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1 されどかの徴につきて、視よ、地に住む者の驚き合ふ日來らん。その時眞の道は隱され、地は信仰につきて荒地の如くにならん。
2 汝の今見るところ、又嘗て聞きしところに勝りてその不義は增し加はらん。
3 汝の今見る豐なる地は荒れ廢れて人跡絶え、再び沙漠の地とならん。
4 もしいと高き者汝に生くることを許し給はば、なんぢ亂れたる第三の國の、後の狀態を見ることを得ん。その時、日俄かに眞夜半に輝き、月眞晝に現はれ、
5 木より血滴り、石その聲を出し、民等は騒ぎてその歩む樣を變へん。
6 又地に住む者の欲せざる人地を治め、空の鳥共に飛び去らん。
7 ソドムの海、魚を抛げ出して、夜の間に、多くの人の知らざる聲その海より響き、
すべての人その聲を聞かん。
8 多くの處に混亂起り、火屢出でて、獸その住處を變へ、女不思議なるものを産まん。
9 甘き水の中に鹽辛き水混ぜられ、友その友と鬪はん。その時、智慧隱されて、知識、その住處に退かん。
10 その時、智慧多くの人に探ねらるれど、見出されざるべし。又不義と不節制、地の上に增さん。
11 その時、一つの國その隣國に問ひていはん
「正義、若くは正義を行ふ人、汝の中を過ぎ行きしか。」その國答へていはん「然らず」と。
12 その時人々望めどもその望むもの與へられじ。人々働けどもその道榮えじ。
13 われ此等の徴を、汝に示すことを命ぜられたり。もし汝再び祈りて、今の如く涙を流し、七日の間斷食せば、なんぢ此等のことよりも更に大なることを聞かん。』
14 われ目醒めし時、わが身いたく震ひ、わが魂疲れはてて、氣を失へり。
15 されば我と語りし御使我を支へ、我を慰め、我をわが足にて起たせたり。
16 而して第二日の夜、民の長なるパルテエル、われに來りていふ『汝何處に居りしか。汝の顔何ぞかく悲しげなる。
17 イスラエルはその俘囚の地に於て汝に託せられたるを汝知らぬか。
18 起ちて糧を食へ。牧者その群を惡しき狼の手に棄つる如く、我らを棄つな。』
19 われ彼にいふ『我を去れ、七日の間、我に近づくな。後、我に來れ。』かれわが言を聞きて我を去れり。
20 御使ウリエルの命ぜし如く、我七日の間、斷食して泣き悲めり。
21 七日の後、わが心の思ひ再び甚しく重くなれり。
22 わが魂、再び知識の靈に充たされ、いと高き者の御前に此等の言を語り始めたり。
23 『主よ、わが主よ、地のすべての林とすべての樹の中より汝一つの葡萄の樹を、選び給へり。
24 又全地の中より汝一つの國を選び給へり。又地のすべての花の中より汝一つの百合を選び給へり。
25 汝海のすべての深處より一つの河を溢れ出でしめ、又すべての建てられたる都の中より、汝シオンを汝のために聖別し給へり。
26 汝すべての造られたる空の鳥の中より汝のために一羽の鳩に名を付け、又すべての造られたる獸の中より汝のために一匹の羊を選び給へり。
27 汝すべての民の群の中より一つの民を汝に近づけ給へり。而してなんぢこの汝の愛む民に、すべての人に善しとせらるる律法を與へたまへり。
28 されば主よ、いかなればこの一つの民を多くの民に與へ、一つの根を多くのものに勝りて辱め、唯一の汝のものを多くのものの中に散らし給ひしや。
29 汝の誠命を拒みし者、汝の契約を信じたる者を踏みにじれり。
30 もし汝、なんぢの民をいたく憎み給はば、彼らは汝自らの御手によりて罰せらるべきなり。』
31 われ此等のことを語りたる後、前の夜、我に來りし御使わが許に遣はされたり。
32 かれ我にいふ『我に聽け、われ汝を教へん、心を傾けよ、われ更に汝を教へん。』
33 我いふ『わが主よ、語り給へ。』かれ我にいふ『汝イスラエルのためにいたく心を惱ましたり、汝かの民を造り給ひし者よりもかの民を愛するか。』
34 我いふ『主よ、然らず、我悲哀の中にありて、語れるなり。そは、わが心常にいと高き者の道を悟り、その御審判の幾許かを究めんとして惱むなり。』
35 かれ我にいふ『此は能はぬことなり。』我いふ『わが主よ、何故なるか。我何とて生れたるか。我をしてヤコブの苦難とイスラエルの裔の疲勞とを見ざらしめんがために何ぞわが母の胎、わがために墓とならざりしや。』
36 彼われにいふ『未だ來らぬ者をわがために教へ、散りたる雨の滴をわがために集めよ、
37 枯れたる草をわがために再び茂らせ、鎖されたる室をわがために開き、その中に閉ぢ込められたる風をわがために出せ。又我に聲の形を示せ。さすれば我汝に汝の見んと願ふ苦惱を示さん。』
38 我いふ『主よ、わが主よ、人の中に住居を持たぬ者の外に此等のことを知るは誰ぞ。
39 我は智慧なき者なれば、汝の我に賜ひし此等の事に就きていかで語り得んや。』
40 かれ我にいふ『汝今わがいひし此等の事の一つすらなし得ざるが如く、わが審判をも又わが民に約されたる愛の終をも見出すこと能はざるべし。』
41 我いふ『主よ、見たまへ。汝末の時に來るものに此等の事を約し給ひたれど、我らの前に在りし者、又我らと我らのために來らんとする者には如何にぞや。』
42 かれ我にいふ、わが審判を環になぞらへん、後の者に遲きことなきが如く、前の者に早きこともなし。』
43 我答へていふ『汝の審判を早めんがために、汝過ぎし者と、今在る者と、來らんとする者とを皆一時に造り能はざるか。』
44 彼われに答へていふ『造られたる者はその造主に勝りて急ぐこと能はず、地も亦その中に造られんとする者を悉く同じ時に保つこと能はず。』
45 我いふ『汝如何なれば僕に、汝の造り給ひしものを、皆同じ時に必ず活かさんといひたまひしや。もし彼等同じ時に生き、地、彼等を保ち得ば、今にても地彼らを保ちて、同じ時に出でしむるを得べし。』
46 彼われにいふ『女の胎に問ひて、これに言へ「汝十人の子を産むに、何故時を異にしてこれを産むか」と。女に十人の子を一時に産むことを乞ひ求めよ。』
47 我いふ『此は能はぬことなり。時を異にせざるを得ず。』
48 かれ我にいふ『我も地を、時を異にして孕まるる人々のために胎となせり。
49 子供は子を産むこと能はず。年老いたる人もまた然り。我かくの如くわが造りたる地を整へたるなり。』
50 我彼に問ひていふ『汝我に道を示し給ひたれば、われ汝の前に語らん。汝我に語りし我等の母は尚若きか。或は年老いたるか。』
51 彼われに答へていふ『子を産まんとする女に聞かば、彼汝に答へん。
52 彼に云へ、「いかなれば汝の今産みし者、汝の前に産みたる者と異りて身の丈低きぞ」と。
53 彼汝に答へん「精力ある若き時に生れしものは、年老いて胎弱りたる時に生るる者と異なり」と。
54 汝も亦考へよ、汝らは汝らの前にありし者よりも身の丈低し。
55 又汝等の後に來る者もかくの如くなるべし。これ彼等は若き時の精力の失せたる老人より生れたる者なればなり。』
56 我いふ『主よ、もし我なんぢの目の前に恩惠を得なば、願はくは、誰を用ひて汝は、汝の造り給ひしものを顧み給ふかを僕に示したまへ。』