一 我等の中に明に知られたる事、
二 即始より言の實見者及び役者たりし者が我等に傳へたる事に就きて、多くの者が手を擧げて傳記を作るに因り、
三 尊憲なるフェオフィルよ、我も凡の事を始より審に推し原ね、次第を以て爾の爲に書さんことの思を起せり、
四 爾が學びたる敎の堅き基を知らん爲なり。
五 イウデヤの王イロドの時、アワィヤの班に屬する司祭にザハリヤと名づくる者あり、其妻はアアロンの裔にして、名をエリサワェタと云ふ。
六 二人ながら神の前に義なる者にして、主の一切の誡命禮儀を虧くるなく行へり。
七 彼等に子なかりき、エリサワェタは妊まざる者たりし故なり、二人共に年已に老いたり。
八 ザハリヤが其班の次に依りて、司祭の職を神の前に行ふに値りて、
九 司祭の例に循ひ、籤を掣きて、主の殿に入りて、香を焚くを得たり。
一〇 香を焚く時、衆民外に在りて禱れり。
一一 主の天使ザハリヤに現れて、香壇の右に立てり。
一二 ザハリヤ之を見て、驚き且懼れたり。
一三 天使彼に謂へり、ザハリヤ懼るる勿れ、蓋爾の祈禱は聞かれたり、爾の妻エリサワェタ子を生まん、爾之をイオアンと名づけん。
一四 爾には喜と樂とあらん、且多くの者は其生るるに因りて悦ばん。
一五 蓋彼は主の前に大なる者とならん、酒と諸醪とを飮まず、其母の胎よりして聖神゜に充てられん。
一六 彼はイズライリの諸子の多くの者を轉じて、主彼等の神に歸せしめん。
一七 彼はイリヤの精神と能力とを以て主の前に行かん、父の心を子に、逆ふ者を義者の智慧に歸らしめて、備へられたる民を主に進めん爲なり。
一八 ザハリヤ天使に謂へり、我何を以て之を知らん、蓋我老いたり、我が妻も年邁けり。
一九 天使彼に答へて曰へり、我はガウリイル、神の前に立つ者なり、使を奉じて爾に告げ、爾に此の福音を爲す。
二〇 視よ、爾瘖となり、言ふ能はずして、此の事の成る日に至らん、我が言を信ぜざりし故なり、是の言は時に及びて必應はん。
二一 時に民はザハリヤを候ちて、其殿の内に久しく在るを奇めり。
二二 遂に出でて彼等に言ふ能はざれば、乃其殿の内に異象を見しことを曉れり、彼は首を以て彼等に意を示し、而して瘖たりき。
二三 其職事の日滿つるに及びて、家に歸れり。
二四 此の日の後、其妻エリサワェタ妊みて、隱れ居りしこと五月にして曰へり、
二五 主は斯く我に爲せり、彼は此の日に於て我を眷みて、我が耻を人々の間に洒がしめたり。
二六 第六月に於て、天使ガウリイルは神より使を奉じて、ガリレヤの邑ナザレトと名づくる所に、
二七 ダワィドの家の人、名はイオシフと云ふ者に聘せられたる處女に臨めり、處女の名はマリヤなり。
二八 天使入りて、之に謂へり、恩寵を蒙れる者、慶べよ、主は爾と偕にす、爾は女の中に祝福せられたり。
二九 女彼を見て、其言を訝り、此の問安は何事ならんと思へり。
三〇 天使之に謂へり、マリヤ懼るる勿れ、蓋爾は神の前に恩寵を獲たり。
三一 視よ、爾妊みて子を生まん、其名をイイススと名づけん。
三二 彼は大なる者となりて、至上者の子と稱へられん、主神は彼に其祖ダワィドの位を與へん、
三三 彼は世々イアコフの家に王となりて、其國終なからん。
三四 マリヤ天使に謂へり、我人に適かざるに、如何にして此の事あらん。
三五 天使彼に答へて曰へり、聖神゜爾に臨み、至上者の能爾を蔭はん、故に生む所の聖なる者も神の子と稱へられん。
三六 視よ、爾の親戚エリサワェタ年老いて子を妊めり、素妊まざる者と稱せられしに、今已に六月なり。
三七 蓋神に在りては凡そ其言ふ所能はざることなし。
三八 マリヤ曰へり、我は主の婢なり、爾の言の如く、我に成るべし。天使彼を離れたり。
三九 當日マリヤ立ちて、亟に山地に適き、イウダの邑に至り、
四〇 ザハリヤの家に入りて、エリサワェタに安を問へり。
四一 エリサワェタ マリヤの安を問ふを聞きし時、胎兒其腹の内に躍れり。エリサワェタ聖神゜に滿てられ、
四二 大聲に呼びて曰へり、爾は女の中に祝福せられたり、爾の腹の果も祝福せられたり。
四三 我が主の母我に臨めり、我何より此を得たるか。
四四 蓋爾が安を問ふ聲の我が耳に入りし時、胎兒我が腹の内に喜び躍れり。
四五 信ぜし者は福なり、蓋主より彼に告げられし事は必成らん。
四六 マリヤ曰へり、我が靈は主を崇め、
四七 我が神゜は神我が救主を悦べり、
四八 蓋其婢の卑しきを顧みたり、今より後、萬世我を福なりと謂はん。
四九 蓋權能者は我に大なる事を爲せり、其名は聖なり、
五〇 其矜恤は世々彼を畏るる者に臨まん。
五一 彼は其臂の力を顯し、心の意の驕れる者を散らせり。
五二 權ある者を位より黜け、卑しき者を擧げ、
五三 飢うる者を善き物に飽かしめ、富める者は空しく返らしめたり。
五四 其僕イズライリを納れて、
五五 我が先祖に告げしが如く、アウラアムと其裔とを世々に恤まんことを記念せり。
五六 マリヤはエリサワェタと共に居りしこと三月にして、其家に歸れり。
五七 エリサワェタに産期届りて、乃子を生めり。
五八 彼の近隣と親戚とは、主が其大なる矜恤を彼に埀れしを聞きて、彼と偕に喜べり。
五九 第八日に及びて、子に割禮を行はん爲に來り、之を其父の名に依りて、ザハリヤと名づけんとせしに、
六〇 其母答へて曰へり、否之をイオアンと名づく可し。
六一 彼等曰へり爾が親戚の中に一人も此の名を名づくる者なし。
六二 遂に其父に形を以て如何に之を名づけんと欲するを問ひしに、
六三 彼簡を請ひて書して曰へり、其名はイオアンなりと、皆之を奇とせり。
六四 直に其口啓け、舌解け、彼言を發して、神を祝讃せり。
六五 其近隣の者皆懼れ、且此等の事徧くイウデヤの山地に揚がれり。
六六 凡そ聞きし者其心に之を藏めて曰へり、此の子は如何にならんと、主の手は彼と偕にせり。
六七 其父ザハリヤ聖神゜に滿てられ、預言して曰へり、
六八 祝讃せらるる哉主、イズライリの神、蓋其民を眷みて、之に購を爲し、
六九 我等の爲に救の角を其僕ダワィドの家に興せり、
七〇 古世より其聖なる預言者の口を以て言ひしが如し、
七一 即我等を我が諸敵及び凡そ我等を惡む者の手より救ひ、
七二 以て矜恤を我が先祖に施し、其聖なる約、
七三 即我が祖アウラアムに矢ひたる誓を記念せん、
七四 謂ふ、我等に我が諸敵の手より救はれし後、
七五 懼なく、彼の前に在りて、聖を以て、義を以て、生涯彼に事へしめんと。
七六 子よ、爾も至上者の預言者と稱へられん、蓋主の面前に行きて、其道を備へ、
七七 彼の民に、其救は即諸罪の赦にして、我が神の矜恤に因ることを知らしめん。
七八 此の矜恤に因りて、東旭は上より我等に臨めり、
七九 幽暗と死の蔭とに坐する者を照し、我等の足を平安の道に向はしめん爲なり。
八〇 子は漸く成長し、精神益強健にして、其イズライリに顯るる日に至るまで野に居りき。
一 彼の日ケサリ アウグストより詔出でて、天下の人を咸く籍に登らしむ。
二 此の籍はキリニイのシリヤを治むる時、初めて行はれし者なり。
三 是に於て衆人籍に登らん爲に、各其邑に往けり。
四 イオシフも又ダワィドの宗族と血統となるを以て、
五 マリヤ其聘せられたる妻、已に孕める者と偕に、籍に登らん爲に、ガリレヤの邑ナザレトより、イウデヤに、ダワィドの邑ワィフレエムと名づくる處に往けり。
六 彼等が彼處に在る時に、産日届れり。
七 乃其冢子を生み、之を襁褓に裏みて、槽に置けり、旅館には彼等の爲に居る所なかりし故なり。
八 此の地に牧者あり、夜間野に於て其羊の群を守れり。
九 視よ、主の天使彼等の前に立ち、主の光栄彼等を環り照せり、彼等大に懼れたり。
一〇 天使彼等に謂へり、懼るる勿れ、蓋視よ、我爾等に大なる喜、萬民に及ばんとする者を福音す、
一一 今日爾等の爲にダワィドの邑に於て、救主即主ハリストス生れたり。
一二 爾等襁褓に裏まれたる嬰兒の槽に臥せるを見ん、是れ其徴なり。
一三 倐天使と偕に衆くの天軍あり、神を讃美して曰へり、
一四 至高きには光栄神に歸し、地には平安降り、人には恵臨めり。
一五 天使等が彼等を離れて天に升りし時、牧者互に言へり、ワィフレエムに往きて、彼處に成りし事、主が我等に示しし所を見ん。
一六 乃急ぎ來りて、マリヤとイオシフ及び槽に臥せる嬰兒を見たり。
一七 既に見て、此の兒に関して彼等に告げられし事を語れり。
一八 聞きし者皆牧者が語りし事を奇とせり。
一九 惟マリヤは此等の言を悉く其心に藏めて、之を守れり。
二〇 牧者は、凡そ彼等に告げられし如く、聞きし事見し事の爲に、神を讃栄讃美して返れり。
二一 八日滿ちて、嬰兒に割禮を行ふべき時至りたれば、其名をイイススと名づけたり、即其未だ孕まれざる先に天使の名づけし所なり。
二二 モイセイの律法に依りて、潔の日の滿つるに及び、嬰兒を攜へてイエルサリムに上れり、之を主に奉らん爲なり。
二三 主の律法に録されしが如し、曰く、凡そ初めて胎を開く男子は主に聖なりと稱へらるべしと。
二四 又主の律法に言ふ所に依りて、双の班鳩或は二の雛鴿を祭に献げん爲なり。
二五 視よ、イエルサリムにシメオンと名づくる人あり、斯の人義にして敬虔なり、イズライリを慰むる者を俟ち、而して聖神゜彼に臨めり。
二六 彼に、聖神゜に由りて、主のハリストスを見ざる先には、死を見ざらんと示されたり。
二七 彼神に依りて殿に來れり、父母が嬰兒イイススを攜へて、之に律法の例を行はん爲に入りし時、
二八 彼は嬰兒を其手に取り、神を祝讃して曰へり、
二九 主宰よ、今爾の言に循ひて、爾の僕を釈し、安然として逝かしむ。
三〇 蓋我が目は爾の救を見たり、
三一 爾が萬民の前に備へし者なり、
三二 是れ異邦人を照す光、及び爾の民イズライリの栄なり、
三三 イオシフ及び嬰兒の母は彼に関して言はるる事を奇とせり。
三四 シメオン彼等を祝福して、其母マリヤに謂へり、視よ、此の子は置かれて、イズライリの中に衆くの者の頽れ又は興るを致し、且駁論の号と爲らん、
三五 衆くの心の念の露れん爲なり、爾にも剣は靈を貫かん。
三六 又預言女アンナあり、アシルの支派ファヌイルの女なり、處女の時より夫と偕に居りしこと七載、年大に老いたり、
三七 齢約八十四の嫠にして、殿を離れず、斎と祈禱とを以て昼夜奉事せし者なり。
三八 彼も斯の時來り就きて、主を讃栄し、且此の嬰兒の事を凡そイエルサリムに在りて贖を俟つ者に語れり。
三九 既に主の律法に遵ひ、悉く之を竟へてガリレヤの故邑ナザレトに歸れり。
四〇 子は漸く成長し、精神益強健にして、智慧充ち、神の恩寵は彼に臨めり。
四一 其父母歳毎に逾越節筵にイエルサリムに往けり。
四二 彼の十二歳になりし時、亦節筵の例に遵ひて、イエルサリムに上りしに、
四三 日卒りて返る時、童子イイスス イエルサリムに留れり。イオシフと其母とは之を知らずして、
四四 彼は同行者の中に在りと意へり、一日程を行きて、彼を親戚知己の間に尋ねしに、
四五 遇はざりき、乃彼を尋ねてイエルサリムに返れり。
四六 三日の後彼に殿に遇へるに、彼敎師の中に坐して、且聴き、且問へり。
四七 彼に聞く者皆其智慧と其應対とを奇とせり。
四八 父母彼を見て駭けり、其母彼に謂へり、兒よ、何ぞ我等に斯く行ひたる、視よ、爾の父と我と憂ひて爾を尋ねたり。
四九 彼曰へり、奚ぞ我を尋ねたる、豈我は我が父に屬する所に在るべきを知らずや。
五〇 然れども彼等は其言ひし言を曉らざりき。
五一 イイスス彼等と偕に下りて、ナザレトに來り、彼等に順ひ居りき。彼の母は此等の言を悉く其心に藏めたり。
五二 イイススは智慧と齢と神及び人々の寵愛とに益進めり。
一 ティワェリイ ケサリ在位の十五年、ポンティイ ピラト イウデヤの方伯たり、イロド ガリレヤの分封の君たり、其兄弟フィリップ イトゥレヤ及びトラホニダの地の分封の君たり、リサニイ ワィリニヤの分封の君たり、
二 アンナ及びカイアファの司祭長たる時、神の言はザハリヤの子イオアンに野に臨めり。
三 彼はイオルダンの近傍を周く行きて、罪の赦の爲に悔改の洗禮を傳へたり、
四 預言者イサイヤの言の書に録せるが如し、云く、野に呼ぶ者の聲ありて云ふ、主の道を備へ、其径を直くせよ、
五 凡の谷は填められ、凡の山と岡とは卑くせられ、曲れるは直くせられ、険しきは平にせられん、
六 而して凡の肉身は神の救を見んと。
七 イオアンは洗を受くる爲に來れる民に謂へり、蝮の類よ、誰か爾等の将來の怒を避くることを示したる、
八 然らば悔改に合ふ果を結べ、自ら意ひて、我等の父はアウラアムなりと云ふ勿れ、蓋我爾等に語ぐ、神は此の石よりアウラアムの爲に子を興すを能す。
九 既に斧も樹の根に置かる、凡そ善き果を結ばざる樹は、斫られて火に投げられん。
一〇 民彼に問ひて曰へり、然らば我等何を爲すべきか。
一一 彼答へて曰へり、二の衣を有てる者は有たざる者に與へよ、食を有てる者も然せよ。
一二 税吏も亦洗を受くる爲に來りて、彼に謂へり、師よ、我等何を爲すべきか。
一三 彼答へて曰へり、爾等に定められたる者より多く取る勿れ。
一四 軍士も亦彼に問ひて曰へり、我等何を爲すべきか。彼等に謂へり、人を劫す勿れ、誣ふる勿れ、爾等の俸給を以て足れりとせよ。
一五 民が望を懐きて、皆其心に、イオアンを是れハリストスに非ずやと度りし時、
一六 イオアン衆に答へて曰へり、我水を以て爾等に洗を授く、然れども更に我より強き者は來る、我其履の帯を解くにも堪へず、彼は聖神゜及び火を以て爾等に洗を授けん。
一七 其箕は其手に在り、彼は其禾場を浄めて、麦を其倉に斂め、糠を滅えざる火に燬かん。
一八 其他多くの事を敎へて民に福音せり。
一九 分封の君イロド、其兄弟の妻イロデアダの爲、及び凡そイロドの行ひし惡の爲に、彼に責められて、
二〇 凡の事に又之を増せり、即イオアンを獄に閉せり。
二一 民皆洗を受くるとき、イイススも亦洗を受けて祈れるに、天開けて、
二二 聖神゜見ゆる形を以て、鴿の如く其上に降れり、且天より聲ありて曰へり、爾は我の至愛の子、我爾を喜べり。
二三 イイスス其務を始むる時、年約三十なり。人彼を以てイオシフの子と爲せり。イオシフの父はイリイ、
二四 其父はマトファト、其父はレワィ、其父はメルヒ、其父はイアンナ、其父はイオシフ、
二五 其父はマッタフィイ、其父はアモス、其父はナウム、其父はエスリム、其父はナゲイ、
二六 其父はマアフ、其父はマッタフィイ、其父はセメイ、其父はイオシフ、其父はイウダ、
二七 其父はイオアンナ、其父はリサ、其父はゾロワワェリ、其父はサラフィイリ、其父はニリ、
二八 其父はメルヒ、其父はアディイ、其父はコサム、其父はエルモダム、其父はイル、
二九 其父はイオシイ、其父はエリエゼル、其父はイオリム、其父はマトファト、其父はレワィ、
三〇 其父はシメオン、其父はイウダ、其父はイオシフ、其父はイオナン、其父はエリアキム、
三一 其父はメレア、其父はマイナン、其父はマッタファ、其父はナファン、其父はダワィド、
三二 其父はイエッセイ、其父はオワィド、其父はワォヲズ、其父はサルモン、其父はナアッソン、
三三 其父はアミナダフ、其父はアラム、其父はエスロム、其父はファレス、其父はイウダ、
三四 其父はイアコフ、其父はイサアク、其父はアウラアム、其父はファラ、其父はナホル、
三五 其父はセルフ、其父はラガフ、其父はファレク、其父はエワェル、其父はサラ、
三六 其父はカイナン、其父はアルファクサド、其父はシム、其父はノイ、其父はラメフ、
三七 其父はマフサラ、其父はエノフ、其父はイアレド、其父はマレレイル、其父はカイナン、其父はエノス、其父はシフ、其父はアダム、其父は神なり。
一 イイスス聖神゜に滿てられて、イオルダンより歸り、神゜に導かれて野に適き、
二 四十日の間惡魔に試みられたり。此の諸日には一切食はざりき、其卒るに及びて遂に飢ゑたり。
三 惡魔彼に謂へり、爾若し神の子ならば、此の石に命じて、餅と爲らしめよ。
四 イイスス之に答へて曰へり、録せるあり、人は惟餅のみを以て生くべきに非ず、乃凡の神の言を以てす。
五 惡魔彼を攜へて、高き山に登り、瞬の間に世界の萬國を示して、
六 彼に謂へり、此等の一切の權威と栄華とを爾に與へん、蓋此れ我に委ねられたり、我欲する者に之を與ふ。
七 故に爾若し我を拝せば、悉く爾の有とならん。
八 イイスス之に答へて曰へり、サタナ、我より退け、蓋録せるあり、主爾の神を拝せよ、独彼のみに事へよと。
九 又彼を攜へて、イエルサリムに至り、殿の頂に立たしめて、彼に謂へり、爾若し神の子ならば、自ら是より下に投ぜよ、
一〇 蓋録せるあり、爾の爲に其天使に命じて、爾を護らしめん、
一一 彼等其手にて爾を抱へて、爾の足を石に躓かざらしめんと。
一二 イイスス之に答へて曰へり、言へるあり、主爾の神を試みる勿れと。
一三 惡魔は既に其誘試を尽して、暫く彼を離れたり。
一四 イイスス神の能を滿てて、ガリレヤに歸れり、其聲名徧く四方に播れり。
一五 彼其諸会堂に於て敎を宣べ、衆人に讃栄せられたり。
一六 彼は其養育せられし所のナザレトに來り、安息の日に、其常例に依りて、会堂に入り、読まんと欲して起てり。
一七 預言者イサイヤの書を彼に與ふるあり、彼は書を披きて、左に録せる所を出せり、云く、
一八 主の神゜我に在り、蓋彼は我に膏して、貧しき者に福音せしめ、我を遣して、心の傷める者を医し、虜者に釈を、瞽者に見ることを傳へ、圧せらるる者に自由を與へ、
一九 主の禧年を傳へしめたりと。
二〇 乃書を掩ひ、役者に與へて坐せしに、会堂に在る者皆彼に目を注げり。
二一 彼宣べ始めて曰へり、此の爾等が聴きし所の書は今應へり。
二二 衆皆之を証し、且其口より出づる恩寵の言を奇として曰へり、是れイオシフの子に非ずや。
二三 イイスス彼等に謂へり、爾等必我に諺を引きて云はん、医師よ、己を医せ、我等が聞きし所、カペルナウムに行はれし事を、此に爾の故土にも行へと。
二四 又曰へり、我誠に爾等に語ぐ、預言者は其故土に在りて納れらるる者あらず。
二五 我真實に爾等に語ぐ、イリヤの日に、三年六月天閉ぢて、大なる飢饉全地に至りし時、イズライリの中に多くの嫠ありたれども、
二六 イリヤは其一人にも遣されざりき、唯シドンのサレプタにのみ、嫠なる婦に遣されたり。
二七 又預言者エリセイの時、イズライリの中に多くの癩病者ありたれども、其一人も潔められざりき、唯シリヤの子エマンのみ潔められたり。
二八 会堂に在る者此を聞きて、皆大に怒り、
二九 起ちて彼を邑の外に逐ひ、曳きて其邑の建てられたる山の崖に至り、彼を推し下さんとせしに、
三〇 彼は衆の中を過ぎて去れり。
三一 ガリレヤの邑カペルナウムに來り、安息日に於て彼等を敎へしに、
三二 人々其訓を奇とせり、其言に權ありし故なり。
三三 会堂に汚鬼に憑らるる人あり、大聲に呼びて曰へり、
三四 唉ナザレトのイイススよ、我等と爾と何ぞ與らん、爾は我等を滅さん爲に來りしか、我爾が誰なるを知る、乃神の聖なる者なり。
三五 イイスス彼を禁めて曰へり、口を緘ぢて、此の人より出でよ。魔鬼之を堂中に仆し、少しも之を傷はずして出でたり。
三六 衆皆驚きて、相語りて曰へり、是れ如何なる言ぞ、蓋彼權を以て、能を以て汚鬼に命じて、彼等出づ。
三七 其聲聞徧く地の四方に揚れり。
三八 彼会堂を出でて、シモンの家に入れり、シモンの岳母熱を病むこと甚し、人之が爲に彼に請へり。
三九 彼其傍に立ちて、熱を禁めたれば、乃退けり、婦直に起きて彼等に供事せり。
四〇 日の入る時、種々の病を患ふる者を有てる人、咸之を攜へて、彼に就きたるに、彼一一手を其上に按せて、之を医せり。
四一 魔鬼も亦多くの人より出でて、呼びて曰へり、爾は神の子ハリストスなり。然るに彼は之に禁めて、其ハリストスたるを識ることを言ふを許さざりき。
四二 朝に及びて、イイスス出でて、野の處に適けり、民彼を尋ね、彼に來りて、其彼等を離れ去らんことを止めたり。
四三 然れども彼は之に謂へり、我他の邑にも神の國を福音す可し、蓋し我是が爲に遣されたり。
四四 乃ガリレヤの諸会堂に於て敎を宣べたり。
一 民が神の言を聴かん爲に、彼に擁し逼りし時、彼ゲンニサレトの湖の浜に立ちて、
二 二の舟の湖に在るを見たり、漁者は舟を離れて網を洗へり。
三 彼はシモンに屬する一の舟に登りて、少しく岸より離れんことを請ひ、坐して舟より民を敎へたり。
四 語り竟りて、シモンに謂へり、深き處に移り、網を下して、漁せよ。
五 シモン対へて曰へり、夫子よ、我終夜労して、得る所なかりき、然れども爾の言に依りて、我網を下さん。
六 既に之を行ひて、魚を囲めること甚多く、網裂くるに至れり。
七 乃他の舟に在る侶を招きて、來り助けしむるに、彼等來りて、魚二の舟に牣ちて、幾ど沈まんとせり。
八 シモン ペトル之を見て、イイススの膝下に伏して曰へり、主よ、我を離れよ、我罪人なればなり。
九 蓋彼及び彼と偕に在りし者は、皆漁りたる魚の爲に甚驚けり、
一〇 シモンの侶たりしゼワェデイの子イアコフ及びイオアンも亦然り。イイスス シモンに謂へり、懼るる勿れ、今より後爾人を漁らん。
一一 彼等舟を岸に曳き、一切を舎てて、彼に従へり。
一二 イイスス一の邑に在りし時、全身癩病を患ふる人來り、イイススを見て、俯伏し、彼に求めて曰へり、主よ、爾若し望まば、我潔むるを能す。
一三 彼手を伸べて、之に触れて曰へり、我望む、潔まれ。癩病直に離れたり。
一四 イイスス彼に戒めて言ふ、人に告ぐる勿れ、乃往きて、己を司祭に示せ、且爾の潔まりし爲に、モイセイの命ぜし如く献じて、彼等に証を爲せ。
一五 然れども其聲名益播り、衆くの民は敎を聴き、又其諸病を医されん爲に彼に集れり。
一六 唯彼は退きて、野に適きて禱れり。
一七 一日彼敎を宣べしに、ファリセイ等と敎法師等と、ガリレヤの諸郷、イウデヤ、及びイエルサリムより來りし者は坐し、主の能は病者を医すことに於て顯れたり。
一八 視よ、人々癱瘋の者を牀に載せて、舁き來り、之を家に入れて、イイススの前に置かんと欲したれども、
一九 人の衆きに因りて、舁き入るる所を得ざれば、屋上に升り、瓦の間より、彼を牀のままに縋り下して、中にイイススの前に置けり。
二〇 イイスス彼等の信を見て、其人に謂へり、人よ、爾の罪は爾に赦さる。
二一 學士等及びファリセイ等窃に議して曰へり、此の褻涜を言ふ者は誰ぞ、独神より外に、誰が罪を赦すを得ん。
二二 イイスス彼等の意を知りて、彼等に答へて曰へり、爾等何ぞ心の中に議する、
二三 爾の罪は爾に赦さると言ひ、或は起きて行けと言ふは、孰か易き、
二四 然れども爾等が人の子の地に在りて罪を赦す權あることを知らん爲、(癱瘋の者に向ひて曰へり)、爾に謂ふ、起きて、爾の牀を取りて、爾の家に往け。
二五 彼直に彼等の前に置き、臥し居たる牀を取り、神を讃栄して、其家に往けり。
二六 衆皆駭きて、神を讃栄し、且大に懼れて曰へり、我等今日奇異なることを見たり。
二七 斯の後イイスス出でて、税吏、名はレワィイと曰ふ者の、税関に坐せるを見て、之に謂へり、我に従へ。
二八 彼一切を舎てて、起ちて、彼に従へり。
二九 レワィイ其家に於て彼の爲に大なる筵を設けしに、諸税吏及び他の者は多く彼等と與に席坐せり。
三〇 學士等とファリセイ等とは怨言して、彼の門徒に謂へり、爾等は何ぞ税吏及び罪人と與に食飮する。
三一 イイスス彼に答へて曰へり、康強なる者は医師を需めず、乃病を負ふ者は之を需む。
三二 我が來りしは、義人を召す爲に非ず、乃罪人を召して悔改せしめん爲なり。
三三 彼等イイススに謂へり、イオアンの門徒は屡斎して祈禱を爲す、ファリセイ等の門徒も亦然り、惟爾の門徒が食飮するは何ぞや。
三四 彼は之に謂へり、爾等は婚筵の客に新娶者の尚彼等と偕に在る時、豈斎せしむるを得んや。
三五 然れども新娶者の彼等より取らるる日至らん、其日には斎せん。
三六 又譬を設けて彼等に謂へり、新しき衣の布を取りて、旧き衣を補ふ者あらず、然らずば新しき衣をも裂き、且新しき者より取りたる布は旧き者と合はざらん。
三七 又新しき酒を旧き革嚢に盛る者あらず、然らずば新しき酒は嚢を敗りて、酒漏れ、嚢も亡びん。
三八 乃新しき酒は新しき嚢に盛るべし、然らば両の者存せん。
三九 又旧き酒を飮みて、直に新しきを欲する者あらず、蓋曰ふ、旧きは更に善し。
一 逾越節の二日の後の首の安息日に、イイスス禾田を過ぎ行けることあり、彼の門徒穂を摘み、手に摶みて食へり。
二 或ファリセイ等彼等に謂へり、爾等何ぞ安息日に行ふべからざることを行ふ。
三 イイスス之に答へて曰へり、爾等はダワィドが、己及び其従者の飢ゑし時、行ひし事、
四 即如何にして彼は神の家に入りて、司祭等の外何人も食ふべからざる供前の餅を取りて食ひ、且之を其従者に與へしを読まざりしか。
五 又彼等に謂へり、人の子は亦安息日の主なり。
六 他の安息日に彼会堂に入りて、敎ふることありしに、彼處に右の手の枯へたる人ありき。
七 學士等とファリセイ等とは、彼が安息日に於て、斯の人を医すや否やを窺へり、彼を罪する間を得ん爲なり。
八 彼は其意を知りて、手の枯へたる人に謂へり、起きて、中に立て、彼起きて立てり。
九 イイスス彼等に謂へり、我爾等に問はん安息日には善を行ひ、或は惡を行ふ、生命を救ひ、或は之を滅す、孰か宜しき、彼等黙然たり。
一〇 遂に衆人を環視して、斯の人に謂へり、爾の手を伸べよ、彼斯く爲したれば、其手は健になりしこと他の手の如し。
一一 彼等狂ひ怒りて、互に何をイイススに爲さんと議れり。
一二 當日彼は祈禱の爲に山に登りて、終夜神に禱れり。
一三 夜の明くるに及びて、其門徒を召し、彼等の中より十二人を選びて、之を使徒と名づけたり。
一四 即シモン、名をペトルと命ぜし者、及び其兄弟アンドレイ、イアコフ及びイオアン、フィリップ及びワルフォロメイ、
一五 マトフェイ及びフォマ、アルフェイの子イアコフ及びシオン、稱してジロトと云ふ者、
一六 イアコフの兄弟イウダ及びイウダイスカリオト、即後に彼を売りし者なり。
一七 イイスス彼等と偕に下りて平地に立てり、爰に其衆くの門徒、及び衆くの民、イウデヤの四方イエルサリムならびににティルとシドンとの海浜よりして、
一八 彼に聴かん爲、且己の病の医されん爲に來りし者、又汚鬼を患ふる者ありき、彼等医されたり。
一九 衆民彼に捫らんと欲せり、蓋能彼より出でて、衆を医せり。
二〇 彼は目を擧げて、其門徒を視て曰へり、神゜の貧しき者は福なり、神の國は爾等の有なればなり。
二一 今飢うる者は福なり、爾等飽くを得んとすればなり。今泣く者は福なり、爾等笑ふを得んとすればなり。
二二 人の子の爲に人々爾等を憎み、爾等を絶ち、且詬り、爾等の名を惡しき者として棄つる時は、爾等福なり、
二三 其日に喜び樂めよ、天には爾等の賞多ければなり、蓋彼等の先祖は是くの如く預言者に行へり。
二四 然るに爾等富める者は禍なる哉、爾等既に慰を得たればなり。
二五 今飽きたる者は禍なる哉、爾等飢ゑんとすればなり。今笑ふ者は禍なる哉、爾等哀み哭かんとすればなり。
二六 人皆爾等の事を善く言はん時は、爾等禍なる哉、蓋彼等の先祖は是くの如く偽預言者に行へり。
二七 我爾等聴く者に語ぐ、爾等の敵を愛し、爾等を憎む者に善を爲し、
二八 爾等を詛ふ者を祝福し、爾等を虐ぐる者の爲に禱れ。
二九 爾の頬を批つ者には、他の頬をも向けよ、爾の外服を奪う者には、裏衣をも取ることを拒む勿れ。
三〇 凡そ爾に求むる者には與へ、爾の物を取る者は、復之を促す勿れ。
三一 人の爾等に行はんを欲する事は、爾等も是くの如く之を人に行へ。
三二 爾等若し爾等を愛する者を愛せば、爾等に何の感謝かあらん、蓋罪人等も彼等を愛する者を愛す。
三三 若し爾等に善を行ふ者に善を行はば、爾等に何の感謝かあらん、蓋罪人等も是くの如き事を行ふ。
三四 若し返さるる望ある者に借さば、爾等に何の感謝かあらん、蓋罪人等も数の如く返されん爲に罪人等に借すなり。
三五 然れども爾等敵を愛し、何をも望まずして善を行ひ、又借し與へよ、則爾等の賞は多からん、爾等至上者の子と爲らん、蓋彼は恩に負く者及び惡しき者に慈愛を施す。
三六 故に爾等慈憐なること、爾等の父の慈憐なるが如くなれ。
三七 人を議する勿れ、然らば議せられざらん、人を罪する勿れ、然らば罪せられざらん、人を恕せ、然らば爾等恕されん。
三八 人に與へよ、然らば爾等に與へられん、嘉き量を以て、押し容れ、揺すり容れ、充ち溢れしめて、爾等の懐に納れられん、蓋何の量を以てか人に量らば、之を以て爾等にも量られん。
三九 又彼等に譬を言へり、瞽は瞽を導くを得るか、二人ながら坑に陥らざらんや。
四〇 門徒は其師の上に在らず、凡そ全備したる者も其師の如くならん。
四一 爾何ぞ兄弟の目に物屑の在るを視て、己の目に梁木の在るを覚えざる、
四二 或は己の目に梁木の在るを視ずして、如何ぞ爾の兄弟に告げて、兄弟よ、我に爾の目に在る物屑を出すを容せと曰ふを得ん、偽善者よ、先づ梁木を己の目より出せ、其時如何に兄弟の目より物屑を出すべきを見ん。
四三 善き樹には惡しき果を結ぶ者なく、又惡しき樹には善き果を結ぶ者なし。
四四 凡の樹は其果に由りて識らる、蓋荊棘よりは無花果を摘まず、又蒺藜よりは葡萄を採らず。
四五 善き人は其心の善き宝庫より善き者を出し、惡しき人は其心の惡しき宝庫より惡しき者を出す、蓋心に充つる者は口に言ふなり。
四六 爾等何ぞ我を主よ、主よ、と稱へ、而して我が言ふ所を行はざる。
四七 凡そ我に來り、我が言を聞きて、之を行ふ者は、我其何人に似たるを爾等に示さん。
四八 彼は、家を建つるに、掘り且つ深くし、基を盤の上に置きたる人に似たり、洪水の有りし時、横流は其家を衝きたれども、之を動かす能はざりき、盤の上に基づけたればなり。
四九 聞きて行はざる者は、家を土の上に基なくして建てたる人に似たり、横流の之を衝きし時、直に倒れたり、且其家の頽壊は大なりき。
一 彼は悉く其言を民に聴かしめ畢りて、カペルナウムに入れり。
二 或百夫長、其愛する僕病みて死せんとせしに、
三 イイススの事を聞きて、イウデヤの長老等を彼に遣し、來りて其僕を医さんことを請へり。
四 彼等イイススに來たりて、切に彼に求めて曰へり、爾此の人の爲に此を爲すは宜しきなり、
五 蓋彼は我が民を愛し、我等の爲に会堂を建てたり。
六 イイスス彼等と偕に往きて、既に其家に遠からざる時、百夫長、友を遣して、彼に謂へり、主よ、労する勿れ、蓋爾が我の舎に入るは當らず。
七 故に我亦己を以て爾に就くに堪へずとせり、乃一言を出せ、然らば我が僕愈えん。
八 蓋我人の權に屬すれども、我が下に兵卒ありて、我此に往けと云へば往き、彼に來れと云へば來り、我が僕に是を行へと云へば行ふ。
九 イイスス之を聞きて、彼を奇として、顧みて、従へる民に謂へり、我爾等に語ぐ、イズライリの中にも我是くの如き信を見ざりき。
一〇 遣されし者家に歸りて病める僕の已に愈されしを見たり。
一一 其後イイスス ナインと名づくる邑に往けるに、其門徒の多人及び衆くの民は彼と偕に行けり。
一二 邑の門に近づきし時、彼處に死者の舁き出さるるあり、母の独の子にして、其母は嫠なり、邑の民多く彼と偕にせり。
一三 主彼を見て、憫みて、彼に謂へり、哭く勿れ。
一四 乃近づきて、ひつぎに触れたれば、舁く者止れり、彼曰へり、少者よ、爾に謂ふ、起きよ。
一五 死者起きて坐し、且言へり、イイスス之を其母に與へたり。
一六 衆皆懼れて、神を讃栄して曰へり、大なる預言者は我等の中に興れり、神は其民を眷みたり。
一七 彼に於ける此の聲聞はイウデヤの全國及び其四方に揚れり。
一八 イオアンの門徒は悉く此等の事を彼に告げたれば、
一九 イオアン其門徒の二人を召し、イイススに遣して曰へり、來るべき者は爾なるか、抑我等他の者を俟つべきか。
二〇 彼等イイススに來りて曰へり、授洗イオアン我等を爾に遣して云く、來るべき者は爾なるか、抑我等他の者を俟つべきかと。
二一 斯の時彼は多くの者を諸の疾、病及び惡鬼より医し、又多くの瞽者に見ることを賜へり。
二二 イイスス彼等に曰へり、往きて、見し所聞きし所をイオアンに告げよ、即瞽者は明き、跛者は歩み、癩者は潔まり、聾者は聴き、死者は起き、貧者は福音す。
二三 凡そ我の爲に惑はざる者は福なり。
二四 イオアンの使者が去りし後、イイスス イオアンの事を擧げて民に謂へり、爾等何を観んとして野に出でしか、風に動かさるる葦か、
二五 抑何を観んとして出でしか、柔き衣を衣たる人か、視よ、錦を衣て奢れる者は王の宮に在り。
二六 然らば何を観んとして出でしか、預言者か、然り、我爾等に語ぐ、彼は預言者より大なり。
二七 彼は即夫の録して、視よ、我我が使を爾の面前に遣し爾に先だちて、爾の道を備へしめんと、曰はれたる者なり。
二八 蓋我爾等に語ぐ、婦の生みし者の中、授洗イオアンより大なる預言者は有らず、然れども神の國に於て至と小き者は彼より大なり。
二九 彼に聞きし衆民及び税吏等はイオアンの洗禮を受けて、神の義を稱せり。
三〇 然れどもファリセイ等及び律法師等は彼より洗禮を受けずして、彼等に於ける神の旨を拒みたり。
三一 主又曰へり、然らば我此の世の人々を誰に譬へん、彼等は誰に似たるか、
三二 彼等は、童子、街に坐して、相呼びて、我等は爾等に龠を吹きたれども、爾等踊らざりき、爾等に悲の歌を謡ひたれども、爾等哭かざりきと云ふ者に似たり。
三三 蓋授洗イオアン來りて、餅を食はず、酒を飮まず爾等云ふ、彼魔鬼に憑らると。
三四 人の子來りて、食ひ飮む、又言ふ、視よ、是れ食を嗜み、酒を好む者、税吏及び罪人の友なりと。
三五 惟睿智の子は皆睿智の義を明にせり。
三六 ファリセイ等の一人彼に共に食せんことを請ひたれば、彼はファリセイの家に入りて席坐せり。
三七 時に其邑の婦にして罪ある者、彼がファリセイの家に席坐するを知りて、香膏を盛れる玉の盒を攜へ來り、
三八 其後に足の下に立ち、哭きて、涙を以て其足を濡し、己の首の髪を以て之を拭ひ、其足に接吻して、之に香膏を抹れり。
三九 彼を招きたるファリセイは此を見て、己の中に謂へり、此の人若し預言者たらば、彼に捫る者の孰たり、如何なる婦たるかを知らん、蓋是れ罪女なり。
四〇 イイスス彼に答へて曰へり、シモンよ、我爾に言ふべき事あり。彼曰く、師よ、之を言へ。
四一 イイスス曰へり、或債主に二人の負債者ありて、一人は銀五百枚、一人は五十枚を負へり、
四二 其償ふ能はざるに因りて、彼は二人に免せり、然らば二人の中彼を愛すること孰か多からん、試みに言へ。
四三 シモン対へて曰へり、意ふに、多く免されし者ならん。彼は之に謂へり、爾が議りしこと正し。
四四 是に於て婦を顧みて、シモンに謂へり、爾此の婦を見るか、我爾の家に入りしに、爾は我が足の爲に水を給へざりき、然るに彼は涙を以て我が足を濡し、首の髪を以て之を拭へり。
四五 爾は我に接吻せざりき、然るに彼は、我が此に入りし時より、我が足に接吻して已めず。
四六 爾は我が首に油を抹らざりき、然るに彼は香膏を我が足に抹れり。
四七 是の故に我爾に語ぐ、彼の多くの罪は赦さる、蓋彼多く愛せり、然れども少く赦さるる者は、少く愛するなり。
四八 乃婦に謂へり、爾の罪は赦さる。
四九 彼と共に席坐せる者己の中に言へり、此れ何人にして罪をも赦すか。
五〇 彼婦に謂へり、爾の信は爾を救へり、安然として往け。
一 厥後彼は諸の邑及び村を巡りて、敎を宣べ、神の國を福音せり、彼と偕に十二徒あり、
二 亦曽て惡鬼及び諸病より痊されたる数人の婦あり、即七の魔鬼の出でたるマリヤ、稱してマグダリナと云ふ者、
三 又イロドの家宰フザの妻イオアンナ、又スサンナ、及び其他多くの婦、其所有を以て彼に事へし者なり。
四 衆くの民諸の邑より集りて、彼に就きたれば、彼譬を設けて曰へり、
五 播く者は其種を播かん爲に出でたり、播く時路の旁に遺ちし者あり、乃践まれたり、又天空の鳥之を啄めり。
六 石の上に遺ちし者あり、萌え出でて稿れたり、潤澤なきが故なり。
七 棘の中に遺ちし者あり、棘共に長びて、之を蔽へり。
八 沃壌に遺ちし者あり、萌え出でて、實を結ぶこと百倍せり。之を言ひて呼べり、耳ありて聴くを得る者は聴くべし。
九 其門徒彼に問ひて曰へり、此の譬は何ぞ。
一〇 彼曰へり、爾等には神の國の奥義を知ること與へられたれども、他の者には譬を用ゐる、彼等視れども見ず、聴けども悟らざる爲なり。
一一 此の譬の義は左の如し、種は神の言なり。
一二 路の旁の者は、是れ聴けども、後惡魔來りて、其心より言を奪ふ、彼等が信じて救はれざらん爲なり。
一三 石の上の者は、是れ聴く時喜びて言を受くれども、己に根なくして暫く信じ、誘惑の時に背く。
一四 棘の中に遺ちし者は、是れ聴きて去り、而して度生の慮と貨財と宴樂とに蔽はれて、實を結ばず。
一五 沃壌に遺ちし者は、是れ言を聴きて、清潔良善なる心に之を守り、忍耐して實を結ぶ。(之を言ひて呼べり、耳ありて聴くを得る者は聴くべし。)
一六 灯を燃し、而して器を以て之を覆ひ、或は牀の下に置く者あらず、乃灯台の上に置く、入る者が光を見ん爲なり。
一七 蓋隱れて顯れざる者なく、藏して知られず、且露ならざる者なし。
一八 故に爾等聴くことの如何を慎め、蓋有てる者は之に與へられ、有たざる者は、其有てると意ふ物も、之より奪はれん。
一九 時に彼の母及び兄弟彼に來りしに、群衆の爲に近づくを得ざりき。
二〇 或彼に告げて曰へり、爾の母及び爾の兄弟外に立ちて、爾を見んと欲す。
二一 彼は之に答へて曰へり、我が母及び我が兄弟とは、神の言を聴きて行ふ者是なり。
二二 一日彼は門徒と偕に舟に登りて、彼等に謂へり、我等湖の彼の岸に済るべし、乃行けり。
二三 行く時彼寝ねたり。颶風湖に吹き下し、水舟に滿たんとして、危きこと甚し。
二四 門徒就きて彼を醒まして曰へり、夫子、夫子、我等亡ぶ。彼起きて、風と水の浪とを禁めたれば、則止みて、穏になれり。
二五 彼等に謂へり、爾等の信は安に在るか。彼等懼れ驚きて、互に言へり、是れ何人ぞ、風にも水にも命じて、亦彼に順ふ。
二六 ガリレヤに對へるガダラの地に着きて、
二七 彼が岸に登りし時、邑の一人の者彼を迎へたり、乃久しく魔鬼に憑られ、衣を衣ず、家に住まずして、墓に住める者なり。
二八 此の人イイススを見て號び、彼の前に俯伏し、大なる聲を以て曰へり、至上なる神の子イイススよ、我と爾と何ぞ與らん、爾に求む、我を苦しむる勿れ。
二九 蓋イイススは汚鬼に此の人より出づるを命じたり、其彼を拘へしこと久しければなり。彼を守りて、鐡索と桎梏とに繫ぎたれども、彼繫を斷ちて、魔鬼の爲に野に逐はれたり。
三〇 イイスス彼に問ひて曰へり、爾の名は何ぞ、彼曰へり、大隊、多くの魔鬼彼に入りたればなり。
三一 魔鬼はイイススに、彼等に淵に往くを命ぜざらんことを求めたり。
三二 彼處に豕の大群の山に牧はれたるあり、魔鬼は彼に、其中に入るを許さんことを求めたれば彼之を許せり。
三三 魔鬼人より出でゝ、豕に入りしに、群は山坡より湖に逸けて溺れたり。
三四 牧ふ者有りし事を觀て、奔り往きて、邑及び諸村に告げたれば、
三五 人人有りし所を觀ん爲に出で、イイススに來りて、魔鬼の出でたる人が衣を着、心慥にして、イイススの足下に坐せるを見て、懼れたり。
三六 見し者は魔鬼に憑られたる人の如何に愈されしを告げたれば、
三七 ガダラ地方の民は、皆イイススに彼等を離れんことを請へり、大に懼れし故なり。彼舟に登りて返れり。
三八 魔鬼の出でたる人は彼と偕に居らんことを求めたれども、イイスス之を去らしめて曰へり。
三九 爾の家に歸りて、神が如何なる事を行ひしを告げよ。彼往きて、全邑にイイススが彼に如何なる事を行ひしを宣べたり。
四〇 イイススが返りし時、民彼を接けたり、皆彼を俟ちたればなり。
四一 視よ、イアイルと名づくる人にして、會堂の宰たる者、來りてイイススの足下に俯伏し、其家に入らんことを求めたり。
四二 蓋彼に獨の女、年約十二の者ありて、今死せんとせり。彼が行く時、民之に擁し逼れり。
四三 十二年血漏を患ふる婦、醫師の爲に其悉くの所有を費したれども、一人にも痊さるゝを得ざりし者は、
四四 後より就きて、彼の衣の裾に捫りしに、其血漏直に止れり。
四五 イイスス曰へり、誰か我に捫りたる。衆の認めざる時、ペトル及び彼と偕に在りし者曰へり、夫子、民爾を繞りて擁し逼るに、爾は誰か我に捫りたると謂ふか。
四六 然れどもイイスス曰へり、我に捫りし者あり、蓋我能の我より出でしを覺えたり。
四七 婦は自ら隱す能はざるを見て、戦きて來り、彼の前に俯伏して、彼に捫りし故、又如何にして立に愈されしを、彼に衆民の前に告げたり。
四八 彼は之に謂へり、女よ、心を安んぜよ、爾の信は爾を救へり、安然として往け。
四九 彼が尚言ふ時、會堂の宰の家より人來りて曰く、爾の女已に死せり、師を煩はす勿れ。
五〇 イイスス之を聞きて、宰に答へて曰へり、懼るゝ勿れ、惟信ぜよ、彼は救はれん。
五一 家に來りて、ペトル、イオアン、イアコフ、及び少女の父母の外、誰にも入ることを許さゞりき。
五二 衆人爲に哭き哀めるに、彼曰へり、哭く勿れ、彼は死せしに非ず、乃寝ぬるなり。
五三 人人其死せし知りて、彼を哂へり。
五四 彼衆を外に出して、其手を執りて、呼びて曰へり、少女、起きよ。
五五 其神゜返りて、直に起きたり、彼は之に食を與へんことを命ぜり。
五六 其父母駭きたり、イイスス彼等に戒めて、行はれし事を人に告ぐる勿らしめたり。
五七 彼等が道を行く時、或彼に謂へり、主よ、爾何處に往くとも、我爾に従はん。
五八 イイスス之に謂へり、狐には穴あり、天空の鳥には巣あり、惟人の子には首を枕する處なし。
五九 又他の者に謂へり、我に従へ。彼曰へり、主よ、我に先づ往きて、我が父を葬るを容せ。
六〇 然れどもイイスス之に謂へり、死者に其死者を葬るを任せよ、爾は往きて、神の國を傳へよ。
六一 又他の者曰へり、主よ我爾に従はん、但先づ往きて吾が家の者に別を告ぐるを容せ。
六二 イイスス之に謂へり、手を犂に著けて、後を顧みる者は、神の國に當らざるなり。
一 イイスス十二徒を召し集めて、彼等に凡の魔鬼を制し、又諸病を医す能と權とを與へ、
二 彼等を神の國を傳へ、亦病者を医さん爲に遣し、
三 且彼等に謂へり、旅の爲に杖をも、嚢をも、糧をも、銀をも、一切取る勿れ、二の衣をも攜ふる勿れ。
四 何の家に入るとも、彼處に留りて、亦彼處より途に出でよ。
五 若し爾等を接けざる者あらば、其邑を出づる時、爾等の足の塵をも払へ、彼等に対する証を爲さん爲なり。
六 彼等出でて、郷村を行き、徧く福音を宣べ、医を施せり。
七 分封の君イロド、凡そイイススの行ひし事を聞きて、惑へり、蓋或者は是をイオアンの死より復活せしなりと言ひ、
八 他の者はイリヤの現れしなりと言ひ、又他の者は古の預言者の一人の復活せしなりと云へり。
九 イロド曰へり、イオアンは、我已に其首を斬れり、今我が是くの如き事を聞くは、斯れ何人ぞ、乃彼を見んと欲せり。
一〇 使徒等歸りて、其行ひし事を以てイイススに告げたり、彼は之を攜へて、潛にワィフサイダと名づくる邑に近き野の處に退けり。
一一 民之を知りて、彼に随ひしに、彼は之を接けて、神の國の事を語り、且医を需むる者を医せり。
一二 日の昃く時、十二徒彼に就きて曰へり、民を去らしめよ、彼等が四周の郷村に往きて、宿を取り、食を覓めん爲なり、蓋我等は此に野の處に在るなり。
一三 然れども彼曰へり、爾等之に食を與へよ。彼等曰へり、若し往きて、此の衆民の爲に食を市はずば、我等には五の餅と二の魚との外に有るなし。
一四 蓋其人約五千ありき。彼其門徒に謂へり、彼等を五十づつ並び坐せしめよ。
一五 是くの如く行ひて、衆人を坐せしめたり。
一六 彼は五の餅と二の魚とを取りて、天を仰ぎて之を祝福し、之を擘き、門徒に與へて、民の前に陳ねしめたり。
一七 皆食ひて飽き、其余りたる屑十二筐を拾へり。
一八 イイスス独處に於て祈禱することありしに、門徒彼と偕にせり。彼は之に問ひて曰へり、民我を言ひて誰とか爲す。
一九 彼等答へて曰へり、授洗イオアンと爲し、他の者はイリヤと爲し、又他の者は古の預言者の一人復活したりと爲す。
二〇 彼は之に謂へり、爾等は我を言ひて誰とか爲す。ペトル答へて曰へり、神のハリストスと爲す。
二一 イイスス彼等に戒めて、此の事を人に告ぐる勿からんことを命じたり。
二二 又曰へり、人の子は多くの苦を受け、長老等と司祭諸長と學士等とに棄てられ、且殺されて、第三日に復活すべし。
二三 又衆に謂へり、人若し我に従はんと欲せば、己を舎て、日々其十字架を負ひて、我に従へ。
二四 蓋己の生命を救はんと欲する者は、之を喪はん、我の爲に己の生命を喪はん者は、之を救はん。
二五 蓋人全世界を獲とも、己を喪ひ、或は損なはば、何の益かあらん。
二六 蓋我及び我の言を耻ぢん者は、人の子は、己の父と聖なる天使等との光栄を以て來らん時、彼を耻ぢん。
二七 我誠に爾等に語ぐ、此に立てる者の中には、未だ死を嘗めずして、神の國を見んとする者あり。
二八 此等の言の後約八日を越えて、彼はペトル、イオアン、イアコフを攜へ、山に登りて禱れり。
二九 禱る時其面の容は変り、其衣は皎くして輝けり。
三〇 視よ、二人の彼と語れるあり、即モイセイ及びイリヤなり、
三一 光栄の中に現れて、彼がイエルサリムに成すべき逝世の事を言へり。
三二 ペトル及び之と偕に有りし者は倦みて寝ねたり、既に寤めて、イイススの光栄、及び二人の彼と偕に立てるを見たり。
三三 其彼を離るる時、ペトル イイススに謂へり、夫子よ、我等此に居るは善し、我等三の廬を建てて、一は爾の爲、一はモイセイの爲、一はイリヤの爲にせん、自ら言ふ所を知らざりき。
三四 彼が尚之を言ふ時、雲ありて彼等を蓋へり、雲に入りし時、懼れたり。
三五 雲より聲ありて云ふ、此は我の至愛の子なり、彼に聴け。
三六 聲已に發して、イイススの独在るを見たり。彼等黙して、當時には見し事を誰にも告げざりき。
三七 翌日彼等が山より下りし時、衆くの民は彼を迎へたり。
三八 視よ、民の中の一人呼びて曰へり、師よ、爾に求む、我が子を眷みよ、此れ我が独子なり。
三九 惡鬼彼を執ふれば、彼忽叫び、彼を拘攣させ、沫を噴かしめ、彼を傷ひて、漸く離る。
四〇 我爾の門徒に之を逐ひ出さんことを求めたれども、彼等能はざりき。
四一 イイスス答へて曰へり、噫信なき悖れる世や、我何時までか爾等と偕にし、爾等を忍ばん、爾の子を此に攜へ來れ。
四二 彼が來る時、魔鬼彼を倒して、拘攣させたり、イイスス汚鬼を禁め、子を医して、其父に與へたり。
四三 衆皆神の大能を奇とせり。衆が凡そイイススの行ひし事を奇とする時、彼其門徒に謂へり、
四四 爾等此の言を己の耳に藏めよ、人の子は人々の手に付されん。
四五 然れども彼等は此の言を曉らざりき、此れ彼等の爲に掩はれて、其之に達せざるを致せり、而して此の言を彼に問ふことを懼れたり。
四六 時に彼等に念は起れり、彼等の中孰か大なると。
四七 イイスス其心の念を観て、幼兒を取り、之を己の側に立てて、
四八 彼等に謂へり、我が名に因りて此の幼兒を接けん者は、我を接くるなり、我を接けん者は我に遣しし者を接くるなり、蓋爾等衆の中に最小き者は、是れ大なる者なり。
四九 イオアン答へて曰へり、夫子よ、我等は爾の名を以て魔鬼を逐ひ出す人を見て、之に禁じたり、其我等に従はざる故なり。
五〇 イイスス之に謂へり、禁ずる勿れ、蓋爾等に敵せざる者は爾等の與屬なり。
五一 彼が世より擧げらるる日の近づきし時、彼イエルサリムに面して行かんことを定めたり。
五二 使を其面前に遣ししに、彼等往きて、サマリヤの郷に入り、彼が爲に備へんとしたれども、
五三 彼處には彼を納れざりき、其イエルサリムに面して往くが故なり。
五四 其門徒イアコフ及びイオアン之を見て謂へり、主よ、爾は我等がイリヤの爲しし如く、火の天より降りて、彼等を滅さんことを命ずるを欲するか。
五五 イイスス顧みて、彼等を戒めて曰へり、爾等は自ら如何なる神に屬するを知らず。
五六 蓋人の子の來りしは、人々の靈を滅さん爲に非ず、乃之を救はん爲なり。遂に他の郷に往けり。
五七 彼等が道を行く時、或彼に謂へり、主よ、爾何處に往くとも、我爾に従はん。
五八 イイスス之に謂へり、狐には穴あり、天空の鳥には巣あり、惟人の子には首を枕する處なし。
五九 又他の者に謂へり、我に従へ。彼曰へり、主よ、我に先づ往きて、我が父を葬るを容せ。
六〇 然れどもイイスス之に謂へり、死者に其死者を葬るを任せよ、爾は往きて、神の國を傳へよ。
六一 又他の者曰へり、主よ我爾に従はん、但先づ往きて吾が家の者に別を告ぐるを容せ。
六二 イイスス之に謂へり、手を犂に著けて、後を顧みる者は、神の國に當らざるなり。
一 厥後主は又別に七十門徒を選び、彼等各二人を己に先だてて、自ら往かんと欲する所の諸邑諸處に遣し、
二 彼等に謂へり、穡は多く、工は少し、故に穡主に、工を其穡所に遣さんことを求めよ。
三 往け、我が爾等を遣すは、羔を狼の中に入るるが如し。
四 金嚢をも、行嚢をも、履をも、攜ふる勿れ、途中にて人に安を問ふ勿れ。
五 人の家に入る時は、先づ此の家に平安と曰へ。
六 若し彼處に平安の子あらば、爾等の平安は彼に留らん、然らずば、爾等に歸らん。
七 其家に居りて、彼等に在る所の者を食飮せよ、蓋労する者の其値を得るは宜しきなり、家より家に移る勿れ。
八 何の邑に入るとも、人爾等を接けば、其爾等の前に供ふる者を食へ。
九 其中に在る病者を医せ、又衆に告げて曰へ、神の國は爾等に近づけりと。
一〇 何の邑に入るとも、人爾等を接けずば、其衢に出でて曰へ、
一一 爾等の邑より我等に著きたる塵をも、我等は爾等に対ひて払ふ、然れども之を知れ、神の國は爾等に近づけりと。
一二 我爾等に語ぐ、彼の日に於てソドムは斯の邑より忍び易からん。
一三 禍なる哉爾ホラジンよ、禍なる哉爾ワィフサイダよ、蓋爾等の中に行はれし異能は、若しティル及びシドンに行はれしならば、彼等は早く麻を衣、灰を蒙り、坐して悔改せしならん。
一四 然らば審判に於てティル及びシドンは爾等より忍び易からん。
一五 天にまで擧げられしカペルナウムよ、爾も地獄にまで落とされん。
一六 爾等に聴く者は我に聴く、爾等を拒む者は我を拒む、我を拒む者は我を遣しし者を拒むなり。
一七 七十門徒喜びて返りて曰へり、主よ、爾の名に因りて魔鬼も我等に服す。
一八 彼は之に謂へり、我サタナの電の如く天より隕ちしを見たり。
一九 視よ、我爾等に蛇、蠍、及び悉くの敵の能を践む權を與ふ、一も爾等を害せざらん。
二〇 然れども惡鬼の爾等に服するを喜と爲す勿れ、乃爾等の名の天に録されしを喜と爲せ。
二一 當時イイスス神゜を以て喜びて曰へり、父、天地の主よ、我爾を讃栄す、爾此等を智者及び達者に隱して、之を赤子に顯ししに因る、父よ、然り、蓋是くの如きは爾の旨に嘉せし所なり。
二二 門徒を顧みて曰へり、萬物は我が父より我に授けられたり、父の外に、子の誰たるを識る者なく、子及び子が顯さんと欲する者の外に、父の誰たるを識る者なし。
二三 又門徒を顧みて、特に彼等に謂へり、爾等が見る所を見る目は福なり。
二四 蓋我爾等に語ぐ、多くの預言者と君王とは、爾等が見る所を見んと欲して、見ざりき、爾等が聞く所を聞かんと欲して、聞かざりき。
二五 時に一の律法師起ちて、彼を試みて曰へり、師よ、我何を爲して永遠の生命を嗣がんか。
二六 彼は之に謂へり、律法に何をか録せる、爾如何に読むか。
二七 答へて曰へり、爾心を尽し、靈を尽し、力を尽し、意を尽して、主爾の神を愛せよ、又爾の隣を愛すること、己の如くせよ。
二八 イイスス之に謂へり、爾の答へし所正し、之を爲せ、乃生きん。
二九 然れども彼は己を義とせんと欲して、イイススに謂へり、我が隣とは誰ぞや。
三〇 イイスス答へて曰へり、或人イエルサリムよりイエリホンに下る時、盗賊に遇へり、彼等其衣を剥ぎ、彼に傷つけ、幾ど死するばかりにして、彼を捨て去れり。
三一 適一の司祭是の路より下りしが、彼を見て、過ぎ去れり。
三二 同じく「レワィト」も彼處に至り、近づきて彼を見て、過ぎ去れり。
三三 惟或サマリヤ人は行きて此に至り、彼を見て憫み、
三四 就きて、其傷に油と酒とを沃ぎて、之を裏み、彼を己の家畜に乗せ、旅館に引き至りて、彼を看護せり。
三五 明日行かんとする時、銀二枚を出し、館主に與へて、之に謂へり、此の人を看護せよ、費若し之より益さば、我返る時爾に償はん。
三六 此の三人の中、爾孰を盗賊に遇ひし者の隣と意ふか。
三七 彼曰へり、此の人に矜恤を施しし者なり。イイスス彼に謂へり、往きて、爾も是くの如く行へ。
三八 彼等が行ける時、イイスス一の村に入りしに、或婦マルファと名づくる者、彼を其家に迎へたり。
三九 其姉妹にマリヤと名づくる者あり、イイススの足下に坐して、其言を聴けり。
四〇 マルファは供事の多きに因りて心を煩はし、就きて曰へり、主よ、我が姉妹、我一人を遺して供事せしむるを爾意と爲さざるか、之に命じて、我を助けしめよ。
四一 イイスス彼に答へて曰へり、マルファよ、マルファよ、爾は多くの事を慮りて心を労せり、
四二 然れども需むる所は一のみ。マリヤは善き分を択びたり、是は彼より奪ふ可からず。
一 イイスス某處に祈りて、既に休めし時、其門徒の一人彼に謂へり、主よ、我等に禱ることを敎へよ、イオアンも其門徒に敎へしが如し。
二 彼が之に謂へり、爾等禱る時言へ、天に在す我等の父よ、願はくは爾の名は聖とせられ、爾の國は來り、爾の旨は、天に行はるるが如く、地にも行はれん、
三 我が日用の糧を毎日我等に與へ給へ、
四 我等に我が罪を免し給へ、蓋我等も凡そ我等に負ふ者に免す、我等を誘に導かず、猶我等を凶惡より救ひ給へと。
五 又彼等に謂へり、爾等の中孰か友あり、夜半彼に來りて、友よ、我に三の餅を借せ、
六 蓋我が友途中より我に來りしに、我之に供すべき者なしと曰はんに、
七 彼内より之に答へて、我を煩はす勿れ、門已に閉ぢ、我が兒曹我と與に床に在り、我起きて、爾に與ふる能はずと曰はん。
八 我爾等に語ぐ、若し彼は友なるが故に、起きて彼に與へずば、乃其切迫に依りて、起きて其需むる如く彼に與へん。
九 我も爾等に語ぐ、求めよ、然らば爾等に與へられん、尋ねよ、然らば遇はん、門を叩けよ、然らば爾等の爲に啓かれん。
一〇 蓋凡そ求むる者は得、尋ぬる者は遇ひ、門を叩く者は啓かれん。
一一 爾等の中父たる者、孰か其子餅を求めんに、之に石を與へ、或は魚を求めんに、之に魚に代へて蛇を與へ、
一二 或は卵を求めんに、之に蠍を與へん。
一三 然らば爾等惡しき者なるに、尚善き賜を其子に與ふるを知る、況んや天に在す父は、之に求むる者に、聖神゜を與へざらんや。
一四 或時彼瘖なる魔鬼を逐ひ出せり、魔鬼出でて、瘖言ひしに、民之を奇とせり。
一五 然れども其中の或者曰へり、彼は魔鬼の魁ワェエルゼウルに藉りて魔鬼を逐ひ出す。
一六 他の者は彼を試みて、天よりする休徴を求めたり。
一七 イイスス彼等の意を知りて、彼等に謂へり、凡の國自ら別れ争はば、荒墟となり、家自ら別れ争はば、倒れん。
一八 若しサタナも別れ争はば、其國如何にして立たん。然るに爾等は言ふ、我ワェエルゼウルに藉りて魔鬼を逐ひ出すと。
一九 若し我ワェエルゼウルに藉りて魔鬼を逐ひ出さば、爾等の諸子はゆび誰に藉りて之を逐ひ出すか、故に彼等は爾等の審判者と爲らん。
二〇 然れども若し我神の指に藉りて魔鬼を逐ひ出さば、則神の國果して爾等に臨みしなり。
二一 強き者の武器を執りて、其家を守る時、其所有安全なり。
二二 然れども彼より更に強き者來りて、彼に勝つ時は、其恃とせし武器を悉く奪ひて、贓物を分たん。
二三 我と偕にせざる者は、我に敵し、我と偕に聚めざる者は、散らすなり。
二四 汚鬼人より出でて後、水なき地を巡り、安息を求むれども、得ずして曰く、我曽て出でし我が家に歸らんと。
二五 既に來りて、其家の掃き且飾りたるを見、
二六 乃往きて、己よりも惡しき他の七鬼を攜へ來り、偕に入りて、彼處に居るなり。是に於て其人の爲に後の患は先より更に甚し。
二七 此を言ふ時、一の婦民の中より聲を揚げて、彼に謂へり、爾を孕みし腹と爾が哺ひし乳とは福なり。
二八 彼は曰へり、然り、神の言を聴きて之を守る者は福なり。
二九 民の多く集れる時彼宣べ始めて曰へり、此の世は惡しくして、休徴を求む、而して預言者イオナの休徴の外、之に休徴は與へられざらん。
三〇 蓋イオナがニネワィヤ人の爲に休徴と爲りし如く、人の子も此の世の爲に是くの如く爲らん。
三一 南方の女王は審判の時に斯の世の人と共に起ちて、彼等を罪せん、蓋彼は地の極よりソロモンの智慧を聴かん爲に來れり、視よ、此にはソロモンより大なる者あり。
三二 ニネワィヤの人は審判の時に斯の世と共に起ちて、之を罪せん、蓋彼等はイオナの傳敎に由りて悔改せり、視よ、此にはイオナより大なる者あり。
三三 灯を燃して、之を隱れたる處、或は斗の下に置く者あらず、乃灯台の上に置く、入る者が光を見ん爲なり。
三四 身の灯は目なり、故に爾の目の浄き時は、爾の全身も明なり、其惡しき時は、爾の身も暗し。
三五 故に慎め、爾が中の光の暗とならざらんことを。
三六 若し爾の全身明にして、一部の暗き處もなくば、則全く明ならん、灯の其光を以て爾を照すが如し。
三七 彼が言ふ時、或ファリセイ彼と共に食せんことを請ひたれば、彼入りて席坐せり。
三八 ファリセイは彼が食する前に手を洗はざりしを見て、異めり。
三九 主は之に謂へり、爾等ファリセイ今杯と盤との外を潔むれども、爾等の中には貪婪と惡慝とに充てり。
四〇 無知なる者よ、外を造りし者は亦内をも造りしに非ずや。
四一 惟所有の中より施済を爲せ、然らば爾等の爲に皆潔からん。
四二 禍なる哉爾等ファリセイよ、蓋爾等は薄荷、芸香、及び凡の野菜の十分の一を納めて、義と神に於ける愛とを遺つ、此れ行ふ可きなり、彼も亦遺つ可からず。
四三 禍なる哉爾等ファリセイよ、蓋爾等の会堂には首座、街衢には問安を好む。
四四 禍なる哉爾等偽善なる學士及びファリセイ等よ、蓋爾等は隱れたる墓に似たり、其上を履む人は之を知らず。
四五 律法師等の一人彼に答へて曰へり、師よ、爾之を言ひて、我等を辱しむ。
四六 彼曰へり、爾等律法師も禍なる哉、蓋爾等は負ひ難き任を人に任はせて、己は一の指をも其任に触れず。
四七 爾等禍なる哉、蓋爾等は其先祖が殺しし預言者の墓を建つ。
四八 是を以て爾等は先祖の爲ししことを証し、且之に與す、蓋彼等は預言者を殺し、爾等は其墓を建つ。
四九 故に神の智慧も言へり、我預言者及び使徒等を彼等に遣さん、彼等は其中或者を殺し、或者を逐はん、
五〇 創世以來流されし諸預言者の血は、
五一 アワェリの血より、祭壇と殿との間に殺されしザハリヤの血に至るまで、皆此の代より索められん爲なり。然り、我爾等に語ぐ、是れ此の代より索められん。
五二 禍なる哉爾等律法師よ、蓋爾等は知識の鑰を取りて、自ら入らず、入る者をも阻めり。
五三 彼が之を言ふ時、學士等及びファリセイ等迫りて、彼を詰り、彼に多くの事を答へしめ、
五四 彼を伺ひて、其口より出づる何事をか捕へんと欲せり、彼を罪せん爲なり。
一 民数萬集りて、相蹂むに至れる時、彼先づ其門徒に謂へり、謹みてファリセイ等の酵を防げ、是れ偽善なり。
二 覆はれて露れざる者なく、隱れて知られざる者なし。
三 故に爾等が暗の中に言ひし事は、光の中に聞えん、密なる室に於て耳に附きて語りし事は、屋の上に傳へられん。
四 我爾等我が友に言ふ、身を殺して後に何事をも爲す能はざる者を懼るる勿れ。
五 我爾等に誰をか懼るべきを示さん、即殺して後に地獄に投ずる權を有つ者を懼れよ、然り、我爾等に語ぐ、斯の者を懼れよ。
六 五の雀は二銭にて售らるるに非ずや、然るに其一も神の前に忘れられず。
七 爾等に於ては首の髪も皆数へられたり。故に懼るる勿れ、爾等は多くの雀より貴し。
八 我又爾等に語ぐ、凡そ我を人の前に認めん者は、人の子も彼を神の使等の前に認めん。
九 我を人の前に諱まん者は、神の使等の前に諱まれん。
一〇 凡そ人の子に敵して言を出す者は赦されん、然れども聖神゜を涜す者は赦されざらん。
一一 爾等を曳きて、会堂、又は政を執り權を有つ者の前に至らん時如何に、或は何を答ふべく、或は何を言ふべきを慮る勿れ。
一二 蓋其時聖神゜爾等に言ふべきことを敎へん。
一三 民の中の一人彼に謂へり、師よ、我が兄弟に我と遺産を分つことを命ぜよ。
一四 彼は之に謂へり、人よ、誰か我を立てて、爾等の裁判官或は分配者と爲したる。
一五 是に於て彼等に謂へり、慎みて貪を防げ、蓋人の生命は其所有の饒なるに因らざるなり。
一六 又譬を設けて彼等に謂へり、或富める人に田畆の善く實れるあり、
一七 彼自ら忖りて曰へり、我何を爲さんか、蓋我が作物を藏むべき處なし。
一八 又曰へり、我斯く爲さん、我が倉を毀ちて、更に大なる者を建て、此の中に我が悉くの穀物と貨物とを聚めて、
一九 我が靈に謂はん、靈よ、爾には多年の爲に蓄へたる多くの貨物あり、息み、食ひ、飮み、樂めと。
二〇 然れども神は彼に謂へり、無知なる者よ、今夜爾の靈を爾より索めん、然らば爾が備へし所の者は誰に歸せんか。
二一 凡そ己の爲に財を積み、神に於て富まざる者は是くの如し。
二二 又其門徒に謂へり、故に我爾等に語ぐ、爾の生命の爲に何を食ひ、爾等の身体の爲に何を衣んと慮る勿れ。
二三 生命は糧より大にして、身体は衣より大なり。
二四 試に鴉を思へ、彼等は稼かず穡らず、倉もなく納屋もなし、而して神は之を養ふ、爾等は鳥より貴きこと幾何ぞ。
二五 且爾等の中誰か慮りて、其身の長一尺だに延ぶるを得ん。
二六 然らば至と小き事すら能せざるに、何ぞ其余の事を慮る。
二七 試に百合の如何にか長ずるを思へ、労かず紡がず、然れども我爾等に語ぐ、ソロモンも其栄華の極に於て、其衣猶此の花の一に及ばざりき。
二八 今日野に在り、明日爐に投げらるる草にも、神は斯く衣すれば、況んや、爾等をや、小信の者よ。
二九 故に爾等何を食ひ、或は何を飮まんと求むる勿れ、亦思ひ煩ふ勿れ、
三〇 蓋此れ皆世の異邦人の求むる所なり、爾等の父は此等の者の爾等に必要なるを知る。
三一 惟神の國を求めよ、然らば此れ皆爾等に加はらん。
三二 小さき群よ、懼るる勿れ、蓋爾等の父は爾等に國を賜はんことを喜べり。
三三 爾等の所有を售りて、施済を爲せ、己の爲に古びざる嚢、尽きざる財を天に備へよ、彼處には盗賊近づかず、蠹壊はず。
三四 蓋爾等の財の在る所には、爾等の心も在らん。
三五 爾等の腰は帯せられ、爾等の灯は燃ゆべし。
三六 爾等の其主が婚筵より歸るを俟ちて、彼來りて門を叩く時、直に彼の爲に啓かんとする人々に似るべし。
三七 主來りて其諸僕の儆醒するを見ば、彼等は福なり、我誠に爾等に語ぐ、彼自ら腰に帯し、彼等を席坐せしめ、前みて彼等に供事せん。
三八 若し第二更に來り、又第三更に來りて、彼等の是くの如きを見ば、其諸僕福なり。
三九 若し家主盗賊の何の時に來るを知らば、儆醒して、其家を穿つを許さざらん、是れ爾等の知る所なり。
四〇 故に爾等も己を備へよ、蓋爾等が意はざる時に人の子來らん。
四一 ペトル彼に謂へり、主よ、此の譬は我等に言ふか、抑衆人に言ふか。
四二 主曰へり、孰か忠にして智なる家宰、其主が諸僕の上に立てて、時に随ひて、彼等に定量の糧を與へしむる者たる、
四三 主の來る時、彼が斯く行ふを見ば、其僕福なり。
四四 我誠に爾等に語ぐ、彼を立てて、其一切の所有を督らしめん。
四五 然れども若し其僕心の中に、我が主の來るは遅からんと曰ひて、僕婢を打ち、食ひ飮み且酔へば、
四六 乃俟たざる日、知らざる時に、其僕の主來りて、彼を断ち、彼を不忠の者と同じき分に處せん。
四七 其主の旨を知りて備へず、其旨に順ひて行はざりし僕は、多く扑れん、
四八 知らずして罰に當たる事を行ひし者は、少く扑たれん。凡そ多く與へられし者は、多く促されん、多く託せられし者は、更に多く索められん。
四九 我火を地に投ぜん爲に來れり、此の火の已に燃えんことを、我望むこと幾何ぞ。
五〇 我に受くべき洗禮あり、其成るに至るまで、我憂に迫ること如何ばかりぞ。
五一 爾等は我和平を地に與へん爲に來れりと意ふか、我爾等に謂ふ、然らず、即分離なり。
五二 蓋是より後、一家に五人分離して、三人は二人、二人は三人に敵せん、
五三 父は子に、子は父に敵し、母は女に、女は母に敵し、姑は其婦に、婦は其姑に敵せん。
五四 又民に謂へり、爾等雲の西より起るを見れば、直に言ふ、雨ふらんと、果して然り。
五五 風の南より吹くを見れば、言ふ、暑くならんと、果して然り。
五六 偽善者よ、爾等天地の面を別つを知りて、何ぞ此の時を別たざる。
五七 且爾等何ぞ己に依りて、宜しき所を判断せざる。
五八 爾を訴ふる者と偕に有司に往く時、途中に在りて彼より釈を得んことを勉めよ、恐らくは彼爾を曳きて、裁判官に至り、裁判官爾を下吏に付し、下吏は爾を獄に下さん。
五九 我爾に語ぐ、爾毫釐だに償はずば、彼より出づるを得ず。
一 其時数人來りて、ピラトが其血を其祭物に雑へしガリレヤ人の事をイイススに告げたり。
二 彼は之に答へて曰へり、爾等此のガリレヤ人は斯く苦を受けし故に、悉くのガリレヤ人より多く罪ありしと意ふか。
三 我爾等に語ぐ、然らず、乃爾等若し悔改せずば、皆是くの如く亡びん。
四 或は彼のシロアムの塔倒れて殺されし十八人は、悉くのイエルサリムに居る者より多く罪を負ひたりと意ふか。
五 我爾等に語ぐ、然らず、乃爾等悔改せずば、皆同じく亡びん。
六 又譬を設けて曰へり、或人、其葡萄園に植ゑたる無花果樹ありしに、來りて、之に果を求むれども、得ざりき。
七 遂に園丁に謂へり、視よ、我三年來りて、此の無花果樹に果を求むれども、得ず、之を斫れ、何ぞ徒に地を塞ぐ。
八 園丁彼に対へて曰く、主よ、今年も之を容して、我が其周囲を掘りて、肥料を置くを待て、
九 或は果を結ばん、否ずば、後に之を斫らん。
一〇 安息日に彼一の会堂に在りて敎を宣べたり。
一一 爰に十八年病の鬼を患ふる婦あり、傴みて、少しも伸ぶる能はざりき。
一二 イイスス之を見て、呼びて之に謂へり、婦よ、爾は其病より釈かれたり。
一三 乃手を彼に按せたれば、彼直に伸びて、神を讃栄せり。
一四 会堂の宰、イイススが安息日に医を施ししを愠りて、民に謂へり、工作を爲すべき日は六日あり、其中に來りて医されよ、安息の日に於てせざれ。
一五 主彼に答へて曰へり、偽善者よ、爾等各安息日に於て其牛或は驢を槽より解き、之を曳きて飮はざるか、
一六 況やアウラアムの女なる此の婦十八年サタナに縛られたる者の結を、安息の日に於て解くべからざりしか。
一七 彼が之を言ふ時、彼に敵する者は皆愧ぢ、衆民は彼が凡の光明なる行事を喜べり。
一八 彼曰へり、神の國は何に似たるか、我之を何に譬へん。
一九 是れ芥種、人取りて其園に播きたる者の如し、乃長じて大なる樹となり、天空の鳥其枝に棲めり。
二〇 又曰へり、神の國を何に譬へん。
二一 是れ酵の如し、婦之を取りて、三斗の麪の中に納れしに、悉く發酵するに至れり。
二二 イイスス諸の邑及び村を経て、敎を宣べ、イエルサリムに向ひて行けり。
二三 或彼に謂へり、主よ、救はるる者寡きか。
二四 イイスス彼等に謂へり、力を竭くして窄き門より入れ、蓋我爾等に語ぐ、多くの者は入るを求めて得ざらん。
二五 家主起きて門を閉ぢて後、爾等外に立ちて、門を叩きて曰はん、主よ、主よ、我等の爲に啓け、彼爾等に答へて曰はん、我爾が奚れよりするを識らず。
二六 其時爾等曰はん、我爾の前に食飮し、爾亦我等の衢に敎へたり。
二七 然れども彼曰はん、我爾等に語ぐ、我爾等が奚れよりするを識らず、凡そ不義を行ふ者は我より離れよと。
二八 時に爾等アウラアム、イサアク、イアコフ及び諸預言者が神の國に在り、己が外に逐はるるを見て、彼處に哭き切歯せん。
二九 東より、西より、北より、南より、人來りて、神の國に席坐せん。
三〇 視よ、後なる者の先となり、先なる者の後となることあらん。
三一 當日或ファリセイ等就きて、彼に謂へり、出でて此を離れよ、蓋イロド爾を殺さんと欲す。
三二 彼は之に謂へり、往きて、彼の狐に告げよ、視よ、我今日及び明日魔鬼を逐ひ出し、医を施し、第三日に終らん。
三三 然れども今日明日及び次の日に我行くべし、蓋諸預言者のイエルサリムの外に亡ぶるは有らざるなり。
三四 イエルサリムよ、イエルサリムよ、預言者を殺し、爾に遣されし者を石にて撃つ者よ、我幾次か、母鶏が其雛を翼の下に集むる如く、爾の諸子を集めんことを欲したれども、爾等は欲せざりき。
三五 視よ、爾等の家は虚しくして爾等に遺さる、我爾等に語ぐ、今より後、主の名に因りて來る者は祝福せらると云ふ時に至るまで爾等我を見ざらん。
(第一四章 - 第二四章)