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今小町 作者:不詳
松の位に柳の姿。桜の花に梅が香(か)を、籠(こ)めてこぼるる愛嬌(あいけふ)は、月の雫(しづく)か萩の露の情(なさけ)に憧(あこが)れて、われも迷うや蝶々(てふ〳〵)の、恋しなん身のいく百夜(ももよ)、通う心は深草(ふかくさ)の、少将よりも浅からぬ、浅香(あさか)の沼の其処までも、引く手あまたの花あやめ。たとへ昔の唐人(からびと)の、山を抜(ぬ)くてふ力(ちから)もて、引くとも引(ひか)ぬ振袖(ふりそで)は、粋(すい)な世界の今小町。高き位の花なれば、思ふにかひも嵐山(あらしやま)。されど岩木(いはき)にあらぬ身の、意気な男の手管(てくだ)には、否(いな)にもあらぬ稲舟(いなふね)の沈みもやせん恋の渕。逢はぬ辛(つら)さに足曳(あしびき)の、山鳥の尾の長き日を、怨(うら)み喞(かこ)ちて人知れず、今宵(こよひ)逢う瀬の新枕(にひまくら)。積もる思ひの片糸(かたいと)も、解けてうれしき春の夢。
この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。