あるとき、狐と猫とが、森のなかで、ならんで、はなしをしていました。
そのとき、狐が、さもとくいげにいうには、
「猫さん、もし今ここへ敵があらわれたとしたら、君はどうするね。僕はいくつもいくつも逃れ方を知っているから、じつに安心だ。」
すると、猫はおとなしく、
「ほんとに、君はちえがあるから、うらやましいよ。僕なんかたった一つしかにげるみちはないもの。」
と、申しますと、狐は、ますますはなをたかくして、
「たった一つしか逃げ方をしらないなんて、君はよっぽどばかだね。」
と、いう言葉のおわらぬうちに、どこからか、五六ぴきの猟犬が、おそいかけて来ました。
猫はただ一つのにげみちとして、たちまち、そばの高い木の上へかけあがり、こわごわ下を見おろしますと、さっきあんなにじまんした狐は、そのたくさんあるはずのにげ方が、ひとつもうまくいかなかったのか、たちまち、犬にかみころされてしまいました。