ガリヴァー旅行記/リンダリーノの叛乱


[どんな町でも叛乱に加担したり、叛逆を起こしたり、内乱に陥ったり、租税の支払いを拒否するならば、ラピュータ王は二つの方法でもってそれらを鎮圧する。一つ目のもっとも穏健な方法は、ラピュータ島をその町や地域の上空に浮かべて太陽と雨の恵みを剥奪し、それによって住民を飢饉と疾病で苦しめるやり方である。また罪状によっては同時に上空から巨石が投げ落とされ、自分の家の屋根が粉々に砕かれているあいだ、住民は地下室や洞窟に逃げ込む以外に身を守る術を持たない。しかし住民どもが依然頑ななままであったり、叛乱を起こしそうな気配を見せるならば、ラピュータ王は荒療治として、ラピュータ島をそのまま住民の頭上に落下させ、家屋も人もすっかり破壊してしまう。けれども、これは国王も滅多に取らない最後の手段であって、それを本気で実行するつもりはないし、家臣達も敢えて実行を進言するような真似はしない。そんなことをすれば、住民の怒りを買った上に、ラピュータ王の所有する空飛ぶ島とは違って、すべて地上にある己の領地に、甚大な損害を蒙るだろうからである。]

[しかし、よほど切羽詰らない限り、この国の王たちがこの恐るべき行為に打って出るのを避けているのには、実はもっと重要な理由がある。もし破壊されようとする町に、大都市ではよくあることなのだが、前もってこの様な破局を避けるべく選ばれた地形と思しき何かの高い岩があったり、高い尖塔や石の柱が数多くあったならば、急激な落下はラピュータ島の底面に損傷を及ぼすかもしれないからである。たとえ、底面が先に述べたように厚さ二百ヤードのアダマントの一枚岩から出来上がっているとしても、あまりにも強烈な衝撃で亀裂が入るかもしれないし、われわれの使う鉄と石で出来た煙突の内面でもしばしば起きるように、下の人家で起きた火災に近付きすぎて破裂するかもしれないのだ。これらは全て人民も承知していることであり、自分達の自由と所有権に関して、どこまで頑固であるべきかの際限は心得ている。そしてラピュータ王も、怒り心頭に発し、都市を押し潰そうとほぼ決断した時も、ラピュータ島は極めて穏やかに降下させるようにと命じている。これは表向きは人民に対する慈悲ということであるが、実はアダマントの底面が破壊されるのを恐れているためである。側近の学者らの一致した意見によれば、このような状況になれば、もはや天然磁石はラピュータ島を支えられず、その全質量が大地に落下することになるという。]

私がラピュータの人々の許を訪れる三年ばかり前、ラピュータ王がその領土を巡幸している最中に、少なくとも今のところは保たれている君主制の終末を告げるような非常事態が発生した。王国の第二の都市リンダリーノは巡幸の最初の目的地であった。リンダリーノの住民はしばしば過酷な圧政への不満を訴えており、王が出立してから三日後に、町の門を閉ざし、代官を拘束し、信じ難い速度と労働でもって四本の塔を建設した。この塔は完全な正方形だった都市の各四隅に建てられ、都市の中央から直接そそり立つ鋭い先端の巨岩と同じ高さをしていた。それぞれの塔および巨岩の先端には巨大な天然磁石が据え付けられ、計画が失敗した時の用心に、膨大な量の極めて可燃性に富んだ燃料が用意された。磁石による計画が失敗したときには、その燃料と共にラピュータ島の底面を吹き飛ばそうと考えたのである。

ラピュータ王が完全な報告を受けたのは、リンダリーノの叛乱から八ヶ月目であった。そこで王は、ラピュータ島をリンダリーノ市の上空に浮かべるよう命じた。リンダリーノの住民は皆こぞって食糧の山を貯め込んでおり、大河が町の中心を貫いて流れていた。ラピュータ王は太陽と雨を住民から剥奪すべく、数日にわたって島をリンダリーノ市上空に浮かべた。王は何本もの荷造り紐を地上へと下ろさせたが、何者も陳情を申し出ることはなく、代わりに送られてきたのは、市民の抱える不満の是正や、租税の大幅な免除、市民自身による代官の選出その他の、途方もなく大胆不敵な要求であった。これを受けて国王陛下はラピュータ島の全住民に対し、下層展望台からリンダリーノ市目掛けて巨石を投げ落とすよう勅命を発した。しかしリンダリーノ市民は、住民や家財を四本の塔やその他の頑丈な建築物や地下貯蔵室へ移送させて、この嫌がらせに対抗する準備をしていた。

今やこの思い上がった連中を屈服させる決意を固めたラピュータ王は、島を四本の塔と巨岩の四十ヤード上空へ穏やかに下降させるよう命じた。この命令は実行されたが、この作業に従事した公吏らは、島の降下が普段よりもかなり急速であるのに気付き、天然磁石を回転させても島を安定した位置に保つのは非常に困難であり、島はなおもじりじりと下降しつつあるのに気付いた。公吏らはすぐさまこの驚くべき出来事の情報を王に伝え、ラピュータ島を上空へ引き上げる許可を下さるようにと陛下に懇願した。王はその懇願を許可し、御前会議が召集され、天然磁石の操縦公吏らの出席が命じられた。最古参であり最も経験豊富な操縦公吏の一人に実験の許可が与えられた。公吏は長さ百ヤードの丈夫な紐を用意し、ラピュータ島をリンダリーノ市上空の吸引力を感じた場所のさらに上へと浮かべた。彼はラピュータ島の下部及び底面部と同じ性質を持つ鉄鉱混合物を含む、アダマントの欠片を紐の端に結わえ付けると、下層展望台から四本の塔の一本の頂上目掛けてゆっくりと下ろした。アダマントが四ヤードと降下しない内に、公吏は紐がほとんど引き戻せないほど強く下に引かれるのを感じた。次に幾つものアダマントの小片を投げ落とすと、それらが皆勢い良く塔の先端に引き付けられるのが観察された。他の三本の塔と巨岩に対しても同じ実験が行われ、同様の効果が観測された。

この出来事によりラピュータ王の手段は完全に粉砕され、(以下の細々とした事情は省略する)王はやむなくリンダリーノ市民の条件を受け入れた。

もしラピュータ島を引き上げる事が不可能になるほどリンダリーノ市付近に降下させれば、リンダリーノ市民はラピュータ島を永遠に地上へ束縛し、王と王の側近は殺され、ラピュータの政体は完全に一新されることになるだろうと、ある王の重臣は私に請け合った。

[この国の基本法により、王も二人の上の王子もラピュータ島を離れる事は許されていない。王妃も世継を産むまでは同様である。]

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。

 

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