ヨエル書(文語訳)

<聖書<文語訳旧約聖書

w:舊新約聖書 [文語]』w:日本聖書協会、1953年

w:明治元訳聖書

w:ヨエル書

第1章

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ペトエルの子ヨエルに臨めるヱホバの言

老たる人よ汝ら是を聽け すべて此地に住む者汝ら耳を傾けよ 汝らの世あるは汝らの先祖の世にも是のごとき事ありしや

汝ら之を子に語り子はまた之をその子に語りその子之を後の代に語りつたへよ

噬くらふ蝗虫の遺せる者は群ゐる蝗虫のくらふ所となりその遺せる者はなめつくすおほねむしのくらふ所となりその遺せる者は喫ほろぼす蝗虫の食ふ所となれり

醉る者よ汝ら目を醒して泣け すべて酒をのむ者よ哭きさけべ あたらしき酒なんぢらの口に絶えたればなり

そはことなる民わが國に攻よすればなり その勢ひ強くその數はかられずその齒は獅子の齒のごとくその牙は牝獅子の牙のごとし

彼等わが葡萄の樹を荒しわが無花果の樹を折りその皮をはぎはだかにして之を棄つ その枝白くなれり

汝ら哀哭かなしめ 貞女その若かりしときの夫のゆゑに麻布を腰にまとひて哀哭かなしむがごとくせよ

素祭灌祭ともにヱホバの家に絶えヱホバに事ふる祭司等哀傷をなす

田は荒れ地は哀傷む 是穀物荒はて新しき酒つき油たえんとすればなり

こむぎ大むぎの故をもて農夫羞ぢよ 葡萄をつくり哭けよ 田の禾稼うせはてたればなり

葡萄樹は枯れ無花果樹は萎れ石榴椰子林檎および野の諸の樹は凋みたり 是をもて世の人の喜樂かれうせぬ

祭司よ汝ら麻布を腰にまとひてなきかなしめ 祭壇に事ふる者よ汝らなきさけべ 神に事ふる者よなんぢら來り麻布をまとひて夜をすごせ 其は素祭も灌祭も汝らの神の家に入ことあらざればなり

汝ら斷食を定め集會を設け長老等を集め國の居民をことごとく汝らの神ヱホバの家に集めヱホバにむかひて號呼れよ

ああその日は禍なるかな ヱホバの日近く暴風のごとくに全能者より來らん

我らがまのあたりに食物絶えしにあらずや 我らの神の家に歡喜と快樂絶しにあらずや

種は土の下に朽ち倉は壞れ廩は圯る そは穀物ほろぼされたればなり

いかに畜獸は哀み鳴くや 牛の群は亂れ迷ふ 草なければなり 羊の群もまた死喪ん

ヱホバよ我なんぢに向ひて呼はらん 荒野の諸の草は火にて焼け野の諸の樹は火熖にてやけつくればなり

野の獸もまた汝にむかひて呼はらん 其は水の流涸はて荒野の草火にてやけつくればなり

第2章

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汝らシオンにて喇叭を吹け 我聖山にて音たかく之を吹鳴せ 國の民みな慄ひわななかん そはヱホバの日きたらんとすればなり すでに近づけり

この日は黒くをぐらき日雲むらがるまぐらき日にしてしののめの山々にたなびくが如し 數おほく勢さかんなる民むれいたらん かかる者はいにしへよりありしことなくのちの代々の年にもあることなかるべし

火彼らの前を焚き火熖かれらの後にもゆ その過さる前は地エデンのごとくその過しのちは荒はてたる野の如し 此をのがれうるもの一としてあることなし

彼らの状は馬のかたちのごとく其馳ありくことは軍馬のごとし

その山の嶺にとびをどる音は車の轟聲がごとし また火の稗株をやくおとの如くしてその様強き民の行伍をたてて戰陣にのぞむに似たり

そのむかふところ諸民戰慄きその面みな色を失ふ

彼らは勇士の如くに趨あるき軍人のごとくに石垣に攀のぼる 彼ら各々おのが道を進みゆきてその列を亂さず

彼ら互に推あはず各々その道にしたがひて進み行く 彼らは刄に觸るとも身を害はず

彼らは邑をかけめぐり石垣の上に奔り家に攀登り盗賊のごとくに窓より入る

そのむかふところ地ゆるぎ天震ひ日も月も暗くなり星その光明を失ふ

ヱホバその軍勢の前にて聲をあげたまふ 其軍旅はなはだ大なればなり 其言を爲とぐる者は強し ヱホバの日は大にして甚だ畏るべきが故に誰かこれに耐ることを得んや

然どヱホバ言たまふ 今にても汝ら斷食と哭泣と悲哀とをなし心をつくして我に歸れ

汝ら衣を裂かずして心を裂き汝等の神ヱホバに歸るべし 彼は恩惠あり憐憫ありかつ怒ることゆるく愛憐大にして災害をなすを悔たまふなり

誰か彼のあるひは立歸り悔て祝福をその後にとめのこし汝らをして素祭と灌祭とをなんぢらの神ヱホバにささげしめたまはじと知んや

汝らシオンにて喇叭を吹きならし斷食を定め公會をよびつどへ

民を集めその會を潔くし老たる人をあつめ孩童と乳哺子を集め新郎をその室より呼いだし新婦をその密室より呼いだせ

而してヱホバに事ふる祭司等は廊と祭壇の間にて泣て言へ ヱホバよ汝の民を赦したまへ 汝の産業を恥辱しめらるるに任せ之を異邦人に治めさする勿れ 何ぞ異邦人をして彼らの神は何處にあると言しむべけんや

然せばヱホバ己の地にために嫉妬を起しその民を憐みたまはん

ヱホバ應へてその民に言たまはん 視よ我穀物とあたらしき酒と油を汝におくる 汝ら之に飽ん 我なんぢらをして重ねて異邦人の中に恥辱を蒙らしめじ

我北よりきたる軍を遠く汝らより離れしめうるほひなき荒地に逐やらん 其前軍を東の海にその後軍を西の海に入れん その臭味立ちその惡臭騰らん 是大なる事を爲たるに因る

地よ懼るる勿れ 喜び樂しめ ヱホバ大なる事を行ひたまふなり

野の獸よ懼るる勿れ あれ野の牧草はもえいで樹は果を結び無花果樹葡萄樹はその力をめざすなり

シオンの子等よ 汝らの神ヱホバによりて樂め喜べ ヱホバは秋の雨を適當なんぢらに賜ひまた前のごとく秋の雨と春の雨とを汝らの上に降せたまふ

打塲には穀物盈ち甕にはあたらしき酒と油溢れん

我が汝らに遣しし大軍すなはち群ゐる蝗なめつくす蝗喫ほろぼす蝗噬くらふ蝗の觸あらせる年をわれ汝らに賠はん

汝らは食ひ食ひて飽き よのつねならずなんぢらを待ひたまひし汝らの神ヱホバの名をほめ頌へん 我民はとこしへに辱しめらるることなかるべし

かくて汝らはイスラエルの中に我が居るを知り汝らの神ヱホバは我のみにて外に無きことを知らん 我民は永遠に辱かしめらるることなかるべし

その後われ吾靈を一切の人に注がん 汝らの男子女子は預言せん 汝らの老たる人は夢を見 汝らの少き人は異象を見ん

その日我またわが靈を僕婢に注がん

また天と地に徴證を顯さん 即ち血あり火あり煙の柱あるべし

ヱホバの大なる畏るべき日の來らん前に日は暗く月は血に變らん

凡てヱホバの名を龥ぶ者は救はるべし そはヱホバの宣ひし如くシオンの山とヱルサレムとに救はれし者あるべければなり 其遺れる者の中にヱホバの召し給へるものあらん

第3章

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觀よ我ユダとヱルサレムの俘囚人を歸さん その日その時

萬國の民を集め之を携へてヨシヤパテの谷にくだりかしこにて我民我ゆづりの産なるイスラエルのために彼らをさばかん 彼らこれを國々に散してその地を分ち取りたればなり

彼らは籤をひきて我民を取り童子を娼妓に換へ童女を賣り酒に換て飮めり

ツロ、シドンよベリシテのすべての國よ 汝ら我と何のかかはりあらんや 汝ら我がなししことに返をなさんとするや 若し我に返報をなさんとならば我忽ち迅速に汝らがなししことをもてその首に歸らしめん

是は汝らは我の金銀を取り我のしたふべき寶を汝らの宮にたづさへゆき

またユダの人とヱルサレムの人をギリシヤ人に賣りてその本國より遠く離らせたればなり

視よ我かられを起して汝らが賣りたる處より出し汝らがなししことをもてその首にかへらしめん

我はなんぢらの男子女子をユダの人の手に賣り彼らは之を遠き民なるシバ人に賣らん ヱホバこれを言ふ

もろもろの國に宣つたへよ 戰爭の準備を爲し勇士をはげまし軍人をことごとくちかより來らしめよ

汝等の鋤を劍に打かへ汝らの鎌を鎗に打かへよ 弱き者も我は強しと言へ

四周の國々の民よ汝ら急ぎ上りて集れ ヱホバよ汝の勇士をかしこに降したまへ

國々の民よ起て上りヨシヤパテの谷に至れ 彼處に我座をしめて四周の國々の民をことごとく鞫かん

鎌をいれよ 穀物は熟せり 來り踏めよ酒榨は盈ち甕は溢る 彼らの惡大なればなりと

かまびすしきかな無數の民審判の谷にありてかまびすし ヱホバの日審判の谷に近づくが故なり

日も月も暗くなり星その光明を失ふ

ヱホバ、シオンよりよびとどろかしヱルサレムより聲をはなち天地を震ひうごかしたまふ 然れどヱホバはその民の避所イスラエルの子孫の城となりたまはん

かくて汝ら我はヱホバ汝等の神にして我聖山シオンに住むことをしるべし ヱルサレムは聖き所となり他國の人は重ねてその中をかよふまじ

その日山にあたらしき酒滴り岡に乳流れユダのもろもろの河に水流れヱホバの家より泉水流れいでてシッテムの谷に灌がん

エジプトは荒すたれエドムは荒野とならん 是はかれらユダの子孫を虐げ辜なき者の血をその國に流したればなり

されどユダは永久にすまひヱルサレムは世々に保たん

我さきにはかれらが流しし血の罪を報いざりしが今はこれをむくいん ヱホバ、シオンに住みたまはん