イソップ童話集/樵夫と神さま
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- ある日一人の樵夫が、山おくの深い沼のそばで、木をきっているうちに、どうしたはずみか、どぶんと斧を、沼のなかへおとしてしまいました。
- この樵夫は、たいへん貧乏なので、たった一つしかない大事な斧をなくしてしまって、こののち、どうしてくらしたらいいだろうと、ぼんやり水の面をながめておりますと、急に水の中から、うつくしい神さまがあらわれて、
- 「おまえは、なにをそんなにしおれているのじゃ。」
- と、しんせつに、おたずねになりました。
- そこで樵夫は、おそるおそる、斧を落してしまったことを申し上げますと、神さまは、うなずいて、ちょっと水の中へ消えたかとおもうと、すぐ、ピカピカ光る金の斧を持ってあらわれ、
- 「おまえのおとした斧というのは、これではないか。」
- と、おたずねになりました。樵夫はびっくりして、
- 「どういたしまして、わたくしのは、そんな立派なものではございません。」
- と、こたえますと、神さまは笑って、また水の中へかくれると、間もなく今度はうつくしい銀の斧を持って出て、
- 「では、これではないか。」
- と、おたずねになりました。樵夫は頭をふって、
- 「いえ、いえ、そんな見事な斧ではございません。」
- と、こたえますと、神さまは三度目に、ようやく鉄の斧を持ってあらわれ、
- 「こりゃ樵夫、おまえは実に正直者じゃ。そのほうびとして、おまえの落した斧をかえしてやるばかりか、金の斧も、銀の斧もおまえにあげよう。」
- こうおっしゃったかとおもうと、たちまち、すがたは消えてしまいました。
- 樵夫は、ゆめではないかとよろこんで、三つの斧をかついでかえり、そののちは、ますます仕事に精を出しました。
- すると、この樵夫のとなりに、これはまたたいへん欲深な樵夫がありまして、このはなしをきいて、たいそううらやましくおもい、さっそく自分の斧をかついで、その沼のそばへいき、わざと斧を投げこんで、水の底までとどくようにと、大きな大きな声を出して、泣きわめきました。ながい間そうやって泣いていますと、ようやく神さまがあらわれて、しかも、ちゃんと金の斧を持っていらっしゃいます。
- 欲深の樵夫はいきなりとびついて、
- 「たしかにこれでございます。これが私のおとした斧でございます。」
- と、申しますと、神さまはたいへんお怒りになって、
- 「このうそつきめ、おまえのような奴には、おとした斧もかえすことはならん。」
- と、おっしゃって、それきりすがたはきえてしまい、いつまで待っても、もうもう出てはいらっしゃいませんでした。