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1 三日目に彼その祈祷を終へし時、その悲哀の衣を脱ぎて、晴衣を纒ひたり。
2 卽ち彼はすべてのものをみそなはし給ふ救主なる神に祈りたる後、晴衣を着け、二人の侍女を伴ひ、
3 一人の侍女に寄りかかりて、なよやかに歩を運び、
4 他の侍女は、かれの裳をとれり。
5 彼はその美しさ完く、その容貌は快活にして愛らしかりき。されどその心は恐怖のために惱みぬ。
6 やがて彼、すべての戸を過ぎて王の前に立ちぬ。王はその玉座に坐し、黄金と寳石とをもてまばゆく飾りたる、威めしき王衣もて身を裝ひ、いと畏しく見えたり。
7 王は威光に輝く顔を擧げて、つらつら彼を視たり。后は倒れ、青ざめ、氣を失ひて、彼を導きし侍女の頭の上に身をかがめたり。
8 その時神、王の心を變へて柔和ならしめ給ひければ、王は憂ひてその玉座より躍び下り、再び氣づくまでその腕にて彼を抱き、優しき言をもて慰め曰けるは
9 『エステルよ、こは何事ぞや、我は汝の兄弟なり、心を安んぜよ。
10 汝は死ぬることあらじ、わが命令はわが臣民に關るのみ、近く寄れ。』
11 かくて彼、その金圭を彼の頸の上に置き、
12 彼を抱きて、『我に語れ』といへり。
13 その時彼いひぬ『わが主よ、われ汝を見るに、神の御使の如く、わが心は汝の威光の故に恐れ惑ふ。
14 主よ、汝は驚くべく、汝の御顔は恩惠にて滿てり。』
15 されど彼は、その語り居る時、再び氣を喪ひて倒れたり。
16 王は憂ひ、彼の僕らは皆、彼を慰めたり。