ハバクク書 (文語訳)

ハバクク書(文語訳)から転送)

<聖書<文語訳旧約聖書

w:舊新約聖書 [文語]』w:日本聖書協会、1953年

w:明治元訳聖書

w:ハバクク書

第1章

編集

預言者ハバククが示を蒙りし預言の重負

ヱホバよ我呼はるに汝の我に聽たまはざること何時までぞや 我なんぢにむかひて強暴を訴ふれども汝は助けたまはざるなり

汝なにとて我に害惡を見せたまふや 何とて艱難を瞻望居たまふや 奪掠および強暴わが前に行はる且爭論あり鬪諍おこる

是によりて律法弛み公義正しく行はれず惡き者義しき者を圍むが故に公義曲りて行はる

汝ら國々の民の中を望み觀おどろけ駭け 汝らの日に我一の事を爲ん 之を告る者あるとも汝ら信ぜざらん

視よ我カルデヤ人を興さんとす 是すなはち猛くまた荒き國人にして地を縦横に行めぐり 己の有ならざる住處を奪ふ者なり

是は懼るべく又驚くべし 其是非威光は己より出づ

その馬は豹よりも迅く夜求食する豺狼よりも疾し 其騎兵は跑まはる 即ちその騎兵は遠き處より來る 其飛ことは物を食はんと急ぐ鷲のごとし

是は全く強暴のために來り 其面を前にむけて頻に進むその俘虜を寄集むることは砂のごとし

是は王等を侮り君等を笑ひ諸の城々を笑ひ土を積あげてこれを取ん

斯て風のごとくに行めぐり進みわたりて罪を獲ん 是は己の力を神とす

ヱホバわが神わが聖者よ 汝は永遠より在すに非ずや 我らは死なじ ヱホバよ汝は是を審判のために設けたまへり 磐よ汝は是を懲戒のために立たまへり

汝は目清くして肯て惡を觀たまはざる者 肯て不義を視たまはざる者なるに何ゆゑ邪曲の者を觀すて置たまふや 惡き者を己にまさりて義しき者を呑噬ふに何ゆゑ汝黙し居たまふや

汝は人をして海の魚のごとくならしめ君あらぬ昆蟲のごとくならしめたまふ

彼鈎をもて之を盡く釣あげ網をもて之を寄せ集め引網をもて之を捕ふるなり 是に因て彼歡び樂しむ

是故に彼その網に犠牲を獻げその引網に香を焚く 其は之がためにその分肥まさりその食饒になりたればなり

然ど彼はその網を傾けつつなほたえず國々の人を惜みなく殺すことをするならんか

第2章

編集

我わが觀望所に立ち戍樓に身を置ん 而して我候ひ望みて其われに何と宣まふかを見 わが訴言に我みづから何と答ふべきかを見ん

ヱホバわれに答へて言たまはく 此黙示を書しるして之を板の上に明白に鐫つけ奔りながらも之を讀むべからしめよ

この黙示はなほ定まれる時を俟てその終を急ぐなり 僞ならず 若し遲くあらば待べし 必ず臨むべし 濡滯りはせじ

視よ彼の心は高ぶりその中にありて直からず 然ど義き者はその信仰によりて活べし

かの酒に耽る者は邪曲なる者なり 驕傲者にして安んぜず彼はその情慾を陰府のごとくに濶くす また彼は死のごとし 又足ことを知ず 萬國を集へて己に歸せしめ萬民を聚めて己に就しむ

其等の民みな諺語をもて彼を評し嘲弄の詩歌をもて彼を諷せざらんや 即ち言ん己に屬せざる物を積累ぬる者は禍なるかな 斯て何の時にまでおよばんや 嗟かの質物の重荷を身に負ふ者よ

汝を噬む者にはかに興らざらんや 汝を惱ます者醒出ざらんや 汝は之に掠めらるべし

汝衆多の國民を掠めしに因てその諸の民の遺れる者なんぢを掠めん 是人の血を流ししに因る また強暴を地上に行ひて邑とその内に住る一切の者とに及ぼせしに因るなり

災禍の手を免れんが爲に高き處に巣を構へんとして己の家に不義の利を取る者は禍なるかな

汝は事を圖りて己の家に恥辱を來らせ衆多の民を滅して自ら罪を取れり

石垣の石叫び建物の梁これに應へん

血をもて邑を建て惡をもて城を築く者は禍なるかな

諸の民は火のために勞し諸の國人は虚空事のために疲る 是は萬軍のヱホバより出る者ならずや

ヱホバの榮光を認むるの知識地上に充て宛然海を水の掩ふが如くならん

人に酒を飮せ己の忿怒を酌和へて之を酔せ而して之が陰所を見んとする者は禍なるかな

汝は榮譽に飽ずして羞辱に飽り 汝もまた飮て汝の不割禮を露はせ ヱホバの右の手の杯汝に巡り來るべし 汝は汚なき物を吐て榮耀を掩はん

汝がレバノンに爲たる強暴と獣を懼れしめしその殲滅とは汝の上に報いきたるべし 是人の血を流ししに因りまた強暴を地上に行ひて邑とその内に住る一切の者とに及ぼししに因るなり

雕像はその作者これを刻みたりとて何の益あらんや 又鑄像および僞師は語はぬ偶像なればその像の作者これを作りて頼むとも何の益あらんや

木にむかひて興ませと言ひ 語はぬ石にむかひて起たまへと言ふ者は禍なるかな 是あに教晦を爲んや 視よ是は金銀に着せたる者にてその中には全く氣息なし

然りといへどもヱホバはその聖殿に在ますぞかし 全地その御前に黙すべし

第3章

編集

シギヨノテに合せて歌へる預言者ハバククの祈禱

ヱホバよ我なんぢの宣ふ所を聞て懼る ヱホバよこの諸の年の中間に汝の運動を活齑かせたまへ 此諸の年の間に之を顯現したまへ 怒る時にも憐憫を忘れ給はざれ

神テマンより來り聖者パラン山より臨みたまふ セラ 其榮光諸天を蔽ひ其讃美世界に徧ねし

その朗耀は日のごとく光線その手より出づ 彼處はその權能の隱るる所なり

疫病その前に先だち行き熱病その足下より出づ

彼立て地を震はせ觀まはして萬國を戰慄しめたまふ 永久の山は崩れ常磐の岡は陷る 彼の行ひたまふ道は永久なり

我觀るにクシヤンの天幕は艱難に罹りミデアンの地の幃幕は震ふ

ヱホバよ汝は馬を驅り汝の拯救の車に乗りたまふ 是河にむかひて怒りたまふなるか 河にむかひて汝の忿怒を發したまふなるか 海にむかひて汝の憤恨を洩し給ふなるか

汝の弓は全く嚢を出で杖は言をもて言かためらる セラ 汝は地を裂て河となし給ふ

山々汝を見て震ひ洪水溢れわたり淵聲を出してその手を高く擧ぐ

汝の奔る矢の光のため汝の鎗の電光のごとき閃燦のために日月その住處に立とどまる

汝は憤ほりて地を行めぐり 怒りて國民を踏つけ給ふ

汝は汝の民を救んとて出きたり 汝の膏沃げる者を救はんとて臨みたまふ 汝は惡き者の家の頭を碎きその石礎を露はして頸におよぼし給へり セラ

汝は彼の鎗をもてその將帥の首を刺とほし給ふ 彼らは我を散さんとて大風のごとくに進みきたる 彼らは貧き者を密に呑ほろぼす事をもてその樂とす

汝は汝の馬をもて海を乗とほり大水の逆卷ところを渉りたまふ

我聞て膓を斷つ 我唇その聲によりて震ふ 腐朽わが骨に入り我下體わななく 其は我患難の日の來るを待ばなり 其時には即ち此民に攻寄る者ありて之に押逼らん

その時には無花果の樹は花咲ず葡萄の樹には果ならず 橄欖の樹の産は空くなり 田圃は食糧を出さず圏には羊絶え小屋には牛なかるべし

然ながら我はヱホバによりて樂み わが拯救の神によりて喜ばん

主ヱホバは我力にして我足を鹿の如くならしめ 我をして我高き處を歩ましめ給ふ 伶長これを我琴にあはすべし