<聖書<文語訳旧約聖書

w:舊新約聖書 [文語]』w:日本聖書協会、1953年

w:明治元訳聖書

w:ヨナ書

第1章

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ヱホバの言アミタイの子ヨナに臨めりいはく

起てかの大なる邑ニネベに往きこれを呼はり責めよ そは其惡わが前に上り來ればなりと

然るにヨナはヱホバの面をさけてタルシシへ逃れんと起てヨツパに下り行けるが機しもタルシシへ往く舟に遇ければその價値を給へヱホバの面をさけて偕にタルシシへ行んとてその舟に乗れり

時にヱホバ大風を海の上に起したまひて烈しき颺風海にありければ舟は幾んど破れんとせり

かかりしかば船夫恐れて各おのれの神を呼び又舟を輕くせんとてその中なる載荷を海に投すてたり 然るにヨナは舟の奧に下りゐて臥て酣睡せり

船長來りて彼に云けるは汝なんぞかく酣睡するや起て汝の神を呼べあるひは彼われらを眷顧て淪亡ざらしめんと

かくて人衆互に云けるは此災の我儕にのぞめるは誰の故なるかを知んがため去來鬮を掣んと やがて鬮をひきしに鬮ヨナに當りければ

みな彼に云けるはこの災禍なにゆゑに我らにのぞめるか請ふ告げよ 汝の業は何なるや 何處より來れるや 汝の國は何處ぞや 何處の民なるや

ヨナ彼等にいひけるは我はヘブル人にして海と陸とを造りたまひし天の神ヱホバを畏るる者なり

是に於て船夫甚だしく懼れて彼に云けるは汝なんぞ其事をなせしやと その人々は彼がヱホバの面をさけて逃れしなるを知れり 其はさきにヨナ彼等に告たればなり

遂に船夫彼にいひけるは我儕のために海を靜かにせんには汝に如何がなすべきや 其は海いよいよ甚だしく狂蕩たればなり

ヨナ彼等に曰けるはわれを取りて海に投いれよ さらば海は汝等の爲に靜かにならん そはこの大なる颺風の汝等にのぞめるはわが故なるを知ればなり

されど船夫は陸に漕もどさんとつとめたりしが終にあたはざりき 其は海かれらにむかひていよいよ烈しく蕩たればなり

ここにおいて彼等ヱホバに呼はりて曰けるはヱホバよこひねがはくは此人の命の爲に我儕を滅亡したまふ勿れ 又罪なきの血をわれらに歸し給ふなかれ そはヱホバよ汝聖意にかなふところを爲し給へるなればなりと

すなわちヨナを取りて海に投入たり しかして海のあるることやみぬ

かかりしかばその人々おほいにヱホバを畏れヱホバに犧牲を獻げ誓願を立たり

さてヱホバすでに大なる魚を備へおきてヨナを呑しめたまへり ヨナは三日三夜魚の腹の中にありき

第2章

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ヨナ魚の腹の中よりその神ヱホバに祈祷て

曰けるは われ患難の中よりヱホバを呼びしに彼われこたへたまへり われ陰府の腹の中より呼はりしに汝わが聲を聽たまへり

汝我を淵のうち海の中心に投いれたまひて海の水我を環り汝の波濤と巨浪すべて我上にながる

われ曰けるは我なんぢの目の前より逐れたれども復汝の聖殿を望まん

水われを環りて 魂にも及ばんとし淵我をとりかこみ海草わが頭に纒へり

われ山の根基にまで下れり 地の關木いつも我うしろにありき しかるに我神ヱホバよ汝はわが命を深き穴より救ひあげたまへり

わが靈魂衷に弱りしとき我ヱホバをおもへり しかしてわが祈なんぢに至りなんぢの聖殿におよべり

いつはりなる虚き者につかふるものは自己の恩たる者を棄つ

されど我は感謝の聲をもて汝に獻祭をなし 又わが誓願をなんぢに償さん 救はヱホバより出るなりと

ヱホバ其魚に命じたまひければヨナを陸に吐出せり

第3章

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ヱホバの言ふたたびヨナに臨めり 曰く

起てかの大なる府ニネベに往きわが汝に命ずるところを宣よ

ヨナすなはちヱホバの言に循ひて起てニネベに往り ニネベは甚だ大なる邑にしてこれをめぐるに三日を歴る程なり

ヨナその邑に入はじめ一日路を行つつ呼はり曰けるは四十日を歴ばニネベは滅亡さるべし

かかりしかばニネベの人々神を信じ斷食を宣れ大なる者より小き者に至るまでみな麻布を衣たり

この言ニネベの王に聞えければ彼 位より起ち朝服を脱ぎ麻布を身に纒ふて灰の中に坐せり

また王大臣とともに命をくだしてニネベ中に宣しめて曰く人も畜も牛も羊もともに何をも味ふべからず 又物をくらひ水を飮べからず

人も畜も麻布をまとひ只管神に呼はり且おのおの其惡き途および其手に作す邪惡を離るべし

或は神その聖旨をかへて悔い其烈しき怒を息てわれらを滅亡さざらん 誰かその然らざるを知んや

神かれらの爲すところをかんがみ其あしき途を離るるを見そなはし彼等になさんと言し所の災禍を悔て之をなしたまはざりき

第4章

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ヨナこの事を甚だ惡しとして烈く怒り

ヱホバに祈りて曰けるはヱホバよ我なほ本國にありし時斯あらんと曰しに非ずや さればこそ前にタルシシへ逃れたるなれ 其は我なんぢは矜恤ある神 憐憫あり 怒ること遲く慈悲深くして災禍を悔たまふものなりと知ばなり

ヱホバよ願くは今わが命を取たまへ 其は生ることよりも死るかた我に善ればなり

ヱホバ曰たまひけるは汝の怒る事いかで宜しからんや

ヨナは邑より出てその東の方に居り己が爲に其處に一の小屋をしつらひその蔭の下に坐して府の如何に成行くかを見る

ヱホバ神瓢を備へこれをして發生てヨナの上を覆はしめたり こはヨナの首の爲に庇蔭をまうけてその憂を慰めんが爲なりき ヨナはこの瓢の木によりて甚だ喜べり

されど神あくる日の夜明に虫をそなへて其ひさごを噛せたまひければ瓢は枯たり

かくて日の出し時神暑き東風を備へ給ひ又日ヨナの首を照しければ彼よわりて心の中に死ることを願ひて言ふ 生ることよりも死るかた我に善し

神またヨナに曰たまひけるは瓢の爲に汝のいかる事いかで宜しからんや 彼曰けるはわれ怒りて死るともよろし

ヱホバ曰たまひけるは汝は勞をくはへず生育ざる此の一夜に生じて一夜に亡びし瓢を惜めり

まして十二萬餘の右左を辨へざる者と許多の家畜とあるこの大なる府ニネベをわれ惜まざらんや