マテオ聖福音書2 (ラゲ訳)

<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書

『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、

1910年発行

〔ローマ・カトリック訳〕

ラゲ訳新約聖書エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)

w:マテオ聖福音書

マテオ聖福音書 第2篇

第3章 編集

1そのころ洗者せんしやヨハネきたりてユデアの荒野あれのをしへべ、 2ひけるは、なんぢ改心かいしんせよ、天國てんこくちかづけり、と。 3けだしこれ預言よげんしやイザヤによりてはれしひとなり、いはく「荒野あれのよばはるひとこゑありてふ、なんぢしゆみちそなへ、その小徑こみちなほくせよ」と。 4ヨハネは駱駝らくだごろもこし皮帶かはおびめ、いなごみつとを常食じやうしよくたりき。 5ときにエルザレムユデアの全國ぜんこくヨルダン[かは]に沿へるぜん地方ちはう[のひと]かれもとで、 6おのつみ告白こくはくして、ヨルダンにてせんせられりしが、 7おほくのファリザイじんおよびサドカイじんおのれせんせられんとてきたるをて、ヨハネこれひけるは、まむしすゑよ、きたるべきいかりのがるることたれなんぢをしへしぞ。 8れば改心かいしん相當さうたうなるむすべよ。 9なんぢわれちちにアブラハムありとこころうちはんとすることなかれ、けだしわれなんぢぐ、かみこれいしよりアブラハムのため子等こどもおこすことをたまふ。 10おのすでかれたり、ゆゑすべむすばざるられて投入なげいれらるべし。 11われ改心かいしんためみづにてなんぢせんすれども、わがのちきたたまものわれよりもちからあり、われそのはきものるにもらず、かれ聖靈せいれいとにてなんぢせんたまふべし。 12かれありてその禾場うちばきよめ、むぎくらをさめ、からえざるにてたまふべし、と。 13このときイエズス、ヨハネにせんせられんとて、ガリレアよりヨルダン[かは]にきたたまひしかば、 14ヨハネしてひけるは、われこそなんぢせんせらるべきに、なんぢわれきたたまふか。 15イエズスこたへてのたまひけるは、しばらゆるせ、われただしきことを、ことごとぐるは當然たうぜんなればなり、と。ここおいてヨハネこれゆるししかば、 16イエズスせんせられてただちみづよりあがたまひしが、をりしもてんかれためひらけ、かみれいはとごとくだりてわがうへきたたまふをたまへり、 17をりしもまたてんよりこゑありて、「これわがこころやすんぜるわが愛子あいしなる」とへり。

第4章 編集

1てイエズス、惡魔あくまこころみられんため、[せい]れいによりて荒野あれのみちびかれたまひしが、 2四十にち四十斷食だんじきたまひしかば、のちたまへり。 3こころむるものちかづきて、なんぢもしかみならば、めいじてこのいしぱんとならしめよ、とひければ、 4イエズスこたへてのたまひけるは、かきしるして「ひとけるはぱんのみによるにあらず、またかみくちよりいづすべてのことばる」とあり、と。 5そのとき惡魔あくまかれたづさへてせいなるみやこき、[しん]殿でんいただきたせて、 6ひけるは、なんぢもしかみならばげよ、かきしるして「かみなんぢためその使つかひたちめいたまへり、なんぢあしいしつきあたらざるやう彼等かれらにてなんぢささへん」とあればなり。 7イエズスのたまひけるは、またかきしるして「しゆたるなんぢかみこころむべからず」とあり、と。 8惡魔あくままたかれたづさへていとたかやまき、諸國しよこくその榮華えいぐわとをしめして、 9ひけるは、なんぢもし平伏ひれふしてわれはいせば、これのものをことごとなんぢあたへん。 10そのときイエズスのたまひけるは、サタン退しりぞけ、けだしかきしるして「なんぢかみたるしゆはいし、これにのみつかふべし」とあり、と。 11ここおい惡魔あくまかれはなれしが、をりしも天使等てんしたちちかづきてかれつかへたり。 12イエズスヨハネのとらはれしをたまひしかば、ガリレアにけ、 13ナザレトのまちり、ザブロンとネフタリムとのさかひなる湖邊うみべ、カファルナウムにいたりてたまひしが、 14これ預言よげんしやイザヤにりてはれしこと成就じやうじゆせんためなり、 15いはく「ザブロンの、ネフタリムの、ヨルダンの彼方かなたなる湖邊うみべみち異邦いはうじんのガリレア、 16暗黑くらやみせる人民じんみんおほいなるひかりかげせる人々ひとびとうへひかりいでたり」と。 17このときよりイエズスはじめをしへべ、「改心かいしんせよ、けだし天國てんこくちかづけり」とのたまへり。 18イエズスガリレアの湖邊うみべあゆたまふに、二人ふたり兄弟きやうだいすなはちペトロとばるるシモンと、その兄弟きやうだいアンデレアとのうみあみてるを、――二人ふたり漁師れうしなりき―― 19彼等かれらむかひて、われしたがへ、われなんぢをしてひとすなどものとならしめん、とのたまひしかば、 20彼等かれらただちあみきてしたがへり。 21イエズス此處ここよりすすたまひて、またほか二人ふたり兄弟きやうだいすなはちゼベデオのヤコボと、その兄弟きやうだいヨハネとが、ちちゼベデオとともふねにてあみつくのふをこれたまひしに 22彼等かれらただちあみちちとをきてしたがへり。 23イエズスあまねくガリレアをめぐり、しよしよ會堂くわいどうにてをしへ、[てん]こく福音ふくいんべ、また民間みんかんすべてのやまひすべてのわづらひいやたまひければ、 24その名聲えいせいあまねくシリアにひろがり、わづらへるもの樣々さまざまやまひくるしみとにかかれるもの惡魔あくまかれたるもの、癲癇てんかん 癱瘋ちゆうぶなやめるものみなかれ差出さしいだしけるに、イエズスこれいやたまひ、 25ガリレア デカポリエルザレム、ユデアまたはヨルダン[がは]の彼方かなたより、おびただしき群衆ぐんしゆうきたしたがへり。

第5章 編集

1イエズス群衆ぐんしゆうて、やまのぼりてたまひしかば、弟子でしたちこれちかづきけるに、 2くちひらきて、彼等かれらをしへてのたまひけるは、 3さいはひなるかなこころまずしきひと天國てんこく彼等かれらものなればなり。 4さいはひなるかな柔和にうわなるひと彼等かれらべければなり。 5さいはひなるかなひと彼等かれらなぐさめらるべければなり。 6さいはひなるかな飢渴うゑかわひと彼等かれらかさるべければなり。 7さいはひなるかな慈悲じひあるひと彼等かれら慈悲じひべければなり。 8さいはひなるかなこころきよひと彼等かれらかみたてまつるべければなり。 9さいはひなるかな和睦わぼくせしむるひと彼等かれらかみ子等こどもとなへらるべければなり。 10さいはひなるかなため迫害はくがいしのひと天國てんこく彼等かれらものなればなり。 11わがため人々ひとびとなんぢのろひ、かつ迫害はくがいし、かついつはりて、なんぢきて所有あらゆ惡聲あくせいはなたんときなんぢさいはひなるかな、 12よろこびおどれ、てんおけなんぢむくいはなはだおほかるべければなり。けだしなんぢよりさきりし預言よげんしやたち迫害はくがいせられたり。 13なんぢしほなり、しほもしそのあじうしなはば、なにもつてかこれしほせん、最早もはやようなく、そとてられてひとまるべきのみ。 14なんぢひかりなり。やまうへてたるまちかくるることあたはず。 15ひとまたともしびともしてますしたかず、いへすべてのものらさんために、これ燭臺しよくだいうへく。 16かくごとく、なんぢひかりひとまへかがやくべし、しからばひとなんぢ善業ぜんげふて、てんましまなんぢちち光榮くわうえいたてまつらん。 17われ律法りつぱふもしくは預言よげんしやはいせんとてきたれりとおもふことなかれ、はいせんとてきたりしにはあらず、まつたうせんがためなり。 18けだしわれまことなんぢぐ、天地てんちぐるまでは、律法りつぱふより一てんかくすたらずして、ことごと成就じやうじゆするにいたるべし。 19ゆゑかのもつとちひさおきてひとつはいし、かつそのままひとをしふるものは、天國てんこくにてもつともちひさものとなへられん、れどこれおこなかつをしふるものは、天國てんこくにておほいなるものとなへられん。 20けだしわれなんぢぐ、もしなんぢ律法りつぱふ學士がくしファリザイじんそれまさるにあらずば、なんぢ天國てんこくらざるべし。 21ころなかれ、ころひと裁判さいばんせらるべし」と、いにしへひとはれしは、なんぢけるところなり。 22れどわれなんぢぐ、すべその兄弟きやうだいいかひと裁判さいばんせらるべし、その兄弟きやうだい愚者おろかものよとひと衆議所しゆうぎしよ處分しよぶんけん、狂妄しれものよとひと地獄ぢごくあたるべし。 23ゆゑなんぢもし禮物そなへもの祭壇さいだんささぐるとき其處そこおいて、なににもあれ兄弟きやうだいうらまるることあるをおもひいださば、 24その禮物そなへもの其處そこに、祭壇さいだんまへさしおき、まずきて兄弟きやうだい和睦わぼくし、しかのちきたりてその禮物そなへものささげよ。 25なんぢ敵手あひてともみちうちはや和解わかいせよ、おそらくは敵手あひてより判事はんじわたされ、判事はんじより下役したやくわたされ、つい監獄かんごくれられん、 26われまことなんぢぐ、最終さいしゆうの一りんかへまで其處そこでざるべし。 27なんぢ姦淫かんいんするなかれ」といにしへひとはれしはなんぢけるところなり。 28れどわれなんぢぐ、すべ色情しきじやうおこさんとてをんなひとは、すでこころうちこれ姦淫かんいんしたるなり。 29もしなんぢみぎなんぢつまづかさばこれくじりててよ、なんぢりて、五體ごたいひとつほろぶるは、全身ぜんしん地獄ぢごく投入なげいれらるるにまさればなり。 30もしなんぢみぎなんぢつまづかさばこれりててよ、なんぢりて、五體ごたいひとつほろぶるは、全身ぜんしん地獄ぢごくくにまさればなり。 31また何人なにびとつまいださばこれ離緣りえんじやうあたふべし」とはれたることあり。 32れどわれなんぢぐ、すべ私通しつうゆゑならでつまいだひとは、これをして姦淫かんいんせしむるなり、またいだされたるをんなめとひと姦淫かんいんするなり。 33またいつはちかなかれ、ちかひたることしゆはたすべし」といにしへひとはれしは、なんぢけるところなり。 34れどわれなんぢぐ、だんじてちかなかれ。てんして[ちかなかれ]、かみ玉座ぎよくざなればなり。 35して[ちかなかれ]、かみあしだいなればなり。エルザレムをして[ちかなかれ]、大王だいわうみやこなればなり。 36なんぢかうべしてちかなかれ、一縷ひとすぢかみだも、しろあるひくろくすることをざればなり。 37なんぢただしかしか否々いないなへ、これよりぐるところあくよりいづるなり。 38またにてを[つぐのひ]、にてを[つぐのふべし]」とはれしはなんぢけるところなり。 39れどわれなんぢぐ、惡人あくにんさからなかれ、ひとなんぢほほたば、の[ほほ]をもこれけよ。 40またなんぢうつたへてしたらんとするひとには上着うはぎをもわたせ。 41またなんぢしひて一千あゆませんとするひとあらば、なほ二千かれともあゆめ。 42なんぢひとあたへよ、なんぢらんとするひとそむくることなかれ。 43なんぢちかものあいし、なんぢてきにくむべし」とはれしは、なんぢけるところなり。 44れどわれなんぢぐ、なんぢてきあいし、なんぢにくひとめぐみ、なんぢ迫害はくがいかつ讒謗ざんぼうするひとためいのれ。 45これてんましまなんぢちち子等こどもたらんためなり、ちち善人ぜんにんにも惡人あくにんにもらし、義者ぎしやにも不義ふぎしやにもあめらしたまへばなり。 46なんぢおのれあいするひとあいすればとて、なんむくいをかべき、稅吏みつぎとりしかするにあらずや。 47またおのれ兄弟等きやうだいらにのみ挨拶あいさつすればとて、なんすぐれたることをかせる、異邦いはうじんしかするにあらずや。 48ゆゑなんぢてん完全くわんぜんましまごとく、なんぢまた完全くわんぜんなれ。

第6章 編集

1ひとられんとてひとまへなんぢさざるやうつつしめ。しからずばてんましまなんぢちち御前みまへむくいじ。 2ればほどこしすにあたりて、僞善ぎぜんしやひとたふとばれんとて會堂くわいどうおよびちまたごとく、おのまへ喇叭らつぱくことなかれ。われまことなんぢぐ、彼等かれらすでそのむくいけたり。 3なんぢほどこしすにあたりて、みぎところひだりこれるべからず。 4これなんぢほどこしかくれんためなり。しからばかくれたるにたまなんぢちちなんぢむくたまふべし。 5またいのとき僞善ぎぜんしやごとることなかれ。彼等かれらひとられんとて會堂くわいどうちまたすみちていのことこのむ。われまことなんぢぐ、彼等かれらすでそのむくいけたり。 6なんぢいのるにおのしつりてぢ、かくれたるにりてなんぢちちいのれ、らばかくれたるにたまなんぢちちなんぢむくたまふべし。 7またいのるに異邦いはうじんごと繰言くりごとすことなかれ、彼等かれらことばおほきにりてききれられんとおもふなり。 8ゆゑ彼等かれらならふことなかれ、なんぢちちは、なんぢねがはざるまへそのえうするところたまへばなり。 9ればなんぢいのるべし。てんましまわれちちよ、ねがはくは御名みなせいられんことを、 10御國みくにきたらんことを、御旨みむねてんおこなはるるごとにもおこなはれんことを。 11われ日用にちようかて今日こんにちわれあたたまへ。 12われおのれ負債おひめあるひとゆるごとく、われ負債おひめをもゆるたまへ。 13われこころみたまふことなく、かえつあくよりすくたまへ、(アメン)と。 14けだしなんぢもしひとつみゆるさば、なんぢてんなんぢつみゆるたまふべく、 15なんぢもしひとゆるさずば、なんぢちちなんぢつみゆるたまはざるべし。 16なんぢ斷食だんじきするとき僞善ぎぜんしやごとかなしきさますことなかれ。すなはち彼等かれらは、斷食だんじきするものひとえんためその顏色がんしよくそこなふなり。われまことなんぢぐ、彼等かれらすでそのむくいけたり。 17なんぢ斷食だんじきするときかうべあぶらかつかほあらへ、 18これ斷食だんじきするものひとえずして、かくれたるにいまなんぢちちえんためなり、しからばかくれたるにたまなんぢちちなんぢむくたまふべし。 19なんぢおのれためたからたくはふることなかれ、此處ここにはさびしみやぶり、盜人ぬすびと穿うがちてぬすむなり。 20なんぢおのれためたからてんたくはへよ、彼處かしこにはさびしみやぶらず、盜人ぬすびと穿うがたずぬすまざるなり。 21なんぢたからところこころまたればなり。 22なんぢともしびなり。なんぢきよくば全身ぜんしんあきらかにならん、 23なんぢあしくば全身ぜんしんくらからん。ればなんぢひかりすら暗黑くらやみならば、暗黑くらやみそのもの如何いかがあるべきぞ。 24たれ二人ふたりしゆかねつかふることあたはず、あるひ一人ひとりにくみて一人ひとりあいし、あるひ一人ひとりしたがひて一人ひとりうとむべければなり。なんぢかみとみとにかねつかふることあたはず、 25ゆゑわれなんぢぐ、生命いのちためなにひ、ためなにんかとおもひわづらなかれ、生命いのち食物しょくもつまさり、衣服いふくまさるにあらずや。 26そらとりよ、彼等かれらことなく、ことなく、くらをさむむることなきに、なんぢてんこれやしなたまふ、なんぢこれよりもはるかまされるにあらずや。 27なんぢうちたれか、おもひわづらひてその生命せいめい一肘いちちうだもくはふることる。 28またなにとて衣服いふくためおもひわづらふや、百合ゆり如何いかにしてそだつかをよ、はたらことなくつむことなし、 29れどもわれなんぢぐ、サロモンだも、その榮華えいぐわきはみおいて、この百合ゆりひとつほどによそほはざりき。 30今日けふりて明日あす投入なげいれらるるくさをさへ、かみよそほはせたまへば、いはんなんぢをや、信仰しんかううすものよ、 31ればなんぢは、われなになになにんかとひておもひわづらふことなかれ、 32これみな異邦いはうじんもとむるところにして、なんぢてんは、これものみななんぢえうあるをたまへばなり。 33ゆゑまづかみくにそのとをもとめよ、しからばこれものみななんぢくはへらるべし。 34れば明日あすためおもひわづらふことなかれ、明日あす明日あすみづからおのれためおもひわづらはん、そのその勞苦らうくにてれり。

第7章 編集

1ひと是非ぜひすることなかれ、らばなんぢ是非ぜひせられじ、 2ひと是非ぜひしたるごとくに是非ぜひせられ、はかりたるはかりにてまたはからるべければなり。 3なんぢなん兄弟きやうだいちりて、おのうつばりざるや。 4あるひなんぢうつばりあるに、なん兄弟きやうだいむかひて、われをしてなんぢよりちりのぞかしめよとふや。 5僞善ぎぜんしやよ、まづおのれよりうつばりのぞけ、しからばあきらかえて、兄弟きやうだいよりちりをものぞくべし。 6せいぶついぬあたふることなかれ、またなんぢ眞珠しんじゆぶたまへぐることなかれ、おそらくはあしにてこれみ、かつかへりみてなんぢまん。 7ねがへ、らばあたへられん、さがせ、しからば見出みいださん、たたけ、しからば[を]ひらかれん、 8すべねがひとけ、さがひと見出みいだし、たたひとは[を]ひらかるべければなり。 9あるひなんぢうちたれそのぱんはんにいしあたへんや、 10あるひさかなはんにへびあたへんや。 11ればなんぢあしものながらも、たまものそのどもあたふるをれば、いはんてんましまなんぢちちは、おのれねが人々ひとびとものたまふべきをや。 12ればすべひとされんとほつすることを、なんぢひとせ、けだし律法りつぱふ預言よげんしやとはそれなり。 13なんぢせばもんよりれ、けだしほろびいたもんひろく、そのみちひろくして、これよりひとおほし。 14嗚呼ああ生命せいめいいたもんせばく、そのみちせばくして、これ見出みいだひとすくなかな15なんぢ預言よげんしや警戒けいかいせよ、彼等かれらひつじ衣服いふくなんぢいたれども、うちあらおほかみなり、 16そのむすによりて彼等かれらるべし。あにいばらより葡萄ぶだうり、あざみより無花果いちじくことあらんや。 17かくごとく、すべむすび、あしあしむすぶ、 18あしむすあたはず、あしむすあたはず。 19すべむすばざるは、られて投入なげいれらるべし。 20ゆゑなんぢそのむすによりて彼等かれらるべし。 21われしゆしゆよとひとみな天國てんこくるにはあらず、てんましまわがちち御旨みむねおこなひとこそ天國てんこくるべきなれ。 22かのには、おほくのひとわれむかひて、しゆしゆよ、われは、御名みなによりて預言よげんし、かつ御名みなによりて惡魔あくまおひはらい、かつ御名みなによりておほくの奇蹟きせきおこなひしにあらずや、とはんとす。 23そのときわれ彼等かれら宣言せんげんせん、われかつなんぢらず、あくものわれれ、と。 24ればすべわがこのことばかつこれおこなひとは、いはうへそのいへてたるかしこひとせられん、 25雨降あめふかはあふかぜきてそのいへきたれども、たほれざりき、いはうへもとゐしたればなり。 26またすべわがこのことばきてこれおこなはざるひとは、すなうへそのいへてたるおろかなるひとん、 27雨降あめふかはあふかぜきてそのいへきたれば、たふれてそのくづれはなはだしかりき、と[をしたまへり。] 28イエズスこれことばのべをはたまひければ、群衆ぐんしゆうそのをしへ感嘆かんたんたり。 29彼等かれら律法りつぱふ學士がくしとファリザイじんとのごとくせずして、權威けんゐあるものごとくにをしたまへばなり。

第8章 編集

1イエズスやまくだたまひしに、群衆ぐんしゆうおびただしくしたがひしが、 2をりしも、一人ひとりらい病者びやうしやきたり、はいしてひけるは、しゆよ、思召おぼしめしならばわれきよくすることをたまふ、と。 3イエズス、べてかれれ、我意わがいなりきよくなれ、とのたまひければ、その癩病らいびやうただちきよくなれり。 4イエズスこれのたまひけるは、つつしみてひとかたなかれ、ただしきておのれ司祭しさいせ、彼等かれらへの證據しようことして、モイゼのめいぜし禮物そなへものささげよ、と。 5かくてイエズスカファルナウムにたまひしが、百夫ひやくふちやうちかづきて、 6ねがひてひけるは、しゆよ、われしもべ癱瘋ちゆうぶにていへし、いたくるしめり、と。 7イエズス、われきていやさん、とのたまひしかば、 8百夫ひやくふちやうこたへてひけるは、しゆよ、われ不肖ふせうにして、しゆわが屋根やねしたたまふにらず、ただ一言ひとことばにてめいたまへ、らばわがしもべえん。 9けだしわれひとけんものながら、部下ぶか兵卒へいそつありて、これけとへばき、かれきたれ[とへば]きたり、またわがしもべこれせ[とへば]すなり、と。 10イエズスこれきて感嘆かんたんし、したがへるもののたまひけるは、われまことなんぢぐ、イスラエルのうちにても、ほど信仰しんかうひしことなし。 11われなんぢぐ、おほくのひと東西とうざいよりきたりて、アブラハムイザアクヤコブととも天國てんこくせん、 12れどくに子等こらそとやみ逐出おひいだされん、其處そこには痛哭なげき切齒はがみとあらん、と。 13かくてイエズス百夫ひやくふちやうむかひ、け、なんぢしんぜしごとなんぢれ、とのたまひければしもべ卽時そくじえたり。 14イエズスペトロのいへたまひて、かれしうとめねつみてせるを15そのたまひしかば、ねつそのり、きて彼等かれら給仕きふじしたり。 16れてのち人々ひとびと惡魔あくまかれたるものおほ差出さしいだししが、イエズス惡魔あくま一言ひとことばにておひはらい、病者びやうしやをもことごといやたまへり。 17これ預言よげんしやイザヤによりてはれしこと成就じやうじゆせんためなり、いはく「かれわれわづらひけ、われやまひたまへり」と。 18イエズス周圍まはり群衆ぐんしゆうおびただしきをて、うみ彼方かなたかんことめいたまひしかば、 19一人ひとり律法りつぱふ學士がくしちかづきて、よ、何處いづこたまふともわれしたがはん、とひしに、 20イエズスこれのたまひけるは、きつねあなありそらとりあり、れどひとまくらするところなし、と。 21また弟子でし一人ひとりしゆよ、まづきてちちはうむことゆるたまへ、とひしに、 22イエズスのたまひけるは、われしたがへ、死人しにんをしてその死人しにんはうむらしめよ、と。 23イエズス小舟こぶねたまひ、弟子でしたちこれしたがひしが、 24をりしもうみおほいなる暴嵐あらしおこりて、小舟こぶねなみおほはるるほどなるに、イエズスはねむたまへり。 25弟子でしたちちかづきてこれおこし、しゆよ、われすくたまへ、われほろぶ、とひければ、 26イエズス彼等かれらのたまひけるは、なんおそるるや、信仰しんかううすものよ、と。すなはちおきかぜうみとをいましたまひしに、大凪おほなぎとなれり。 27かく人々ひとびと感嘆かんたんして、何人なにびとぞや、かぜうみこれしたがふよ、とへり。 28イエズスうみ彼方かなたなるゲラサじんいたたまひしに、惡魔あくまかれたるもの二人ふたりはかよりでてむかきたれり。かねてよりそのたけことはなはだしく、たれそのみちざるほどなりしが、 29たちまちさけびてひけるは、かみ御子みこイエズスよ、われなんぢなん關係かかはりかあらん、ときいまだいたらざるに、われくるしめんとて此處ここきたたまへるか、と。 30しかるに彼等かれらこととおからぬところに、おほくのぶたむれものければ、 31惡魔あくまどもイエズスにねがひてひけるは、もしわれ此處ここよりおひはらたまはば、ぶたむれうちたまへ、と。 32イエズス彼等かれらに、け、とのたまひしかば、彼等かれらでてぶたき、むれみなあはただしく、がけよりうみ飛入とびいりてみづせり。 33牧者ぼくしやげてまちいたり、一切いつさいこと惡魔あくまかれたりし人々ひとびとこととを吹聽ふいちやうせしかば、 34ただちまちこぞりてイエズスをいでむかへ、これるやそのさかひたまはんことへり。

第9章 編集

1イエズス小舟こぶねり、うみわたりておのまちいたたまひしに、 2をりしも人々ひとびととこせる癱瘋ちゆうぶしや差出さしいだしければ、イエズス彼等かれら信仰しんかう癱瘋ちゆうぶしやのたまひけるは、よ、たのもしかれ、なんぢつみゆるさる、と。 3をりしもある律法りつぱふ學士がくしこころうちに、かれ冒涜ばうとくことばけり、とひしが、 4イエズス彼等かれらこころ見拔みぬきてのたまひけるは、なんぢなんこころあしことおもふや。 5なんぢつみゆるさるとふと、きてあゆめとふといづれやすき。 6て、ひとおいつみゆるすのけんあることをなんぢらせん、とて癱瘋ちゆうぶしやむかひ、きよ、とこりておのいへけ、とのたまひしかば、 7かれきていへけり。 8群衆ぐんしゆうこれおそれ、かか權能けんのうひとたまひたるかみ光榮くわうえいしたり。 9イエズス此處ここたまとき、マテオとなづくるひと收稅しうぜいしよせるをて、われしたがへ、とのたまひしかばかれちてしたがへり。 10かくてイエズスそのいへしよくたまをりしも、稅吏みつぎとり罪人つみびとおほきたりて、イエズスおよび弟子でしたちともしければ、 11ファリザイじん弟子でしたちひけるは、なんぢ何故なにゆゑ稅吏みつぎとり罪人つみびとしよくともにするぞ、と。 12イエズスきてのたまひけるは、醫者いしやえうするはすこやかなるひとあらずしてめるひとなり。 13なんぢきて「このむはあはれみなり、犧牲いけにへあらず」とはなんいひなるかをまなべ。それわがきたりしは義人ぎじんためあらず、罪人つみびとためなり、と。 14ときにヨハネの弟子でしたち、イエズスにちかづきてひけるは、われとファリザイじんとはしばしば斷食だんじきするに、なんぢ弟子でしたち何故なにゆゑ斷食だんじきせざるぞ。 15イエズス彼等かれらのたまひけるは、新郞はなむこ介添かいぞへあに新郞はなむこおのれともあひだかなしむをんや、れど新郞はなむこ彼等かれらよりうばはるるきたらん、そのときには斷食だんじきせん。 16生布あらぬのきれもつふる衣服いふくひとあらず、そのきれ衣服いふくきて、やぶれますますおほいなればなり。 17またあたらしきさけふるかわぶくろものはあらず、しかせばかわぶくろやぶさけながれて、ふくろまたすたらん、あたらしきさけあたらしきかわぶくろり、かくふたつながらたもつなり、と。 18イエズスこれことかたたまへるをりしも、一人ひとりつかさちかづきはいしてひけるは、しゆよ、わがむすめいませり、れどきたりてかれ按手あんしゆたまへ、らばきん、と。 19イエズスちてこれしたがたまひ、弟子でしたちしたがひきけるに、 20をりしも血漏ちろうわづらへること十二ねんなるをんなうしろよりちかづきてイエズスの衣服いふくふされたり、 21その衣服いふくれだにせばわれえん、とこころおもたればなり。 22イエズス回顧ふりかへりてこれたまひ、むすめよ、たのもしかれ、なんぢ信仰しんかうなんぢいやせり、とのたまふや、をんな卽時そくじえたり。 23イエズスつかさいへいたり、ふえふきさわげる群衆ぐんしゆうとをて、 24なんぢ退しりぞけ、むすめしたるにあらず、いねたるなり、とのたまひければ、人々ひとびとかれわらへり。 25群衆ぐんしゆういだされしのち、イエズスりてそのたまひしかば、むすめきたり、 26かくこの名聲きこえあまねそのひろがれり。 27イエズス此處ここたまふに、二人ふたり瞽者めしひ、ダヴィドのよ、われあはれたまへ、とさけびつつしたがひしが、 28イエズスいへいたたまひしとき瞽者めしひちかづきしかば、彼等かれらのたまひけるは、われこれなんぢすことをしんずるか、と。彼等かれらしゆよ、しかり、とこたへければ、 29イエズスそのれて、その信仰しんかうままなんぢれ、とのたまふや、 30彼等かれらひらけたり。イエズスきびしく彼等かれらいましめて、ひとれざるやうつつしめ、とのたまひしかど、 31彼等かれらいでて、あまねそのにイエズスのうわさ言弘いひひろめたり。 32彼等かれらでたるをりしも、人々ひとびと惡魔あくまかれたる一人ひとり唖者おしをイエズスに差出さしいだししかば、 33惡魔あくま逐拂おひはらはれて唖者おしものいひ、群衆ぐんしゆう感嘆かんたんして、かかことかつてイスラエルのうちあらはれしことなし、とひしかど、 34ファリザイじんは、かれ惡魔あくま逐拂おひはらふは惡魔あくまかしらるなり、とれり。 35イエズスもろもろ町村まちむらめぐり、その會堂くわいどうをしへき、[てん]こく福音ふくいんべ、かつもろもろやまひもろもろわづらひいやたまひしが、 36群衆ぐんしゆうて、そのなやみて牧者ぼくしやなきひつじごとせるをあはれたまへり。 37弟子でしたちのたまひけるは、收穫かりいれおほけれどもはたらものすくなし、 38ゆゑはたらものその收穫かりいれつかはさんことを、收穫かりいれぬしねがへ、と。

第10章 編集

1イエズスおのが十二の弟子でし召集よびあつめ、これ汚鬼をきどもおひはらひ、もろもろやまひもろもろわづらひいや權能けんのうたまひしが、 2その十二使徒しとは、だい一ペトロとへるシモン、その兄弟きやうだいアンデレア、 3ゼベデオのヤコボおよびその兄弟きやうだいヨハネ、フィリッポおよびバルトロメオ、トマおよび稅吏みつぎとりマテオ、アルフェオの[]ヤコボおよびタデオ、 4カナアンのシモンおよびイエズスをりしイスカリオテのユダこれなり。 5イエズスこの十二にんつかはすとて、めいじてのたまひけるは、なんぢ異邦いはうじんみちかず、サマリアじんまちにもらず、 6むしろイスラエルのいへまよへるひつじけ。 7きて天國てんこくちかづけりと宣敎のべをしへよ。 8病人びやうにんいやし、死人しにんよみがへらせ、らい病人びやうにんきよくし、惡魔あくま逐拂おひはらへ。あたひしにけたればあたひしにあたへよ。 9きんぎんまたぜになんぢおびつことなかれ、 10たびぶくろも二まい下着したぎも、くつつゑまたおなじ、はたらひとそのかてくるにあたひすればなり。 11いずれのまちむらるも、そのうち相應ふさわしきひとたれなるかをたずねて、いづるまで其處そことどまれ。 12いへときこのいへ平安へいあんあれかしとひてこれしゆくせよ、 13そのいへはたしてこれあたひするものならば、なんぢの[いのる]平安へいあんそのうへのぞまん、あたひせざるものならば、その平安へいあんなんぢかへらん。 14すべなんぢけず、なんぢことばかざるひとむかひては、そのいへまたまちいであしちりはらへ。 15われまことなんぢぐ、審判しんぱんあたりて、ソドマじんとゴモラじんとのは、このまちよりもしのやすからん。 16よ、なんぢつかはすは、ひつじおほかみなかに[るるが]ごとし、ゆゑへびごとさとく、鴿はとごと素直すなほなれ。 17ひと警戒けいかいせよ、なんぢ衆議所しゆうぎしよわたし、またそのしよ會堂くわいどうにてむちうつべければなり。 18またわがためなんぢ官吏くわんり帝王ていわうまへかれて、彼等かれらおよび異邦いはうじんしようとなることあるべし、 19わたさるるとき如何いかまたなにはん、とあんずることなかれ、ふべきことそのときなんぢたまはるべければなり。 20けだしそのかたるはなんぢあらずして、ちちれいなんぢうちましましてかたたまふなり。 21りながら兄弟きやうだい兄弟きやうだいわたし、ちちわたし、子等こども兩親ふたおやさからひ、かつこれころさん、 22またわがために、なんぢすべてのひとにくまれん、れどをはりまで堪忍たへしのひとすくはるべし。 23このまちにて迫害はくがいせられなばまちのがれよ、われまことなんぢぐ、ひときたまでに、なんぢイスラエルの町々まちまちつくさざるべし。 24弟子でしそのまさらず、しもべその主人しゆじんまさらざるなり。 25弟子でしとしてはそのごとく、しもべとしてはその主人しゆじんごとくなればれり。人々ひとびと家父かふをベエルゼブブとなづけたれば、いはんそのやからをや。 26れば彼等かれらおそるるなかれ、おほはれてあらはれざるべきはく、かくれてれざるべきはければなり。 27暗黑くらやみおいなんぢことを、なんぢ光明あかるみおいへ、みみててこと屋根やねうへにてべよ。 28またころしてたましひころざるものおそるることなかれ、むしろたましひとを地獄ぢごくほろぼしものおそれよ。 29すずめは二せんにてるにあらずや、しかなんぢちちによらずしては、そのだもつることあらじ。 30なんぢかみまでもみなかぞへられたり、 31ゆゑおそるることなかれ、なんぢおほくのすずめまされり。 32ればすべてのひとまへわれ宣言せんげんするひとは、われまたてんましまわがちち御前みまへこれ宣言せんげんすべく、 33ひとまへわれいなひとは、われまたてんましまちち御前みまへこれいなむべし。 34われ平和へいわもちきたれりとおもふことなかれ、もちきたれるは平和へいわあらずしてやいばなり。 35きたれるは、ひとそのちちより、むすめそのははより、よめそのしうとめよりわかつべきなり。 36ひとやからそのあだとなるべし。 37われよりもちちもしくはははあいするひとわれふさはず、われよりももしくはむすめあいするひとわれふさはず、 38またおの十字架じふじかりてわれしたがはざるひとわれふさはざるなり、 39おの生命せいめいたもひとこれうしなひ、わがため生命せいめいうしなひとこれたもたん。 40なんぢくるひとわれくるなり、われくるひとわれつかはしたまひしものくるなり。 41預言よげんしやため預言よげんしやくるひとは、預言よげんしやむくいけ、義人ぎじんため義人ぎじんくるひとは、義人ぎじんむくいけん。 42たれにもあれ、弟子でしために、冷水ひやみづ一杯いつぱいをも、このいとちひさもの一人ひとりまするひとは、われまことなんぢぐ、そのむくいうしなふことあらじ、[とのたまへり]。

第11章 編集

1かくてイエズス十二の弟子でしめいをはたまひて、彼等かれら町々まちまちをしかつ說敎せつけうせんとて、其處そこたまひしが、 2ヨハネは監獄かんごくりてキリストのわざきしかば、その弟子でし二人ふたりつかはして、 3かれはしめけるは、きたるべきものなんぢなるか、あるひわれてるものなほほかるか、と。 4イエズス彼等かれらこたへてのたまひけるは、きてなんぢかつところをヨハネにげよ、 5瞽者めしひえ、跛者あしなへあゆみ、らい病者びやうしやきよくなり、聾者みみしひきこえ、死者ししやよみがへり、貧者ひんしや福音ふくいんかせらる、 6かくわれきてつまづかざるひとさいはひなり、と。 7彼等かれらるや、イエズスヨハネのこと群衆ぐんしゆうかたたまひけるは、なんぢなにんとて荒野あれのいでしぞ、かぜうごかさるるよしか。 8らばなにんとていでしぞ、やわらかものたるひとか、よ、やわらかものたる人々ひとびと帝王ていわういへり。 9らばなにんとていでしぞ、預言よげんしやか、われなんぢぐ、しかり、預言よげんしやよりもまされるものなり。 10かきしるして「よ、わが使つかひなんぢ面前めんぜんつかははさん、かれなんぢさきだちてなんぢみちそなふべし」とあるは、かれことなり。 11われまことなんぢぐ、をんなよりうまれたるものうちに、洗者せんしやヨハネよりおほいなるものいまだかつおこらず、れど天國てんこくにてもつともちひさひとも、かれよりはおほいなり。 12洗者せんしやヨハネのよりいまいたりて、天國てんこく暴力ばうりよくおそはれ、暴力ばうりよくものこれうばふ、 13もろもろ預言よげんしや律法りつぱふとの預言よげんしたるは、ヨハネにいたまでなればなり。 14なんぢもしさとらんとほつせば、かれきたるべきエリアなり。 15みみてるひとけ。 16現代げんだいたれたとへんか、あたかちまたせるわらべともだちさけびて、 17われなんぢため笛吹ふえふきたれどもなんぢをどらず、われなげきたれどもなんぢかなしまざりき、とふにたり。 18けだしヨハネきたりて飲食いんしよくせざれば、惡魔あくまかれたりとはれ、 19ひときたりて飲食いんしよくすれば、かれしよくむさぼさけひとにて、稅吏みつぎとりおよび罪人つみびとともなり、とはる。りながら智惠ちゑそのただしとせられたり、と。 20てイエズス、奇蹟きせきおほおこなはれたる町々まちまち改心かいしんせざるによりて、これはじたまひけるは、 21わざはひなるかななんぢコロザイン、わざはひなるかななんぢベッサイダ。けだしなんぢうちおこなはれし奇蹟きせきもしチロとシドンとのうちおこなはれしならば、彼等かれらつと改心かいしんして、あらごろもまとはひかうむりしならん。 22ればわれなんぢぐ、審判しんぱんおいて、チロとシドンとはなんぢよりもしのやすからん。 23カファルナウムよ、なんぢなんてんにまでげられんや、まさ地獄ぢごくにまでもおちいるべし。けだしなんぢうちおこなはれし奇蹟きせきもしソドマにおこなはれしならば、かれかなら今日こんにちまでなほのこりしならん。 24ればわれなんぢぐ、審判しんぱんおいて、ソドマのなんぢよりもしのやすからん、と。 25そのときイエズスまたのたまひけるは、天地てんちしゆなるちちよ、われなんぢ稱讃しようさんす、これこと學者がくしや智者ちしやかくして、ちひさ人々ひとびとあらはたまひたればなり。 26しかちちよ、かくごときは御意みこころかなひしゆゑなり。 27一切いつさいものわがちちよりわれたまはれり、ちちほかものなく、およびよりあへしめされたらんものほかに、ちちものなし。 28われきたれ、すべ勞苦らうくして重荷おもにへるものよ、われなんぢ回復くわいふくせしめん。 29われ柔和にうわにしてこころ謙遜けんそんなるがゆゑに、なんぢみづからわがくびきりてわれまなべ、らばなんぢたましひ安息やすみべし。 30が[はする]くびきこころよく、かろければなり。

第12章 編集

1そのころ、イエズス安息日あんそくじつあたりて[むぎ]はたけたまひしが、弟子でしたちゑてくひはじめしかば、 2ファリザイじんこれてイエズスにむかひ、よ、なんぢ弟子でしたち安息日あんそくじつすべからざることすぞ、とひしに、 3イエズスのたまひけるは、ダヴィドがおのれおよびともなへる人々ひとびとゑしときししことを、なんぢまざりしか。 4すなはちかれかみいへり、司祭しさいならでは、かれともなへる人々ひとびとしよくすべからざる、そなへぱんしよくせしなり。 5また安息日あんそくじつ司祭しさいたち[しん]殿でんにて安息あんそくをかせどもつみなし、と律法りつぱふにあるをまざりしか。 6われなんぢぐ、[しん]殿でんよりもおほいなるもの此處ここり。 7なんぢもしこのむはあはれみなり、犧牲いけにへあらず」とはなんいひなるかをらば、つみなきひとつみせざりしならん、 8ひとまた安息日あんそくじつしゆなればなり、と。 9イエズス此處ここりて、彼等かれら會堂くわいどういたたまひしに、 10をりしも隻手かたてなえたるひとあり。彼等かれらイエズスをうつたへんとて、安息日あんそくじついやすはきか、とひしかば、 11イエズスのたまひけるは、なんぢうちいつとうひつじてるものあらんに、もしそのひつじ安息日あんそくじつあなおちいらば、たれこれ取上とりあげざらんや、 12ひとひつじまされること幾何いくばくぞや。れば安息日あんそくじつぜんすはし、と。 13やがそのひとに、べよ、とのたまひければ、かのばしたるに、そのえてひとしくなれり。 14かくてファリザイじんでて、如何いかにしてかイエズスをほろぼさんとはかるを、 15イエズスりて此處ここたまひしが、おほくのひとしたがひしかば、ことごと彼等かれらいやし、 16かつわれいひあらはすことなかれ、といましたまへり。 17これ預言よげんしやイザヤによりてはれしこと成就じやうじゆせんためなり、 18いはく「これわがえらみしわがしもべわがこころかなへる最愛さいあいものなる、われかれうへわがれいけり。かれ異邦いはうじん正義せいぎげん。 19あらそはずさけばず、たれちまたそのこゑかず、 20正義せいぎ勝利しようりいたらしむるまで、れたるよしたず、けぶれるあさことなからん、 21また異邦いはうじんかれあふのぞまん」と。 22とき一人ひとり惡魔あくまかれてめしくちおしなるもの差出さしいだされしを、イエズスいやたまひて、かれものいかつるにいたりしかば、 23群衆ぐんしゆうみなおどろきて、これダヴィドのあらずや、とへるを、 24ファイリザイひときて、かれ惡魔あくま逐拂おひはらふは、ただ惡魔あくまかしらベエルゼブブにるのみ、とへり。 25イエズス彼等かれらこころりてのたまひけるは、すべわかあらそくにほろびん、またすべわかあらそまちいへとはたじ。 26サタンもしサタンを逐拂おひはらはば、みづからわかるるなり、らばそのくに如何いかにしてかつべき。 27われもしベエルゼブブにりて惡魔あくま逐拂おひはらふならば、なんぢ子等こどもたれりて逐拂おひはらふぞ、れば彼等かれらなんぢ審判しんぱんしやとなるべし。 28れどわれもしかみれいりて惡魔あくま逐拂おひはらふならば、かみくになんぢいたれるなり。 29またひとまづつよものしばるにあらずんば、いかでかつよものいへりてその家具かぐかすむることをん、[しばりて]のちこそそのいへかすむべけれ。 30われくみせざるひとわれはんし、われともあつめざるひとらすなり。 31ゆゑわれなんぢぐ、すべてのつみおよび冒涜ばうとくひとゆるされん、れど[せい]れいたいする冒涜ばうとくゆるされざるべし。 32またすべひとたいして[冒涜ばうとくの]ことばひとゆるされん、れど聖靈せいれいたいしてこれひとは、この後世のちのよともゆるされざるべし。 33あるひしとしそのをもしとせよ、あるひしとしそのをもしとせよ、そのによりてらるればなり。 34まむしすゑよ、なんぢしければ、いかでかきをふをん、くちかたるはこころてるところよりればなり。 35ひとくらよりものいだし、しきひとしきくらよりしきものいだす。 36われなんぢぐ、すべひとかたりたる無益むえきことばは、審判しんぱんおいこれたださるべし。 37なんぢそのことばによりてとされ、またそのことばによりてつみせらるべければなり、と。 38そのとき數人すにん律法りつぱふ學士がくしおよびファリザイじんかれこたへてひけるは、よ、われなんぢしるしんとほつす、と。 39イエズスこたへてのたまひけるは、奸惡かんあくなる現代げんだいしるしもとむれども、預言よげんしやヨナのしるしほかしるしあたへられじ。 40すなはちヨナが三うをはらりしごとく、ひとも三よるなからん。 41ニニヴの人々ひとびとは、審判しんぱんとき現代げんだいともちてこれつみさだめん、彼等かれらはヨナの說敎せつけうによりて改心かいしんしたればなり、よ、ヨナにまされるものここり。 42南方なんぱう女王によわうは、審判しんぱんとき現代げんだいともちてこれつみさだめん、かれはサロモンの智惠ちゑかんとてはてよりきたりたればなり、よ、サロモンにまされるものここり。 43汚鬼をきひとよりでしときれたるところめぐりてやすみもとむれどもず、 44ここおいて、でし我家わがいへかへらんとひて、きたりてそのいへすでき、はききよめられかざられたるをるや、 45すなはちきておのれよりもあしななつ惡鬼あくきたづさへ、ともりて此處ここむ。かくかのひとすゑは、まへよりもさらあしくなりまさる。極惡ごくあくなる現代げんだいまたかくごとくならん、と。 46イエズスなほ群衆ぐんしゆうかたたまへるをりしも、はは兄弟等きやうだいたちと、かれ物語ものがたりせんとてそとちければ、 47あるひとひけるは、よ、なんぢはは兄弟きやうだいなんぢたずねてそとてり、と。 48イエズスおのれげしひとこたへてのたまひけるは、たれわがははたれわが兄弟きやうだいなるぞ、と。 49すなはち弟子でしたちかたべてのたまひけるは、これわがははわが兄弟きやうだいなる、 50たれにもあれ、てんましまわがちち御旨みむねおこなひとすなはちこれわが兄弟きやうだい姉妹しまいははなればなり、と。

第13章 編集

1そのイエズスいへでて湖邊うみべたまへるに、 2群衆ぐんしゆうおびただしくそのもとあつまりしかば、イエズス小舟こぶねりてたまひ、群衆ぐんしゆうみなはまりしが、 3たとへもつ數多あまたこと彼等かれらかたりてのたまひけるは、たねひときにでしが、 4ときあるたね路傍みちばたちしかば、そらとりきたりて、これついばめり。 5あるたねつちすくな磽地いしぢちしかば、つちの淺きにりてただち生出はえいでたれど、 6でてけ、なきにりてれたり。 7あるたねいばらなかちしかば、いばらそだちてこれふさげり。 8あるたね沃土よきつちちて、あるひは百ばいあるひは六十ばいあるひは三十ばいむすべり。 9みみてるひとけ、と。 10弟子でしたちちかづきて、なんたとへもつ彼等かれらかたたまふや、とひしかば、 11こたへてのたまひけるは、なんぢ天國てんこく奧義おくぎことたまはりたれども、彼等かれらたまはらざるなり。 12それてるひとなほあたへられてゆたかならん、れどたぬひとそのてるところをもうばはれん。 13たとへもつ彼等かれらかたるは、彼等かれられどもえず、けどもきこえず、またさとらざるがゆゑなり、と。 14かくてイザヤの預言よげん彼等かれらおい成就じやうじゆす、いはく「なんぢきてきこゆれどもさとらず、ゆれどもみしらざらん。 15えず、みみきこえず、こころさとらず、たちかへりてわれいやされざらんために、このたみこころにぶくなりて、そのみみくにものうく、そのぢたればなり」と。 16なんぢさいはひなり、ゆればなり、なんぢみみも[さいはひなり、]きこゆればなり。 17われまことなんぢぐ、おほくの預言よげんしや義人ぎじんとは、なんぢところんとほつせしかどえず、なんぢところかんとほつせしかどきこえざりき。 18ればなんぢたねひとたとへけ、 19すべひと[てん]こくことばきてさとらざるときは、惡魔あくまきたりてそのこころかれたるものをうばふ、この路傍みちばたかれたるものなり。 20磽地いしぢかれたるは、ことばきてただちよろこくれども、 21おのれなく暫時しばしのみにして、ことばため患難くわんなん迫害はくがいおこれば、たちまちつまづくものなり。 22いばらなかかれたるは、ことばけども、このこころづかひたからまどひそのことばふさぎて、みのらずなれるものなり。 23よきつちかれたるは、ことばきてさとり、むすびてあるひは百ばいあるひは六十ばいあるひは三十ばいいだすものなり、と。 24イエズスまたほかたとへ彼等かれら提出もちいでてのたまひけるは、天國てんこくたねそのはたけきたるひとたり。 25人々ひとびといねたるに、そのてききたりてむぎなかどくむぎきてりしが、 26なへそだちてみのりたるに、どくむぎあらはれしかば、 27しもべちかづきて家父かふひけるは、しゆよ、たねはたけきたるにあらずや、ればどくむぎなにによりてかえたる。 28かれひけるは、てきなるひとこれせり、と。しもべわれきてこれあつめなば如何いかに、とひしに、 29家父かふひけるは、いなおそらくは、なんぢどくむぎあつむるに、これともむぎをもかん。 30收穫かりいれまでふたつながらそだけ、收穫かりいれときわれものむかひて、まづどくむぎあつめてためこれたばね、むぎをばわがくらをさめよ、とはん、と。 31またほかたとへ彼等かれら提出もちいでのたまひけるは、天國てんこくひとりてそのはたけきたる芥種からしだねたり。 32すべてのたねうちもつともちひさきものなれども、そだちてのちすべての野菜やさいよりおほきくして、そらとりそのえだきたりてほどる、と。 33またほかたとへ彼等かれらかたたまひけるは、天國てんこく麪酵ぱんだねたり、すなはちをんなこれりて三なかかくせばことごとふくるるにいたる、と。 34イエズスすべこれことたとへもて群衆ぐんしゆうかたたまひしが、たとへなしにはかたたまことなかりき。 35これ預言よげんしやりてはれたりしこと成就じやうじゆせんためなり、いはく「われたとへまうけてくちひらき、はじめよりかくれたることげん」と。 36群衆ぐんしゆうらしめ、いへいたたまひしに、弟子でしたちちかづきて、はたけどくむぎたとへわれたまへ、とひければ、 37こたへてのたまひけるは、たねものひとなり、 38はたけ世界せかいなり、たねは[てん]こく子等こどもなり、どくむぎ惡魔あくま子等こどもなり、 39これきしてき惡魔あくまなり、收穫かりいれをはりなり、ものは[てん]使たちなり、 40ればどくむぎあつめられてかるるごとく、このつひにもまたしからん。 41ひとその使つかひたちつかはし、彼等かれらそのくによりすべつまづかするものあくものとをあつめて、 42かまれん。其處そこには痛哭なげき切齒はがみとあらん。 43そのとき義人ぎじんたちちちくににてごとかがやかん。みみてるひとけ。 44天國てんこくはたけかくれたるたからごとし、見出みいだせるひとこれかくきてよろこびつつり、その所有物もちものことごとりて、そのはたけふなり。 45天國てんこくまた眞珠しんじゆもとむる商人あきうどごとし、 46あたひたか眞珠しんじゆ一個ひとつ見出みいだすや、きてその所有物もちものことごとりて、これふなり。 47天國てんこくまたうみりて種々いろいろうをあつむるあみごとし、 48ちたるときひとこれひきげ、はましてうをうつはれ、あしうををばつるなり。 49をはりおいかくごとくなるべし、すなはち[てん]使たちでて、義人ぎじんうちより惡人あくにんわかち、 50これかまどれん、其處そこには痛哭なげき切齒はがみとあらん。 51なんぢこのことみなさとりしか、とのたまへるに、彼等かれらしかりとこたへければ、 52イエズスのたまひけるは、れば天國てんこくことをしへられたるすべての律法りつぱふ學士がくしは、あたらしきものとふるきものとをそのくらうちよりいだ家父かふたり、と。 53かくてイエズスこのたとへのたまをはり、其處そこりて、 54故鄕ふるさといたり、しよ會堂くわいどうにてをしたまへるに、人々ひとびと感嘆かんたんしてひけるは、かれこの智惠ちゑ奇蹟きせきとを何處いづこよりたるぞ、 55かれ職人しよくにんあらずや、そのはははマリアとばれ、その兄弟きやうだいはヤコボヨゼフシモンユダとばるる[ものども]にあらずや、 56その姉妹しまいみなわれうちるにあらずや。ればこのすべてのこと何處いづこよりきたりしぞ、と。 57ついかれきてつまづたりしに、イエズスのたまひけるは、預言よげんしやうやまはれざるは、ただその故鄕ふるさとそのいへおいてのみ、と。 58かく彼等かれら信仰しんかうりて、數多あまた奇蹟きせき其處そこたまふことあたはざりき。

第14章 編集

1そのころぶんこくわうヘロデ、イエズスの名聲うはさきて、 2その臣下しんかひけるは、これ洗者せんしやヨハネなり、死人しにんうちより、よみがへりたるものなれば、不思議ふしぎかれおこなはる、と。 3けだしヘロデかつて、その兄弟きやうだい[フィリッポ]のつまヘロヂアデのことりてヨハネをとらへ、しばりて監獄かんごくれたりき。 4はヨハネかれむかひて、なんぢかのをんなつはからず、とひたればなり。 5かくこれころさんとほつせしかども、人民じんみんかれ預言よげんしやみとれるをもつこれおそれたりき。 6てヘロデの誕生たんじようあたりて、ヘロヂアデのむすめ席上せきじやうにてをどり、ヘロデのこころかなひしかば、 7ヘロデちかひて、なにものもとむるもこれあたへんとやくせり。 8むすめははむねふくめられて、洗者せんしやヨハネのかうべぼんせてここわれたまへ、とひしかば、 9わうこころうれふれども、ちかひたるがためかつ列席れつせきせる人々ひとびとためついこれあたふることめいじ、 10ひとつかはして監獄かんごくにヨハネをくびはねたり、 11かくそのかうべぼんせられてむすめあたへられしを、むすめははもちきしが、 12ヨハネの弟子でしたちいたり、そのしかばねりてこれはうむり、かつきてイエズスにげたり。 13イエズスこれたまひて、小舟こぶねにて其處そこり、さびしきところたまひしが、群衆ぐんしゆうこれきて、町々まちまちより徒步かちにてしたがひしかば、 14でて群衆ぐんしゆうおびただしきをこれあはれみてその病者びやうしやいやたまへり。 15れんとするとき弟子でしたちイエズスにちかづきてひけるは、ところさびしくときすでぎたり。邑々むらむらきておの食物しょくもつはんために、群衆ぐんしゆうをしてらしめたまへ、と。 16イエズス彼等かれらむかひ、人々ひとびとくをえうせず、なんぢこれしよくあたへよ、とのたまひしかば、 17彼等かれらこたへけるは、われ此處ここてるはいつつぱんふたつさかなとのみ。 18イエズス彼等かれらのたまひけるは、われもちきたれ、と。 19かくめいじて群衆ぐんしゆうくさうへにすわらせ、いつつぱんふたつさかなとをり、てんあふぎてしゆくし、きてそのぱん弟子でしたちあたたまひ、弟子でしたちまたこれ群衆ぐんしゆうあたへしかば、 20みなしよくしてあきれり。のこりひろひてくず十二のかご滿ちしが、 21しよくせしものかずは、婦女をんな幼童こどもとをのぞきて五千にんなりき。 22イエズスただち弟子でしたちひて小舟こぶねらしめ、みづから群衆ぐんしゆうらしむるに、さきだちてうみ彼方かなたかしめたまひしが、 23群衆ぐんしゆうらしめてのちひとりいのらんとてやまのぼり、れてひとり其處そこたまへり。 24小舟こぶねうみ眞中まんなかにて、逆風ぎやくふうためなみただよひてありしが、 25の三ごろイエズスのうみうへあゆみて彼等かれらいたたまひければ、 26彼等かれらうみうへあゆたまふをこころさわぎ、怪物ばけものなりとておそさけべり。 27イエズスただちことばいだして、たのもしかれ、われなるぞ、おそるることなかれ、とのたまひしかば、 28ペトロこたへてひけるは、しゆよ、なんぢならばみづみてなんぢいたことわれめいたまへ、と。 29イエズス、きたれとのたまひけるに、ペトロ小舟こぶねよりり、イエズスにいたらんとてみづうへあゆりしが、 30かぜつよきをおそれ、しづまんとせしかば、さけびて、しゆわれすくたまへ、とへり。 31イエズスただちべ、これとらへてのたまひけるは、信仰しんかううすものよ、何故なにゆゑうたがひしぞ、と。 32すなはちとも小舟こぶねりしに、かぜぎたり。 33小舟こぶね居合ゐあはせし人々ひとびとちかづきて、なんぢまことかみなり、とひつつイエズスを禮拜れいはいせり。 34ついわたりてゲネザルのいたりしに、 35土地とち人々ひとびとイエズスをみとめて、そのぜん地方ちはうひとつかはして、すべての病者びやうしやこれ差出さしいだし、 36その衣服いふくふさにだもれんことをねがひたりしが、れたるものことごとえたり。

第15章 編集

1ときに、エルザレムより律法りつぱふ學士がくしとファリザイじんきたり、イエズスにちかづきてひけるは、 2なんぢ弟子でしたち何故なにゆゑ古人こじんつたへおかすぞ。けだしぱんしよくするときあらはざるなり、と。 3こたへてのたまひけるは、なんぢまたおのつたへためかみおきておかすはなんぞや、けだしかみいはく、 4父母ちちははうやまへ。またちちあるひははのろひところさるべし」と。 5しかるになんぢふ、たれにてもちちあるひははむかひて、わが獻物ささげものみななんぢためならんとだにへば、 6そのちちあるひははうやまはずしてなりと、かくなんぢおのつたへためかみおきてむなしくせり。 7僞善ぎぜんしやよ、イザヤはなんぢきて預言よげんして、 8いへらく「この人民じんみんくちびるわれうやまへども、そのこころわれとほざかり、 9ひと訓戒くんかいをしへていたずらわれたふとぶなり」と。 10イエズス群衆ぐんしゆう召集よびあつめてのたまひけるは、 11なんぢきてさとれ、 12くちものひとけがすにあらず、くちよりづるものこそひとけがすなれ、と。そのとき弟子でしたちちかづきてひけるは、ファリザイじんこのことばきてつまづけるをたまふか。 13イエズスこたへてのたまひけるは、すべわがてんたまはざる植物うゑものかるべし、 14なんぢかの人々ひとびとさしおけ、彼等かれら瞽者めしひにして瞽者めしひ手引てびきなり、瞽者めしひもし瞽者めしひ手引てびきせば二人ふたりともあなおちゐるべし、と。 15ペトロこれこたへて、このたとへわれたまへ、とひしかば、 16イエズスのたまひけるは、なんぢなほ智惠ちゑなきものなるか、 17すべくちものはらいたりてかはやつとさとらざるか、 18れどくちよりづるものは、こころよりでてひとけがすなり、 19すなはちあしきおもひ人殺ひとごろし姦淫かんいん私通しつう偸盜ぬすみ僞證ぎしょう冒讀ばうとくこころよりづ、 20これこそひとけがすものなれ、れどあらはずしてしよくすることひとけがさざるなり、と。 21イエズス此處ここりて、チロとシドンとの地方ちはうたまひしに、 22をりしもカナアンのあるをんなその地方ちはうよりで、さけびて、しゆよ、ダヴィドのよ、われあはれたまへ、むすめいた惡魔あくまくるしめらる、とへるに、 23イエズス一言いちごんこたたまはざれば、弟子でしたちちかづきて、かのをんなわれあとさけぶ、かれらしめたまへ、とへども、 24イエズスこたへて、われただイスラエルのいへまよへるひつじつかはされしのみ、とのたまへり。 25しかるにをんなきた禮拜れいはいして、しゆよ、われたすたまへ、とひしに、 26こたへて、子等こどもぱんりていぬ投與なげあたふるはからず、とのたまひしかば、 27をんなひけるは、しゆよ、しかり、れども子犬こいぬその主人しゆじん食卓しよくたくよりつるくずくらふなり、と。 28イエズスついかれこたへて、嗚呼ああをんなよ、おほいなるかななんぢ信仰しんかうのぞめるままなんぢれと、のたまひければ、そのむすめ卽時そくじえたり。 29イエズス此處ここぎて、ガリレアの湖邊うみべいたり、やまのぼりてたまひければ、 30おびただしき群衆ぐんしゆうあり、唖者おし瞽者めしひ跛者あしなへ不具者かたわ其外そのほかおほくのものたづさへてかれちかづき、その足下あしもと放置はなちおきしに、イエズスこれいやたまへり。 31れば群衆ぐんしゆう唖者おしものいひ、跛者あしなへあゆみ、瞽者めしひゆるを感嘆かんたんし、光榮くわうえいをイスラエルのかみたてまつれり。 32ときにイエズス、弟子でしたち召集よびあつめてのたまひけるは、われ[この]群衆ぐんしゆうあはれむ、けだししのびてわれともことすで三日みつかにしてしよくすべきものなし、われこれ空腹くうふくにしてらしむるをこのまず、おそらくはみちにてたふれん、と。 33弟子でしたちひけるは、りとてこの荒野あれのにて、ほど群衆ぐんしゆうかすべきぱんを、われ何處いづこよりかもとん。 34イエズスのたまひけるは、なんぢ幾個いくつぱんをかてる、と。こたへて、ななつすこしの小魚こざかなとあり、とひしかば、 35イエズスめいじて群衆ぐんしゆうすはらせ、 36ななつぱんそのさかなとをり、しやしてき、弟子でしたちあたたまひ、弟子でしたちこれ人民じんみんあたへ、 37みなしよくしてあきれり。のこりくずひろひてななつかご滿ちしが 38しよくせしものは、婦女をんな幼童こどもとをのぞきて四せんにんなりき。 39イエズス群衆ぐんしゆうらしめ、小舟こぶねりてマゲダンの地方ちはういたたまへり。

第16章 編集

1ファリザイじんとサドカイじんと、イエズスをこころみんとてちかづき、てんよりのしるししめされんことひしかば、 2こたへてのたまひけるは、なんぢ夕暮ゆうぐれには、そらあかければ、晴天せいてんならんとひ、 3あさには、そらくもりてあかあじあれば、今日けふ暴風あらしあらんとふ。 4ればそら景色けしきくることりて、ときしるしことざるか。奸惡かんあくなる現代げんだいしるしもとむれども、預言よげんしやヨナのしるしほかにはしるしあたへられじ、と。つい彼等かれらはなれてたまへり。 5弟子でしたちうみ彼方かなたいたりしに、ぱんたづさふることわすれたり。 6イエズス彼等かれらむかひ、つつしみてファリザイじんサドカイじん麪酵ぱんだね用心ようじんせよ、とのたまひしかば、 7彼等かれらあんひて、われぱんたづさへざりしゆゑならん、とへるを、 8イエズスさとりてのたまひけるは、信仰しんかううすものよ、なんぱんたぬことあんへる。 9いまださとらざるか、いつつぱんせんにんわかちて、なほいくかごひろひ、 10またななつぱんせんにんわかちて、なほいくかごひろひしを記憶きおくせざるか 11ファリザイじんサドカイじん麪酵ぱんだね用心ようじんせよ、となんぢひしは、ぱんことあらざるものを、なんさとらざる、と。 12ここおい彼等かれら、イエズスの用心ようじんすべしとのたまひしはぱんたねあらずして、ファリザイじんサドカイじんをしへなることさとれり。 13イエズスフィリッポのカイザリア地方ちはういたり、弟子でしたちひて、人々ひとびとひとたれなりとふか、とのたまひしかば、 14彼等かれらひけるは、あるひと洗者せんしやヨハネなりとひ、あるひとはエリアなりとひ、あるひとはエレミアもしくは預言よげんしや一人ひとりなり[とふ]、と。 15イエズス彼等かれらのたまひけるは、しかるになんぢわれたれなりとふか、 16シモンペトロこたへて、なんぢけるかみ御子おんこキリストなり、とひしに、 17イエズスこたへてのたまひけるは、なんぢさいはひなり、ヨナのシモン、これなんぢしめしたるは血肉けつにくあらずして、てんましまわがちちなればなり。 18われまたなんぢぐ、なんぢペトロなり、われこのいはうへわが敎會けうくわいてん、かく地獄ぢごくもんこれたざるべし。 19われなほ天國てんこくかぎなんぢあたへん、すべなんぢ地上ちじやうにてつながんところは、てんにてもつながるべし、またすべなんぢ地上ちじやうにてかんところは、てんにてもかるべし。 20がイエズス、キリストたることたれにもかたることなかれ、と弟子でしたちいましたまへり。 21このときよりイエズス、おのれのエルザレムにきて、長老ちやうらう律法りつぱふ學士がくし司祭しさいちやうよりおほくのくるしみけ、しかしてころされ、しかして三日みつか復活ふくくわつすべきことを、弟子でしたちしめはじたまひしかば、 22ペトロイエズスをよび退けて、いさでてひけるは、しゆよ、しからざるべし、このことおんみのうへるまじ、と。 23イエズスかへりみてペトロにのたまひけるは、サタンよ退しりぞけ、なんぢわれつまづかせんとす、なんぢあじはへるは、かみことあらずしてひとことなればなり、と。 24ときにイエズス弟子でしたちのたまひけるは、ひともしわがあときてきたらんとほつせば、おのれて、おの十字架じふじかりてわれしたがふべし、 25おの生命せいめいすくはんとほつするひとこれうしなひ、わがため生命せいめいうしなひとこれべければなり。 26ひとぜん世界せかいまうくとも、もしその生命せいめいうしなはばなんえきかあらん、またひとなにものもつてかそのたましひえん。 27けだしひとは、そのちち光榮くわうえいうちに、その使つかひたちともきたらん、そのときひとごとそのおこなひしたがひてむくゆべし。 28われまことなんぢぐ、ここてるものうちひとそのくにもつきたるをるまでなざるもの數人すうにんあり、と。

第17章 編集

1六日むいかのちイエズス、ペトロとヤコボとその兄弟きやうだいヨハネとをべつに、たかやま連行つれゆたまひしに、 2彼等かれらまへにて御容おんかたちかはり、御顏おんかほごとかがやき、その衣服いふくゆきごとしろくなれり。 3をりしもモイゼとエリアと、彼等かれらあらはれてイエズスとかたりしが、 4ペトロこたへてイエズスにひけるは、しゆよ、よきかなわれ此處こここと思召おぼしめしならば、此處ここみついほりつくり、ひとつなんぢためひとつはモイゼのためひとつはエリアのためにせん、と。 5かれなほかたれるに、をりしもかがやけるくも彼等かれらおほひ、くもよりこゑしてのたまはく、「これわがこころやすんぜるわが愛子あいしなる、これけ」、と。 6弟子でしたちきつつ倒伏たふれふし、おそるることはなはだしかりき。 7イエズスちかづきて彼等かれられ、きよ、おそるることなかれ、とのたまひしかば、 8彼等かれらげしに、イエズスのほかたれをもざりき。 9彼等かれらやまくだとき、イエズスこれいましめて、ひと死人しにんうちよりよみがへまでは、なんぢことたれにもかたることなかれ、とのたまひしに、 10弟子でしたちひてひけるは、らばエリアさききたるべし、と律法りつぱふ學士がくしへるはなんぞや。 11こたへてのたまひけるは、にエリアはきたりて萬事ばんじあらたむべし。 12ただしわれなんぢぐ、エリアはすできたれり、れど人々ひとびとこれらず、しかほしいままあしらへり。かくごとく、ひとまた彼等かれらよりくるしみけんとす、と。 13ここおい弟子でしたちこれ洗者せんしやヨハネをしてのたまひしものなることさとれり。 14イエズス群衆ぐんしゆうところきたたまひしに、あるひとこれちかづき、まへひざまずきてひけるは、 15しゆよ、わがあはれたまへ、癲癇てんかんにてしばしばなかたふれ、くるしむことはなはだし、 16これなんぢ弟子でしたち差出さしいだしたれど、彼等かれらいやすことあたはざりき、と。 17イエズスこたへて、嗚呼ああ不信ふしん邪惡じやあくだいなるかなわれ何時いつまでなんぢともらんや、何時いつまでなんぢしのばんや。かれわれたづさきたれ、とのたまひて、 18惡魔あくまいましたまひしかば、惡魔あくまでて卽時そくじえたり。 19とき弟子でしたちひそかにイエズスにちかづきて、われこれ逐出おひいだあたはざりしは何故なにゆゑぞ、とひしに、 20イエズスのたまひけるは、なんぢ信仰しんかうれり。われまことなんぢぐ、なんぢもし芥種からしだねほどの信仰しんかうだにあらば、このやまむかひて、此處ここより彼處かしこうつれとはんに、やまうつらん、かくなんぢあたはざることなからん。 21れどこのたぐひは、祈祷きたう斷食だんじきとにらざれば逐出おひいだされざるなり、と。 22弟子でしたちガリレアにれるに、イエズスのたまひけるは、ひと人々ひとびとわたされんとす、 23彼等かれらこれころすべく、かく三日みつかよみがへるべし、と。弟子でしたちうれふることはなはだしかりき。 24彼等かれらカファルナウムにきたりしとき、二ドラクマ銀貨ぎんくわ取立とりたつる人々ひとびとペトロにちかづき、汝等なんぢらは二ドラクマ銀貨ぎんくわをさめざるか、とひしかばペトロ、 25をさむ、とひしが、やがいへりしに、イエズスさきだちてこれのたまひけるは、シモンよなんぢ如何いかおもふぞ、帝王ていわうは、みつぎまたぜいたれよりるぞ、おの子等こどもよりか、他人たにんよりか、と。 26ペトロ、他人たにんよりるなり、とひしに、イエズスのたまひけるは、らば子等こども自由じいうなり。 27れど彼等かれらつまづかせざるために、なんぢうみきてつりれよ、さてはじめのぼうをりてそのくちひらかば、スタテル銀貨ぎんくわべし、これりてわれなんぢとのため彼等かれらをさめよ、と。

第18章 編集

1そのとき弟子でしたち、イエズスにちかづきてひけるは、天國てんこくにておほいなるものたれなりとおもたまふか、と。 2イエズス一人ひとり幼兒をさなご召寄よびよせ、彼等かれら眞中まんなかたせて、 3のたまひけるは、われまことなんぢぐ、なんぢもしひるがへりて幼兒をさなごごとくにらずば、天國てんこくらざるべし、 4ればすべこの幼兒をさなごごとみづからへりくだひとは、天國てんこくにておほいなるものなり、 5またわがためかくごと一人ひとり幼兒をさなごくるひとは、われくるものなり。 6れどわれしんずるこのいとちひさもの一人ひとりつまづかするひとは、驢馬ろば挽磨ひきうすくびけられ、うみ深處ふかみしづめらるるこそかれえきあるなれ。 7つまづきあるがためわざはひなるかなつまづききたらざるをざれども、つまづききたひとわざはひなるかな8ればもしなんぢあるひあしなんぢつまづかすならば、これりててよ、隻手かたてあるひ隻足かたあしにて生命せいめいるは、兩手りやうてあるひ兩足りやうあしありて永遠えいえん投入なげいれらるるより、なんぢりてまされり。 9またもしなんぢなんぢつまづかすならば、これくじりててよ、隻眼かためにて生命せいめいるは、兩眼りやうがんありて地獄ぢごく投入なげいれらるるより、なんぢりてまされり。 10なんぢつつしみて、このいとちひさもの一人ひとりをもかろんずることなかれ、われなんぢぐ、彼等かれらの[てん]使たちてんりて、てんましまわがちち御顏おんかほつねるなり。 11けだしひとせたるものすくはんとてきたれり。 12なんぢこれなんとかおもへる、ひやくとうひつじてるものもしそのとううしなはば、九十九とうやまさしおき、きてそのまよへるものをたずぬるにあらずや。 13これ見出みいだすにいたらば、われまことなんぢぐ、まよはざる九十九とうひつじうへよりも、なほこのとううへよろこぶなり。 14かくごとく、このいとちひさもの一人ひとりにても、そのほろぶるは、てんましまなんぢちち御旨みむねにあらざるなり。 15もしなんぢ兄弟きやうだいなんぢつみおかさば、きてなんぢかれ相對あいたいしてかれいさめよ、もしなんぢきなばなんぢ兄弟きやうだいたるべし。 16なんぢかずば、二三の證人しようにんくちによりてことすべさだまらんために、一二にんともなへ、 17もしこれかずば敎會けうくわいげよ、敎會けうくわいにもかずば、なんぢりて異邦いはうじん稅吏みつぎとりごともの視做みなすべし。 18われまことなんぢぐ、すべなんぢ地上ちじやうにてつながんところは、てんにてもつながるべし、またすべなんぢ地上ちじやうにてかんところは、てんにてもかるべし。 19われさらなんぢぐ、もしなんぢうち二人ふたり地上ちじやうにて同意どういせば、何事なにごとねがふとも、てんましまわがちちよりたまはるべし。 20けだしわがもつて二三にんあひあつまれるところには、われそのなかり、と。 21ときにペトロイエズスにちかづきてひけるは、しゆよ、わが兄弟きやうだいわれつみおかすを、幾度いくたびゆるすべき、ななたびまでか。 22イエズスのたまひけるは、われなんぢななたびまでとははず、ななたびを七十ばいするまでせよ。 23れば天國てんこくは、その臣下しんか會計くわいけいせしめんとせるわうごとし、 24會計くわいけいはじめしに、わうに一萬タレントの負債ふさいあるもの差出さしいだされしが、 25かへすべなきままに、主君しゆくんかれと、その妻子さいしすべての所有物もちものとをりてかへことめいぜり。 26しかるにその臣下しんか平伏ひれふしてねがひけるは、しばらわれ忍容にんようたまへ、われことごと返濟へんさいせん、と。 27主君しゆくんその臣下しんかあはれみてこれゆるし、その負債ふさいをもゆるせり。 28かの臣下しんかでて、おのれひやくデナリオの負債ふさいある、一人ひとり同僚どうれうひしかば、負債ふさいかへせとひつつ、とらへてそののどむるに、 29同僚どうれう平伏ひれふして、しばらわれ忍容にんようたまへ、われことごと返濟へんさいせん、とねがへども、 30かれがへんぜずしてり、負債ふさいかへすまでこれ監獄かんごくれたり。 31同僚どうれうは、その顛末てんまついたうれひ、きたりてこと次第しだいことごと主君しゆくんかたりしかば、 32主君しゆくんかれしてひけるは、なんぢ兇惡きようあくしんなんぢねがひりて、われことごと負債ふさいなんぢゆるせり、 33ればなんぢあはれみしごとく、なんぢまた同僚どうれうあはれむべかりしにあらずや、と。 34かく主君しゆくんいかりて、負債ふさいことごとかへすまでかれ刑吏けいりわたせり。 35なんぢもしおのおのこころよりおの兄弟きやうだいゆるさずば、てんまたなんぢかくごとたまふべし。

第19章 編集

1これものがたりをはりて、イエズスついにガリレアをり、ヨルダン[がは]のむかひなるユデアのさかひいたたまひしが、 2群衆ぐんしゆうおびただしくこれしたがひければ、其處そこにて彼等かれらいやたまへり。 3ファリザイじんちかづきて、かれこころみてひけるは、如何いかなる理由りいうしたにも、ひとそのつまいだすをべきか。 4イエズスこたへてのたまひけるは、なんぢまざりしか、すなはち元始はじめひとつくたまひしもの、これ男女だんじよつくりてのたまはく、 5このゆゑに、ひと父母ちちはははなれて、そのつま兩人ふたり一體いつたいるべし」と、 6ればすで二人ふたりあらずして一體いつたいなり、ゆゑかみあはたまひしもの、ひとこれわかつべからず、と。 7ファリザイじんひけるは、しからば離緣りえんじやうあたへてつまいだすべし、とモイゼのめいぜしはなんぞや。 8こたへてのたまひけるは、モイゼはなんぢこころ頑固かたくななるがために、つまいだことなんぢゆるしたれど、元始はじめよりはあらざりき。 9すなはちわれなんぢぐ、すべ私通しつうゆゑならでそのつまいだし、ほかをんなめとひと姦淫かんいんするなり、またいだされたるをんなめとひと姦淫かんいんするなり、と。 10弟子でしたちイエズスにむかひ、もしひとつまおけことかくごとくば、めとらざるにしかず、とひしかば、 11イエズスのたまひけるは、ひとみなこのことばうけるるにはあらず、[うけるるは]たまはりたるもののみ。 12すなはちはは胎内たいないよりうまれながらの閹者えんじやあり、ひとよりられたる閹者えんじやあり、また天國てんこくためみづかせる閹者えんじやあるなり。うけるるをひとうけるべし、と。 13とき按手あんしゆしていのられんがため孩兒をさなごイエズスに差出さしいだされしが、弟子でしたちこれこばみければ、 14イエズス彼等かれらのたまひけるは、孩兒をさなごゆるせ、そのわれきたるをきんずることなかれ、天國てんこくかくごとひとためなればなり、と。 15かく彼等かれら按手あんしゆたまひ、さて此處ここたまへり。 16をりしも一人ひとり[の青年せいねん]イエズスにちかづきてひけるは、よ、われ永遠えいえん生命せいめいんには、如何いかなることをかすべき。 17イエズスのたまひけるは、なんよきわれふや、ものひとりのみ、すなはちかみなり。ただしなんぢもし生命せいめいらんとほつせばおきてまもれ、と。 18かれいずれ[のおきて]ぞや、とひしにイエズスのたまひけるは、なんぢひところなかれ、姦淫かんいんするなかれ、偸盜ぬすみするなかれ、僞證ぎしょうするなかれ、 19なんぢ父母ちちははうやまへ、またなんぢちかものおのれごとあいせよ、と。 20青年せいねんひけるは、これみなわれ幼年えうねんよりまもりしところなほわれけたるはなんぞや。 21イエズスのたまひけるは、なんぢもし完全くわんぜんならんとほつせば、きててるものり、これ貧者ひんしやほどこせ、しからばてんおいたからん、しかしてきたりてわれしたがへ、と。 22このことばくや青年せいねんうれひてれり、これおほくの財産ざいさんてるものなればなり。 23イエズス弟子でしたちのたまひけるは、われまことなんぢぐ、富者ふうしや天國てんこくがたし、 24またなんぢぐ、駱駝らくだはりあなとほるは、富者ふうしや天國てんこくるよりもやすし、と。 25弟子でしたちきてはなはだあやしみ、しからばたれすくはるるをん、とひければ、 26イエズス彼等かれら凝視みつめつつのたまひけるは、これひとおいてはあたはざるところなれども、かみおいては何事なにごとあたはざるところなし、と。 27そのときペトロこたへてひけるは、われ一切いつさいててなんぢしたがへり、ればなにべきぞ、と。 28イエズス彼等かれらのたまひけるは、われまことなんぢぐ、われしたがひたるなんぢは、あらたまりてひとその光榮くわうえいせんときなんぢも十二のして、イスラエルの十二ぞくさばくべし。 29またすべわがために、あるひいへあるひ兄弟きやうだいあるひ姉妹しまいあるひちちあるひははあるひつまあるひ子等こどもあるひ田畑たはたはなれるるひとひやくばいけ、かつ永遠えいえん生命せいめいべし。 30ただしおほく、さきなるひとあとになり、あとなるひとさきにならん。

第20章 編集

1天國てんこくあたかも家父かふあさはやでて、その葡萄ぶだうばたけためはたらものやとうがごとし。 2かのはたらものに一にち一デナリオの約束やくそくして、これ葡萄ぶだうばたけつかはししが、 3またごろでて、むなしく市場いちばてる人々ひとびとて、 4なんぢわが葡萄ぶだうばたけけ、正當せいたうものあたへん、とひければ彼等かれらすなはちけり。 5て十二と三ごろでて、またおなやうししが、 6ごろまたでて、てる人々ひとびとひて、なん終日しうじつむなしく此處ここてる、とひしに、 7彼等かれらやとひとなきゆゑなり、とひしかば、かれなんぢわが葡萄ぶだうばたけけ、とへり。 8しかるに日没にちぼついたりて、葡萄ぶだうばたけぬしその會計くわいけいやくむかひ、はたらものびて、あとものよりはじめ、さきものいたるまで賃金ちんぎんあたへよ、とひしかば、 9ごろきたりしものいたりて、おのおの一デナリオをけたり。 10さきものまたきたりて、われおほくるならんとおもひしに、おなじくおのおの一デナリオをけたれば、 11これりつつ家父かふむかひてつぶやき、 12かの人々ひとびとは一はたらきしのみなるに、なんぢ終日しうじつ勞苦らうく暑氣しよきとをしのびしわれひとしくこれをああしらへり、とひければ、 13家父かふその一人ひとりこたへて、ともよ、われなんぢ不義ふぎすにあらず、なんぢぎんまいにてわれやくせしにあらずや、 14なんぢぶんりてけ。われこのあとものにも、またなんぢひとしくあたへんとほつす。 15そもそもまたほつするところすはからざるか、ければとてなんぢあしきか、とひしが、 16かくごとあとひとさきになり、さきひとあとにならん。それされたるひとおほけれども、えらまるるひとすくなし、と。 17イエズスエルザレムにのぼたまふに、ひそかに十二にん弟子でし呼寄よびよせてのたまひけるは、 18いまわれエルザレムにのぼる、ひと司祭しさいちやう律法りつぱふ學士がくしわたされん、彼等かれらこれ死罪しざいしよし、 19また異邦いはうじんわたしてなぶらしめ、かつむちうたしめ、かつ十字架じふじかけしめん、かく三日みつかよみがへるべし、と。 20ときにゼベデオの子等こらははその子等こらともにイエズスにちかづき、禮拜れいはいして何事なにごとかをねがはんとしければ、 21イエズス、なにのぞむか、とのたまひしにかれひけるは、このわが二人ふたりを、御國みくにおい一人ひとりなんぢみぎに、一人ひとりひだりすべくめいたまへ。 22イエズスこたへてのたまひけるは、なんぢねがところらず、なんぢまんとするさかづきるか、と。彼等かれらるなり、とひしかば、 23イエズス彼等かれらのたまひけるは、なんぢじつわがさかづきまん、れどわが右左みぎひだりするは、なんぢあたふべきにあらず、わがちちよりそなへられたる人々ひとびとにこそあたふべきなれ、と。 24かくて十にん弟子でしこれきて、二人ふたり兄弟きやうだいいきどほりければ、 25イエズス彼等かれら呼寄よびよせてのたまひけるは、異邦いはうじん君主くんしゆひとつかさどり、おほいなるものひとうへけんふるふはなんぢところなり。 26なんぢうちにはしかあるべからず、なんぢうちおほいならんとほつするひとは、かえつなんぢしもべとなるべし、 27またなんぢうちだいいちものたらんとほつするひとは、なんぢ奴隷どれいとなるべし。 28これあたかひときたれるはつかへらるるためあらずして、かえつつかへんためかつ衆人しゆうじんあがなひとして生命いのちてんためなるがごとし。 29一行いつかうエリコをづるとき群衆ぐんしゆうおびただしくイエズスにしたがひしが、 30をりしも路傍みちばたせる二人ふたり瞽者めしひ、イエズスのたまふをき、しゆよ、ダヴィドのよ、われあはれたまへ、とさけびければ、 31群衆ぐんしゆう彼等かれらこばみてもくせしめんとすれども、彼等かれらますますさけびて、しゆよ、ダヴィドのよ、われあはれたまへ、とれり。 32イエズスたちとどまり、彼等かれらびてのたまひけるは、われなんぢなにさんことほつするか、と。 33彼等かれらしゆわれひらかれんことを、とひしに、 34イエズス彼等かれらあはれみてそのたまひしかば、彼等かれらたちまちえて、イエズスにしたがへり。