- 子程子曰:「不偏之謂中,不易之謂庸。中者,天下之正道,庸者,天下之定理。」此篇乃孔門傳授心法,子思恐其久而差也,故筆之於書,以授孟子。其書始言一理,中散爲萬事,末復合爲一理,「放之則彌六合,卷之則退藏於密」,其味無窮,皆實學也。善讀者玩索而有得焉,則終身用之,有不能盡者矣。
- 〈子程子曰く、偏ならざるを之れ中と謂ふ、易らざるを之れ庸と謂ふ。中は天下の正道、庸は天下の定理なり。此篇は乃ち孔門傳授の心法なり。子思其の久しうして差はんことを恐れ、故に之を書に筆して以て孟子に授けしなり。其書始めは一理を言ひ、中は散じて萬事となり、末復た合して一理となる。之を放てば六合に彌り、之を卷けば密に退藏す。其味窮まりなし。皆實學なり、善く讀む者玩索して得るあらば、則ち終身之を用ひて盡くす能はざる者あらん。〉
天命之謂性,率性之謂道,修道之謂敎。
〈天の命を之れ性と謂ひ、性に率ふを之れ道と謂ひ、道を脩むるを之れ敎と謂ふ。〉
道也者,不可須臾離也,可離非道也。是故君子戒愼乎其所不睹,恐懼乎其所不聞。
〈道は須臾も離るべからざるなり。離るべきは道に非ざるなり。是の故に君子は、其の睹ざる所に戒愼し、其の聞かざる所に恐懼す。〉
莫見乎隱,莫顯乎微,故君子愼其獨也。
〈隱より見なるは莫く、微より顯なるは莫し。故に君子は其獨を愼むなり。〉
喜怒哀樂之未發,謂之中;發而皆中節,謂之和。中也者,天下之大本也;和也者,天下之達道也。
〈喜怒哀樂の未だ發せざる之を中と謂ふ。發して皆節に中る之を和と謂ふ。中は天下の大本なり。和は天下の達道なり。〉
致中和,天地位焉,萬物育焉。
〈中和を致して、天地位し、萬物育す。〉
- 右第一章。子思述所傳之意以立言:首明道之本原出於天而不可易,其實體備於己而不可離,次言存養省察之要,終言聖神功化之極。蓋欲學者於此反求諸身而自得之,以去夫外誘之私,而充其本然之善,楊氏所謂一篇之體要是也。其下十章,蓋子思引夫子之言,以終此章之義。
- 〈右第一章。子思、傳ふる所の意を述べて以て言を立つ。首には、道の本原は天より出でて易ふべからず、其實體は己に備はりて離るべからざるを明かにし、次には存養省察の要を言ひ、終には聖神功化の極を言ふ。蓋し學者此に於て諸を身に反求して之を自得し、以て夫の外誘の私を去りて、其本然の善を充たさんことを欲す。楊氏の所謂一篇の體要とは是なり。其下の十章は、蓋し子思、夫子の言を引いて、以て此の章の義を終ふ。〉
仲尼曰:「君子中庸,小人反中庸。
〈仲尼曰く、君子は中庸をす、小人は中庸に反す。〉
君子之中庸也,君子而時中;小人之反中庸也,小人而無忌憚也。」
〈君子の中庸や、君子にして時に中す、小人の中庸に反するや、小人にして忌憚なきなり。〉
- 右第二章。
- 〈右第二章。〉
子曰:「中庸其至矣乎!民鮮能久矣!」
〈子曰く、中庸は其れ至れるかな、民能くする鮮きこと久し。〉
- 右第三章。
- 〈右第三章。〉
子曰:「道之不行也,我知之矣,知者過之,愚者不及也;道之不明也,我知之矣,賢者過之,不肖者不及也。
〈子曰く、道の行はれざるや我之を知れり、知者は之れを過ぎ、愚者は及ばざるなり。道の明かならざるや我之を知れり、賢者は之を過ぎ、不肖者は及ばざるなり。〉
人莫不飮食也,鮮能知味也。」
〈人、飮食せざるは莫し、能く味を知ること鮮きなり。〉
- 右第四章。
- 〈右第四章。〉
子曰:「道其不行矣夫!」
〈子曰く、道は其れ行はれざるか。〉
- 右第五章。
- 〈右第五章。〉
子曰:「舜其大知也與!舜好問而好察邇言,隱惡而揚善,執其兩端,用其中於民,其斯以爲舜乎!」
〈子曰く、舜は其れ大知なるか。舜は問ふことを好みて、好んで邇言を察し、惡を隱して善を揚げ、其兩端を執つて其中を民に用ふ。其れ斯に以て舜と爲すか。〉
- 右第六章。
- 〈右第六章。〉
子曰:「人皆曰予知,驅而納諸罟擭陷阱之中,而莫之知辟也。人皆曰予知,擇乎中庸而不能期月守也。」
〈子曰く、人皆予知ありと曰ふ、驅りて諸を罟擭陷阱の中に納れて之を辟くることを知ること莫きなり。人皆予知ありと曰ふ、中庸を擇んで期月も守ること能はざるなり。〉
- 右第七章。
- 〈右第七章。〉
子曰:「回之爲人也,擇乎中庸,得一善,則拳拳服膺而弗失之矣。」
〈子曰く、回の人となりや中庸を擇ぶ。一善を得れば、則ち拳拳服膺して之を失はず。〉
- 右第八章。
- 〈右第八章。〉
子曰:「天下國家可均也,爵祿可辭也,白刃可蹈也,中庸不可能也。」
〈子曰く、天下國家は均しうすべきなり、爵祿は辭すべきなり、白刃は蹈むべきなり、中庸は能くすべからざるなり。〉
- 右第九章。
- 〈右第九章。〉
子路問强。子曰:「南方之强與?北方之强與?抑而强與?
〈子路强を問ふ。子曰く、南方の强か、北方の强か、抑〻而の强か。〉
寬柔以敎,不報無道,南方之强也,君子居之。
〈寬柔以て敎へ、無道に報いざるは、南方の强なり。君子之に居る。〉
衽金革,死而不厭,北方之强也,而强者居之。
〈金革を衽とし、死して厭はざるは、北方の强なり、而して强者之に居る。〉
故君子和而不流,强哉矯!中立而不倚,强哉矯!國有道,不變塞焉,强哉矯!國無道,至死不變,强哉矯!」
〈故に君子は和して流れず、强なるかな矯たり。中立して倚らず、强なるかな矯たり。國道有れば塞を變ぜず、强なるかな矯たり。國道無ければ死に至るまで變ぜず、强なるかな矯たり。〉
- 右第十章。
- 〈右第十章。〉
子曰:「素隱行怪,後世有述焉,吾弗爲之矣。
〈子曰く、隱を素め、怪を行ふは、後世述ぶること有らん。吾は之を爲さず。〉
君子遵道而行,半塗而廢,吾弗能已矣。
〈君子道に遵つて行ひ、半塗にして廢す。吾は已むこと能はず。〉
君子依乎中庸,遯世不見知而不悔,唯聖者能之。」
〈君子は中庸に依り、世を遯れて知られずして悔いず。唯だ聖者のみ之を能くす。〉
- 右第十一章。
- 〈右第十一章。〉
君子之道費而隱。
〈君子の道は費にして隱なり。〉
夫婦之愚,可以與知焉,及其至也,雖聖人亦有所不知焉;夫婦之不肖,可以能行焉,及其至也,雖聖人亦有所不能焉。天地之大也,人猶有所憾。故君子語大,天下莫能載焉;語小,天下莫能破焉。
〈夫婦の愚も以て與り知るべし、其の至れるに及んでや、聖人と雖も亦知らざる所あり。夫婦の不肖も以て能く行ふべし、其の至れるに及んでや、聖人と雖も亦能くせざる所あり。天地の大なるや、人猶ほ憾むる所あり。故に君子、大を語れば、天下能く載すること莫し。小を語れば、天下能く破ること莫し。〉
詩云:「鳶飛戾天,魚躍於淵。」言其上下察也。
〈詩に云く、鳶飛んで天に戾り、魚淵に躍ると。其の上下察かなるを言ふなり。〉
君子之道,造端乎夫婦;及其至也,察乎天地。
〈君子の道は端を夫婦に造す。其の至れるに及んでや、天地に察かなり。〉
- 右第十二章。子思之言,蓋以申明首章道不可離之意也。其下八章,雜引孔子之言以明之。
- 〈右第十二章。子思の言。蓋し以て首章の道は離る可からずとの意を申ね明かにするなり。其下の八章は、孔子の言を雜へ引きて以て之を明かにす。〉
子曰:「道不遠人。人之爲道而遠人,不可以爲道。
〈子曰く、道は人に遠からず。人の道を爲して人に遠きは、以て道と爲すべからず。〉
詩云:『伐柯伐柯,其則不遠。』執柯以伐柯,睨而視之,猶以爲遠。故君子以人治人,改而止。
〈詩に云く、柯を伐り柯を伐る、其則遠からずと。柯を執りて以て柯を伐る、睨して之を視る、猶ほ以て遠しと爲す。故に君子は人を以て人を治め、改めて而して止む。〉
忠恕違道不遠,施諸己而不願,亦勿施於人。
〈忠恕は道を違ること遠からず。諸を己に施して願はざるは、亦人に施すこと勿れ。〉
君子之道四,丘未能一焉:所求乎子,以事父未能也;所求乎臣,以事君未能也;所求乎弟,以事兄未能也;所求乎朋友,先施之未能也。庸德之行,庸言之謹,有所不足,不敢不勉,有餘不敢盡;言顧行,行顧言,君子胡不慥慥爾!」
〈君子の道四あり、丘未だ一をだに能くせず。子に求むる所、以て父に事ふる、未だ能はざるなり。臣に求むる所、以て君に事ふる、未だ能はざるなり。弟に求むる所、以て兄に事ふる、未だ能はざるなり。朋友に求むる所、先づ之を施す、未だ能はざるなり。庸の德之れ行ひ、庸の言之れ謹み、足らざる所有れば、敢て勉めずんばあらず、餘有れば、敢て盡くさず、言、行を顧み、行、言を顧みる。君子胡ぞ慥慥璽たらざらんや。〉
- 右第十三章。
- 〈右第十三章。〉
君子素其位而行,不願乎其外。
〈君子は其位に素して行ひ、其外を願はず。〉
素富貴,行乎富貴;素貧賤,行乎貧賤;素夷狄,行乎夷狄;素患難,行乎患難;君子無入而不自得焉。
〈富貴に素しては富貴に行ひ、貧賤に素しては貧賤に行ひ、夷狄に素しては夷狄に行ひ、患難に素しては患難に行ふ。君子は入るとして自得せざるは無し。〉
在上位不陵下,在下位不援上,正己而不求於人則無怨。上不怨天,下不尤人。
〈上位に在りて下を陵がず、下位に在りて上を援かず、己を正しうして人に求めざれば則ち怨無し。上、天を怨まず、下、人を尤めず。〉
故君子居易以俟命,小人行險以徼幸。
〈故に君子は、易きに居りて以て命を俟つ。小人は險を行ひて以て幸を儌む。〉
子曰:「射有似乎君子;失諸正鵠,反求諸其身。」
〈子曰く、射は君子に似たるあり、諸を正鵠に失へば、反りて諸を其身に求む。〉
- 右第十四章。
- 〈右第十四章。〉
君子之道,辟如行遠必自邇,辟如登高必自卑。
〈君子の道は、辟へば遠きに行くは必ず邇きよりするが如し、辟へば高きに登るは必ず卑きよりするが如し。〉
詩曰:「妻子好合,如鼓瑟琴;兄弟既翕,和樂且耽;宜爾室家;樂爾妻帑。」
〈詩に曰く、妻子好く合へり、瑟琴を鼓くが如し、兄弟既に翕へり、和樂して且つ耽む、爾の室家に宜しく、爾の妻帑を樂ましむと。〉
子曰:「父母其順矣乎!」
〈子曰く、父母は其れ順なるかな。〉
- 右第十五章。
- 〈右第十五章。〉
子曰:「鬼神之爲德,其盛矣乎!
〈子曰く、鬼神の德たる其れ盛なるかな。〉
視之而弗見,聽之而弗聞,體物而不可遺。
〈之れを視て見えず、之れを聽いて聞えず、物に體して遺す可からず。〉
使天下之人齊明盛服,以承祭祀。洋洋乎!如在其上,如在其左右。
〈天下の人をして齊明・盛服して以て祭祀を承けしめ、洋洋乎として、其上に在るが如く、其左右に在るが如し。〉
詩曰:『神之格思,不可度思!矧可射思!』
〈詩に曰く、神の格る、度るべからず、矧んや射ふべけんやと。〉
夫微之顯,誠之不可揜如此夫。」
〈夫れ微の顯なる、誠の揜ふべからざる此の如きかな。〉
- 右第十六章。
- 〈右第十六章。〉
子曰:「舜其大孝也與!德爲聖人,尊爲天子,富有四海之內。宗廟饗之,子孫保之。
〈子曰く、舜は其れ大孝なるか、德は聖人たり、尊きことは天子たり、富は四海の內を有ち、宗廟之を饗け、子孫之を保つ。〉
故大德必得其位,必得其祿,必得其名,必得其壽。
〈故に大德は必ず其位を得、必ず其祿を得、必ず其名を得、必ず其壽を得。〉
故天之生物,必因其材而篤焉。
〈故に天の物を生ずるや、必ず其材に因りて篤くす。〉
故栽者培之,傾者覆之。
〈故に栽うる者は之を培し、傾く者は之を覆す。〉
詩曰:『嘉樂君子,憲憲令德!宜民宜人;受祿於天;保佑命之,自天申之!』」
〈詩に曰く、嘉樂の君子は、憲憲たる令德あり、民に宜しく人に宜しくして、祿を天に受く、保佑して之に命じ、天より之を申ぬと。〉
故大德者必受命。
〈故に大德の者は必ず命を受く。〉
- 右第十七章。
- 〈右第十七章。〉
子曰:「無憂者其惟文王乎!以王季爲父,以武王爲子,父作之,子述之。
〈子曰く、憂無き者は其れ惟だ文王か、王季を以て父と爲し、武王を以て子と爲し、父之を作し、子之を述ぶ。〉
武王纘大王、王季、文王之緖。壹戎衣而有天下,身不失天下之顯名。尊爲天子,富有四海之內。宗廟饗之,子孫保之。
〈武王、大王・王季・文王の緖を纘ぎ、壹たび戎衣して天下を有ち、身、天下の顯名を失はず、尊きことは天子と爲り、富は四海の內を有ち、宗廟之を饗け、子孫之を保つ。〉
武王末受命,周公成文武之德,追王大王、王季,上祀先公以天子之禮。斯禮也,達乎諸侯大夫,及士庶人。父爲大夫,子爲士;葬以大夫,祭以士。父爲士,子爲大夫;葬以士,祭以大夫。期之喪達乎大夫,三年之喪達乎天子,父母之喪無貴賤一也。」
〈武王末いて命を受く。周公、文武の德を成して、大王・王季を追王し、上先公を祀るに天子の禮を以てす。斯の禮や、諸侯大夫及び士庶人に達す。父、大夫たり、子、士たれば、葬るに大夫を以てし、祭るに士を以てす。父、士たり、子、大夫たれば、葬るに士を以てし、祭るに大夫を以てす。期の喪は大夫に達し、三年の喪は天子に達す。父母の喪は、貴賤と無く一なり。〉
- 右第十八章。
- 〈右第十八章。〉
子曰:「武王、周公,其達孝矣乎!夫孝者。
〈子曰く、武王周公は、其れ達孝なるかな。〉
善繼人之志,善述人之事者也。
〈夫れ孝は、善く人の志を繼ぎ、善く人の事を述ぶる者なり。〉
春秋脩其祖廟,陳其宗器,設其裳衣,薦其時食。
〈春秋に其祖廟を脩め、其宗器を陳ね、其裳衣を設け、其時食を薦む。〉
宗廟之禮,所以序昭穆也;序爵,所以辨貴賤也;序事,所以辨賢也;旅酬下爲上,所以逮賤也;燕毛,所以序齒也。
〈宗廟の禮は昭穆を序づる所以なり、爵を序づるは貴賤を辨つ所以なり、事を序づるは賢を辨つ所以なり、旅酬に下上の爲にするは、賤に逮ぼす所以なり、燕毛は齒を序づる所以なり。〉
踐其位,行其禮,奏其樂,敬其所尊,愛其所親,事死如事生,事亡如事存,孝之至也。
〈其位を踐み、其禮を行ひ、其樂を奏し、其の尊ぶ所を敬し、其の親む所を愛し、死に事ふること生に事ふるが如く、亡に事ふること存に事ふるが如し。孝の至りなり。〉
郊社之禮,所以事上帝也,宗廟之禮,所以祀乎其先也。明乎郊社之禮、禘嘗之義,治國其如示諸掌乎。」
〈郊社の禮は上帝に事ふる所以なり、宗廟の禮は其の先を祀る所以なり。郊社の禮、禘嘗の義に明かなれば、國を治むること其れ諸を掌に示るが如きか。〉
- 右第十九章。
- 〈右第十九章。〉
哀公問政。
〈哀公、政を問ふ。〉
子曰:「文武之政,布在方策。其人存,則其政舉;其人亡,則其政息。
〈子曰く、文武の政は、布いて方策に在り、其人存すれば則ち其政擧り、其人亡すれば則ち其政息む。〉
人道敏政,地道敏樹。夫政也者,蒲盧也。
〈人道は政を敏くし、地道は樹うることを敏くす。夫れ政は蒲盧なり。〉
故爲政在人,取人以身,脩身以道,脩道以仁。
〈故に政を爲すは人に在り、人を取るには身を以てし、身を脩むるには道を以てし、道を脩むるには仁を以てす。〉
仁者人也,親親爲大;義者宜也,尊賢爲大;親親之殺,尊賢之等,禮所生也。
〈仁は人なり、親を親むを大なりと爲す、義は宜なり、賢を尊ぶを大なりと爲す。親を親むの殺、賢を尊ぶの等、禮の生ずる所なり。〉
在下位不獲乎上,民不可得而治矣!
〈下位に在つて上に獲られざれば、民得て治む可からず。〉
故君子不可以不脩身;思脩身,不可以不事親;思事親,不可以不知人。
〈故に君子は以て身を脩めざる可からず、身を脩むることを思へば、以て親に事へざる可からず、親に事へんことを思へば、以て人を知らざる可からず、人を知らんことを思へば、以て天を知らざる可からず。〉
思知人,不可以不知天。」天下之達道五,所以行之者三:曰君臣也,父子也,夫婦也,昆弟也,朋友之交也:五者天下之達道也。知、仁、勇三者,天下之達德也,所以行之者一也。
〈天下の達道五、之を行ふ所以の者三。曰く、君臣なり、父子なり、夫婦なり、昆弟なり、朋友の交なり、五つの者に天下の達道なり。知仁勇の三者は、天下の達德なり。之を行ふ所以の者は一なり。〉
或生而知之,或學而知之,或困而知之,及其知之一也;或安而行之,或利而行之,或勉强而行之,及其成功一也。
〈或は生れながらにして之を知り、或は學んで之を知り、或は困んで之を知る。其の之を知るに及んでは一なり。或は安んじて之を行ひ、或は利として之を行ひ、或は勉强して之を行ふ。其の功を成すに及んでは一なり。〉
子曰:「好學近乎知,力行近乎仁,知恥近乎勇。
〈子曰く、學を好むは知に近し、力行は仁に近し、恥を知るは勇に近し。〉
知斯三者,則知所以脩身;知所以脩身,則知所以治人;知所以治人,則知所以治天下國家矣。」
〈斯三つの者を知れば、則ち身を脩むる所以を知る、身を脩むる所以を知れば、則ち人を治むる所以を知る、人を治むる所以を知れば、則ち天下國家を治むる所以を知る。〉
凡爲天下國家有九經,曰:脩身也,尊賢也,親親也,敬大臣也,體群臣也,子庶民也,來百工也,柔遠人也,懷諸侯也。
〈凡そ天下國家を爲むるに九經あり、曰く、身を脩むるなり、賢を尊ぶなり、親を親むなり、大臣を敬するなり、群臣を體するなり、庶民を子とするなり、百工を來すなり、遠人を柔ぐるなり、諸侯を懷くるなり。〉
脩身則道立,尊賢則不惑,親親則諸父昆弟不怨,敬大臣則不眩,體群臣則士之報禮重,子庶民則百姓勸,來百工則財用足,柔遠人則四方歸之,懷諸侯則天下畏之。
〈身を脩むれば則ち道立つ、賢を尊べば則ち惑はず、親を親めば則ち諸父昆弟怨まず、大臣を敬すれば則ち眩はず、群臣を體すれば則ち士の禮に報ゆること重し、庶民を子とすれば則ち百姓勱む、百工を來せば則ち財用足る、遠人を柔ぐれば則ち四方之に歸す、諸侯を懷くれば則ち天下之を畏る。〉
齊明盛服,非禮不動,所以脩身也;去讒遠色,賤貨而貴德,所以勸賢也;尊其位,重其祿,同其好惡,所以勸親親也;官盛任使,所以勸大臣也;忠信重祿,所以勸士也;時使薄斂,所以勸百姓也;日省月試,既稟稱事,所以勸百工也;送往迎來,嘉善而矜不能,所以柔遠人也;繼絕世,舉廢國,治亂持危,朝聘以時,厚往而薄來,所以懷諸侯也。
〈齋明盛服して、禮に非ざれば動かざるは、身を脩むる所以なり。讒を去て色を遠ざけ、貨を賤んで德を貴ぶは、賢を勸むる所以なり。其位を尊うし、其祿を重くし、其好惡を同じうするは、親を親むことを勸むる所以なり。官盛にして任使するは、大臣を勸むる所以なり。忠信にして祿を重くするは、士を勸むる所以なり。時に使うて斂を薄くするは、百姓を勸むる所以なり。日に省み月に試み、既稟事に稱ふは、百工を勸むる所以なり。往を送り來を迎へ、善を嘉して不能を矜むは、遠人を柔ぐる所以なり、絕世を繼ぎ廢國を擧げ、亂を治め危を持し、朝聘時を以てし、往くを厚くして來るを薄くするは、諸侯を懷くる所以なり。〉
凡爲天下國家有九經,所以行之者一也。
〈凡そ天下國家を爲むるに九經あり、之を行ふ所以の者は一なり。〉
凡事豫則立,不豫則廢。言前定則不跲,事前定則不困,行前定則不疚,道前定則不窮。
〈凡そ事、豫めすれば則ち立ち、豫めせざれば則ち廢す。言、前に定まれば則ち跲かず、事、前に定まれば則ち困まず、行、前に定まれば則ち疚しからず、道、前に定まれば則ち窮まらず。〉
在下位不獲乎上,民不可得而治矣;獲乎上有道:不信乎朋友,不獲乎上矣;信乎朋友有道:不順乎親,不信乎朋友矣;順乎親有道:反諸身不誠,不順乎親矣;誠身有道:不明乎善,不誠乎身矣。
〈下位に在つて上に獲ざれば、民得て治むべからず。上に獲るに道あり、朋友に信ぜられざれば上に獲ず。朋友に信ぜらるるに道あり、親に順ならざれば朋友に信ぜられず。親に順なるに道あり、諸を身に反して誠ならざれば親に順ならず。身を誠にするに道あり、善に明かならざれば身に誠ならず。〉
誠者,天之道也;誠之者,人之道也。誠者不勉而中,不思而得,從容中道,聖人也。誠之者,擇善而固執之者也。
〈誠は天の道なり、之を誠にするは人の道なり。誠は勉めずして中り、思はずして得、從容として道に中る、聖人なり。之を誠にするは、善を擇んで固く之を執る者なり。〉
博學之,審問之,愼思之,明辨之,篤行之。
〈博く之を學び、審かに之を問ひ、愼んで之を思ひ、明かに之を辨へ、篤く之を行ふ。〉
有弗學,學之弗能弗措也;有弗問,問之弗知弗措也;有弗思,思之弗得弗措也;有弗辨,辨之弗明弗措也;有弗行,行之弗篤弗措也;人一能之己百之,人十能之己千之。
〈學ばざること有り、之を學びて能くせずんば措かざるなり、問はざること有り、之を問ふて知らずんば措かざるなり。思はざることあり、之を思うて得ずんば措かざるなり。辨へざることあり、之を辨へて明かならずんば措かざるなり。行はざること有り、之を行うて篤からずんば措かざるなり。人一たびして之を能くすれば己之を百たびす、人十たびして之を能くすれば、己之を千たびす。〉
果能此道矣,雖愚必明,雖柔必强。
〈果して此道を能くすれば、愚と雖も必ず明かに、柔と雖も必ず强なり。〉
- 右第二十章。
- 〈右第二十章。〉
自誠明,謂之性;自明誠,謂之敎。誠則明矣,明則誠矣。
〈誠なるに自つて明かなる、之を性と謂ふ。明かなるに自つて誠なる、之を敎と謂ふ。誠なれば則ち明かなり。明かなれば則ち誠なり。〉
- 右第二十一章。子思承上章夫子天道、人道之意而立言也。自此以下十二章,皆子思之言,以反覆推明此章之意。
- 〈右第二十一章。子思、上章の夫子の天道人道の意を承けて言を立つるなり。此より以下十二章は皆子思の言にして、以て此の章の意を反覆推明す。〉
唯天下至誠,爲能盡其性;能盡其性,則能盡人之性;能盡人之性,則能盡物之性;能盡物之性,則可以贊天地之化育;可以贊天地之化育,則可以與天地參矣。
〈唯天下の至誠、能く其性を盡すを爲す。能く其性を盡せば則ち能く人の性を盡す。能く人の性を盡せば則ち能く物の性を盡す。能く物の性を盡せば則ち以て天地の化育を贊すべし。以て天地の化育を贊すべければ、則ち以て天地と參なるべし。〉
- 右第二十二章。
- 〈右第二十二章。〉
其次致曲,曲能有誠,誠則形,形則著,著則明,明則動,動則變,變則化,唯天下至誠爲能化。
〈其次は曲を致す。曲すれば能く誠あり。誠あれば則ち形はる。形はるれば則ち著し。著しければ則ち明かなり。明かなれば則ち動く。動けば則ち變ず。變ずれば則ち化す。唯だ天下の至誠のみ、能く化することを爲す。〉
- 右第二十三章。
- 〈右第二十三章。〉
至誠之道,可以前知。國家將興,必有禎祥;國家將亡,必有妖孽;見乎蓍龜,動乎四體。禍福將至:善,必先知之;不善,必先知之。故至誠如神。
〈至誠の道は以て前知す可し。國家將に興らんとすれば必ず禎祥あり、國家將に亡びんとすれば必ず妖孽あり、蓍龜に見はれ、四體に動く。禍福將に至らんとすれば、善必ず先づ之を知り、不善必ず先づ之を知る。故に至誠は神の如し。〉
- 右第二十四章。
- 〈右第二十四章。〉
誠者自成也,而道自道也。
〈誠は自ら成すなり、而して道は自ら道くなり。〉
誠者物之終始,不誠無物。是故君子誠之爲貴。
〈誠は物の終始なり、誠あらざれば物無し。是の故に君子は、誠を之れ貴しと爲す。〉
誠者非自成己而已也,所以成物也。成己,仁也;成物,知也。性之德也,合外內之道也,故時措之宜也。
〈誠は自ら己を成すのみに非ず、物を成す所以なり。己を成すは仁なり、物を成すは知なり、性の德なり、外內を合するの道なり、故に時に之を措きて宜しきなり。〉
- 右第二十五章。
- 〈右第二十五章。〉
故至誠無息。
〈故に至誠は息むこと無し。〉
不息則久,久則徵。
〈息まざれば則ち久し、久しければ則ち徵あり。〉
徵則悠遠,悠遠則博厚,博厚則高明。
〈徵あれば則ち悠遠なり、悠遠なれば則ち博厚なり、博厚なれば則ち高明なり。〉
博厚,所以載物也;高明,所以覆物也;悠久,所以成物也。
〈博厚は物を載する所以なり、高明は物を覆ふ所以なり、悠久は物を成す所以なり。〉
博厚配地,高明配天,悠久無疆。
〈博厚は地に配し、高明は天に配し、悠久は疆なし。〉
如此者,不見而章,不動而變,無爲而成。
〈此の如き者は見さずして章はれ、動かずして變じ、爲すこと無くして成る。〉
天地之道,可一言而盡也:其爲物不貳,則其生物不測。
〈天地の道は一言にして盡す可きなり。其の物たる貳ならざれば、則ち其の物を生ずること測られず。〉
天地之道:博也,厚也,高也,明也,悠也,久也。
〈天地の道は、博なり、厚なり、高なり、明なり、悠なり、久なり。〉
今夫天,斯昭昭之多,及其無窮也,日月星辰繫焉,萬物覆焉。今夫地,一撮土之多,及其廣厚,載華嶽而不重,振河海而不洩,萬物載焉。今夫山,一卷石之多,及其廣大,艸木生之,禽獸居之,寶藏興焉。今夫水,一勺之多,及其不測,黿鼉、蛟龍、魚鱉生焉,貨財殖焉。
〈今夫れ天は、斯れ昭昭の多きなり、其の窮なきに及んでや、日月星辰繫り、萬物覆はる。今夫れ地は、一撮土の多きなり、其の廣厚なるに及んでは、華嶽を載せて重からず、河海を振めて洩さず、萬物載せらる。今夫れ山は一卷石の多きなり、其の廣大なるに及んでは、草木之に生じ、禽獸之に居り、寶藏興る。今夫れ水は一勺の多きなり、其の測られざるに及んでは、黿鼉蛟龍魚鱉生じ、貨財殖す。〉
詩云:「維天之命,於穆不已!」蓋曰天之所以爲天也。「於乎不顯!文王之德之純!」蓋曰文王之所以爲文也,純亦不已。
〈詩に云く、維天の命、於穆として已まずと。蓋し天の天たる所以を曰ふなり。於乎顯ならざらんや、文王の德の純なるとは、蓋し文王の文たる所以を曰ふなり。純にして亦已まず。〉
- 右第二十六章。
- 〈右第二十六章。〉
大哉聖人之道!洋洋乎!發育萬物,峻極於天。優優大哉!禮儀三百,威儀三千。待其人而後行。
〈大なるかな聖人の道、洋洋乎として萬物を發育し、峻にして天に極まる。優優として大なるかな、禮義三百、威儀三千、其人を待つて後に行はる。〉
故曰苟不至德,至道不凝焉。
〈故に曰く、苟も至德ならざれば、至道凝まらず。〉
故君子尊德性而道問學,致廣大而盡精微,極高明而道中庸。溫故而知新,敦厚以崇禮。
〈故に君子は、德性を尊んで問學に道り、廣大を致して精微を盡し、高明を極めて中庸に道り、故きを溫ねて新しきを知り、厚きを敦くして以て禮を崇うす。〉
是故居上不驕,爲下不倍,國有道其言足以興,國無道其默足以容。詩曰「既明且哲,以保其身」,其此之謂與!
〈是の故に、上に居て驕らず、下と爲りて倍かず、國道あれば其言以て興るに足り、國道なければ其默以て容るるに足る。詩に曰く、既に明かにして且つ哲、以て其身を保つとは、其れ此の謂か。〉
- 右第二十七章。
- 〈右第二十七章。〉
子曰:「愚而好自用,賤而好自專,生乎今之世,反古之道。如此者,菑及其身者也。」
〈子曰く、愚にして自ら用ゐることを好み、賤うして自ら專にすることを好み、今の世に生れて古の道に反る、此の如き者は、菑其身に及ぶ者なりと。〉
非天子,不議禮,不制度,不考文。
〈天子に非ざれば禮を議せず、度を制せず、文を考へず。〉
今天下車同軌,書同文,行同倫。
〈今天下、車は軌を同じうし、書は文を同じうし、行は倫を同じうす。〉
雖有其位,苟無其德,不敢作禮樂焉;雖有其德,苟無其位,亦不敢作禮樂焉。
〈其位ありと雖も、苟も其德なければ、敢て禮樂を作らず。其德ありと雖も、苟も其位なければ、亦敢て禮樂を作らず。〉
子曰:「吾說夏禮,杞不足徵也;吾學殷禮,有宋存焉;吾學周禮,今用之,吾從周。」
〈子曰く、吾、夏の禮を說けども、杞徵とするに足らざるなり。吾、殷の禮を學ぶ、宋の存するあり。吾、周の禮を學ぶ、今之を用ふ、吾は周に從ふと。〉
- 右第二十八章。
- 〈右第二十八章。〉
王天下有三重焉,其寡過矣乎!
〈天下に王たるに三重あり、其れ過寡からんか。〉
上焉者雖善無徵,無徵不信,不信民弗從;下焉者雖善不尊,不尊不信,不信民弗從。
〈上なる者は、善しと雖も徵無し、徵無ければ信ならず、信ならざれば民從はず。下なる者は、善しと雖も尊からず、尊からざれば信ならず、信ならざれば民從はず。〉
故君子之道:本諸身,徵諸庶民,考諸三王而不繆,建諸天地而不悖,質諸鬼神而無疑,百世以俟聖人而不惑。
〈故に君子の道は、諸を身に本づけ、諸を庶民に徵し、諸を三王に考へて繆らず、諸を天地に建てて悖らず、諸を鬼神に質して疑なく、百世以て聖人を俟つて惑はず。〉
質諸鬼神而無疑,知天也;百世以俟聖人而不惑,知人也。
〈諸を鬼神に質して疑ふなきは天を知るなり、百世以て聖人を俟つて惑はざるは人を知るなり。〉
是故君子動而世爲天下道,行而世爲天下法,言而世爲天下則。遠之則有望,近之則不厭。
〈是の故に君子は、動けば世〻天下の道と爲る。行へば世〻天下の法と爲り、言へば世〻天下の則となる。之に遠きは則ち望むことあり、之に近きは則ち厭はず。〉
詩曰:「在彼無惡,在此無射;庶幾夙夜,以永終譽!」君子未有不如此而蚤有譽於天下者也。
〈詩に曰く、彼に在つても惡まるることなく、此に在つても射はるることなし、庶幾くは夙夜、以て永く譽を終へんと。君子未だ此の如くならずして蚤く天下に譽ある者有らざるなり。〉
- 右第二十九章。
- 〈右第二十九章。〉
仲尼祖述堯舜,憲章文武;上律天時,下襲水土。
〈仲尼は堯舜を祖述し、文武を憲章し、上は天時に律り、下は水土に襲る。〉
辟如天地之無不持載,無不覆幬,辟如四時之錯行,如日月之代明。
〈辟へば天地の持載せざるなく、覆幬せざるなきが如し。辟へば四時の錯はり行るが如く、日月の代〻明かなるが如し。〉
萬物竝育而不相害,道竝行而不相悖,小德川流,大德敦化,此天地之所以爲大也。
〈萬物竝び育はれて相害せず、道竝び行はれて相悖らず、小德は川流し、大德は敦化す、此れ天地の大なる所以なり。〉
- 右第三十章。
- 〈右第三十章。〉
唯天下至聖,爲能聰明睿知,足以有臨也;寬裕溫柔,足以有容也;發强剛毅,足以有執也;齊莊中正,足以有敬也;文理密察,足以有別也。
〈唯だ天下の至聖、能く聰明睿知にして以て臨むあるに足り、寬裕溫柔にして以て容るるあるに足り、發强剛毅にして以て執るあるに足り、齊莊中正にして以て敬むあるに足り、文理密察にして以て別つあるに足れりと爲す。〉
溥博淵泉,而時出之。
〈溥博淵泉にして、時に之を出す。〉
溥博如天,淵泉如淵。見而民莫不敬,言而民莫不信,行而民莫不說。
〈溥博は天の如く、淵泉は淵の如し。見れて民敬せざることなく、言うて民信ぜざるなく、行うて民說ばざるなし。〉
是以聲名洋溢乎中國,施及蠻貊;舟車所至,人力所通;天之所覆,地之所載,日月所照,霜露所隊;凡有血氣者,莫不尊親,故曰配天。
〈是を以て聲名中國に洋溢し、施いて蠻貊に及び、舟車の至る所、人力の通ずる所、天の覆ふ所、地の載する所、日月の照す所、霜露の隊つる所、凡そ血氣ある者尊親せざるは莫し。故に天に配すと曰ふ。〉
- 右第三十一章。
- 〈右第三十一章。〉
唯天下至誠,爲能經綸天下之大經,立天下之大本,知天地之化育。夫焉有所倚?
〈唯だ天下の至誠、能く天下の大經を經綸し、天下の大本を立て、天地の化育を知ると爲す。夫れ焉んぞ倚る所あらん。〉
肫肫其仁!淵淵其淵!浩浩其天!
〈肫肫たる其仁、淵淵たる其淵、浩浩たる其天。〉
苟不固聰明聖知達天德者,其孰能知之?
〈苟も固に聰明聖知にして天德に達する者にあらずんば、其れ孰か能く之を知らん。〉
- 右第三十二章。
- 〈右第三十二章。〉
詩曰「衣錦尙絅」,惡其文之著也。故君子之道,闇然而日章;小人之道,的然而日亡。君子之道:淡而不厭,簡而文,溫而理,知遠之近,知風之自,知微之顯,可與入德矣。
〈詩に曰く、錦を衣て絅を尙ふと。其文の著はるるを惡むなり。故に君子の道は闇然として日に章なり、小人の道は的然として日に亡ぶ。君子の道は、淡にして厭はず、簡にして文あり、溫にして理あり。遠きの近きを知り、風の自ることを知り、微の顯なるを知れば、與に德に入るべし。〉
詩云:「潛雖伏矣,亦孔之昭!」故君子內省不疚,無惡於志。君子之所不可及者,其唯人之所不見乎。
〈詩に云く、潛みて伏ると雖も、亦孔だ之れ昭かなりと。故に君子は、內に省みて疚ましからずして、志に惡むことなし。君子の及ぶ可からざる所は、其れ唯だ人の見ざる所か。〉
詩云:「相在爾室,尙不愧於屋漏。」故君子不動而敬,不言而信。
〈詩に云く、爾の室に在るを相るに、尙はくは屋漏に愧ぢざれと。故に君子は、動かずして敬し、言はずして信あり。〉
詩曰:「奏假無言,時靡有爭。」是故君子不賞而民勸,不怒而民威於鈇鉞。
〈詩に曰く、奏み假して言なし、時に爭あること靡しと。是の故に君子は、賞せずして民勸み、怒らずして民鈇鉞よりも威る。〉
詩曰:「不顯惟德!百辟其刑之。」是故君子篤恭而天下平。
〈詩に曰く、顯れざる惟れ德あり、百辟其れ之に刑ると。是の故に君子は、篤恭にして天下平かなり。〉
詩云:「予懷明德,不大聲以色。」子曰:「聲色之於以化民,末也。」詩曰:「德輶如毛」,毛猶有倫。「上天之載,無聲無臭」,至矣!
〈詩に云く、予明德を懷ふ、聲と色とを大にせずと。子曰く、聲色の以て民を化するに於けるは末なり。詩に曰く、德の輶きこと毛の如しと。毛は猶ほ倫あり。上天の載は、聲もなく臭もなしと。至れり。〉
- 右第三十三章。子思因前章極致之言,反求其本,復自下學爲己謹獨之事,推而言之,以馴致乎篤恭而天下平之盛。又贊其妙,至於無聲無臭而後已焉。蓋舉一篇之要而約言之,其反覆丁寧示人之意,至深切矣,學者其可不盡心乎!
- 〈右第三十三章。子思、前章の極致の言に因りて、反りて其本を求め、復た下學して己の爲にし、獨を謹むの事より、推して之を言つて、以て篤恭にして天下平かなるの盛なるに馴致し、又其妙を贊して、聲もなく臭もなきに至りて而して後已む。蓋し一篇の要を擧げて之を約言す。其の反復丁寧人に示すの意至つて深切なり。學者其れ心を盡さざる可けんや。〉
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原文:
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この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。
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翻訳文:
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