1イエズスの一行エルザレムに近づき、橄欖山の麓なるベトファゲに至りし時、イエズス二人の弟子を遣はさんとして、
2曰ひけるは、汝等向の邑に往け、然らば直に繫げる牝驢馬の其子と共に居るに遇はん、其を解きて我に牽來れ。
3若人ありて汝等に語はば、主之を要すと云へ、然らば直に許すべし、と。
4總て此事の成れるは、預言者によりて云はれし事の成就せん爲なり、
5曰く「シオンの女に云へ、看よ汝の王柔和にして、牝驢馬と其子なる小驢馬とに乘りて汝に來る」と。
6弟子等往きてイエズスの命じ給ひし如くに爲し、
7牝驢馬と其子とを牽來り、己が衣服を其上に敷き、イエズスを是に乘せたるに、
8群衆夥しく己が衣服を道に敷き、或人々は樹の枝を伐りて道に敷きたり。
9先に立ち後に從へる群衆呼はりて、ダヴィドの裔にホザンナ。主の名によりて來るものは祝せられ給へ。最高き處までホザンナと云ひ居れり。
10斯てイエズスエルザレムに入り給ひしに、是は抑誰なるぞ、と町擧りて動搖きけるが、
11人民は、是ガリレアのナザレトより出でたる預言者イエズスなり、と云ひ居れり。
12イエズス神殿に入り給ひて、殿内にて賣買する人を悉く遂出だし、兩替屋の案と鳩賣る人々の腰掛とを倒して、
13彼等に曰ひけるは、錄して「我家は祈の家と稱へらるべし」とあるに、汝等は之を强盜の巢窟と爲せり、と。
14斯て瞽者跛者等、神殿にてイエズスに近づきしかば、是等を醫し給へり。
15然るに司祭長律法學士等、イエズスの爲し給へる奇蹟と、ダヴィドの裔にホザンナと殿内に呼はる兒等とを見て憤り、
16彼に向ひて云ひけるは、汝彼等の云ふ所を聞くや、と。イエズス是に曰ひけるは、然り「孩兒と乳兒との口に贊美を全うし給へり」とあるを汝等曾て讀まざりしか、と。
17斯て彼等を離れ、街を出でてベタニアに往き、其處に宿り給へり。
18明朝街に返る時飢ゑ給ひしが、
19路傍に一本の無花果樹を見て其の下に至り給ひしに、葉の外に何物をも見ざりしかば、是に向ひて、汝何時までも果らざれ、と曰ひしに、無花果樹忽ち枯れたり。
20弟子等見て感嘆し、如何にして速に枯れたるぞ、と云ひしに、
21イエズス答へて曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、汝等若信仰ありて躊躇せずば、啻に之を無花果樹に爲すべき耳ならず、假令此山に向ひて、汝自拔けて海に入れと云ふとも亦然成らん。
22總て祈りの中に信じて求むる事は、汝等悉く之を受けん、と。
23イエズス神殿に至りて敎へつつ居給ひけるに、司祭長及民間の長老等、近づきて云ひけるは、汝何の權を以て是等の事を爲すぞ、又誰か此權を汝に與へしぞ。
24イエズス答へて曰ひけるは、我も一言汝等に問はん、汝等之を語らば、我も亦何の權を以て之を行ふかを汝等に告げん。
25ヨハネの洗禮は何處よりなりしぞ、天よりか將人よりか、と。彼等相共に慮りて、
26若天よりと云はば、何故に彼を信ぜざりしかと云はるべく、若人よりと云はば、人皆ヨハネを預言者とせると以て民衆に憚りありとし、
27終にイエズスに答へて、我等之を知らず、と云ひしかば、イエズス亦曰ひけるは、我も何の權を以て是等の事を行ふかを汝等に告げず。
28汝等之を如何に思ふぞ。或人二人の子ありしが、長男に近づきて、子よ、今日我葡萄畑に往きて働け、と云ひけるに、
29彼答へて、否と云ひしも、遂に後悔して往きたり。
30又次男に近づきて同じ樣に云ひけるに、彼答へて、父よ我往く、と云ひしも遂に往かざりき。
31此二人の中孰か父の旨を成したるぞ、と。彼等長男なりと云ひしかば、イエズス曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、稅吏と娼妓とは汝等よりも先に神の國に入らん。
32其はヨハネ義の道を以て汝等に來りしに、汝等彼を信ぜず、稅吏と娼妓とは却て彼を信じたりしを、汝等之を見ても猶後悔せず、終に彼を信ぜざりければなり。
33又一の喩を聞け、或家父葡萄畑を作りて籬を繞らし、中に酪穴を堀り、物見臺を建て、之を小作人等に貸して遠方へ旅立ちしが、
34果時近づきしかば、其果を受取らせんとて、僕等を小作人の許に遣はししに、
35小作人其僕を捕へて、一人を毆ち、一人を殺し、一人に石を投付けたり。
36更に他の僕等を先よりも多く遣はししに、彼等之をも同じ樣に遇へり。
37終に、我子をば敬ふならんとて、其子を遣はししに、
38小作人此子を見て語合ひけるは、是相續人なり、來れかし之を殺さん、而して我等其家督を獲ん、と。
39斯て其子を捕へ、葡萄畑より逐出して殺せり。
40然れば葡萄畑の主來らん時、此小作人等を如何に處置すべきか。
41彼等云ひけるは、惡人を容赦なく亡ぼし、季節に果を納むる他の小作人に其葡萄畑を貸さん。
42イエズス彼等に曰ひけるは、汝等曾て聖書に於て讀まざりしか、「家を建つるに棄てられたる石は隅の首石となれり、是主の爲し給へる事にて、我等の目には不思議なり」とあり。
43然れば我汝等に告ぐ、神の國は汝等より奪はれ、其果を結ぶ人民に與へらるべし。
44凡此石の上に墜つる人は碎けん、又此石誰の上に隕つるも之を微塵にせん、と。
45司祭長ファリザイ人等イエズスの喩を聞きて、其己等を斥して曰へるを曉り、
46之を捕へんと謀りしが、群衆彼を預言者とせるを以て之を懼れたり。
1イエズス答へて、又喩を以て語り曰ひけるは、
2天國は恰其子の爲に婚筵を開ける王の如し。
3彼婚筵に招きたる人々を召ばんとて、僕等を遣はしたるに、彼等肯て來らざれば、
4復他の僕等を遣はすとて云ひけるは、招きたる人々に告げて、看よ我既に我が饗筵の準備を爲せり、我牛と肥たる畜と、屠られて悉く具はれり、婚筵に臨まれよ、と云へ、と。
5然れども彼等之を顧みず、一人は己が作家に、一人は己が商賣に往き、
6其他は僕等を捕へ甚く辱めて殺ししかば、
7王之を聞きて怒り、軍勢を遣はして彼殺人等を亡ぼし、其街を燒拂へり。
8時に王其僕等に云ひけるは、婚筵既に備はりたれども、招かれし人々は[客となるに]堪へざりし故、
9衢に往きて總て遇ふ人を婚筵に招け、と。
10僕等途々に出でて、遇ふ人を善きも惡きも悉く集めしかば、客は婚筵の場に滿ちたり。
11王客を見んとて入來り、一人婚禮の服を着けざる者あるを見て是に向ひ、
12友よ、如何ぞ婚禮の服を着けずして、此處に入りしや、と云ひけるに、彼默然たりき。
13王遂に給仕等に云ひけるは、彼の手足を縛りて之を外の暗に投出だせ、其處には痛哭と切齒とあらん、と。
14夫召されたる人は多けれども、選まるる人は少し、と。
15此時ファリザイ人等出でて、イエズスの詞後を捉へんと相謀り、
16己が弟子等をヘロデの黨と共に遣はして、云はせけるは、師よ、汝が眞實にして、眞理によりて神の道を敎へ、且人に依怙贔屓せざるを以て誰にも憚らざるは、我等の知れる所なり。
17然ればセザルに貢を納むるは可や否や、思ふ所を我等に告げよ、と。
18イエズス彼等の狡猾を知りて曰ひけるは、僞善者よ、何ぞ我を試むる。
19貢の貨を我に見せよ、と。彼等デナリオを差出だしたるに、
20イエズス曰ひけるは、此像と銘とは誰のなるか、と。
21彼等セザルのなりと云ふ。時にイエズス曰ひけるは、然らばセザルの物はセザルに歸し、神の物は神に歸せ、と。
22彼等聞きて感嘆し、イエズスを離れて去れり。
23復活なしと主張せるサドカイ人等、此日イエズスに近づき、問ひて、
24云ひけるは、師よ、モイゼ曰く、「人若子なくして死なば、其兄弟彼が妻を娶りて、兄弟の爲に子を擧ぐべし」と、
25然るに我等の中七人の兄弟ありしに、兄妻を娶りて死し、子なかりしかば、其妻を弟に遺ししが、
26其第二第三より第七まで同じ樣にして、
27最後に婦も亦死せり。
28然れば復活の時に當りて、此婦は七人の中誰の妻たるべきか、其は皆彼を娶りたればなり。
29イエズス答へて曰ひけるは、汝等聖書をも神の力をも知らずして誤れり。
30復活の時、人は娶らず嫁がず、天に於る神の使等の如くならん。
31死人の復活に就きては、汝等神より云はれし所を讀まざりしか。
32卽汝等に曰はく、「我はアブラハムの神、イザアクの神、ヤコブの神なり」と。死者の神には非ず、生者の[神]にて在す、と。
33群衆之を聞きて、其敎を感嘆せり。
34然てファリザイ人等、イエズスがサドカイ人を閉口せしめ給ひしを聞きて相集まりしが、
35中に一人の律法學士イエズスを試みて問ひけるは、
36師よ律法に於て大なる掟は何れぞや。
37イエズス曰ひけるは、「汝、心を盡し、靈を盡し、意を盡して汝の神にて在す主を愛すべし」、
38是最大なる第一の掟なり。
39第二も亦是に似たり、「汝の近き者を己の如く愛すべし」。
40凡ての律法と預言者とは此二の掟に據るなり。
41ファリザイ人の集れるに、イエズス問ひて、
42曰ひけるは、汝等キリストに就きて如何に思ふぞ、誰の子なるか、と。彼等、ダヴィドの子なり、と云ひければ、
43イエズス曰ひけるは、然らばダヴィド[聖]靈によりて彼を主と稱ふるは如何、
44曰く「主我主に曰へらく、我汝の敵を汝の足臺と爲すまで、我右に坐せよ」と、
45然ればダヴィド彼を主と稱ふるに、彼爭でか其子ならんや、と。
46皆誰一言もイエズスに答ふること能はず、此日より復敢て問ふ者なかりき。
1其時イエズス群衆と弟子とに語りて、
2曰ひけるは、律法學士とファリザイ人とはモイゼの講座に坐せり。
3然れば彼等の汝等に云ふ所は、悉く守りて行へ、然れど彼等の行に倣ひて行ふこと勿れ、彼等は言ひて而も行はざればなり。
4卽彼等は、重く擔ひ難き荷を括りて人の肩に載すれど、己が指先にて之を動かす事をすら否む。
5其凡ての行は人に見られん爲にして、卽其經牌を闊くし、其繸を大くす。
6また宴席にては上席、會堂にては上座、
7衢にては人の敬禮、又ラビと呼ばるる事を好む。
8汝等はラビと呼ばるる事勿れ、汝等の師は一個にして、汝等は皆兄弟なればなり。
9又地上の人を汝等の父と稱ふること勿れ、汝等の父は天に在す一個のみなればなり。
10又指導師と稱へらるること勿れ、汝等の指導師は一個にして、卽キリストなればなり。
11汝等の中最大なる者は汝等の僕となるべし。
12自驕る人は下げられ、自遜る人は上げらるべし。
13禍なる哉汝等、僞善なる律法學士、ファリザイ人等よ、其は人の前に天國を閉ぢ じて、己も入らず、入りつつある人々をも入らしめざればなり。
14禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、其は長き祈を唱へて、寡婦等の家を食盡せばなり。汝等は是に由りて最嚴しき審判を受けん。
15禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、其は一人の信者を作らんとて海陸を歷巡り、既に作れば、之を己に倍せる地獄の子と爲せばなり。
16禍なる哉汝等、瞽者なる手引よ、汝等は云ふ、「總て人[神]殿を指して誓ふは事にも非ず、[神]殿の黃金を指して誓はば果さざるべからず」と。
17愚にして瞽なる者ども哉、孰か大なるぞ、黃金か、將黃金を聖ならしむる[神]殿か。
18[汝等は又云ふ]「總て人祭壇を指して誓ふは事にも非ず、其上なる供物を指して誓はば果さざるべからず」と。
19瞽者等よ、孰れか大なるぞ、供物か、將供物を聖ならしむる祭壇か。
20然れば祭壇を指して誓ふ人は、祭壇と總て其上なる物とを指して誓ふなり。
21又總て[神]殿を指して誓ふ人は、[神]殿と其中に住み給ふものとを指して誓ふなり。
22又天を指して誓ふ人は、神の玉座と其上に坐し給ふ者とを指して誓ふなり。
23禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、汝等は薄荷茴香馬芹の十分の一を納めて、而も律法に於て尙重大なる、正義と慈悲と忠實とを遺せり、此事等を爲してこそ彼の事をも怠らざるべかりしなれ。
24蝐蠉を濾出だして駱駝を呑む瞽者なる手引等よ。
25禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、其は杯と盤との外を淨めて、内は貪と汚とに充ちたればなり。
26汝瞽者なるファリザイ人よ、先杯と盤との内を淨めよ、然らば外も淨くなるべし。
27禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、其は白く塗りたる墓に似たればなり。外は人に麗しく見ゆれども、内は死人の骨と諸の汚とに充てり。
28斯の如く、汝等も外は義人の如く人に見ゆれども、内は僞善と不義とに充てり。
29禍なる哉汝等、僞善なる律法學士ファリザイ人等よ、汝等は預言者等の墓を建て、義人等の記念碑を飾りて、
30曰く、「我等若先祖の時代に在りしならば、預言者等の血[を流す]に與せざりしものを」と。
31斯て汝等は、預言者等を殺しし人の子孫たる事を自證するなり。
32然らば汝等も先祖の量を盈たせよ。
33蛇等よ、蝮の裔よ、汝等爭でか地獄の宣告を遁れん。
34然れば看よ、我汝等に預言者、智者、律法學士等を遣はせども、汝等は其或者を殺し、十字架に釘け、或者を汝等の會堂に鞭ちて、街より街に遂迫めん。
35斯て義人アベルの血より、汝等が[神]殿と祭壇との間にて殺ししパラキアの子ザカリアの血に至る迄、總て地上に流されたる義しき血は、汝等の上に歸すべし。
36我誠に汝等に告ぐ、此事皆現代の上に歸すべし。
37エルザレムよ、エルザレムよ、預言者等を殺し、且汝に遣はされたる人々に石を擲つ者よ、我牝鷄の其雛を翼の下に集むる如く、汝の子等を集めんとせしこと幾度ぞや、然れど、汝之を否めり。
38看よ、汝等の家は荒廢れて汝等に遺されん。
39我汝等に告ぐ、汝等「主の名によりて來る者は祝せられ給へ」と云ふ迄は、今より我を見ざるべし、[と語り給へり]。
1イエズス[神]殿を出でて往き給ひけるに、弟子等[神]殿の構造を示さんとて近づきしかば、
2答へて曰ひけるは、汝等此一切の物を見るか、我誠に汝等に告ぐ、此處には一の石も崩れずして石の上に遺されじ、と。
3斯て橄欖山に坐し給へるに、弟子等竊に近づきて云ひけるは、此事等のあらんは何時なるぞ、又汝の再臨と世の終との兆は何なるぞ。
4イエズス答へて曰ひけるは、汝等人に惑はされじと注意せよ、
5其は多くの人我名を冒し來りて、我はキリストなりと云ひて、多くの人を惑はすべければなり。
6卽汝等戰闘と戰闘の風說を聞かん、而も愼みて心を騷がす事勿れ、是等の事蓋あるべし、然れど終は未至らざるなり。
7卽民は民に、國は國に立逆らひ、又疫病飢饉地震處々にあらん、
8是皆苦の初なり。
9其時人々汝等を困難に陷入れ、又死に處し、汝等我名の爲に萬民に憎まれん。
10其時多くの人躓きて、互に反應し互に憎み、
11又僞預言者多く起りて、多くの人を惑はさん、
12且不義の溢れたるによりて、多數の人の愛冷えん、
13然れど終まで耐忍ぶ人は救はるべし。
14[天]國の此福音は、萬民に證として全世界に宣傳へられん、斯て後終は至るべし。
15然れば汝等、預言者ダニエルに託りて告げられし「最憎むべき荒廢」が聖所に嚴然たるを見ば、
16讀む人悟るべし。其時ユデアに居る人は山に遁るべし、
17屋根に居る人は、其家より何物をか取出ださんとて下るべからず、
18畑に居る人は、其上着を取らんとて歸るべからず。
19其日に當りて懷胎せる人、乳を哺まする人は禍なる哉。
20汝等の遁ぐる事の、或は冬、或は安息日に當らざらん事を祈れ。
21其時には、世の始より曾て無く、又後にも有るまじき程の、大なる患難あるべければなり。
22其日若縮められずば、救はるる人なからん、然れど其日は、選まれたる人々の爲に縮めらるべし。
23其時若人ありて汝等に、「看よキリストは此處に在り、彼處に在り」と云ふとも信ずること勿れ、
24其は僞キリスト及僞預言者起りて、大なる徵と奇蹟とを行ひ、能ふべくんば選まれたる人々をさへも惑はさんとすべければなり。
25我預之を汝等に告げたるぞ。然れば汝等假令、「看よキリストは荒野に在り」と云はるとも出ること勿れ、
26「看よ奧室に在り」と云はるとも信ずること勿れ、
27其は電光の東より出て西にまで見ゆる如く、人の子の來るも亦然るべければなり。
28總て屍の在る處には鷲も亦集らん。
29此日々の患難の後、直に日晦み、月其光を與へず、星天より隕ち、天の能力總て動搖せん。
30其時人の子の徵空に現れん。其時又地の民族悉く哭き、人の子が大なる能力と威光とを以て空の雲に乘り來るを見ん。
31彼聲高き喇叭を持てる己が天使等を遣はし、天の此涯まで、四方より其選まれし人々を集めしめん。
32汝等無花果樹より喩を學べ、其枝既に柔ぎて葉の生ずる時、汝等は夏の近きを知る。
33斯の如く、此一切の事を見ば、既に門に近しと知れ。
34我誠に汝等に告ぐ、是等の事の皆成る迄は、現代は過ぎざらん。
35天地は過ぎん、然れど我言は過ぎざるべし。
36其日其時をば何人も知らず、天使すらも知らず、知り給へるは唯父獨のみ。
37ノエの日に於る如く、人の子の來るも亦然らん。
38卽洪水の前の頃、ノエの方舟に入る其日までも、人々飲み食ひ娶り嫁ぎして、
39洪水來りて悉く彼等を引浚ふまで知らざりし如く、人の子の來るも亦然らん。
40其時二人畑に在らんに、一人は取られ一人は遺されん。
41二人の女磨を挽き居らんに、一人は取られ一人は遺されん。
42然れば汝等警戒せよ、汝等の主の來り給ふは何れの時なるかを知らざればなり。
43汝等之を知れ、家父若盜賊の來るべき時を知らば、必警戒して其家を穿たせじ。
44然れば汝等も用意してあれ、汝等の知らざる時に人の子來るべければなり。
45時に應じて糧を其僕等に與へさせんとて、主人が彼等の上に立てたる、忠誠怜悧なる僕を誰と思ふぞ。
46其主人の來らん時、然するを見出されたる僕は福なり。
47我誠に汝等に告ぐ、主人は其凡ての所有を是に宰らしめん。
48然れど若彼惡しき僕、心の中に「主人の來ること遲し」と謂ひて、
49其同輩に毆掛り、酒徒と酒食を共にせば、
50其僕の主人、彼が思はざる日、知らざる時に來りて、
51之を處罰し、其報を僞善者と同じうすべし、其處には痛哭と切齒とあらん。
1其時天國は、十人の處女面々燈を執りて新郞と新婦とを迎へに出たる如くならん。
2其中五人は愚にして五人は賢し、
3愚なる五人は燈を執りて油を携へざるに、
4賢きは燈と共に油を器に携へたり。
5新郞遲かりければ、皆假寢して眠りたりしが、
6夜中に「すわ新郞來たるぞ、出迎へよ」との聲ありしかば、
7處女皆起きて其燈を整へたり。
8愚なるが賢きに云ひけるは、汝等の油を我等に分て、我等の燈滅ゆ、と。
9賢きが答へて云ひけるは、恐らくは我等と汝等とに足らじ、寧賣者に往きて自の爲に買へ、と。
10彼等が買はんとて往ける間に、新郞來りしかば、用意してありし者等は、彼と共に婚筵に入り、然て門は鎖されたり。
11軈て他の處女等も來りて、主よ主よ、我等に開き給へ、と云ひ居れども、
12彼答へて、我誠に汝等に告ぐ、我は汝等を知らず、と云へり。
13然れば警戒せよ、汝等は其日其時を知らざればなり。
14[天國は]卽或人遠く旅立たんとして、其僕等を召び、是に我所有を渡せるが如し。
15一人には五タレント、一人に二タレント、一人には一タレントを、各其器量に應じて渡し、然て直に出立せしが、
16五タレントを受けし者は、往きて之を以て取引して、外に五タレントを贏け、
17二タレントを受けし者も同じ樣にして、外に二タレントを贏けしに、
18一タレントを受けし者は、往きて地を掘り主人の金を藏し置けり。
19久しうして後、此僕等の主人來りて彼等と計算せしが、
20五タレントを受けし者近づきて、別に五タレントを差出して云ひけるは、主君よ、我に五タレントを渡し給ひしが、看よ別に又五タレントを贏けたり、と。
21主人云ひけるは、宜し、善にして忠なる僕よ、汝些少なる物に忠なりしにより、我汝に多くの物を宰らしめん、汝の主人の喜に入れよ、と。
22二タレントを受けし者も亦近づきて云ひけるは、主君よ、我に二タレントを渡し給ひしが、看よ別に又二タレントを贏けたり、と。
23主人云ひけるは、宜し善にして忠なる僕よ、汝些少なる物に忠なりしにより、我汝に多くの物を宰らしめん、汝の主人の喜に入れよ、と。
24一タレントを受けし者も亦近づきて云ひけるは、主君よ、我汝の嚴しき人にして、播かざる處より穫り、散らさざる處より聚むるを知り、
25懼れて、往きて汝のタレントを地に藏し置けり、看よ汝己が物を有す、と。
26主人答へて云ひけるは、惡くして懶惰なる僕よ、汝我播かざる處より穫り、散らさざる處より聚むるを知りたれば、
27我金を兩替屋に預くべかりき、然らば我來りて、我有を利子と共に受けしならん。
28然れば汝等。此者より其タレントを取りて、十タレントを有てる者に與へよ、
29蓋總て有てる人は與へられて裕ならん、然れど有たぬ人は、其有てりと思はるる所までも奪はれん、
30無益なる僕を外の暗に投出せ、其處には痛哭と切齒と在らん、と。
31人の子己が威光を以て諸の[天]使を從へて來らん時、其威光の座に坐せん。
32斯て萬民を其前に集め、彼等を別つこと、恰牧者が羊と牡山羊とを別つが如く、
33羊を右に、牡山羊を左に置かん。
34時に王は其右に居る者に云はん、來れ、我父に祝せられたる者よ、世界開闢より汝等の爲に備へられたる國を得よ。
35其は我が飢ゑしに汝等は食せしめ、我が渴きしに汝等飲ましめ、我が旅人なりしに汝等宿らせ、
36裸なりしに着せ、病みたりしに訪ひ、監獄に在りしに來りたればなり、と。
37此時義人等彼に答へて云はん、主よ、我等何時飢ゑ給ふを見て主に食せしめ、渴き給ふを[見て]主に飲ましめ、
38何時旅人に在せるを見て主を宿らせ、又裸に在るを[見て]主に着せしぞ、と。
39又何時病み給ひ或は監獄に居給ふを見て主に至りしぞ、と。
40王答へて彼等に云はん、我誠に汝等に告ぐ、汝等が我此最小き兄弟の一人に爲したる所は、事每に卽我に爲ししなり、と。
41斯て左に居る者にも亦云はん、詛はれたる者よ、我を離れて、惡魔と其使等との爲に備へられたる永遠の火に[入れ]。
42其は我が飢ゑしに汝等は食せしめず、我が渴きしに汝等飲ましめず、
43我が旅人なりしに汝等宿らせず、裸なりしに汝等着せず、病み又監獄に在りしに汝等訪はざりし故なり、と。
44此時彼等も王に答へて云はん、主よ、我等何時主の飢ゑ、或は渴き、或は旅人たり、或は裸なり、或は病み、或は監獄に居給ふを見て主に事へざりしぞ、と。
45此時王彼等に答へて云はん、我誠に汝等に告ぐ、汝等が此最小き者の一人に爲さざりし所は、事每に卽我に爲さざりしなり、と。
46斯て是等の人は永遠の刑罰に入り、義人は永遠の生命に入るべし、と。
1イエズス總て此談を畢り給ひて、弟子等に曰ひけるは、
2汝等の知れる如く、二日の後は過越の祝行はれん。然て人の子は十字架に釘けられん爲に付さるべし、と。
3其時司祭長、民間の長老等、カイファと云へる司祭長の庭に集り、
4詭りてイエズスを捕へて殺さんと謀りしが、
5云へらく、祝日には之を爲すべからず、恐らくは騷動人民の中に起らん、と。
6然てイエズスベタニアにて、癩病者シモンの家に居給ひけるに、
7或女値高き香油を盛りたる器を持ちてイエズスに近づき、食に就き居給へる頭に注ぎしが、
8弟子等之を見て憤り、其費は何の爲ぞ、
9是は高く賣りて貧者に施すを得たりしものを、と云ひけるを、
10イエズス知りて彼等に曰ひけるは、何ぞ此女を累はすや、彼は我に善行を爲せり。
11蓋貧者は常に汝等と共に居れども、我は常に居らず。
12此女が此香油を我身に注ぎしは、我を葬らんとて爲したるなり。
13我誠に汝等に告ぐ、全世界何國にもあれ、此福音の宣傳へられん處には、此女の爲しし事も、其記念として語らるるべし、と。
14時に十二人の一人イスカリオテのユダと云へる者、司祭長等の許に往きて、
15汝等我に何を與へんとするか、我汝等に彼を付さん、と云ひしに、彼等銀三十枚を約せしかば、
16ユダ此時よりイエズスを付さんとして、機を窺ひ居たり。
17無酵麪の祝の日、弟子等イエズスに近づきて云ひけるは、我等が汝の爲に備ふる過越の食事は何處ならん事を望み給ふか。
18イエズス曰ひけるは、汝等街に往き、某の許に至りて、師曰く、我時近づけり、我弟子と共に汝の家に過越を行はんとす、と云へと。
19弟子等イエズスに命ぜられし如くにして、過越の備を爲せり。
20夕暮に及びて、イエズス十二弟子と共に食に就き給ひしが、
21彼等の食しつつある程に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、汝等の中一人我を付さんとす、と。
22彼等甚だ憂ひて、主よ、其は我なるかと、各云出でしに、
23イエズス答へて曰ひけるは、我と共に鉢に手を附くる者我を付さん。
24抑人の子は、己に就きて錄されたる如く逝くと雖、人の子を付す者は禍なる哉、生れざりしならば、寧彼に取りて善かりしものを、と。
25イエズスを賣りしユダ答へて、ラビ其は我なるか、と云ひしにイエズス、汝の云へるが如し、と曰へり。
26一同晚餐しつつあるに、イエズス麪を取り、祝して之を擘き、弟子等に與へて曰ひけるは、汝等取りて食せよ、是我體なりと。
27又杯を取りて謝し、彼等に與へて曰ひけるは、汝等皆是より飲め。
28是罪を赦されんとて衆人の爲に流さるべき、新約の我血なり。
29我汝等に告ぐ、我父の國にて共に汝等と共に新なるものを飲まん日までは、我今より此葡萄の液を飲まじ、と。
30斯て贊美歌を誦へ畢り、皆橄欖山に出行きけるに、
31イエズス曰ひけるは、今夜汝等皆我に就きて躓かん、其は錄して「我牧者を擊たん、斯て群の羊散らん」とあればなり。
32然れど我蘇りて後、汝等に先ちてガリレアに往かん。
33ペトロ答へて云ひけるは、假令人皆汝に就きて躓くとも、我は何時も躓かじ。
34イエズス答へて曰ひけるは、我誠に汝に告ぐ、今夜鷄鳴く前に、汝三度我を否まん。
35ペトロ云ひけるは、假令汝と共に死すべくとも、我汝を否まじと。弟子等皆同じ樣に云へり。
36斯てイエズス彼等と共にゲッセマニと云へる田家に至り、弟子等に向ひて、我が彼處に往きて祈る間汝等此處に坐せよ、と曰ひ、
37ペテロとゼベデオの二人の子とを携へて、憂悲み出で給へり。
38然て彼等に曰ひけるは、我魂死ぬばかりに憂ふ、汝等此處に留まりて我と共に醒めて在れ、と。
39然て少しく進み行き、平伏して祈りつつ曰ひけるは、我父よ、若能ふくば、此杯我より去れかし、然れど我意の儘にとには非ず思召の如くになれ、と。
40斯て弟子等の許に至り、彼等の眠れるを見てペトロに曰ひけるは、斯も汝等、一時間を我と共に醒め居る能はざりしか、
41誘惑に入らざらん爲に醒めて祈れ、精神は逸れども肉身は弱し、と。
42再行きて祈り曰ひけるは、我父よ、此杯我之を飲まずして去る能はずば、思召成れかし、と。
43又再至りて彼等の眠れるを見給へり、蓋彼等の目疲れたるなり。
44又彼等を離れて行き、三度目に同じ言を唱へて祈り給ひしが、
45頓て弟子等に至りて曰ひけるは、今は早眠りて息め、すは時は近づけり、人の子罪人に付されんとす。
46起きよ、行かん、看よ、我を付す者近づけり、と。
47尙語り給へるに、折しも十二人の一人なるユダ來り、又司祭長民間の長老等より遣はされた大群衆、剣と棒とを持ちて是に伴へり。
48イエズスを賣りしもの彼等に合圖を與へて、我が接吻する所の人其なり、彼を捕へよ、と云ひしが、
49直にイエズスに近づき、ラビ安かれ、と云ひて接吻せり。
50イエズス彼に曰ひけるは、友よ、何の爲に來れるぞ、と。時に人々近づきて、イエズスに手を掛けて之を捕へたり。
51折しも、イエズスと共に在りし者の一人、手を伸べて剣を拔き、司祭長の僕を擊ちて其耳を斬落しかば、
52イエズス是に曰ひけるは、汝の剣を鞘に收めよ、其は總て剣を把る者は剣にて亡ぶべければなり。
53我我父に求め得ずと思ふか、父は必直に十二隊にも餘れる天使を我に賜ふべし。
54若然らば、斯あるべしと云へる聖書の言、爭でか成就せん、と。
55同時にイエズス群衆に曰ひけるは、汝等强盜に向ふ如く、剣と棒とを持ちて我を捕へに出來りしか、我日々[神]殿にて汝等の中に坐して敎へ居りしに、汝等我を捕へざりき。
56然れど、總て此事の成れるは預言者等の書の成就せん爲なり、と。此時弟子等皆イエズスを舍きて遁去れり。
57イエズスを捕へたる人々、既に律法學士長老等の相集り居たる、司祭長カイファの家に引行きしが、
58ペトロ遥にイエズスに從ひて司祭長の庭まで至り、事態を見んとて内に入り、僕等と共に坐し居たり。
59司祭長等と凡ての議員とは、イエズスを死に處せんとて、是に對する僞證を求め、
60許多の僞證人來りたれども猶之を得ざりしが、終に二人の僞證人來りて
61云ひけるは、此人「我は神殿を毀ちて三日の後再之を建直す事を得」と云へり、と。
62司祭長起ちてイエズスに向ひ、此人々の汝に對して證する所に、汝は何をも答へざるか、と云ひしも、
63イエズス默し居給へば、司祭長云ひけるは、我活ける神によりて汝に命ず、汝は神の子キリストなるか、我等に告げよ。
64イエズス曰ひけるは、汝の云へるが如し、然れども我汝等に告ぐ、此後汝等、人の子が全能に坐す神の右に坐して、空の雲に乘り來るを見るべし、と。
65此時、司祭長己が衣服を裂きて云ひけるは、彼冒涜の言を出せり。我等何ぞ尙證人を要せん、汝等今冒涜の言を聞きて
66如何に思ふぞ、と。彼等答へて、其罪死に至る、と云へり。
67是に於て下役等イエズスの御顏に唾し、拳にて打ち、或者は平手にて御顏を擲きて云ひけるは、
68キリストよ、汝を批てる者の誰なるかを我等に預言せよ、と。
69然てペトロ外にて庭に坐し居たるに、一人の下女是に近づき、汝もガリレアのイエズスと共に居りき、と云ひしかば、
70彼衆人の前にて之を否み、我汝の云ふ所を知らず、と云へり。
71門を出る時、又他の下女之を見て、居合す人々に向ひ、是もナザレトのイエズスと共に居りき、と云ひたるに、
72彼又誓ひて、我彼人を知らず、と否めり。
73暫時ありて、側なる人々近づきてペトロに云ひけるは、汝も確に彼等の一人なり、汝の方言までも汝を顯せり、と。
74是に於て彼、其人を知らず、とて詛ひ且誓ひ始めしかば、忽ちにして鷄鳴けり。
75斯てペトロ、イエズスが鷄鳴く前に汝三度我を否まんと曰ひし言を思出し、外に出でて甚く泣けり。
1黎明に及びて、司祭長民間の長老等、皆イエズスを死に處せんと協議し、
2縛りて之を召連れ、總督ポンショ、ピラトに付せり。
3時にイエズスを付ししユダ、其宣告せられ給ひしを見て後悔し、三十枚の銀貨を司祭長長老等に齎して之を返し、
4我無罪の血を賣りて罪を犯せり、と云ひしかば彼等云ひけるは、我等に於て何かあらん、汝自見るべし、と。
5ユダ銀貨を[神]殿の内に投棄てて去りしが、往きて繩を以て自縊れたり。
6司祭長等、其銀貨を取りて云ひけるは、是血の値なれば賽錢箱に入るべからず、と。
7卽ち協議して、是にて陶匠の畑を買ひ、旅人の墓地に充てたり。
8故に此畑、今日までもハケルダマ、卽ち血の畑と呼ばれたり。
9是に於て預言者エレミアによりて云はれし事成就せり、曰く「彼等はイスラエルの子等に評價られしものの値なる銀貨三十枚を取り、
10陶匠の畑の爲に與へたり、主の我に示し給へる如し」と。
11然てイエズス、總督の前に出廷し給ひしに、總督問ひて云ひけるは、汝はユデア人の王なるか。イエズス曰ひけるは、汝の云へるが如し、と。
12斯て司祭長、長老等より訴へられ給へども、何事をも答へ給はざりければ、
13ピラト是に云ひけるは、彼等が汝に對して如何に大なる證言を爲すかを聞かざるか、と。
14イエズス一言も是に答へ給はざりしかば、總督感嘆する事甚しかりき。
15茲に、祭日に當りて總督が人民の欲する所の囚人一個を釋すの例ありしが、
16折しもバラバと云へる名高き囚人あるにより、
17ピラト彼等の集りたるに、汝等は我誰を釋さん事を欲するか、バラバかキリストと云へるイエズスか、と云へり。
18其は人が妬によりてイエズスを付ししを知ればなり。
19然て總督法廷に坐しけるに、其妻人を遣はして云ひけるは、汝此義人に係はること勿れ、蓋我今日夢の中に、彼の爲に多く苦しめり、と。
20司祭長、長老等人民に向ひ、バラバを乞ひてイエズスを亡ぼさん事を勸めしが、
21總督答へて、汝等は二人の中何れを釋されん事を望むか、と云ひしに彼等、バラバを、と云ひしかば、
22ピラト云ひけるは、然らばキリストと云へるイエズスを我如何に處分せんか。
23皆曰く、十字架に釘けよ、と。總督、彼何の惡を爲ししか、と云ひたれど彼等益叫びて、十字架に釘けよ、と云ひ居たり。
24ピラト其何の效もなく却て騷動の彌增すを見て、水を取り、人民の前に手を洗ひて云ひけるは、此義人の血に就きて我は罪なし、汝等自ら見るべし、と。
25人民皆答へて、其血は我等と我等の子等との上に[被れかし]、と云ひしかば、
26總督バラバを彼等に釋し、イエズスをば鞭たせて十字架に釘けん爲彼等に付せり。
27然て總督の兵卒等、イエズスを役所に引取り、全隊を其許に呼集め、
28其衣服を褫ぎて赤き袍を着せ、
29茨の冠を編みて其頭に冠らせ、右の手に葦を持たせ、其前に跪きて、ユデア人の王よ安かれ、と云ひて嘲り、
30又是に唾吐きかけ、葦を取りて其頭を打ち居れり。
31イエズスを嘲弄して後、其袍を褫ぎて原の衣服を着せ、十字架に釘けんとて引行きしが、
32街を出る時、シモンと名くるシレネ人に遇ひしかば、强て是に其十字架を擔はせたり。
33斯てゴルゴタ卽ち髑髏と云へる處に至り、
34膽を和ぜたる葡萄酒をイエズスに飲ませんとせしに、之を嘗め給ひて、飲む事を肯じ給はざりき。
35彼等イエズスを十字架に釘けて後、籤を抽きて其衣服を分ちしが、是預言者に託りて云はれし事の成就せん爲なり。曰く「彼等互に我衣服を分ち、我下着を抽鬮にせり」と。
36彼等復坐してイエズスを守り居りしが、
37其頭の上に、是ユデア人の王イエズスなり、と書きたる罪標を置けり。
38然て是と共に二人の强盜、一人は其右に、一人は其左に十字架に釘けられしが、
39往來の人イエズスを罵り、首を振りて、
40噫汝神殿を毀ちて三日の中に之を建直す者よ、自を救へ、若神の子ならば十字架より下りよ、と云ひ居たり。
41司祭長等も亦、律法學士、長老等と共に同じく嘲りて云ひけるは、
42彼は他人を救ひしに自を救ふ能はず、若イスラエルの王ならば、今十字架より下るべし、然らば我等彼を信ぜん。
43彼は神を賴めり、神若彼を好せば今救ひ給ふべし、其は「我は神の子なり」と云ひたればなり、と。
44イエズスと共に十字架に釘けられたる强盜等も、同じ樣に罵り居たり。
45斯て十二時より三時まで、地上洽く黑暗となりしが、
46三時頃、イエズス聲高く呼はりて曰ひけるは、エリ、エリ、ラマ、サバクタニ、と。是卽、我神よ、我神よ、何ぞ我を棄て給ひしや、の義なり。
47其處に立てる者の中、或人々之を聞きて、彼エリアを呼ぶよ、と云ひ居りしが、
48軈て其中の一人走行き、海綿を取りて酢を含ませ、葦に附けて彼に飲ませんとせるに、
49他の人、措け、エリア來りて彼を救ふや否やを見ん、と云ひ居たり。
50イエズス復聲高く呼はりて息絕え給へり。
51折しも[神]殿の幕、上より下まで二に裂け、地震ひ、盤破れ、
52墓開け、眠りたる聖人の屍多く起上りしが、イエズスの復活の後、
53墓を出でて聖なる都に至り、多くの人に現れたり。
54百夫長及是と共にイエズスを守れる人々、地震と起れる事とを見て甚怖れ、彼は實に神の子なりき、と云へり。
55然て此處に、ガリレアよりイエズスに從ひて事へつつありし多くの婦人、立離れて居りしが、
56マグダレナ、マリアと、ヤコボ、ヨセフの母なるマリアと、ゼベデオの子等の母と其中に在りき。
57日暮に及びて、アリマテアの富者ヨゼフと云へる者來り、己もイエズスの弟子なりければ、
58ピラトに至りてイエズスの屍を乞ひたるに、ピラト之を付す事を命ぜしかば、
59ヨゼフ屍を取りて淨き布に包み、
60磐に鑿りたる新しき墳に納め、其の墳の入口に大なる石を轉ばして去れり。
61マグダレナ、マリアと他のマリアとは其處に在りて、墳に向ひて坐し居たり。
62翌日、卽ち用意日の次の日、司祭長ファリザイ人等、ピラトの許に集ひ至りて
63云ひけるは、君よ、我等思出したり、彼僞者尙存命せし時、我三日の後復活せんと云ひしなり。
64然れば命じて三日目まで墳を守らせよ、恐らくは其の弟子等來りて之を盜み、死より復活せりと人民に云はん、然らば後の惑は前よりも甚しかるべし、と。
65ピラト彼等に向ひ、汝等に番兵あり、往きて思ふ儘に守れと云ひければ、
66彼等往きて石に封印し、番兵に墳を守らせたり。