〈無題〉『雪の降らんとする』
〈無題〉『雪󠄁の降らんとする』
雪󠄁の降らんとする
降誕祭の前󠄁夜
われは裏に雜木林を
ひかえたる寂しき下宿の
二階にありて、
炬燵造󠄁りて人を待てり
今宵󠄁人々は街に出でて
酒にさざめき明󠄁き灯の下を
をかしき面してざればみ遊󠄁べど
われは一人寂しき下宿の
家具乏しき部屋ぬちにあり
街のどよめきはすれど
わが耳に入らず
わが耳に入るはただ一つ
そはかかる時、しめやかにひたひたと
忍󠄁び來るかのをみなの跫音のみ
闇深き森かげを過󠄁ぎ、
電車道󠄁をよぎり、
土橋を越え、
八百屋の角をまがり、
市場の橫を通󠄁ひ來る
かの息をひそめたる跫音のみ
早く來よをみな
われは汝を待ちて
暖󠄁き炬燵を造󠄁り、
そが上に蜜柑を盛れり
この著作物は、1943年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。
この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。