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七小町 作者:船阪三枝
蒔かなくに、何を種とて浮草の、浪の畝々(うねうね)生ひ茂(しげ)るらん。草子洗ひも名にしおふ、その深草(ふかくさ)の少将が、百夜(ももよ)通ひも理(ことわり)や。日の本(もと)ならば照りもせめ、さりとては又(また)天(あめ)が下(した)とは。下(した)ゆく水の逢阪(あふさか)の、庵(いほり)へ心(こころ)関寺(せきでら)の、うちも卒都婆(そとば)も袖褄(そでつま)を、引く手数(あまた)の昔は小町(こまち)。今は恥し市原(いちはら)の。古跡(こせき)もきよき。清水(きよみづ)の、大悲(だいひ)の誓ひかがやきて。曇りなき、世に雲の上(うへ)在りし。昔にかはらねど、見し玉簾(たまだれ)の、内や床(ゆか)しき、内ぞ床しき。
この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。