〈無題〉『石よ』
〈無題〉『石よ』
石よ
お前󠄁は昨日まで
水上にゐた
夏はかじかを
きゝ、
秋は鮎が明󠄁るい水と
お前󠄁のすそを
落ちてゆき、
冬は枯松葉が
ふりかゝり、
淸冽な水のひゞきは
一日もお前󠄁の周圍にやまなかつた
だが石よ
お前󠄁は梃子でうごかされ
牛車にのせられ、
昨日、遠󠄁いこの町に
はこばれて來た
お前󠄁は庭の一隅、
吳 竹の中に据えられた
お前󠄁の周圍にもはや
あの
石よ
水上にゐた石よ、
人の兒が
夜となれば
妖しく美しき
花󠄁火をともさうを
この著作物は、1943年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。
この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。