ルカ聖福音書4 (ラゲ訳)

<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書

『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、

1910年発行

〔ローマ・カトリック訳〕

ラゲ訳新約聖書エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)

ルカ聖福音書4

第18章 編集

1イエズスまたひとつねいのりてまざるべしとて、彼等かれらたとへかたりてのたまひけるは、 2あるまちかみをもおそれずひとをもかへりみざる一人ひとり判事はんじありしが、 3またそのまち一人ひとり寡婦やもめありて、かれいたり、われあだするひと處分しよぶんたまへ、とたりしを、 4かれひさしくがへんぜざりしかど、そののちこころうちへらく、われかみをもおそれずひとをもかへりみざれど、 5かの寡婦やもめわれわづらはしければ、これため處分しよぶんせん、しかせずば、最後さいごにはきたりてわれたん、と。 6しゆまたのたまひけるは、なんぢかの不義ふぎなる判事はんじへることけ。 7かみなんすれぞ、そのえらたまへる人々ひとびと晝夜ちうやおのれよばはるを處分しよぶんせずして、そのくるしめらるるをしのたまはんや。 8われなんぢぐ、かみすみやか彼等かれらため處分しよぶんたまふべし。りながらひときたらんとき信仰しんかう見出みいだすべきか、と。 9またおのれ義人ぎじんとしてみづかたのみ、ないがしろにせる人々ひとびとむかひて、つぎたとへかたたまへり。 10二人ふたりひといのらんとて[しん]殿でんのぼりしに、一人ひとりはファリザイじん一人ひとり稅吏みつぎとりなりしが、 11ファリザイじんちてこころうちいのりけるは、かみよ、われひと竊盜せつたうしや不正ふせいしや姦淫かんいんしやなるがごとくならず、またこの稅吏みつぎとりごとくにもあらざることを、なんぢ感謝かんしやたてまつる。 12われ一週間いつしうかん二回ふたたび斷食だんじきし、ぜん歲入さいにふの十ぶんの一ををさむるなり、と。 13しかるに稅吏みつぎとりはるかちて、てんぐることだにもあへてせず、ただむねちて、かみよ、罪人つみびとなるわれあはれたまへ、とたり。 14われなんぢぐ、このひとは、かのひとよりもとせられて、おのいへくだけり。けだしすべみづかたかぶひとげられ、みづかへりくだひとげらるべし、と。 15とき人々ひとびとまた、イエズスにれしめんとて、孩兒をさなごたづさきたりしを、弟子でしたちしかりけるに、 16イエズス孩兒をさなご呼寄よびよせてのたまひけるは、子等こどもわれきたるをゆるして、これきんずることなかれ、かみくにかくごとひとものなればなり。 17われまことなんぢぐ、たれにても孩兒をさなごごとかみくにくるにあらずばこれらじ、と。 18一人ひとり重立おもだちたるものイエズスにひて、よ、われなにしてか永遠えいえん生命せいめいべき、とひしかば、 19イエズスのたまひけるは、なんわれきとふや、かみひとりのほかきものはあらず。 20なんぢおきてれり、すなはころなかれ、姦淫かんいんするなかれ、ぬすみするなかれ、僞證ぎしようするなかれ、なんぢ父母ちちははうやまへ、とこれなり、と。 21かれわれ幼年えうねんよりことごとこれまもれり、とひしに、 22イエズスこれきてのたまひけるは、なんぢなほひとつ*けり、ことごとなんぢてるものりて、これ貧者ひんしやほどこせ、しからばてんおいたからん、しかしてのちきたりてわれしたがへ、と。 23これきてかれいたかなしめり、富豪ふがうなればなり。 24イエズスかれかなしむをのたまひけるは、めるものかみくにるは如何いかかたきぞや、 25けだし駱駝らくだはりあなとほるも、富者ふしや天國てんこくるよりはやすし、と。 26これける人々ひとびとしからばたれすくはるうことをん、とひたるに、 27イエズスのたまひけるは、ひとかなはざることかみにはかなふものぞ、と。 28そのときペトロ、われ一切いつさいててなんぢしたがひたり、とひしかば、 29イエズス彼等かれらのたまひけるは、われまことなんぢぐ、たれにもあれかみくにために、あるひいへあるひ兩親ふたおやあるひ兄弟きやうだいあるひつまあるひ子供こどもはなるるひとの、 30このにてさらおほくのものけ、のち永遠えいえんせいめいけざるはなし、と。 31かくてイエズス十二にんたづさへてこれのたまひけるは、われ今度このたびエルザレムにのぼる、ひときて預言よげんしやたちかきしるされたることことごと成就じやうじゆせん。 32すなはかれ異邦いはうじんわたされ、なぶられ、はずかしめられ、つばきせられ、 33むちうちたるのち彼等かれらこれころさん、しかして三日みつか復活ふくくわつすべし、と。 34十二にんこのことどもすこしかいせざりき、けだしこのことば彼等かれらかくされて、そのはるるところさとらざりしなり。 35イエズスエリコにちかづきたまとき一人ひとり瞽者めしひ路傍みちばたしてほどこしりしが、 36群衆ぐんしゆうすぐるをきて、何事なにごとぞとひけるに、 37人々ひとびとナザレトのイエズスのたまよしげしかば、 38かのさけびて、ダヴィドのイエズスよ、われあはれたまへ、とへり。 39さきだてる人々ひとびとこれしかりてもくせしめんとすれども、かれますます、ダヴィドのよ、われあはれたまへ、とさけければ、 40イエズスたちとどまり、めいじてこれつれきたらしめたまひ、そのちかづきしときこれひて、 41なんぢなにさんことほつするぞ、とのたまひしにかれしゆよ、えしめたまはんことを、とへり。 42イエズスのたまひけるは、えよ、なんぢ信仰しんかうなんぢすくへり、と。 43かれたちまえ、かみ光榮くわうえいしつつイエズスにしたがひたりしが、民衆みんしゆうこれて、こぞりてかみ光榮くわうえいたてまつれり。

第19章 編集

1イエズスエリコにりてあゆみたまふに、 2をりしもザケオとへるひとあり、すなは稅吏みつぎとりかしらにして、しか富豪ふがうなりしが、 3イエズスの何人なにびとなるかをんとすれど、たけひくくして群衆ぐんしゆうためざりければ、 4ゆるやうにと、まへ趨行はしりゆきてくは無花果いちじくののぼれり、其處そこをばとほたまふべければなり。 5イエズスそのところいたりてげ、かれのたまひけるは、ザケオいそりよ、今日けふわれなんぢいへ宿やどらざるべからず、と。 6かれいそりて歡迎くわんげいせしかば、 7衆人しゆうじんこれて、イエズス罪人つみびときやくとなれり、とつぶやきければ、 8ザケオちてしゆひけるは、しゆたまへ、われわが財産ざいさんなかば貧者ひんしやほどこし、もしひと損害そんがいせしことあらば、つぐなふに四ばいもつてせんとす、と。 9イエズスこれのたまひけるは、このいへ今日けふすくひたり、このひともアブラハムのなればなり。 10けだしひときたりしは、ほろびたるものたずねてすくはんためなり、と。 11人々ひとびとこれきつつりしに、イエズスこれくはへてひとつたとへかたたまへり、これすでにエルザレムにちかく、また彼等かれらかみくにただちあらはるべしとおもれるをもつてなり。 12すなはのたまひけるは、ある貴人きにん遠國ゑんごくき、ほうこくけてかへらんとて、 13おの家來けらいにんびてきんきんわたし、きたるまで商賣しやうばいせよ、とめいきしが、 14國民こくみんかれにくみければあとより使つかひりて、われかのひとわがわうこといなむ、とはせたれど、 15かれほうこくけてかへきたり、かつきんあたきし家來けらいおのおの商賣しやうばいして如何許いかばかりまうけありしかをらんために、めいじてこればしめしが、 16はじめものきたりて、主君しゆくんよ、なんぢきんきんは十きんまうけたり、とひしに、 17主人しゆじんひけるは、し、りやうぼくよ、なんぢわづかなものにちゆうなりしがゆゑとを都會とくわいつかさどるべし、と。 18つぎものきたりて、主君しゆくんよ、なんぢきんきんは五きんしやうじたり、とひしに、 19主人しゆじんひけるは、なんぢいつつ都會とくわいつかさどれ、と。 20また一人ひとりきたりて、主君しゆくんよ、これなんぢきんきんなり、われこれ袱紗ふくさつつみけり、 21なんぢきびしきひとにして、かざるものかざるものるをもつて、われなんぢおそれたればなり、とひしに、 22主人しゆじんひけるは、あくぼくよ、われなんぢそのくちによりてさばかん、なんぢきびしきひとにして、かざるものかざるものるをりたるに、 23なんわがきん銀行ぎんかうわたさざりしや、しからばわれきたりてこれとも受取うけとりしならん、と。 24かくたちへる人々ひとびとむかひ、かれよりそのきんきんりて、十きんてるものあたへよ、とひければ、 25彼等かれら主君しゆくんよ、かれすでに十きんてり、とひしかど、 26われなんぢぐ、すべてるひとはなおあたへられてあまりあらん、れどたぬひとは、そのてるものまでもうばはれん。 27おのれわうたることいなみしてきども此處ここひききたりて、われ眼前めのまへころせ、[とへり]と。 28のたまをはりて、さきだちてエルザレムにのぼたまへり。 29かく橄欖かんらんざんへるやまふもとなるベトファゲとベタミアとにちかづきたまひしかば、弟子でしたち二人ふたりつかはさんとして、 30のたまひけるは、なんぢ對面むかふむらけ、これらば、何人なにびといまらざる驢馬ろばつながれたるにはん、きて此處ここひききたれ、 31もしなにゆゑこれくぞとひとあらば、しゆこれもちひんとほつたまふとへ、と。 32つかはされたる人々ひとびときて、のたまひしごと驢馬ろばてるにひ、 33これうちそのぬしなにゆゑこれくぞ、とふを 34彼等かれらしゆこれえうたまふなり、とひて、 35イエズスの御許おんもとひききたり、おの衣服いふく驢馬ろばかけてイエズスをせたり。 36たま路次みちすがら人々ひとびと面々めんめん衣服いふくみちきたりしが、 37すで橄欖かんらんやまくだりざかちかづきたまとき弟子でしたち群衆ぐんしゆうこぞりて、かつもろもろ奇蹟きせきたいして、こゑたかかみ贊美さんびはじめ、 38しゆによりてきたれるわうしゆくせられよかし、てんには平安へいあんいとたかところには光榮くわうえいあれ、とひければ、 39群衆ぐんしゆううちより、あるファリザイじんイエズスにむかひ、よ、なんぢ弟子でしたちいましめよ、とひしに、 40イエズスのたまひけるは、われなんぢぐ、この人々ひとびともくせばいしさけぶべし、と。 41イエズスちかづきたまふや市街まちつつこれためきてのたまひけるは、 42なんぢもしなんぢこのおいてだも、なんぢ平和へいわきたすべきもののなになるかをりたらば[さいはひならんに]、いまなんぢよりかくれたり。 43けだしまさなんぢきたらんとす、すなはそのてきどもるゐなんぢ周圍めぐりきづき、とり圍みつつ四方しはうよりせまり、 44なんぢそのうち子等こどもとを打倒うちたふし、なんぢにはひとついしをもいしうへのこさじ、なんぢ訪問はうもんせられしときらざりしゆゑなり、と。 45イエズス[しん]殿でんり、そのうちにて賣買うりかひする人々ひとびと逐出おひいだはじたまひ、 46これのたまひけるは、かきしるして「我家わがいへいのりいへなり」とあるに、なんぢこれ盜賊たうぞく巢窟さうくつとなせり、と。 47かく日々にちにち[しん]殿でんにてをしたまへるを、司祭しさいちやう律法りつぱふ學士がくしおよ人民じんみん重立おもだちたる人々ひとびところさんとてたくたれど、 48これ如何いかにすべきかをおもざりき、人民じんみんみなあこがれてこれたればなり。

第20章 編集

1いちじつイエズス[しん]殿でんおい人民じんみんをしへ、福音ふくいんたまひけるに、司祭しさいちやう律法りつぱふ學士がくし長老ちやうらうともつどきたりてこれむかひ、 2われげよ、なんぢなんけんもつこのことすぞ、またこのけんなんぢあたへしものたれぞ、といしかば、 3こたへてのたまひけるは、われ一言いちごんなんぢはん、われこたへよ、 4ヨハネの洗禮せんれいてんよりせしかひとよりせしか、と。 5彼等かれらあんひて、もしてんよりとはば、なにゆゑこれしんぜざりしぞとはれん、 6もしひとよりとはば人民じんみんこぞりてヨハネの預言よげんしやたること確信かくしんせるがゆゑに、われいしなげうたんとて、 7ついそのいづれよりせしかをらず、とこたへしかば、 8イエズス彼等かれらのたまひけるは、われまたなんけんもつこのことすかをなんぢげず、と。 9てイエズス人民じんみんむかひて、たとへかたりいだたまひけるは、あるひと葡萄ぶだうばたけつくり、これ小作こさくにんしてひさ遠方ゑんぱうりしが、 10季節きせついたおのれ葡萄ぶだうばたけをさめしめんとて、一人ひとりしもべ小作こさくにんもとつかはししに、彼等かれらこれちてむなしくかへせり。 11またしもべつかはししに、これをもかつはづかしめてむなしくかへし、 12なほだい三のものつかはししに、これをもきずつけておひいだせり。 13ここおい葡萄ぶだうばたけぬしひけるは、如何いかべき、われわが愛子あいしつかはさん、彼等かれらこれば、あるひうやまふならん、と。 14小作こさくにんこれるや、あんひて、相續そうぞくしやなり、これころさん、すれば家督かとくわれものとなるべし、とひて、 15葡萄ぶだうばたけそとおひいだしてこれころせり。このときあたりて葡萄ぶだうばたけぬし如何いか彼等かれら處分しよぶんすべきか、 16みづかきたりて小作こさくにんほろぼし、葡萄ぶだうばたけひとわたすべきなり、と。司祭しさいちやうこれきて、しかるべからず、とひしかば、 17イエズス彼等かれら熟視みつめてのたまひけるは、しからばかきしるして「建築けんちくしやてたるいしすみいしれり、 18すべこのいしうへつるひとくだかれ、またこのいしたれうへつるもこれ微塵みじんにせん」とあるはなんぞや、と。 19司祭しさいちやう律法りつぱふ學士がくし、イエズスがおのれしてこのたとへかたたまひしをさとりければ、卽時そくじかれとりおさへんとせしかど、人民じんみんおそれたり。 20かく彼等かれらことやううかがひつつ、イエズスを總督そうとく權威けんゐした引渡ひきわたすべき言質ことばじちらしめんとて、おのれ義人ぎじんよそほへる間者かんじやどもつかはししに、 21彼等かれらイエズスにひてひけるは、よ、われなんぢかたかつをしたまところただしくして、ひと贔屓ひいきせず、眞理しんりりてかみみちをしたまことれり。 22われセザルにぜいをさむるはきやいなや、と。 23イエズス彼等かれら狡猾かうくわつなるをおもんぱかりてのたまひけるは、なんわれこころむるや、 24デナリオをわれしめせ、これざうめいとはたれのなるぞ、と。彼等かれらこたへてセザルのなり、とひしに 25のたまはく、しからばセザルのものはセザルにかへし、かみものかみかへせ、と。 26彼等かれらイエズスのことば人民じんみんまへとがむることあたはず、そのこたえ感服かんぷくして沈默ちんもくせり。 27また復活ふくくわつ否定ひていせるサドカイじん數人すにんちかづきて、ひてひけるは、 28よ、モイゼがわれ書置かきおきしところによれば、ひと兄弟きやうだいつまめとりてし、あと子等こどもときは、その兄弟きやうだいそのつまめとりて、兄弟きやうだいさすべきなり。 29ればここ兄弟きやうだいにんありしに、あにつまめとり、なくしてしたれば、 30そのつぎなるものこれめとりしが、またなくしてせしかば、 31だい三のものこれめとり、七にんみなおなやうにして、のこさずしてし、 32最後さいごをんなまたせり、 33しからば復活ふくくわつときかのをんな彼等かれらうちたれつまたるべきか、は七にんこれめとりたればなり、と。 34イエズス彼等かれらのたまひけるは、現世げんせ子等こらめととつぎすれども、 35來世らいせおよ復活ふくくわつへたりとせらるべき人々ひとびとは、とつがずめとらざらん、 36けだし最早もはやするあたはず、復活ふくくわつなれば天使てんしひとしくしてかみ子等こどもなり。 37そもそも死者ししや復活ふくくわつすることは、モイゼいばらへんに、しゆを「アブラハムのかみ、イザアクのかみ、ヤコブのかみ」としようしてこれしめせり、 38すなは死者ししやかみにはあらずして、生者せいしやかみにてまします、ひとみなこれくればなり、と。 39ある律法りつぱふ學士がくしこたへて、よ、のたまへり、とひしが、 40そののち何事なにごとをもあへものなかりき。 41彼等かれらのたまひけるは、キリストをダヴィドのなりとふはなんぞや。 42すなはちダヴィドみづか詩篇しへんおいいはく、「しゆ我主わがしゆのたまへらく、 43われなんぢてきなんぢあしだいとならしむまでわがみぎせよ」と、 44ダヴィドすでこれしゆしようするに、かれいかでそのならんや、と。 45人民じんみんみなけるうちにて、イエズス弟子でしたちのたまひけるは、 46律法りつぱふ學士がくし用心ようじんせよ、彼等かれらあへながころもあゆみ、ちまたにては敬禮けいれい會堂くわいどうにては上座じやうざ宴會えんくわいにては上席じやうせきこのみ、 47ながいのりよそほひて寡婦やもめいへくひつくすなり、彼等かれらなほおほいなる宣告せんこくくべし、と。

第21章 編集

1イエズスげて、める人々ひとびと賽錢さいせん賽錢さいせんばこるるを2また一人ひとりまずしき寡婦やもめの二りんるるをて、 3のたまひけるは、われまことなんぢぐ、かのまずしき寡婦やもめすべてのひとよりおほれたり。 4は、彼等かれらみなそのあまれるうちより賽錢さいせんれたるに、かのをんなそのとぼしきうちよりてる活計くらししろことごとれたればなり、と。 5ある人々ひとびと神殿しんでんいしおよ獻物ささげものにてかざられたることかたれるに、イエズスのたまひけるは、 6なんぢこの品々しなじなつひにはひとついしくずれずしていしうへのこらざるきたらん、と。 7彼等かれらまたひて、よ、このこと何時いつあるべきぞ、そのおこらんときには如何いかなるしるしかあるべき、とひしに、 8イエズスのたまひけるは、なんぢまどはされじと注意ちゆういせよ、おほくのひとわがをかしてきたり、われなり、ときちかし、とふべければなり。れば彼等かれらしたがふことなかれ、 9また戰爭せんさう叛亂はんらんありとくともおそるることなかれ、このことどもまづるべしといへどもをはりいまただちきたらざるなり、と。 10かく彼等かれらのたまひけるは、たみたみに、くにくにたちさからひ、 11また處々しよしよおほ地震ぢしん疫病えきびやう飢饉ききんあり、てん凶變きようへんあり、おほいなるしるしあるべし。 12この一切いつさいことさきだちて、人々ひとびとわがためなんぢくだしてなんぢ迫害はくがいし、會堂くわいどうに、監獄かんごくわたし、王侯わうこう總督そうとくまへかん、 13このことなんぢおこるは證據しようことならんためなり。 14ればなんぢ覺悟かくごして、如何いかこたへんかとあらかじおもんぱかることなかれ、 15われなんぢすべてのてきいひふせいひやぶることあたはざるべき、くち智惠ちゑとをなんぢあたふべければなり。 16またなんぢおや兄弟きやうだい親族しんぞく朋友ほういうよりられ、そのうちあるひ彼等かれらころさるるものもあるべく、 17またわがためすべてのひとにくまれん。 18しかれども、なんぢかみの一縷ひとすぢだもせじ。 19忍耐にんたいもつそのたましひたもて。 20てエルザレムが軍隊ぐんたいとりかこまるるをば、そのときその滅亡めつぼうちかづきたりとれ。 21そのときユデアにひとやまのがるべく、市中しちゆうひと立退たちのくべく、地方ちはうひと市中しちゆうるべからず。 22このこれ刑罰けいばつにして、かきしるされたることすべ成就じやうじゆすべければなり。 23れどそのあたりてはらめるひとちちまするひとわざはひいなるかな地上ちじやうおほいなるなやみありて、いかりこのたみのぞむべければなり。 24かく人々ひとびとつるぎやいばたふれ、捕虜ほりよとなりて諸國しよこくかれ、エルザレムは異邦いはうじん蹂躙ふみにじられ、しよ國民こくみんとき滿つるにいたらん。 25またつきほししるしあらはれ、地上ちじやうにはうみなみとのとどろきて、もろもろ國民こくみんこれため狼狽うろたへ、 26人々ひとびとぜん世界せかいうへおこらんとすること豫期よきして、おそろしさに憔悴やつれん、天上てんじやう能力のうりよく震動しんどうすべければなり。 27ときひとが、おほいなる權力けんりよく威光ゐくわうとをもつて、くもきたるをん。 28これことおこらば、あふぎてかうべげよ、なんぢ救贖すくはるることちかければなり、と。 29イエズスまた彼等かれらたとへかたたまひけるは、無花果いちじくおよ一切すべてよ、 30すでみづかめざせば、なんぢなつちかきをる。 31かくごとこのことどもおこるをば、かみくにちかしとれ。 32われまことなんぢぐ、このことみな成就じやうじゆするまで、現代げんだいぎざらん、 33天地てんちぎん、れどわがことばぎざるべし。 34みづかつつしめ、おそらくはなんぢこころ放蕩はうたう酩酊めいていあるひ今生こんじやう心勞こころづかひためにぶりて、かのおもはずなんぢうへきたらん、 35全面ぜんめん人間にんげん一切いつさいうへに、わなごときたるべければなり。 36ればなんぢきたるべきこのすべてのことのがれ、ひとまへつにへたるものとせらるるやう警戒けいかいして不斷ふだんいのれ、と。 37イエズスひるは[しん]殿でんにてをしへ、よるでて橄欖かんらんざんへるやま宿やどたまひしが、 38人民じんみんは、これかんとて、あさはやくより[しん]殿でんうちおいて、御許おんもといたりき。

第22章 編集

1過越すぎこししようする無酵たねなしぱん祭日さいじつちかづきけるに、 2司祭しさいちやう律法りつぱふ學士がくし如何いかにしてかイエズスをころすべきとあひはかりたれど、人民じんみんおそたり。 3しかるにサタン、十二にん一人ひとりにしてイスカリオテともばれたるユダにりしかば、 4かれきて、司祭しさいちやう官吏くわんりにイエズスを方法てだてかたりしかば、 5彼等かれらよろこびてこれかねあたえんとやくせしに、 6ユダだくして、群衆ぐんしゆうらざるときにイエズスをわたさんものと、をりうかがたり。 7かく過越すぎこし[のこひつじ]をほふるべき無酵たねなしぱんきたり、 8イエズス、ペトロとヨハネとをつかはさんとして、なんぢきて、われしよくせんため過越すぎこしそなへせ、とのたまひしかば 9彼等かれら何處いづこそなへんことのぞたまふぞ、とひしに 10イエズスのたまひけるは、なんぢ市中まちときよ、水甁みづがめかたにせるひとなんぢはん、そのいへしたがひきて 11そのいへあるじむかひ、なんぢひて、弟子でしとも過越すぎこし食事しよくじすべきせき何處いづこるかとのたまふ、とへ、 12らばかれすでととのへたるおほいなる高間たかまなんぢしめさん、なんぢ其處そこにで準備じゆんびせよ、と。 13彼等かれらきてるに、イエズスののたまひしごとくなりしかば、過越すぎこし準備じゆんびせり。 14ときいたりて、イエズス十二使徒しとともしよくたまひしが、 15彼等かれらのたまひけるは、われくるしみくるまへこの過越すぎこし食事しよくじなんぢともにせんことせつのぞめり、 16けだしわれなんぢぐ、そのかみくににて成就じやうじゆするまでは、われいまよりこれしよくせざるべし、と。 17やがさかづきり、しやしてのたまひけるは、りてなんぢうちわかて、 18けだしわれなんぢぐ、かみくにきたるまでは、われ葡萄ぶだうえきまじ、と。 19またぱんり、しやしてこれき、彼等かれらあたへつつのたまひけるは、これなんぢためわたさるるわがからだなり、わが記念きねんとしてこれおこなへ、と。 20晚餐ばんさんをはりてのちさかづきをもまたかくごとくにしてのたまひけるは、このさかづきは、なんぢためながさるるべきわがおけ新約しんやくなり。 21りながらよ、われわたひとわれとも食卓しよくたくり。 22そもそもひと豫定よていせられしごとくにしてくといへども、これわたひとわざはひなるかな、と。 23かく弟子でしたちおのれうちおいこれさんとするものたれなるぞ、とたがひせんはじめたり。 24しかるに、おのれうちおほいなりとゆべきものたれぞ、とあらそひおこりしかば、 25イエズス彼等かれらのたまひけるは、異邦いはうじん帝王ていわうひとつかさどり、またひとうへけんもの恩人おんじんしようせらる、 26れどなんぢしかあるべからず、かえつなんぢうちおほいなるものちひさものごとくにり、かしらたるもの給仕きふじごとくにるべし。 27けだし食卓しよくたくけるもの給仕きふじするものとは、いづれおほいなるぞ、食卓しよくたくけるものならずや、しかれどもなんぢうちるは給仕きふじするものごとし。 28なんぢ患難くわんなんうちおいえずわれともなひしものなれば、 29わがちちわれそなたまひしごとく、われなんぢためくにそなへんとす、 30これなんぢをして、我國わがくにおいわが食卓しよくたく飲食いんしよくせしめ、また高座かうざしてイスラエルの十二ぞく審判しんぱんせしめんためなり、と。 31しゆまたのたまひけるは、シモンシモン、よ、むぎごとふるはんとて、サタンなんぢもとめたり、 32れどわれなんぢために、なんぢ信仰しんかうえざらんこといのれり、なんぢ何時いつたちかへりて、なんぢ兄弟等きやうだいらかためよ、と。 33かれイエズスにむかひ、しゆよ、われなんぢとも監獄かんごくにも、にもいたらん覺悟かくごなり、とひしかば、 34イエズスのたまひけるは、ペトロ、われなんぢぐ、今日けふにわとりうたはざるうちなんぢたびわれらずといなまん、と。また彼等かれらのたまひけるは、 35なんぢを、財布さいふなく、ふくろなく、はきものなくてつかはししときなんぢなん不足ふそくかありし、と。 36彼等かれらかりきとひしかば、のたまひけるは、りながらいまは、財布さいふあるものこれたづさへ、ふくろをもまたしかせよ、ものおの上衣うはぎりてつるぎへ、 37けだしわれなんぢぐ、かきしるして「かれ罪人ざいにんれつせられたり」とあるも、またわれおい成就じやうじゆせざるべからず、およそわれくわんするところまさをはらんとすればなり、と。 38弟子でしたちしゆよ、たまへ、此處ここ二口ふたくちつるぎあり、とひしかば、イエズス、れり、とのたまへり。 39でて、れいごと橄欖かんらんざんたまふに、弟子でしたちこれしたがひしが、 40ところいたたまふや、彼等かれらむかひて、なんぢ誘惑いうわくらざらんためいのれ、とのたまひ、 41みづからはいしげらるるほど彼等かれらよりひきはなれてひざまづき、いのりて 42のたまひけるは、ちちよ、思召おぼしめしならば、このさかづきわれよりとりのぞたまへ、りながらわがこころままにはあらで、思召おぼしめしれかし、と。 43とき一箇ひとり天使てんしてんよりあらはれてちからへしが、イエズスぬばかりくるしみて、いのたまこといよいよせつに、 44あせつちうへしたたりて、しずくごとくにれり。 45かくいのりよりたちあがりて、弟子でしたちもとたまひしが、彼等かれらうれひためねむれるをて、 46のたまひけるは、なんねむれるや、きよ、誘惑いうわくらざらんためいのれ、と。 47なほかたたまへるうちに、をりしも一團いちだん群衆ぐんしゆうきたりしが、十二にん一人ひとりなるユダとへるものさきだり、イエズスに接吻せつぷんせんとてちかづきしかば、 48イエズスこれのたまひけるは、ユダ、接吻せつぷんもつひとわたすか、と。 49かくてイエズスの周圍まはりたる人々ひとびとこと成行なりゆきて、しゆよ、われつるぎもつたば如何いかに、とひつつ、 50その一人ひとり大司祭だいしさいしもべちて、そのみぎみみきりおとせり。 51イエズスこたへて、なんぢこれまでにてゆるせ、とのたまひ、かれみみれてこれいやたまへり。 52おのれちかづける司祭しさいちやう神殿しんでんつかさ長老ちやうらうのたまひけるは、なんぢは、强盜がうとうむかごとく、つるぎぼうとをちて出來いできたりしか、 53われ日々ひびなんぢとも神殿しんでんりしに、なんぢわれけざりき。しかれどもいまなんぢときなり、黑暗くらやみ勢力いきほひなり、と。 54彼等かれらイエズスをとらへて大司祭だいしさいいへ引行ひきゆきしかば、ペトロはるかしたがひたりしが、 55彼等かれらには中央まんなか炭火すみびきてその周圍まはりせるに、ペトロもそのなかたりき。 56一人ひとり下女げぢよかれあかりせるをこれ熟視みつめ、このひとかれともりき、とひければ、 57ペトロイエズスをいなみて、をんなよ、われかれらず、とへり。 58少頃しばらくありて、また一人ひとりをとこペトロをて、なんぢ彼等かれら一人ひとりなり、とひしに、ペトロ、ひとよ、われしからず、とへり。 59およそいち時間じかんて、また一人ひとり言張いひはりて、このひとかれともなひたりき、これもガリレアじんなれば、とひしに 60ペトロは、ひとよ、われなんぢところらず、とひしが、いまいひをはらざるににわとりたちまうたへり。 61このときしゆ回顧ふりかへりて、ペトロをたまひしかば、ペトロは、にわとりうたはぬまへなんぢたびわれいなまん、とのたまひたりししゆ御言おんことばおもひおこし、 62そとでていたなきいだせり。 63まもれる人々ひとびと、イエズスをちて嘲笑あざわらひ、 64おんおほひて御顏おんかほち、ひて、預言よげんせよ、なんぢてるはたれなるぞ、とひ、 65なほこれむか冒涜ばうとくして、樣々さまざまことたり。 66よるくるとともに、民間みんかん長老ちやうらう司祭しさいちやう律法りつぱふ學士がくしあひあつまり、イエズスをその衆議所しゆうぎしよきて、なんぢはキリストなるか、われげよ、とひしかば、 67イエズス彼等かれらのたまひけるは、われなんぢぐとも、なんぢわれしんぜじ、 68またわれふともわれこたへず、またわれはなたじ、 69れどもいまよりのちひと全能ぜんのうましまかみみぎらん、と。みなひけるは、しからばなんぢかみなるかと。 70イエズス、なんぢへるがごとし、われそれなり、とのたまひしかば、 71彼等かれらひけるは、われなんなほ證據しようこえうせんや、みづかそのくちよりけるものを、と。

第23章 編集

1かく群衆ぐんしゆう一同いちどう立上たちあがりて、イエズスをピラトのもと引行ひきゆき、 2これうつたへていひいだしけるは、われこのひとわが國民こくみんまどはし、セザルにぜいをさむることきんじ、おのれわうたるキリストなりとへるをみとめたり、と。 3ピラトイエズスにひて、なんぢはユデアじんわうなるか、とひしかば、こたへて、なんぢへるがごとし、とのたまへり。 4ピラト司祭しさいちやう群衆ぐんしゆうとにむかひ、われこのひとつみみとめず、とひしかど、 5彼等かれらますます言張いひはりて、かれはガリレアをはじこのいたまで、ユデアの全國ぜんこくをしへつつ、人民じんみん煽動せんどうす、とへり。 6ピラトガリレアときて、このひとはガリレアじんなるかとひ、 7そのヘロデがけんものなるをるや、かれ當時たうじエルザレムにりければ、イエズスをヘロデのもとおくれり。 8ヘロデはイエズスをおほいによろこべり、これかつかれきておほところありて、ひさしくこれはんことねがひ、かれによりておこなはるる不思議ふしぎんことをのぞたればなり。 9かくおほくのことばもつひしかど、イエズスなにをもこたたまはず、 10司祭しさいちやう律法りつぱふ學士がくしかたはらちてしきりこれうつたへければ、 11ヘロデその兵士へいしとも侮辱ぶじよくくはへ、しろ衣服いふくせてこれ調戲なぶり、つひにピラトにおくりかへせり。 12ヘロデとピラトとはかつあひしうてきたりしが、このよりして朋友ほういうとなれり。 13ピラト、司祭しさいちやう官吏くわんり人民じんみんとを呼集よびあつめて 14ひけるは、なんぢこのひとを、人民じんみんまどはすものとして、われ差出さしいだせり。しかれどもよ、われこれなんぢまへ審問しんもんすれども、なんぢうつたふるしよけんきては、すこしこれつみ見出みいださず、 15ヘロデもまたしかり、すなはわれなんぢかれもとさしまはしたりしに、あたるべき何等なんら處分しよぶんもなかりしなり、 16ゆゑわれらしてこれゆるさんとす、と。 17祭日さいじつあたりては一人ひとり人民じんみんゆるさざるをざりければ、 18群衆ぐんしゆう一同いちどうさけびて、このひとのぞきて、われにバラバをゆるせ、とへり。 19バラバとは、市中しちゆうおこりし一揆いつき人殺ひとごろしとのために、監獄かんごくれられたるものなり。 20ピラトはイエズスをゆるさんとほつして、ふたた彼等かれらかたりしかども、 21彼等かれらまたさけびて、これ十字架じふじかけよ、十字架じふじかけよ、とたり。 22ピラトたび彼等かれらむかひて、このひとなん惡事あくじをかしたる、われすこし死罪しざいみとめざれば、こらしてこれゆるさんとす、とひたるに、 23彼等かれらこゑたかく、しきり十字架じふじかけんこともとめ、そのこゑいよいよはげしければ、 24ピラト彼等かれらもとめおうぜんとけつし、 25そのもとむるままに、かの人殺ひとごろし一揆いつきため監獄かんごくれられたるものゆるし、イエズスをば、彼等かれらまかせたり。 26彼等かれらイエズスを引行ひきゆとき田舎ゐなかよりかかれるシモンとへるシレネじんとらへ、ひてイエズスにあときて十字架じふじかになはせたり。 27おびただしき人民じんみんおよびイエズスのおん身上みのうへなき*かこてる婦人ふじんそのあとしたがひければ、 28イエズスこれかへりみてのたまひけるは、エルザレムのむすめよ、わがみのうへくことなかれ、おのれおの子等こどもとのみのうへけ。 29よ、まさきたらんとす、そのとき人々ひとびとはん、石女うまずめなるものいままざるはらいまませざる乳房ちぶささいはひなりと、 30そのときまたやまむかひては、われうへちよとひ、おかむかひては、われおほへといひいださん、 31けだし生木なまきすららるれば、枯木かれき如何いかにからるるべき、と。 32二人ふたり罪人つみびところさるべきにて、イエズスとともかれつつありしが、 33髑髏されこうべ(カルヴァリオ)とへるところいたりて、イエズスを十字架じふじかけ、かの强盜がうとうをも、一人ひとりみぎに、一人ひとりひだりに、はりつけにしたり。 34かくてイエズスは、ちちよ、彼等かれらところらざるものなれば、これゆるたまへ、とのたまひけるに、彼等かれらはイエズスの衣服いふくわかちてくじとりにせり。 35人民じんみんちてながたりしが、かしらども彼等かれらともにイエズスをあざけりて、かれ他人たにんすくへり、はたしてかみよりえらまれたるキリストならば、おのれすくふべし、とひ、 36兵卒へいそつまたこれあざけりつつ、ちかづきて差出さしいだし、 37なんぢもしユデアじんわうならばおのれすくへ、とたり。 38イエズスのうへには、ギリシア、ラテンおよびヘブレオの文字もじにてきたる罪標すてふだありて、「これユデアじんわうなり」とありき。 39かのられたる强盜がうとううち一人ひとり冒涜ばうとくして、なんぢキリストならば、おのれわれとをすくへ、とへるに、 40一人ひとりこたへてこれとがめ、なんぢおな刑罰けいばつけながら、なほかみおそれざるか、 41われおの所爲しわざあたむくいくるものなれば當然たうぜんなれども、このひとなんあくをもしたることなし、とひて、 42またイエズスにむかひ、しゆよ、御國みくにいたたまはんときわれ記憶きおくたまへ、とひけれは、 43イエズスのたまひけるは、われまことなんぢぐ、今日けふなんぢわれとも樂園らくえんるべし、と。 44ときほとんど十二なりしが、三いたるまで、地上ちじやうあまね暗黑くらやみり、 45くらみて、神殿しんでんまくなかよりけたり。 46イエズスこゑたかよばはりて、ちちよ、わがれい御手みてたくたてまつる、とのたまひしが、のたまひつついきたまへり。 47百夫ひやくふちやうこと顛末てんまつて、かみ光榮くわうえいし、このひと義人ぎじんなりき、とひしが、 48この慘狀さんじようたちひて、こと次第しだいたる群衆ぐんしゆうも、みなおのむねちつつかへりたり。 49れどイエズスの知人ちじんおよびガリレアよりしたがひたりし婦人ふじんたちはるかちてことやうながたり。 50をりしも、議員ぎゐん一人ひとりにユデアのまちなるアリマラアのヨゼフとなづくるひとあり、ただしき善人ぜんにんにして、 51彼等かれら決議けつぎおよび處分しよぶん同意どういせず、おのれかみくにりしが、 52ピラトのもといたりてイエズスのおんしかばねもとめ、 53とりおろしてぬのつつみ、いしほり穿うがちてつくりたるはかの、いまたれをもほうむりしことなきにをさめたり。 54あたか用意よういにして安息日あんそくじつあかつきなりしが、 55ガリレアよりイエズスにともなきたりし婦人ふじんあとしたがひて、そのはかとイエズスのおんしかばねかれたる狀態ありさまとを56かへりて香料かうれうおよび香油かうゆ支度したくせしかと、安息日あんそくじつあひだおきてしたがひてやすめり。

第24章 編集

1安息日あんそくじつ翌日あくるひ婦人ふじんたち支度したくせし香料かうれうたづさへてあさはやはかいたり、 2はかよりいしまろばし退けられたるをて、 3うちりけるに、しゆイエズスのおんしかばねあたらざしかば、 4これ當惑たうわくしたりしが、をりしもかがやける衣服いふくけたる二人ふたりをとこ彼等かれらかたはらてり。 5彼等かれらおそれてうつむきたるに、その二人ふたりひけるは、なん生者せいしや死者ししやうちたずぬるや、 6かれ此處ここいまさず、復活ふくくわつたまへり。おもひいだせ、いまだガリレアにたまひしとき如何いかなんぢかたりしかを。 7すなはち、ひとかなら罪人ざいにんわたされ、十字架じふじかけられ、三日みつか復活ふくくわつすべし、とのたまひしなり、と。 8婦人ふじんたちこの御言おんことばおもひいだし、 9はかよりかへりて、一切いつさいことを十一使徒しとおよ人々ひとびとげたり。 10使徒しとたちげしは、マグダレナ、マリアとヨハンナとヤコボのははマリアおよともなへる婦人ふじんたちなりしが、 11そのことば荒誕たはごとやうおぼえて、使徒しとたちこれしんぜざりき。 12れどペトロはちてはかはしりき、かがめてただぬののみかれたるをしかば、りし次第しだいこころあやしみつつれり。 13同日おなじひ弟子でし二人ふたり、エルザレムよりおよそさんへだてたる、エンマウスとなづくるむら途中みちすがら14このおこりたるすべてのことかたりたりしが、 15かたりひて僉議せんぎしつつあるほどに、イエズスおんみづからもちかづきて、彼等かれらともなたまへり。 16れど彼等かれらこれみとめざるやうおほはれてありき。 17かく彼等かれらむかひ、なんぢあゆみながらかたりひつつかなしめるはなんものがたりぞ、とのたまひしかば、 18をクレオファとへる一人ひとりこたへてひけるは、なんぢひとりエルザレムにおけ旅人りよじんにして、このごろ彼處かしこおこりしことらざるか、と。 19イエズス何事なにごとぞ、とのたまひしに彼等かれらひけるは、ナザレトのイエズスのことなり、かれ預言よげんしやにして、言行げんかうともにかみ一般いつぱん人民じんみんとにたいして勢力せいりよくありしが、 20わが大司祭だいしさいおよ首領かしらたちは、これ死罪しざい言渡いいわたして十字架じふじかけたる次第しだいなり。 21われは、かれこそイスラエルをあがなふべきものなれと、待設まちまうたりしが、このことありてより今日けふはや三日みつかなり。 22われうちある婦人ふじんまたわれおどろかせたり、すなは彼等かれら未明みめいはかいたりしに、 23イエズスのおんしかばねあたらず、しか天使等てんしたちあらはれて、かれたまへりとぐるをたり、とひつつきたれり、 24かくわれうちよりある人々ひとびとはかきしに、婦人ふじんひしごとくなるをしも、かれをば見付みつけざりき、と。 25イエズス彼等かれらのたまひけるは、嗚呼ああおろかにして預言よげんしやたちかたりしすべてのことしんずるにこころにぶものよ、 26キリストは、これくるしみけてしかしておの光榮くわうえいるべきものならざりしか、と。 27かくてモイゼおよもろもろ預言よげんしやはじめ、すべての聖書せいしよきて、おのれくわんするところ彼等かれら說明せつめいたまひしが、 28彼等かれらそのところむらちかづきしとき、イエズスゆきぎんとするもののごとくにしたまへるを、 29彼等かれらひて、すでかたむきてれんとすれば、われともとどまたまへ、とひしかばともたまへり。 30かくとも食卓しよくたくたまへるに、ぱんりてこれしゆくし、きて彼等かれらさづたまひければ、 31彼等かれらひらけてイエズスをみしりしが、たちまちにしてそのよりたまへり。 32彼等かれらかたりひけるは、路次みちすがらかたりつつ聖書せいしよわれ說明ときあかしたまへるあひだわれこころむねうちねつしたりしにあらずや、と。 33ときうつさず、たちあがりてエルザレムにかへれば、十一使徒しとおよともなへる人々ひとびとすであつまりて、 34しゆ復活ふくくわつしてシモンにあらはたまひたり、とれるにひ、 35おのれまた途中とちゆうにておこりしことおよぱんたまひしときしゆみとめし次第しだいかたれり。 36これことかたほどに、イエズスその眞中まんなかちて、なんぢやすかれ、われなるぞ、おそるることなかれ、とのたまひければ、 37彼等かれらおどろおそれて、幽靈いうれいたりとおもへるを、 38イエズスのたまひけるは、なんぢなん取亂とりみだしてこころ種々さまざまおもひおこすや。 39わがわがあしよ、すなはわれ自身じしんなり、こころみよ、幽靈いうれいは、なんぢわれおいごと骨肉こつにくあるものあらず、 40のたまひて手足てあし彼等かれらしめたまへり。 41彼等かれら歡喜よろこびあまり驚嘆きやうたんしつつも、なほしんぜざりければ、イエズス、ここしよくすべきものありや、とのたまひ、 42彼等かれら燒魚やきざかな一片ひときれと、ひとふさ蜂蜜はちみつとをていしたるに、 43彼等かれらまへにてしよくたまひ、のこりりて彼等かれらあたたまへり。 44彼等かれらのたまひけるは、これいまなんぢともりしときに、モイゼの律法りつぱふ預言よげんしやたちしよ詩篇しへんとに、われくわんしてかきしるしたることは、ことごと成就じやうじゆせざるべからず、となんぢかたりしことなり、と。 45ここおい聖書せいしよさとらしめんために、彼等かれら精神せいしんひらきてのたまひけるは、 46かきしるされたるところかくごとく、またキリストはくるしみけて、死者ししやうちより三日みつか復活ふくくわつすること、かくごとくなるべかりき。 47また改心かいしんつみゆるしとは、エルザレムをはじめ、すべての國民こくみんに、そのりて宣傳のべつたへられざるべからず、 48なんぢこのこと證人しようにんなり。 49われちちやくたまへるものをなんぢつかはさんとす、なんぢてんよりの能力のうりよくせらるるまで市中しちゆうとどまれ、と。 50イエズスつひ彼等かれらをベタニアにともなひ、げてこれしゆくたまひしが、 51しゆくしつつ彼等かれらはなれて、てんげられたまひぬ。 52彼等かれらこれはいたてまつり、おほいなるよろこびもつてエルザレムにかへりしが、 53それよりつねに[しん]殿でんりて、かみしようさんかつしゆくたてまつりつつありき、アメン。