、汝等にこそ、此救靈の言は送られたるなれ。
27其はエルザレムに住める人及び其長等は、キリストを認らず、安息日每に捧讀する預言者等の言をも知らず、彼を罪して預言を全うせり。
28且死罪の理由の一も見出さずして、ピラトに之を殺さん事を求め、
29斯て之に關して錄されたりし事を悉く全うしたる後、木より下して之を墓に納めたり。
30然れど神は三日目に之を死者の中より復活せしめ給ひしかば、
31多くの日の間、彼と共にガリレアよりエルザレムに上りし人々に現れ給ひ、彼等今に至るまで人民に對して其證人たり。
32我等も曾て我先祖に爲されし彼約束の福音を汝等に告ぐ、
33其は神イエズスを復活せしめて、我等の子等の爲に此約束を全うし給ひたればなり、詩の第二篇に錄して、「汝は我子なり、我今日汝を生めり」、とあるが如し。
34又之を死者の中より復活せしめ給ひて、再び腐敗に歸すべからざる事を指示して曰へらく、「我ダヴィドに爲しし聖なる約束を確に全うせん」と。
35然れば又他の處に、「汝の聖なる者に腐敗を見せ給ふ事なかるべし」と云へる事あり、
36卽ちダヴィドは、生涯神の思召に應じて事へ、眠りて後は先祖と共に置かれて腐敗を見たれども、
37神が死者の中より復活せしめ給ひし者は腐敗を見ざりしなり。
38然れば汝等之を覺れ、兄弟たる人々よ、イエズスに由りてこそ、汝等罪の赦を告げられ、
39又モイゼの律法の下に義とせらるるを得ざりし一切の罪に就きても、之を信ずる人は皆義とせらるるなれ。
40此故に汝等愼めや、預言者等の[書に]云はれし事、恐くは汝等に到來せん。
41卽ち「看よ、蔑れる人々、感嘆し、而して亡びよ、蓋汝等の日に至りて我一の業を爲さん、是人汝等に語るとも汝等が信ぜざるべき程の業なり」とあり、と。
42パウロバルナバの兩人會堂を出づる時、次の安息日にも此言を語らん事を乞はれしが、
43散會の後多くのユデア人、及びユデア敎に歸依せし人々、兩人に從ひ來りしかば、兩人彼等に語りて、神の恩寵に止らん事を勸め居たり。
44次の安息日には、神の御言を聽聞せんとて、殆ど町を擧りて集りしが、
45ユデア人群集の夥しきを見て妬ましさに滿たされ、罵りてパウロの言ふ所を拒みければ、
46パウロバルナバ毅然として云ひけるは、神の御言は先汝等に語るべかりき。然るに汝等之を退けて、自ら永遠の生命を得るに足らずとせるを以て、看よ我等轉じて異邦人に向はんとするなり。
47蓋主我等に命じて、「我汝を立てて異邦人の燈とし、地の極まで救とならしめん」と曰へり、と。
48異邦人之を聞きて喜び、又主の御言を崇め居りしが、永遠の生命に預定せられし人々悉く之を信仰せり。
49斯て主の御言全地方に弘まりければ、
50ユデア人は敬虔なる貴夫人等、及び町の重立ちたる人々を煽動して、パウロとバルナバとに對して迫害を起させ、己が地方より彼等を追出せり。
51兩人は人々に向ひて足の塵を拂い、イコニオムに至りしが、
52弟子等は欣喜と聖靈とに滿たされてありき。