三 ダバオへ
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ダバオヘ、ダバオヘ。
一萬八千名の在留邦人を、一刻も早く救ひ出したいと、北方から疾風のやうに、皇軍はダバオをめざして押し寄せた。
武装した兵士を滿載したトラックが、ダバオ市内に突入して、町の十字路にさしかかると、
「萬歳、萬歳。」
シャツもズボンも破れて、泥だらけだ。足も手も顔も、ほこりにまみれ、目だけが異樣に光つてゐる。
「日本人か。」
トラックの上から勇士がどなつた。もちろん日本人であつた。その人々の顔には、感激の涙がとめどなく流れた。さうして、声をふるはしながら、
「ありがたうございました。」
と、何べんもくり返すのであつた。
「日本人は、みんな無事ですか。どこにゐますか。」
と、トラックの上の兵士たちは口々にたづねた。
「みんな無事で、學校に監禁されてゐます。」
といふ答へを聞くが早いか、トラックは、市の中央部へ突き進んで行つた。
ダバオ攻撃部隊は、ダバオ州政廳・市役所・裁判所・電話局などの要所をまたたく間に占領して、屋上高く日章旗をかかげた。
兵士を載せたトラックが、帝國領事館の横へ來ると、そばの學校から、黑山のやうな邦人の群が、わあつとなだれを打つて道路へ押し出して來た。大東亞戰爭開始以來、この學校に監禁されてゐた約八千の邦人が、皇軍の入城を知つて、狂喜してこれを迎へたのであつた。
トラックの上の兵士たちは、高く手を振つて
トラックは、校庭の中央に止つた。
部隊長は、トラックの上に立ちあがつて、やさしい、いたはりの心のこもつたことばで訓示をした。人々の中からは、かすかにすすり泣きの聲がもれた。
部隊長の訓示が終ると、林のやうに靜かになつてゐた邦人の間から、嚴かに君が代の合唱が起つた。不動の姿勢をしたトラックの上の勇士も、校庭に居並ぶ邦人も、