ペトロ前書 (ラゲ訳)

<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書

『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、

1910年発行

〔ローマ・カトリック訳〕

ラゲ訳新約聖書エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)

ペトロ前書

第1章 編集

1イエズス、キリストの使徒しとたるペトロ、ポント、ガラチア、カパドシア[せう]アジアおよびビチニアに離散りさんして寄留きりうせる人々ひとびと2ちちにてましまかみ預知よちしたがひて、[せい]れいによりてせいとせられ、かつ服從ふくじゆうし、イエズス、キリストの御血おんちそそがれんためえらまれたる人々ひとびとに[書簡しよかんおくる]。ねがはくは恩寵おんちよう平安へいあんなんぢくははらんことを。 3しゆくすべきかな我主わがしゆイエズス、キリストのちちにてましまかみけだしそのおほいなるあはれみしたがひて、イエズスの死者ししやうちよりの復活ふくくわつもつて、われあらたうまれしめて、ける希望きぼういだかしめ、 4てんおいなんぢそなはりたる、くつせずけがれざるしかしぼまざる世嗣よつぎさせんとしたまふ。 5なんぢかみ能力のうりよくにより、をはりあらはるべくそなはりたる救靈たすかりために、信仰しんかうもつまもらるるものなり。 6これによりて、假令たとひしばらくは種々しゆじゆこころみなやまさるべきも、なんぢよろこびへざるべし。 7けだしなんぢ信仰しんかうこころみらるるは、きんもつためさるるよりもはるかたふとことにして、イエズス、キリストの公顯こうげんときほまれさかえたふとみとをべきものとしてみとめられんためなり。 8なんぢはイエズス、キリストをざりしも、これあいたてまつり、いまなほずしてこれしんたてまつり、しんたてまつりてしか光榮くわうえいびたるがたよろこびへざるならん。 9なんぢ信仰しんかう目的もくてきたるたましひたすかりべければなり。 10この救靈たすかりきては、なんぢおけ將來しやうらい恩寵おんちようこと預言よげんせし預言よげんしやたち穿鑿せんさくしてこれ探求たんきうせり。 11すなはちキリストのれい彼等かれらましまして、キリストにおけ苦難くなんそののち光榮くわうえいとをあらかじめたまひしかば、何時いつころ如何いかなるときしめたまへるぞと探求たんきうしたりしに、 12そのつたふるところは、彼等かれらみづからのためあらずしてなんぢためなりとの默示もくしたり。そのつたふるところとは、てんよりつかはされたまひし聖靈せいれいによりてなんぢ福音ふくいんべし人々ひとびとより、なんぢいますでげられたるところにして、天使等てんしたちまたこれかんがみることほつせるなり。 13このゆゑなんぢこころおびして節制せつせいし、イエズス、キリストの公現こうげんときなんぢたまはる恩寵おんちようくるところなく希望きぼうし、 14從順じゆうじゆんなる子兒こどもごとく、最初さいしよ不知ふちのぞみしたがことなく、 15なんぢたまひしせいなるものにかたどりて、すべての行狀ぎやうじようおいなんぢまたせいれ。 16かきしるして、「われせいなるによりなんぢせいるべし」とあればなり。 17ひと依怙えこあることなく、おのおのわざによりて審判しんぱんたまものちちたてまつるならば、おそれもつなんぢめるときすごせ。 18これなんぢ先祖せんぞ傳來でんらいむなしき行狀ぎやうじようよりあがなはれしは、金銀きんぎんごとやぶるべきものによらずして、 19無缺むけつ無垢むくこひつじごときキリストのたふと御血おんちによれることればなり。 20かれ世界せかい開闢かいびやく以前いぜんより豫知よちせられたまひたりしかど、かれによりてかみ信仰しんかうせるなんぢために、すゑあらはたまひたるものにして、 21かみこれ死者ししやうちより復活ふくくわつせしめこれ光榮くわうえいたまひしは、なんぢ信仰しんかう希望きぼうとをかみによらしめたまはんとてなり。 22なんぢいつはりなき兄弟きやうだいてき相愛さうあいしやうぜしめんがために、眞理しんり服從ふくじゆうすることによりてたましひきよめ、一層ひとしほふかこころよりあひあいせよ。 23なんぢあらたうまれたるは、くさるべきたねによらず、くさるべからざるたねにより、きて永遠えいゑんそんするかみ御言おんことばによれり。 24けだし一切いつさい肉身にくしんくさごとく、そのさかえくさはなごとし、くさそのはなつれども、 25しゆ御言おんことば永遠えいゑんそんす。なんぢ福音ふくいんりしことばすなはこれなり。

第2章 編集

1れどなんぢすべての惡心あくしんすべての詐欺さぎ表裏へうりねたみすべてのそしりとをきて、 2あたかうまれたての嬰兒みどりごごとく、まがひなき靈的れいてき乳汁ちちこひねがへ、そはこれによりて成長せいちやうして救靈たすかりいたらんためなり。 3なんぢもししゆ善良ぜんりやうましませることあじはひたらんには、よろしくしかすべし。 4しゆけるいしにして、ひとよりはてられしもかみよりえらまれてたふとくせられしいしにてましませば、なんぢこれちかづきたてまつりて、 5おのれまたけるいしごとく、そのうへてられて靈的れいてき家屋かをくり、せいなる司祭しさいしゆうり、イエズス、キリストをもつかみ御意みこころかなへる靈的れいてき犧牲ぎせいささぐるものれ。 6れば聖書せいしよのたまはく、「よ、われえらまれたるすみ上石うはいしをシオンにかんとす、これしんずるひとは、はづかしめられじ」と。 7ゆゑしんじたるなんぢには尊榮そんえいあれども、しんぜざる人々ひとびとりては、建築けんちくしやてたるいしすみいしり、 8つまづいし突當つきあたたるいはれり、これ御言おんことばしんずしてつまづやうかれたればなり。 9れどなんぢ選拔せんばつ人種じんしゆわうてき司祭しさいしゆうせいなる人民じんみんまうけられたる國民こくみんなり。これなんぢが、おのれそのたへなるひかり暗黑くらやみよりたまへるもののとくげんためにして、 10かつてはたみたらざりしものいまかみたみり、あはれみざりしものいまあはれみたるものとれり。 11至愛しあいなるものよ、たましひはんしてたたか肉慾にくよくらんことを、寄留きりうにん旅人りよじんとにたいするごとく、われなんぢこひねがふ。 12なんぢ異邦いはうじんあひだりて行狀ぎやうじようまもれ、これ彼等かれらをしてなんぢ惡人あくにんとしてそしところおいても、善業ぜんげふによりてなんぢおもんぜしめ、訪問はうもんせらるるかみ光榮くわうえいたてまつらしめんためなり。 13ればなんぢしゆために、すべひと制定せいていしたるものにふくせよ、すなは主權しゆけんしやとして帝王ていわうふくし、 14また惡人あくにんばつして善人ぜんにんしやうせんため帝王ていわうよりつかはされたるものとして、すべての官吏くわんりふくせよ。 15けだしなんぢぜんおこなひて、おろかなる人々ひとびと不知ふちもくせしむるはかみ思召おぼしめしなり。 16なんぢ自由じいうなるがごとくにして、自由じいうあくおほひことなく、かみ奴隷どれいたるもののごとくにせよ。 17すべてのひとうやまひ、兄弟等きやうだいたちあいし、かみおそたてまつり、帝王ていわうたふとべ。 18奴隷どれいたるものよ、萬事ばんじおそれもつなんぢ主人しゆじんしたがへ、ただ善良ぜんりやう溫和をんわなるものにのみならず、なさけなきものにもまたしかせよ。 19かみ意識いしきせるがために、不義ふぎくるしみけてかなしみふるこそ御意みこころかなへることなれ。 20つみをかしてたるるをしのべばとて、なんこうかあらん、ぜんしつつしのびてこれにふるこそ、かみ御意みこころかなふことなれ。 21けだしなんぢされたるはこれためなり、はキリストがわれためくるしみたまひしも、れいなんぢのこしておんあとしたはしめたまはんためなればなり。 22かれつみをかたまひしことなく、また御口おんくちいつはりありしことなし。 23かれののしられてののしらず、くるしめられておどさず、ただもつ審判しんぱんたまものまかたまひしなり。 24かれおんみづかうへにてわれつみたまひしは、これわれをしてつみはなきしめんためにして、なんぢその蒼白あをざめたる傷痕きずあとによりていやされたるなり。 25なんぢかつてはまよへるひつじごとくなりしかども、いまたましひ牧者ぼくしや監督かんとくしやにてましますものにたちかへたてまつりたればなり。

第3章 編集

1かくごとく、つまたるものまたおのをつとふくすべし、これをつとが、假令たとひ御言おんことばしんぜざるも、つま行狀ぎやうじようによりて無言むごんうちに、 2なんぢ畏敬ゐけいみさを行狀ぎやうじようかんがみてまうけられんためなり。 3そのかざり表面うはべちぢらしがみきん飾環かざりわけたる衣服いふくらずして、 4こころうちかくれたるひとすなは貞淑ていしゆく謹愼きんしんなる精神せいしんかはらざるにるべし、これこそはかみ御前みまへあたひたかきものなれ。 5けだし古代いにしへ聖女せいぢよたちかみ希望きぼうたてまつりて、おのをつとふくしつつかくごとかざりたりしが、 6そのごとくサラは[そのをつと]アブラハムをしゆびてこれしたがたり。なんぢかれむすめとしてぜんし、なん變動へんどうをもおそれざるなり。 7をつとたるものよ、おなじく知識ちしきしたがひて同居どうきよし、をんなわれよりもよわうつはとして、しかあひとも生命せいめい恩寵おんちようものとして、これ尊重そんちようし、なんぢいのりさまたげられざるやうにせよ。 8をはりに[はん]、なんぢみなこころおなじうしてあひいたはり、兄弟きやうだいあいし、慈悲じひ謙遜けんそんにして、 9あくもつあくむくいず、ののしりもつののしりむくいず、かえつ祝福しゆくふくせよ。これ世嗣よつぎとして祝福しゆくふくためこれされたるなんぢなればなり。 10けだし生命せいめいあいして佳日よきひんとほつするひとは、そのしたをしてあくけしめ、そのくちびるいつはりかたらず、 11あくとほざかりてぜんし、平和へいわもとめてこれふべきなり。 12これしゆおん義人ぎじんたちうへかへりみ、おんみみ彼等かれらいのりかたむき、御顏おんかほあく人々ひとびといかたまへばなり。 13そもそもなんぢもしぜん熱心ねつしんならば、たれなんぢがいすべき。 14また假令たとひためくるしめらるるもさいはひなり、人々ひとびとおどしおそれず、こころさわがさず、 15こころうちしゆキリストをせいなるものとせよ。つねなんぢところ希望きぼう所以ゆゑんきて、ひとごと滿足まんぞくあたふる準備じゆんびあれよ、 16ただし良心りやうしんいうして柔和にうわ畏敬ゐけいとをもつ答弁たふべんせよ。これキリストにおけなんぢ振舞ふるまひ讒言ざんげんする人々ひとびとの、そのそしところきてみづかぢんためなり。 17けだしかみ思召おぼしめしならばぜんしてくるしむはあくしてくるしむにまされり。 18すなはちキリストも一度ひとたびわれつみために、すなは義人ぎじんとして不義ふぎしやためたまひしが、これわれかみささたまはんためにして、にくにてはころされたまひしかど、れいにてはかされたまひ、 19そのれいごくりしれいいたりてすくひ宣傳のべつたたまへり。 20これものは、むかしノエの時代じだいかみ忍耐にんたいちをりしに、方舟はこぶねつくらるるあひだふくせざりしものなりしが、この方舟はこぶねおいみづよりすくはれしものわずかに八にんなりき。 21これ前表ぜんぺうせられたる洗禮せんれいこそいまなんぢをもすくへるなれ。これ肉身にくしんけがれゆゑあらずして、イエズス、キリストの復活ふくくわつによりて良心りやうしんかみたてまつ約束やくそくゆゑなり。 22かれは(われ永遠えいゑん生命せいめいしめんために、ほろぼして)てんたまかみおんみぎましまして天使てんし權勢けんせい能力のうりよくこれふくせしめられたるなり。

第4章 編集

1キリストすで肉身にくしんおいくるしみたまひたれば、なんぢまたおな心得こころえもつ武器ぶきとせよ。けだし肉身にくしんくるしみたるひとは、これつみめたるものにして、 2最早もはやひとよくしたがはず、かみ思召おぼしめししたがひて肉體にくたいのこれるときごさんとするものなり。 3けだしわれ既往きわうおいては、異邦いはうじんのぞみまつたうして、淫亂いんらん情慾じやうよく醉狂すいきやう暴食ばうしよく暴飲ばういんおよよこしまなる偶像ぐうざう崇拜すうはい生活せいくわつせしことにてれり。 4彼等かれらなんぢ同樣どうやうなる放蕩はうたうきはみはしらざるをあやしみてこれののしれども、 5いますで生者せいしや死者ししやとを審判しんぱんせんとして待設まちまうたまへるもの報告はうこくたてまつるべし。 6けだし福音ふくいん死者ししやにも宣傳のべつたへられしはこれためすなは死者ししやひと通例つうれいしたがひて、肉身にくしん審判しんぱんけたりとも、れいかみによりてきんためなり。 7萬物ばんぶつをはりすでちかづけり、ればなんぢつつしいのりつつ警戒けいかいせよ。 8何事なにごとよりもさきたがひあつあいいうせよ、あいおほくのつみおほへばなり。 9苦情くじやうなくあひ接待せつたいし、 10おのおのけたるたまものおうじてかみ樣々さまざまなる恩寵おんちよう分配ぶんぱいしやとして、たがひこれ供給きようきふせよ。 11すなはひとかたときかみ御言おんことばかたるがごとくし、つとむるときかみたまへる能力のうりよくもつてするがごとくすべし。これかみ一切いつさいおいてイエズス、キリストをもつたふとばれたまはんためにして、光榮くわうえい主權しゆけん世々よよこれす、アメン。 12至愛しあいなるものよ、なんぢこころみんとするごとくるしみを、新奇しんきなるものの到來たうらいせるがごとくにあやしむなかれ、 13かえつてキリストのくるしみあづかものとしてよろこべ、これその光榮くわうえいあらはれんときなんぢまたよろこびへざらんためなり。 14なんぢもしキリストの御名みなため侮辱ぶじよくせらるることあらばさいはひなるべし、光榮くわうえいれいすなはかみれいなんぢうへとどまたまへばなり。 15れどあるひ人殺ひとごろしあるひ盜人ぬすびとあるひ惡漢あくかんあるひ他人たにんこと立入たちいものとしてくるしめらるるものは、なんぢうち一人ひとりこれあるべからず。 16もしキリスト信者しんじやとしてくるしめられなばづることなく、かえつこのたいしてかみ光榮くわうえいたてまつるべし。 17けだしとききたれり、審判しんぱんかみいへよりはじまらんとす、もしわれよりはじまらば、かみ福音ふくいんしんぜざる人々ひとびとはて如何いかるべき。 18もしまた義人ぎじんにしてからすくはれなば、敬虔けいけんならざるもの罪人ざいにんとは何處いづこにかつべき。 19しかれはかみ思召おぼしめししたがひてくるしむ人々ひとびとぜんして、眞實しんじつにてましま造物主ざうぶつしゆそのたましひたのたてまつるべきなり。

第5章 編集

1なんぢうち長老ちやうらうには、われとも長老ちやうらうとして、またキリストの苦難くなん證人しようにんとして、將來しやうらいあらはるべき光榮くわうえいあづかものとしてこひねがふ。 2なんぢうちところかみひつじむれぼくせよ、これ監督かんとくするに、ひられてせずしてよろこびてかみおんためにし、はづかしきためにせずして特志とくしもつおこなひ、 3たくせられたる人々ひとびと壓制あつせいせずして、こころよりむれ模範もはんるべし。 4しからばだい牧者ぼくしやあらはたまはんときなんぢしぼまざる光榮くわうえいかんむりべし。 5わかものよ、なんぢまた長老ちやうらうふくせよ、みなたがひ謙遜けんそんびよ、かみ傲慢がうまんなるものさからひて、謙遜けんそんなるもの恩寵おんちようたまへばなり。 6ればなんぢかみ全能ぜんのうなる御手おんてしたへりくだれ、しかせばときいたりてかれなんぢたかたまはん。 7おもわづらところことごとかみゆだたてまつれ、かみなんぢためおもんぱかたまへばなり。 8なんぢ節制せつせいして警戒けいかいせよ、なんぢあだなる惡魔あくまは、ゆる獅子ししごとく、食盡くひつくすべきものをさがしつつゆきめぐればなり、 9なんぢこの兄弟等きやうだいたちおなじくくるしめることりて、信仰しんかうこころかためてこれ抵抗ていかうせよ。 10一切いつさい恩寵おんちようかみはキリスト、イエズスによりてその永遠えいゑん光榮くわうえいなんぢたまひしものなれば、いささかくるしみたるうへは、おんみづか完全くわんぜんにしかたうしつよからしめたまはん、 11光榮くわうえい主權しゆけん世々よよこれす、アメン。 12忠信ちゆうしんなる兄弟きやうだいシルヴァノをもつなんぢ書贈かきおくりしところは、われおもふに簡單かんたんなり。これこのかみ恩寵おんちようまことなること勸告くわんこくし、かつ保證ほしようするもののにして、なんぢよろしくこれつべし。 13なんぢともえらまれてバビロンに敎會けうくわいおよわがマルコはなんぢよろしくとへり。 14あい接吻せつぷんもつたがひよろしくつたへよ。ねがはくは、キリストになんぢ一同いちどう平安へいあんあらんことを、アメン。