チモテオ前書 (ラゲ訳)

<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書

『公敎宣敎師ラゲ譯　我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、

1910年発行

〔ローマ・カトリック訳〕

『ラゲ訳新約聖書』エミール・ラゲ（Emile Raguet,MEP)

チモテオ前書

第1章

¹我（わが）救主（すくひぬし）にて在（ましま）す神（かみ）及（およ）び我（われ）等（ら）が希望（きぼう）にて在（ましま）すキリスト、イエズスの命（めい）によりてキリスト、イエズスの使徒（しと）たるパウロ、信仰（しんかう）上（じやう）の實子（じつし）チモテオに[書簡（しよかん）を贈（おく）る]。 ²願（ねが）はくは父（ちち）にて在（ましま）す神（かみ）及（およ）び我主（わがしゆ）キリスト、イエズスより恩寵（おんちよう）と慈悲（じひ）と平安（へいあん）とを賜（たま）はらん事（こと）を。 ³我（われ）曾（かつ）てマケドニアに往（ゆ）きし時（とき）汝（なんぢ）に願（ねが）ひし如（ごと）く、汝（なんぢ）はエフェゾに留（とどま）り、或（ある）人々（ひとびと）に命（めい）じて異（こと）なる事（こと）を敎（をし）へざらしめ、 ⁴且（かつ）信仰（しんかう）に基（もとづ）ける神（かみ）の道（みち）を立（た）つるにはあらで却（かえつ）て樣々（さまざま）の議論（ぎろん）を起（おこ）さする寓言（ぐうげん）と、究極（きはまり）なき系圖（けいづ）とに從事（じうじ）する事（こと）なからしめよ。 ⁵抑（そもそも）此（この）命令（めいれい）の目的（もくてき）は、潔（きよ）き心（こころ）と善（よ）き良心（りやうしん）と僞（いつはり）なき信仰（しんかう）とに出（い）づる愛（あい）なり。 ⁶然（しか）れども彼（かの）人々（ひとびと）は、是（これ）等（ら）の事（こと）に外（はづ）れて無益（むえき）なる談話（ものがたり）に移（うつ）り、 ⁷自（みづか）ら律法（りつぱふ）の敎師（けうし）たらんと欲（ほつ）して、其（その）言（い）ふ所（ところ）をも斷言（だんげん）する所（ところ）をも覺（さと）らざるなり。 ⁸然（しか）れども我（われ）等（ら）、律法（りつぱふ）は人（ひと）正（ただ）しく之（これ）を用（もち）ふれば善（よ）きものなることを知（し）れり。 ⁹律法（りつぱふ）の設（まう）けられしは義人（ぎじん）の爲（ため）に非（あら）ずして、不法（ふはふ）人（じん）、反抗（はんかう）者（しや）、不敬（ふけい）者（しや）、罪人（ざいにん）、無（む）宗敎（しうけう）者（しや）、卑俗（ひぞく）者（しや）、父（ちち）を殺（ころ）す者（もの）、母（はは）を殺（ころ）す者（もの）、殺人（さつじん）者（しや）、 ¹⁰私通（しつう）者（しや）、男色（だんしよく）者（しや）、誘拐（いうかい）者（しや）、虛言（きよげん）者（しや）、僞證（ぎしよう）者（しや）、及（およ）び健全（けんぜん）なる敎（をしへ）に反（はん）する他（た）の一切（いつさい）の事（こと）の爲（ため）なりと知（し）るべきなり、 ¹¹我（われ）に委（ゆだね）られたる至福（しふく）に在（ましま）す神（かみ）の光榮（くわうえい）の福音（ふくいん）に在（あ）るが如（ごと）し。 ¹²我（われ）を堅固（けんご）ならしめ給（たま）ひし我主（わがしゆ）キリスト、イエズスに感謝（かんしや）し奉（たてまつ）る。其（そ）は我（われ）を聖（せい）役（えき）に任（にん）じて忠信（ちゆうしん）なる者（もの）とし給（たま）ひたればなり。 ¹³卽（すなは）ち我（われ）曩（さき）には冒涜（ばうとく）者（しや）、迫害（はくがい）者（しや）、侮辱（ぶじよく）者（しや）たりしかど、信（しん）ぜざる時（とき）知（し）らずして爲（な）ししが故（ゆゑ）に、慈悲（じひ）を蒙（かうむ）りて、 ¹⁴キリスト、イエズスに於（おけ）る信仰（しんかう）及（およ）び愛（あい）と共（とも）に、我主（わがしゆ）の恩寵（おんちよう）身（み）に餘（あま）れり。 ¹⁵眞實（しんじつ）にして全（まつた）く信（しん）ずべき談（はなし）なる哉（かな）、キリスト、イエズスの世（よ）に來（きた）り給（たま）ひしは罪人（ざいにん）を救（すく）はん爲（ため）なる事（こと）。我（われ）は其（その）罪人（ざいにん）の第（だい）一なり。 ¹⁶然（しか）るに慈悲（じひ）を蒙（かうむ）りしはキリスト、イエズス其（その）諸（もろもろ）の堪忍（かんにん）を我（われ）に於（おい）て第（だい）一（いち）に顯（あらは）し給（たま）ひ、永遠（えいえん）の生命（せいめい）を得（え）んとて將（まさ）に信（しん）ぜんとする人々（ひとびと）に例（れい）を示（しめ）し給（たま）はん爲（ため）なり。 ¹⁷願（ねが）はくは萬世（ばんせい）の王（わう）に在（ましま）し不朽（ふきう）にして見（み）え給（たま）はざる唯（ゆゐ）一（いつ）の神（かみ）に、世々（よよ）尊崇（そんすう）と光榮（くわうえい）と在（あ）らん事（こと）を、アメン。 ¹⁸我（わが）子（こ）チモテオよ、汝（なんぢ）に關（かか）はれる豫（かね）ての預言（よげん）に從（したが）ひ、此（この）命令（めいれい）を汝（なんぢ）に寄（よ）す、之（これ）に應（おう）じて善（よ）き戰（たたかひ）を戰（たたか）ひ、 ¹⁹信仰（しんかう）と善（よ）き良心（りやうしん）とを保（たも）て。或（ある）人々（ひとびと）は之（これ）を棄（す）て、信仰（しんかう）に就（つ）きて破船（はせん）せしが、 ²⁰其（その）中（うち）にヒメネオとアレキサンデルと在（あ）りしを、冒涜（ばうとく）せざる事（こと）を學（まな）ばしめんとて我（われ）之（これ）をサタンに付（わた）せり。

第2章

¹然（さ）れば我（わ）が第（だい）一に勸（すす）むるは、衆人（しゆうじん）の爲（ため）、 ²帝王（ていわう）等（たち）及（およ）び總（すべ）て上位（じやうゐ）に在（あ）る人々（ひとびと）の爲（ため）に、懇願（こんぐわん）し、祈祷（きたう）し、請願（せいぐわん）し、且（かつ）感謝（かんしや）せられん事（こと）なり。是（こ）は我（われ）等（ら）が全（まつた）き敬虔（けいけん）と正直（せいちよく）とに於（おい）て、安（やす）らかに靜（しづか）なる生活（せいくわつ）を營（いとな）まん爲（ため）なり、 ³斯（かく）の如（ごと）きは善事（ぜんじ）にして我（わが）救主（すくひぬし）にて在（ましま）す神（かみ）の御前（みまへ）に嘉納（かなふ）せらるればなり。 ⁴卽（すなは）ち神（かみ）は一切（いつさい）の人（ひと）の救（すく）はれ、眞理（しんり）を知（し）るに至（いた）らん事（こと）を望（のぞ）み給（たま）ふ。 ⁵蓋（けだし）神（かみ）は唯（ゆゐ）一（いつ）に在（ましま）し、神（かみ）と人（ひと）との仲裁（ちゆうさい）者（しや）も亦（また）唯一（ゆゐいつ）なり。是（これ）人（ひと）たるキリスト、イエズスに在（ましま）して、 ⁶衆人（しゆうじん）の爲（ため）に己（おのれ）を贖（あがなひ）として捧（ささ）げ給（たま）ひ、時（とき）至（いた）りて其（その）證據（しようこ）ありしなり。 ⁷我（われ）は之（これ）が爲（ため）に立（た）てられて宣敎（せんけう）者（しや）たり、且（かつ）使徒（しと）たり、――我（われ）は眞（まこと）を言（い）ひて僞（いつは）らず――信仰（しんかう）と眞理（しんり）とに於（おけ）る異邦（いはう）人（じん）の敎師（けうし）たり。 ⁸然（さ）れば我（われ）は、男子（だんし）が何（いず）れの處（ところ）に於（おい）ても潔（きよ）き手（て）を擧（あ）げて怒（いかり）なく爭（あらそひ）なく祈（いの）らん事（こと）を望（のぞ）む。 ⁹婦人（ふじん）も亦（また）斯（かく）の如（ごと）くして相應（さうおう）の衣服（いふく）を着（つ）け、己（おのれ）を飾（かざ）るに羞耻心（しうちしん）と節制（せつせい）とを以（もつ）てし、縮（ちぢみ）し髮（かみ）、黃金（わうごん）、眞珠（しんじゆ）、高價（かうか）の衣服（いふく）を以（もつ）てせず、 ¹⁰敬虔（けいけん）を約束（やくそく）せる婦人（ふじん）に相當（さうたう）する如（ごと）く善業（ぜんげふ）を以（もつ）てすべし。 ¹¹婦人（ふじん）は全（まつた）く服從（ふくじゆう）して靜（しづか）に學（まな）ぶべし。 ¹²我（われ）は婦人（ふじん）の敎（をし）ふる事（こと）、又（また）男子（だんし）を司（つかさど）る事（こと）を許（ゆる）さず、靜（しづか）にすべきなり。 ¹³蓋（けだし）アダンは前（さき）に造（つく）られ、エワは其（その）後（のち）なり。 ¹⁴又（また）アダンは惑（まど）はされず、婦（をんな）は惑（まど）はされて罪（つみ）に陷（おちい）れり。 ¹⁵然（しか）れども信仰（しんかう）と愛（あい）と聖德（せいとく）と節制（せつせい）とに止（とどま）らば、子女（しぢよ）を擧（あ）ぐる事（こと）によりて救（すくひ）かるべし。

第3章

¹人（ひと）ありて監督（かんとく）の務（つとめ）を欲（ほつ）するは善（よ）き業（げふ）を欲（ほつ）するなりとは眞（まこと）の談（はなし）なり、 ²然（さ）れば監督（かんとく）は、咎（とが）むべき所（ところ）なく、唯（ただ）一婦（いつぷ）の夫（をつと）たり、謹愼（きんしん）、怜悧（れいり）、端正（たんせい）、貞潔（ていけつ）にして旅人（りよじん）を接待（せつたい）し、善（よ）く敎（をしへ）を施（ほどこ）し、 ³酒（さけ）を嗜（たし）まず、人（ひと）を打（う）たず、柔和（にうわ）にして爭（あらそ）はず、利（り）を貪（むさぼ）らず、 ⁴善（よ）く其（その）家（いへ）を治（をさ）め、其（その）子女（しぢよ）の謹（つつし）みて之（これ）に服從（ふくじゆう）する人（ひと）たらざるべからず。 ⁵人（ひと）若（もし）己（おの）が家（いへ）を治（をさ）むるを知（し）らずば、如何（いか）にしてか神（かみ）の敎會（けうくわい）に奮勵（ふんれい）せん。 ⁶監督（かんとく）は新（しん）信徒（しんと）たるべからず、恐（おそら）くは驕（たかぶ）りて惡魔（あくま）に等（ひと）しき審判（さばき）に陷（おちい）らん。 ⁷又（また）外（そと）の人々（ひとびと）に好評（かうひやう）ある人（ひと）たるべし、是（これ）耻辱（ちじよく）と惡魔（あくま）の罠（わな）とに陷（おちい）らざらん爲（ため）なり。 ⁸執事（しつじ）等（たち）も斯（かく）の如（ごと）く、尊（たふと）くして兩舌（りやうぜつ）ならず、酒（さけ）を嗜（たし）まず、耻（は）づべき利（り）を貪（むさぼ）らず、 ⁹潔（きよ）き良心（りやうしん）を以（もつ）て信仰（しんかう）の奧義（おくぎ）を保（たも）てる者（もの）たるべし。 ¹⁰彼等（かれら）も先（まづ）試（ためし）を受（う）けて、咎（とが）むべき所（ところ）なくば務（つと）むべきなり。 ¹¹婦人（ふじん）等（たち）も斯（かく）の如（ごと）く、尊（たふと）くして譏（そし）らず、節制（せつせい）して萬事（ばんじ）に忠實（ちゆうじつ）なる者（もの）たるべし。 ¹²執事（しつじ）等（たち）は、一婦（いつぷ）の夫（をつと）にして善（よ）く其（その）子女（しぢよ）と家（いへ）とを治（をさ）むる者（もの）たるべし、 ¹³其（そ）は善（よ）く務（つと）めたる者（もの）は善（よ）き階級（かいきふ）を得（え）て、キリスト、イエズスに於（おけ）る信仰（しんかう）に就（つ）きて大（おほ）いなる勇氣（ゆうき）を得（う）べければなり。 ¹⁴我（われ）早（はや）く汝（なんぢ）に至（いた）らん事（こと）を望（のぞ）みつつ是（これ）等（ら）の事（こと）を書遣（かきおく）るは、 ¹⁵若（もし）遲（おそ）からん時（とき）、汝（なんぢ）をして神（かみ）の家（いへ）に於（おい）て如何（いか）に行（おこな）ふべきかを知（し）らしめん爲（ため）なり、神（かみ）の家（いへ）とは活（い）き給（たま）へる神（かみ）の敎會（けうくわい）なり、眞理（しんり）の柱（はしら）にして且（かつ）基（もとゐ）なり。 ¹⁶實（げ）にも大（おほ）いなる哉（かな）敬虔（けいけん）の奧義（おくぎ）、卽（すなは）ち[キリストは]肉（にく）に於（おい）て顯（あら）はされ、靈（れい）によりて證（しよう）せられ、天使等（てんしたち）に顯（あらは）れ、異邦（いはう）人（じん）に傳（つた）へられ、世（よ）に信（しん）ぜられ、光榮（くわうえい）に上（あ）げられ給（たま）ひしなり。

第4章

¹然（しか）るに[聖（せい）]靈（れい）の明（あきらか）に曰（のたま）ふ所（ところ）によれば、末世（まつせ）に至（いた）りて或（ある）人々（ひとびと）、惑（まどひ）の[種々（しゆじゆ）の]例（れい）と惡鬼（あくき）の敎（をしへ）とに心（こころ）を傾（かたむ）けて、信仰（しんかう）に遠（とほ）ざかる事（こと）あらん、 ²是（これ）僞（いつはり）を語（かた）る人々（ひとびと）の僞善（ぎぜん）による事（こと）にして、彼等（かれら）は其（その）良心（りやうしん）に燒鐡（やきがね）を當（あ）てられ、 ³娶（めと）る事（こと）を禁（きん）じ、信徒（しんと）及（およ）び眞理（しんり）を知（し）れる人々（ひとびと）の感謝（かんしや）を以（もつ）て食（しよく）する樣（やう）神（かみ）の造（つく）り給（たま）ひし食物（しよくもつ）を斷（た）つ事（こと）を命（めい）ぜん。 ⁴抑（そもそも）神（かみ）の造（つく）り給（たま）ひし物（もの）は皆（みな）善（よ）き物（もの）にして、感謝（かんしや）を以（もつ）て食（しよく）せらるる物（もの）に棄（す）つべきはなし、 ⁵其（そ）は神（かみ）の御言（おんことば）と祈祷（いのり）とを以（もつ）て潔（きよ）めらるればなり。 ⁶是（これ）等（ら）の事（こと）を兄弟等（きやうだいたち）に宣（の）べなば、汝（なんぢ）は曾（かつ）て得（え）たる善（よ）き敎（をしへ）と信仰（しんかう）の言（ことば）とを以（もつ）て修養（しうやう）せられたる、キリストの善（よ）き役者（えきしや）たらん。 ⁷然（さ）れど世俗（せぞく）談（ばなし）、老婆（らうば）談（ばなし）を棄（す）てて、自（みづか）ら敬虔（けいけん）に練習（れんしふ）せよ。 ⁸蓋（けだし）身體（しんたい）の練習（れんしふ）は益（えき）する所（ところ）僅（わづか）なれども、敬虔（けいけん）は今世（こんせ）と來世（らいせ）とに係（かか）る約束（やくそく）を有（いう）して萬事（ばんじ）に益（えき）あり。 ⁹是（これ）全（まつた）く信（しん）ずべき眞（まこと）の談（はなし）なり、 ¹⁰我（われ）等（ら）が勞（らう）して罵（ののし）らるるはこれが爲（ため）にして、卽（すなは）ち萬民（ばんみん）得（とく）に信徒（しんと）の救主（すくひぬし）にて在（ましま）す活（い）き給（たま）へる神（かみ）を希望（きぼう）し奉（たてまつ）る故（ゆゑ）なり。 ¹¹汝（なんぢ）是（これ）等（ら）の事（こと）を命（めい）じ且（かつ）敎（をし）へよ。 ¹²誰（たれ）も汝（なんぢ）の年（とし）若（わか）きを輕（かろ）んずべからず、却（かえつ）て汝（なんぢ）は、言語（げんご）、行狀（ぎやうじよう）、慈愛（じあい）、信仰（しんかう）、貞操（ていそう）を以（もつ）て信徒（しんと）の模範（もはん）たれ。 ¹³我（わ）が至（いた）るまで讀書（どくしよ）、敎訓（けうくん）、說敎（せつけう）に從事（じゆうじ）せよ。 ¹⁴預言（よげん）により、長老（ちやうらう）等（たち）の按手（あんしゆ）を以（もつ）て賜（たま）はりし、汝（なんぢ）の衷（うち）なる賜（たまもの）を忽（ゆるかせ）にすること勿（なか）れ、 ¹⁵汝（なんぢ）の進步（しんぽ）が衆人（しゆうじん）に明（あきらか）ならん爲（ため）に、是（これ）等（ら）の事（こと）を熟考（じゆくかう）して之（これ）に身（み）を委（ゆだ）ねよ。 ¹⁶己（おのれ）と說敎（せつけう）とに省（かへり）みて之（これ）に耐忍（たいにん）せよ、其（そ）は之（これ）を行（おこな）ひて己（おのれ）と汝（なんぢ）に聽（き）く人々（ひとびと）とを救（すく）ふべければなり。

第5章

¹老人（らうじん）を譴責（けんせき）せず、父（ちち）の如（ごと）くにして希（こひねが）へ、若（わか）き人（ひと）を兄弟（きやうだい）の如（ごと）く、 ²老（お）いたる女（をんな）を母（はは）の如（ごと）く、若（わか）き女（をんな）を姉妹（しまい）の如（ごと）くにして完全（くわんぜん）に節操（せつそう）を守（まも）りつつ勸（すす）めよ。 ³眞（しん）に寡婦（やもめ）たる寡婦（やもめ）を敬（うやま）へ、 ⁴然（さ）れど寡婦（やもめ）にして子（こ）或（あるひ）は孫（まご）あらば、彼等（かれら）は先（まづ）家（いへ）に孝行（かうかう）し、親（おや）に恩（おん）を報（むく）ゆる事（こと）を學（まな）ぶべし、是（これ）神（かみ）の御前（みまへ）に嘉納（かなふ）せらるればなり。 ⁵眞（しん）に寡婦（やもめ）にして倚邊（よるべ）なき者（もの）は神（かみ）に倚賴（よりたの）み、晝夜（ちうや）祈願（きぐわん）祈祷（きたう）に從事（じゆうじ）すべし、 ⁶蓋（けだし）快樂（くわいらく）に在（あ）る寡婦（やもめ）は、生（い）きながらにして死（し）したる者（もの）なり、 ⁷彼等（かれら）の科（とが）なからん爲（ため）に是（これ）等（ら）の事（こと）を命（めい）ぜよ。 ⁸己（おの）が家族（かぞく）、殊（こと）に家人（かじん）を顧（かへり）みざる人（ひと）は、信仰（しんかう）を棄（す）てて不（ふ）信者（しんじや）に劣（おと）れる者（もの）なり。 ⁹寡婦（やもめ）の籍（せき）に錄（しる）さるるは、一夫（いつぷ）の妻（つま）たりし者（もの）にして六十才（さい）より下（くだ）らず、 ¹⁰善業（ぜんげふ）の好評（かうひやう）ある者（もの）、卽（すなは）ち子女（しぢよ）を育（そだ）て、若（もし）くは客（きやく）を接待（せつたい）し、若（もし）くは聖徒（せいと）の足（あし）を洗（あら）ひ、若（もし）くは困難（こんなん）に遇（あ）へる人々（ひとびと）を助（たす）けし等（など）、凡（すべ）ての善業（ぜんげふ）を爲（な）しし者（もの）たらざるべからず。 ¹¹若（わか）き寡婦（やもめ）等（ら）を辭（ことわ）れ、蓋（けだし）彼等（かれら）はキリストに背（そむ）きて行（おこなひ）亂（みだ）るれば嫁（とつ）ぐ事（こと）を好（この）み、 ¹²最初（さいしよ）の信（しん）を破（やぶ）りたる故（ゆゑ）に罪（つみ）に定（さだ）められ、 ¹³又（また）亂惰（らんだ）にして家々（いへいへ）を遊（あそび）廻（まは）り、啻（ただ）に亂惰（らんだ）なるのみならず、言（ことば）多（おほ）く又（また）指出（さしい）でて言（い）ふまじき事（こと）を語（かた）る。 ¹⁴然（さ）れば我（われ）は若（わか）き寡婦（やもめ）の、嫁（とつ）ぎて子（こ）を擧（あ）げ家事（かじ）を理（をさ）め、反對者（はんたいしや）をして聊（いささか）も惡口（あくこう）の機會（きくわい）を有（も）たざらしめん事（こと）を欲（ほつ）す、 ¹⁵其（そ）はサタンに立（たち）歸（かへ）りたる者（もの）既（すで）に數人（すにん）あればなり。 ¹⁶信徒（しんと）たる者（もの）、若（もし）[親族（しんぞく）に]寡婦（やもめ）あらば、敎會（けうくわい）を煩（わづら）はさずして自（みづか）ら之（これ）を扶（たす）くべし、是（これ）敎會（けうくわい）をして眞（しん）の寡婦（やもめ）を扶（たす）くるに不足（ふそく）なからしめん爲（ため）なり。 ¹⁷長老（ちやうらう）にして善（よ）く司（つかさど）る人（ひと）、殊（こと）に言（ことば）と敎（をしへ）とに勞（らう）する人（ひと）は、倍（ばい）して尊（たふと）ばるべき者（もの）とせらるべし。 ¹⁸蓋（けだし）聖書（せいしよ）に曰（いは）く、「汝（なんぢ）穀物（こくもつ）を踏碾（ふみこな）す牛（うし）の口（くち）を結（むす）ぶ勿（なか）れ」と、又（また）曰（いは）く、「働（はたら）く人（ひと）は宜（よろ）しく其（その）報（むくい）を得（う）べし」と。 ¹⁹長老（ちやうらう）に對（たい）する訴訟（うつたへ）は、二三の證人（しようにん）あるに非（あら）ずば之（これ）を受理（じゆり）すること勿（なか）れ。 ²⁰罪（つみ）を犯（をか）す者（もの）は、他（た）の人（ひと）をも懼（おそ）れしめん爲（ため）に、一同（いちどう）の前（まへ）に之（これ）を咎（とが）めよ。 ²¹我（われ）神（かみ）とキリスト、イエズスと擇（えら）まれし天使等（てんしたち）の御前（みまへ）に證（しよう）して、汝（なんぢ）が偏頗（へんぱ）なく是（これ）等（ら）の事（こと）を守（まも）り、贔屓（ひいき）を以（もつ）て何事（なにごと）をも爲（な）さざらん事（こと）を命（めい）ず。 ²²誰（たれ）にも早（はや）く按手（あんしゆ）する事（こと）なく、又（また）他人（たにん）の罪（つみ）に與（あづか）る事（こと）なく、貞操（ていそう）にして己（おの）が身（み）を守（まも）れ。 ²³最早（もはや）水（みづ）を飲（の）まずして、胃（い）の爲（ため）又（また）は度度（たびたび）の病（やまい）の爲（ため）に、少（すこ）しく葡萄（ぶだう）酒（しゆ）を用（もち）いよ。 ²⁴或（ある）人々（ひとびと）の罪（つみ）は審判（さばき）にも先（さきだ）ちて明（あきらか）に、或（ある）人々（ひとびと）の罪（つみ）は後（あと）にて顯（あらは）る、 ²⁵善（よ）き行（おこなひ）の顯（あらは）るるも亦（また）斯（かく）の如（ごと）し、然（しか）らざるものは[終（つひ）に]隱（かく）るる能（あた）はず。

第6章

¹總（すべ）て軛（くびき）の下（した）に在（あ）る奴隷（どれい）は、其（その）主人（しゆじん）を全（まつた）く尊（たふと）ぶべきものと思（おも）ふべし、是（これ）主（しゆ）の御名（みな）と敎（をしへ）との罵（ののし）られざらん爲（ため）なり。 ²信徒（しんと）たる主人（しゆじん）を有（も）てる者（もの）は、兄弟（きやうだい）なりとて之（これ）を輕（かろ）んずべからず、却（かえつ）て慈善（じぜん）を共（とも）にせる者（もの）が信徒（しんと）にして己（おのれ）之（これ）に愛（あい）せらるるにより、一層（ひとしほ）善（よ）く事（つか）ふべし。是（これ）等（ら）の事（こと）を敎（をし）へ且（かつ）勸（すす）めよ。 ³人（ひと）ありて、若（もし）異（こと）なる事（こと）を敎（をし）へ、我主（わがしゆ）イエズス、キリストの健全（けんぜん）なる談話（だんわ）と敬虔（けいけん）に適（かな）へる敎（をしへ）とに服（ふく）せずば、 ⁴是（これ）何事（なにごと）をも識（し）らずして自（みづか）ら驕（たかぶ）り、病的（びやうてき）に議論（ぎろん）と言（ことば）爭（あらそひ）とを好（この）む者（もの）なり、是（これ）より起（おこ）るは嫉妬（しつと）、口論（こうろん）、侮辱（ぶじよく）、邪推（じやすゐ）、 ⁵又（また）精神（せいしん）腐敗（ふはい）し眞理（しんり）缺乏（けつぼう）して、敬虔（けいけん）を利益（りえき）の道（みち）なりと思（おも）ふ人々（ひとびと）の爭（あらそひ）等（とう）なり。 ⁶抑（そもそも）足（た）る事（こと）を知（し）れる敬虔（けいけん）こそは大（おほ）いなる利益（りえき）の道（みち）なれ、 ⁷其（そ）は我（われ）等（ら）が此（この）世（よ）に來（きた）りし時（とき）何（なに）物（もの）をも携（たづさ）へざりしかば、去（さ）る時（とき）亦（また）何（なに）物（もの）をも取（と）る能（あた）はざるは疑（うたがひ）なき所（ところ）なればなり。 ⁸衣食（いしよく）だにあらば、我（われ）等（ら）は其（それ）にて滿足（まんぞく）すべし。 ⁹蓋（けだし）富（と）まんと欲（ほつ）する人々（ひとびと）は、誘惑（いざなひ）と惡魔（あくま）の罠（わな）とに陷（おちい）り、人（ひと）を墮落（だらく）と滅亡（めつぼう）とに沈（しづ）むる、愚（ぐ）にして有害（いうがい）なる種々（しゆじゆ）の慾望（よくぼう）に陷（おちい）る。 ¹⁰卽（すなは）ち利（り）慾（よく）は一切（いつさい）の惡事（あくじ）の根（ね）なり、或（ある）人々（ひとびと）は之（これ）が爲（ため）に信仰（しんかう）に遠（とほ）ざかりて迷（まよ）ひ、多（おほ）くの苦（くるしみ）を以（もつ）て己（おのれ）を刺（さし）貫（つらぬ）けり。 ¹¹然（さ）れど神（かみ）の人（ひと）よ、汝（なんぢ）は是（これ）等（ら）の事（こと）を避（さ）けて、正義（せいぎ）、敬虔（けいけん）、信仰（しんかう）、慈愛（じあい）、忍耐（にんたい）、柔和（にうわ）を求（もと）め、 ¹²信仰（しんかう）の善（よ）き戰（たたかひ）を戰（たたか）ひて永遠（えいえん）の生命（せいめい）を捉（とら）へよ。其（そ）は之（これ）に召（め）されて、多（おほ）くの證人（しようにん）の前（まへ）に之（これ）が爲（ため）に善（よ）き宣言（せんげん）を爲（な）したればなり。 ¹³我（われ）萬物（ばんぶつ）を活（い）かし給（たま）ふ神（かみ）の御前（みまへ）、及（およ）びポンシオ、ピラトの時（とき）に立證（りつしよう）して善（よ）き宣言（せんげん）を爲（な）し給（たま）ひしキリスト、イエズスの御前（みまへ）に、汝（なんぢ）に命（めい）ず、 ¹⁴我主（わがしゆ）イエズス、キリストの顯（あらは）れ給（たま）ふまで、穢（けがれ）なく咎（とがめ）なく掟（おきて）を守（まも）れ、 ¹⁵其（その）時期（じき）至（いた）りては、至福（しふく）唯（ゆゐ）一（いつ）の主權（しゆけん）者（しや）、諸王（しよわう）の王（わう）、總（すべ）て主（しゆ）たる者（もの）の主（しゆ）はイエズス、キリストを顯（あらは）し給（たま）はんとす、 ¹⁶彼（かれ）は獨（ひとり）不死（ふし）を有（いう）し、近（ちか）づくべからざる光（ひかり）に住（す）み給（たま）ひ、一人（ひとり）も曾（かつ）て見（み）奉（たてまつ）りし事（こと）なく又（また）見（み）奉（たてまつ）る能（あた）はざる者（もの）に在（ましま）し、尊榮（そんえい）と永遠（えいえん）の權能（けんのう）と之（これ）に歸（き）す、アメン。 ¹⁷汝（なんぢ）此（この）世（よ）の富者（ふしや）に命（めい）ぜよ、驕（たかぶ）る事（こと）なく、確（たしか）ならぬ富（とみ）を恃（たの）まず、快樂（くわいらく）の爲（ため）にも萬物（ばんぶつ）を豐（ゆたか）に供給（きようきふ）し給（たま）ふ活（い）き給（たま）へる神（かみ）を賴（たの）み奉（たてまつ）り、 ¹⁸善（ぜん）を爲（な）して善業（ぜんげふ）に富（と）める者（もの）と成（な）り、快（こころよ）く施（ほどこ）し且（かつ）分（わけ）與（あた）へ、 ¹⁹眞（しん）の生命（せいめい）を捉（とら）ふる樣（やう）、將來（しやうらい）の爲（ため）に善（よ）き資本（しほん）を蓄（たくは）へん事（こと）を。 ²⁰嗚呼（ああ）チモテオよ、托（たく）せられしものを守（まも）りて、世俗（せぞく）の空言（くうげん）と有名（いうめい）無實（むじつ）なる學識（がくしき）の反論（はんろん）とを避（さ）けよ、 ²¹或（ある）人々（ひとびと）は之（これ）を粧（よそほ）ひて信仰（しんかう）の的（まと）を外（はづ）れたるなり。願（ねが）はくは恩寵（おんちよう）汝（なんぢ）と共（とも）に在（あ）らん事（こと）を、アメン。