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 思あらは葎の宿にねもしなんひしきものには袖をしつゝも

五條[二條イ]の后の。いまだみかどにも。つかうまつらで。たゞ人にておはしけるときのことなり。

昔東五條に。おほきさいの宮のおはしましける西の對にすむ人ありけり。それをほいにはあらでゆきとぶらふ人。こゝろざしふかゝりけるを。む月の十日あまり。ほかにかくれにけり。ありどころはきけど。人のいきよるべきところにもあらざりければ。なをうしとおもひつゝなんありける。又のとしのむ月に。梅花さかりなるに。こぞを思ひて。かのにしのたいにいきて見れど。こぞににるべうもあらず。あばらなるいたじきに。月のかたむくまでふせりて。こぞをこひて讀る。

 月やあらぬ春や昔の春ならぬわか身一つはもとのみにして

とよみて。ほのとあくるに。なくかへりにけり。

昔男有けり。ひんがしの五條わたりに。いとしのびいきけり。しのぶ所なればかどよりもいらで。ついぢのくづれよりかよひけり。人たかしくも[しげくもイ]あらねど。たびかさなりければ。あるじきゝつけて。そのかよひぢに。夜ごとに人をすへてまもらせければ。かのおとこえあはでかへりにけり。さてつかはしける。

 人しれぬわか通路の關守はよひことにうちもねなゝん

とよみけるをきゝて。いといたうえんじける。あるじゆるしてけり。

昔男有けり。女のえあふまじかりけるを。年をへていひわたりけるに。からうじて女のこゝろあはせて。ぬすみて出にけり。あくた河といふ河をゐていきければ。草のうへにをきたる露を。かれはなにぞとなん男にとひける。ゆくさきはいととほく。夜も更ければ。おにある所ともしらで。雨いたうふり。神さへいといみじ