サムエル前書 (文語訳)

<聖書<文語訳旧約聖書

w:舊新約聖書 [文語]』w:日本聖書協会、1953年

w:明治元訳聖書

サムエル前書

第1章

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エフライムの山地のラマタイムゾビムにエルカナと名くる人ありエフライテ人にしてエロハムの子なりエロハムはエリウの子エリウはトフの子トフはツフの子なり

エルカナに二人の妻ありてひとりの名をハンナといひひとりの名をペニンナといふペニンナには子ありたれどもハンナには子あらざりき

是人毎歳に其邑をいで上りてシロにおいて萬軍のヱホバを拝み之に祭物をささぐ其處にエリの二人の子ホフニとピネハスをりてヱホバに祭司たり

エルカナ祭物をささぐる時其妻ペニンナと其すべての息子女子にわかちあたへしが

ハンナには其倍をあたふ是はハンナを愛するが故なりされどヱホバ其孕みをとどめたまふ

其敵もまた痛くこれをなやましてヱホバが其はらみをとどめしを怒らせんとす

歳々ハンナ、ヱホバの家にのぼるごとにエルカナかくなせしかばペニンナかくのごとく之をなやます是故にハンナないてものくはざりき

其夫エルカナ之にいひけるはハンナよ何故になくや何故にものくはざるや何故に心かなしむや我は汝のためには十人の子よりもまさるにあらずや

かくてシロにて食飮せしのちハンナたちあがれり時に祭司エリ、ヱホバの宮の柱の傍にある壇に坐す

ハンナ心にくるしみヱホバにいのりて甚く哭き

誓をなしていひけるは萬軍のヱホバよ若し誠に婢の惱をかへりみ我を憶ひ婢を忘れずして婢に男子をあたへたまはば我これを一生のあひだヱホバにささげ剃髮刀を其首にあつまじ

ハンナ、ヱホバのまへに長くいのりけれぱエリ其口に目をとめたり

ハンナ心の中にものいへば只唇うごくのみにて聲きこえず是故にエリこれを酔たる者と思ひ

之にいひけるは何時をで酔ひをるか爾の酒をされよ

ハンナこたへていひけるは主よ然るにあらず我は氣のわづらふ婦人にして葡萄酒をも濃き酒をものまず惟わが心をヱホバのまへに明せるなり

婢を邪なる女となすなかれ我はわが憂と悲みの多きよりして今までかたれり

エリ答へていひけるは安んじて去れ願くはイスラエルの神汝の求むる願ひを許したまはんことを

ハンナいひけるはねがはくは仕女の汝のまへに恩をえんことをと斯てこの婦さりて食ひ其顔ふたたび哀しげならざりき

是に於て彼等朝はやくおきてヱホバの前に拝をしかへりてラマの家にいたる而してエルカナ其つまハユンナとまじはるヱホバ之をかへりみたまふ

ハンナ孕みてのち月みちて男子をうみ我これをヱホバに求めし故なりとて其名をサムエル(ヱホバに聽る)となづく

爰に其人エルカナ及び其家族みな上りて年々の祭物及び其誓ひし物をささぐ

然どもハンナは上らず其夫にいひけるは我はこの子の乳ばなれするに及びてのち之をたづさへゆきヱホバのまへにあらはれしめ恒にかしこに居らしめん

其夫エルカナ之にいひけるは汝の善と思ふところを爲し此子を乳ばなすまでとどまるべし只ヱホバの其言を確實ならしめ賜んことをねがふと斯くこの婦止まりて其子に乳をのませ其ちばなれするをまちしが

乳ばなせしとき牛三頭粉一斗酒一嚢を取り其子をたづさへてシロにあるヱホバの家にいたる其子なほ幼稚し

是に於て牛をころしその子をエリの許に携へゆきぬ

ハンナいひけるは主よ汝のたましひは活くわれはかつてここにてなんぢの傍にたちヱホバにいのりし婦なり

われ此子のためにいのりしにヱホバわが求めしものをあたへたまへり

此故にわれまたこれをヱホバにささげん其一生のあひだ之をヱホバにささぐ斯てかしこにてヱホバををがめり

第13章

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13:20 13:21

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イスラエル人皆其耜鋤斧耒即ち耜鋤三歯鍬斧の錣に缺ありてこれを鍛ひ改さんとする時又は鞭を尖らさんとする時は常にペリシテ人の所にくだれり

是をもて戰の日にサウルおよびヨナタンとともにある民の手には劍も槍も見えず只サウルと其子ヨナクンのみ持り

茲にペリシテ人の先陣ミクマシの渡口に進む

第14章

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其時サウルの子ヨナタン武器を執る若者にいひけるはいざ對面にあるペリシテ人の先陣に渉りゆかんと然ど其父には告ざりき

サウル、ギベアの極においてミグロンにある石榴の樹の下に住含りしが倶にある民はおよそ六百人なりき

又アヒヤ、エポデを衣てともにをるアヒヤはアヒトブの子アヒトブはイカボデの兄弟イカボデばピネハスの子ピネハスはシロにありてヱホバの祭司たりしエリの子なり民ヨナタンの行けるをしらざりき

ヨナタンの渉りてペリシテ人の先陣にいたらんとする渡口の間に此傍に巉巌あり彼傍にも巉巌あり一の名をボゼツといひ一の名をセネといふ

其一は北に向ひてミクマシに對し一に南にむかひてゲバに對す

ヨナタン武器を執る少者にいふいざ我ら此割禮なき者どもの先陣にわたらんヱホバ我らのためにはたらきたまことあらん多くの人をもて救も少き人をもてすくふもヱホバにおいては妨げなし

武器をとるもの之にいひけるは総て汝の心にあるところをなせ進めよ我汝の心にしたがひて汝とともにあり

ヨナタンいひけるは見よ我らかの人々のところにわたり身をかれらにあらはさん

かれら若し我らが汝ら比いたるまでとどまれと斯く我らにいはば我らはこのままとどまりてかれらの所にのぼらじ

されど若し我らのところにのぼれとかくいはば我らのぼらんヱホバかれらを我らの手にわたしたまふなり是を徴となさんと

斯て二人其身をペリシテ人の先陣にあらはしければペリシテ人いひけるは視よヘブル人其かくれたる穴よりいで來ると

すなはち先陣の人ヨナタンと其武器を執る者にこたへて我等の所に上りきたれ目に物見せんといひしかばヨナタン武器を執る者にいひけるは我にしたがひてのぼれヱホバ彼らをイスラエルの手にわたしたまふなり

ヨナタン攀のぼり其武器を執るもの之にしたがふペリシテ人ヨナタンのまへに仆る武器をとる者も後にしたがひて之をころす

ヨナタンと其武器を取るもの手はじめに殺せし者およそ二十人此事田畑半段の内になれり

しかして野にある陣のものおよび凡ての民の中に戰慄おこり先陣の人および刧掠人もまたおののき地ふるひ動けり是は神よりの戰慄なりき

ベニヤミンのギベアにあるサウルの戌卒望見しに視よペリシテ人の群衆くづれて此彼にちらばる

時にサウルおのれとともなる民にいひけるは汝ら點驗て誰が我らの中よりゆきしかを見よとすなはちしらべたるにヨナタンとその武器を執るもの居らざりき

サウル、アヒヤにエポデを持きたれといふ其はかれ此時イスラエルのまへにエポデを著たれば也

サウル祭司にかたれる時ペリシテ人の軍の騒いよいよましたりければサウル祭司にいふ姑く汝の手を措けと

かくてサウルおよびサウルと共にある民皆呼はりて戰いに至るにペリシテ人おのおの劍を以て互いに相撃ちければその敗績はなはだ大なりき

また此時よりまへにペリシテ人とともにありてペリシテ人と共に上りて陣に來るところのヘブル人もまた翻へりてサウルおよびヨナタンと共にあるイスラエル人に合せり

又エフライムの山地にかくれたるイスラエル人皆ペリシテ人の逃るを聞てまた戰ひに出て之を追撃り

是の如くヱホバ此日イスラエルをすくひたまふ而して戰はベテアベンにうつれり

されど此日イスラエル人苦めり其はサウル民を誓はせて夕まで即ちわが敵に仇をむくゆるまでに食物を食ふ者は呪詛れんと言たればなり是故に民の中に食戰を味ひし者なし

爰に民みな林森に至に地の表に蜜あり

即ち民森にいたりて蜜のながるるをみる然ども民誓を畏るれば誰も手を口につくる者なし

然にヨナタンは其父が民をちかはせしを聞ざりければ手にある杖の末をのばして蜜にひたし手を口につけたり是に由て其目あきらかになりぬ

時に民のひとり答て言けるは汝の父かたく民をちかはせて今日食物をくらふ人は呪詛はれんと言り是に由て民つかれたり

ヨナタンいひけるはわが父國を煩せり請ふ我この蜜をすこしく嘗しによりて如何にわが目の明かになりしかを見よ

ましてや民今日敵よりうばひし物を十分に食しならばペリシテ人をころすこと更におほかるべきにあらずや

イスラエル人かの日ペリシテ人を撃てミクマシよりアヤロンにいたる而して民はなはだ疲たり

是において民劫掠物に走かかり羊と牛と犢とを取りて之を地のうへにころし血のままに之をくらふ

人々サウルにつげていひけるは民肉を血のままに食ひて罪をヱホバにをかすとサウルいひけるは汝ら背けり直ちにわがもとに大石をまろばしきたれ

サウルまたいひけるは汝らわかれて民のうちにいりていへ人各其牛と各其羊をわがもとに引ききたり此處にてころしくらへ血のままにくらひて罪をヱホバに犯すなかれと此において民おのおのこの夜其牛を手にひききたりて之をかしこにころせり

しかしてサウル、ヱホバに一つの壇をきづく是はサウルのヱホバに壇を築ける始なり

斯てサウルいひけるは我ら夜のうちにペリシテ人を追くだり夜明までかれらを掠めて一人をも殘すまじ皆いひけるは凡て汝の目に善とみゆる所をなせと時に祭司いひけるは我ら此にちかより神にもとめんと

サウル神に我ペリシテ人をおひくだるべきか汝かれらをイスラエルの手にわたしたまふやと問けれど此日はこたへたまはざりき

是においてサウルいひけるは民の長たちよ皆此にちかよれ汝らみて今日のこの罪のいづくにあるを知れ

イスラエルを救ひたまへるヱホバはいく仮令わが子ヨナタンにもあれ必ず死なざるべからずとされど民のうち一人もこれにこたへざりき

サウル、イスラエルの人々にいひけるはなんぢらは彼處にをれ我とわが子ヨナタンは此處にをらんと民いひけるは汝の目によしとみゆるところをなせ

サウル、イスラエルの神ヱホバにいひけるはねがはくは眞實をしめしたまへとかくてヨナタンとサウル籤にあたり民はのがれたり

サウルいひけるは我とわが子のあひだの鬮を掣けと即ちヨナタンこれにあたれり

サウル、ヨナタンにいひけるは汝がなせしところを我に告よヨナタンつげていひけるは我は只わが手の杖の末をもて少許の蜜をなめしのみなるが我しなざるをえず

サウルこたへけるは神かくなしまたかさねてかくなしたまヘヨナタンよ汝死ざるべからず

民サウルにいひけるはイスラエルの中に此大なるすくひをなせるヨナタン死ぬべけんや決めてしからずヱホバは生くヨナタンの髮の毛ひとすぢも地におつべからず其はかれ神とともに今日はたらきたればなりとかく民ヨナタンをすくひて死なざらしむ

サウル、ペリシテ人を追ことを息てのぼりぬペリシテ人其國にかへれり

かくてサウル、イスラエルの王の位につきて四方の敵を攻む即ちモアブ、アンモンの子孫エドム、ゾバの王たちおよびペリシテ人をせめけるに凡てむかふところにて勝利を得たり

サウル力をえアマレク人をうちてイスラエルを其劫掠人の手よりすくひいだせり

サウルの男子はヨナタン、ヱスイおよびマルキシユアなり其二人の女子の名は姉はメラブといひ妹はミカルといふ

サウルの妻の名はアヒノアムといひてアヒマアズの女子なり其軍の長の名はアブネルといひてサウルの叔父なるネルの子なり

サウルの父キシとアブネルの父ネルはアビエルの子なり

サウルの一生のあひだ恒にペリシテ人と烈しき戰ありサウルは力ある人または勇ある人を見るごとにこれをかかへたり

第15章

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茲にサムエル、サウルにいひけるはヱホバ我をつかはし汝に膏を沃ぎて其民イスラエルの王となさしめたりさればヱホバの言の聲をきけ

萬軍のヱホバかくいひたまふ我アマレクがイスラエルになせし事すなはちエジプトよりのぼれる時其途を遮りしをかへりみる

今ゆきてアマレクを撃ち其有る物をことごとく滅しつくし彼らを憐むなかれ男女童稚哺乳兒牛羊駱駝驢馬を皆殺せ

サウル民をよびあつめてこれをテライムに核ふ歩兵二十萬ユダの人一萬あり

しかしてサウル、アマレクの邑にいたりて谷に兵を伏たり

サウル、ケニ人にいひけるは汝らゆきてさりアマレク人をはなれくだるべし恐らくはかれらとともに汝らをほろぼすにいたらんイスラエルの子孫のエジプトよりのぼれる時汝らこれに恩みをほどこしたりと即ちサニ人アマレク人をはなれてさりぬ

サウル、アマレク人をうちてハビラよりエジプトの東面なるシユルにいたる

サウル、アマレク人の王アガグを生擒り刃をもて其民をことごとくほろぼせり

然ども、サウルと民アガグをゆるしまた羊と牛の最も嘉きもの及び肥たる物並に羔と凡て善き物を殘して之をほろぼしつくすをこのまず但惡き弱き物をほろぼしつくせり

時にヱホバの言サムエルにのぞみていはく

我サウルを王となせしを悔ゆ其は彼背きて我にしたがはずわが命をおこなはざればなりとサムエル憂て終夜ヱホバによばはれり


かくてサムエル、サウルにあはんとて夙く起きけるにサムエルにつぐるものありていふサウル、カルメルにいたり勝利の表を立て轉り進みてギルガルにくだれりと

サムエル、サウルの許に至りければサウルこれにいひけるは汝がヱホバより福祉を得んことをねがふ我ヱホバの命を行へりと

サムエルいひけるは然らばわが耳にいる此羊の聲およびわがきく牛のこゑは何ぞや

サウルいひけるは人々これをアマレク人のところより引ききたれり其は民汝の神ヱホバにささげんために羊と牛の最も嘉きものをのこせばなり其ほかは我らほろぼしつくせり

サムエル、サウルにいけるは止まれ昨夜ヱホバの我にかたりたまひしことを汝につげんサウルいひけるはいへ

サムエルいひけるはさきに汝が微き者とみづから憶へる時に爾イスラエルの支派の長となりしに非ずや即ちヱホバ汝に膏を注いでイスラエルの王となせり

ヱホバ汝を途に遣はしていひたまはく往て惡人なるアマレク人をほろぼし其盡るまで戰へよと

何故に汝ヱホバの言をきかずして敵の所有物にはせかかりヱホバの目のまへに惡をなせしや

サウル、サムエルにひけるは我誠にヱホバの言にしたがひてヱホバのつかはしたまふ途にゆきアマレクの王アガグを執きたりアマレクをほろぼしつくせり

ただ民其ほろぼしつくすべき物の最初としてギルガルにて汝の神ヱホバにささげんとて敵の物の中より羊と牛をとれり

サムエルいひけるはヱホバはその言にしたがふ事を善したまふごとく燔祭と犠牲を善したまふや夫れ順ふ事は犠牲にまさり聽く事は牡恙の脂にまさるなり

其は違逆は魔術の罪のごとく抗戻は虚しき物につかふる如く偶像につかふるがごとし汝ヱホバの言を棄たるによりヱホバもまた汝をすてて王たらざらしめたまふ

サウル、サムエルにいひけるに我ヱホバの命と汝の言をやぶりて罪ををかしたり是は民をおそれて其言にしたがひたるによりてなり

されば今ねがはくはわがつみをゆるし我とともにかへりて我をしてヱホバを拝することをえさしめよ

サムエル、サウルにいひけるは我汝とともにかへらじ汝ヱホバの言を棄たるによりヱホバ汝をすててイスラエルに王たらしめたまはざればなり

サムエル去らんとて振還しときサウその明衣の裾を捉へしかば裂たり

サムエルかれにいひけるは今日ヱホバ、イスラエルの國を裂て汝よりはなし汝の隣なる汝より善きものにこれをあたへたまふ

またイスラエルの能力たる者は謊らず悔ず其はかれは人にあらざればくゆることなし

サウルいひけるは我罪ををかしたれどねがはくはわが民の長老のまへおよびイスラエルのまへにて我をたふとみて我とともにかへり我をして汝の神ヱホバを拝むことをえさしめよ

ここにおいてサムエル、サウルにしたがひてかへるしかしてサウル、ヱホバを拝む

時にサムエルいひけるは汝らわが許にアマレクの王アガグをひききたれとアガグ喜ばしげにサムエルの許にきたりアガグいひけるは死の苦みは必ず過さりぬ

サムエルいひけるに汝の劍はおほくの婦人を子なき者となせりかくのごとく汝の母は婦人の中の最も子なき者となるべしとサムエル、ギルガルにてヱホバのまへにおいてアガグを斬り

かくてサムエルはラマにゆきサウルはサウルのギベアにのぼりてその家にいたる

サムエル其しぬる日までふたたびきたりてサウルをみざりきしかれどもサムエル、サウルのためにかなしめりまたヱホバはサウルをイスラエルの王となせしを悔たまへり

第16章

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爰にヱホバ、サムエルにいひたまひけるは我すでにサウルを棄てイスラエルに王たらしめざるに汝いつまでかれのために歎くや汝の角に膏油を滿してゆけ我汝をベテレヘム人ヱサイの許につかはさん其は我其子の中にひとりの王を尋ねえたればなり

サムエルいひけるは我いかで往くことをえんサウル聞て我をころさんヱホバいひたまひけるは汝一犢を携へゆきて言ヘヱホバに犠牲をささげんために來ると

しかしてヱサイを犠牲の場によべ我汝が爲すべき事をしめさん我汝に告るところの人に膏をそそぐ可し

サムエル、ヱホバの語たまひしごとくなしてベテレヘムにいたる邑の長老おそれて之をむかへいひけるは汝平康なる事のためにきたるや

サムエルいひけるは平康なることのためなり我はヱホバに犠牲をささげんとてきたる汝ら身をきよめて我とともに犠牲の場にきたれと斯てヱサイと其諸子を潔めて犠牲の場によびきたる

かれらが至れる時サムエル、エリアブを見ておもへらくヱホバの膏そそぐものは必ず此人ならんと

しかるにヱホバ、サムエルにいひたまひけるは其容貌と身長を觀るなかれ我すでにかれをすてたりわが視るところは人に異なり人は外の貌を見ヱホバは心をみるなり

ヱサイ、ヘアビナダブをよびてサムエルのまへを過しむサムエルいひけるは此人もまたヱホバ擇みたまはず

ヱサイ、シヤンマを過しむサムエルいひけるは此人もまたヱホバえらみたまはず

ヱサイ其七人の子をしてサムエルの前をすぎしむサムエル、ヱサイにいふヱホバ是等をえらみたまはず

サムエル、ヱサイにいひけるは汝の男子は皆此にをるやヱサイいひけるは尚季子のこれり彼は羊を牧をるなりとサムエル、ヱサイにいひけるは彼を迎へきたらしめよかれが此にいたるまでは我ら食に就かざるべし

是において人をつかはしてかれをつれきたらしむ其人色赤く日美しくして其貌麗しヱホバいひたまひけるは起てこれにあぶらを沃げ是其人なり

サムエル膏の角をとりて其兄弟の中にてこれに膏をそそげり此日よりのちヱホバの霊ダビデにのぞむサムエルはたちてラマにゆけり

かくてヱホバの霊サウルをはなれヱホバより來る惡鬼これを惱せり

サウルの臣僕これにいひけるは視よ神より來れる惡鬼汝をなやます

ねがはくはわれらの主汝のまへにつかふる臣僕に命じて善く琴を鼓く者一人を求めしめよ神よりきたれる惡鬼汝に臨む時彼手をもて琴を鼓て汝いゆることをえん

サウル臣僕にいひけるはわがために巧に妓琴者ぐたづねてわがもとにつれきたれ

時に一人の少者こたへていひけるは我ベテレヘム人ヱサイの子を見しが琴に巧にしてまた豪氣して善くたたかふ辯舌さはやかなる美しき人なりかつヱホバこれとともにいます

サウルすなはち使者をヱサイにつかはしていひけるは羊をかふ汝の子ダビデをわがもとに遣はせと

ヱサイすなはち驢馬にパンを負せ一嚢の酒と山羊の恙を執りてこれを其子ダビデの手によりてサウルにおくれり

ダビデ、サウルの許にいたりて其まへに事ふサウル大にこれを愛し其武器を執る者となす

サウル人をヱサイにつかはしていひけるはねがはくはダビデをしてわが前に事へしめよ彼はわが心にかなへりと

神より出たる惡鬼サウルに臨めるときダビデ琴を執り手をもてこれを弾にサウル慰さみて愈え惡鬼かれをはなる

第17章

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爰にペリシテ人其軍を集めて戰はんとしユダに屬するシヨコにあつまりシヨコとアゼカの間なるバスダミムに陣をとる

サウルとイスラエルの人々集まりてエラの谷に陣をとりペリシテ人にむかひて軍の陣列をたつ

ペリシテ人は此方の山にたちイスラエルは彼方の山にたつ谷は其あひだにあり

時にペリシテ人の陣よりガテのゴリアテと名くる挑戰者いできたる其身の長六キユビト半

首に銅の盔を戴き身に鱗綴の鎧甲を着たり其よろひの銅のおもさは五千シケルなり

また脛には銅の脛當を着け肩の間に銅の矛戟を負ふ

其槍の柄は機の梁のごとく槍の鋒刃の鐵は六百シケルなり楯を執る者其前にゆく

ゴリアテ立てイスラエルの諸行伍によばはり云けるは汝らはなんぞ陣列をなして出きたるや我はペリシテ人にして汝らはサウルの臣下にあらずや汝ら一人をえらみて我ところにくだせ

其人もし我とたたかひて我をころすことをえば我ら汝らの臣僕とならんされど若し我かちてこれを殺さば汝ら我らの僕となりて我らに事ふ可し

かくて此ペリシテ人いひけるは我今日イスラエルの諸行伍を挑む一人をいだして我と戰はしめよと

サウルおよびイスラエルみなペリシテ人のこの言を聞き驚きて大に懼れたり

抑ダビデはかのベテレヘムユダのエフラタ人ヱサイとなづくる者の子なり此人八人の子ありしがサウルの世には年邁みてすでに老たり

ヱサイの長子三人ゆきてサウルにしたがひて戰爭にいづ其戰にいでし三人の子の名は長をエリアブといひ次をアビナダブといひ第三をシヤンマといふ

ダビデは季子にして其兄三人はサウルにしたがへり

ダビデはサウルに往來してベテレヘムにて其父の羊を牧ふ

彼ペリシテ人四十日のあひだ朝夕近づきて前にたてり

時にヱサイ其子ダビデにいひけるは今汝の兄のために此烘麥一斗と此十のパンを取りて陣營にをる兄のところにいそぎゆけ

また此十の乾酪をとりて其千夫の長におくり兄の安否を視て其返事をもちきたれと

サウルと彼等およびイスラエルの人は皆ペリシテ人とたたかひてエラの谷にありき

ダビデ朝夙くおきて羊をひとりの牧者にあづけヱサイの命ぜしごとく携へゆきて車營にいたるに軍勢いでて行伍をなし鯨波をあげたり

しかしてイスラエルとペリシテ人陣列をたてて行伍を行伍に相むかはせたり

ダビデ其荷をおろして荷をまもる者の手にわたし行伍の中にはせゆきて兄の安否を問ふ

ダビデ彼等と倶に語れる時視よペリンテ人の行伍よりガテのペリシテのゴリアテとなづくる彼の挑戰者のぼりきたり前のことばのごとく言しかばダビデ之を聞けり

イスラエルの人其人を見て皆逃て之をはなれ痛く懼れたり

イスラエルの人いひけるは汝らこののぼり來る人を見しや誠にイスラエルを挑んとて上りきたるなり彼をころす人は王大なる富を以てこれをとまし其女子をこれにあたへて其父の家にはイスラエルの中にて租税をまぬかれしめん

ダビデ其傍にたてる人々にかたりていひけるは此ペリシテ人をころしイスラエルの耻辱を雪ぐ人には如何なることをなすや此割禮なきペリシテ人は誰なればか活る神の軍を搦む

民まへのごとく答へていひけるはかれを殺す人には斯のごとくせらるべしと

兄エリアブ、ダビデが人々とかたるを聞しかばエリアブ、ダビデにむかひて怒りを發しいひけるは汝なにのために此に下りしや彼の野にあるわづかの羊を誰にあづけしや我汝の傲慢と惡き心を知る其は汝戰爭を見んとて下ればなり

ダビデいひけるは我今なにをなしたるや只一言にあらずやと

又ふりむきて他の人にむかひ前のごとく語れるに民まへのごとく答たり

人々ダビデが語れる言をききてこれをサウルのまへにつげければサウルかれを召す

ダビデ、サウルにいひけるは人々かれがために氣をおとすべからず僕ゆきてかのペリシテ人とたたかはん

サウル、ダビデにいひけるは汝はかのペリシテ人をむかへてたたかふに勝ず其は汝は少年なるにかれは若き時よりの戰士なればなり

ダビデ、サウルにいひけるは僕さきに父の羊を牧るに獅子と熊と來りて其群の恙を取たれば

其後をおひて之を搏ち恙を其口より援ひいだせりしかして共獣我に猛りかかりたれば其鬚をとらへてこれを撃ちころせり

僕は旣に獅子と熊とを殺せり此割禮なきペリシテ人活る神の軍をいどみたれば亦かの獣の一のごとくなるべし

ダビデまたいひけるはヱホバ我を獅子の爪と熊の爪より援ひいだしたまひたれば此ペリシテ人の手よりも援ひいだしたまはんとサウルダビデにいふ往けねがはくはヱホバ汝とともにいませ

是においてサウルおのれの戎衣をダビデに衣せ銅の盔を其首にかむらせ亦憐綴の鎧をこれにきせたり

ダビデ戎衣のうへに劍を佩て往かんことを試む未だ驗せしことなければなりしかしてダビデ、サウルにいひけるは我いまだ驗せしことなければ是を衣ては往くあたはずと

ダビデこれを脱ぎすて手に杖をとり谿間より五の光滑なる石を拾ひて之を其持てる牧羊者の具なる袋に容れ手に投石索を執りて彼ペリシテ人にちかづく

ペリシテ人進みきてダビデに近づけり楯を執るもの其まへにあり

ペリシテ人環視てダビデを見て之を藐視る其は少くして赤くまた美しき貌なればなり

ペリシテ人ダビデにいひけるは汝杖を持てきたる我豈犬ならんやとペリシテ人其神の名をもってダビデを呪詛ふ

しかしてペリシテ人ダビデにいひけるは我がもとに來れ汝の肉を空の鳥と野の獣にあたへんと

ダビデ、ペリシテ人にいひけるは汝は劍と槍と矛戟をもて我にきたる然ど我は総軍のヱホバの名すなはち汝が搦みたるイスラエルの軍の神の名をもて汝にゆく

今日ヱホバ汝をわが手に付したきはんわれ汝をうちて汝の首級を取りペリシテ人の軍勢の尸體を今日空の鳥と地の野獣にあたへて全地をしてイスラエルに神あることをしらしめん

且又この群衆みなヱホバは救ふに劍と槍を用ひたまはざることをしるにいたらん其は戰はヱホバによれば汝らを我らの手にわたしたまはんと

ペリシテ人すなはち立あがり進みちかづきてダビデをむかへしかばダビデいそぎ陣にはせゆきてペリシテ人をむかふ

ダビデ手を嚢にいれて其中より一つの石をとり投てペリシテ人の顙を撃ければ石其顙に突きいりて俯伏に地にたふれたり

かくダビデ投石索と石をもてペリシテ人にかちペリシテ人をうちて之をころせり然どダビデの手には劍なかりしかば

ダビデはしりてペリシテ人の上にのり其劍を取て之を鞘より抜きはなしこれをもて彼をころし其首級を斬りたり爰にペリシテの人々其勇士の死るを見てにげしかば

イスラエルとユダの人おこり喊呼をあげてペリシテ人をおひガテの入口およびエクロンの門にいたるペリシテ人の負傷人シヤライムの路に仆れてガテおよびエクロンにおよぶ

イスラエルの子孫ペリシテ人をおふてかへり其陣を掠む

ダビデかのペリシテ人の首を取りて之をエルサレムにたづさへきたりしが其甲冑はなのれの天幕におけり

サウル、ダビデがペリシテ人にむかひて出るを見て軍長アブネルにいひけるはアブネル此少者はたれの子なるやアブネルいひけるは王汝の霊魂は生くわれしらざるなり

王いひけるはこの少年はたれの子なるかを尋れよ

ダビデかのペリシテ人を殺してかへれる時アブネルこれをひきて其ペリシテ人の首級を手にもてるままサウルのまへにつれゆきければ

サウルかれにいひけるは若き人よ汝はたれの子なるやダビデこたへけるは汝の僕ベテレヘム人ヱサイの子なり

第18章

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ダビデ、サウルにかたることを終しときヨナタンの心ダビデの心にむすぴつきてヨナタンおのれの命のごとくダビデを愛せり

此日サウル、ダビデをかかへて父の家にかへらしめず

ヨナタンおのれの命のごとくダビデを愛せしかばヨナタンとダビデ契約をむすべり

ヨナタンおのれの衣たる明衣を脱てダビデにあたふ其戎衣および其刀も弓も帶もまたしかせり

ダビデは凡てサウルが遣はすところにいでゆきて功をあらはしければサウルかれを兵隊の長となせりしかしてダビデ民の心にかなひ又サウルの僕の心にもかなふ

衆人かへりきたれる時すなはちダビデ、ペリシテ人をころして還れる時婦女イスラエルの邑々よりいできたり鼗と祝歌と磬をもちて歌ひまひつつサウル王を迎ふ

婦人踊躍つつ相こたへて歌ひけるはサウルは千をうち殺しダビデは萬をうちころすと

サウル甚だ怒りこの言をよろこばずしていひけるは萬をダビデに歸し千をわれに歸す此上かれにあたふべき者は唯國のみと

サウルこの日より後ダビデを目がけたり

次の日神より出たる惡鬼サウルにのぞみてサウル家のなかにて預言したりしかばダビデ故のごとく手をもって琴をひけり時にサウルの手に投槍ありければ

サウル我ダビデを壁に刺とはさんといひて其投槍をさしあげしがダビデ二度身をかはしてサウルをさけたり

ヱホバ、サウルをはなれてダビデと共にいますによりてサウル彼をおそれたり

是故にサウル彼を遠ざけて千夫長となせりダビデすなはち民のまへに出入す

またダビデすべて其ゆくところにて功をあらはし且ヱホバかれとともにいませり

サウル、ダビデが大に功をあらはすをみてこれを恐れたり

しかれどもイスラエルとユダの人はみなダビデを愛せり彼が其前に出入するによりてなり

サウル、ダビデにいひけるはわれわが長女メラブを汝に妻さん汝ただわがために勇みヱホバの軍に戰ふべしと其はサウルわが手にてかれを殺さでペリシテ人の手にてころさんとおもひたればなり

ダビデ、サウルにいひけるは我は誰ぞわが命はなんぞわが父の家はイスラエルにおいて何なる者ぞや我いかでか王の婿となるべけんと

然るにサウルの女子メラブはダビデに嫁ぐべき時におよびてメホラ人アデリエルに妻されたり

サウルの女ミカル、ダビデを愛す人これを王に告ければサウル其事を善しとせり

サウルいひけるは我ミカルをかれにあたへて彼を謀る手段となしペリシテ人の手にてかれを殺さんといひてサウル、ダビデにいひけるは汝今日ふたたびわが婚となるべし

かくてサウル其僕に命じけるは汝ら密にダビデにかたりて言へ視よ王汝を悦び王の僕みな汝を愛すされば汝王の婿となるべしと

サウルの僕此言をダビデの耳に語りしかばダビデいひけるは王の婿となること汝らの目には易き事とみゆるや且われは貧しく賤しき者なりと

サウルの僕サウルにつげてダビデ是の如くかたれりといへり

サウルいひけるはなんぢらかくダビデにいへ王は聘禮を望まずただペリシテ人の陽皮一百をえて王の仇をむくいんことを望むと是はサウル、ダビデをペリシテ人の手に殞沒しめんとおもへるなり

サウルの僕此言をダビデにつげしかばダビデは王の婿となることを善とせり斯て其時いまだ滿ざるあひだに

ダビデ起て其從者とともにゆきペリシテ人二百人をころして其陽皮をたづさへきたり之を悉く王にささげて王の婿とならんとすサウル乃はち其女ミカルをダビデに妻せたり


サウル見てヱホバのダビデとともにいますを知りぬまたサウルの女ミカルはダビデを愛せり

サウルさらにますますダビデを恐れサウル一生のあひだダビデの敵となれり

爰にペリシテ人の諸伯攻きたりしがダビデかれらが攻めきたるごとにサウルの諸の臣僕よりは多の功をたてしかば其名はなはだ尊まる

第19章

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サウル其子ヨナタンおよび諸の臣僕にダビデをころさんとすることを語れり

されどサウルの子ヨナタン深くダビデを愛せしかばヨナタン、ダビデにつげていひけるはわが父サウル汝をころさんことを求むこのゆゑに今ねがはくは汝翌朝謹恪で潜みをりて身を隠せ

我いでゆきて汝がをる野にてわが父の傍にたちわが父とともに汝の事を談はんしかして我其事の如何なるを見て汝に告ぐべし

ヨナタン其父サウルに向ひダビデを褒揚ていひけるは願くは王其僕ダビデにむかひて罪ををかすなかれ彼は汝に罪ををかさずまた彼が汝になす行爲ははなはだ善し

またかれは生命をかけてかのペリシテ人をころしたりしかしてヱホバ、イスラエルの人々のためにおほいなる救をほどこしたまふ汝見てよろこべりしかるに何ぞゆゑなくしてダビデをころし無辜者の血をながして罪ををかさんとするや

サウル、ヨナタンの言を聽いれサウル誓ひけるはヱホバはいくわれかならずかれをころさじ

ヨナタン、ダビデをよびてヨナタン其事をみなダビデにつげ遂にダビデをサウルの許につれきたりければダビデさきのごとくサウルの前にをる

爰に再び戰爭おこりぬダビデすなはちいでてペリシテ人とたたかひ大にかれらを殺せしかばかれら其まへを逃げされり

サウル手に投槍を執て室に坐する時ヱホバより出たる惡鬼これにのりうつれり其時ダビデ乃ち手をもて琴を弾く

サウル投槍をもてダビデを壁に刺とはさんとしたりしがダビデ、サウルのまへを避ければ投槍を壁に衝たてたりダビデ其夜逃さりぬ

サウル使者をダビデの家につかはしてかれを守らしめ朝におよびてかれをころさしめんとすダビデの妻ミカル、ダビデにつげていひけるは若し今夜爾の命を援ずば明朝汝は殺されんと

ミカル即ち牖よりダビデを槌おろしければ往て逃されり


斯てミカル像をとりて其牀に置き山羊の毛の編物を其頭におき衣服をもて之をおほへり

サウル、ダビデを執ふる使者をつかはしければミカルいふかれは疾ありと

サウル使者をつかはしダビデを見させんとていひけるはかれを牀のまま我にたづさきたれ我これをころさん

使者いりて見たるに牀には像ありて其頭に山羊の毛の編物ありき

サウル、ミカルにいひけるはなんぞかく我をあざむきてわが敵を逃しやりしやミカル、サウルにこたへけるは彼我にいへり我をはなちてさらしめよ然らずば我汝をころさんと

ダビデにげさりてラマにゆきサムエルの許にいたりてサウルがおのれになせしことをことごとくつげたりしかしてダビデとサムエルはゆきてナヨテにすめり

サウルに告る者ありていふ視よダビデはラマのナヨテにをると

サウル乃ちダビデを執ふる使者をつかはせしが彼等預言者の一群の預言しをりてサムエルが其中の長となりて立てるを見るにおよぴ神の霊サウルの使者にのぞみて彼等もまた預言せり

人々これを告ければサウル他の使者を遣しけるにかれらも亦預言せしかばサウルまた三度使者を遣はしけるが彼等もまた預言せり

是においてサウルもまたラマにゆきけるがセクの大井にいたれる時問ていひけるはサムエルとダビデは何處にをるや答ていふラマのナヨテにをる

サウルかしこにゆきてラマのナヨテに至りけるに神の霊また彼にのぞみて彼ラマのナヨテにいたるまで歩きつつ預言せり

彼もまた其衣服をぬぎすて同くサムエルのまへに預言し其一日一夜裸體にて仆臥たり是故に人々サウルもまた預言者のうちにあるかといふ

第20章

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ダビデ、ラマのナヨテより逃きたりてヨナタンにいひけるは我何をなし何のあしき事あり汝の父のまへに何の罪を得てか彼わが命を求むる

ヨナタンかれにいひけるは汝決て殺さるることあらじ視よわが父は事の大なるも小なるも我につげずしてなすことなしわが父なんぞこの事を我にかくさんやこの事しからず

ダビデまた誓ひていひけるは汝の父必ずわが汝のまへに恩惠をうるを知る是をもてかれ思へらく恐らくはヨナタン悲むべければこの事をかれにしらしむべからずとしかれどもヱホバはいくまたなんぢの霊魂はいくわれは死をさること只一歩のみ

ヨナタン、ダビデにいひけるはなんぢの心なにをねがふか我爾のために之をなさんと

ダビデ、ヨナタンにいひけるは明日は月朔なれば我王とともに食につかざるべからず然ども我をゆるして去らしめ三日の晩まで野に隠るることをえさしめよ

若汝の父まことに我をもとめなば其時言へダビデ切に其邑ベテレヘムにはせゆかんことを我に請り其は彼處に全家の歳祭あればなりと

彼もし善しといはば僕やすからんされど彼もし甚しく怒らば彼の害をくはへんと決しを知れ

汝ヱホバのまへに僕と契約をむすびたれば願くは僕に恩をほどこせ然ど若我に惡き事あらば汝自ら我をころせ何ぞ我を汝の父に引ゆくべけんや

ヨナタンいひけるは斯る事かなら今汝にあらざれ我わが父の害を汝にくはへんと決るをしらば必ず之を汝につげん

ダビデ、ヨナタンにいひけるは若し汝の父荒々しく汝にこたふる時は誰か其事を我に告ぐべきや

ヨナタン、ダビデにいひけるは來れ我ら野にいでゆかんと倶に野にいでゆけり

しかしてヨナタン、ダビデにいひけるはイスラエルの神ヱホバよ明日か明後日の今ごろ我わが父を窺ひて事のダビデのために善きを見ながら人を汝に遣はして告しらさずばヱホバ、ヨナタンに斯なしまた重て斯くなしたまへ

されど若しわが父汝に害をくはへんと欲せば我これを告げしらせて汝をにがし汝を安らかにさらしめん願くはヱホバわが父とともに坐せしごとく汝とともにいませ

汝只わが生るあひだヱホバの恩を我にしめして死ざらしむるのみならず

ヱホバがダビデの敵を悉く地の表より絶ちさりたまふ時にもまた汝わが家を永く汝の恩にはなれしむるなかれ

かくヨナタン、ダビデの家と契約をむすぶヱホバ之に關てダビデの敵を討したまへり

しかしてヨナタンふたたびダビデに誓はしむかれを愛すればなり即ちおのれの生命を愛するごとく彼を愛せり

またヨナタン、ダビデにいひけるは明日は月朔なるが汝の座空かるべければ汝求めらるべし

汝三日とどまりて速かに下り嘗てかの事の日に隠れたるところに至りてエゼルの石の傍に居るべし

我的を射るごとくして其石の側に三本の矢をはなたん

しかしてゆきて矢をたづねよといひて僮子をつかはすべし我もし故に僮子に視よ矢は汝の此旁にあり其を取と曰ばなんぢきたるべしヱホバは生く汝安くして何もなかるべければなり

されど若し我少年に視よ矢は汝の彼旁にありといはば汝さるべしヱホバ汝をさらしめたまふなり

汝と我とかたれることについては願はくはヱホバ恒に汝と我との間にいませと

ダビデ即ち野にかくれぬ偖月朔になりければ王坐して食に就く

即ち王は常のごとく壁によりて座を占むヨナタン立あがりアブネル、サウルの側に坐すダビデの座はなむし

されど其日にはサウル何をも曰ざりき其は何事か彼におこりしならん彼きよからず定て潔からずと思ひたればなり

明日すなはち月の二日におよびてダビデの座なほ虚しサウル其子ヨナタンにいひけるは何ゆゑにヱサイの子は昨日も今日も食に來らざるや

ヨナタン、サウルにこたへけるはダビデ切にベテレヘムにゆかんことを我にこひて曰けるは

ねがはくは我をゆるしてゆかしめよわが家邑にて祭をなすによりわが兄我にきたることを命ぜり故に我もし汝のまへにめぐみをえたるならばねがはくは我をゆるして去しめ兄弟をみることを得さしめよと是故にかれは王の席に來らざるなり

サウル、ヨナタンにむかひて怒りを發しかれにいひけるは汝は曲り且悸れる婦の子なり我あに汝がヱサイの子を簡みて汝の身をはづかしめまた汝の母の膚を辱しむることを知ざらんや

ヱサイの子の此世にながらふるあひだは汝と汝の位固くたつを得ず是故に今人をつかはして彼をわが許に引きたれ彼は死ぬべき者なり

ヨナタン父サウルに對へていひけるは彼なにによりて殺さるべきか何をなしたるやと

ここにおいてサウル、ヨナタンを撃んとて投槍をさしあげたりヨナタンすなはち其父のダビデを殺さんと決しをしれり

かくてヨナタン烈しく怒りて席を立ち月の二日には食をなさざりき其は其父のダビデをはづかしめしによりてダビデのために憂へたればなり

翌朝ヨナタン一小童子を從がヘダビデと約せし時刻に野にいでゆき

童にいひけるは走りて我はなつ矢をたづねよと童子はしる時ヨナタン矢を彼のさきに發てり

童子がヨナタンの發ちたる矢のところにいたれる時ヨナタン童子のうしろに呼はりていふ矢は汝のさきにあるにあらずや

ヨナタンまた童子のうしろによばはりていひけるは速かにせよ急げ止まるなかれとヨナタンの童子矢をひろひあつめて其主人のもとにかへる

されど童子は何をも知ざりき只ヨナタンとダビデ其事をしりたるのみ

かくてヨナタン其武器を童子に授ていひけるは往けこれを邑に携へよと

童子すなはち往けり時にダビデ石の傍より立ちあがり地にふして三たび拝せりしかしてふたり互に接吻してたがひに哭くダビデ殊にはなはだし

ヨナタン、ダビデにいひけるは安じて往け我ら二人ともにヱホバの名に誓ひて願くはヱホバ恒に我と汝のあひだに坐し我が子孫と汝の子孫のあひだにいませといへりとダビデすなはちたちて去るヨナタン邑にいりぬ

第21章

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ダビデ、ノブにゆきて祭司アヒメレクにいたるアヒメレク懼れてダビデを迎へこれにいひけるは汝なんぞ獨にして誰も汝とともならざるや

ダビデ祭司アヒメレクにいふ王我にこの事を命じて我にいふ我が汝を遣はすところの事およびわが汝に命じたる所については何をも人にしらするなかれと我某處に我少者を出おけり

いま何か汝の手にあるや我手に五のパンか或はなににてもある所を與よ

祭司ダビデに對ていひけるは常のパンはわが手になしされど若し少者婦女をだに愼みてありしならば聖きパンあるなりと

ダビデ祭司に對へていひけるは實にわがいでしより此三日は婦女われらにちかづかず且少者等の器は潔し又パンは常の物のごとし今日器に潔きパンあれば殊に然と

祭司かれに聖きパンを與たり其はかしこに供前のパンの外はパン无りければなり即ち其パンは下る日に熱きパンをささげんとて之をヱホバのまへより取されるなり

其日かしこにサリルの僕一人留められてヱホバのまへにあり其名をドエグといふエドミ人にしてサウルの牧者の長なり

ダビデまたアヒメレクにいふ此に汝の手に槍か劍あらぬか王の事急なるによりて我は刀も武器も携へざりしと

祭司いひけるは汝がエラの谷にて殺したるペリシテ人ゴリアテの劍布に裏みてエポデの後にあり汝もし之をとらんとおもはば取れ此にはほかの劍なしダビデいひけるはそれにまさるものなし我にあたへよと

ダビデ其日サウルをおそれて立てガテの王アキシのところに逃げゆきぬ

アキシの臣僕アキシに曰けるは此は其地の王ダビデにあらずや人々舞踏のうちにこの人のことを歌ひあひてサウルは千をうちころしダビデは萬をうちころすといひしにあらずや

ダビデこの言を心に蔵め深くガテの王アキシをおそれ

人々のまへに佯て其氣を變じ執はれて狂人のさまをなし門の扉に書き其涎沫を鬚にながれくだらしむ

アキシ僕に云けるは汝らの見るごとく此人は狂人なり何ぞかれを我にひき來るや

我なんぞ狂人を須ひんや汝ら此者を引きたりてわがまへに狂しめんとするや此者なんぞ吾が家にいるべけんや

第22章

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是故にダビデ其處をいでたちてアドラムの洞穴にのがる其兄弟および父の家みな聞きおよびて彼處にくだり彼の許に至る

また惱める人負債者心に嫌ぬ者皆かれの許にあつまりて彼其長となれりかれとともにある者はおよそ四百人なり

ダビデ其處よりモアブのミヅパにいたりモアブの王にいひけるは神の我をいかがなしたまふかを知るまでねがはくはわが父母をして出て汝らとともにをらしめよと

遂にかれらをモアブの王のまへにつれきたるかれらはダビデが要害にをる間王とともにありき

預言者ガデ、ダビデに云けるは要害に住るなかれゆきてユダの地にいたれとダビデゆきてハレテの叢林にいたる

爰にサウル、ダビデおよびかれとともなる人々の見露されしを聞けり時にサウルはギベアにあり手に槍を執て岡巒の柳の樹の下にをり臣僕ども皆其傍にたてり

サウル側にたてる僕にいひけるは汝らベニヤミン人聞けよヱサイの子汝らおのおのに田と葡萄園をあたへ汝らおのおのを千夫長百夫長となすことあらんや

汝ら皆我に敵して謀り一人もわが子のヱサイの子と契約を結びしを我につげしらする者なしまた汝ら一人もわがために憂へずわが子が今日のごとくわが僕をはげまして道に伏て我をおそはしめんとするを我につげしらす者なし

時にエドミ人ドエグ、サウルの僕の中にたち居りしが答へていひけるは我ヱサイの子のノブにゆきてアヒトブの子アヒメレクに至るを見しが

アヒメレクかれのためにヱホバに問ひまたかれに食物をあたへペリシテ人ゴリアテの劍をあたへたりと

王すなはち人をつかはしてアヒトブの子祭司アヒメレクなよびその父の家すなはちノブの祭司たる人々を召したればみな王の許にきたる

サウルいひけるは汝アヒトブの子聽よ答へけるは主よ我ここにあり

サウルかれにいふ汝なんぞヱサイの子とともに我に敵して謀り汝かれにパンと劍をあたへ彼が爲に神に問ひかれをして今日のごとく道に伏て我をおそはしめんとするや

アヒメレク王にこたへていひけるは汝の臣僕のうち誰かダビデのごとく忠義なる彼は王の婿にして親しく汝に見ゆるもの汝の家に尊まるる者にあらずや

我其時かれのために神に問ことを始めしや決てしからずねがはくは王僕およびわが父の全家に何をも歸するなかれ其は僕この事については多少をいはず何をもしらざればなり

王いひけるはアヒメレク汝必ず死ぬべし汝の父の全家もしかりと

王旁にたてる前驅の人々にいひけるは身をひるがへしてヱホバの祭司を殺せかれらもダビデと力を合するが故またかれらダビデの逃たるをしりて我に告ざりし故なりと然ど王の僕手をいだしてヱホバの祭司を撃ことを好まざれば

王ドエグにいふ汝身をひるがへして祭司をころせとエドミ人ドエグ乃ち身をひるがへして祭司をうち其日布のエポデを衣たる者八十五人をころせり

かれまた刃を以て祭司の邑ノブを撃ち刃をもて男女童稚嬰孩牛驢馬羊を殺せり

アヒトブの子アヒメレクの一人の子アビヤタルとなづくる者逃れてダビデにはしり從がふ

アビヤタル、サウルがヱホバの祭司を殺したることをダビデに告しかば

ダビデ、アビヤタルにいふかの日エドミ人ドエグ彼處にをりしかば我かれが必らずサウルにつげんことを知れり我汝の父の家の人々の生命を喪へる源由となれり

汝我とともに居れ懼るるなかれわが生命を求むる者汝の生命をも求むるなり汝我とともにあらば安全なるべし

第23章

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人々ダビデにつげていひけるは視よペリシテ人ケイラを攻め穀場を掠むと

ダビデ、ヱホバに問ていひけるは我ゆきて是のペリシテ人を撃つべきかとヱホバ、ダビデにいひたまひけるは往てペリシテ人をうちてケイラを救ヘ

ダビデの從者かれにいひけるは視よわれら此にユダにあるすら尚ほおそる况やケイラにゆきてペリシテ人の軍にあたるをやと

ダビデふたたびヱホバに問ひけるにヱホバ答ていひたまひけるは起てケイラにくだれ我ペリシテ人を汝の手にわたすべし

ダビデとその從者ケイラにゆきてペリシテ人とたたかひ彼らの家畜を奪ひとり大にかれらをうちころせりかくダビデ、ケイラの居民をすくふ

アヒメレクの子アビヤタル、ケイラにのがれてダビデにいたれる時其手にエポデを執てくだれり

爰にダビデのケイラに至れる事サウルに聞えければサウルいふ神かれを我手にわたしたまへり其はかれ門あり關ある邑にいりたれば閉こめらるればなり

サウルすなはち民をことごとく軍によびあつめてケイラにくだりてダビデと其從者を圍んとす

ダビデはサウルのおのれを害せんと謀るを知りて祭司アビヤタルにいひけるはエポデを持ちきたれと

しかしてダビデいひけるはイスラエルの神ヱホバよ僕たしかにサウルがケイラにきたりてわがために此邑をげろぼさんと求むるを聞り

ケイラの人々我をかれの手にわたすならんか僕のきけるごとくサウル下るならんかイスラエルの神ヱホバよ請ふ僕につけたまへとヱホバいひたまひけるは彼下るべしと

ダビデいひけるはケイラの人々われとわが從者をサウルの手にわたすならんかヱホバいひたまひけるは彼らわたすべし

是においてダビデと其六百人ばかりの從者起てケイラをいで其ゆきうる所にゆけりダビデのケイラをにげはなれしことサウルに聞えければサウルいづることを止たり

ダビデは曠野にをり要害の地にをりまたジフの野にある山に居るサウル恒にかれを尋ねたれども神かれを其手にわたしたまはざりき

ダビデ、サウルがおのれの生命を求めんために出たるを見る時にダビデはジフの野の叢林にをりしが

サウルの子ヨナタンたちて叢林にいりてダビデにいたり神によりて其力を強うせしめたり

即ちヨナタンかれにいひけるに懼るるなかれわが父サウルの手汝にとどくことあらじ汝はイスラエルの王とならん我は汝の次なるべし此事はわが父サウルもしれりと

かくて彼ら二人ヱホバのまへに契約をむすびダビデは叢林にとどまりヨナタンは其家にかへれり

時にジフ人ギベアにのぼりサウルの許にいたりていひけるはダビデは曠野の南にあるハキラの山の叢林の中なる要害に隠れて我らとともにをるにあらずや

今王汝のくだらんとする望のごとく下りたまへ我らはかれを王の手にわたさんと

サウルいひけるは汝ら我をあはれめば願くは汝等ヱホバより福祉をえよ

請ふゆきて尚ほ心を用ひ彼の踪跡ある處と誰がかれを見たるかを見きはめよ其は人我にかれが甚だ機巧く事を爲すを告たれば也

されば汝ら彼が隠るる逃躱處を皆たしかに見きはめて再び我にきたれ我汝らとともにゆかん彼もし其地にあらば我ユダの郡中をあまねく尋ねて彼を獲んと

かれらたちてサリルに先てジフにゆけりダビデと其從者は曠野の南のアラバにあるマオンの野にをる

斯てサウルと其從者ゆきて彼を尋ぬ人々これをダビデに告ければダビデ巌を下てマオンの野にをるサウル之を聞てマオンの野に至てダビデを追ふ

サウルは山の此旁に行ダビデと其從者は山の彼旁に行ダビデは周章てサウルの前を避んとしサリルと其從者はダビデと其從者を圍んで之を取んとす

時に使者サウルに來て言けるはペリシテ人國ををかす急ぎきたりたまへと

故にサウル、ダビデを追ことを止てかへり往てペリシテ人にあたるここをもて人々その處をセラマレコテ(逃岩)となづく

ダビデ其處よりのぼりてエンゲデの要害にをる

第24章

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サウル、ペリシテ人を追ふことをやめて還りし時人々かれにつげていひけるは視よダビデはエンゲデの野にありと

サウル、イスラエルの中より選みたる三千の人を率ゐゆきて野羊の巌にダビデと其從者を尋ぬ

途にて羊の棧にいたるに其處に洞穴ありサウル其足を掩んとていりぬ時にダビデと其從者洞の隅に居たり

ダビデの從者これにいひけるはヱホバが汝に告て視よ我汝の敵を汝の手にわたし汝をして善と見るところを彼になさしめんといひたまひし日は今なりとダビデすなはち起てひそかにサウルの衣の裾をきれり

ダビデ、サウルの衣の裾をきりしによりて後ち其心みづから責む

ダビデ其從者にいひけるはヱホバの膏そそぎし者なるわが主にわが此事をなすをヱホバ禁じたまふかれはヱホバの膏そそぎし者なればかれに敵してわが手をのぶるは善らず

ダビデ此ことばをもって其從者を止めサウルに撃ちかかる事を容さずサウルたちて洞を出て其道にゆく

ダビデもまた後よりたちて洞をいでサウルのうしろに呼はりて我主王よといふサウル後をかへりみる時ダビデ地にふして拝す

ダビデ、サウルにいひけるは汝なんぞダビデ汝を害せん事を求むといふ人の言を聽くや

視よ今日汝の目ヱホバの汝を洞のうちにて今日わが手にわたしたまひしことを見たり人々我に汝をころさんことを勸めたれども我汝を惜めり我いひけらくわが主はヱホバの膏そそぎし者なればこれに敵してわが手をのぶべからずと

わが父よ視よわが手にある汝の衣の裾を見よわが汝の衣の裾をきりで汝を殺さざるを見ばわが手には惡も罪過もなきことを汝見て知るべし我汝に罪ををかせしことなし然るに汝わが生命をとらんとねらふ

ヱホバ我と汝の間を審きたまはんヱホバわがために汝に報いたまふべし然どわが手は汝に加へざるべし

古への諺にいふごとく惡は惡人よりいづされどわが手は汝にくはへざるべし

イスラエの王は誰を趕んとてたるや汝たれを追や死たる犬をおひ一の蚤をおふなり

ねがはくはヱホバ審判者となりて我と汝のあひだをさばきかつ見てわが訟を理し我を汝の手よりすくひいだしたまはんことを

ダビデこれらの言をサウルに語りをへしときサウルいひけるはわが子ダビデよ是は汝の聲なるかとサウル聲をあげて哭きぬ

しかしてダビデにいひけるは汝は我よりも正し我は汝に惡をむくゆるに汝は我に善をむくゆ

汝今日いかに汝が我に善くなすかを明かにせりヱホバ我を爾の手にわたしたまひしに爾我をころさざりしなり

人もし其敵にあはばこれを安らかに去しむべけんや爾が今日我になしたる事のためにヱホバ爾に善をむくいたまふべし

視よ我爾が必ず王とならんことを知りまたイスラエルの王國の爾の手によりて堅くたたんことをしる

今爾ヱホバをさして我にわが後にてわが子孫を斷ずわが名をわが父の家に減せざらんことを誓へと

ダビデすなはちサウルにちかふ是においてサウルは家にかへりダビデと其從者は要害にのぼれり

第25章

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爰にサムエル死にしかばイスラエル人皆あつまりて之をかなしみラマにあるその家にてこれを葬むれりダビデたちてバランの野にくだる

マオンに一箇の人あり其所有はカルメルにあり其人甚だ大なる者にして三千の羊と一千の山羊をもちしがカルメルにて羊の毛を剪り居たり

其人の名はナバルといひ其妻の名はアビガルといふアビガルは賢く顔美き婦なりされど其夫は剛復にして其爲すところ惡かりきかれはカレブの人なり

ダビデ野にありてナバルが其羊の毛を剪りをるを聞き

ダビデ十人の少者を遣はすダビデ其少者にいひけるはカルメルにのぼりナバルにいたりわが名をもてかれに安否をとひ

かくのごとくいへ願くは壽ながかれ爾平安なれ爾の家やすらかなれ爾が有ところの物みなやすらかなれ

我爾が羊毛を剪せをるを聞り爾の牧羊者は我らとともにありしが我らこれを害せざりきまたかれらがカルメルにありしあひだかれらの物何も失たることなし

爾の少者に問へかれら爾につげん願くは少者をして爾のまへに恩をえせしめよ我ら吉日に來る請ふ爾の手にあろところの物を爾の僕らおよび爾の子ダビデにあたへよ

ダビデの少者いたりダビデの名をもって是らのことばの如くナバルに語りてやめり

ナバル、ダビデの僕にこたへていひけるはダビデは誰なるヱサイの子は誰なる此頃は主人をすてて遁逃るる僕おほし

我あにわがパンと水およびわが羊毛をきる者のために殺したる肉をとりて何處よりか知れざるところの人々にあたふべけんや

ダビデの少者ふりかへりて其道に就き歸りきたりて此等の言のごとくダビデに告ぐ

是においてダビデ其從者に爾らおのおの劍を帶よと言ければ各劍をおぶダビデもまた劍をおぶ而して四百人ばかりダビデにしたがひて上り二百人は輜重のところに止れり

時にひとりの少者ナバルの妻アビガルに告ていひけるは觀よダビデ野より使者をおくりて我らの主人を祝したるに主人かれらを詈れり

されどかの人々はわれらに甚だ善くなし我らは害をかうむらず亦われら野にありし時かれらとともにをるあひだはなにをも失なはざりき

我らが羊をかひて彼らとともにありしあひだ彼らは日夜われらの墻となれり

されば爾今しりてなにをなさんかを考ふべし其はわれらの主人および主人の全家に定めて害きたるべければなり主人は邪魔なる者にして語ることをえずと

アビガルいそぎパン二百酒の革嚢二旣に調へたる羊五烘麥五セア乾葡萄百球乾無花果の團塊二百を取て驢馬にのせ

其少者にいひけるは我先に進め視よ我爾らの後にゆくと然ど其夫ナバルには告げざりき

アビガル驢馬にのりて山の僻處にくだれる時視よダビデと其從者かれにむかひてくだりければかれ其人々にあふ

ダビデかつていひけるは誠にわれ徒に此人の野にて有る物をみなまもりてその物をして何もうせざらしめたりかれは惡をもてわが善にむくゆ

ねがはくは神ダビデの敵にかくなしまた重ねてかくなしたまへ明晨までに我はナバルに屬する総ての総の中ひとりの男をものこさざるべし

アビガル、ダビデを視しとき急ぎ驢馬よりおりダビデのまへに地に俯して拝し

其足もとにふしていひけるはわが主よ此咎を我に歸したまへ但し婢をして爾の耳にいふことを得さしめ婢のことばを聽たまへ

ねがはくは我主この邪なる人ナバル(愚)の事を意に介むなかれ其はかれは其名の如くなればなりかれの名はナバルにしてかれは愚なりわれなんぢの婢はわが主のつかはせし少ものを見ざりき

さればわがしゆよヱホバはいくまたなんぢのたましひはいくヱホバなんぢのきたりて血をながしまた爾がみづから仇をむくゆるを阻めたまへりねがはくは爾の敵たるものおよびわが主に害をくはへんとする者はナバルのごとくなれ

さて仕女がわが主にもちきたりしこの禮物をねがはくはわが主の足迹にあゆむ少者にたてまつらしめたまへ

請ふ婢の過をゆるしたまヘヱホバ必ずわが主のために堅き家を立たまはん是はわが主ヱホバの軍に戰ふにより又世にいでてよりこのかた爾の身に惡きこと見えざるによりてなり

人たちて爾を追ひ爾の生命を求むれどもわが主の生命は爾の神ヱホバとともに生命の包裏の中に包みあり爾の敵の生命は投石器のうちより投すつる如くヱホバこれをなげすてたまはん

ヱホバその爾につきて語りたまひし諸の善き事をわが主になして爾をイスラエルの主宰に命じたまはん時にいたりて

爾の故なくして血をながしたることも又わが主のみづから其仇をむくいし事も爾の憂となることなくまたわが主の心の責となることなかるべし但しヱホバのわが主に善くなしたまふ時にいたらばねがはくは婢を憶たまへ

ダビデ、アビガルにいふ今日汝をつかはして我をむかへしめたまふイスラエルの神ヱホバは頌美べきかな

また汝の智慧はほむべきかな又汝はほむべきかな汝今日わがきたりて血をながし自ら仇をむくゆるを止めたり

わが汝を害するを阻めたまひしイスラエルの神ヱホバは生く誠にもし汝いそぎて我を來り迎ずば必ず翌朝までにナバルの所にひとりの男ものこらざりしならんと

ダビデ、アビガルの携へきたりし物を其手より受てかれにいひけるは安かに汝の家にかへりのぼれ視よわれ汝の言をききいれて汝の顔を立たり

かくてアビガル、ナバルにいたりて視にかれは家に酒宴を設け居たり王の酒宴のごとしナバルの心これがために樂みて甚だしく酔たればアビガル多少をいはず何をも翌朝までかれにつげざりき

朝にいたりナバルの酒のさめたる時妻かれに是等の事をつげたるに彼の心そのうちに死て其身石のごとくなりぬ

十日ばかりありてヱホバ、ナバルを撃ちたまひければ死り

ダビデ、ナバルの死たるを聞ていひけるはヱホバは頌美べきかなヱホバわが蒙むりたる恥辱の訟を理してナバルにむくい僕を阻めて惡をおこなはざらしめたまふ其はヱホバ、ナバルの惡を其首に歸し賜へばなりと爰にダビデ、アビガルを妻にめとらんとて人を遣はしてこれとかたらはしむ

ダビデの僕カルメルにをるアビガルの許にいたりてこれにかたりいひけるはダビデ汝を妻にめとらんとて我らを汝に遣はすと

アビガルたちて地にふして拝しいひけるは視よ婢はわが主の僕等の足を洗ふ仕女なりと

アビガルいそぎたちて驢馬に乗り五人の侍女とともにダビデの使者にしたがひゆきてダビデの妻となる

ダビデまたヱズレルのアヒノアムを娶れり彼ら二人ダビデの妻となる

但しサウルはダビデの妻なりし其女ミカルをガリムの人なるライシの子パルテにあたへたり

第26章

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ジフ人ギベアにきたりサウルの許にいたりてひけるはダビデは曠野のまへなるハキラの山にかくれをるにあらずやと

サウルすなはち起ちジフの野にダビデを尋ねんとイスラエルの中より選みたる三千の人をしたがへてジフの野にくだる

サウルは曠野のまへなるハキラの山において路のほとりに陣を取るダビデは曠野に居てサウルのおのれをおふて曠野にきたるをさとりければ

ダビデ斥候を出してサウルの誠に來しをしれり

ここにおいてダビデたちてサウルの陣をとれるところにいたりサウルおよび其軍の長ネルの子アブネルの寝たるところを見たりすなはちサウルは車營の中に寝ぬ民其まはりに陣をはれり

ダビデ答へてヘテ人アヒメレクおよびゼルヤの子にしてヨアブの兄弟なるアビシヤイにいひけるは誰か我とともにサウルの陣にくだらんかとアビシヤイいふ我汝とともに下らん

ダビデとアビシヤイすなはち夜にいりて民の所にいたるに視よサウルは車營のうちに寝臥し其槍地にさして枕邊にありアブネルと民は其まはりに寝たり

アビシヤイ、ダビデにいひけるは神今日爾の敵を爾の手にわたしたまふ請いま我に槍をもてかれを一度地にさしとほさしめよ再びするにおよばじ

ダビデ、アビシヤイにいふ彼をころすなかれ誰かヱホバの膏そそぎし者に敵して其手をのべて罪なからんや

ダビデまたいひけるはヱホバは生くヱホバかれを撃たまはんあるひはその死ぬる日來らんあるひは戰ひにくだりて死うせん

わがヱホバのあぶらそそぎしものに敵して手をのぶることはきはめて善らずヱホバ禁じたまふされどいま請ふ爾そのまくらもとの槍と水の瓶をとれしかして我らさりゆかんと

ダビデ、サウルの枕邊より槍と水の瓶を取りてかれらさりゆきしが誰も見ず誰もしらず誰も目を醒さざりき其はかれら皆眠り居たればなり即ちヱホバかれらをふかく睡らしめたまふ

かくてダビデは彼旁にわたりて遥に山の頂にたてり彼と此とのへだたり大なり

ダビデ民とネルの子アブネルによばはりいひけるはアブネルよ爾こたへざるかアブネルこたへていふ王をよぶ爾はたれなるや

ダビデ、アブネルにいひけるは爾は勇士ならずやイスラエルの中にて誰か爾に如ものあらんしかるに爾なんぞ爾の主なる王をまもらざるや民のひとり爾の主なる王を殺さんとていりぬ

爾がなせる此事よからずヱホバは生くなんぢらの罪死にあたれり爾らヱホバの膏そそぎし爾らの主をまもらざればなり今王の槍と王の枕邊にありし水の瓶はいづくにあるかを見よ

サウル、ダビデの聲をしりていひけるはわが子ダビデよ是は爾の聲なるかダビデいひけるは王わが主よわが聲なり

ダビデまたいひけるはわが主なにゆゑに斯くその僕をおふや我なにをなせしや何の惡き事わが手にあるや

王わが主よ請ふいま僕の言を聽きたまへ若しヱホバ爾を我に敵せしめたまふならばねがはくはヱホバ禮物をうけたまへされど若し人ならばねがはくは其人々ヱホバのまへにのろはれよ其は彼等爾ゆきて他の神につかへよといひて今日我を追ひヱホバの產業に連なることをえざらしむるが故なり

ねがはくは我血をしてヱホバのまへをはなれて地におちしむるなかれそは人の山にて鷓鴣をおふがごとくイスラエルの王一の蚤をたづねにいでたればなり

サウルいひけるは我罪ををかせりわが子ダビデよ歸れわが生命今日爾の目に寶と見なされたる故により我々かさねて爾に害を加へざるべし嗚呼われ愚なることをなして甚だしく過てり

ダビデこたへていひけるは王よ槍を視よ請ひとりの少者をしてわたりてこれを取しめよ

ねがはくはヱホバおのおのに其義と眞實とにしたがひて報いたまへ共はヱホバ今日爾をわが手にわたしたまひしに我ヱホバの受膏者に敵してわが手をのぶることをせざればなり

爾の生命を今日わがおもんぜしごとくねがはくはヱホバわが生命をおもんじて諸の艱難のうちより我をすくひいだしたまヘ

サウル、ダビデにいひけるはわが子ダビデよ爾はほむべきかな爾大なる事を爲さん亦かならず勝をえんとしかしてダビデは其道にさりサウルはおのれの所にかへれり

第27章

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ダビデ心の中にいひけるは是のごとくば我早晩サウルの手にほろびん速にペリシテ人の地にのがるるにまさることあらず然らばサウルかさねて我をイスラエルの四方の境にたづぬることをやめて我かれの手をのがれんと

ダビデたちておのれとともな六百人のものとともにわたりてガテの王マオクの子アキシにいたる

ダビデと其從者ガテにてアキシとともに住ておのおの其家族とともにをるダビデはその二人の妻すなはちヱズレル人アヒノアムとカルメル人ナバルの妻なりしアビガルとともにあり

ダビデのガテににげしことサウルにきこえければサウルかさねてかれをたづねざりき

ここにダビデ、アキシにいひけるは我もし爾のまへに恩を得たるならばねがはくは郷里にある邑のうちにて一のところを我にあたへて其處にすむことを得さしめよ僕なんぞ爾とともに王城にすむべけんやと

アキシ其日チクラグをかれにあたへたり是故にヂクラグは今日にいたるまでユダの王に屬す

タビデのペリシテ人の國にをりし日數は一年と四箇月なりき

ダビデ其從者と共にのぼりゲシユル人ゲゼリ人アマレク人を襲ふたり昔より是等はシユルにいたる地にすみてエジプトの地にまでおよべり

ダビデ其地をうちて男をも女をも生し存さず羊と牛と駱駝と衣服をとりて還りてアキシに至る

アキシいひけるは爾ら今日何地を襲ひしやダビデいひけるはユダの南とヱラメルの南とケニ人の南ををかせりと

ダビデ男も女も生存らしめずして一人をもガテにひきゆかざりき其はダビデ恐くは彼らダビデかくなせりといひて我儕の事を告んといひたればなりダビデ、ペリシテ人の地にすめるあひだは其なすところ常にかくのごとくなりき

アキシ、ダビデを信じていひけるは彼は其民イスラエルをして全くおのれを惡ましむされば永くわが僕となるべし

第28章

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其頃ペリシテ人イスラエルと戰はんとて軍のために軍勢を集めたればアキシ、ダビデにいひけるは爾明かにこれをしれ爾と爾の從者我とともに出て軍にくははるべし

ダビデ、アキシにいひけるはされば爾僕のなさんところをしるべしとアキシ、ダビデにさらば我爾を永く我身をまもる者となさんといへり

サムエルすでに死たればイスラエルみなこれをかなしみてこれをそのまちラマにはうむれりまたサウルは口寄者と卜筮師を其地よりおひいだせり

ペリシテ人あつまりきたりてシユネムに陣をとりければサウル、イスラエルを悉くあつめてギルボアに陣をとれり

サウル、ペリシテ人の軍を見しときおそれて其心大にふるへたり

サウル、ヱホバに問ひけるにヱホバ對たまはず夢に因てもウリムによりても預言者によりてもこたへたまはず

サウル僕等にいひけるは口寄の婦を求めよわれそのところにゆきてこれに尋ねんと僕等かれにいひけるは視よエンドルに口寄の婦あり

サウル形を變へて他の衣服を著二人の人をともなひてゆき彼等夜の間に其婦の所にいたるサウルいひけるは請ふわがために口寄の術をおこなひてわが爾に言ふ人をわれに呼おこせ

婦かれにいひけるはなんぢサウルのなしたる事すなにち如何にかれが口寄者と卜筮師を國より斷さりたるを知る爾なんぞ我を死しめんとてわが生命を亡す謀計をなすや

サウル、ヱホバを指てかれに誓ひいひけるはヱホバは生く事のためになんぢ罪にあふことあらじ

婦いひけるは誰を我なんぢに呼起すべきかサウルいふサムエルをよびおこせ

婦サムエルを見て大なる聲にてさけびいだせりしかして婦サウルにいひけるは爾なにゆゑに我を欺きしや爾はすなはちサウルなり

王かれにいひけるは恐るるなかれ爾なにを見しや婦サウルにいひけるは我神の地よりのぼるを見たり

サウルかれにいひけるは其形容は如何彼いひけるは一人の老翁のぼる其人明衣を衣たりサウル其人のサムエルなるをしりて地にして拝せり

サムエル、サウルにいひけるは爾なんぞ我をよびおこして我をわづらはすやサウこたへけるは我いたく惱むペリシテ人我にむかひて軍をおこし又神我をはなれて預言者によりても又夢によりてもふたたび我にこたへたまはずこのゆゑに我なすべき事を爾にまなばんとて爾を呼り

サムエルいひけるはヱホバ爾をはなれて爾の敵となりたまふに爾なんぞ我にとふや

ヱホバわれをもて語りたまひしことをみづから行ひてヱホバ國を爾の手より割きはなち爾の隣人ダビデにあたへたまふ

爾ヱホバの言にしたがはす其烈しき怒をアマレクにもらさざりしによりてヱホバ此事を今日爾になしたまふ

ヱホバ、イスラエルをも爾とともにペリシテ人の手にわたしたまふべし明日爾と爾の子等我とともなるべしまたイスラエルの陣營をもヱホバ、ペリシテ人の手にわたしたまはんと

サウル直ちに地に伸びたふれサムエルの言のために痛くおそれ又其力を失へり其はかれ其一日一夜物食ざりければなり

かの婦サウルにいたり其痛く慄くを見てこれにいひけるは視よ仕女爾の言をききわが生命をかけて爾が我にいひし言にしたがへり

されば請ふ爾も仕女の言を聽て我をして一口のパンを爾のまへにそなへしめよしかして爾くらひて途に就く時に力を得よ

されどサウル否みて我は食はじといひしを其僕および婦強ければ其言をききいれて地より立あがり床のうへに坐せり

婦の家に肥たる犢ありしかば急ぎて之を殺しまた粉をとり摶て酵いれぬパンを炊き

サウルのまへと其僕等のまへに持ちきたりければ彼等くらひて立ちあがり其夜のうちにされり

第29章

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爰にペリシテ人其軍をことごとくアペクにあつむイスラエルはヱズレルにある泉水の傍に陣をとる

ペリシテ人の君等あるひは百人或は千人をひきゐて進みダビデと其從者はアキシとともに其後にすすむ

ペリシテ人の諸伯いひけるは是等のヘブル人は何なるやアキシ、ペリシテ人の諸伯にいひけるは此はイスラエルの王サウルの僕ダビデにあらずやかれ此日ごろ此年ごろ我とともにをりしがその逃げおちし日より今日にいたるまで我かれの身に咎あるを見ずと

ペリシテ人の諸伯これを怒る即ちペリシテ人の諸伯彼にいひけるは此人をかへらしめて爾が之をおきし其所にふたたびいたらしめよ彼は我らとともに戰ひにくだるべからず然ば彼戰爭においてわれらの敵とならざるべしかれ其主と和がんとせば何をもてすべきやこの人々の首級をもてすべきにあらずや

是はかつて人々が舞踏り中にて歌ひあひサウルは千をうちころしダビデは萬をうちころすといひたるダビデにあらずや

アキシ、ダビデをよびてこれにいひけるはヱホバは生くまことになんぢは正し爾の我とともに陣營に出入するはわが目には善と見ゆ其は爾が我に來りし日より今日にいたるまで我爾の身に惡き事あるを見ざればなり然ど諸伯の目には爾よからず

されば今かへりて安かにゆきペリシテ人の諸伯の目に惡く見ゆることをなすなかれ

ダビデ、アキシにいひけるは我何をなせしやわが爾のまへに出し日より今日までに爾何を僕の身に見たればか我ゆきてわが主なるわうの敵とたたかふことをえざると

アキシこたへてダビデにいひけるは我爾のわが目には神の使のごとく善きをしるされどペリシテ人の諸伯かれは我らとともに戰ひにのぼるべからずといへり

されば爾および爾の主の僕の爾とともにきたれる者明朝夙く起よ爾ら朝はやくおきて夜のあくるに及ばばさるべし

是をもてダビデと其從者ペリシテ人の地にかへらんと朝はやく起てされりしかしてペリシテ人はヱズレルにのぼれり

第30章

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ダビデと其從者第三日にチクラグにいたるにアマレク人すでに南の地とチクラグを侵したりかれらチクラグを撃ち火をもて之を燬き

其中に居りし婦女を擄にし老たるをも若きをも一人も殺さずして之をひきて其途におもむけり

ダビデと其從者邑にいたりて視に邑は火に燬けその妻と男子女子は擄にせられたり

ダビデおよびこれとともにある民聲をあげて突き終に哭く力もなきにいたれり

ダビデのふたりの妻すなはちヱズレル人アヒノアムとカルメル人ナバルの妻なりしアビガルも虜にせられたり

時にダビデ大に心を苦めたり其は民おのおの其男子女子のために氣をいらだてダビデを石にて撃んといひたればなりされどダビデ其神ヱホバによりておのれをはげませり

ダビデ、アヒメレクの子祭司アビヤタルにいひけるは請ふエポデを我にもちきたれとアビヤタル、エポデをダビデにもちきたる

ダビデ、ヱホバに問ていひけるは我此軍の後を追ふべきや我これに追つくことをえんかとヱホバかれにこたへたまはく追ふべし爾かならず追つきてたしかに取もどすことをえん

ダビデおよびこれとともなる六百人の者ゆきてベソル川にいたれり後にのこれる者はここにとどまる

即ちダビデ四百人をひきゐて追ゆきしが憊れてベソル川をわたることあたはざる者二百人はとどまれり

衆人野にて一人のエジブト人を見これをダビデにひききたりてこれに食物をあたへければ食へりまたこれに水をのませたり

すなはち一段の乾無花果と二球の乾葡萄をこれにあたへたり彼くらひて其氣ふたぬび爽かになれりかれは三日三夜物をもくはず水をものまきりしなり

ダビデかれにいひけるは爾は誰の人なる爾はいづくの者なるやかれいひけるは我はエジプトの少者にて一人のアマレク人の僕なり三日まへに我疾にかかりしゆゑにわが主人我をすてたり

我らケレテ人の南とユダの地とカレブの南ををかしまた火をもてチクラグをやけり

ダビデかれにいひけるは爾我を此軍にみちびきくだるやかれいひけるは爾我をころさずまた我をわが主人の手にわたさざるを神をさして我に誓へ我爾を此軍にみちびきくだらん

かれダビデをみちびきくだりしが視よ彼等はペリシテ人の地とユダの地より奪ひたる諸の大なる掠取物のためによろこびて飮食し踊りつつ地にあまねく散ひろがりて居る

ダビデ暮あひより次日の晩にいたるまでかれらを撃しかば駱駝にのりて逃げたる四百人の少者の外は一人ものがれたるもの无りき

ダビデはすべてアマレク人の奪ひたる物を取りもどせり其二人の妻もダビデとりもどせり

小きも大なるも男子も女子も掠取物もすべてアマレク人の奪さりし物は一も失はずダビデことごとく取かへせり

ダビデまた凡の羊と牛をとれり人々この家畜をそのまへに驅きたり是はダビデの掠取物なりといへり

かくてダビデかの憊れてダビデにしたがひ得ずしてベソル川のほとりに止まりし二百人の者のところにいたるに彼らダビデをいでむかへまたダビデとともなる民をいでむかふダビデかの民にちかづきてその安否をたづぬ

ダビデとともにゆきし人々の中の惡く邪なる者みなこたへていひけるは彼等は我らとともにゆかざりければ我らこれに取りもどしたる掠取物をわけあたべからず唯おのおのにその妻子をあたへてこれをみちびきさらしめん

ダビデ言けるはわが兄弟よヱホバ我らをまもり我らにせめきたりし軍を我らの手にわたしたまひたれば爾らヱホのわれらにたまひし物をしかするは宜からず

誰か爾らにかかることをゆるさんや戰ひにくだりし者の取る分のごとく輜重のかたはらに止まりし者の取る分もまた然あるべし共にひとしく取るべし

この日よりのちダビデこれをイスラエルの法となし例となせり其事今日にいたる

ダビデ、チクラグにいたりて其椋取物をユダの長老なる其朋友にわかちおくりて曰しめけるは是はヱホバの敵よりとりて爾らにおくる饋物なり

ベテルにをるもの南のラモテにをるものヤツテルにをる者

アロエルにをる者シフモテにをるものエシテモにをるもの

ラカルにをるものヱラメル人の邑にをるものケニ人の邑にをるもの

ホルマにをるものコラシヤンにをるものアタクにをるもの

ヘブロンにをるものおよびすべてダビデが其從者とともに毎にゆきし所にこれをわかちおくれり

第31章

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ペリシテ人イスラエルと戰ふイスラエルの人々ペリシテ人のまへより逃げ負傷者ギルボア山に斃れたり

ペリシテ人サウルと其子等に攻よりペリシテ人サウルの子ヨナタン、アビナダブおよびマルキシユアを殺したり

戰はげしくサウルにせまりて射手の者サウルを射とめければ彼痛く射手の者のために苦しめり

サウル武器を執る者にいひけるは爾の劍を抜き其をもて我を刺とほせ恐らくは是等の割禮なき者きたりて我を刺し我をはづかしめんと然ども武器をとるもの痛くおそれて肯ぜざればサウル劍をとりて其上に伏したり

武器を執るものサウルの死たるを見ておのれも劍の上にふしてかれとともに死り

かくサウルと其三人の子およびサウルの武器をとるもの並に其從者みな此日倶に死り

イスラエルの人々の谷の對向にをるもの及びヨルダンの對面にをるものイスラエルの人寿の逃るを見サウルと其子等の死るをみて諸邑を棄て逃ければペリシテ人きたりて其中にをる

明日ペリシテ人戰沒せる者を剥んとてきたりサウルと其三人の子のギルボア山にたふれをるを見たり

彼等すなはちサウルの首を斬り其鎧甲をはぎとりペリシテ人の地の四方につかはして此好報を其偶像の家および民の中につげしむ

またかれら其鎧甲をアシタロテの家におき其體をベテシヤンの城垣に釘けたり

ヤベシギレアデの人々ペリシテ人のサウルになしたる事を聞きしかば

勇士みなおこり終夜ゆきてサウルの體と其子等の體をベテシヤンの城垣よりとりおろしヤベシにいたりて之を其處に焚き

其骨をとりてヤベシの柳樹の下にはうむり七日のあひだ斷食せり