中岡慎太郎全集/論策一 時勢論
天下の勢変遷
是れに次で有レ胆、有レ識、思慮周密、廟堂の論に耐ゆる者は長州の桂小五郎。
有二胆略一兵に臨みて不レ惑、機を見て動き、奇を以て人に勝つ者は高杉東行。是れ亦洛西の一奇才。
其他諸藩の英傑に度々出合仕候。討論も仕候事故、愚昧の吾々と雖、時勢の万一を察知するを得たり。
抑々吾人
加ふるに封建の勢を以てして、各藩趨向を異にし、一旦強敗、大敵率然として我れに迫る。
第一、其の卓識なる者を久坂玄瑞と云ふ。此人吉田寅次郎の門弟にして英学も少々仕り、夷情も大に知れり。此人常に論じて曰く、西洋諸国と雖、魯王のペートル、
又左の一ヶ条は長の事也。
馬関の戦争を開き京師変動を生じ候より、内外の大難一時に迫り、外は夷に和し、内は天下の軍兵を引受け、遂に内輪の戦迄に至り候得共、小五郎、東行の如き、昨年英より帰りし井上聞太、伊藤俊助等の如きもの、国君を補佐し所置を得候より、国論大に一定せし故、事益々一新し、二国(防長)の人民悉く必死不レ逃の地に入り、於レ是か士気益々真実に赴き、武備日々に整ひ、此の頃は議論なくして実行と相成り、悉く国中の大勢を一新し、鉄砲の一隊のみになし、銃はミネール、砲は
其他可レ歎可レ悲事、如レ山御座候得共、今更一言不二仕申一、只々老婆心の様なる事、思出次第に乱筆仕候。取急候間清書不レ能、御推読奉レ願候。不宣。