世界一週唱歌
池邊義象作歌
田村𠂰蔵作曲
一、天地もさかゆる大御代は
四海の波も靜かなり
君と親との恩うけて
世界の旅をや企てん
二、日本の海を船出して
西にむかへば支那の國
亞細亞の半を保てども
吊ふ古史の跡ばかり
三、棕櫚の花さく新嘉坡
椰子の實みのる錫蘭島
暑き印度を過ぎゆけば
わたるに安き蘇士の海」
四、駱駝嘶く阿良毘亞の
沙漠の月の果もなき」
國原こえてゆく先は
文明開化の歐羅巴
五、テームスドックに船よせて
上れば忽ち倫敦市
人目にうつる議事堂は
立憲政治の世の鏡
六、商工業の繁榮は
立葢ふ狹霧もつゝみえず
海をこゆれば白耳義の
アントワープにブリュクセル府」
七、和蘭過ぎてゆきゆけば
帝威かゞやく獨乙國
武人の冑は日月と
共に光をあらそへり
八、北半島は丁抹
その名は髙し陶器業
寒き瑞典諾威
功はしるし航海業
九、鷲のすむてふウラル山
吹雪につゞく露西亞の原
彼得帝の大偉業
流れて長しネバの川
十、歐亞の境に立ち見れば
白波さわぐ黑の海
友よびかはす群千鳥
つばさはかよふ西東
十一、バルカン半島過ぎゆけば
半月細き土耳古國
アセンス城は苔むして
いなゝく驢馬の聲遠し
十二、老大國のウヰンナに
並び合ひたるブタペスト
亞細亞の餘光ダニューブの
底にきらめく賴もしさ」
十三、はや伊太利に打入れば
昔ゆかしき羅馬城
タイバー川の淵に瀨に
かはりゆく世ぞあぢきなき」
十四、雪は白しアルプス山
水は清しジェネヴァの湖
人の心も打とけて
遊びにつどふ瑞西西國
十五、四海を開きし葡萄牙
五洲に航せし西班牙
テーガス河にリスボン港
共にむかしの忍びぐさ
十六、ピレネー越ゆれば佛蘭西の
目さへかゞやく巴里のさと
仰げばたかしエッフェル塔
譽れは殘る凱旋門
十七、ボアーの花やセーヌの月
シヤンゼリゼーの馬車
ゆくもかへるも立宿る
げにや天下の大公園
十八、大西洋を船出して
西にむかへば合衆國
農工商の發達は
世界に類ひあらざらん」
十九、加奈太鐵道夢の間に
こゆるも安き落機山
波路靜けき太平洋
見つゝかへらんメルボルン」
二十、皇統一系ふじがねに
かゞやき上る日の御はた
ふりかざしつゝ大世界
いざや旅せん榮ゆる世
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新嘉坡、
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馬來半島にして英國領。
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錫蘭島、
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印度。英國領なり。
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蘇士、
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埃及にて有名なる運河。
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テームス、
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倫敦市中を流るゝ大河。
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アントワープ、
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白耳義の港。
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ブリュクセル、
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白耳義の首府。
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ウラル山、
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有名なる露國の大山。
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子バ川、
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聖彼得堡市を流るゝ大河。
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黑海、
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バルカン半島小亞細亞の海峽。
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バルカン半島、
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土耳古、ブルガリヤ、ルーマニヤ等數國にわたれり。
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アセンス、
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希臘。
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ウヰンナ、
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澳太利國の首府。
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ブタペスト、
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匈牙利國の首府。
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ダニユーブ、
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ブタペスト市を流るゝ大河。
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タイバー、
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伊太利羅馬市を流るゝ大河。
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アルプス山、
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瑞西伊太利の境の大山。
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ジエ子ヴァ湖、
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瑞西。
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テーガス河、
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西班牙。
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リスボン港、
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葡萄牙。
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ピレ子ー山、
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西班牙と佛蘭西との境。
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エッフェル塔、
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巴里に在り、世界第一の鐵塔。
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ボアー、
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巴里第一の公園。
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シヤンゼリゼー、
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巴里第一の大道。
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落機山、
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米國第一の高山。
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メルボルン、
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澳太利亞。
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