プロジェクト・マネジャーが知るべき97のこと/「しなければならないこと」と「できること」

 プロジェクト・マネジャーは、様々なプレッシャーの下で次々と判断を下していかなければなりません。その際、「しなければならないこと」と「できること」をよく分けて考えることが大切です。

 「しなければならないこと」とは、プロジェクト目標を達成するために「求められること」です。一方、「できること」とは、プロジェクトが「提供できる能力」です。

 ここでは、「しなければならないこと」へのプレシャーが強い場合、「できること」の評価が歪められ、プロジェクト・マネジャーが誤った判断をする状況を考えてみます。

 プロジェクトやプロジェクト・マネジャーが、過去の実績を超える高い目標を目指す場合があります。過去の実績を超える高い目標とは、プロジェクトの規模、期間、品質、未経験の技術、未知のユーザー、経験の乏しい業務などです。つまり、今まで経験をしていない新たな試みです。

 こうした高い目標を目指す背景は様々です。例えば、プロジェクトの成功が一連の事業戦略の重要な成功要素になっている、新たな市場領域を開拓する得がたい機会となる、信頼を失うことができない重要ユーザーの要求である、キャリアアップするためにプロジェクト・マネジャーの力量が試されている、大幅なスケジュール遅延をなんとか回復しなければならない、無理をして値引きしたが赤字は出せないなどです。

 プロジェクトの高い目標は、プロジェクト・マネジャーに強いプレッシャーをかけることになります。こうしたプレッシャーを受けると、プロジェクト・マネジャーの心の中で「できること」が「できるようになる」の願望に避けがたく変化していきます。「できること」に対してこれこれの「対策」をすればこれこれのことが「できるようになる」、というように「~たら」「~れば」が判断の中に忍び込みます。「しなければならないこと」が、「できるかもしれないこと」(期待)になり、「できるはずのこと」(信念)になり、「できること」(確信)に転化していきます。

 例えば、従来の実績だと求められる期間ではしたことがない、ある規模のソフトウェアを開発する場合、開発工程を重ねて期間を短縮したり、やったことがない手法やツールを適用して生産性を高く見込んだりして、「できること」が嵩上げされます。

 しかし、開発工程を重ねることはより緻密な作業計画と進捗管理が求められます。こうしたプロジェクト管理は「できること」だったのでしょうか? 経験のない手法やツールを適用して、生産性を従来の実績以上に上げることは「できること」だったのでしょうか?

 「やったことのないこと」は、「やったことのあること」(実績)と比べ、成果を上げられる確率はかなり下がるはずです。

 「責任感」が強く、人に頼らず、やり遂げようとすることは、優秀なプロジェクト・マネジャーであることの重要な姿勢です。プロジェクト・マネジャーは、優秀であれば優秀であるほど、そのような傾向にあります。また、「しなければならないこと」を認識してそれに応えようとすることは、プロジェクト・マネジャーとして大切な姿勢であり能力でもあります。

 しかし、「しなければならないこと」への「責任感」とは裏腹に、実際に起こる事態は「できること」(実績)に従って展開していくことになります。そして、「できること」の確信が揺らぎ、「できるはずのこと」の信念が崩れ、「できるかもしれない」の期待がはずれることになります。

 今まで「できなかったこと」は余程「画期的なこと」がない限り「できること」にはなりません。そして、「画期的なこと」がうまく行くことは、しばしば運と確率の問題です。したがって、プロジェクトをよくマネジメントするには、「できること」(実績)の重みを十分認識し、「しなければならないこと」が手の届くところにあるかどうかを、心理的なプレッシャーに耐えて、冷静に判断しなければなりません。