- 註: この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。
1 夕になりたれば、僕らは急ぎ退き、バゴアスは天幕の戸を閉ぢて侍者らをその主の前より退けぬ。彼等皆行きてその床に入れり。そは饗宴長びきて、彼ら皆疲れたればなり。
2 ユデト獨り天幕に残り、オロペルネスはその床に醉ひ伏したり。
3 ユデトはその婢に、その寢室の外に立ちて、彼の常の如く出で來るを待つべしと命じたり。そはかれ祈禱のため出で行くべしといひ、且之をバゴアスにも告げたればなり。
4 さればすべてのもの出で行き、小なるも大なるも、一人として寢室に留まるものなかりき。その時ユデト床の傍に立ちて、心の中に祈り言ひけるは、『ああ全能の主なる神よ、願くは今、此時、エルサレムの譽のために、我手の業を見そなはし給へ。
5 今こそ汝の嗣業を助くべき時、我らに逆ひて起つ敵を滅さんがため、わが企圖を果すべき時なれ』と。
6 かくて彼は、オロペルネスの頭の方なる寢臺の柱に來りて彼の劍を取り、
7 寢臺に近づき、その頭髮を捕へて言ひぬ、『ああイスラエルの神よ、今、この時、我を強め給へ』と。
8 而してかれ、力の限り彼の頸を、二度擊ちたれば、その頭彼より離れ、
9 その身體寢臺の下に轉び倒れて、天葢を柱より引き落したり。やがて彼出でて、オロペルネスの首を婢にわたしぬ。
10 婢は之をその食物の囊に入れ、二人は常の如く祈禱のために出で行きぬ。かくて彼等陣營を過ぎ、谷を𢌞り、ベツリアの山を登りて、町の門に來れり。
11 ユデトは遠くより、門の番兵どもにいひぬ『開け、門を開け、神、我らの神は、我らと偕に在し、この日なし給ひしことによりて、その御力をイスラエルの中に、又その強さを敵に向ひて彰はし給へり。』
12 町の人々彼の聲を聞き、急ぎ門に下り來りて、町の長老たちを呼び集めたり。
13 彼ら、小なるも大なるも、共に走り出でぬ。そは彼らユデトの歸り來りしを訝りたればなり。彼ら門を開きて、彼らを迎へ、光のために火を焚きてその周圍を取りかこみぬ。
14 その時かれ聲を張りあげて彼らにいひぬ『讃めまつれ、神を讃めまつれ、イスラエルの家よりその憐憫を取り去らず、此夜わが手によりて、我らの敵を滅し給へる神を讃めまつれ。』
15 かれ囊より首を取り出し、彼らに示していひけるは『看よ、アツスリアの軍の總司令官なるオロペルネスの首を。看よ、彼が醉ひ臥したる天葢を。主は婦女の手によりて彼を擊ち給へり。
16 主活き給へば、わが行く道にて我を守り給へり。わが容貌彼を欺き、彼を滅ぼしたれど、彼は我を汚し、我を辱めて罪を犯すこと能はざりき。』
17 其時すべての民いたく驚き、跪伏して神を拜し、一つとなりていへり『讃むべきかな、我等の神、汝は此の日、汝の民の敵を空しくし給へり。』
18 オジア彼にいひけるは『讃むべきかな、娘よ、汝は至高神の御前にて、地のすべての婦女たちの上にあり。讃むべきかな、汝を導きて我らの敵の長の頭を擊たしめ給へる天地の造主、われらの主なる神。
19 そは、なんぢの希望は、永遠に神の御力を憶ゆる人々々の心より失せ去るまじ。
20 かくて神此らのことを汝の永遠の讃となし、善き事をもて汝に報い給はん。そは汝、わが民の患難のために、その生命をも惜まず、我らの神の御前に眞直なる道を歩みて、我らの敗に仇を返したればなり。』すべての民ら『實に然り、實に然り』といへり。